生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第十三話

あれから、数日たった。

 

結局あの時あったことをジークはロキに報告した。「あんの色ボケぇ…!ウチのジークたんに何してくれとんじゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」と怒りを露わにしていたが、ジーク自身が今回の事を気にしていないのと、「フィン達には伝えないでほしい」という我儘を聞いたことで溜飲を下げた。

 

ジークにとっての初めての怪物祭(モンスターフィリア)はこうして終わりを告げた。別段なにを見たかったというものも無かったが、この先に至るために得るものはあったと実感できる日でもあった。今の自分では何もかもが足りていない。あの夜に見た「技」を身に着けるためにひたすらに研鑽を始めた。

 

まず取り掛かったのは、今まで磨いてきた自分の「技」の徹底した鍛え直し。身体の動かし方から、間合いの同格に対して勝てる技()()では自身よりも強い相手、あの「猛者」どころかフィン達ロキ・ファミリアの先人たちにも敵わない。

 

それでは駄目だ。まずは紛い物でもいい、あの()()()()()()でも良いから身につけろ。

 

それからはモンスターと戦うときにも、アイズとの訓練でも攻めの姿勢で挑むことにした。得意でもある防御的の技よりも、攻撃的な技を身につけなければならなかった。試行錯誤をしながらだったこともあって傷を負うことが増えて、今まで使ってこなかったポーションが減り始めた。

 

到達階層を下げて、徐々に強いモンスターと交戦していく。今のジークであれば上層域の最終階層までであればソロで乗り切ることが出来る。ならばこそ()()()()()()()()()の慣らしと並行にを行うにはちょうどいい。

 

ある時は、「キラーアント」を敢えて瀕死に陥れ「怪物の宴(モンスターパーティー)」を意図的に起こしてその数の暴力を味わってみたり、十一層に降りたことで銀色の毛をしたゴリラの様な大型モンスターでもある「シルバーバック」や背中を覆っている頑丈な鱗と身を丸めて回転しながらの突進力が強力な「ハードアーマード」など、モンスターを複数相手にしてみることもあった。

 

だが、どんなに挑んでみても駄目だった。ダンジョン上層で「やってはいけない危険な行為」と言われたそのほとんどを試してみたが、ステイタスは上がる一方「偉業」として認められるものではなく、ランクアップに至ることはなかった。

 

そして、こんな危険なことを何度も続けていた彼を咎めたのは、必然的にリヴェリアとなった。

 

 

「こんのっ大馬鹿者めっ!一体どれだけの無茶をするっ!?死にたいのかっ」

 

「……………」

 

執務室に怒声が響く。怒りと共に声に荒げるリヴェリアと、黙り込むジーク。これで一週間連続の迷宮探索。その全てで死にかけたジークは、毎度毎度血まみれの状態でダンジョンからホームに帰ってきていた。その様子に都市の人々は「またロキの所の蜥蜴がモンスターを食い荒らした」と陰から話していた。

 

「今のお前が、都市の皆から何と言われているか知っているか?「血塗れ蜥蜴」だ!お前はただより長く生きるために強くなろうとしているのだろう!?強くなるために死に近づいてどうするっ!手段と目的が違うだろう!?」

 

「………わかっている。これからは気を付ける。」

 

「っ、なにも理解していないだろうっ!そうやって何度死にかけるつもりだっ!」

 

リヴェリアは先日起きたことを知らない。だが怪物祭(モンスターフィリア)を経てジークの中で何かが変化したのは感じていた。フィン達もそのことに関してロキに問い詰めたものの、「ジークたんとの約束やからなぁ」と口を閉じるばかり。

 

その事に事情があるのだと、フィンとガレスは飲み込んだもののリヴェリアだけはそれを認めているわけではなかった。いや()()()()()()()()()()()()()。それでは幼い頃のアイズの二の舞になってしまう。彼女の場合はその力があったが、ジークもそうだとは限らない。

 

「(………いや素質だけでいえば、スキルの効果もあるジークの方が有しているといえるかもしれない。それこそ、あの神時代の覇者たち(ゼウスとヘラ)に並ぶほどに。)」

 

だが、それが彼を死地に送り込むことに賛同する理由にはならない。彼は決して「英雄」になりたいわけではないのだ。ただ長くその生を送っていたいと語っていた言葉に嘘はないだろう。それが彼の考えを読むことが出来ない理由にもなってしまっているわけなのだが。

 

そもそも、より長く生きたいというのなら「冒険者」などという職に就くこと自体がおかしいのだ。ダンジョンでの探索を生業とする冒険者は常に死と隣り合わせだ。確かにある程度の強さを求めるのであればステイタスを刻み、鍛錬を積む必要があるが、それは極論()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それも都市の最大派閥「ロキ・ファミリア」ならなおの事必要のない。ステイタスを刻んだ冒険者を相手していれば団員を相手していれば自然とステイタスが上がるのだから。それだというのにジークはダンジョンを選んだ。本人は「強くなるにはダンジョンが一番手っ取り早い」というが、その言葉にはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように感じて仕方がない。

 

「ジーク………すべて話せとは言わない。だが私たちは家族(ファミリア)だ。頼ることも出来ないほど私たちは頼りないか?」

 

「…そういうわけじゃない。こうして俺が今まで生きてダンジョンから帰還できたのは貴女たちの指導のおかげだ。」

 

「そんなことを言っている訳ではっ「じゃあ、失礼する。」──────────っておい!まだ話は終わっていないっ!?どこへ行く!」

 

ただ一言「寝る」と言って部屋に戻っていくジークを制止しようとするリヴェリアだったがそれを意に介さずに執務室から出ていくジーク。そのことにまず感じたのは怒りではなく疑問だった。

 

彼女から見たジークは、アイズと同様多少天然さがありつつ、大人しい気性の持ち主で年齢的には達観している情動が希薄な人物だと、決して自身の感情を表に出す性格ではないとリヴェリアは感じていた。多くの団員もそのようにジークのことをその様に見ているものが多いはずだ。

 

だがこの数日間、ジークはそんな面影が見えないほどに修行の鬼になっていた。

 

元々線の細い彼が修練する姿は、痛々しく感じていた。アイズと剣を交えている時万が一のことも考え待機状態の回復魔法を何度使用したかわからない。それなのにジークは止まることなく剣を構えて挑んでいき、魔法の鍛錬も「魔力暴発(イグニス・ファトゥス)」すらも恐れないギリギリの魔力操作で行い、幾度も幾度も暴発させては治療を施されていた。

 

怪我の治療には「ディアンケヒト・ファミリア」にもお世話になってしまい、【戦場の聖女(デア・セイント)】という二つ名を持つ都市最高の治療師(ヒーラー)アミッド・テアサナーレにも「いい加減にしてください」とジーク共々数えるのも馬鹿らしくなるほど小言を言われてしまった。

 

「いっそロキに問いただした方が………いやあの神は普段はああだがこういう時は自身の神意を曲げることはしないか………。」

 

ロキの眷属となってそれなりに長い付き合いになるリヴェリアだが、こういう時のロキほど油断できないものはない。普段はおちゃらけた態度で子どもたちと接している彼女だが、元々は頭のキレる神でもある。天界ではトリックスターとして名高いあの神を下界の住民がどうにかできる訳がないのはリヴェリアも理解している。

 

「………はぁ、儘ならないものだな。」

 

溜息と共に呟いたリヴェリアの言葉は、誰に聞かれることもなく消えていった。

 

 


 

 

その夜、ジークは猛者から渡された(つるぎ)に一刻も早く慣れるために中庭の隅で素振りをしていた。最近になってリヴェリアの小言が増えて来たことに少しだけ憤りを感じていたジークの最近の楽しみと言えば、この(つるぎ)を用いた素振りになっていた。

 

ジーク自身でも随分と洒落っ気のない趣味を持ってしまったな。と後悔しながらもこの時間だけは

 

今まで【カリゴランテ】という細身の剣で慣れていた為か、最初のころは上手く振るうことすら出来なかった。無骨な意匠でどこにでもあるような頑丈だけが取り柄の剣。意外といえばいいのかこの剣の正体は思ったよりも身近な人物が知っていた。

 

 

「おぉ、随分と珍しいもんを持っとるなぁジーク。」

 

 

一昨日のこと、素振りをしているジークのところにひょっこりと現れたガレスがそんなことを口走った。手元には酒樽が収められており身体から立ち込める酒気で他の団員と飲み比べでもしていたのを察したが、ジーク自身はあまり酒を好んで飲まないため参加したことはなかった。

 

ファミリアの実務関係の仕事が多い団長(フィン)副団長(リヴェリア)とは違って、彼とは時折他の団員と混ざって稽古をつけてもらう事が多くなっていたジーク。その影響かドワーフの豪快さというものに対して少し怪訝そうな顔をするレフィーヤを見ることが増えてしまった。

 

「?ガレスは、この(つるぎ)のことを知ってたのか?」

 

「はっはっはっ!知ってるも何も、その剣の原点の鍛造にはドワーフが関わっておる。知らん方がおかしい。」

 

聞けばこの(つるぎ)の原点は遥か古代。ドワーフたちが、魔法を扱う種族(主にエルフ)に対抗するために人間の鍛冶師と共に鍛え上げられた武具の一つであり、製作には魔力や魔法に反応する特殊な金属「モリア銀」を用いることで、魔法を切り裂くことすら可能となると言い伝えられているらしく、それらの武具には共通して使われた「モリア銀」の名前を付けていたらしい。

 

そしてそれは同時に、あの時ジークの頭の中で響いたこの(つるぎ)の銘と全く同じだった。

 

 

 

「………『モリアの剣銀』」

 

 

 

「なんじゃ、やっぱり知っとるではないか……。にしてもそんな骨董品、一体何処で手に入れたんじゃ?今ではゾーリンゲンで模造品が出回っとるぐらいしか話を聞かん代物だぞ?」

 

答えに困ったものの、知り合った冒険者に近付きの印として受け取ったとガレスに伝える。そうするとガレスは「あんまり遅くまでやるなよ」と小言を言ってその場にジークを残して自室へと向かっていった。

 

両手で握っているこの剣が、先ほどガレスに聞いたものだという事はジークは()()()()()()()。自身の頭に響いた銘が一体何なのかという疑問に駆られて調べられることは調べたつもりだった。得られた情報はガレスが話していた程度のものしか無かったが、最も知りたい情報もその中にはなかった。

 

何故、自分はこの(つるぎ)に対して、特別な意識を持っているのか。

 

何故、今まで聞いたこともなかった武具の名前が頭の中に響いたのか。

 

そもそも、何故猛者はこの(つるぎ)を渡したのか。

 

疑問は尽きることなく溢れ出てくる。ジークがこの(つるぎ)で素振りを始めたのも、常に身近に触れ合っていれば、何か理解できることがあるのではないかという淡い願望も込められていたのかもしれない。

 

空に浮かんだ月は答えを教えてくれない。ジークの胸の内に知らぬ間に空いてしまった空虚な穴の正体。前々から感じていた焦りと恐怖に駆られながら、自身の中で一つの決心がついた。先に進むために、自身を取り囲むあらゆる違和感に近付くための第一歩を踏み出す。

 

 

その夜は、ガレスに言われた通りある程度の回数を熟してから自身に割り当てられている部屋に戻った。この時ほど、同室の者が誰もいないことにジークは深い安堵を覚えた。

 

 

 


 

 

 

そして次の日

 

 

「あっ、アイズさん!ジークを見ませんでしたか?」

 

「ジーク?………えっと、実は私も探してて………。」

 

ホーム内で彼の姿を探すアイズに、珍しいものを見たと感じたレフィーヤは言葉を投げかけた。最近は魔法の訓練で親交を深めていたレフィーヤも昨夜の一件で何か不安を感じてしまったリヴェリアからの指令でジークの事を探していた。リヴェリアの何か焦ったような顔を見てしまったためかすぐに執務室を飛び出して、捜索に当たる。

 

だが、見つからない。ここまで探しているのにホームでジークの姿を見たといった団員が一人も居ないのが違和感でしょうがない。昨夜ホールで食事を摂っていたときにみた顔は普段と変わらないように見えていたレフィーヤも、急な失踪にだんだんと危機感を覚えていた。

 

そしてアイズも言い知れない不安に襲われ、ジークの事を探していた。既に部屋を見に行ってみたが身支度を整えて何処かに出掛けているようでおそらくダンジョンに向かったのだろうと思い当たったところでレフィーヤに遭遇してしまった。

 

ジークが単独で潜れるのは中層域の入り口まで。上級冒険者であるアイズとレフィーヤの脚なら容易に見つけ出すことは可能の筈だ。

 

と、そんなことを考えていた時だった。

 

「───────これはどういうことだっ、フィンっロキっ!」

 

ホームに響く怒声。その声の主はレフィーヤにジーク捜索を命じていたリヴェリアのものだという事はすぐにわかった。だが怒りの中にも動揺が入り混じったその声が気になってしまい声が聞こえた方に足を向ける。

 

声が聞こえた先は扉が開けっ放しになっている団長執務室。おそらく声が漏れたのは扉が開いていた為だろう。ここは主にフィンが日常的にファミリアの雑務を執り行うために使用している部屋だが、その部屋の空気は今やリヴェリアの魔法が放たれた後のように凍えていた。

 

極東風に言えばまさに「鬼の形相」といったような怒気を纏ったその雰囲気にアイズの中の幼心が過去にやらかしてしまった時の感覚を思い出してしまい全身が震え、そんな彼女の様子に驚きつつもレフィーヤはリヴェリアに事情を聴こうと一歩部屋に近づこうとした。

 

バンっ!!!と音を立てて机に何かを叩きつけたリヴェリアに若干恐怖しつつも、これは自分が入っても穂先がこちらに向くと判断して部屋には入らず、話し声に耳を傾ける。

 

───────その時聞いた言葉にレフィーヤも震えていたアイズですら、耳を疑った。

 

 

「このジークのステイタスは一体なんだっ!?アビリティオールS、力と耐久、魔力に関してはSS!?こんな数値あり得るものではないだろう!?」

 

冒険者のステイタスはその上限が決まっており、最低の「I」から最高の「S」の十段階。数値でいえば「999」が上限なのだ。そもそも一つの値で「A」や「S」の値を獲得できる時点で相当上澄みと考えられている。

 

それだというに全てのステイタスがS?もし言っているのがリヴェリアではなく自分たちの後輩であるジークの事でなければ一蹴している発言だ。もちろんそこまでステイタスを上げたのは素晴らしいことだ。

 

だが、どうやってそこまでステイタスを上げたかは問題になる。あの夜にあったフレイヤ・ファミリアの一件はジークの嘆願によって神ロキで口止めされている。しかしこの状況ではもはや黙っていられるものではない。ファミリアを預かる者として、ジークの教育を担う者として知らないわけにはいかない。

 

「───ロキ。どうせジークに口止めを頼まれているのだろうけど、こうなっては話してもらうよ。この異常ともいえる伸び率はどういうことだい?」

 

「ぐぅ、あぁぁぁ!こりゃジークたんに怒られるなぁウチ。でもまぁしゃーないか。ほれ、アイズたんもレフィーヤも入っといれ、話したるわ─────まぁアイズたんは話さんでも知っとるか。」

 

そうしてロキがジークの事を話し始めようとした、その時だった。

 

 

「だっ団長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

執務室に入ってきたラウルに遮られる。何事かと構えたところでその口が開かれた。

 

「じ、ジークがファミリアの武器庫の武器を幾つか持ってダンジョンに入っていったらしいっす!」




一問一答質問コーナー 

Q.渡された剣が厄ネタの気配しかない……もしかして精霊由来?

A.あの剣は精霊由来ではないですね。この作品のジークに関係することなので深く語れないですが一応設定だけ。

【モリアの剣銀】
第二等級特殊武装(スペリオルズ) ──属性
フレイヤ・ファミリア襲撃時にオッタルに投げ渡された剣。耐久性に優れており、ステイタスを得たドワーフの馬鹿力でも曲がらないほど。付与された属性は────────

この元ネタの作品も、話の中で重要な要素になってきますのでこの辺で………。


引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。


うーん、この駄文…………。接続の話の書き方学びてぇ…
次は個人的に力入れたいので更新長くなるかもです。

話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?

  • 早い方がいい
  • 遅い方がいい
  • てめぇが勝手に決めろ
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