生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第十一話

そうして祭りは進み、ジークとアイズは怪物祭(モンスターフィリア)の目玉でもあるコロッセオに向かっていた。アイズがリヴェリアに渡されていたチケットで観覧することができるとの事でモンスターのテイムに対して興味があったジークは、その提案に乗ることになった。

 

すでにコロッセオの中には大勢の観客でひしめき合っており、競技場で繰り広げられている種目に目を輝かせ、熱狂の声を上げていた。

 

「凄い熱気だな…。確かにこれだけ盛り上がっていれば目玉と言われるのもよくわかる。」

 

「………そうだね、ここは毎年凄いんだよ。」

 

熱気に当てられるジークに対してアイズは冷静に目の前に広がっている光景を語る。その言葉には妙に棘があり、普段の彼女からは想像のつかないくらいの「怒り」を感じさせるものだった。不思議に思いながらもジークは目の前の光景に目を奪われてしまう。

 

普段、自分が潜る階層よりさらに下の中層、下層のモンスターを鮮やかに捌きながら、鞭を打ち「調教(テイム)」を施そうとしているのはガネーシャ・ファミリアの第一級や第二級を他のファミリアの冒険者も興行としてモンスターとの闘いを魅せている。その中にはジークがオラリオにたどり着いたときに出会った「ハシャーナ・ドルリア」も見えた。

 

二人に気づいたのか、ハシャーナはジークの方を見て、その隣にいるアイズに驚きながらも上手くやっているのだろうと確認し、優し気な笑みを浮かべて彼に意思を示すようにその腕を掲げた。同時にワイヴァーンを大斧で一刀両断にした。

 

観客による歓声が響き渡り、拍手が鳴る。盛り上がりを見せた観客にさらに応えるようにハシャーナも雄叫びを上げる。目の前で制したワイヴァーンは下層域のモンスター。推定レベルは3以上。そんなモンスターを軽々と倒してしまった彼は何の力も持たない市民に羨望の的として見つめられるのは当然の帰結だった。

 

「…あの人、最近までレベル3だったらしいんだけど、ジークがファミリアにきた時ぐらいにレベル4になったんだって。」

 

「!そうだったのか、知らなかった………。」

 

「………噂では、「いい目をした新人に会って火が付いた」らしい、よ?」

 

その言葉に首を傾げるジークだったが、アイズはこの話を聞いたとき何となく「ジークの事なんだろうな」と確信していた。彼の目、彼の意思には冒険者の心を揺さぶる「ナニカ」を秘めている。それを感じてしまったのなら身体が熱くなり、冒険せざるを得ない。と感じるのだろう。

 

そしてそれを感じたからこそ、ハシャーナは自身の壁を越えて、レベルを昇華させた。

 

「………アイズ、聞きたいんだが、レベルを昇華させるにはどうしたらいいんだ?」

 

「……………。」

 

ジークの言葉に少し言い淀むアイズ。第一級冒険者でもあるアイズは彼が求めるものを答えることができる。だが本当にそれでいいのか?と思う気持ちもある。彼が持っている「意思」は幼い頃のアイズに近い。「生きるため」に出来ることはなんだってする。それが自身の命を危ぶむ「矛盾した行為」だと理解していてもきっと止まることはない。

 

一体何が彼をそこまで追い込んでいるのか、その理由をアイズは今まで聞くことをしなかった。もしも聞いてしまったら彼との関係が変わってしまうのではないか?という不安があった。

 

自分のようになってほしくない。君だけは()()()()()()()()()()()

 

「(───────────っ、いま、わたしは何を考えて?)」

 

そんなことを考えた自身にアイズは酷く嫌悪を覚えた。求めた英雄(父親)と優しかった精霊(母親)に置いてかれた彼女にとって、自身を救ってくれる英雄を探してしまうのはもう辞めていたはずだ。だが強くなっていくジークの姿を見て、無意識下に彼を「英雄」として求めてしまっていた?

 

嫌悪だ、憎悪だ、厭悪だ。

 

今更英雄を求めるなんて、なんて我儘だ。

もう自分(アイズ)は割り切ったはずだ。自分の目の前には「英雄」は現れない。もしもベートがアイズの思考を知ったのなら「お前はいつからそんな雄に寄り掛かる弱ぇ雌に成り下がった?」と饒舌に毒を投げかけるだろう。お前の強さはそんなものじゃない。前だけを見て弱者を見下し、強者となるための強さを磨けと。発破をかけるのだろう。

 

「(─────────私、弱くなってる。)」

 

そんな確信がアイズの脳内によぎる。そうだよ、なんで舞い上がっているの?貴女(アイズ)はまだまだ強くなんてない。悲願(ねがい)のためにここまで至ったのに、こんなところで彼に現を抜かすの?

 

幼いアイズが語り掛ける。その表情は暗く、瞳は何も映していないほど漆黒の闇。業火で自身を焼こうとしてくる。その感覚は何度も味わって何度も身に浸した。そしてその度にモンスターを打ち砕いてきた。アイズの力の根源。

 

それが今は、もどかしい程に疎ましい。

 

「………いこっ。」

 

ジークの手を取って、自身に広がる衝動のまま人通りが少ない方向に歩いていく。少し強引に引っ張っているせいか、掴まれている腕が少し痛むものの、顔色が変わったアイズにどうしてもジークの意識は持ってかれる。

 

薄々感じていた、アイズの中に存在しているモンスターへの過剰なまでの敵対心。時折見せるその感情に多少なりとも畏怖を覚えることはあったものの、それ自体には特に何かを思うことはなかった。ただ、その()()を知りたくなった。

 

ダンジョンに明け暮れ、強くなるためにその位階を上げ続けた彼女の源流を。それを知ることが出来ればジーク自身も強くなることが出来るはずだと考えていたが、知れば知るほど彼女の強さは自分とは少し違う所にあると至ってしまった。

 

彼女の剣は、怪物を殺す剣。それに気づいてないのはアイズだけなのだろう。剣を交えるなかで明らかに人を相手にするものではない動きが幾つも()()()。思うように()()()()()()身体を必死に動かしながら、その剣を身体で受け、剣で受け止め、何度も何度も弾き飛ばされる。

 

その都度、どこか「違う」と感じてしまう。

 

この剣は、きっと自身(ジーク)が求めてる剣じゃない。自身が求める剣はもっと別の、彼女の在り方そのものから根本的に違うものだ。彼は…「ジーク・ニーヴェルン」はどんなに追いかけても「アイズ・ヴァレンシュタイン」に成ることはない。

 

そんなことを考えていると、二人の影が大通りに消えていく。

 

ダイダロス通り。迷宮都市オラリオ広しと言えども、その名をここほど体現している場所はないだろう。度重なる区画整理によって生まれてしまった人口の迷宮であり、迷い込んでしまえば二度と出てこれないとまで言われている広域住宅街。

 

()()、そう本当に偶然人通りが少ない道を歩いて行ったらここにたどり着いてしまったのだ。本能的にここにたどり着いてしまったアイズとジーク。一変した景色に目を回すジークを他所にアイズはその違和感を確かに受け取っていた。

 

「(………殺気?見られている?数は…すごく多い?特に、七人手練れが紛れてる………まさか、第一級冒険者!?)」

 

視線に籠もる敵意を感じ取り、アイズはゆっくりと腰の剣に手を伸ばす。その様子にジークも遅ればせながら現状の違和感を感じ取った。武装(カリゴランテ)を携えてない今のジークでは警戒しているアイズの足手纏いになる。いや、仮に武器があったとしても、上級冒険者と今のジークには天と地ほどの差がある。

 

「───────っ、誰か来る。」

 

二つの足音が、ジークとアイズの目の前に向かって迫ってくる。

 

 

一人はあまりにも扇情的な衣装を身に纏う銀髪の女神。彼女の一挙手一投足に「美」という概念が籠もっており、その神威は抑えられた状態でも吞まれそうになる。まさに「美の化身」

 

 

そして、もう一人は背に二本の大剣を下げた巨躯の大男。厚い胸板は岩壁のように広がっており、その存在感はそこに立っているだけで此方に圧を掛けてくる。圧倒的強者の、いや王者の風格を身に纏っている猪人(ボアズ)の偉丈夫であり、この迷宮の頂点。

 

 

「………女神フレイヤと、「猛者」オッタル。」

 

「ごきげんよう、剣姫。随分と物騒な歓迎の仕方ね。」

 

目の前の女神は、嫋やかな笑みを浮かべただ一点、ジークを見据えている。狙いは彼か。とアイズは一歩ジークの前に出て守るような形を取る。その姿はフレイヤには「姫を守る騎士」のように、「好きな玩具を取られまいと駄々を捏ねる子ども」のようにも見え、少々滑稽に映って見えた。

 

だが、彼女はフレイヤ。アイズの所属するロキ・ファミリアと双璧を成す二大派閥の一角であり、その主神。その程度で怯むほどの神物ではない。

 

「ごめんなさいね、今日は貴女に用はないの。用があるのはそこの彼なの。」

 

指を鳴らし、合図を出す。その瞬間に周囲に感じていた視線が一斉に動き出し、アイズを囲む。銀の矛先で牽制する猫人(キャットピープル)、黄金の鎧を携え、各々の剣や槌を向ける小人族(パルゥム)、白黒の騎士(エルフ)は魔杖と呪剣を構えている。

 

フレイヤ・ファミリアの「強靭な勇士(エインヘリヤル)」それも全員が第一級冒険者Lv.5以上であり中にはLv.6も存在している間違いなくオラリオの大戦力。()()()()()()()()()()がその矛をアイズに向けている。

 

「─────────っ、邪魔しないでっ!」

 

「てめぇこそ黙ってろ、人形姫。あの方の主命を遮るな、殺すぞ?」

 

勇士の一人でありフレイヤ・ファミリア副団長でもある「女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)」アレン・フローメルはその銀の矛先を突き付けながらアイズを制する。先ほどまでの殺気とは違い、その視線には敵意しかない。つまりその殺気を向けられていたのは彼女ではなく………。

 

「黙れ愚猫。話がややこしくなる………剣姫、少しここで大人しくしていろ。あの少年を試すことはあっても、殺すことはない。」

 

白妖の魔杖(ヒルドスレイブ)」ヘディン・セルランドも口を開き、静止を促す。このほかにも周囲にはLv.5である「炎金の四戦士(ブリンガル)」ガリバー兄弟にLv.6「黒妖の魔剣(ダインスレイブ)」ヘグニ・ラグナール。

 

これら全てが警戒している以上、Lv.5でしかないアイズでは突破することはまず不可能だ。これから起こる「試練」を見ている事しかできない。

 

抵抗の意思が無くなった(抵抗できなくなった)のを確認して、フレイヤはようやくジークに視線を向けた。アイズは手を出せないのなら、この全く読めない現状をLv.1のジーク一人で乗り越えなければならなくなった。

 

「(………何を企んでる?アイズからは聞いている猛者のレベルは7。Lv.1の俺じゃ勝てるわけがない。なら別の目的があるのか?)」

 

これだけの戦力を投下して、自身に一体何をさせたいのか。神という超常存在(デウスデア)に初めて畏怖を感じ始める。やはり根本的に下界の住民とは違った存在なのだと、あらためて実感してしまう。自身の理解の及ばない神の視座を持つ存在。

 

そんな存在がこんなにも恐ろしい。

 

「………ほんとに、綺麗な魂。」

 

「っ………魂?いったい何の話だ?」

 

その瞳に写る色にうっとりと恍惚の笑みを浮かべるフレイヤ。綺麗な色だ、まじかで見たことでその明暗も良くわかる。一見してみれば複雑怪奇。子どもたちが見てしまえばその輝きで目が焼かれるであろう輝きを放つ彼の魂は、黒にも白にも赤にも蒼にも見える靄に渦を巻かれており、その中心に確かに輝いているソレは、下界でもこれと近い色はきっと世界を探しても存在しないと断言できるほどに歪に歪み切っており、美しい。

 

「(─────覗かれている。)」

 

かくいうジークも目の前の女神が見ているのが自分であって自分ではないことを自覚していた。「ジーク・ニーヴェルン」という人物の全てを、その魂の本質を。ダンジョンに行くとき、街を歩いているとき、何度も何度も感じていた視線の正体はきっとこの神だったのだろう。

 

「ふふっ、ごめんなさいね。今日貴方のところに来たのは手を出したくなっちゃったのよ。あっ、勿論ロキには言わないでね?言うと、面倒くさいことになっちゃうから。」

 

「貴女の派閥とこちらの派閥は敵対関係と聞いているっ、ここまでの事をされてしまったら主神に報告しない方が無理なことではないか?」

 

確かに、それもそうね。と動じることなく言い切ったジークに少しばかり目を見張るフレイヤ。彼女自身「美の女神」として存在するだけで下界の子ども達を魅了する。だというのに目の前の冒険者(ジーク)はそうはならない。それだけでも彼女の心は踊るというものだ。

 

少し神威を籠めてみようか、と考える頭を振りかぶる。今日彼の目の前に現れた目的を忘れてはならない。横に控えさせている従者(オッタル)眷属たち(アレン達)まで使っているのに無駄足となっては苦労は水の泡だ。

 

「ねぇジーク、貴方の名前、"ニーヴェルン"というのよね?オッタルが貴方の家の事を知ってたみたいでね。少し調べさせてみたのよ。そしたら面白いものを見つけてね?貴方にプレゼントしたいと思ったの。」

 

「………生憎と、家の事は俺も知らない。元々俺は捨て子だ。」

 

「あらそうなの?でも、使()()()のがこのオラリオで貴方しかいないものだからぜひ受け取って頂戴?────────オッタル。」

 

女神の出した合図とともに微動だにしていなかった猪人の武人がジークに向かって歩き出し、最初から片手に持っていたものをジークに差し出した。その様子に怪しいものを最初は受け取る気はないと突っぱねようとしたが、差し出された()()を見て固まってしまった。

 

視たことはなかった。あまりにも無骨。簡素な装飾で当然自身がいつも使っている「カリゴランテ」と比べられないほど。そこらで売っているようなその(つるぎ)がジークの目にはとても特別なものに映ってしまう。

 

恐る恐る手に取り、その柄に手を触れる。

 

『──────────目覚めよ。』

 

その瞬間、自身の中で何かが囁いた。身体が脈動し、鼓動が早まる。血が、記憶が、この剣の事を知っている。誰かに名を告げられなくてもこの剣の記憶が教えてくれる。鞘から少し引き抜けばその白銀の刃が露わになる。

 

()()を使って、貴方の力を魅せて頂戴?」

 

周りから顔の見えない黒い装束で、様々な武器をこちらに向けてくる冒険者が出てくる。アイズ自身そこまで他派閥のメンバーを知っているわけではないが、全員が「フレイヤ・ファミリア」なのはわかる。だがそれを加味しても数が多い。身のこなしから中にはLv.2も混じっているのを見るに、ジークのレベルに合わせた人選なのだろうが………。

 

数は力だ。それだけでより強い敵に立ち向かうことが出来るほどに。

 

そんな数の暴力が、ただ独りの新人冒険者に向かって刃を向けて、槌を振りかぶり、槍を突き出す。ジークは鞘に一度収めた(つるぎ)を片手に向かってくる得物を見定める。

 

「(視界がはっきりとしている。身体も軽い。(つるぎ)を手に取って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。)」

 

それは本来ありえない現象。冒険者が階位を上げて初めて陥ってしまうもの。肉体の出力に、精神が「心」が追いついていなかった。神の恩恵は刻まれた本人の能力を最適化する。刻まれた時点で幼い子供でもゴブリン程度だったら殺せてしまうほどにその力は強大。

 

だが、余りある力というものは制御が難しいものだ。

 

上級冒険者の中には激上したステイタスに振り回されるものも多い。ジークは今までオラリオ外で経験し獲得した「技」でモンスターを狩っていた。ステイタスに頼らず、ただの技術のみで。

 

だが、今その縛りもなくなった。

ロキに聞いていた「スキル」もこの状況では解禁しても問題ないだろう。

 

「──────────【生還願望(イノセント・サバイブ)】起動開始。」




一問一答質問コーナー

Q.アイズたんのヒロイン力の高さよ………。

A.こいつめっちゃ可愛いんすよ………。闇のあるキャラというか、作者もダンまちの中では一二を争う位好きですね。もう一人は春姫さんですね。←こいつ純粋に金髪が好きなだけじゃないか………?


誤字報告をしてくださった「もう二度と動かない点P」様、「祐☆」様、「murakumooooooo」様、「minotauros」様、「キングサリ」様、「samu」様、「タッツン」様。ありがとうございました。

引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。


今回ちょっと長くなってしまい申し訳ない…………。

話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?

  • 早い方がいい
  • 遅い方がいい
  • てめぇが勝手に決めろ
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