生還を望む竜殺しの冒険譚 作:瑠衣
「………ジーク!」
「──────止めるんじゃねぇよ、アイズ」
勢いのまま飛び出そうとするアイズを制するのは彼女たちに追いついてきたベートだ。あの竜のポテンシャルは把握できた以上留まっている必要はないはずだ。と視線を送るが、そもそもベートがどこまで状況を把握しているのだろう?
「ベートさん…なんで!」
「あぁ?馬鹿かてめぇ?ガキが男張ってんだぞ?邪魔すんじゃねぇよ。」
声を上げ抗議するレフィーヤに、ベートは一蹴する。フィンが彼を向かわされた理由を鑑みればここでジークを止めない理由はない。現にここにくるまでの彼は「めんどくせぇ事に巻き込みやがって」と、ジークに蹴りを放とうとも考えていた。
だが、目の前に広がるのは一人の冒険者による「超克の宴」
弱者が強者を下し、次なる段階に駆け上がるための試練であり、障壁。幾たびも強者に挑み、屈辱を味わってそこに挑んでいく冒険者を、ベートは止められない。もし、この超克が為されなかったとしても、それはジークの冒険の結果であり、数多の冒険者と同じ道を辿っただけだ。
「フィンには『見届けろ』って言われて来てんだ。あの雑魚が駄目になったらさっさとあの竜をブチ殺してやるが、それまでは黙ってみてろ。」
「っ!フィン…何を考えてる………!?」
もはや旧知の仲ともいえるファミリアの団長の考えが読めない。自分たちの後にベートも向かわせたのだろうそれは理解できる。今のジークは危ういと感じていた他に、この眼前の光景も予感していたのだとしたら………。
「(───ジーク自身の、冒険。フィンはこれを予期していたのか?)」
ブレスによって塞がれていた視界がだんだんと晴れていく、徐々に姿を現したジークと一匹の姿は先程までと何ら変わっていない。先ほどのブレスは一体何だったんだと思考を回そうとしたその時。
「ぶっ、がはっ!ごほっ!」
「っジーク!どうした!?」
突如吐血したジークにリヴェリアが声を上げる。遠目から見ている以上、詳しいことはわからないが、先に放たれたブレスが原因とみて間違いない。そしてそこに込められていた属性はおそらく「毒」だ。
発展アビリティである「耐異常」があればある程度耐えることが出来るだろうが、Lv.1であるジークにはそんなものは当然存在していない。
「っ、文句は言わせんぞ、ベート、フィン…『
詠唱するのはリヴェリアが用いる第二階位の防護魔法。森林の光輝を纏わせたものに妖精の加護を与える。物理、魔法それぞれに抵抗を与え、少量程度だが回復もさせることが出来る。耐異常のアビリティを持っていない今のジークにも付与すれば竜のブレスも魔力を帯びている以上、魔力の抵抗力と回復が合わされば一時的に毒の進行を抑えることが出来る。
「………問題ないっ」
だが、リヴェリアの魔法が発動するよりも早く、ジークは横に転がっていた槍を手に取り投げつける。槍は弧を描きながらも竜の首元の鱗の薄い部分に突き刺さるが、すぐに肉が蠢き脈動し、槍を抜き出てくる。
毒の激痛は、未だに身体を蝕んでいる。今は
ステイタスを底上げして打倒するという正攻法では突破は不可能。
「(…「魔石」を狙う。唯一の勝機はもうこれしかない。)」
一気に駆け出し、距離を詰めていく。転がっていた中で手にしたのは武器の中で最も手に馴染んでいた短剣。身をかがめながら接近し、魔石を狙うのに持ってきた武器の中でこれ以上に最適なものはない。
通常のインファント・ドラゴンの魔石の場所は首と動体の接続部分。特異種でもおそらくそれは変わりないと思いたい。持ってきた武器で一時的に身体を刺さるのは確認済み。ならこの短剣でも勢いを殺さずに迫れば問題ない。
『ガアァァァァァァアァァァァ!!!!』
漆黒のインファント・ドラゴンは目の前から迫ってくる冒険者に向かって吠える。それと共にジークの身体が硬直する。一瞬自身に起こったことを理解できなかったが知識の奥底にその答えは存在した。
「(ミノタウロスの
誰かが言った「ダンジョンは意思を持っている」と。そう感じられるほど冒険者に対して理不尽を強いることがある、と。
どんなに優秀でLvの高い冒険者すら殺してきた原因の大半はモンスターではなく、ダンジョンで起こる
竜の尾によってアイズたちに吹き飛ばされた
「………ジークっ」
アイズは一瞬の思考の内に、ジークの元に駆け寄る。勢いから考えれば恩恵を持った冒険者が死ぬほどの衝撃ではないはず。しかしさっきのブレスで毒を貰っている今の状況では話が違う。毒の効果が「吐血」だけを発生させるものなら回復魔法による延命が出来るから問題ない。
「アイズっ!ジークにエリクサーを!いいか、絶対に死なすなっ!ベートとレフィーヤは構えろ。あの変種が行動を見せたら速攻で
「は、はいッッッ!」
「………ちっ、やられてんじゃねぇよ。」
二人が各々の得物を構えるものの、リヴェリアは此処で手を出すかを未だに決めかねていた。先程までなら確実に自身の「魔法」を放ち、即刻この場を離れるつもりだった。目の前のモンスターのレベルは高くてもLv.3。この場にいる者たちが全員で掛かれば難なく倒せる。
だが………と「ジークの保護者」という立場から「ロキ・ファミリアの副団長」へ思考を切り替わる。先程までの考えがまるで嘘のように、この場で「ジークに冒険をさせる」事こそが最も正しいことだと感じ始めてしまい、何よりもその思考が清濁併せ呑んでもなお余るほど気持ち悪く感じてしまう。
「…っ!【リヴ・イルシオ】!」
詠唱途中だった魔法を放棄してより現状に適し魔法を完成させ、ジークに付与する。意識を失っている彼に掛けたところで意味なんてないはずの魔法を今になって発動させた理由はリヴェリア自身にも分かっていないだろう。
それでも、と。リヴェリアは思う。
この魔法が、なにかのきっかけを与える事を。
暗い
暗い。暗い。暗い。
手足が動かない、身体が軽い。水中に居るみたいな浮遊感と眠りに落ちるときの心地よさが全身を包み込んでいる。さっきまで俺は何をしていた?記憶が霞に掛かったように鮮明にならない。
でもまぁ、と思考が堕ちる。
ここまで心地よく眠れるのなら、悪くない。最近は何故か忙しかったような気がするし、ここで寝てしまっても誰も文句は言うことは無いだろう。
瞼を閉じて、この空間に身を投げてしまえば───────。
『────────。』
誰かが叫んだ。
叫ばれたのはおそらく誰かの名前。俺が気にする必要は無い。そのまま眠ってしまえば目覚めた時には何もかもが終わっている。
終わる。
…終わる。
………終わる。
……………
一体何が終わるんだ?何を終わらせていいんだ?いったい俺は何をしていた?思い出せ、俺の目的はなんだった?あの竜を倒して
先ほどまで俺の冒険を見ていたアイズ達が各々の武器を構えてインファント・ドラゴンと対峙している。ただただ俺を護るように構えている。
斬り込むことも、魔法を唄うこともしていない。何かを待っているように。
………わかる、きっと彼女たちは俺を待っている。
動け、動け動け動け。
こんな暗い世界に用はない。俺は一刻も早くあの場に立って竜を討たなければならない。
『どうして?』
そんな時に声が響いた。アイズでも、レフィーヤでも、リヴェリアでもない。彼方に聞いたはずのどこか懐かしさを感じさせる女性の声。辺りを見渡しても暗闇が広がっているだけで、人の姿は何処にも見えない。だけど聞こえてくる。
『どうして?』
二度目の質問。その問いに俺は「そんなもの」と続きの言葉を放とうとした。でも肝心のその言葉が喉から出てこない。理由が、まるで出てこない。自身の中で確固たるものがあったはずなのに、一言でさえ音を発することが出来ない。
そんな俺に対して、声の女性は
『貴方、まだ何もわかってないのね?』
と、少し笑いながら、苦しそうに感情が言葉に乗ってくる。一瞬何を言っているのか理解することが出来ず困惑する。
『なら、聞き方を変えましょうか。』『貴方はなんで生きていたいの?』
─────────
そんな当たり前のこと、なぜ今になって聞く?そんなのは決まっている俺が生きたいのは、
生きていたい、理由は──────
『………えぇ、わかっています。今の貴方にはその理由を思い出すことはできない。ただただ貴方は漠然と「生き残らなければならない」という衝動に駆られている。』
「っ、そんなことはないっ!俺が生きたかったのは、生きたかったのはっっっ!!!!!」
喉が裂けると思うほどに声を上げようとする。
だが───────答えが出ない。
いや、そもそも
「(じゃあ、なんで、どうして俺は、力を付けようと思ったんだ?)」
頭を抱える。わからない、シラナイ、理解デキナイ。混乱する頭の中がぐちゃぐちゃになって、視界が歪み、正常に意識が保てない。
『………ごめんなさい、貴方をそこまで追い込むつもりはなかったの。確かに今はこんな事思い出さなくてもいいですね。この話は此処でおしまいにしましょう。』
その言葉と共に、思考が鮮明になり、視界が明るく広がっていく。唐突に開けた視界とあまりの眩しさに反射で庇うように目を腕で覆い隠す。
次の瞬間、世界が一変した。
その光景に思わず息を呑む。遥か地平線まで続く、一面の花畑。宙は星々が煌めき、その一つ一つが宝石のように。世界が、時が止まっているような美しい世界。
そこに、「彼女」はいた。
いや、正確に言えば女性だとは認識できても、顔は認識できていない。だがその「美」だけは伝わってくる。まさに「天のドレス」と形容できる衣に身を包んだ姿は、顔が認識できなくともその美しさは美の神にも劣らないと感じさせる。
「貴女は………いったい誰だ?ここは何なんだ?」
『ここは貴方の意識の中。心の中とも言い換えられる貴方の魂に刻まれた、心象風景………。
と言っても私の影響も少なからず受けているから正確に言えば私とあなたの心象風景というべきでしょうね。』
「心の中か………それで、貴女は?」
『私の正体は、まだ教えることは出来ません。仮に私がこの場で名乗ったとしても、未だ起源に届いていない貴方は、まず間違いなく私の事を忘れてしまうでしょう。』
「そうか………どうすれば目覚められる?」
俺のその言葉に、彼女は少し驚いたように息を吐きだした。
『………呆れました。まさか、戻って戦うというのですか?あの竜と?』
「そのまさかだ。たとえ生きたい理由がわからなくとも、今の俺はロキ・ファミリアの冒険者「ジーク・ニ―ヴェルン」だ。………仲間が待っているのなら、俺はその責任を通さなければならない。」
その時、暖かな森の光が俺の身体を包み込んだ。………この光は知っている。誰よりも厳しく、誰よりも優しく見守ってくれているハイエルフの光。リヴェリアの魔法「リヴ・イルシオ」。少しずつ痛みが引いていく感覚が先ほどの暗闇に落ちるとはまた別の心地よさ。
一度拳を開き、閉じる。身体はまだ動く。戦う力も残ってる。なら後はもう立ち上がるだけだ。
左手を見ると、そこには既にモリアの剣銀が握られていた。カリゴランテではなくこの剣が握られているのは、きっと
『………では、私からも一つ贈り物をしましょう。』
そういうと彼女は、何かを唱えたと思えば黄金色の光が森光を飲み込み、俺の身体に溶け込んでいった。
『いいですか?これで毒の進行はこれ以上進むことはありません。そして私の与えた
「あぁ、わかっている。ありがとう。」
モリアの剣銀を虚空に構え、念じる。目の前に鍵穴の様に開かれた光が落ち着いた瞬間に剣を突き刺し、一気に回す。
鍵と扉が開く音とともに、世界に光が満ちていく。
そして─────────────。
一問一答質問コーナー
Q.ナニカを彷彿とさせるインファントドラゴン…
A.タイトルにもある通り、この物語はジークくんが「竜殺し」になるための物語でもあるので、彼には今後も立ち向かってもらいます。頑張れ頑張れ♡
引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。
お久しぶりでございます………友人には「おせーよタコ」と言われた作者でございます。
あの………なんでお前知ってんの???と混乱しました。
見事に友人バレしたところで、次回、決着です。
話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?
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早い方がいい
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遅い方がいい
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てめぇが勝手に決めろ