生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

15 / 24
マジでお待たせしました………


第十四話

 

 

「っアイズ!レフィーヤ!すぐにダンジョンに行く準備を整えろ!今のジークは何をやらかすかのかわからん!」

 

 

「「は、はい!」」

 

指示を飛ばすリヴェリアの声でアイズとレフィーヤは自身の武装を取りに駆け出す。他の幹部に頼るのでも良いが今は迅速さが求められる以上、近くにいた彼女たちがジークとの関係を考えても最適だ。

 

「………ロキ、一度この件は棚上げだ。ジークと共に戻ってきたら話すとしよう。」

 

「えぇで。そん時はウチも、ジークたんにも腹括らせる………そろそろウチもあの子に聞かんといかん話もあるしな。」

 

リヴェリア自身も部屋を出ていき、ダンジョンに向かうための準備を始めていく背を見ながら残された(ロキ)団長(フィン)は神妙な面持ちを崩さずに話を区切る。ジークが向かった先は上層。上級冒険者が一人でもいれば余裕で踏破することが出来る場所だ。如何な異常事態(イレギュラー)が起きようとも問題はないと断言できる。

 

─────────────だが

 

「────────()()()どうや?指は。」

 

「………疼いてるね。間違いなく()()()()()()。」

 

疼きを抑えるように片方の手で押さえるフィンの姿は、一部の神々に()()()仕草ではあろうがそんなことを喜んでる場合でも言っている場合でもない。彼の親指が疼くとき、それは何らかの危険が迫っているという事実でもある。この「直感」は幾度となくともファミリアの危機を救ってきた。

 

ファミリアの団員も信頼を置いているフィンの勘に「ジークの危険」を感じさせている。

 

「(リヴェリアとアイズ、レフィーヤがいればまず問題がないと思っていたが………)」

 

事態は急を要する可能性がある。彼女たち以外である程度自由に、尚且つファミリアの団員の中で足の速い者が好ましい。その条件を満たす冒険者は一人しかいない。唯一この部屋で流れを読めていない青年…ラウルに視線を向ける。

 

「ラウル、ベートを呼んできてくれ。」

 

「べ、ベートさんをっすかっ!?」

 

Lv.5であり、ファミリアの中でも随一の脚力を持つベートであればリヴェリア達に追いつくことも出来よう。それに彼は幹部の中でも唯一今までジークと接したことがない。というよりもベート自身がジークに近付かないように距離を取っていたのは分かっていた。

 

()()()()()がアイズに近寄る雑魚を気に入らないと思いつつも、何も行動に起こしていないのは彼の性格を知っているフィンとしては違和感を感じる。彼とジークがあった時に生じる「相乗効果(ばくはつ)」を考えればこの辺りがちょうどいいと判断できる。

 

そんなことを考えていると、ふとフィンは自身の思考に疑問を覚えた。

 

「(………待て。親指が疼いているこの状況で、最悪ジークが死ぬ可能性もあるはずなのに()()()()()()()()()()確信しているんだ?リヴェリア達を向かわせたからか?いやだったら足の速いベートをここでジークと会わせる必要もなかったはずだ。)」

 

自身の考えに今更ながらに違和感を覚える。確かにジークはフィン自らがスカウトし、その才能がファミリアの繁栄と自身の野望に繋げられる。だからジークに関しては他の団員とは少しばかり特別視をしていた。その今までの労力が消えてしまうことが怖いのか?

 

だが、リヴェリア達を向かわせるその前から何故か「ジークは無事に生還する」と確信している自分も存在している。明瞭な思考が徐々に鈍っていく感覚にフィンは頭を悩ませてしまう。

 

「………この思考の乱れはなんだ?いったい僕に何が起こっている?」

 

 

 


 

 

 

ダンジョン十一階層

 

腰に【カリゴランテ】を納め、背負ったバックパックを下したジークは辺りを見渡した。短い草の生えた高原に濃霧が立ち込めており、数m先ですら視界が塞がってしまうのではというほどの濃い霧。枯れ木に見える「天然の武器庫(ランド・フォーム)」はこちらに徐々に集まってきている気配も相まってより脅威を感じる。

 

緑色の肌を持った大きく腹の出た豚頭人身の怪物。このダンジョンで下級冒険者が遭遇する初めての大型モンスター《オーク》。「自然武器(ネイチャーウェポン)」を使い、怪力を以て冒険者を叩きのめす。冒険者なり立てではまず歯が立たない。

 

だが────────

 

「違う、これじゃない。」

 

確かにオークは強敵だ。大型特有の巨体と怪力は今のジークでも恐るべきもので、Lv.1の耐久ではどれだけ上げても受けてしまえば大きなダメージを負ってしまう。だが、そんなものは正面から受けなければどうとでもなる。

 

ジークのステイタスの中で、最も優れているのは【耐久】のアビリティ。次点で【魔力】【敏捷】と並んでいく。【カリゴランテ】を抜かずにオークの足元を一気に駆け抜け、背に飛び乗りそのまま手の平をつける。

 

「………【理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)】」

 

そうしてそのまま魔法を放ってしまえば、終わり。オークの身体が魔法の影響で綻び、崩壊していく。【理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)】はモンスター相手の戦闘であれば隔絶した威力を誇っていた。魔石を狙って魔法を使えば、モンスターの体は塵となって消える。

 

魔石を砕いてしまう以上、ドロップアイテムを除けば冒険者としての収入は皆無になってしまうが「生存する」という一点において、ここまで強力な魔法は現在下界には存在していない。この魔法があったからこそ、怪物の宴(モンスターパーティ)に遭遇した際も乗り切ることが出来た。

 

振り返り、向かってきているオーク達を見据える。まるでより強大な何かを見たかのように怯えているオーク達は後退し始める。少ないながらも経験値(エクセリア)を稼ぐ。それが冒険者なのだろう。【カリゴランテ】の柄を握り、そのまま抜き放ち首を落とそうと決めた瞬間に、ジークは()()()()()()()

 

 

─────()()()()()()()()()()

 

 

ダンジョンが揺れるという異常事態が周囲のモンスターを怯えさせている原因なのではと思考を巡らせたジークは即座に【カリゴランテ】を引き抜き、周囲の警戒を行おうとしたその時だった。

 

地響きにも似た足音。怪物の吐息は自身の背後から聞こえており、その威圧感は今までダンジョンで出会ってきたはずのモンスターのものとは明らかに"圧"そのものが違う。

間違いなく、大物。それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「《インファント・ドラゴン》………それにしては、肌の色が妙だな。」

 

上層最強とされるインファント・ドラゴンの元来の肌色は橙色。だがこの個体の()()()。感じる圧から明らかに通常個体ではないのは確かだが、それ自体はさほど驚くことではない。ダンジョンでは何が起こるかわからない以上、こうした異常事態(イレギュラー)に見舞われることもあるだろう。

 

─────だが、これは好機だ。

 

「(もし、このモンスターを()()()()()()位階を上げることが出来る。)」

 

これは確信だ。自身とこのモンスターには確かな「縁」が存在している。今までこの竜をダンジョンで見たことはなかったが、ジークの内側から込み上げてくるこの激情は自身でもどうしようもならないほどの「怒り」だ。

 

この怒りがどうして自身の内側に巣くっているのか、この怒りの源泉は何なのか。思い出さなければならないことがあるはずなのに、今はその思考すべてが鬱陶しいものに感じてしまう。

 

漆黒のインファント・ドラゴンはただ一点ジークを見据えている。その瞳がなにを感じているのか定かではないが、こちらの行動を待っているように見えた。モンスターに理性があるとは到底思えないが、こちらを待っているのなら好きなようにやらせてもらう。

 

視線を逸らさず、バックパックの方に歩み寄りその中身をブチ撒ける。その中身は【モリアの剣銀】も含めた剣や槍、短剣といった様々な武具。ロキ・ファミリアの武器庫から自身の手に馴染んだものだけを拝借し、持ってきたもの。

 

今まで多くのダンジョン探索で偉業に至るための実験をしてきた。敢えて傷を負った状態でモンスターの群れに飛び込んでみたり、【カリゴランテ】じゃない武装でモンスターと戦ってみたりと、それなりに工夫してきて感じたのは、「自身に対して明らかに不利な状況を作り出せば、経験値(エクセリア)は増加する」ということだった。

 

この事をロキに話したところ「そんなんジークたんだけやで!?」と驚かれもしたが、事実そうなのだろうとジークも感じていた。

 

一度、深呼吸をし思考を切り替える。

 

目の前には、自身の壁となってくれているモンスター。そのチャンスが目の前に現れた以上、この機を逃す手はない。

 

引き抜いた【カリゴランテ】と【モリアの剣銀】を構え、臨戦態勢を取る。

目の前の竜も、その姿を見て牙を見せその圧を高めていく。

 

一人と一匹の間に流れる空気は弛緩を許さず、緊張感を高めていく。相手の一挙手一投足に自身が持つ全神経を研ぎ澄ませていき、その瞬間(とき)を待つ。

 

「『─────────』」

 

今もこのダンジョンの何処かで、冒険者が探索を行っている。いつこの場にも来るかわからない以上すぐにでも初めてしまった方がいいとはお互いに理解できている。

 

だがそれでは駄目だ。そうなってしまえば自身の中で致命的な何かが壊れてしまう。壁を超えるためにも、目的を叶えるためにも、今日この日ジークは壁に挑まなければならない。

 

「………ジークっ!」

 

何処かで声が聞こえたその瞬間、冒険者と怪物は声を上げた。

 

 

 


 

 

 

「ジークっ!」

 

姿を見て最初に叫んだのはアイズ。それこそ破竹の勢いで階層を降りて行ったレフィーヤとリヴェリア、そしてアイズ。彼女の言葉が引き金となり始まったジークの戦いは彼女たちの予想通り、彼の劣勢から始まった。

 

「っあぁぁぁぁぁぁ!」

 

『ガアァァァァァアアァ!!!』

 

向かってきた竜の顎を地面に滑り込むように避けながら全身を浅く切っていき、竜の弱点を調べていく。何処に部位にどれだけの攻撃が効くのか。相手の攻撃の予備動作(モーション)はどんな物なのか。相手の全てを、自身が勝つための活路開くために観察を続ける。

 

ジークの手にぶら下げられた二本の(つるぎ)は、確かに竜の鱗や皮膚を切ることはできた。通常のモンスターでは間違いなく致命の一撃であり、その連撃を続けることが出来れば当然劣勢になることはなかったはずだ。剣で切り裂き、魔法で崩す。

 

だが─────────

 

『グガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』

 

「っ、ちぃ!」

 

再度向かってきた竜の顎をギリギリの所で避け、一度距離を取る。そしてその瞬間、斬り込んだ筈の竜の身体が傷の再生を始めた。

 

「これは………。」

 

学んだモンスターの情報ではインファント・ドラゴンは自動回復(オート・ヒール)を持つモンスターではなかったはずだ。考え得るのはこの漆黒のインファント・ドラゴンは特異種であり、本来では生まれる事はないのモンスターであるということ。発生条件などは今はわからないが、そこは今は関係のないこと。

 

いくら魔法で崩しても、身体を切り裂いても、その次の瞬間には再生を始めてしまう。自身が用いる切り札の一つである魔法(シュトラセ/ゲーエン)ですらあまり通じない。今のジークはこの竜に対して打つ手がない。

 

「(いいや、まだ手札はある。)」

 

魔法とは違う、もう一つの切り札「生還願望(イノセント・サバイブ)」。生き残るための戦闘において全ステイタスに補正が入る。この状況であれば決着をつけるまで効果は持続するだろう。だがこのスキルを使ってしまった以上、その先はもう存在しない。

 

通じなかったときが、「ジーク・ニ―ヴェルン」という冒険者の最期だ。

 

「(………だが、それしか手段がないのも事実。切るしかないか。)」

 

そうしてスキルを起動させようとしたその時、竜が動いた。

 

先程まで攻撃に用いるためにジークの背丈に合わせた低さに構えていたはずの首を大きく上げ、まるでジークと距離を取るようにして顎を開いた。

 

背筋が凍る感覚がジークを襲う。目の前の竜は何をしている?あれでは隙を晒している状態に他ならないはずだ。こちらが劣勢の状態で身を引く必要はない。なら狙いは?

 

いやな予感。この竜の行動をすぐに止めなければならないと本能がそう叫んだ。その瞬間、開いた顎から毒々しいと表現するのに相応しい竜の吐息が漏れ出した。

 

「っインファント・ドラゴンがブレスを!?」

 

あり得ないとレフィーヤは叫んだ。異常事態(イレギュラー)がすでに起こっている以上あのモンスターは既にレフィーヤにとっても未知の存在になってきている。ブレスの予備動作に入った竜に対して阻止にスキルを発動させて動くジークだったが、()()

 

もし彼のレベルが一つでも高ければ、スキルによる恩恵も重なり、竜の身体を駆け上がり喉を切り裂くことで阻止することが出来たのだろう。

 

スキルを使った今のジークの推定ステイタスはレベル2の上位。技と駆け引きを組み合わせれば、それよりも少し上までは届くだろう。だが対する竜のポテンシャルはLv.2の()()()

 

そのほんの少しの差が、勝敗を分けた。

 

 

『─────────────────────────ッッッッ!!!!!』

 

 

 

竜の吐息は、一切の容赦なくジークを飲み込んでいった。




一問一答質問コーナー

Q.続き、楽しみにしています(多数)

A.やっぱり、こういう言葉が一番うれしいですね。書く原動力にもなりますし、待ってくださるっていうのが実感できて頑張れます。

感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。



くっっっっっっそお待たせしましたぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!!!
冒頭でも言いましたが、マジですみませんでした………。いやね?決して戦闘描写が難しかったわけではなくてですね………いや、実際に難しかったし、クッソ難産だったんですけど………。

まぁ、これからもちょくちょく書いていきますので、気長に待っていただけると思います………。

話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?

  • 早い方がいい
  • 遅い方がいい
  • てめぇが勝手に決めろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。