生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第九話

ダンジョン五階層。

 

「ふっ───────!」

 

ウォーシャドウの首を吹き飛ばし、魔石を回収してダンジョンの壁に背を預けて一息をつく。アイズとの鍛錬に、リヴェリアによる魔法の訓練。その最中のダンジョン探索。ソロでの探索もある程度許されたこともあり、ジークは一人でのダンジョン探索を邁進していた。

 

日々のステイタス更新は順調に数値を伸ばしている。所要期間二週間で全ての値がDを越しており、耐久に至ってはアイズとの鍛錬の成果もあってか既にCの値に上り詰めていた。それだけ苛烈に鍛えられているという事実にもなるが、この鍛錬はジークにとっては確かに技量を高めることが可能だった。

 

『…ジークは、攻めるのは苦手なのに、受けるのは上手いよね。』

 

『そうなのか?自分ではよくわからないが………?』

 

鍛錬の最中、何度も気絶したあとの会話にそんなことを言われたのを思い出す。彼女曰く「攻めるときは新米の冒険者らしいのに、受けるときはレベル差があるのに防御できるようになってきてる」とのことらしい。防御の外から損傷(ダメージ)を受けているジークとしては納得しづらい。

 

『………うん、本当に、凄いよ─────。』

 

どこか哀愁のようなものを見せる彼女に、少しだけ疑問に思うジークだったがその日はそれ以上は聞くことができなかった。だがその表情がどうしても頭から離れない。モンスターと戦うなかで、明瞭になっていく思考の片隅でそれだけが頭の中にあった。

 

遠い目を、遥か遠くを懐かしむように、尊ぶように感情を露わにした彼女は失礼かもしれないが、彼の目にはとても美しいものに見えた。神すらも羨むとされるその美貌をジークはほんの少しだけ実感することができた。

 

「(………あれで、「剣姫」と呼ばれるほどの剣の冴えだというのだから、冒険者の間で人気なのも頷ける。あれ程までの剣を身につけるのに、一体どれだけの──────。)」

 

そんなことを考えていると、ダンジョンからモンスターが生まれ始めた。迷宮は無尽蔵にモンスターを生み出す。ダンジョンの壁などを傷つけることでモンスターを生み出すのを抑制することができる。だが、ジークはその一切をせずに、モンスターが生まれるのを待っていた。

 

ダンジョンの壁から生まれてきたのはウォーシャドウ(新米殺し)の大群。

その数は十を少し超える程度だろうか?

 

「…確か、「怪物の宴(モンスターパーティー)」だったか。ちょうどよかった。」

 

剣を抜き、構える。何度も繰り返してきた行為と、少し溜まってきた疲労感が身体に圧し掛かる。冒険者を繰り返していくと、この状態での戦闘も増えていくのだろう。少しでも慣れておかなければとわざと過酷な状況を作っているが、やはり辛い。

 

「っ、あぁぁ!」

 

恩恵を得てより強健になった身体、より鋭敏になった五感。その中でもっともジークに恩恵を齎したのは「目」だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()洞察能力は一度見たことのある動きを掌握し、攻撃を回避し受け流す。それこそがジークの戦法。

 

「ウォーシャドウ」は確かに迷宮外では戦ったことのないモンスターだったが、ダンジョンに潜り、何度も接敵することでその行動を記憶した。「未知」を「既知」に変える冒険者の在り方をジークは既にその若さで体得していた。

 

「これでっ………最後っ!」

 

疲れからくる、手足の重さ。攻撃を受け止める剣の衝撃を体全体で受け流しながら、「魔石」を狙わないようにギリギリを狙って動体を切り裂く。

冒険者の収入としてはモンスターから必ずドロップする「魔石」が主である。そのほかにも「ドロップアイテム」も存在しているが、こちらは入手することは運に左右されるため定期的な収入源にするには少し難しい。

 

「これだけ集めれば、今日は問題ないか………。」

 

バックパックに魔石を詰めて、帰還の準備をし始める。ダンジョンは広大だ。今ジークがいる第五層でも下級冒険者ではルートを記憶しなければ、迷ってしまうほどである。

 

「確か、ここを通れば四層への連絡路が………。」

 

広場(ルーム)でモンスターを狩っていたジークも正規ルートに戻るために足を速める。今日は確か帰ったらリヴェリアによる魔法の訓練があったはずだ。もし数秒でも遅れてしまったら一体どうなるのかわかったものじゃない、と心で呟きながら、警戒しつつ進んでいく。

 

 

そんな時だった。

 

 

「おいっ!さっさと歩け荷物持ち(サポーター)!」

 

前を先行していたであろうパーティーから男の怒鳴り声が聞こえてきた。その声量は少し離れていたジークの耳にもしっかりと届くほどに大きく、自身の怒りを別のだれかに向けているのは誰がどう聞いても明白だった。

 

その喧騒に流石に見て見ぬふりはできないかと感じたジークは、早歩きで様子を見ようと男のパーティーに近づき、その姿を確認する。近距離の剣士、中距離の槍使い、後衛の杖使い(ワンド)弓使い(アーチャー)。そしてジークが背負っているバックパックよりも遥かに大きいものを背負っている小人族(パルゥム)の少年。パーティーは五人のよく見るような編成の組み合わせだ。

 

そしてこの中に一人だけ、明らかに立場が弱いのはパルゥムの少年だろう。と一目見てジークは確信した。あの装備とバックパックからして荷物持ち(サポーター)と怒鳴られていたのは彼に違いない。

 

「(サポーターというのは、確かダンジョンでドロップする魔石やアイテムの回収を行う役割だと聞いているが………なぜあそこまで虐げられているのかよくわからないな。)」

 

何か失敗をしたのならば、そのことに対して叱るのが理解できる。だがあそこまで強く言われるようなことをしてしまったようには到底見えなかった。普段であればそんな蛮行に似た行為を見過ごすことはできないと考えるジーク。最近そんな調子でほかの冒険者と口論になったり勝手に手助けしてしまうことからリヴェリアからは「あまり首を突っ込むな」と叱られてしまった。

 

だが、叱られる程度で止まる彼でもない。彼らのパーティーに向かって歩みだそうとした瞬間。

 

 

「────────────────っ!?」

 

 

動けない。

 

蛇に睨まれた蛙のように、足が石になってしまったように動かなくなった。一歩を踏み出そうとする足が竦む。まるでこれ以上進むのをジークの身体が、意識が拒否している感覚が、ジークの全身を足元から支配していく。

 

「────気持ち悪い。」

 

吐き気がする。前後左右に揺られて、天地が逆転する。上手く立っていられなくなる。何も考えられなくなり、その場に蹲る。何とか吐くのを堪えるものの、今度は目の奥をとてつもない痛みで顔を抑える。

 

彼らのパーティーもそんなジークを「認識出来ていない」ようにそのままダンジョンの連絡路を突き進んでいってしまう。ただ一人「荷物持ち(サポーター)」と呼ばれた彼だけはこちらを見て何か失望を覚えた表情を見せた事だけが、ジークの記憶にこびり付いた。

 

 


 

 

あの人は・・・?とフードを深く被った()()はパーティーの最後尾で自身の全身よりも遥かに大きいバックパックを背負い直しつつ、視線を感じる方向に視線だけを向ける。そこには当然自分よりも高いヒューマンの若い冒険者がこちらを見て、青い顔をしている。

 

青い顔をしたいのはこちらの方だと思わなくもなかったが、彼が蹲って何かを堪えるように口元を抑えるのを見てそんな留飲も下がってしまった。

 

顔は見たことがない。このオラリオにいる冒険者をすべて把握しているわけではないが、有力な名前と顔はなんとか覚えている。そんな自分が知らないというと、そこまで有名ではない「無名の冒険者」か「新人の冒険者」という事になる。

 

装備は・・・武器だけを見れば一級品と言わずとも、上等な武器だと伺える。防具はつけておらず、軽装なのにダンジョンの塵や埃を受けて汚れているものの目に見えた傷がないところをみると本当にここまで一人で来たのか?と疑問に思ってしまうほど。

 

「おいっ!何してんだ!さっさと来いっ!」

 

「す、すみませんっ今行きます!」

 

冒険者に怒鳴られて当たり障りのない程度の返しで後に着いて行く。ほかの冒険者は彼の事を気づいていないらしく、見向きもしていない。

 

‥‥‥‥だとしても。

 

「(………羨ましいですね。)」

 

自分とは違い、ソロでもダンジョンを攻略することができるだけでも彼女にとっては羨ましいことに映る。そもそもとして彼女の種族である「小人族(パルゥム)」はそもそもダンジョン探索に不向きな種族とされており、ダンジョンでモンスターを狩っていたとしてもランクアップするのが難しい。

 

神々の降臨時、パルゥムが信仰していた架空の女神「フィアナ」は降りてくることはなく、一族は衰退していった。

 

彼女はもともと「ファミリア」に所属している両親の間に生まれた。だからではないが生きるために金銭を稼ぐ方法となるとそれは「ダンジョン」に潜る選択肢しかありえなかった。だが、非力であり、まるで「冒険者」としての才能のない彼女には届くことのない餌として吊り下げられただけだった。

 

餌をつかみ取るために、そんな彼女が金を稼ぐためにとれる選択肢は両親たちと同じ、冒険者に嫌われる「荷物持ち(サポーター)」になるしかなかった。

 

「──────ほんと、羨ましい。」

 

彼女は誰にも気づかれることのなく、最後にそう言い残して、自分の嫌いな冒険者に着いて行く。その瞳には既にジークの姿はなく、彼女の悲嘆と後悔しか映していなかった。

 

 

 


 

 

 

そういえば、と冒険者の誰かが言葉を零した。

 

この時期は「怪物祭(モンスター・フィリア)」と呼ばれる祭りが一年に一度開催されている。オラリオにある闘技場を貸し切ってモンスターのテイムを周囲の観客に見せる形で行う「ガネーシャ・ファミリア」が主導の興行の一つ。

 

住民はこの怪物祭(モンスター・フィリア)を観覧することでオラリオの冒険者の力を見聞きし、その栄光を称えている。

 

街が騒がしくなっているのを感じていたジークは、そんな言葉を聞き流しながらも肩を落としながら自身のホームに向かっていた。その隣には同じ派閥の妖精女王(リヴェリア)。あの後すぐに調子を取り戻したジークはすでに時間が不味いということを自覚してしまい、自分が出せる最大速度でダンジョンを駆け上った。

 

そしてダンジョンから出た瞬間にその場に待ち伏せられていたリヴェリアに捕まえられた。曰く「三十分前に既にホームに居ないのなら間に合うわけがないだろう」とのことらしい。確かにホームからこのバベルは少し距離が離れているとはいえ、そこまでするか…?と疑問に思わないでもなかった。

 

リヴェリア自身も気づけていないが、彼女はフィンやロキに話を聞いたときから少しずつジークが持つ「不安定」さに無意識ながらも過保護になってしまっていた。今日の朝にソロでダンジョンに潜るとなった時はジークに万能薬(エリクサー)を持たせようとするほど(さすがにフィンとガレスが止めたことで仕方がないといった具合に高等回復薬(ハイ・ポーション)高等精神回復薬(ハイ・マジック・ポーション)を渡していた。ロキは笑い転げていた)。

最近では朝早くからジークの部屋を訪ねて、身支度を世話する姿は少し前の時代を知っているファミリアの団員は幼い頃のアイズとリヴェリアを幻視するほどだった。

 

「り、リヴェリア………その、別に遅れるつもりはなかったんだ。ただ少しだけダンジョンで異常事態(イレギュラー)に巻き込まれて、それで仕方なく………。」

 

「なら、異常事態(イレギュラー)が起こる前にさっさと帰ってこい。」

 

「………む、無茶苦茶すぎる」

 

あまりの理不尽さに、そう言葉を零してしまう。リヴェリアの視線が突き刺さり、思わず黙らせられる。もうここまで横暴だと一周回って清々しく感じてしまう。周りの冒険者はまさに「触らぬ神に祟りなし」といった具合に完全無視を決め込んでいる。

 

悪戯に声を掛けてしまえば、連れて歩いている彼と同様になることは目に見えている。だが、彼自身は別にリヴェリアのその献身さには少しばかり嬉しく感じている自身もいるため、特に何も言うことは無いと彼女に着いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ、この間勧めた本読んだ―?」

 

「えぇ───いや俺、基本的に小説派なんだけど………。」

 

「いやいや!絶対ハマるから!もうちょぉぉぉぉぉぉ面白いから!」

 

「いや、うざいうざいうざい!?わかったわかったよ!読むから!タイトルは!?」

 

「えー、この前教えたじゃん………。タイトルは──────────。」

 

 

 

 

 

 

 

 




一問一答質問コーナー

Q.ジークの記憶に歪みがあるのか?

A.い、いや?べ、べっつに~…そそそ、そんなこと…ない、です、よ?????

誤字報告をしてくださった「キングサリ」様「人見知り(極)」様、ありがとうございました。

引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。

ま、間違えて日曜に投稿してしまった………ら、来週は月曜日ですからね!?!?!?

話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?

  • 早い方がいい
  • 遅い方がいい
  • てめぇが勝手に決めろ
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