傭兵、荒廃した世界を行く   作:セニョール・大介

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廃墟街へ

 

「─で、今回の作戦なんですが、AR小隊の四名とプラニエータの三名で行います」

 

 翌日、徹夜で考えたベストメンバーを招集し、改めてブリーフィングを開く。

 

 プラニエータには鉄血の戦術人形に肉親を殺されたりして人形自体を好んでいない面々が多いのと、コーラップスの感染者などのE.L.I.Dの対処の仕事があったので比較的人形に友好的な自分、マールス、そしてユピーチェルの三人。

 

 ブリーフィングと言っても作戦の行われる地域の特徴を確認したり、目標の座標までの移動経路の確認のような単純なものだけだ。

 

 …ん? 訓練などで連携を高めないでいいのかって? 無理無理、今からやっても付け焼き刃な連携になるだけだし、仲違いしてる中でそんなことしてもねぇ? 簡単な話、今まで磨き上げてきた連携がどちらにもあるんだからそれでいいじゃん、というものだ。

 

「─以上が作戦の骨子です。なにか質問は?」

「…一ついいか?」

 

 眼帯をつけた少女…、M16A1だったかが手を上げる。

 

「もしハイエンドモデルなどの妨害にあった際はどうするのか?」

「…ハイエンドモデルは確認されていないと聞いたが…」

「だから、もしもの話だ」

 

 個の眼帯少女、まずまずの冷静さだ。戦場では最悪を想定できる人間が一番長生きする。彼女は傭兵に向いているのかもしれない。

 

「…情報の確保などは我々ではなく君たちのほうが好ましい。よって我々が障害の対処をすることになるだろう」

「ふん、たかが人間にハイエンドモデルを抑えられるとは思えんがな…了解した」

 

 前言撤回します! 嫌味は心の中にとどめておいてよ、傷つくじゃん。人のことを慮れるようになろうよぉ…。

 

「─、じゃあ集合は今から二時間後。その間に準備などを行ってください」

 

 その後適当な質疑応答を経てブリーフィングを終え、一旦解散させる。

 

「お疲れ、ルナー」

「うう、ユピーチェルぅ〜、俺無理だよ、こんな雰囲気の中隊長なんて〜」

「…でも雇われた以上、最善を尽くすのがプロなんでしょ? ほらほら立ち直りなさいよ」

「そうだぞ、ルナー。俺等じゃ調整役なんぞできん。ソーンツェでもだ」

「ウッウ…、ふぅ。落ち着いた。ありがと二人とも」

「まあ…頑張ってね」

 

 …ちょっと情けないところを二人に見せたが、おかげで立ち直れた。二人にお礼を言うと、自室に向かって歩き始める。

 

──

 

 あれから二時間後、装備を整え、移動用の装甲車(グリフィンの)で集合地点に行くともうみんな集合していたようだ。

 

「やっと来た」

「もうみんな揃ってるぞ」

「すまんすまん。じゃあ、みんな乗り込んで」

 

 ぞろぞろと乗り込む混合チームのみんな。しかし…、ユピーチェルやマールスとAR小隊が離れて座っている。いくら装甲車といえど自分を除いた六人が座るならそんな余裕はないはずなのだが…。

 

「…」

「…」

 

 なんか喋ってよみんな。こんな静かすぎるドライブなんて嫌だよ、俺。ユピーチェルなら分かってくれるよね?

 

「…」

「…」

 

 いや、目があったよね、そらさないでよ。お願いだからさぁ…。願い届かず、空調もつけていないのに冷え冷えとした車内でハンドルを握ることになってしまった。

 

──

 

 さて、乗員が何人もいるのに孤独なドライブをしばらく満喫していたら目標の廃墟街の建物の影が薄っすらと見えてくる。

 

「じゃあ、作戦通り此処で車から降りて、近くの森を通って廃墟外に入ろう」

「OK」

「「わかりました」」

 

 …こんな悲しいことある? 道中で初めて聞いた言葉がこれだよ?

 

 

 

──

 

 愛用のshAK−12を構え、森をずんずんと進んでいると、左方向の木々の間から、廃墟街の道路に展開する鉄血人形の姿が見える。その数二十体。

 

「絶対に手を出すな。奇襲で倒し切れる数じゃない」

 

 俺の言葉にコクン、と頷く混合チームの面々。先程まではいがみ合っていたが、作戦中は大丈夫らしい。

 

 足場も視界も悪い森の中の行軍というのはその部隊の練度を見るにはうってつけだ。ちらりとAR小隊の面々を見るが…

 

「…」

 

 まさに教本通りの構え、動き方、位置取り。このへんは良くも悪くも機械と言ったところか…。

 

ーパキッー

 

 枝が折れる僅かな音が聞こえると同時に思考を切り替える。

 

「…!」

 

 ハンドサインで後続に止まるように伝え、音の出どころを探る。

 

 森の中ということは当然動物がいる。この音が動物によるものかそれ以外かを見分けるのは簡単なことではない。

 

 ハンドサインでユピーチェルとAR小隊の面々を後方に下がらせ代わりに自分とマールスを前衛に上げる。

 

 ミシミシと落ち葉が圧縮される音が絶え間なく聞こえ始める。鉄血人形で確定だ。

 

「…」

 

 まだ相手の姿は見えない、撃たずに待つ。姿が見えるまで、確実に当てられる距離まで待ち続ける。そして…、

 

「Огонь!(撃て!)」

 

 視認した瞬間、全員が斉射。相手の前衛に強烈な一撃を与え、相手の足を止める。それを確認すると同時に俺とマールスが相手の右側面へ移動。正面ばかりに気を取られていた間抜けに対して十字放火を浴びせ一気に殲滅。

 

 ハンドサインで一度銃撃を中断させ、マールスとともに突撃し、しぶとく生き残っていた個体を丁寧に潰していく。そして…

 

 戦闘開始からわずか五分で敵を全滅させ、その勢いのままに森を突き進み、廃墟街への突入ポイントに到着する。

 

「じゃあ、作戦どおりに」

「了解しました」

 

 そしてAR小隊を残し、三人で目標の建物までの安全を確保しに行く。

 

 幸い、街の中にいる鉄血人形の数は少なく、二体程度の巡回がまばらにあるくらい。

 

 街なかで銃なんか撃ったら増援の鉄血兵が来ることがわかりきっているので─

 

「…?」

 

 ナイフで首を刈っ切り、すぐに無力化させていく。

 

「目標まであと百メートル…」

 

──

 

 

「すごい…」

 

 街なかに突入し、一切の銃火器を使わずに鉄血の人形を無力化していく三人を見て思わず声が漏れる。

 

 AR小隊の面々は先程の遭遇戦と今の静かな殺戮を見て人間の部隊の評価を上げた。

 

「…グリフィンの指揮官を始め、たくさんの人間を見てきたが…、なるほど、評価が高いわけだ」

 

 目標の建物への侵入はAR小隊の面々でも充分に可能。しかし、あそこまで静かに、そしてスピーディーにできるかと言われれば、それは不可能だ。

 

「すごいですね…、なんで彼らばっかり優遇されるのか…、その理由がわかりました」

「M4…」

 

 四人の少女は食い入るように彼らの背を眺めていた。先程の遭遇戦ではわからなかったが、彼らは情報伝達に言葉ではなく、ハンドサインや目配せを用いていたのだ。いや、伝達されずとも各員が最適な動きを取っていた。まさに、洗練された連携。冷静さや高いインテリジェンスを要求され、かつ莫大な経験値によって作られたそれを見ると自分たちの連携の粗さが否が応でも分かってしまう。

 

 何がより良い方法がだ、何が貧弱な人間だ、何が命惜しさに逃げ出すだ。

 

 彼らはより良いチームワークを、多彩な手段を持っている。先陣を切り、道を切り開こうとしている。

 

 彼女たちは井の中の蛙であったことを思い知らされた。

 

 そうこうしていると目標の建物の窓からハンドサインが出される。戦術人形の視力を持ってようやく認識できるそれを見たAR小隊は移動を開始する。

 

 道中、いちども鉄血人形とは出くわさなかった。

 

 

──

 

 M4が建物内のデバイスからの情報を自身に移している最中、その他の六人は周囲の警戒を行う。俺も二階の窓から周囲の警戒を行っている最中だ。そんな中…

 

「ルナー、ちょっといい?」

 

 ユピーチェルが突然持ち場を離れて自分のもとへ来ていた。

 

「ん? どうした」

「…作戦があまりにもうまく行き過ぎてる。分かってると思うけど…」

「たしかにこれと言った障害もなく、想定外の遭遇戦も一度きり。重要な情報があるにしては鉄血の対応が杜撰すぎる」

「ま、要件はそれだけだから」

「要件がなくても来てくれて構わないよ」

「ば、馬鹿じゃないの。作戦中よ」

「ハハハ」

 

 やはり弄るといい反応を見せてくれる。いい暇つぶしになった、と思うと同時に、彼女の忠告や先ほどまでのことを振り返る。

 

 うまく行き過ぎている作戦。普段ならいいことじゃないか、と笑い飛ばしていたが…

 

「少なくとも鉄血人形との遭遇が一回というのが引っかかる」

 

 あの森はかなり広範囲に広がっている。最前線にほど近いこの廃墟街、いくら手薄だと言ってもあの部隊と似たような部隊があと三つや四つあるはずなのだ。

 

「あの遭遇戦は目くらまし…?」

 

 人為的としか思えない戦場の摩擦、順調すぎる任務…

 

「あの嬢ちゃんの懸念が現実のものに、か…」

 

 何かしらの意図があるとしか─

 

「情報のインプットができました。いつでもいけます」

「OK、じゃあ最悪バレてもいいから一気に森まで行こう」

「「「了解」」」

 

 まだ確定したわけではない。そんな可能性もあると念頭に置いておけばいいだけだ。

 

──

 

「…」

 

 なんとかバレずに森まで来れた、が…。

 

 なにか嫌な予感がする。

 

「少し速度を上げよう。こんな薄暗いところに長くいることはない」

「「「了解」」」

 

 そうして装甲車を停めている場所まであと二時間といった頃、背後からなにか音が聞こえると─

 

 突如としてけたたましい銃声が森に響き渡り、薄暗い森がマズルフラッシュによりライトアップされる。

 

「伏せろ!」

 

 幸いなことに森の見通しの悪さが俺に味方して、特に負傷せずにすんだが、他の奴らは…

 

「特に怪我はなし…」

 

 自分と同様に無傷。相手の先制は凌げたようだ。

 

「ぱっと見、七十くらいか…」

 

 戦力差が十倍近い現状、まともに相手をするのは悪手。

 

「…左に転進して一旦撒こう。あの数相手じゃ装甲車も蜂の巣だ」

 

 幸い身を隠す障害物はたくさんある。射線を切るのも簡単にできる。

 

──

 

 なんとか追跡をかわし一息つけたはいいものも…

 

「結構奥まで来ちまった。こりゃ野営だな」

 

 森の中心部まで来てしまっており、ただでさえ薄暗いのにもう日が暮れ始めている。視界ゼロの状態では起伏に富んだ森を歩むには危険が過ぎる。リュックの中に入れていた軍幕をセットし、三つのテントを立てる。

 

「マールス、焚き火だ。テントで囲まれたところに作っといてくれ」

「はいよ」

 

 夜の森はよく冷える。それで体調を崩されでもしたら、それこそ撤退が難しくなる。

 

 諸々の準備が終わる頃にはすっかり日が落ちていて数メートル先さえわからないほど。周囲を警戒しながら軍用レーション、または専用のエネルギーバーで食事を取りながら見張りの時間割を決める。

 

 こういうのに慣れている俺とマールスが最初の一時間を見張り、1時間毎に一人ずつ交代させる。というのに落ち着いたので、愛銃片手にテントの周囲を見回る。

 

「なあルナー。彼女たちをどう見る?」

 

 しばらくすると暇なのかマールスが質問を寄越す。しかし、彼女たちをどう見る、か…。

 

「教本通りの連携、構え…やっぱ機械なんだなぁ、ていうのが感想」

「分かる。悪いわけじゃないけどまだまだって感じだよな」

 

 

 教科書に乗っているのは一般的な答えである。彼女らは体格、扱う銃など、色々異なっているのに構えが全く同じ。そんなのでは当たるものも当たらない。それぞれにあった構えというのはどうしても存在するのだ。

 

「あとは…。生真面目っていうのかな? あっちの隊長さん。不測の事態に弱いと見た」

「分かる─」

 

 そんなこんなで一時間が立つとテントから一人の少女が出てくる。

 

「じゃ、先寝るわ」

「お疲れー」

 

 それを見てマールスが変わりにテントの中に入っていく。

 

「たしか、M16A1だったな」

「ああ」

 

 出てきたのは眼帯をつけた少女。…しかし、こうしてみてみるとすごい場違いな格好をしてるよな、戦術人形って。ミニスカって言うんかな? 足の大半が出てっじゃん。寒くない?

 

「…」

 

 う、一言も発してくれないけども気になるなぁ。そうだ、たしかリュックにちょうどいいものがあったんだ。

 

「M16A1、ほい」

「…?」

 

 少女に酒の入ったスキットルを投げ渡す。確かジャック…なんちゃらって言う酒だ。見た目はもろ未成年だけど、まあ人形だし大丈夫でしょ。

 

「これは?」

「酒だ。銘柄は忘れたけどな…。寒いだろ、それ飲んで体温めとけ」

 

 最も、効果があるかはわからないけど。

 

「何故私に? 貴方が飲めばいいだろう。私達は戦術人形なんだぞ?」

「別に? なんか寒そうな格好だなって思っただけ」

 

 まあ、あと二本あるから一本くらい大丈夫。なんかすごい怪訝な様子でこっち見てるけど、好意百パーセントだから。やましいことなんか考えてないから。

 

──

 

 不思議な男だ。ルナーという男を私はそう評する。気味悪がられるのが日常だった。機械だからと心無い対応をさられるのが日常だった。酒や凝った料理、雑誌などの娯楽など私達にはないのが普通だった。

 

 それなのに、機械ということを知りながらも酒を分けてくれるなんて頭がおかしいのではないだろうか。私は彼の顔をじっと見つめる。彼の様子は少し緊張しているようだが、なにか邪なことを考えているふうには到底思えない。

 

 目線を手元のスキットルに移し、キャップを取り一口飲んでみる。中身の酒はバナナのような、カラメルのようにほんのり苦く、甘い。とても飲みやすい優しい味がした。

 

「…美味いな。ウイスキーか…。銘柄はなんていうんだ?」

「…ええと。ちょっと待ってな。酒の銘柄とか興味がなくてさ…」

「…はは」

 

 自然と笑みがこぼれ出る。ルナーは酒を娯楽ではなく、体温上昇のためのものと考えている。純粋に私のことを慮ってくれているのだ。

 

「笑うなよぉ。こんなんならソーンツェあたりに聞いとけばよかったよ…。思い出した! ジャック・なんちゃらだ」

「はは、なんちゃらの時点で思い出せてないじゃないか」

 

 こんなにも人間と会話が弾んだのは初めてのことだ。妙に心地よく、安心する。

 

「おい、涙出てるぞ。泣くほど美味かったのか?」

 

 いつの間にか涙が流れ出す。今まで辛かった。散々気味悪がられ、罵られ、心安らぐ時間なんてなかった。

 

「あぁ、ならさ、今度バーで一緒飲む? たぶん一緒なら君も飲んでいいでしょ」

「な、私は戦術人形だぞ。それでもいいのか?」

「うーん。特に問題ないかな」

「へ?」

 

 何を言っているんだこの男は? 人間は私達のことを今まで避けて、避けて、恐れていたじゃないか。それなのに…

 

「だって君かわいいじゃん。可愛いこと飲むお酒なんて美味しいに決まってるよ」

「な、な、え? かわいい?」

「ああ、別嬪さんだよ」

「別嬪…」

 

 …はは。私ってちょろいな。一杯の酒、一つの褒め言葉、普通の対応、それだけで心が高鳴ってしまうのだから…。

 

──

 

 おいおい、いきなり頬が赤くなったぞ。もう酔っちゃったのか? 俺も下戸だけど此処までじゃ…。あ、そっぽ向いちゃった。

 

 まあいい。無駄話もこれくらいにして見張りに戻ろう。

 

〜〜

 

「…代わります」

「お、もうそんな時間? じゃあ頼んだ」

 

 しばらくするとAR15というピンク髪の少女がテントから出てきた。

 

 ふぅ、明日は結構大変だからな、さっさと寝て体力を回復させよう。

 






「ん? どうしたのM16。なんか変よ」
「な、なんでもない!」
「??」
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