傭兵、荒廃した世界を行く   作:セニョール・大介

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想定外

 翌朝、日の出が出るとともに行動を開始する。本来の道から大きく外れてしまっているため移動距離が長いからだ。

 

 息を殺しながら、とにかく進み、装甲車を目指す。が─

 

「敵だ!」

 

 行きのときは順調だった道のりが嘘のように鉄血人形と遭遇する。

 もう三回目の接敵。弾薬とかはまだまだあるがAR小隊の面々が精神面の方で疲労している。

 

(ルナー、やばいぞ。嬢ちゃんたちだけでも先に行かせないとこのままじゃ全滅まっしぐらだ)

(分かってる…)

 

 マールスが小声で話しかけてくる。分かっていたことではあるが、AR小隊がいくら精鋭部隊と言っても経験が足りていない。悪いことではないのだが、一戦一戦に全力で挑む姿勢はいくら戦術人形といえど、確かに精神を削ってしまう。

 

 

(ユピーチェル、突撃するぞ。コイツラを突破したら戦術人形の四人と一緒に先に進んどいてくれ)

(OK、ルナーは?)

(コイツラの足止め。少し削ったら後を追う)

(…死なないでね)

(言われずとも)

 

 ユピーチェルには話を通した。あとは戦術人形たちに伝えるだけ。

 

「AR小隊、これより鉄血人形の群れを突破する。俺がスモークグレネードを投げたら一斉射しろ。ワンマガジン使い切っても構わない。その後ユピーチェルを先頭、俺とマールスを最後尾にしてスモークの中に突っ込む。いいな?」

「「「了解しました」」」

 

 彼女たちが了承すると同時にスモークグレネードを二つ投げる。そして…

 

「Огонь!(撃て!)」

 

 アサルトライフル七丁の弾幕を相手に叩きつける。

 

 相手の攻撃が弱まったのを見てユピーチェルがまず突っ込み、それに彼女らが続く。最後尾をマールスと二人で硬めスモークの中を突っ走る。

 途中、数体の鉄血人形からの射撃があったが、この視界の悪さ、まず当たらない。

 

 充分鉄血人形の集団から距離を取るとマールスと二人で隊列を離れ、射撃による足止めや。わざと本隊とは別の方向に行くことで相手を惑わし、見当違いなところに向かわせる。そうすることで後ろからの脅威を取り除くことができる。

 

 時間にして約一時間、偽装工作などを終え彼女らの後を追う。

 

「昼までには追いつきたいな」

「ああ、それまでに追いつけなかったらまた野宿だぜ」

 

──

 

 確かに彼らの願いは叶った。偽装工作を終えてからおよそ十分と少し。二人は彼女らに追いついたのだ。しかし…

 

 彼女たちは見るからにボロボロで─

 

「おいおい、I.O.Pのエリート様はこんなもんかよ」

「くっ…」 

 

 

 今までの鉄血人形とは一線を画す、より人間らしく、しかし底しれない恐怖を駆り立てる鉄血人形が進行方向を塞いでいた。

 

 

──

 

(どういう状況なんだ?)

(さぁ?)

 

 少し離れたところから二人で状況整理に努めるが、まるで意味がわからない。

 

 AR小隊の面々が表立って相手をし、ユピーチェルが援護射撃に努める。それは分かる。おそらくそれが最善の布陣だろう。しかし…

 

「くそっ」

 

 あの鉄血人形、知能が高い。AR小隊の面々で射線を切り、ユピーチェルを無力化しようとしている。

 

(ユピーチェルの援護射撃がギリギリ間に合ってるがよ)

(ああ、彼女らが限界間近。こりゃあすぐにでも援護に入らないと)

 

 早く援護に入ろうと走り出したが、相手の風貌を見て足が止まる。

 

「もろ機械の右手、そしてあのブレード…そうか、あれが処刑人とかいうやつか」

「処刑人って、あの?」

「ああ、間違いない。メルクーリの家族の仇だ!」

 

──

 

「おいおい、もっと俺を楽しませろよAR小隊! ちゃんとやれッ!」

「この…、殺しに来ておいて何がちゃんとやれだ!」

 

 M16A1は突如遭遇し、そのまま襲いかかってきた処刑人に文句を垂れる。

 

「何がって…」

 

 処刑人が動きを止める。少々不気味ではあるが、そのチャンスを活かし態勢を整える。人間の女の援護射撃があっても状況は不利のままだったのだ。M16A1をはじめとするAR小隊の面々は大きな損傷こそないが、すでに被弾やブレードによって少なからず傷を負っている。今はなんとか対抗できているが、この状況が崩れるのも時間の問題。なんとかせねば、と各々が考えるがなにもない。

 

「はぁ~~~」

 

 

 そんな時だった。処刑人のどデカいため息がこぼれたのは。心底残念そうな、心底呆れているようなそれは、全員の思考を止めるのに充分だった。

 

「おいおい、俺やお前らはよぉ、兵器として生まれてきたわけだろうが! なのに、なんでそんな腰を抜かしてやがる! もしかしてだがよお、まさか死ぬのが怖いとか思ってんじゃねえだろうなぁ!」

 

 AR小隊の四人は息を呑む…。

 

「ハッハ、まあいいよ。馬鹿らしいが死ぬのが怖いのはいいぜ。なら何故そんな腑抜けてる!? 生きたきゃ俺を殺すしか道はねえぞぉ!」

 

 四人は処刑人に気圧される。処刑人の言っていることは分かる、だが、此処までの実力差がある。五対一でなお劣勢。援護射撃に対応し始めた以上これからは実質四対一。ならば結果は目に見えている。

 

「…」

 

 唯一残されたのは命を懸けての殿。情報を持ち、かつリーダーであるM4を生かすために他の三人が犠牲になるという、血塗らねた作戦。

 

 三人が覚悟を決め一歩前に踏み出す。

 

「え、みんな何を…」

 

 困惑するM4。だが、他の三人は静かに処刑人に銃口を向ける。

 

「ッ! やめてM4姐さん。AR15も、SOPⅡも。私も残る。みんなで─」

「─ハッハ。馬鹿馬鹿しい! 勝ちに来ていない腰抜け三人に、ケツの青いあまちゃんが一人。全員まとめてぶち殺してやる!」

 

 AR小隊の頼れる姉御分のM16A1は死を覚悟する。他の三人にはまだなんとかなるのでは? という淡い希望が残っているが。…無理だ。運の介在しないほどの実力差があるのだから。それでも…

 

 M16A1がただ一人前に進み出る。

 

「来やがれ処刑人!」

 

 覚悟の咆哮に応え、M16A1に狙いを定め、左手のハンドガンの引き金を引く処刑人。M16A1はそれを回避し、お返しに処刑人に自分の半身であるM16A1で鉛玉をプレゼント。

 

「ちったぁマシになったなぁ!」

 

 撃ち込んだ鉛玉の半数は虚空に消え、残り半数が胴体を、コア付近を捉える。が、貫いた感覚はない。

 

 処刑人が大きく距離を詰め、右手のブレードを振るう。M16A1は間一髪、自分の半身を盾代わりにし、直撃を防ぐが…。

 

「ッ…」

 

 勢いそのままに吹き飛ばされてしまう。自身の半身も大きな裂傷が入り、使えるかもわからない状態だ。

 

「くそったれ…」

 

 処刑人がトドメにと振るうブレードに対し、もう悪態をつくことしかできない。

 

『今度バーで一緒に飲む?』

 

 M16A1は、一緒に飲みたかったなぁ…、と思いながら、その刃を受け入れ─

 

 

 一発の銃声が鳴り響く。その弾丸はM16A1に迫る凶刃を弾き返す。

 

「よくやったM16A1。あとは俺がやる」

 

──

 

 処刑人は銃弾が飛んできた方向を見る。そこには人間の男が一人、銃口を向けながら立っていた。

 

「…人間ごときが邪魔するんじゃねえよ」

 

 無粋な乱入者。せっかく一人持っていけると、それで危機感を、復讐心を持つであろう残り三人と戦える、そう思っていた矢先にこれだ。

 

「せっかくよぉ、良い雰囲気になったていうのによぉ。なんだてめぇ? あとは俺がだぁ? 貧弱な人間ごときが何を言う! てめえら弱者は、強者たる俺様のご機嫌取りだけしてりゃあいいんだよぉ!」

 

 憤る処刑人。それに対し…

 

「君が強者だって? ただ人間よりパワーがあって、スピードがあって、タフネスがあるただのゴリラじゃないか」

 

 M16A1なんかは全部で上をいかれてるじゃないか、と心のなかで突っ込む。

 

「ああ? 身体能力で劣ってるくせにどういうこった? まさか知恵がありますとかほざくんじゃねえだろうな!?」

「君、もしかして身体能力で勝敗が決まると思ってるの? かわいそうに十世紀も前の固定概念に囚われてるよ」

「なら、お前は俺に勝てるっていうのか? そんだけ馬鹿にすんだもんなぁ」

「能書き垂れてないで早く来いよ。野蛮人との会話は反吐が出る」

「ぶっ殺す!」

 

 売り言葉に買い言葉。怒れる処刑人とただの人間が衝突する。

 

 まずルナーが処刑人の右手に銃弾を浴びせる。先程まで相対していたAR小隊の面々が同じようにしてまるで効果が得られなかったのを彼は知らない。処刑人は嘲るような笑みを浮かべてルナーに近づく。が

 

「無駄だぜ! そんな豆鉄砲が俺の装甲を─」

 

 鈍い音を立て、右腕の装甲が削られる。処刑人は何が起きたか分かっていない様子。

 

「君の紙装甲がなんだって? よく聞こえなかったよ」

「てめぇ…」

 

 ルナーの愛銃は12.7×55mmの弾を使用する馬鹿みたいな火力を誇るshAK-12。M4などの普通のアサルトライフルとは火力の桁が違うのだ。

 

 ルナーの銃が危険ということを認識した処刑人は銃を撃たせまいと距離を詰める。

 

 あまりのスピードにルナーは銃を構えれていない。

 

「アッハッハ、どうだ人間の遥か上を行くスピードだ! おめえなんかちょっといい銃使ってるだけじゃねえか!」

「本当にそう思う?」

「はぁ? 何を理由のわからね、え…」

 

 処刑人は異変を感じた。ブレードを振るおうとしているのに右腕が動いてくれないのだ。右腕に視線を移すと…

 

「はぁッ? いつの間に?」

 

 ルナーの左手に握られたナイフが右腕の駆動部に突き刺さり、動きを阻害していたのだ。

 

「クソがッ」

 

 処刑人がなんとか距離を取ろうと後ろに跳ぶ。しかし…

 

 距離が空いたのならshAK-12の超火力の好餌となる。

 処刑人のとれる選択肢は二つ。ハンドガンで撃ち合うか、距離を詰めて近接格闘かのどちらかだ。

 

 

「しゃらくせえ!」

 

 

 処刑人は後者を選ぶ。遠距離戦は分が悪く、右腕の損傷があれど身体能力で勝っているからだ。

 

 人間を遥かに超え、I.O.P製の戦術人形さえ圧倒するアビリティ。かつて戦術人形などのロボット、アンドロイド産業に君臨していた鉄血工造のハイエンドとして、看板商品とされていただけのことはある。

 

 だが、ルナーはコーラップスにより変異したE.L.I.Dという化け物たちとしのぎを削ってきた過去がある。

 

 確かにブレードの攻撃は脅威だ。しかし─

 

「あの化け物よりも遅い」

 

 躱せないスピードではない。

 

 ルナーが処刑人の右腕に蹴りを入れる。一瞬拮抗した後、ぶっ飛ばされるルナー。だが─

 

「あの化け物より貧弱」

 

 化け物相手は一瞬の拮抗さえなかった。右腕の損傷を入れたとしてもなお弱い。

 

「ふざけんじゃねぇ!」

 

 処刑人が少しの溜めの後、損傷で火花散る右腕でブレードを振るう。スピードは変わらないしかし…

 

「全員伏せろ!」

 

 マールスの叫びから遅れること一秒、周囲の木々を薙ぎ倒しながら斬撃が迫る。

 

「こんなのを隠してたのか!」

「待って、あの人は?」

 

 距離がそこそこあったため、なんとか難を逃れたAR小隊とマールス、ユピーチェル。しかし至近距離にいたルナーは…。

 

「ふぅ〜、ギリギリ」

 

 回避に成功していた。五キロとかいう巫山戯た重量の愛銃を手放すことで辛くも斬撃を避けたのだ。

 

 代わりに右手に握られているのはコンバットナイフ。逆手で握ったそれに処刑人の注意を向けさせ、その間に処刑人の左足に左足をかける。そして後退しようとする処刑人の右肩、左腕を掴み、出足払い。

 脚を払われ、一瞬中に浮く処刑人。いくら身体能力が高くとも空中では満足に力を発揮できない。

 ルナーは背中から地面に落下した処刑人に跨り、マウントポジションへ。

 右手のコンバットナイフを処刑人の首へ─

 

「やるじゃねえか!」

「…」

 

 

 処刑人の右手のハンドガンによって防がれる。

 

 ならば左から、と左手にもコンバットナイフを装備し処刑人の首元に向けるも─

 

「はっは!」

「無駄な抵抗すんじゃねえ」

 

 処刑人がブレードを手放しコンバットナイフの刃を掴む。

 

 ルナーの左手のコンバットナイフが万力のような握力と全身の体重をかけた推進力のあわせ技によって歪む。また、処刑人のハンドガンが右手のコンバットナイフを抑えつつ、銃口をルナーに向ける。

 

 ハンドガンの引き金が引かれる直前、ついに左手の歪んだコンバットナイフが処刑人の右手のメカメカしい指を三本切り落とし、障害を突破する。そして引き金が引かれると同時に処刑人の首元にナイフを突き刺さす。

 

──

 

 鮮血が舞う。そして取っ組み合う両者の動きが止まる。それを見た周囲が相打ちを思っていると─

 

「…くそったれ」

「あっぶねえ!」

 

 二人が動き出す。しかし、もう一度銃口を向けようとする処刑人の左腕やナイフに抵抗する動きはだんだん弱まっていく。そして…

 

「…」

 

 ついに物言わぬ躯と化す。

 

 身体能力で勝る鉄血のハイエンドモデルにただの人間が勝利したのだ。

 

──

 

 ひ〜、マジ危なかった。何だよあいつ、ナイフ抑えながら銃ぶっ放すなんてバケモンかよ。

 首に刺した影響で銃口がちょっと動いてくれなかったら死んでいた。

 

「すげえなルナー。突然あいつの前に行ったと思ったらタイマンするもんだから頭狂ったのかと…」

「てめぇ、めっちゃ失礼だな。メルクーリの家族の仇だぜ? ちょっと気合入っちまったんだよ」

「気合い入れ過ぎだぜ、ハッハッハ!」

 

 俺がマールスと軽口をたたき合っているとユピーチェルが近づいてくる。

 

「ありがと、ルナー。私の銃じゃこいつは倒せなかった」

「? ナイフがあるじゃないか」

「あんたねぇ、私をあんたらと一緒にしないでくれる? 私はか弱いの!」

 

 おいおい、そりゃ、俺がイかれてるってことか? 冗談じゃないぜ。

 

「おいおい、ユピーチェルよぉ─」

 

 そうだマールス。俺達は標準的な人間だって言ってや─

 

「やばいのはルナーだけだ。少なくとも俺はハイエンドモデルの眼の前に躍り出たりしねえよ」

「おい! 俺を養護しろよ。イカれてんのはソーンツェやメルクーリ、ヴェネラだろ─」

 

 突然のことだった。戦場に、殺し合いにあやされ、悲鳴や絶叫を子守唄に育まれた自分の本能が違和感を感じ取ったのは。

 

 背中越し…。先ほど、俺とマールスが来た方向、その一帯に静寂が広がっている。森の生き物の気配が消えている。なにかから身を隠しているかのように息を押し殺しているのだ。

 

 そして思い当たる。ここら一帯の鉄血を操る黒幕。先程の処刑人がそうかと思っていたが、あの性格ならこんな森の中の遭遇戦よりも、真正面からの総力戦を好むだろう。そうしなかったということは、その上の存在を示唆している。

 

(このままの状態で聞いてくれ。努めて冷静に、普段通りに)

 

 適当な会話を続けながらハンドサインで二人に呼びかける。

 

(俺の後ろ、百メートル位の場所に、処刑人よりやばいのがいる)

 

 研ぎ澄まされた五感は背中越しでも森の異変を感じ取る。それが静かに近づいてきていることにも…。

 

(歩きで接近している)

 

 AR小隊の面々に視線を向けるが…。

 

「…」

 

 のほほんと自分たちの会話? が終わるのを待っている。

 

(相手に気付いたと思われないように二人は左右に移動して迎え打てる態勢に、俺が正面で気を引く)

 

 …彼女らにも伝えるべきか悩むが、変に反応して接近に気づいたと感づかれるのも面倒だ。

 

「─だろ?」

「まあそうね。…まあ無駄話はこの辺にしましょうか」

「…俺小便してきていい?」

「…あっちでして来て。私はちょっと離れてるから、終わったら呼んで」

「ええ〜」

「ええ〜、じゃない。ほんとデリカシーがないわね」

 

 マールスとユピーチェルがそれぞれ別方向に離れていく。それを見てAR小隊の面々が近づいてくる。そしてリーダーの茶髪の少女、M4A1が口を開く。

 

「先程はありがとうございました」

「いやいや。合同チームのリーダーとしてすべきことをしただけだよ」

「…すべきことを、ですか?」

「うん、作戦の要である君たちは他の戦術人形と異なり、バックアップがないと聞いたからね。死なせるわけにはいかなかったんだよ」

「……」

「リーダーだからって気負わなくてもいいよ」

「!」

 

 なんとなく思っていたがAR小隊のリーダーのこの子、自分がしっかりしないと、っていう脅迫概念に囚われてるきらいがある。同じリーダーだしちょっとアドバイスを上げよう。

 

「君はリーダーであると同時に他の三人と同じ一つの戦力、ほとんど対等な関係なんだから信頼して重要な時以外は放任。みんな任務遂行のためっていう同じ目標を持っているんだからバラバラにはならないよ」

 

 過保護な保護者は子どもの成長を妨げるからね。必要以上の束縛は毒。

 

「でも、重要なときは対等な関係は捨てて、顎で使おう」

「私なんかが…姉さんたちを?」

「…顎で使うのを尻込みするなら率先して動こう。お姉さんたちは顎で使うのをためらうくらい優秀なんでしょ? 見本を、やりたいことを伝えたられたならあとは合わせてくれるさ」

「…」

 

 まあ、周囲に合わしてもらう連携は不完全も不完全。隊員の能力を考え、その先の展望を予測したうえで判断し、指揮するのがリーダーなんだから。

 

 まあ伝えるべきは伝えた、と会話を打ち切るとピンク髪の少女、AR−15が近づく。

 

「先程はありがとうございました。…リーダー、そのうえでいくつか聞きたい点があります」

「ん? なにかな」

 

 …めっちゃ嫌な予感がする。こういう真面目系にこそやばいやつはいるのだから。

 

「リーダーはなぜ単独で処刑人討伐に動いたのですか?」

「君たちが見るからにボロボロだったから…かな。さっきも言った通りバックアップのない君たちが破壊されてしまうのは防いでくれって言われてるし」

「質問が悪かったですね。何故私達と連携して討伐に動かなかったか、です」

 

 あ~あ面倒くさいタイプじゃないか、(;´д`)トホホ…

 

「まあ、仲間の家族の仇ってことで昂っちゃたからかな?」

「任務に感情を持ち込まないのが良い兵士、指揮官と聞きますが」

「…」

 

 そんなに言うんなら肉壁にしちゃうよ? 君たち四人がかりでも前衛に不安があったんだから仕方ないじゃない─

 

 ついに視界の端に謎の存在を捉える。この昏々とした森の中に場違い過ぎるメイド服。そしてその足元まで伸びるスカートを捲し上げて…

 

「─伏せろッ!」

 

 叫ぶと同時に一発の発砲音が響く。なりふり構わず、眼前の鼻につく少女を無理やり押し倒すと同時に前頭部に衝撃が走り─

 

「え?」

 

 

──

 

 AR15は困惑せずにはいられなかった。いきなり目の前の男が叫んだかと思うと銃声が聞こえ─

 

「え?」

 

 弾丸が少し前まで彼女のコアがあった地点、そして彼女を押し倒した眼の前の男の頭部がある地点を通過する。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 M16A1が男に呼びかけるも反応はない。ただ頭部から静かにとくとく流れ出る血液、ピクリともしない体がそこにあるだけ。

 

 AR小隊の面々が困惑しながらも銃声がした方を見れば…

 

「ご機嫌ようAR小隊、ならびに人間の皆様」

 

 シワ一つない、汚れ一つ見当たらないメイド服を来た女がスカートの両端を摘み、流麗なお辞儀をした。

 

 

──

 

「ご機嫌ようAR小隊、ならびに人間の皆様」

 

 流麗なお辞儀をする、この森で場違いなメイド服の女の登場でAR小隊は混乱の極みに陥る。リーダーのルナーが早々に倒れ、かつ人間のもう二人の姿が見えないため、リーダーはAR小隊の隊長M4A1が務めることになるが─

 

「…」

 

 何も言うことができない。

 

「いかがなさいましたか? I.O.Pきってのエリート部隊の皆様がそのような呆けた顔をなさって…」

「ッ─」

 

 メイド服の女が更に煽りに行こうとすると…

 

「森の中に美女が現れたんだ、ついに眠れる森の美女が目覚めたのかって感激で咽び泣いてんだよ」

 

 メイド服の女の斜め後ろで銃口を向けたマールスが姿を表す。

 

「…」

 

 その反対側から無言のユピーチェルが同じく銃口向けながら現れる。

 

「おや、リサイクルできない生ゴミと違い、人間の皆様は状況を飲み込めているご様子。やはり気づかれていましたか?」

「なんでぇ、気づいたことが分かってたのかよ」

「いえ、なにかあるとは思いましたが、まさか気づかれていたとは…」

「へ、どうだか」

 

 話し終わると同時に引き金を引くマールス、ユピーチェルの二人。

 

 マールスが頭部を狙い、ユピーチェルがコアのある心臓付近を狙うが…

 

「クソが」

 

 ひらひらと、流麗な回避運動の前に無傷で切り抜けられる。

 

 ユピーチェルは先程の処刑人の動きを鑑みて、この女のほうが能力が高いと判断する。

 

「マールス、これは無理よ」

「分かってる。けど、ルナーじゃねえけど、任務を遂行してこそのプロだ。足止めだけでもしねえとなんねえよ」

 

 それでもなお踏みとどまる二人。それを見て─

 

「フフ。人間の皆様は大変ですね。そんな使えない人形のお守りをしなければならないとは…」

「ッ! 何が使えない、よ!」

 

 此処まで煽られてようやく口を開くAR−15。

 

「実際そうでしょう。先程のお二方の射撃に貴方がたは加勢どころか、銃さえ構えていなかった。これを役立たずと呼ばずしてなんと呼ぶのです?」

「クッ…」

「若いもんをいじめないでもらえるかい、レディー。ところで貴方の名前を教えてもらえないか? さぞ美しいお名前なのだろう」

「おや、私としたことが…、これは失礼を」

 

 女は姿勢を正し、再びスカートを摘む。

 

「改めまして、鉄血のハイエンドモデル、代理人でございます。以後お見知りおきを」

 

──

 

「代理人…」

 

 AR小隊の誰かが零す。それもそのはず、代理人は今まで直で姿を見せたことがないのだ。常に後方で、本拠地で何やらコソコソやっていること以外は謎に包まれた存在なのだ。

 

「…?」

 

 マールスが矢面に立ち注意を引いている影でユピーチェルがAR小隊に向けてハンドサインを送っていた。

 

(撤退。代理人は私達が牽制する。あなた達は周囲を警戒しながら静かに後ろに下がって)

 

 AR小隊がそれを確認すると同時に二人が再び射撃を開始。先程のものは違い、AR小隊に近づけさせないための牽制射撃。

 

「健気なことで」

 

 しかし、代理人は笑みを浮かべる。

 

「私は処刑人とは違います。こんなペラペラと無駄話をして目標を逃がすなんてヘマ、私はしません。伏兵くらい仕込みますとも」

 

 静かに下がろうとしていたAR小隊の正面から鉄血人形がわらわらと湧き出す。その数、およそ三十。

 

 その三十の構成は下っ端の、通常の鉄血人形ばかり。普段なら苦戦すれども勝てない数ではない。しかし…

 

「弾薬、ありませんよね。やはりリサイクルのできない生ゴミですね。あんなにも無駄撃ちばかりするのですから」

 

 先の処刑人との一戦でかなりの弾薬を消費してしまった現状、彼女らの心を折るには充分過ぎる存在であった。

 

 代理人は相対す二人も苦虫を噛み潰したような、さぞ愉快な顔をしているのだろうと思い、目線を向けるが…

 

「?」

 

 笑み、絶対にこの場にふさわしくない表情を浮かべている。

 

「さすがは賢い戦術人形様だ! だがな、こっちも伏兵くらい仕込んでんだよ!」

「フフ、ありえません。貴方方のことは二日前から、廃墟に突入するところから見ています」

「へぇ、じゃあなんですんなり通してくれたんだい?」

「なにやらこの街に用があるのは分かっていましたが、この街は広い。虱潰しに探すのも馬鹿らしいので、情報を集め終わったところでその情報をもらおうかと」

「はは、効率主義者だねぇ。まあいい、でも伏兵は本当だぜ?」

「だからそれはどこに─」

「─ここだよ」

 

 冷静沈着な代理人が珍しく狼狽する。なぜなら、ありえないはずの伏兵が襲いかかってきたからだ。

 

 確かに頭蓋を撃ち抜いてやったはず、倒れ伏し、なんの反応も見せなかったはずのルナーが突如起き上がる。混乱する代理人の隙をつき、主武装の四本のサブアームのうち二つをコンバットナイフで切り裂く。

 

「お前か! この俺のイケメンな、クールなフェイスを傷つけやがったのは!」

「…なるほど、骨を削った程度でしたか。まるで反応を示さなかったので勘違いしてしまいました」

 

 武装の半分を失った代理人は後退する。近接特化の処刑人相手に近接格闘で競り勝つルナー相手に今の状態では勝てないと判断したのだ。

 

「…まあいいでしょう」

「ん? もしかして見逃してくれたりする?」

「ええ、今日は引きましょう」

 

 その言葉と同時に他の鉄血人形が銃を下ろす。

 

「…良いの?」

「まあ、このお馬鹿さんの死体は回収させてもらいますがね」

「ふん、アンドロイドのあんたらがお葬式? いよいよ人間らしいね」

「いえ、バックアップは取っているのでこの死体は回収しなくてもいいのですが…、ほんの少しの情報でもグリフィンに渡ったらと思うと腸が煮えくり返りそうなので」

「そうかい」

「それに、AR小隊の実力がどのようなものか、それが分かっただけ充分です」

「へぇ、お眼鏡には適ったかい?」

「フフ。貴方ならお分かりのはずですが?」

 

 意味深な笑みを最後に浮かべ、鉄血の代理人と愉快な仲間たちは去っていく。

 

 それ以降、森の中では一切鉄血の人形と出会うことなく装甲車のもとにたどり着いたルナーたち。ようやく帰れると我先に装甲車に乗り込む七人。

 

「すまん、俺疲れたからマールス、運転変われ」

「え?」

 

 まあ、一人、天国から地獄に叩き落された男がいたが、気にすることではないだろう。

 

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