第七話を投稿いたします。
次々刀剣男士が出撃していったが、今回ばかりはユウマが手を焼く事態が起きた。
基本的に一振りずつ出撃させよと言う命令が時の政府から出ているのだが、源氏兄弟の一振り、膝丸がどうあっても兄の髭切と出撃すると言って聞かないのだ。
「膝丸、何度も言ってるけど一振りずつだよ?」
後から合流できるんだからと言ってユウマは今にも過去に向かおうとする膝丸を留めていった。
「俺は兄者と常に共にある。バラバラで行くなどありえん!」
こうやって押し問答が何度も続きかれこれ20分は経とうとしている。
その髭切はというと、
「僕はどっちでもいいかな。弟の・・・・・・ええっととにかく弟に任せるよ」
と、言ってこちらもいうことを聞いてくれない。
「俺は膝丸だ兄者!」
「いい加減覚えてやりなさいよ、弟の名前を」
全く名前を覚えようとしない髭切に膝丸とユウマ双方からツッコミが入った。
「僕は名前に頓着がないからね」
髭切は涼しい顔でそう言った。
この優男と言ったら1000年は生きているというのに一向に弟の名前を覚えようとしない。
なんて酷い奴なんだろうか。
「わかるだろ、主。俺は兄者だけでは不安なんだ。俺が常に兄者といけば不安はなくなる」
確かに膝丸のことも一理ある。大丈夫かどうか一度政府に確認をとった。
「此度だけなら問題はない」とのことだった。
「政府に確認とったら大丈夫だって。特例だからね、他の子は我慢してるんだから!」
晴れて源氏兄弟は2人で出撃することとなった。
「じゃ。頑張ってくるね」
「留守をよろしく頼む」
2人はそういって、2025年へと向かった。
「ここが2025年かぁ、人がたくさんいるね」
二振りが着いたのは路地裏などではなく、道のど真ん中。と言っても人通りはさほど少ないし、まず普通の見られることがないので2人は全く心配していなかった。
【当たり前だよ、この時代の江戸、つまり東京は日本の中心、いわば昔の京の都だもの】
「俺たちの頃の江戸といえば田畑やら小川が流れているだけの何もないところだったな」と膝丸。
「うんうん、そうだね。何もなかったね」
髭切は頷いて言った。
【それ程、日本が成長した証って事だよ】
源氏の世はすでに去ってしまったが、こうしてみると時代を感じるな、と膝丸は思った。
【さて、重要な任務の前にまずは君達の仮の主を探さして欲しい】
「確か我々の視えることが重要という話ではあったな」
そんな人間が簡単にいるとは思えないがともかくとして探さなければならないだろう。
このだだっ広い町の中で。
「どうするのだ、兄者」
「そうだね、取り敢えず少し散策しよう、ええっと」
「俺は膝丸だ、兄者!」
またしても名前を忘れている髭切に自分の名前を膝丸は言った。
兄者はいつもそうだ。
名前がいくつも変わっているせいなのか自分の名前を一向に覚えようとしない。
努力する姿を見せたことは一度もない。だが、伊達に1000年以上生きているわけではないいつか覚えてくれる、といつも信じている。
「そうだ、とりあえず歩いてみよう、そうすればきっと見つかるよ」
そう言うと、髭切は歩き出した。
「あ、兄者、そんな気楽な考えでは」
そう言って膝丸は兄の後を追った。
それから小一時間。
2人は町の中を歩き続けた。
しかし、行けども行けども自分達に気付く者は現れなかった。
「全く見つからないではありませんか、兄者!」
膝丸は文句を言った。
「うーん、おかしいね、簡単に見つかると思ったんだけども」
髭切は指を顎に当てて考える。
「それで?次はどこへ行かれるんです?すこし休憩しては」
「おや、楽器屋と書いてあるね」
「楽器か。笛や琴が売っているのか?」
もしかしたら何か情報が掴めるかもしれない、そう思い2人は意を決して入っていった。
「いらっしゃいませ」
自動ドアが開き1人の女性店員が声をかけた。
「刀刺してる・・・・・・もしかして刀剣男士の方ですか?」
彼女は言った。
「そ、それは勿論だが。なぜその名前を」
ユウマにはその声に聞き覚えがあった。
【たえちゃん!?なんでこんなとこに】
「あ、ユウマさん!」
声ですぐにユウマだと気づいたたえは
「バイトしてるんです、ここで」
と言った。
「ばいととは、なんのことだ」
聞きなれない言葉に困惑し、膝丸は言った。
「お仕事。ここで働いてるの」
【へぇ、そうなんだ、しかし現代には面白い楽器が多いな】
「そうだね、ぴあの、ぎたあ、べえす、どらむ、うんうん、初めて見るものばかりだ」
髭切はそう言って店内をぐるりと見渡す。
彼等の産まれた時代にはないものばかりがそこらじゅうにおいてある。
「おい、琴や笛はないのか?」
「そうですね、笛や琴というのはもうあまり置いてないですね」
と、たえは言った。
「1000年の間に変わってしまったのだな、楽器も」
膝丸は言った。
「けれど、心は変わらない、そんなところじゃないかなぁ」
「なるほど、それは一理ありますな。兄者」
とここでたえが
「あ、そうだ。長谷部、呼びに行かないと」
と言った。
「長谷部とはへし切長谷部のことかい?」
と膝丸は言った。
「うん、そうだよ、私、仮の主だから」
「それで視えていたわけか・・・・・・すでに仮の主では困りましたな」
「まぁ、いいじゃないか、視える人がいるということは安心するよ」
すると、程なくして長谷部が自らやってきた。
「髭切に膝丸か。よくここに来たな」
「僕らはついさっき来たばかりでね」
「ということは主を探しているのだな。主は慎重に選ぶべきだぞ、でないと大変なことになる」
長谷部が言うとそれは何故だい?と髭切は返す。
「俺は毎朝、うさぎの世話が日課になっている」
「うさぎ?なんだ、食べる為か」
膝丸は言った。
「違う!ぺつとだ!つまり、主が犬や猫などを飼うようなものと同じだ。奴は飼育しているのだ、うさぎを」
「ずいぶん変わっているねぇ、君の主は」
髭切は言った。
「あぁ、おかげで俺は振り回されっぱなしだ!お前たちも気をつけて選ぶのだぞ」
長谷部は言った。
しばらくすると、また自動ドアが開いて客が入ってきた。
1人は緑の髪にロングヘアの女性、もう1人は同じ色の髪だが、短くまとめているこれまた女性だ。
顔立ちがとてもよく似ている、どうやら姉妹らしい。
「いらっしゃいませー、あ、紗夜先輩に日菜先輩」
対応したのはまたしてもたえ。
どうやら知り合いのようだ。
「知り合い、みたいだな」
「あいつはバンドとかいうのをやっていてな、その関係でいろんな連中と知り合いなのだ」
長谷部は言った。
「今日はどうしたんです?」
「ええ、ギターの弦が切れてしまったので交換しようかと思いまして」
「私はおねーちゃんの付き添いだよ!あれ?」
「どうかしたの、日菜」
日菜、と呼ばれた女性はまっすぐ髭切の元へと駆け寄ってきた。そして、
「お兄さん、変わった服着てるね、それに刀。コスプレしてるの?」
と言った。
「こすぷれ?えっと、それはなんだい?」
その光景を見てたえは
「視えるんですか、日菜先輩」
と驚いた様子で言った。
「うん!見えるよ!ほんとにすごいね、これどうやって作ったの」
「へぇ、これが珍しいのかい?だったら触ってもいいよ」
当然である。現代では刀を持っていることの方がかなり珍しい。しかしそんなことを髭切はまだ知らない。
無邪気に喜ぶ彼女をみて髭切は刀を差し出した。
「わーい!」
物珍しがって彼女は刀を触る。
レプリカかと思っていたが、鞘も刀も本物のようにずっしりと重たい。
女子大学生が振り回すのは一苦労だろう。
するとそこへもう1人の女性、紗夜が
「日菜、他のお客さんに失礼でしょ」
と日菜に注意すると、膝丸も
「兄者、勝手に人に刀を握らせては危険です!」
と注意した。
「えーでも!」と日菜が言うと
「いいじゃないか。この子には僕がみえてるんだし。迷惑なことは決してしないと思うよ」
と髭切もやんわりと言った。
「紗夜先輩も見えてるんですね、あの人達」
「え?ええ」
どうしてそんなことを聞くのだろう、と思い紗夜は言った。
「2人とも特別な存在ですよ、私にも視えるんですから」
「あの、一体何のことですか」
【たえちゃん、僕からちゃんと説明させて欲しいな、2人には】
ここでユウマが間に入って言った。
【髭切、膝丸、無線機を出して2人に見せてくれないか?】
「無論だ」
「あぁ。分かったよ」
二振りは目の前にいる2人に無線機を見せた。画面にはユウマの顔が映し出されている。
「あれ?もしかしてルーキーさん?」
顔を見て日菜は言った。
【は?ルーキー?】
「あぁ、入船さんのことです。あの人はいつまでも新人扱いされてるんでルーキーって呼ばれてるんです、知らないということは他人の空似ですか?」
紗夜が言った。
あぁ、それでか。
一体どんなあだ名つけられてんだ、我がご先祖様は!
愚痴をこぼしそうになりつつもユウマは会話を続ける。
【失礼、そのルーキーさんは僕のご先祖だ。僕は入船ユウマ。信じられないかもしれないけど、その、未来から通話してる】
「未来から!?すごいるん♪としちゃう!」
「日菜、そんな荒唐無稽な話があるはずがないでしょう」
【そうだよね、最初は誰だって信じないもの。でも現実なんだな、これが】
信じられないのも無理はないが信じてもらうしかない。
ユウマは何とか2人を納得させる為に嘘偽りなく全てを語ることにした。
「事情はわかりました,ですが、どうして私達なんですか」
「それはだな、運命に選ばれたとしか言えん。主にもわからんのだ」
奥の方から長谷部がやって来て言った。
「はぁ、そうですか・・・・・・」
どうやら納得するしかないらしい。
また何か大変なことに巻き込まれている予感がして紗夜はすこし頭が痛くなった。
「そう言えば、君達は姿が本当によく似ているね、姉妹なのかい」
髭切が日菜に言った。
「そうだよー!ひょっとしてお兄さんも?」
「そうだね。僕の弟はこっちのええっと」
「名前を覚えてくれ兄者!俺は膝丸、兄者とは共に源氏の刀だ」
「膝丸?もしかして罪人の膝まで斬ったっていうあの伝説の」
紗夜は言った。
「そうだ、詳しいな。兄者は髭切、罪人の髭まで斬れたことからそう呼ばれている」
「他にも名前はいくつもあるけど、僕は名前に頓着がなくてね」
「他にどんな名前があるの」
「鬼切かな、鬼を切ったから。他にもあるけど・・・・・・覚えてないや」
「しかし、決して仲が悪いわけではないぞ!」
「そうだよ。僕らは時に離れ離れになったこともあったけどね。えっと、今はどんな名前だっけ?」
「俺は膝丸だ!兄者!ひ!ざ!ま!る!」
「あははっ!髭切君おもしろーい!」
腹を抱えて笑う日菜。それを見て髭切は少し笑みを浮かべ、
「そう言われるのは初めてだねぇ。君、なかなか面白いじゃないか」
と言った。
2人の会話をきいてこれは合わせてはいけないコンビかもしれない、とユウマは思った。
「何も面白くありませんよ、髭切さん。弟さんがかわいそうじゃないですか」
妹のいる紗夜にはこの兄弟刀の関係性がまだ理解できていないらしい。
「いや、それがそうでもないのだ」
膝丸は言った。
どうしてです、と紗夜がいうと
「兄者はいつも名前は忘れるが俺のことまではわすれてはいないからな」
彼は胸を張って言った。
「そうそう、弟のことは絶対に忘れないからね。ええっと」
「はぁ・・・・・・膝丸ですよ」
呆れた様子で紗夜は言った。
「そうそう、そんな名前」
無頓着にも程がある。この二人は本当に兄弟刀なのか・・・・・・紗夜は呆れるしかない。
「ところで貴方達、家はどちらに」
「家?そんなもの、君達の家に決まってるじゃないか」
「主からは主から離れるなと言われている、いつ何時敵がくるか分からんからな」
二振りはさも当然かのように言った。
「待ってください、それは困ります」
紗夜は戸惑った。
見えないとはいえ、見知らぬ男性を部屋に入れるとなると話が別だ。
「大丈夫です、私の家にもいますから安心してください」
たえが言うと
「お前と一緒にするな!こちらの御仁達は二振りも抱えるのだ。訳が違うのだぞ!」
長谷部は大声で言った。
「じゃあ、髭切君、膝丸君これからよろしく!」
「日菜、勝手に決めないでちょうだい。と言っても無駄でしょうね・・・・・・これから宜しくお願いします」
日菜は笑顔で手を振り、紗夜は深々と頭を下げていった。
「じゃあ、これから家に案内してもらえるかな、弟と一緒に」
「いや待った。兄者、その前に2人ともこの紐を巻いてもらおうか」
二振りは契約の組紐を姉妹達に差し出した。
「あの、何ですか、急に」
「いいからいいから」
双子は言われるがまま、手首に紐を巻いた。
巻いた瞬間、光り輝き眩しいと思ったところ紐は消え、2人の手の甲には紋章が浮かび上がっていた。紗夜には美しく咲く薔薇の紋章、日菜には絵の具が散りばめられたパレットの紋章が浮かび上がった。
【あれ?不思議だね、姉妹だから同じ紋章が浮かび上がると思ったんだけど】
「2人とも、思い当たる節はあるか?」
「おそらくバンドが違うからじゃない?」
たえは言った。
「バンド、先ほどへし切長谷部が言っていたものだな。その、違うとはどういうことだ」
【多分、2人の所属先が違うってことが言いたいんじゃないか?】
なるほど、平氏と源氏に分かれているようなものかと膝丸は思った。
ずいぶんと辛いことを強いられているのか?
普段から仲が良さそうに見えたがそれは偽りだったのか?
彼の頭には色々なことが思い浮かぶ。
「紗夜、お前達は対立しているのか」
「い、いえ、別にバンドが違うからと言って対立しているわけでは・・・・・・」
「なに、そうなのか?」と膝丸。
「そうだよ。だってもし喧嘩してたらこんなところ、2人で来るわけないじゃん」
日菜は言った。
「あぁ、確かにそうだねぇ。本当に良かった。姉妹で殺し合わなくて済むんだね」
「急に物騒なことを言わないでください!」
【そうだよ!物騒なこと言わないの!】
「主は僕たちの所有者がどのような人物か、忘れたかい?」
髭切は言った。
確かに二振りを所有していたのは源氏だ。
その歴史というのは血塗られている。骨肉の兄弟、親族での争いが常であった。
【いや、忘れてないけどさ・・・この二人が争うだなんて考えられないよ】
「確かに仲睦まじい姉妹だということはわかるが、何が起こるかわからん。我々がしっかり見張っておくぞ」
「そうだねぇ、骨肉の争いを見るのはたくさんだよ、任せておいてね」
あぁ、不安だ。
この二振りに本当に任せていいのだろうか・・・・・・
ユウマは頭を抱えるのだった。
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