乾いた風が吹き、土煙が宙に舞い、回転草がゴツゴツとした道を転がる荒野。
全体的に茶色い景色で、緑なんて少しもない。
空中にはハゲタカが飛び、この地での
まさに、人類の開拓の手がまだ伸びていない、死の土地と言ってもいいだろう。
しかし、人類の手が全く伸びていないわけではなかった。
“シュポーーーー!!”
そんな音と共に、蒸気機関車が真っ白な煙を天に向かって吐き出しながら荒野を駆けた。
人の足では進むことが困難な死の大地を簡単に、尚且つ多くの人々と多くの荷物を載せて運ぶことのできる機関車は、まさに人々がこの地で生活するための希望であった。
そんな汽車の荷台が、突如爆発した。
荒野に轟音が響き、荷台からは焦げ臭いと共に黒い煙が上がる。
やがて黒い煙の中から、2つの影が飛び出した。
「ガーハッハッハーー!金だ金だ!!」
2つ影の片方―――アイパッチ・バートはいくつもの『$袋』を抱えて野太い声で笑った。
アイパッチ・バート。世界をまたにかけるギャング集団のボス。
眼帯をしたジャガイモに手足が生えているという愉快な見た目をしているが、何百人もの凶悪な部下を束ねるカリスマ性は本物だ。
「ん。大量」
もう片方の青い目だし帽をかぶった影―――アイパッチ・スナオオカミも満足気に頷く。
アイパッチ・スナオオカミ。サイクリングやあっちむいてホイをこよなく愛すギャングだ。
可愛らしい少女の見た目やオオカミの耳、天使の様な輪っかで良い人間だと騙されがちだが、コンビニに行くノリで日常的に銀行強盗をする凶悪犯だ。
ちなみに覆面水着団という珍妙な集団のメンバーでもあり、他にも同じような格好をした人が5人くらいいるらしい。
「ほらな、俺の言った通りだろう?銀行襲うよりも輸送用の汽車を襲った方が簡単だってなぁ!!」
「ん。流石ボス」
ギャングの2人は現金のたんまり入った袋を別の大きな袋に移し替えながら和気藹々と話している。
どうやら、今日この機関車には普通の客車の後ろに銀行にお金を輸送する用の貨物所領が取り付けられていたらしいのだ。それに目を付けたアイパッチ軍団は機関車を襲う計画を立て、それを成功させたところであった。
「さぁ~て、後は脱出するだけだな!」
スナオオカミに袋を担がせながらアイパッチ・バートは上機嫌に言った。
このままでは、街の人達の大切な財産がギャング共に奪われてしまう…
こんな時、正義のヒーローがいてくれたなら…
“バシュンッ!”
「あっ、おい!…うぉ!?」
「ッ!?ボス!(BANG!)ッ!!」
突如、金袋を握りしてめいたアイパッチ・バートにロープが飛んできて、バートの右腕ごと金袋を掻っ攫って行った。(ちなみにアイパッチ・バートは身体のパーツが取り外し可能な為、スプラッタ的な惨劇にはならなかった。)
腕を取られてバランスを崩し、尻もちを着くバート。そんなバートを庇うべくスナオオカミも愛銃を構えて応戦しようとするも、逆に何者かに銃を撃たれ、腕から弾かれてしまう。
有頂天な気分から一転、ピンチに陥ったギャングたちはロープが飛んできたほうを見やる。
そこには、カウボーイハットをかぶった男女が自分たちに向かって歩いてくる光景があった。
「保安官…」
スナオオカミが苦虫をかみつぶした表情を浮かべながらそう呟いた。
そう、皆のピンチに正義のヒーローが駆けつけてくれたのだ!!
「お前たちも懲りないなぁ~アイパッチ軍団」
ロープを巻き取りながら、我らが正義の保安官―――ウッディが力強く笑った。
ウッディについては説明はいらないだろう。みんなが大好きな、勇敢で仲間重いな保安官だ。
「フッフッフ…ザンネンムネン、ネクストウィークデスヨ!!」
そんなセリフと共に、ウッディの隣から栗毛のウマ耳を持つ少女―――タイキシャトルもリボルバーでカウボーイハットを“クイッ!”と押し上げながらキメ顔で笑った。
タイキシャトル。人間とは違うウマ娘という種族で、ウッディのかっこよさに惚れ込み、弟子入りをはたした保安官見習いである。
ウマと言ってはいるが、本人の底抜けに明るく人懐っこい性格からどちらかというとゴールデンレトリーバーのような大型犬を彷彿とさせる人物だ。
列車強盗の現場に、正義の保安官たちが駆けつけてくれた。
これで事件も解決だ!!
「さぁ、裁判所で判事とデートしな。アイパッチ・バート」
「オナワにキャッチするといいネー!」
ウッディがバートを踏みつけ、タイキシャトルがスナオオカミにリボルバーを向けながら言う。
これで事件は解決だ!
「ハッハー! 残念だな保安官―――――」
「俺は結婚してんだぜ?」
「ハィヤーーー!!」
「オゥ!?」
「タイキッ!?」
突然、自分の横を猛スピードで過ぎ去った影とタイキシャトルの悲鳴にウッディは驚く。
思わずタイキシャトルの方を見ると、彼女がアイパッチ・バートと同じような見た目の丸っこい奴に襲われている姿が見えた。
「アイパッチ・ベティ!?」
丸っこい奴――――アイパッチ・ベティを認識したウッディは思わず叫んだ。
アイパッチ・バートの妻である彼女は、ヌンチャクとハンドバックを使った独自の格闘技を使いこなす武闘派のギャングだ。
仲間内には母のように振舞い、部下からの信頼も厚いとか。
「ウィヤァァー!!」
「オゥ!?ハァン!? こ、これじゃあピストルを打てまセーン!」
アイパッチ・ベティの激しくも華麗なヌンチャク捌きに、タイキシャトルは攻撃を避けるのに精いっぱいという様子で、得意の早撃ちをやる暇もなさそうだ。
タイキシャトル…というかウマ娘は普通の人間よりもパワーやスピードといった身体能力が高い。
そんなウマ娘が防戦一方になるとは、ギャングのボスの妻の名は伊達ではないという事か…
「タイキ、今助け“バシュン!”ッ!?」
タイキシャトルに加勢するべく、ウッディも走り出そうとするが、突如足元が謎の爆発を起こし、思わず止まってしまう。
「私の武器は、1つだけじゃないよ」
声のした方向を向くウッディ。
そこには、先程アサルトライフルを弾いて無力化したと思っていたスナオオカミが仁王立ちしており、彼女の頭上に小型ミサイルを大量に積んだドローンが停止飛行している光景があった。
どうやら、先程の爆発はあのドローンが打ったミサイルによるものらしい。
「状態、良好。いくよ」
「ちょちょちょ待っ…うわあぁぁぁぁぁぁ!?!?」
スナオオカミの合図でミサイルを乱射し始めるドローン。
ウッディはそのミサイルを慌てて避ける。ダンスの様な華麗な動きで避け続けるウッディだが、避ける事に精いっぱいである。
またもや状況が一変し、ピンチに追い込まれたウッディ達。
このままではジリ貧だ。何とかして打開策を打ち出さなくては…
“ドンッ!”
「おわっ!?た、タイキ!?」
「アゥッ!ソ、ソ―リー、ウッディ…」
そんな事を考えていたからか、ウッディとタイキシャトルは互いに攻撃を避けたタイミングでぶつかってしまう。
思わず動きが止まってしまう両者。
そんな隙を、奴らが見逃すわけがなかった。
「アイィィッ!!」
「うわっ!」
「アゥチ!」
2人が動きを止めた瞬間、アイパッチ・ベティはハンドバッグを振りかぶり、渾身の一撃を叩き込んだ。
その一撃にウッディとタイキシャトルは大きく吹き飛ばされ、なんと機関車から落ちてしまった。
「はーはっはっは!これで保安官も一貫の終わりだ!」
「……ボス。まだ安心はできないよ。あいつらしつこいから」
ドサクサに紛れて腕を取り戻し、上機嫌の笑うバートとは対照的に、スナオオカミはアサルトアイフルを拾ってまだ警戒を解いていない様子だ。
自分たちは、毎回あと一歩のところで保安官に逆転を許してきたのだ。もう終わったと慢心するなど、スナオオカミには考えられなかった。
「スナオオカミは心配性だな。俺のかみさんの一撃を食らって汽車から落ちたのを見ただろ?きっと今頃はミンチにでも……なっ!?」
スナオオカミの心配事など杞憂だと断言しながら機関車から線路を見下ろすバートだが、目に映った光景に言葉を詰まらせた。
自分が期待していたのは、保安官2人が機関車から遥かに離れた線路の上で息絶えている姿であった。しかし、実際は―――――
「俺、参上!!」
「ッハァー! アンタたちの落とし物を拾ってやったよー!」
保安官2人を乗せ、猛スピードで機関車を追走する馬とバイクの姿があったからだ。
「ジェシー、電王…!」
アイパッチ・ベティは憎々し気に馬とバイクを操る人物たちの名を呼んだ。
「助かったぜ、ジェシー!」
「ふっふーん、アンタたち2人じゃ頼りないからね」
「言ったな、こいつめ」
ウッディは馬の乗っていたカウガールの少女―――ジェシーと軽口を言い合う。
ジェシーは若き保安官でウッディの妹分、タイキシャトルの先輩だ。
動物たちと心を通わせることのできる優しくて明るい少女だが、その胸に秘めている正義への情熱はウッディにも引けを取らない、タイキシャトル以上にパワフルな少女だ。
そんなジェシーが、ウッディの愛馬―――ブルズアイに跨り、救援に駆け付けたのだ!
「オゥ、久しぶりデスネデンオー!助けてくれてベリーサンキューネー!!」ぎゅぅぅ!
「いででででっ!馬鹿野郎!!そんな怪力で抱き着くんじゃねーよ犬ウマ女!!」
一方タイキシャトルは、バイクで大地を駆け抜ける仮面の戦士―――電王に後ろから抱き着きながらコントのようなやり取りをする。
時の運行を守る為、悪の怪人・イマジン達と戦う正義の味方。それが仮面ライダー電王だ。
今回の敵はイマジンではなく、ジャガイモボディのボスが率いるギャング共。しかし、仮面ライダーは瞬間瞬間を必死になって生きる者たちの味方だ(一部除く)
彼らのピンチに黙っていることは出来ず、電王も駆けつけたのだ!
「諦めなバート! お前さんはもう終わりだぜ!!」
ウッディは機関車の上にいるバートを睨みつけながら叫んだ。
頼りになる妹分と自分の愛馬、パワフルなウマ娘と時の守護者が来てくれたのだ。負ける気など、するはずがない。
さぁ、今こそアイパッチ軍団をやっつける時だ!!
「はっはー!そうはいかないぜ保安官!」
しかし、バートの余裕の表情は崩れなかった。
「せっかく豪華な役者が揃ってんだ、派手に“ドカーン!”と行こうぜ!……あれを見な!!」
そう叫んだバートは、自らの背中から何かの装置のスイッチを取り出し、機関車の先を指さした。
ウッディ達もバートに言われるがままにそちらを見る。
バートが指をさした方向。それは、深い渓谷の間に架かった一本の橋。
そして、その橋の上に、山のように積まれたTNT…無数のダイナマイトであった。
「っ!? や、やめろバートッ!!」
ウッディが制止するも、時すでに遅し。アイパッチ・バートは既に装置のスイッチを押してしまっていた。
瞬間―――――
“ドカァァァァァァァァァン!!!!!”
爆発音が空気中に響き渡る。
その後、橋は黒煙を上げながらバラバラになり、谷底へと落ちていくのを、ウッディ達は見た。
「なっ!?」
「ワッツ!?」
「大変だぁ!」
4人はそれぞれ驚愕の声を上げる。
「子どもたちがぁ!!」
何故なら、この機関車にはお金だけではなく、街へと向かう子ども達も乗っているのだから。
「た、助けて!!」
「イヤッ!イヤッ!ヤダーーー!」
「ヤハーーーー!!!」
「た、助けて欲しいのですー!」
「だ、大丈夫よ電…れ、レディである私が付いてるんだから…!」
「大丈夫よ電!暁! すぐに保安官が来てくれる。雷だって付いてるんだから!」
「……………помогите мне(助けて)」
「ポッチャー!?ポッチャマァァァァアァ!?」
橋が爆破されたことに気が付いた様で、窓から子ども達が今にも泣きだしそうな様子で身を乗り出し、助けを求めている。
なんかちいさくてかわいい奴やら駆逐艦の4姉妹やらペンギンポケモンの他にもシルバニアのファミリーやら着せ替えが楽しそうなリカちゃんの姿も見える。
彼らがまだ乗っているにもかかわらず、無情にも汽車は線路を走り続けている。
「おっと、丁度迎えが来たようだぜ!」
そんな子どもたちを無視して、バートはウッディ達の後ろを指さす。
すると、猛スピードでウッディ達の後ろから、黄色いオープンカーが走り抜けて来た。
「「「ウゥ~~」」」
「おいバート!金は奪えたんだろうな!?」
そのオープンカーに乗るのは、緑の肌と3つの目を持つ、まるでエイリアンの様な見た目をしたアイパッチ・バートの3つ子達と、車を運転している顔のデカい黄色のオーバーオールの大男―――――ワリオである。
「あたぼーよ、ちゃんと後で分け前をやるよ! さぁ保安官!俺か、子ども達か、好きな方を選びな!!」
アイパッチ・バートはそう叫ぶと、金のたんまり入った袋と部下と共に車に飛び乗り、そのまま機関車とは反対方向に走り去っていった。
金も含めて、あの人数を乗せているのだ。そんなにスピードは速くはない、今から追えば簡単に追いつけるだろう。
「電王!」
「わかってるって!行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」
「ハリーハリー!ハリーアーップ!!」
「走れ風の様に、ブルズアイ!!」
しかし、4人には機関車に乗った子どもたちを見捨てるという選択肢はなかった。
例え自分の命に代えても子ども達を助け出す。心は一つだったのだ。
ウッディはブルズアイへと汽車の先頭へと走る様に指示を出し、電王もそれに合わせてマシンデンバードのエンジン出力を上げる。
ウッディの言った通り、ブルズアイはまるで風の様に走り抜け、あっという間に汽車の先頭車両の横に着いた。
「よし……おりゃ!」
ウッディはブルズアイの上に立つと、そのまま意を決して汽車に飛び移った。
“パリ―ン!”と汽車の窓を割って運転席へと入り、すぐさまブレーキのレバーを引く。
“キィィィィ!”と甲高い音をたてながら徐々に減速する機関車。しかし、スピードを殺しきれておらず、このままでは谷底へとそのまま落ちてしまう事は目に見えていた。
「ウッディ、急いで!」
「クソッ!おい亀、お前の釣竿で引っ張れ!【ROD FORM】―――まったく、先輩は人使い…亀使い荒いよ!」
電王もただ見ていられないと、ソードフォームからロッドフォームへと姿を変える。
その後すぐにデンガッシャー・ロッドモードからエネルギーの波で出来た釣り糸を伸ばし、汽車の全体にに巻き付けると、デンバードごと汽車の反対方向へと走り出し、何とか汽車を減速させようと試みる。
後ろに乗ったタイキシャトルも、釣り竿を力いっぱいに引く。ウマ娘のパワーも加われば、汽車を止める事だって夢ではないのだ。
機関車は少しずつ減速するが、同時に橋との距離も狭まってくる。
5m、4m、3m……そして―――――
“プツンッ!”
「ッ!」
電王の伸ばした釣り糸が切れると同時に、機関車も崩れた橋の上から谷底へ真っ逆さまへと落ちていく。
ウッディは恐怖と絶望からか、叫び声の一つも挙げずに機関車と一緒に落ちていった仕舞った。
「あぁ、そんな…!」
「ブルムッ…」
ジェシーとブルズアイはもしかしたらウッディや子ども達が奇跡的に助かっているかもしれないと縋るように谷底を見る。
しかし、無情にもそこには底の見えない、真っ暗な深淵があるだけであった。
「ウッディ! ウッデイィィィィィィ!!」
「タイキちゃん、落ち着いて!」
タイキシャトルはウッディを助けに行くために身を投げ出そうとするが、それを電王が止める。
彼女を抑える電王の手が、若干震えているのは気のせいではないだろう。
この場の全員に、重い現実がのしかかった。
さて、突然だがここで疑問を一つ解消しておきたいと思う。
機関車が谷底へ落ちた時、ウッディは何故叫ばなかったのだろうか?
恐怖で言葉が出なかったのか?
絶望の中で自らの死を受け入れたからか?
そんな事、とんでもない!
ウッディはただ、信じていただけだ―――――
「何とか間に合ったようだな!」
そんな頼もしいセリフが聞こえたかと思うと、下を向いていたジェシー達に巨大な影が被さって来た。
それに気が付いた彼女達が上を見ると、その顔は驚愕に変わった。
それもその筈である。
だって、機関車が空を飛んでいたのだから。
銀河鉄道やデンライナーの様にかっこよく飛んでいるわけではなく、真ん中の客車が持ち上がって、まるで弧を描いているかのように不格好な形だが、確かに機関車は飛んでいたのだ。
そして、その客車を持ち上げる、宇宙飛行士の様な格好の男が余裕の笑みを浮かべていた。
「バズッ!!」
その人物を認識したジェシーは、真っ先に彼の名を呼んだ。
そう、彼こそが銀河の危機を何度も救った英雄。
宇宙の平和を守るスペースレンジャーの一人―――――バズ・ライトイヤーだ!!
「あぁ、そうだな。きっと悪党退治も間に合うぞ」
そんなバズに、運転席から顔を覗かせたウッディが声を掛けた。
もっと言う事があるだろうって?
この二人の間には、言葉は多くはいらないのだ。
だって、二人は何度も力を合わせて危機を乗り越えてきた親友なのだから。
「無限の彼方へ、さぁ行くぞ!!」
長くなったから2分割