嗚呼、今日も幻想を夢見て 作:G.G.メルセデス
以前、『 』と融合してからは多少能力が変化している。
以前は目に見える距離や物体を無かったことに出来る能力だったが、今は過去や原因などといった目に見えない概念的なものでさえも無かったことに出来るようになった。
つまり、どういうことかというと、『 』が具現化した存在から『 』そのものが形を持った存在へと昇華したのである。
「ここは......」
永琳が呆然とした声を漏らし、月夜見はキョロキョロと辺りを見渡している。流石にこの世界は観測されていなかったらしい。
ニンゲンなど全ての生命は絶対的に意識出来ない部分があるらしく、其処から『 』が生み出されている。だが流石にニンゲンもそれには気がついたようで、それを”無”と名付けた。
しかし、ニンゲンが言う”無”というのは
『 』とは有の対極にあるため、有である生命が理解することは出来ないのかもしれない。ヤハウェやヘカーティアといった有や『 』を超越した存在は、逆に理解出来ないのだろう。いや彼女達はそもそも理解しようとする気力がないのだと思われる。素晴らしいカミ様だな。
「ここは私の世界、つまり『 』そのものだ」
現在いる世界について軽く説明をすると、二人はかなり驚いた表情を見せた。どうやらレイセンでみたバーチャル空間とは全くの別物であるらしい。
周りの存在が軽く世界を創造したり、地獄をポンポン創ったりする者ばかりなので感覚が狂っていたのかもしれない。
「さて、世界についてだったか?」
この世界、ヤハウェが創造した当初はどうなるかとは思ったが、見せてもらった通りの美しい世界になりつつある。
故に説明しよう。この世界の成り立ちから、現在ニンゲンがいる目的。そして、今後の世界の動きについて。
「まず、この世界を創った存在についてだが────」
◇
「────というわけだ」
月夜見と永琳は完全に固まって頭を回転させてしまっている。
流石にニンゲンの理解の範疇を超える存在の話を出すと、いくら優れた頭脳を持っていようと無駄になってしまうときがある。それが今回のような場合なのだろう。
勿論ヘカーティアの部分は飛ばして話している。裏を務める存在を口に出したところで意味はない。
話の順番は簡単だ。
ヤハウェという存在から始まり、私の所にやってきて世界創造を手伝わされたこと、たった7日で創り上げてしまったこと。
そして、
何事にもテストが必要であるというのは、彼女達ならば知っているだろう。それと同じで、この世界で生命が上手く機能するかどうかはテストをして確認をしなければならない。自分たちがテスト用の存在だと言われた際はもっと取り乱すかとも思ったが、案外冷静だった。
実際、ヤハウェはあくまでもニンゲンという器を創っただけであり、その後はニンゲンの意思で発展していったため、創造物とは違うという説明をしたからかもしれない」
「...あなたはその試験監督だったと?」
「まあそういうわけだ」
思考が纏まったようで、幾つか質問をしてくる。
恐らく、現在脳内で今後の動きについて考えているのだろう。両者ともに重役であるため、ニンゲンという種族のために考えなければならないことは多い。
「テスト期間が終わったのならば、我々をどうするつもりだ?」
やはり、そこに辿り着く。
テスト期間が終わったならば、正直現在のニンゲンは必要がないものになる。いわば旧人類とでも言うべきか。
選択肢は幾つでもある。彼女達がどれを選択するのかは気にかかる所だ。
「...この世界は幾つもの選択と可能性で形成されていく」
染み込ませるように語りを続けていく。
「今回も同じだ。私がどうするかを決める選択と、お前達がどうするかを決める選択が存在する」
月夜見と永琳の表情が険しいものとなる。この後の展開が少しわかったのかもしれない。
私という存在だからこそ成せること。それは彼女達にとってはどう思えるのだろうか。
「選択から新たな選択が生まれ、可能性となる。そしてそれは、お前達自身の運命を決めるものともなるだろう」
──パチンッ
今度は『 』の世界を閉じ、元の世界に戻ってくる。辺りは既に兵士に囲まれており、こちらに銃が向けられている。それは重役二人を連れ去ったのだから当然だろう。
客観的に見るならば絶体絶命。だが、それはどちらにとっての言葉かは分からない。
「すまないが、死んでいけ」
妖力を全て開放し、光線状にして、囲っていた兵士の心臓へと突き刺す。所々から飛び散る鮮血。それが堪らなく美しいものとして見えてしまう。
大地が揺れ、生命が燃えてゆく。
月夜見と永琳は立ち尽くすだけであり、現在起こっていることが理解出来ない様子でもある。
だが、私は立ち止まることはない。そのまま妖力を使うことで、国の住民を一人残さず殺していく。国の中心から細部へと。国から地球へと。地球から世界へと。生命というものを残すことがないように、徹底的に。
────嗚呼、美しい
────嗚呼、儚い
────嗚呼、弱い
ニンゲンが死なないようにと逃げ惑い、抵抗してくる様。それは『生きている』ということを実感できる特別である。
そして、殺している私も、今確かにここに存在しているのだと実感が出来る。
「ハハっ、フハハ!」
勿論これまで関わりのあったものも例外ではなく、レイセンの店員や案内した衛兵などもだ。衛兵は最期に私に銃を向けてきた勇気に驚きと称賛を与えたい。彼はいい衛兵だったようだ。
国中何処からでも悲鳴が聞こえてくる。だが、私にとってこれは殺戮という名の作業でしかない。やがて、悲鳴すらも聞こえなくなり、この世の生命が限りなく少なくなったことを確認した後、二人がいた場所へと戻る。
「如何だったかな?」
月夜見は憎々しげにこちらを銃で撃ってくる。多少ピリッとした痛みがあったものの、瞬時に再生される。その程度のものでは私には意味がない。
まるで子供の癇癪かのように、大きな声をあげている。今までの月夜見からの印象からは打って変わっている。
一方、永琳は落ち着いている。流石に頭脳と言われるだけあり、こちらの意図を察したのかも知れない。
永琳が月夜見を落ち着かせるためにゆっくりと口を開く。
「落ち着いて、先程テストだと言われたでしょう」
「...それが?」
「あれは一つの結末を見せているだけに過ぎない。だからこれも──」
ためをつけてこちらを見てくる。やはり答えに辿り着いていたらしい。
「────無かったことになる。そうでしょう?」
「ああ、その通りだ」
『未生無』
眼の前の風景は、私と永琳と月夜見が初めてあった部屋。何も変わることなく、ただ平然と風景が広がっていた。
月夜見は驚きと安堵を見せ、永琳は納得の表情を見せている。外には兵士達がおり、またこの光景も見られているのだろう。
外から見ているものからすれば全く理解が出来ない変化だが、私からすれば納得が浮かぶ。
「...何をしたんだ?」
月夜見がこちらを伺うように見てくる。腫れ物や理解できないものを見るような瞳。当然の反応とはいえ、少し悲しくも思う。
「それは簡単、私が生命を根絶やしにするという選択を無かったことにただけだ」
「ッ!」
『 』、いや無には様々な種類がある。未生無、忌滅無、不会無、更互無、そして畢竟無。正直私自身数え切れないほどの無が世界には広がっている。
今回は私の選択という『原因』が無くなったため、生命が根絶やしになるという『結果』が無くなった。ただそれだけの単純な話だ。
無というのは万物の根源であり、行き着く先でもある。何も存在しない、とは無が存在するということでもある。
『 』を操る私は何なのか、それは簡単である。物事が有と無という対極で成り立っているのなら、私はその範疇を超えた『 』である。ニンゲン的に言えば、有限なる存在全てを超越した無限とでもなるのだろうか。何もヤハウェとヘカーティアのみが有と無を超越しているとは言った覚えがない。
ここからの会話を一々聞かれるのも面倒なので、再び『 』を展開する。
やはり、この空間は居心地がいいが、気持ちが悪い。どうしてか余り好きにはなれない。
「わかっただろう。これが一つの選択から生まれた結果だ。その上で聞こう。お前達はどのように選択する?」
再び二人に問う。既に先程までの戸惑っている姿はなく、二人とも国の賢者と、頭脳としての顔を見せている。
私自身で生命を根絶やしにすることはないが、印象を与えやすいためにしただけだ。本来ならば要石を引き抜いて生命を根絶やしにし、天界を創るというやり方だ。
現在、彼女達の選択肢は幾らかある。
一つは、このまま月へ移住する。
一つは、私やヤハウェに抵抗する。
一つは、この地で生き残る策を考える。
他にもあるが、大きなものはこの3つだろう。いずれにしても生き残れる可能性は低い。だが、安全な選択肢というのも確かに存在する。
前までならば問答無用で地上の生命を根絶やしにしていただろうが、こうして実際に会って見ることで考え方が変わった所がある。それを彼女達が気付くことが出来たのならば……
「少し話し合っても?」
「ああ。構わない」
二人は緊迫した様子で話し合いを始める。己の選択に、全生命の未来がかかっているのだから、慎重になるのも仕方がないのかもしれない。
彼女達はニンゲンの中でも立場というものに縛られているため、ニンゲンにとって最善となる選択を取るのだろう。
だが、もし立場に縛られていなかったのならどのような選択を取るのだろうか。いや、変わることがないのだろう。
彼女達はニンゲンらしからぬほど達観している節がある。客観的に、合理的に下すであろう判断は、ニンゲンにとって勝手に最善となっているのだろう。
だが、個人としてその際はどのような感情を抱くのかは気になるが。
彼女達を見ていて思うのがニンゲンと人間の違いだ。
勿論能力的な面で見てみると、圧倒的にニンゲンが優れているだろう。だが、生命としての本質はどうなのだろうか。
個人差というものも存在するが、基本的にニンゲンを形成するものは決まっている。それは立場、人格、人情だ。
正直私には立場など無いため分からないが、実力から発生する責任と同義と考えると納得がいく。もし、地球で私とヤハウェやヘカーティアが本気で殺し合ったならば地球は簡単に崩壊するだろう。それと同じで立場がある者は行動一つでニンゲンが崩れていってしまうのだろう。
では、人間はどうなのだろうか。
あくまでも人間という生命の概要しか聞いていないわけだが、基本的に性質はニンゲンに似ている。集団として行動し、各々で文化を形成していく。現在の妖怪などでは到底不可能であり、動物も文化を形成するまでの知能が足らない。
ある種の人間特有の性質と言えるだろう。
だが、違和感は残る。何故、ヤハウェが彼処まで人間を称賛するかがどうしても分からない。何かニンゲンと決定的な違いがあることは確かな筈なのだが。
などと適当なことを考えているうちに、二人の話し合いは終わっていたようだ。流石に頭の回転が早く、この短時間で結論を導き出してしまう。
そして、なによりも度胸があるのだろう。
「それで、どの選択を取る?」
「私達は────」
「────それでも月へ行く」
カチッ
「我々は進み続けなければならない。そのためには、命すら賭けよう」
嗚呼、その瞳は
「もしお前達が妨害してくるならば徹底的に抗戦もしよう」
嗚呼、なんて強く
「我々以外の生命が奪われようとも、歩みを止めるわけにはいかない」
嗚呼、なんて美しいのだろうか。
命が終わるかもしれないという恐怖を乗り越えた先にある決断。生ある者の特権とも言えるべきそれは、とても、そうとても輝いて見えた。
故に、一つだけ気にかかる。
「...それがお前達の選択ならば肯定しよう。だが、一つだけ聞かせてくれ。お前達にとって、生と死とはなんだ?」
これが最後の問いだ。現在のニンゲンは言ってしまえば神霊に近い存在だ。だが、そこには確かに生命が存在し、今を生き、死んでいっている。
それなのに生と死を穢れと評し、必死に避けようとしている。死への恐怖ならば理解することは出来ただろう。だが、それとはまた別物であるようだ。
正義、などという個人の物差しで変わる指標を使いたくはないが、穢れぬことが正義なのか。それだけは気になってしまう。
すると、永琳が確認するように口を開く。
「それは穢れのことかしら?」
「ああ、間違いない」
やはり、月へ移住する原因となったものなだけあり、気にかけているようだ。
まずは、判断のため私の持論から話すことにしよう。
「私にとって、『生』とは藻掻くことだ。ただそこに存在しているだけでは生きているとは言えない。ただ目標でも何でもいいから進むこと、そして藻掻くこと。それが『生』であると思っている」
そう、生きるために藻掻く姿こそが生の象徴であると考えている。”穢れ”の原因である生のために死を作る状況というのも非常に好ましいと思う。弱者を淘汰する世界というのも何処かの世界線では存在するのだろう。それは、強者が生きるために弱者を使っているだけであり、自然の摂理であるとも言える。
勿論、それが正解であるというわけではないが、私はそれを肯定するだろう。
「『死』とは何なのか? それは証明だ。今までの生から生じた選択と可能性によって死が為される。それは、今までの生の証明だろう」
これ以上苦痛を与えられないというのは、生命としてはこれ以上無いほどの極楽なのだろう。死んだ後は地獄か天国に行くため苦痛を味わう可能性はあるが、それは次に転生する際には忘れているため大丈夫だろう。いや、一部では転生というものがないらしいがどうなんだろうか。
まあ苦しみや痛みを味わうのは生前で試練を与えられた者のみだ。それを乗り越えることが出来たならば天国に行けるため、地獄に行くのは自業自得なのかもしれない。
言ってしまえば、死への恐怖が未知への恐怖と似ている。
「その上で聞こう。お前達にとって生と死とは、”穢れ”とは何だ?」
さあ、どんな答えを聞かせてくれるのか。
生と死という生命にとっては逃れることの出来ない宿命を何故穢れと称すのか。
「……確かに生と死というのはこの世に生を受けた者が持つ絶対的なものなのだろう。そして、『生きる』という目的のために『殺す』という行為が頻発し、穢れが発生した」
“穢れ”の発見者である月夜見は静かに語りを続けていく。
その姿はまさしく悟った賢者であり、今を生きている生命でもある。
「私は別に死を忌避してはいない。それは避けることが出来ないものだからだ。だが、勿体ないとは思わないか?」
月夜見は何かを探し求めるように、辺りを見渡す。
その姿にヤハウェが重なって見える。何処か達観した雰囲気と、背負っている責任。それは酷く生きづらいものなのだろう。
だが、だからこそ──
「私の目で、世界はこんなにも美しいのに、穢れて見えるのは」
──美しさを求めるのだろう。
嗚呼、そういうことか。彼もまた、救いを求めている。
思えば、違和感はあった。何故、彼は民が殺された際は取り乱したのか。まるで子供かのような癇癪であり、こちらの意図にすうら気がつけていなかった。
それは決して頭が回らなかったからではない。他の原因によって引き起こされたものだ。
それを言葉にするならば...
「『生と死を感じる程度の脳力』」
月夜見が軽く頷く。
彼には恐らく”見えている”のだろう。生と死という抽象的であり、具体的な概念の可視化。なるほど、それは穢れと評す理由もわかるというものだ。
「だからこそ私は、この美しい世界を。穢れていない世界を見てみたい」
『 』の世界を閉じる。兵士達がこちらに銃を向けてくるが、空気感からか手を出してくるような真似はしない。
月夜見はそんな様子など一切気にせず、窓際にゆっくりと歩いて行く。その姿はまさしく国の賢者であり、幻想的でもあった。
感慨深いように月夜見は口を開く。
「見えるか? 湖に映るこの満月が」
私も外の景色を見てみると、湖には満月が映し出されていた。
本来、実際に見るよりも綺麗なものはない。だが、そこに映っていた満月は、何にも代えられないほど美しく見えた。
「穢れていないというのは、こんなにも美しい」
月夜見の見えている世界を見ることが出来ない私ですらも引き込まれてしまうような、そんな口調。ただ一人で話しているだけなのに、世界に引き込まれたかのようにすら感じられる。
ヤハウェが真面目にカミである時と同じだ。確かこれを、カリスマと呼ぶのだろう。
嗚呼、本当に素晴らしい。私は彼に敬意を払おう。
「これが、私が”穢れ”と呼ぶものだ」
生と死、いわば穢れは彼からしたらありとあらゆる所に見えているのだろう。それは、寿命などでも同じであるため、親しい者達ですら穢れているように見えてしまう。
確かに穢れと評すには正しいし、月へ行く理由にもなるだろう。
「ふふっ、なるほど」
「それで、結局”選択”による”結果”はどうなるんだ?」
ああ、そうだったと話の本筋を思い出す。
とはいえ、ここまで聞いたのなら結論は一つだろう。
「今は、お前達に手出しはしないよ」
「今は?」
永琳が即座に聞き返してくる。そう、今はだ。
話を聞いているであろうヤハウェにも、ヘカーティアにも手出しはさせない。だが、それはあくまでも条件付きだ。でなければ、その精神までもが穢れてしまう。
「条件は一つ、『歩み続けろ』」
「っ!」
「もし今後寿命が無いからだとか、穢れがないからだとかで怠惰になり、歩みを止めるようなら私が出向いて殺しに行く」
本音を言ってしまえば、彼らの存在は今後邪魔になる可能性もある。新たに生まれる生命に対してオーバーテクノロジーであるからだ。
勿論、現状は穢れを忌避しているため新たな生命に近づく可能性は低いとは思えるが、どのようになるかは確証を持つことは出来ない。
選択によって世界は変わる。
もしかしたら未来で、滅ぼしたほうが良かったと後悔するかもしれない。もしかしたら、もしかしたらと、無限に広がっていく。
一々無かったことにするのも手間であるため、避けるに越したことはない。
故に今ここで釘をさしておく。もし今後歩みを止め、新たな生命を下に見るだけで進歩しないようならば、ここで残した判断は完全に無駄になってしまう。
私は月夜見や永琳、レイセンの店員に、案内した衛兵しかニンゲンを知らない。彼らならばそんな事態に陥らないとは思うが、私が求めているのは『ニンゲン』全体での進歩だ。
「...ああ、わかった」
月夜見は重く受け止めたようで、ゆっくりと頷く。これで良かったのだろう。
ニンゲンを残すという判断が今後どのように作用するのかは分からないが、彼、いや彼らを信じてみることにしよう。勿論この地に残った残りの生命は根絶やしにし、新たな生命を誕生させる。
新たな生命には生と死、つまり穢れは付き物なのだろうが、ニンゲンとどのような違いを見せてくれるのか。
嗚呼、楽しみだ。
◇
あれから数千年の月日が経ち、遂にニンゲンが月へ旅立つ日がやってきた。今後はニンゲンではなく、月人とでも称すことにしよう。
たった数千年程度の交流だったが、案外楽しかった。
制度も少し変わり、今まで通り月夜見がトップであることは変わらないが、王族のようなものが出来た。中でも力を持っているのが「蓬莱山」という家であり、今後も中心であるのだろう。最近子供が生まれたらしく、姫と呼ばれている。永琳が教育担当というのが現在の体制の象徴だろう。
レイセンの店主はあれからメキメキと実力を伸ばしたようで、今ではかなり有名な科学者となっている。月へと向かうロケット、いや宇宙船の開発にも関わっているらしい。やはり、あの目を持つものは素晴らしい物を秘めている。彼の夢が叶う日も近いのだろう。
案内してくれた衛兵、名前を綿月というらしい。彼も昇進を果たしたようで、そこそこ良い立場になっている。また結婚もしたようで、幸せな日々を送っているようだ。
「遂にか.」
今思ってみると、私は想定以上に月人のことを気に入っていたらしい。この数千年がこれまでの数億年よりも収穫のあるものだったといえば、わかりやすいだろう。
別に別れに寂しさはない。それは元から決定されていたことであり、変わることのない結果だからだ。情もある程度はあるのだろう。もし今後のためにとヤハウェとヘカーティアが月人を滅ぼそうとしても、手を出さないくらいには存在している。
彼らが今後どのように歩んでいくのかが気がかりではある。だが、私はそれでも新たな生命のため、今後も地球で過ごすことにしよう。
「案外長居していたから、思うことでもあるのかしら?」
隣から声を掛けられる。私と友人と呼べるであろう間柄であるため、この程度を気にすることはない。
彼女──永琳とは最も親しくなったといっても過言ではないだろう。
彼女は何分好奇心が旺盛であるため、私に様々なことを質問してきていた。その過程で親しくなっていったのだと思っている。
関わっていく中で思ったのだが、彼女はありとあらゆることに才能がある。医学や科学は勿論。戦闘においても、月人の中ではトップであるといっても過言ではない。正直、彼女一人がいたらある程度国が成立するほどだ。月夜見が最も信頼しているが、それは正しい判断だと私も断言しよう。
「......そうだな、案外楽しかった」
「そう、それは良かったわ」
こういったやり取りをすると、遂にこの時が来たのかと実感する。
今まで交友関係を持っていたのが、創造神だったり、その天使だったりと可笑しいので、今後は主体的に生命に関わっていっても面白いかもしれない。そうすれば、何故ヤハウェが人間を評価するのかを知ることが出来るだろう。
「...それじゃあ、また会えたら会いましょう」
そう言い残し、彼女は船内へ向かっていった。
彼女はこの移住プロジェクトの責任者でもあり、蓬莱山の姫の教育係をも務めているため、休む暇がないのだろう。これだけ枚挙にいとまがない仕事を負わされているのに、失敗がないあたり、やはり彼女は優秀であるとしかいいようがない。
また会えたら、か。
実際私が月まで出向く機会はそうは無いだろう。強いて言うならば、サリエルから招待された時くらいだ。彼女から魔法や邪眼についての知識を得る時ならば月へ行くだろう。
だが、彼女自身は月で表立って行動するつもりはないので、会うことはないだろうが。しかし、また会ってみたいとは思う。
そんなことを考えていると、月夜見が重鎮との話し合いを終え、こちらに歩んでくる。
彼は月人の中でも最も重要人物であるため、本来私に近づいてくることは褒められた行為ではない。だが、別れの時なのでそれくらいならば大丈夫だろう。
「我々の事をどう思った?」
開口一番に問われた問いは意外なものだった。
彼は自分や種族に誇りを持っており、絶対的な像を確立しているからだ。それなのに私に聞いてくるというのは非常に珍しい。
だが、答えておいたほうがいいだろう。
彼が求めているのは、私個人としての意見と、生命に対して上から見下ろす者の意見だろう。私も此処での生活で、月人の像というのはある程度確立出来ている。
「そうだな...卒直に言うと面白いと思った」
「面白い?」
「ああ、そうだ。私はお前達とは全く別の存在であるため、思考に対して共感出来る機会は少なかった。だが、理解をすることは出来たと思っている」
月人から見たら、化け物と称されるであろう私だが、此処での生活は有意義なものだった。
月人でもなく、厳密には妖怪でもなく、神でもない私の思考は、周りから見たら分からないものなのだろうが、此処での生活によって、別の思考方針を持つことが出来たと思っている。
「それなら良かった」
「ふふっ、そうかもな」
こんないい雰囲気のなか、月にいるサリエルのことや、一部の者から月が生命の宿命を表していると見られているなどという必要は無いだろう。
うん、それがいい。
「
最初はどういうことかわからず、頭に疑問符を浮かべたが、徐々に理解していく。
彼はまだ、未生無のことを根に持っているのだろう。
つまり、私が未来で無かったことにして、此処で再び会う事態が無いようにということだ。中々わかりにくい表現をしてくれる。
「お前が歩みを止めることが無かったら大丈夫なんじゃないか?」
「それならば大丈夫のようだな」
互いに軽口を叩きあう。
月夜見個人ならば間違いなく歩み続けるのだろう。それについては信用している。
「では、私はそろそろ行こう」
そう言うと、こちらを振り返ることなく月夜見も乗り込んでいった。
それは地球に対しての別れでもあり、惜しみでもある。穢れが無かったのなら、彼は地球に居続けたのだろう。
突然、機会的な大きな音が響き渡る。船が飛び立つ音なのだろう。
今までの生活と比べ、別れとは一瞬な物で数秒後には船の姿が見えなくなっていく。
彼らは能力等は使うことなく、実際に月を追うことによって月へと向かうようだ。
さて、と独りごちる。
これで一つの時代が終わったのだという実感とともに、これから訪れる未来に対しての期待が膨らんでいく。
人間の誕生がどのような影響を及ぼすのかはわかったものではない。
だが、私の直感が働いている。
『これから面白くなる』
これでも数億、数十億は存在しているため、勘はそこそこ鋭いと自負している。
その私が最早確信といってもいいほど勘が働いているため、ほぼ間違いないといっても過言ではない。
私は人間が誕生した後はある程度自由に行動出来るため、好き勝手させてもらおう。人間とは何なのか。それを知るために。
「そろそろいい?」
「ああ、勿論」
背後から声を掛けられる。
これから生命が根絶やしになるというのに、興奮が収まらない。この高揚感に任せて行動したい程でもある。
嗚呼、本当に、本当に楽しみだ。
そして、要石が抜かれ、生命は根絶やしになり、人間が誕生することになる。
原作での月人の解釈が難解なので、独自解釈です
【解説】
「無を操る程度の能力」
主人公の能力。応用の幅が広い。勿論目に見えないものに大きな効果を表す。
痛覚などといった感覚や、距離などの具体的なものを無くせる。だが、生み出すことは不可能。
能力を使えば、選択を無くすことが可能。これは、一つの世界線を無くすことでもあり、一つの世界を無くすことでもある。ちなみにヤハウェの世界創造という選択を無くせば世界をまんま無くすことも可能。
過去に戻ることが出来る能力と似ている。更に、記憶を無くせば、まんま状況をやり直すことも出来る。
また、過程を吹き飛ばして結果だけを残すリアルキング・クリムゾンも可能。
「ありとあらゆるものを創造する程度の能力」
ヤハウェの能力。チート
「生と死を感じる程度の能力」
月夜見の能力。危機察知能力がずば抜けて高い。
「ヤハウェ、ヘカーティア、主人公の力関係」
ヤハウェが最強。その他は同じ位で、神綺も。少し下にサリエルとか
感覚としてはこれくらいが読みやすいかも。
チートじゃいないかって?うるせえヤハウェがいるから大丈夫だろ。
今後もわかりにくいものがあったら解説に書いていきます