生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第十七話

「……………また、ここか。」

 

目が覚める。このオラリオに来て誰もが当然のように行っているソレ。自室の天井の次に見ているこの光景はジークのつぶやきを無意識で引き出してしまうほど、見覚えがあるものに似ていた。

 

ジークがよく運ばれる場所とまでになってしまったバベルの医務室………ではなかった。

 

より清潔感のある個室。部屋に備え付けられている机の上には自身が今着ている患者衣の替えが置いてあり、綺麗に畳まれている。硝子の容器には八分目まで水が入っており手に取ろうとベッドから起き上がろうとすると、鈍痛が身体中に響いているのを感じた。

 

「っ、流石に、取れないか………。」

 

水を飲むのを諦めて、現状の確認を始める。ここはおそらく何処かの医療系のファミリアの一室だろう。そしていま着ているものはバベルの医務室で来ていたものと若干材質や形が少し違う。このファミリアの特注であり、エンブレムとして「光玉と香草」が描かれている。

 

確か、このエンブレムを持つファミリアは………とリヴェリアに教え込まれた授業の内容を頭の片隅から引き出そうとする。

 

だがそんな時に、部屋の扉からノックの音が二回響いた。返事をしようか一瞬考えようとしたが、それよりも早く扉が開いて、見覚えのある女性が入ってきた。

 

銀の長髪が波打つように掛かっており、その神秘的な美しさに思わず息を呑む。今まで美しいと感じる女性はジークの周りには大勢いた。金の髪を靡かせる剣の姫。翡翠の長髪が美しい妖精の王女。山吹色の自身が最も親しくしている妖精の少女。活発と冷静、陰陽のように重なり合った褐色の姉妹。

 

【ロキ・ファミリア】には主神(ロキ)の趣味もあり整った顔立ちの美女美少女が揃っていた。だからこそある種「目が肥えてしまった」ジークを以てしても

 

───────「銀の聖女(アミッド・テアサナーレ)」その美しさに一瞬目を奪われた。

 

「………目覚めていたんですね、ニーヴェルンさん。お加減は如何ですか?」

 

「っ、あ、あぁ少し身体が軋んで全身が痛むが、問題ない。」

 

「それを『問題ない』の一言で解決できると思わないでください。」

 

「うぐっ、す、すまない………。」

 

きっぱりと発言を斬り落とされたジークは申し訳なさそうに肩を竦める。アミッドは持ってきた診察用の道具を机に置いて、ベッドからジークを支えながら起き上がらせ、水の入った容器を持ちジークの口に向けて差し出した。

 

「んっ───っすまないアミッド。助かった。」

 

「三日間、目を覚まさなかった割には元気ですね。」

 

「………三日か、また随分と寝たな。」

 

彼女とは何度も面識があった。これまでの一か月間、ロキ・ファミリアの新人としてディアンケヒト・ファミリアに………主に彼女アミッドに世話になりっぱなしだった。最初の魔法の行使から始まり、魔法の練習、ランクアップのための無茶な迷宮攻略(ダンジョンアタック)で出来た負傷も彼女に治療を頼んでいた。

 

もしこの事をリヴェリアに聞かれたりでもしたら………と考えると背筋に寒気を覚える。もしかしたら既にレフィーヤの口から洩れているかもしれないし、訓練の事を知っていたフィンとロキからも話されているかもしれない。

 

「言っておきますが、ここ最近の訓練の内容は全てロキ様を経由してリヴェリア様に伝えました。」

 

「──────────────────」

 

面白いほど顔色を変えるジークに、不謹慎だと思いながらも少し笑ってしまうアミッドだったが、そもそもの問題は「ジークが無茶をしてこうなった」ことが原因であるため多少意地の悪いことを言っても問題ないでしょうと、自分の中で結論づける。

 

「それにしても、今回はまた酷かったですよ。精神枯渇(マインドダウン)に多量の血液の喪失、モンスター由来の未知の毒に侵されてましたから。むしろ三日で目を覚ます程度まで回復したのは驚きですよ。」

 

そこで思い出した。確かに自身の身体はあの竜の毒を喰らってしまったはずだ。それが今では疲労による身体の重みはあっても毒は感じていない。前例のない毒の解毒は確か難しいと聞いていたが一体どうやってと、疑問が残る。

 

そんな脳内の疑問に、アミッドが察したように答えた。

 

「毒に関しては私の『魔法』で解毒しました。市場に流通しているどの解毒剤も効果を示さなかったので、それなりに精神力(マインド)を込めて魔法を使いましたが………いったいどんな怪物(モンスター)とやりあっていたんですか?」

 

「聞いてなかったのか。」

 

「えぇ、それは私自身が貴方の口から直接聞いておきたいと考えていましたから。」

 

そういうことなら…とジークは自身に起きたことを事細かく説明する。無茶な迷宮探索の事はアミッドも知っていた。だがその内容はLv.1の冒険者が乗り越えるにはあまりにも高すぎる壁だと感じざる負えないものだった。

 

漆黒のインファント・ドラゴン。通常種とは明らかに別格な怪物であり、そのポテンシャルはスキルでLv.2相当のステイタスとなったジークですら届かなかった怪物。本来のステイタスを考えればまさに異常事態(イレギュラー)と言わざる負えない。

 

話をすべて聞いたアミッドは一度息をついた後、席を立った。

 

そしてそのまま部屋を出ていき、扉が閉められる。一体何かあったのだろうか?と疑問に思っていると再度、扉を開けてアミッドが入ってきた。その手には何かを包んだ白い布が抱えられておりソレから放たれている異質な雰囲気には、覚えがあった。

 

「………まさか、あのインファント・ドラゴンのドロップアイテムか?」

 

「目覚めたら一度見せるようにとリヴェリア様から預かってました。「黒小竜の毒牙」………まぁそのままの名前ですね。」

 

怪物の贈り物(ドロップアイテム)

モンスターを倒すことで入手することのできる魔石とは別のそのモンスターの肉体の一部。本来倒したモンスターは魔石を引き抜いてしまえば塵となり跡形もなく消え去ってしまう。だが極まれにその怪物の発達した部位などが取り残されることがある。それがドロップアイテムであり、それを素材とした武器や防具は鍛冶師の腕も関係してくるが、上等な装備に出来上がることが多い。

 

見せられた黒い牙を前にして手を伸ばす。触れた感触はひんやりと冷めており、あの時の戦いの熱を一気に引いていくの感じながらも、ようやくあの漆黒の小竜との戦いが幕を下ろしたのだと実感することが出来た。

 

「(これがあの竜が残したものか………)」

 

竜の声は耳に残っている。その吐息も、威容も、振る舞いも。

 

全てが自分の中に溶け込んで、今までの自分を超克するためにあらゆる手段を用いて一切の余分なく身体に浸透していった拙い「技と駆け引き」で戦場を駆け抜け、その刃を届かせた。

無論、最上の勝利というわけではない。いつ堕ちるともわからない綱を渡りきる、まさに薄氷の上の勝利と呼ぶべきものだった。

 

それがこうして形となって存在していることにジークの中で筆舌に尽くしがたい「何か」が湧き上がってくる。今まで感じたことのないこの感情を、どう形容してもきっと軽くなってしまうことだろう。

 

「貴女には、本当に世話になりっぱなしだ………。どう礼を尽くしても足りないな」

 

「なら、あんまり怪我をしないでもらえますかね?私、一個人をここまで短期間で治療したことなんてないんですからね?」

 

「…すまない、それは、出来な「はい???」……………なるべく、善処する。」

 

善処じゃなくて、確約してほしいんですけど………というアミッドの呆れた視線に耐えきれなくなったのか顔を逸らすジーク。その様子に「リヴェリア様も苦労をなさってますね」と一言呟くと最後に「絶対安静なのですから、寝ていてくださいね」と残してアミッドは今度こそ部屋を後にした。

 

部屋にポツンと残されたジークは机に置かれた「黒小竜の牙」に視線を落とす。

 

ドロップアイテムの管理は今までリヴェリアに任せており、そのほとんどを換金してヴァリスに還元していたが、ここまで特別なものを簡単に売ってしまうのは少し勿体ない気もする。だが肝心の使い道が浮かんでこない。

 

こういう場合は大抵武器や防具といった装備に加工するのが一般的なんだろう。だがジークが使っている主武装(メインウェポン)はあくまでも剣だ。副武装(サブウェポン)も使わなかった方の剣を使えばいい。あの戦いで多くの武器を使いつぶしながら戦ったが、あそこまでの無茶苦茶に耐えうる武器はそんなに多くない。

 

「………そういえば、短剣は妙にしっくりきたな。フィンも持っているところを見た覚えがある。」

 

フィンも確か短剣を使っていたな………と思いだし、それならばと短剣に加工するか。と頭の中で思案を巡らせる。だが、ここで一つ問題が生じた。

 

「(そういえば、俺オラリオに鍛冶師の知り合いがいない………。)」

 

武器の簡単な整備は今までもこなしてきた。一人でオラリオに来る間にもモンスターとの戦いで借りた剣が折れることがあったものの、そもそもとしてジークが持っている【カリゴランテ】は不壊属性(デュランダル)。その刃は決して壊れ折れることはないという属性を持っている。

 

それでも使い続けると刃が摩耗してしまう為、都市外では使用することをなるべく控えて相手の動きを見切り一撃で仕留めるという立ち回りを身に着けることになった。

 

このオラリオに来ても整備はやっていたし、休日に鍛冶系ファミリアに行こうとしていたがロキファミリアでは何故か新人は何名かと一緒に纏めて鍛冶系ファミリアに依頼するとのことで顔を出すことが出来ていなかった。

 

ジークは知らないが、実際には休日にすらダンジョンに潜りかねないと感じたロキとリヴェリアの計らいが存在しており、ファミリア内でも既にそのことが認知(元々アイズの事を知っていたアキやラウル)している者たちがジークを休ませようとあの手この手を使って部屋に押し込み、街を見て回らせていた。

 

「リヴェリアに相談して、鍛冶師を紹介してもらうか………ヘファイストスにするかゴブニュにするか悩むが………それも身体を休めない事には始まらないか。」

 

医務室のベッドに倒れ込み、身体全体を沈み込ませながら目を瞑る。それだけの事なのに全身から力が抜けていき、奥底から睡魔が蘇ってくるかのように迫ってくるのを感じ取る。その感覚に身を委ね落ちていく。

 

 

 


 

 

 

二日目となり、お見舞いの許可が出たのか、ファミリアの面々が顔を出してくるようになった。

 

まず最初に現れたのはファミリアの団長でもあるフィン・ディムナだった。その手には見舞いの品なのか、果物の一杯に入った籠を持っており、新鮮なものだということが一目でわかるものだった。

 

「やぁ、思った以上に元気そうだね。ジーク。」

 

「フィンか………すまない、迷惑をかけた。」

 

「そう思っているのなら、僕からは説教をしないでおくよ………これからが大変だろうしね。」

 

うっ、と言葉を詰まらせるジーク。初めに来たのがフィンということは少なくとも彼の中では既に三人ほど頭に思い浮かんでしまった。あの場にいた中で唯一接点を持っていないベート・ローガ以外の女性陣があまりにも恐怖心を注いでくる。

 

怯え始めるジークを他所に横にあった椅子に腰かけ、果物を器用に剥いていく。そしてその一つを食べやすい形に整えてからジークの口に差し出す。差し出されたものを見つめるジークとそれを不思議に見ているフィン。傍から見れば、というよりもとあるアマゾネス(ティオネ)がこの光景を見てしまえば面倒なことになるのでは…?と思考してしまう。

 

でもまぁ、差し出されたものに対して罪はない。そう思い直し、差し出された果物を口に運ぶ。新鮮な果物の果汁と触感が心地よく、三日間寝たきりだった身体にはご馳走だった。

 

「うん、良い食いっぷりだね。それだけの元気があれば大丈夫かな。」

 

フィンは美味しそうに食べているジークを見て、自身の主神から預かっていたものを取り出した。()()の知識は、魔法の授業を受けていた時にリヴェリアから聞いていたものの実物を見るのは初めてだったため目を見開き、凝視することになった。

 

「………まさか、フィンから魔導書(グリモア)が出てくるとは思わなかった」

 

魔導書(グリモア)

読んだ対象に()()()()()()()させる上に質の良いものであれば魔法のスロットを増やすことすら可能とする。という、このオラリオでも特一級の魔道具(マジックアイテム)。その価値は鍛冶系ファミリアの第一級武具と同等かそれ以上とも言われている。

 

そんなものが目の前に現れたら流石のジークも驚きを隠すことは出来なかった。

 

「おや?リヴェリアからは教えられてたかい?これは今回の件に対してのお詫びらしいよ。」

 

「………お詫び?誰からだ?」

 

見当がつかないジークだったがそれも仕方がない。フィン自身もロキからは「ジークたんを応援したいっちゅう神からや。」という断片的なことしか聞いておらず、予想しか出来ていないがこの魔導書の大元は女神フレイヤなのだろうと推論を立てていた。そして、自身の主神ならこれだけではなく他にも勝ち取ってきているのだろう。

 

ジークか、ロキ・ファミリアか。おそらく前者だがフレイヤへの「貸し」または「契約」

 

それを隠し通すことも出来る、むしろロキはそれを望んでまでいるだろうことも察することは出来ている。だが──────

 

「判断はフィンに任せる」

 

ロキはフィンにこうも伝えていた。それが意味するところはつまり判断は魔導書が託されているフィンに一任されているということ。フィンはこの場でジークに隠し事をするためではなく、達成した偉業を褒めるために来ているのだ。

 

ならば、今後のことも考えれば話しておくことに越したことはない。そう結論づけたフィンはロキとフレイヤにあったであろう取引の内容を話した。フィンが知らないところ(貸しと「お願い」)すら読み切った彼から出る言葉に、ジークは納得と疑問が生まれることになった。

 

「(あの女神に対して、恩義があるのはこちらの方だ。何かを受け取る立場ではないとは思うのだが………これも神が科す試練の一つなのだろうか。)」

 

差し出された本を手に取り、その本を開こうと手を掛けた瞬間だった。

 

─────心臓が、脈動する。全身の血が沸騰するような感覚が全身を支配していく。この感覚をジークは知っていた。あの猛者に(つるぎ)を渡された時と同じ感覚。自身の肉体が、根源(ルーツ)がまた一つ埋まったような不思議な感覚。

 

表紙に書かれている雷に打たれた、そんな錯覚さえしてしまう。

 

 

 

そして、少年は、本を開いた。




一問一答質問コーナー

Q.闇派閥の邪神だけどタナトスとエレボスは筋が通ってるし結構子供思いで好きです。

A.ダンまちに出てくる神様って人間臭くて好きなんですけど、その中でもやっぱりタナトスとエレボスは特別なんですよね。両方下界の子ども達大好きなのが滅茶苦茶いいですよね。

誤字報告してくださった「みえる」様、ありがとうございます。

引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。

はい、ということで二章開始でございます。いやぁ!皆さんお待たせいたしましたっ!


─────じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
お前更新遅すぎんだろ!?!?!?亀と言っても限度があるぞ!?反省しろ!!!!

………はい、本当にもう………長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。もう待ってくれている人がいるのかどうかも分かりませんが、楽しみにしてくれていた方には本当に申し訳ございません………。今回は何処まで行くかまだ決められていませんが………まぁ、未来の私が頑張ってくれるでしょう!

では、また来週にお会いしましょう。

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