クルーゼ隊を突破し、ユーラシアの軍事要塞、アルテミスに辿り着いたアークエンジェル。実弾もビームも通さない全方位光波防御帯、アルテミスの傘により絶対的な防御力を誇るこの要塞に着いた事により、一安心できると思いきや…
「な、何でこんな事に……」
ムウから言われてライラプスのOSをロックしたレン。その後は何故か艦内に押し寄せて来たアルテミスの兵によって他の皆と一緒に食堂で拘束されていた。
「レン君、大丈夫?」
「ホント、何でこんな事になっちまったんだろーな」
「あ、皆さん…」
机で頭を抱えているとキラやトール達がレンの近くに来た。するとレンは見慣れない赤髪の少女の存在に気付く。
「その人は…?」
「あ、この子はフレイ・アルスター。ほら、キラがヘリオポリスが崩壊した時に、キラが救命ポッドを運んで来ただろ?それに乗ってたんだ」
「あ、そうなんですか…」
「フレイ、この子がもう一機のMSに乗ってるレン・アスカ君」
「えっ?じゃあこの子もコーディネーターなの?」
「ちょ、ちょっとフレイ…!」
「あ、だ、大丈夫です、コーディネーターなのは事実ですし…!」
フレイの無神経な発言を諌めようとするミリアリアを止めるレン。キラはその様子を見て少し顔を顰めた。
その頃、ザフトのローラシア級、ガモフのブリッジではイザーク、ディアッカ、ニコル、そして艦長が話し合っていた。
「傘はレーザーも実体弾も通さない。ま、向こうからも同じ事だが…」
「だから攻撃もしてこないって事?馬鹿みたいな話だな」
「だが防御兵器としては一級だぞ。さして重要な拠点でも無い為、我が軍もこれまで手出しせずに来たが…あの傘を突破する手立ては、今のところ無い。厄介な所に入り込まれたな…」
「じゃあどうするの?出て来るまで待つ?」
「ふざけるなよディアッカ。お前は戻られた隊長に何も出来ませんでしたと報告するつもりか?それこそいい恥晒しだ!」
クルーゼの乗るナスカ級ヴェサリウスは、プラントからの出頭命令により今は離れている。その為、アスランとミゲルもプラントに戻っている状況だった。
「そうは言うけどよイザーク。傘を突破したってお前は何も出来ないだろ?機体があんなボロボロじゃな」
「ぐっ…!」
イザークの乗るデュエルは先の戦闘でライラプスから受けたダメージが大きく、出撃出来る状態では無い。イザークはディアッカの発言に表情を歪ませると、ニコルが慌てて発言する。
「傘は、常に開いている訳では無いんですよね?」
「ああ、周辺に敵の無い時まで展開させてはおらん。だが閉じているところを近付いても、こちらが要塞を射程に入れる前に察知され、展開されてしまう」
「……僕の機体、あのブリッツなら上手くやれるかもしれません」
ニコルは発言に他の三人が疑問符を浮かべながらニコルを見る。
「アレにはフェイズ・シフト他にもう一つ、ちょっと面白い機能があるんです」
そう言いながらニコルは少し笑った。
「この艦に積んであるMSのパイロットと技術者は何処だね?」
突然レン達が居る食堂に突然現れてそう言い放ったのはアルテミスの指揮官であるガルシアだった。
「パイロットと技術者だ、この中にいるだろう!?」
キラが咄嗟に立とうとして、マードックが肩を掴んでそれを止める。レンも隣でそれを見てジッとしていると、ノイマンが立ち上がってガルシアの前に立つ。
「何故それを訊くんです?」
「何っ!?」
「艦長達が言わなかったからですか?それとも聞けなかったから?」
レンは不安そうに場の行末を見守っていると、ガルシアがミリアリアの腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。
「女性がパイロットという事も無いと思うが…この艦は艦長も女性という事だしな?」
「痛っ…!」
「やめてください、卑怯な!」
「坊主…!」
するとガルシアの行動に腹を立てたキラがマードックの制止を聞かずに立ち上がる。
「アレに乗っているのは僕ですよ!」
(い、言っちゃった…!)
「坊主、彼女を庇おうという心意気は買うがね…アレは貴様のようなヒヨッコが扱えるような物じゃないだろう。ふざけた事を言うな!!」
そう言ってガルシアはキラを殴ろうとするが、キラは拳を避けてガルシアの服を掴み、逆に地面に投げつけた。
「ぐあっ!?」
「僕は貴方に殴られる筋合いは無いですよ!」
「司令!」
ガルシアの副官達が慌てて駆け寄って来る。
「何なんですか、貴方達は!?」
「坊主やめろ、抵抗するな…!」
「貴様っ…!」
「やめてください!ぐっ!?」
副官とキラの間に入り、止めようとしたサイだが、副官に殴られて吹き飛ばされる。
「サイっ!?ちょっとやめてよ、キラが言っている事は本当よ!その子がパイロットよ!」
「フレイ…!」
「貴様ら、いい加減にしないかっ!!」
「嘘じゃないわよ、だってその子、コーディネーターだもの!」
「何っ…!?」
フレイの発言に副官は一瞬固まってキラを見る。マードックは頭を抱えた。
「コーディネーター…?ではもう一人は?」
ガルシアがそう言ってキラ以外のクルーを見ると、フレイはレンを見ると、ガルシア達もそれを追ってレンに注目する。レンは身体を震えさせながら立ち上がった。
「……はい、僕です。僕もMSに乗っている…その人と同じコーディネーターです」
ガルシア達はキラよりも若いレンがもう一人のパイロットと知り驚愕するも、その後二人はガルシア達に連れていかれた。
格納庫に連れていかれたレンとキラ。ストライクとライラプスの前に立つと、キラは振り返ってガルシア達を睨む。
「OSのロックを外せばいいんですか?」
「先ずはな、だが君たちにはもっと色々な事が出来るのではないか?」
「何がです?」
「例えば、コイツの構造を解析し同じ物を作るとか、逆にこういったMSに対して有効な兵器を作るとか」
「僕達はただの民間人です!軍人でもなければ、軍属でもない!そんな事をしなければならない理由はありません!」
「だが君たちは裏切り者のコーディネーターだ」
「裏切り者…!?」
「へ…?」
「どんな理由かは知らないが、どうせ同胞を裏切ったんだろう?ならば色々と…」
「違う!僕は…」
「地球軍側に付くコーディネーターというのは貴重だ。何、心配することは無い、君たちは優遇されるさ、ユーラシアでもな…」
そこからレンはライラプスに乗り込み、自分がかけたOSのロックを出来るだけゆっくりと解除していく。監視され、銃を向けられつつ作業をする中で、レンは先ほどのガルシアの発言を思い出した。
(裏切りのコーディネーター…ち、違う…僕は、ただ…家族に…会いたいだけで…ザフトとは、何の関係も無い…!僕はただ、必死で……)
───本当に?
「っ!?」
レンは赤いリストバンドを着けた右腕が震えている事に気付く。作業をする手が一瞬止まり、息を呑むと…
「っ、な、何…?」
アルテミスが激しく揺れ始めた。
「アレか…!」
その時、アルテミスはミラージュコロイドステルスを搭載したブリッツに既に接近を許しており、ニコルは傘を展開する装置を発見すると複合兵装トリケロスのビームサーベルでそれを切り裂く。
「アイツは…港か…!」
傘を起動出来なくした後、ニコルはアークエンジェルを探し出す為に港口へと向かった。
『ぼ、防御エリア内にMS!』
「何だと!?」
ガルシアが狼狽えている内に爆発はどんどん激しくなっていく。
「傘が破られた!?そんな馬鹿なっ!」
するとキラは銃を向けていた兵士を蹴り飛ばしてコックピットを閉めると、ストライクを起動させる。
「え?あ、え、えい!」
「ぐあっ!?」
レンも動き出したストライクに目の前の兵士が気を取られている内に蹴りを繰り出し、吹き飛ばすとキラと同じようにライラプスを起動する。
「き、貴様ら…!」
「攻撃されてるんでしょう!?こんな事してる場合ですか!」
「は、早く逃げた方がいいですよ!」
「く、くそっ…!」
ストライクとライラプスはカタパルトに移動すると、船の制御は既にノイマン達が取り戻していた。ストライクがソードストライクを装備し、二機が発進すると…
「ブリッツ…!」
「居た…!」
地球軍のMAを墜としながら現れたブリッツを見てストライクとライラプスは構える。
「相手は二機…しかも片方はイザークがやられたんだ、慎重に…!」
そうして、ストライクとライラプスはブリッツとの交戦を開始した。
「艦長!」
そしてアークエンジェルには別の場所に拘束されていたマリュー、ムウ、ナタルがブリッジに戻って来た。
「よくやったな、坊主ども!」
「何なんですか、この要塞…」
「ここでは身動きが取れないわ、アークエンジェル発進します!」
アークエンジェルは動きだし、MSの戦闘も二対一でレン達が優勢になっていた。しかし…
「!増援…?バスターか…!」
アルテミスを新たに攻撃し始めた存在に気付いたレンは、バスターと交戦する地球軍のMAの反応が次々と消えていくことに顔を顰めると、爆破が更に激しくなりそこら中から火の手が上がる。
『キラ、レン君、戻って!アークエンジェル、発進します!』
その声を聞くとレンはMA形態に変形する。
「キラさん、乗って!」
「逃げるのかっ!?」
ストライクがライラプスの背中を掴み、それを見たニコルは慌てて止めようとするが、爆発に邪魔され、ストライクとライラプスはあっという間に加速して離れていく。そうして、二機はアークエンジェルと合流し、一行はアルテミスより脱出したのだった…
艦内に戻り、レンはコックピットから出ると、キラも既に出て下に降りていた。ムウが声を掛けたが、それを無視してキラは格納庫から出ていった…
「どうしたんだ?」
「さぁ?」
「あの…」
「おお、坊主!」
「僕も坊主呼びなんですね…」
「ははっ、それより良くやったな。お前とあの坊主のお陰で無事に脱出出来た」
「いや、別にそんな…それより、キラさんは…?」
「さぁな、もう行っちまったよ。そんなに疲れてたのか?」
「………」
キラは自室に戻り、ベッドで横になると涙を流した。慰めるようにトリィが肩に留まる
「僕は……」
「……あの、キラさん…?」
「!レン君…?」
キラは起き上がって部屋の入り口を見ると、レンが心配そうな表情をしながら部屋を覗き込むようにしてキラを見ていた。
「あ、す、すみません…その、ちょっと心配で…だ、大丈夫ですか…?」
「あ、うん…レン君も、大丈夫?さっきの戦闘で怪我とか…」
「だ、大丈夫です!何ともありません!」
「そっか、良かった…」
キラはそう言って少し微笑むと、レンはゆっくりと部屋に入ってキラの側に立つ。
「キラさん、何か…悩んでいることが、あるんじゃ…」
「え?」
「キラさん、何だかいつも悩んでいるみたいで…ぼ、僕で良ければお話しを聞いたり…!」
キラは緊張しながらもそう言うレンを見て少し意外に感じた。
「嬉しいけど、どうして…?」
「え、いや…こんな状況ですし、その…他の皆さんには言いにくい事が、色々あるんじゃないかなって…」
「レン君…ありがとう、じゃあ、ちょっと聞いてくれるかな…?」
「は、はい!」
レンは少し嬉しそうにしながらベッドに腰掛け、二人並んで座るようにして話し出す。そこでレンは、イージスのパイロットがキラの幼馴染であるアスランという事を聞いた。
「そ、そうですか…幼馴染が…」
「アスランは、どうして地球軍に味方するんだって…ザフトに来いって言ってきてね……同じコーディネーターだからって…」
「………」
「それでアルテミスじゃ、コーディネーターの裏切り者扱い…僕は…僕はただ、皆を守りたいから、戦っただけなのに…!」
キラは両手を握り締めて震えさせ、レンはそれを見て不安と悲しみを入り交ぜたような表情をしてキラを見つめる。
「あ、ごめん、こんな話しちゃって…」
「あ、謝らないでください…!寧ろ、キラさんの悩みを聞けて良かったです!……仲の良かった友達と戦うのは、辛いですよね…」
「レン君…」
「け、けど、それでもキラさんはこの船にいる皆さんを守る為に戦ってくれました。それって凄い事です…!えっと…」
レンは恐る恐る手を伸ばすと、キラの頭に乗せてそっと撫でる。
「キラさんは頑張ってますよ、偉い偉い…」
「………」
「──ああっ!?ご、ごめんなさい!僕、家族によくこうやって撫でられていたので、つい…!」
「いや…ありがとう、レン君…」
キラは優しく笑うと、今度はキラがレンの頭に手を乗せる。
「き、キラさん…?」
「頑張ってるのはレン君もだよ。僕より若いのに、こんな事に巻き込まれて、MSに乗って…ありがとう…」
「あ……」
レンは恥ずかしそうにしながらも、少し嬉しそうにしながら撫でられる。
「レン君も、悩んでいる事があったら言うんだよ?こんな状況なんだし、お互い助け合っていこう」
「あ、そ、それなら…」
キラは早速何か相談を受けるかと思い、身構えていると、レンは恥ずかしそうに顔を逸らしながらポツリと言う。
「れ、レンって呼んで欲しいです…」
「え?」
「いや、仲の良い人は皆レンって呼ぶから、そっちの方が呼ばれ慣れてるので…」
「──ふふっ、あははっ!」
「え、あ、何か、おかしいですか…?」
「い、いや、ごめん…!……うん、それなら…
「あ…」
「これからもよろしくね。一緒に頑張っていこう」
「─は、はい!」
その後も二人は色々話し合い、楽しそうに笑い合いながら時間は流れていく…
「ふぅ…キラさん、少し元気になったみたいで良かった…」
レンは自分の部屋に戻り、ベッドに横になる。
「…守る為…か…」
レンは右手を挙げて赤いリストバンドを見る。
「…帰らないと…心配してるだろうなぁ…父さん、母さん、お兄ちゃん、マユ……待っててね、僕、絶対に帰るから…頑張るから……その為に、頑張って来たんだ…」
──本当に?
「…そうだよ、家族が、待ってるんだ…死ぬ訳には、いかないんだ…助けてもらった、命なんだ…!」
レンは自分にそう言い聞かせるように呟く。
──違うよ。
「違わない、違わないよ…!他に理由なんて無い、だから…!」
何度も何度も呟く、何かを認めたく無いように、何かを否定するように、やがて息遣いが荒くなり、嫌な汗が出て来る。
「──お兄さん、どうして…?」
その末に頭に浮かんだのは、命の恩人の顔だった。
「どうして、助けたの?どうして、笑っていたの?どうして、どうして……お兄さんは…もし…
僕がコーディネーターって知っていたら、助けなかったの?そうすればお兄さんは、死ななかったの…?」
『だが君たちは裏切り者のコーディネーターだ』
「僕は裏切り者なの…?答えてよ、お兄さん……僕はあの時…お兄さんの気持ちすら、裏切ったの…?」
──そうだよ。
「あ……」
気付けばレンは、見覚えのある場所に立っていた。既に崩壊したヘリオポリス…ライラプスと出会った、あの燃え盛る格納庫に。
「ぁ………」
──お前がコーディネーターだと知っていれば、助けなかった。
横たわる起動前のライラプスの上で、レンは死んだ筈のあの軍人に出会った。
「お、お兄さん…」
──お前を助けなければ、俺はもっと早くライラプスに乗れた、お前がいなければ、俺は死ななかった…!
「ひっ…!」
──なのに、助けたお前が、コーディネーターだったなんて…!
目の前に立つ軍人はレンの胸元を掴んで責め立てる。レンはジタバタと身体を動かすが全く抵抗出来ない。
──家族の元に帰りたい?俺を死なせ、俺の気持ちすら裏切ったコーディネーターが、よくもそんな事をぬけぬけと…!
「ち、ちがっ…!」
──許さない…!俺はお前を絶対に許さない…!
軍人はレンを持ち上げると、ライラプスのコックピットが開く。そしてレンが振り向いてコックピットの中を見ると、そこには真っ暗な空間が広がっていた。
「───ぃゃ…」
──本当なら俺が乗って、ザフトと戦って、コーディネーターを皆殺しにしてやる筈だった…!それをお前がっ…!コーディネーターがっ!!
軍人はレンをコックピットに押し込もうとするが、レンはコックピットの入り口を掴んで抵抗する。
──けど、どうせ裏切り者なら…!戦えよ…!裏切ったのなら、それに乗って戦え…!
「ぃゃ…!」
──嫌?あれだけ戦って、傷付けて、殺しておいて今更嫌だと!?これ以上俺を裏切るのか!?
「っ…!?」
──忘れるなよ、お前の手にある血が、一体誰のものなのか…!
「──ぁ」
そして、レンの手が離れ…
「──ゔえ゛っ゛…お゛え゛っ゛……ゔえ゛ぇ゛ぇ゛っ゛…!」
コックピットに入る直前で目が覚めたレンは、すぐさまトイレに走り込み、再び胃の中の物を吐き出していた……
「はぁ…はぁ…ち、違う…お兄さんは、あんな事…!」
そう、実際には言っていない。全てはレンの妄想だ。そんな事言うような人では無いと…しかし、死の原因の一部が自分にある事、コーディネーターというだけで地球軍から敵意を向けられる事もあった。他にも様々なストレスが原因となり、あのような悪夢を生み出してしまったのだ。
「だ、大丈夫…帰るんだ…!家に、家族がいる場所に…!戦場なんて…戦場なんか…僕のいる場所じゃ、無いんだ…!」
大丈夫、大丈夫と、レンは強く思い込む。しかし、いくら時間が経ってもあの軍人の顔が頭から離れず、そうして暫くトイレに篭って、少し落ち着くとレンは部屋に戻った…
「待っててね、皆…僕は、絶対…絶対に…帰るから…」
あの世のお兄さん「ち、ちがっ、そんなつもりじゃ…」
あのお兄さんなんて呪い残して逝きやがったんだ。これじゃレン君が可哀想だよ!(建前)美しい…(本音)