生還を望む竜殺しの冒険譚 作:瑠衣
(っ、目覚めない………やはり傷が深すぎるか?)
アイズが使ったエリクサーとリヴェリア自身の魔法を掛け、1度ジークの容態を確認する。確かに傷は少しずつ回復しているが、やはりと言えばいいのか治りが遅い。これならば毒の治療があったとはいえ、防護魔法である「リヴ・イルシオ」ではなく回復魔法の「ルナ・アルディス」の方が良かったか、と自身の判断ミスを悔やむ。
だが、ジークに関してはもはや回復を待つ他ない。問題はもうひとつの方だ。
『……………』
「……なんで仕掛けてこねぇ。モンスターだろてめぇは。」
肝心の
だが、そんなことは
相手は怪物。下層や深層ならまだしも、上層程度のモンスターが高い知性を持つはずもない。これも
そんな時だった。
『────────ッ』
インファント・ドラゴンが身震いを起こした。尾を振るい足を鳴らし地響きを立てる。それはまるで戦いが始まる前に己と、そして相手を鼓舞するように音を鳴らす。それが意味するところはつまり………。
「っぁ、ジーク………っ」
少し上擦ったアイズの声が聞こえ、リヴェリアはそちらを振り向く。ボロボロの
──────それでも、ジークは立った。
すでに満身創痍。傷はエリクサーで治したとはいえ既に体力も
この場にいる全員がそれを理解した。間違いなく次の戦闘でどちらが強いかと決まる。
『グルゥゥゥ………ガァァァ!』
傍に落ちていたモリアの剣銀とカリゴランテを一瞥し、一瞬思案をしたと思えば「モリアの剣銀」だけを手に取り、前に出て目の前の竜を見据えた。竜はジークを見つけるとその口に笑みを浮かべて咆哮を放った。
「………待たせたか、すまない。」
「ッ!、待てジークっ!お前のその身体では無謀だ!一度引けっ!」
「…なら、何故この竜を生かしていたんだリヴェリア。貴女たちならそれほど苦戦することもなくこの竜を討つことが出来ただろう。」
その言葉に、リヴェリアは思わず口を噤む。確かに、そうだ。リヴェリアは自身の、副団長としての判断であのインファント・ドラゴンを討つことをしなかった。ファミリアを上から見る立場としてジークの成長の妨げになってしまうと考えてしまったからだ。
その考えが裏目に出た
「(………止まる気はない、か。ジークが立ち上がった以上ベートも手出しはしないだろう。こうなれば─────)……………わかった、見届けよう。だがいいか?危ないと感じた時点で即刻止めに入るからな。」
「………ありがとう。感謝する。」
剣を握る手に力が入る。見届けると言われた以上、それ相応の冒険をしなければならない。
そうだ、これは─────────
「─────俺の、「冒険」だ。」
そうして、剣と牙を構え息を合わせたように少しずつ互いに歩み寄り
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『ガアァァァァァァァ!!!』
一人の冒険者と一匹の竜が吠え、互いに向かって一気に駆ける。それぞれをこの場限りの好敵手と定めた者たちの戦いは正面衝突から始まった。未だ完成されていない技術と力任せに振り抜いた剣と竜の頭の衝突は、鈍い音と共にお互いの脚を一歩下がらせた。
純粋な力比べではステイタスの差からまず間違いなくインファント・ドラゴンが有利、それは変わらない。そのはずだった。
『……………ッ!』
「あぁぁぁぁ、あああああ!」
徐々に押されていくのは竜。目の前の存在が、どうして自身の力よりも弱いはずのコレに押されているのか理解できない。理解できない状況に陥ったその竜は、雄叫びを上げることで身体に力を籠める。だが先ほどよりも全身に力を込められていないことには気づいていない。
それは竜も、それこそ押しているジーク自身も気づいていない事だったが、ここに至るまでの戦闘でお互いに傷を受けその傷を再生し続けていた。ポーションやリヴェリアの魔法といった「外的要因」で回復してきたジークとは違い、自身に付与された「内的要因」で回復し続けていた漆黒の竜の源泉は一体どこなのか?
その源泉の正体は「魔石」。竜の自動治癒は自身の命を燃やした有償の奇跡。仮にこの竜が他のモンスターの魔石を取り込むことが出来ていれば自身の魔力を上昇させることが可能となっていたはずだ。
この竜が
ジークは一気に剣を押し上げて競り合っていた竜の頭をかち上げ、そのままの勢いを殺さずに剣を振るう。竜の身体に二つの斬撃の軌跡が描かれ、血が噴き出す。その傷の再生は先程までの速度はなく緩やかであり、その事実にジークは薄い笑みを浮かべる。
「(これだ、再生が遅くなっている。なら勝機は、活路は、『前』だ)」
攻めたてろ。臆するな。図体に惑わされるな。この千載一遇の好機を逃したら負けるのは自分だと直感しているだろう。竜の鱗は確かに強力な防御力を持っている。スキルによるステイタスの激上とモリアの剣銀が重なった今であっても傷をつけることは容易くはない。
冒険者が重要とする「技と駆け引き」。いまはその二つのみが重要なのだ。
『グッ、グルアァァァァァ!』
「────ジークっ!」
竜は痛みに吠え、その根幹を嚙み砕こうと顎を開き襲い掛かる。その速度は一介の下級冒険者であれば間違いなく回避不可能の一撃。アイズの悲鳴にも似た声が迷宮内に響き、その瞬間を見まいと目をそらそうとする。
だが────────。
「目ぇ逸らすんじゃねぇアイズ。あの雑魚の面倒見た以上、責任はてめぇにもあるんだからな。お前とそこの妖精だけは目を逸らすんじゃねぇよ。」
その言葉を紡いだのはベートだった。普段の彼から他人を気遣う言葉が出ること自体にも驚きを覚える。彼はここまで自身が認めていない、彼の言葉でいえば「雑魚」にここまでのある種の情を向けている。この戦いで彼自身も何かを見極めようとしているのか?
「それに──────
「「っ!」」
今までの訓練、これまでに詰め込んだ知識。それらを全て動員したこの戦い。ジーク自身もこれまでの経験、相手の出方、攻撃手段を分析して受け流し、防御し、確実にダメージを与えていく。その戦い方は何処かで見たことある。元々「ジークの戦い方」というのはそういうものだったはずだが、それにしても、余りにも
「………猛者、か?」
その言葉をつぶやいたリヴェリアにアイズはようやく気付く。
確かに彼は、一度その「技」を受けている。圧倒的な壁として映ったであろうその「技」。彼の中でその技術を未成熟ながらも体得していた。勿論それ自体は猛者のものとは到底及ばない。長年敵対し続けていたロキ・ファミリアの幹部のリヴェリア達にとっては拙いもの。
─────それでも、この場においては最も光る「武器」だ。
牙を剥いてくる竜の顎、その健に向かって剣を振り下ろす。引き裂かれた肉は確かに両断され竜の顎の力を失わせる。その激痛に身体を強張らせる竜に立て続けに斬りかかっていくジーク。
背中、四足の脚、首。再生に時間が掛かっている今、少しでも多くの傷をつけ、その再生速度を削いでいく。まだだ、まだ再生する。なら何度でも斬り刻む。「モリアの剣銀」で手数が足りないのなら、周囲にばらまいた武器を再び活用する。
「【
『ガ、アァァァァァァァァァ!!!!!』
時折、魔法も混ぜ少ない傷を作ることで、攻撃の密度を上げていく。竜もこの連撃に自身の明確な終わりを感じたのか、ただ一点「顎」だけを回復させ、その咆哮を迷宮に轟かせる。それは生命が危険になった時に発声する「危険信号」この竜の元々用いる能力の一つ。
周囲から異常ともいえる怪物の気配。インプやオーク、ハードアーマードといった下層のモンスター群がアイズやレフィーヤ達を無視しただ独り、ジークに群がっていく。インファント・ドラゴンの危険性は上層最強ともいえるその凶暴性や
神が召喚した漆黒の怪物も元となった存在がいる。当然そのモンスターが使える能力も使えないなんてものは逆に不自然というものだろう。
周囲を見渡す。数は正直言ってこの状況で悠長に数えるのが馬鹿らしくなる。
だが、
「【
地面に手を付き、自身の周囲のすべてのモンスターに向けて触れたものを分解する自身が持つ魔法を解き放つ。この極限状態の集中の中でようやく発動できる無茶な魔法行使に、頭痛が起こす頭を無理やりにでも黙らせる。
大雑把に発動させた魔法に、全てのモンスターが怯み、その一部が分解されていく。分解に耐えきれなかった小型の怪物どもはそれだけで消滅するが、大型の怪物は何体か取り逃してしまう。それでもこの展開は想定通り。狙い通りだ。
魔法によって周囲一帯に舞い散った土煙がジークの姿を隠す。コレが決まればまず間違いなくあの竜を討てる。だがそれはこの
「(……………すまない。)」
心の中で自身の手に収まっている剣に謝罪を告げて、一気に駆け出す。漆黒の竜までは未だに間合いの外側なれど、大上段に構えた「モリアの剣銀」に自身の奇跡である魔法を
全ての視界が晴れ、アイズ達の目に映るのは一人の冒険者の決まれば間違いなく決着のつく「名もなき必解の一撃。」自身を滅ぼすことのできる一撃の前で─────
───────竜は、笑った。
『ガァァァァァァァァァァァ!!!!!』
「っ!?」
竜は真正面から突撃してきた小さな好敵手に向けて、戦闘の中でもっとも有効だった一撃を決めにいく。竜の吐息。猛毒のドラゴン・ブレス。空中にいる今のジークにはまず間違いなく回避不可能の必殺の一撃。容赦なく放たれたそれは、瞬く間に飲み込んでいく。
「「「ジークっ!!!」」」
リヴェリア達の声が重なる。唯一声を上げなかったベートですら目を見開き、歯を噛み締める。あれでは無理だ。その場にいた全員がそう思ってしまった。あのブレスの威力は先刻のジークの容態をみれば理解できる。
仮に同じLv帯、いや「耐異常」を持っている今であっても油断ならない一撃。そんなものを彼が喰らってしまえば辿る末路は決まっている。
一瞬の静寂、決着の静寂と誰もが、竜ですら自身の勝利を確信した時。
「………ぉ」
声が聞こえた。
「………ぉぉ」
確かに聞こえるその声に、最初に反応したのは獣人の冒険者として五感に鋭いベートだった。
「………おぉぉぉぉぉおぉぉお!!!!!」
ブレスの息吹から、ジークが一気に飛び出し竜の首元に向かって魔法を纏った「モリアの剣銀」を振り下ろす。ジークの魔法と剣銀が重なり竜の鱗を分解しつつ摩擦が起こり魔力光が激しく明滅し少しずつ肉体に入り込んでいく。
竜は苦しみながらも何故か自身に食い込んでいくジークの刃を止めようとはしてはいなかった。それはもう自分の身体が手遅れだと感じてしまったからなのか、潔く好敵手との勝敗を受け入れてしまったからなのか。きっとどちらでも構わないのだろう。
自身の身体が分解されていく。魔石から流れる魔力による自動治癒はもう機能していない
この勝負を知るものは、この場に存在している彼らと好敵手のみ
もし願わくば、もう一度、この好敵手と戦いたいと願いながら
怪物は、満ち足りたように、その生を終えた。
───────勝者は、その傍らに無傷の
一問一答質問コーナー 番外編コソ話
ジークの出生に関してはまだ開示できるところは少ないですが、ほんの少しだけ。
この世界のジークはとある剣製都市の貴族の傍流です。ジークが生まれた直ぐに貴族内での力関係が複雑化したこともあり家族全員が現当主に追放されました。
引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。
という事で、長いようで短かったジークくんの最初の冒険の決着です。いろいろと意見を頂ければと思いますので、良し悪し等々よろしくお願いいたします。
まぁ、このくらいは頑張ってもらわないとジークくんじゃないっすもんねぇ………。
ちょっと仕事の事情で声が出なくなったため通院中の身なんですが頑張ります。
次回は本編か番外編のようなものを予定しております。
話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?
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早い方がいい
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遅い方がいい
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てめぇが勝手に決めろ