生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第十話

「………そういえば、そろそろ怪物祭(モンスター・フィリア)だけど、ジークも見に行くの?」

 

訓練が終わり、大の字に横たわるジークにアイズはそう問いかける。少しソワソワしたような様子のアイズに少しだけ疑問に思うものの、彼女が提示した問い掛けに頭を悩ませる。特段何をしようとは思っていなかったジークにとって、「怪物祭(モンスター・フィリア)」は何の変哲もない一日に他ならない。

 

でも、アイズが求める答えはきっとそんなことではないのだろう。

 

「そうだな、街に慣れたいから誰かに案内を頼んで、ついでに祭りを見て回ろうと思っている。」

 

「!そ、そうなんだ………な、なら、私と…行かない?」

 

少し予想外の提案に、身体が強張る。アイズは頬を染めて少し恥ずかしそうに身体を捩っている。きっとこれを伝えるにも勇気も準備が必要だったのだろうに。口籠っているものの彼女にしては思い切りの良い様子を見るに、おそらくリヴェリアにも相談したはずだ(彼女の相談にリヴェリアは娘を取られたような複雑な感情に苦しみながらも相談に応じていた。)

 

【剣姫】と呼ばれていても、その中身は十五歳の年相応の少女なのだ。

 

「──────そうだな。なら頼めるか?アイズ。」

 

「っ!う、うん。任せて………美味しいじゃが丸くんのお店あるから………。」

 

「いや、じゃが丸くん以外にも見たいんだが─────行ってしまった。」

 

ジークの返事を聞くや否や、アイズはピューっとホームに戻っていってしまい取り残されてしまう。普段の彼女からは想像することが少し難しいがそれだけ街を見て回るのが楽しみなのだろうとさっきまでのやり取りで何故気づかない?と感じざるを得ないことを思うジーク。

 

 

 

そんなことを考えているとは露知らず、アイズは浮かれていた。最近よく懐いてくれている(彼女目線)後輩でもあるジークが自身の遊びの提案に頷いてくれた。

 

彼女自身も、何故こうも彼に対して執着しているのがわからなかった。確かにジークはとてもいい子で、自分が面倒を見ることになった初めての後輩。初めて見た時からどことなく愛着が湧いてしまい彼の姿を見るたびに目で追うことが多くなった。

 

彼の剣の指導をリヴェリアから面倒見てもいいと伝えられた時は、心の中の幼いアイズが小躍りしたのを覚えている。あの時ほどリヴェリアに感謝したことはないと思えてしまうほど一頻り喜び、その訓練を始めた。

 

最初に驚かされたのはその成長速度。まるで過去の自分(アイズ)を見ているように嬉々としてこちらに挑んでくる。剣を振るうその型はまだ拙さが垣間見えるものの、彼が創意工夫して考えたのだろう「怪物を殺して生き残るための剣」。自身と同じ怪物を殺す剣技は共感を覚えることができた。

 

何処かの神は「共感は恋への一歩」と言っていたらしいが、アイズの今までを見続けていたファミリアにとって彼女のその姿を形容するのならば、それは確かに「恋」なのだろう。

 

「り、リヴェリア………見つけた。」

 

「ん?あぁ、アイズか。………その様子だと祭りに誘う事は出来たようだな。」

 

「うん…私一人でなんとかなったよ?」

 

そう言いながら胸を張るアイズに笑みを浮かべるリヴェリア。

最初はリヴェリアも影から様子を見に行こうと考えていたのだが、当のアイズ自身にそれを止められてしまい、結果的に任せることにした。

 

アイズの中には、この事で彼女の手を煩わせるのが申し訳ないと思う反面、同時に少し恥ずかしいという気持ちが沸き上がって母親(リヴェリア)に自身の恋路を覗かれると考えると、確かにこそばゆいものなのだろう。

だが、そこは天然と名高い(?)アイズ・ヴァレンシュタイン。その達成感を誰かに伝えたいと考えるのは自然なことであり、その対象となるのがこの一件で色々と相談していたリヴェリアしかいなかった。

 

「そうか、よかったな。………お前は些かダンジョンに、強くなることに固執しすぎている。たまにはこうして休息をとることを覚えてくれるのは私としてはとても嬉しい。」

 

「リヴェリア………うん、ありがとう。」

 

心配をしてくれていることはわかっている。リヴェリアはアイズの野望を知っており、その為にはダンジョンで力をつけることがまず第一となる。だがそんなことを続けていればいずれ折れてしまうのは目に見えている。最近ではそんな様子も見られなくなったが、それもいつまで続くのかわからない。

 

「(ジークの存在が、アイズに良い影響を与えている。この状態が続けばいいのだが………それも難しいのだろうが、少しでも長く続けばいいと願ってしまうのは私の我儘か。)」

 

彼女の心配をよそにアイズは、その人形のような顔を綻ばせながらジークとの逢瀬をどう過ごそうかと頭を悩ませており、その様子に「杞憂だったか?」と別の意味で頭を悩ませるリヴェリア。その様子をファミリアの団員が見れば、随分と愉快な光景に見えるに違いないだろう。

 

 

 


 

 

 

そして怪物祭(モンスターフィリア)当日。

 

いつも通り普段着としても使用している《純一のバトルクロス》に着替え、いつもよりも少しだけ身支度に時間をかけて、噴水広場の中心に向かうジーク。その雰囲気に周りは今から逢瀬をするのだろうと直感的に感じ、少し慣れていない様子の彼を囃し立てる。

 

女性と出掛ける経験というものがないジークにとって、その囃し立てる言葉たちは妙にくすぐったく、祝福とげきを飛ばされているようで嬉しいやらこそばゆいやら。

 

噴水広場には既に大勢の人達が集まっており、各々家族や恋人と祭りを楽しみ、商人はこれ幸いといった具合に商品を売り付けている。この怪物祭(モンスターフィリア)はオラリオの興行の中でも観光客に人気の一つ。普段冒険者がどんな風にしてモンスターを相手しているのかを、見せることができる。

 

冒険者の力を誇示したいギルドがガネーシャ・ファミリアと協力して開催させていると聞いたときは、「そこまでするのか」と少しばかり呆然としてしまった。

 

広場は大勢の冒険者に囲まれており、その中にはロキ・ファミリアの見知った顔もいるのを確認できた。一体何がこれだけの人物を集めているのかと人の群れを掻き分けて、その集団の中心にいた彼女を見つけた。

 

普段の見慣れた、あの大胆に背中の空いた「戦闘衣(バトルクロス)」の雰囲気は一切なく、腰に差した彼女の愛剣「デスペレード」も含めて彼女の魅力を最大限引き出すように、彼女のために仕立てられたと思わせる衣装だった。

 

若干の清楚さを醸し出している純白のトップスに、肩に掛けられる形で羽織っているベージュの中衣(ジレ)が、彼女の綺麗な金髪を美麗に見せており、脹脛(ミモレ)までを覆い隠す紺色のスカートの効果なのか、彼女の脚をより美しく強調している。普段身体のラインが出る服装をしている彼女がここまで着込んでいるのを見てしまい、思わずジークは彼女…アイズに見惚れてしまっていた。

 

「あっ、ジーク。」

 

そんな彼に気付いたのか、周りの視線を独り占めにしていたアイズが駆け寄ってくる。その姿に眩暈がするほどの眩しさを感じてしまうが、それを悟られないように表情を装う。

 

彼女に向いていた視線が、一斉にジークに向き直されてその視線の種類を変える。この都市でも有名なアイズの待ち合わせ相手というだけで嫉妬や、怒りの感情を向けられることは勿論。ジーク自身の容姿を見て、少しだけ色めきだつ女性冒険者や一部の女神たち。

 

自分の服装を一度見て、間違いなく準備不足だと感じたジークはまず初めにアイズに頭を下げた。

 

「すまない、アイズ。どうやら俺は今の君の横を歩けるような恰好を準備できてなかったようだ。」

 

「………?そんなこと、ないと思う。ジークはいつも素敵だよ?」

 

気休めに聞こえるその言葉に、少しだけ救われるものの。そもそも「男性が女性を待たしていた」この状況は二人っきりで今から出掛けようとする男女ではマナー知らずなのではと思い立ってしまったジーク。

 

だがそんな彼の心情を察してか、それとも単純に気持ちが落ち着いていないのか、アイズはジークの手を取り「行こっ?」と首を傾げて、歩みを進めていく。困惑しながらも彼女について行くその姿は何処か弟のように見えてしまい、周囲の冒険者はほっこりとした表情を浮かべていた。

 

 

 

 

最初に露店巡り、その後にアイズが話していた「じゃが丸くんの美味しいお店」という所に連れて行ってもらったが、そこは神が従業員として働いていたため少しだけ驚いた。名前はヘスティアと言うらしいが、事情を聞いてみると鍛冶神ヘファイストスのところで居候をしているらしく、「少しは働けっ!」とここの仕事を勧められたらしい。

 

大変なんだなと同情すると、滅茶苦茶に感激されて引き剝がすのに時間がかかった。アイズに助けを求めようにも美味しいじゃが丸を口いっぱいに頬張っていた。そんな可愛らしい彼女の食事を止めるのは忍びないと感じ、神の為すがままにされるジーク。

 

そして数分経ってようやく解放されたジークは恨めしそうにアイズを見るが、不思議そうにこちらを見ている彼女に、文句を言うのも億劫になってしまった。

 

「………アイズ、じゃが丸くんは美味しかったか?」

 

「うん、とっても美味しかった。やっぱりあそこのお店のじゃが丸くんは注文が入ってから揚げるからいつでもホクホクなところがいい所なんだよね。他のお店だと私は「小豆クリーム味」とか「抹茶クリーム味」とか頼むし、じゃが丸くん全体だと変わり種だと「激辛麻婆味」なんかもあるんだけど、やっぱり王道の「塩味」が美味しいあの店は凄いと思うの。」

 

「────────────そ、そうか。それは、よかった……。」

 

無表情で延々とじゃが丸くんの美味しさを語るアイズに若干引き気味になりながら、苦笑を浮かべるジーク。彼女のじゃが丸くんへの執念がここまで饒舌になるとは思わなかった。先ほどの待ち姿に見惚れてしまった過去の自分が殴り飛ばされるのを幻視する。

 

「(そうだった、この子は天然(アイズ)だった………。どうして俺はこんなにも緊張していたのだろうか…?)」

 

何時ものアイズを思い出せ、彼女はアイズ・ヴァレンシュタイン。剣姫の皮を被った天然娘と思い込め。何も考えるな。聞き流せ。ただただ相づちを打つ存在に自身を作り替えろ───

 

「それでね、あそこのじゃが丸くんはちょっと変わってて、さっきも教えた「激辛麻婆味」なんだけど、あそこのお店は分店なんだよね。本店は「泰山」っていう名前で、そこでも店舗限定のじゃが丸くんが置いてあるんだ。流石本店、辛さも段違いで最初に食べたときは気を失うかと思ったぐらい。店主さんが副業で神父もやってってね。その人も元冒険者なんだよ。少し不思議な武器を使う人だからもしかしたらジークの興味を惹くかもしれない………今度紹介しようか?」

 

あっだめだこれは。聞き流そうにも情報量が多すぎる。店主が副業で神父をやっている?この神時代に?神職って冒険者をやってっていいのか?いやそもそも何なんだ「激辛麻婆味」って。そんな凶悪で殺人的なものをじゃが丸くんに入れていいのか?

 

堂々巡りになる思考の中、アイズが語る言葉の中に面白そうなものが含まれていたのに気づいた。「少し不思議な武器」何故かはわからない。だけどその武器に興味が湧いている自分がいることに驚きを覚えた。

そして何処かジークは直感としてその「不思議な武器」というのは何れ彼女(アイズ)の紹介がなくても遭遇することになると感じていた。

 

「………そうだな、そういうことならその神父にも会ってみたいかもしれない。確か「泰山」という名前だったな。店主の名前はわかるか?」

 

「っ!え、えっーとね………確か極東出身の人らしいんだけど────────」

 

その名前を聞いたジークは耳を疑うことになった。その名前の人物に会ったことがあるわけじゃない。見たことはなかったがその「名前」という音で、記号で、記憶の片隅にわずかに存在している「微かな覚え」に引っ掛かった。

 

「コトミネ・綺礼さんだよ。元Lv.6の第一級冒険者「代行者(エクソシスト)」の。」

 

ドクンっ、と心臓が早鐘を打つ。その名を聞いた瞬間に感じた微かな覚えを、ジークは驚きはありつつも絶対に忘れることはないだろうと確信するものがあった。

 

いつかの確信に胸を躍らせつつ、ジークはアイズと共に買っていたじゃが丸くんを一噛みし、嚥下する。確かに感じる塩味と芋の素朴な味わいは、アイズがあそこまでのめり込むのも良くわかる美味しさだったとだけここに伝えておく。




一問一答質問コーナー

Q.ベルのアルゴウェスタみたいに武器にチャージ出来たらめっちゃ強そうだな…

A.「理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)」でやろうとすると、仮に不壊属性(デュランダル)であっても武器の方が先に粉々に分解されちゃうので無理です。ああいうのやりたいなら別の魔法、例えば炎とか雷とかを放つ魔法を発現させるしかないですね。チャージの方は………まぁ、おいおいね。

誤字報告をしてくださった「minotauros」様、ありがとうございました。

引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。


先週は更新できずすんませんでしたぁ!ちょっとリアルの方の仕事が忙しいのでしばらく二週間に一話とかの不定期になっちゃいます……ま、まぁ、もともと亀更新だったので許してくだせぇ…。

話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?

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