生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第十八話

【さて、では始めよう。】

 

頭の中で声が響く。

 

自分の声ではない。もっと大人の、落ち着いた低音の男性の声。なぜ自分の中からこんな声が響いているのか理解できていないが、気にするほどでもないだろうと、結論づける。

 

【お前にとって、魔法とはなんだ?………と、聞くところなのだろうが。残念ながら発現される魔法は()()()()()()()()()()。だから少し話をしよう。】

 

一気に眠気が襲い掛かり目を瞑ると、暗闇に一人の男が見えた。胸の大部分と背が大きくあいた不思議な形状の鎧を着こんでおり、胸には入れ墨が彫られていて光り輝くソレには魔力が感じられた。だけどそんなものが気にならないほど、その背中と頭から生えているモノに目を見開いた。

 

「(竜の翼と角、それに尾も………少なくとも人間ではないってことか?)」

 

【あぁその通り。確かに俺は人間ではない。竜種というわけでもないが……………すまない、説明しろというと少し難しい。】

 

思考を読まれたことでさらに驚きを覚える。ジークという個人の内側から出る声なのだから当然のように思考も読めるのだろう。よく見れば目の前の男は何処か自分を大人にしたような雰囲気をしている。

 

「貴方は、一体何者なんだ?」

 

【俺は、───────………ん?】

 

口は開いていたのに音が聞こえない。男も自身に起きたことに驚いており、何度か同じ単語を言っているのだろうが全てこちらの耳に届くことはなかった。ジークには聞き取れない言語なのか、それとも何かもっと別の理由があるのか。

 

【………ふむ、とりあえずは理由は分かった。どうやら君に対して幾つかの情報が統制されているようだ。だから少しつまらないかも知れないが、魔法について教えておこう。】

 

そして男は魔法に対しての話をし始めた。

 

魔法というのは大まかに「先天的」と「後天的」の二つに区分されており、先天的とはその名の通り種族や素質、潜在的な長所を伸ばすことで習得することが出来るもの。魔法種族(マジックユーザー)としても名高いエルフであれば精霊との契約などで自身の才覚を開花させることで魔法を覚えることが出来る。

 

属性の偏りがあるものの、威力は強力なものが多い。だがその分安定性に欠けてしまうという欠点がある。

 

そして後天的というのは主に神の恩恵でもあるファルナを媒介にして芽吹くものであり、自己実現の可能性とも言われている。その個人が辿った冒険で得た経験値(エクセリア)の結晶が形になったものであり無限の選択肢が存在している。

 

神の恩恵で個々の才覚、経験で発現したものであるためか出力や威力を安定して発動できるため、後天的魔法が発現した者は大抵は先天的の魔法を使わなくなってしまう。

 

【今回、お前に刻まれるのはこの二つが()()()()()()ようなもの…らしい。詳しいことは俺もわかっていないが、その()()に最も適したもの。ということだ。】

 

?それはどういう………と口にしようとした瞬間に男の姿が一気に遠ざかり始める。

 

いや、違う。正確にはジーク自身が凄い速さで後ろに飛ばされている。

意識が覚醒し始めているのを全身で感じる。身動きが取れない、四肢を蟲のように動かしてもまるで何も変わらない。待ってほしい、まだ聞きたいことが山ほどあるんだ。

 

止まってくれ、頼む────────。

 

 

【いいや、ここまでだ。】

 

 

男のその言葉と共に、意識が暗転し、覚醒させられた。

 

外は既に暗くなっており、フィンの姿は傍の椅子にはなかった。代わりに置手紙が置いており、どうやら魔導書(グリモア)を読んでいる間に睡魔に襲われたらしく、二言三言会話をした後に、一度ジークの着替えなどを持ってくるためにホームに帰ると書かれていた。

 

「………寝ていた?一体いつから?」

 

確かに本を開いたところまでは覚えている。だが、その後にフィンと言葉を交わした覚えがない。記憶が朧げで確かなところが何一つとない。思い出そうとすると頭痛が響きこれ以上は踏み込むなと身体が訴えかけているようだ。

 

思い出す思考を中断し、もう寝てしまおうとベッドに身体を預ける。夜も遅い、ロキがいない以上魔法が発現できたかどうかもわからない。起きている理由もないのならあとは寝るだけだ。

 

横になり、目を瞑る。それだけの行為で全身が脱力し、今にも意識が堕ちそうになる。それだけまだ身体に疲れが残っていたのかと改めて実感させられる。そのままこの居心地のよさに身を委ねようとしたその時だった。

 

スッっと、部屋の扉が空いたような気がした。小さく音が鳴り誰かがそこに座る。目を開けるのも億劫であるためそのまま寝落ちしてしまおうかとしていた時に傍にいた誰かがこちらに声を掛けてきた。

 

「寝ちゃってるわね………せっかくロキの居ぬ間に貴方とお話しようと思ってたのに。」

 

その声音が耳に届き、全身の疲れが吹き飛んだような錯覚を起こしながら、そのまま布団から飛び上がる。聞いたことのある声、一度聞けば間違いなく忘れない脳髄に刻まれた神の声。後ろにはこの前と同じように猪人(ボアズ)の武人を侍らせている。

 

「………何か用でもあったのか、女神フレイヤ。」

 

「………起きてたのなら起きてるって言ってほしかったわね、ちょっと吃驚しちゃったわ。」

 

目を丸くさせながらフレイヤが声を上げる。その言葉に嘘はなく本心から驚いているのが見て取れジークも、長くそばにいるオッタルもそんな自分の主神に珍しいものを見たような雰囲気を醸し出している。

 

そのことに気づいたのか、フレイヤも自身と従者の反応に笑いが零れる。

 

「このままじゃ、話が逸れてしまうわね………。改めておめでとうジーク、「良い冒険」をしてきたんですってね。」

 

「まさか、自分の主神よりも前に祝福されるとは思わなかったが………その祝辞喜んで受けよう。神フレイヤ。」

 

「あら、そうだったの?ロキには悪いことをしちゃったわね。」

 

微塵も悪いと思っていない口ぶりでそう話すフレイヤを他所にジークの視線は少しずつ背後に聳え立っている猛者(おうじゃ)に対して向いていく。

 

相変わらず巌のような肉体、あそこから繰り出される「技」を覚え、拙いながらもその一片を使用したことであの竜相手に生き残ることが出来た。勝つことが出来た。その感謝を伝えようとするが思うように言葉が出てこない。

 

この武人に礼を言うのは、どうも違和感というか、遠慮というか、違う気がしてならない。

 

「……………はぁオッタル、貴方も声を掛けてあげなさい。貴方もジークの事を気にしていたじゃない。そんな子には少しでもいいから労いの言葉を掛けてあげるものよ。」

 

そんなジークの気配を察したのかフレイヤが絶妙に嫌そうに、渋々と言った具合に傍に控える自身の従者に声を掛けるように促す。それに対して面白いぐらい困ったように取り乱す武人に「あれ?やっぱり遠慮する必要なかったのでは?」と思い直すジーク。

 

気まずそうに、一歩前に出てきたオッタルは

 

「……………よくやった」

 

短く、端的に。ただその一言の賛辞。父が子を不器用に褒めるような、そんな言葉。オッタルなりに言葉を尽くしたものであったが、ジークはそんな先人の言葉にリヴェリアに褒められた時のような言いようのない喜びを感じてしまい、緩みそうな頬を必死に抑え始めた。そんな様子を「これでよかったのか………?」と頭を悩ませている都市最強の冒険者、オッタル。

 

そしてそんな二人をみて面白おかしく笑うフレイヤ。三者三様、混沌とした空間が広がっていた。

 

「あー!もう!おかしい!貴方たち、私が知らないだけで親子の関係だったのかしら?」

 

「………?そうなると、神フレイヤは俺の祖母ということになるのか?」

 

 

一瞬で場が凍り付く。

 

何か不味いことを言ってしまっただろうかと考えるジークだったが、完全に固まってしまったフレイヤがオッタルに運ばれるのをみて、また今度でもいいかと改めて寝直すためにベッドに横になった。

 

「………というか、神フレイヤは結局何がしたかったんだ?」

 

 


 

 

 

「うぇーい!ジークたーん!ウチが来たでー!!!」

 

「っ、ロキ、病み上がりなんだから少し静かにしてくれ………。」

 

アミッドに連れられてやってきたロキは、そのままの勢いのままジークの元へ飛び込んでいく。何とか受け止めたものの、その後ろで鬼の形相となっているアミッドの気配を察知して、ロキはすっと離れることにした。

 

「おぉ~、アミッドちゃん怖いわぁ………ほな早速やけど本題やな。」

 

ほれ、脱いで脱いで~とジークの服に手に掛け一気に脱がした。少し顔を赤くしたアミッドを他所にあぁなるほどと、そのまま脱がされてベッドに横になるジーク。目の前の主神が言っていた「本題」というのはこうしてやってきたのはおそらくステイタス更新のためなのだろう。

 

なら、拒む必要もないが、ここで一つ問題も生じてくる。

 

「えっと………アミッド嬢は此処にいていいのか?他派閥の冒険者のステイタスは秘匿情報なんじゃないのか?」

 

「あー、それはええんや。アミッドちゃんには今後も色々とやっかいになる予定やからなぁ。」

 

「?それはどういう………「あーそれはええからええから!はよステイタス更新しよ!」………わ、わかった。頼む。」

 

ジークの背に馬乗りになったロキの神血(イコル)が垂らされて、ジークのステイタスが可視化される。表示されたステイタスは神聖文字(ヒエログリフ)で表示されているのでそばに控えているアミッドではそれを読み取ることは出来ないが、ロキの雰囲気が変わったことだけは分かった。

 

「………まぁ、わかっとったことだけど、やっぱしランクアップ出来るな………一ヶ月かぁ~ようやったなジークたん!」

 

「相応の冒険だった。むしろ少し遅いくらいだ。」

 

「……………っ!?」

 

ランクアップ出来るというその言葉に驚愕を覚えるアミッド。今までのランクアップ最短記録は同じロキのファミリア所属の「剣姫」アイズ・ヴァレンシュタインの一年。その記録を大幅更新する一ヶ月という記録は前人未踏の偉業ともいえる。

 

「新しいスキルに…発展アビリティもしっかり三つも出とるなぁ~ほんまよう頑張ったな。」

 

基本的な【力】【耐久】【器用】【敏捷】【魔力】の五つのアビリティではない。ランクアップ時のみに取得できるのが「発展アビリティ」と呼ばれるものであり、例えば毒や麻痺などの状態異常を防ぐ「耐異常」がよく知られている。

 

発現できるのはランクアップをする冒険者が経験してきたものが反映される傾向があり、それ故に発現できるアビリティが一つもないという事も良くあると聞くが、三つも選択肢があるというのなら上出来の成果だといえる。

 

「発現できるのはどんなアビリティなんだ?」

 

「んーっとな、まずは【耐異常】やな!インファント・ドラゴンの毒にやられたって話やったし、それが反映されたんやろ!もう一つは【狩人】これはリヴェリアの狙い通りやな~Lv.2でしか発現できないんやけどモンスターを短期間で倒し続けたら獲得できるアビリティや!希少(レア)やでレア!」

 

「いや、別にそんなに希少じゃなくてもいいんだが………あと一つは?」

 

そう問いかけるジークだったが、自身の主神の難しそうな顔を見て疑問が浮かんでくる。何か不味いアビリティでも発現しそうなのかと不安に思う反面、その内容が気になるという矛盾した考えも湧いてくる。

 

ロキは頭を抱え、何度か頭を振りかぶって「だぁぁぁぁもう知らん!」と叫びながら、近くにあった羊皮紙に何かを書き連ねていく。

 

「三つ目はこれや!【天運】!」

 

「………【天運】?」

 

「そんなアビリティ、私も聞いたことありません………これも希少(レア)アビリティでしょうか?」

 

横から見ていた大派閥の団長(アミッド)も知らない。二大派閥の主神(ロキ)も知っている気配がないとなるとおそらく下界で知る神物は居ないだろう。間違いなくこれも超希少(レア)アビリティだろうことは明白だが……………。

 

「【天運】か………妙な名前だな………。」

 

天から授かる運。遥か太古の「英雄」の時代ではなく「神」が降臨したこの神時代でこれほどまで可笑しい名前はない。その運を授ける存在が目の前にいるというのに発展アビリティとして発現できるというのは…………いや、それこそがアビリティの正体なのかもしれない。

 

「運を他人に分け与えるアビリティということなのか?」

 

「いやいや!そないなもんとちがう思うでー………おそらくこれは「加護」みたいなもんとちゃうかな?ウチが与えてるもんやなくて「世界」が与えるもんやと思う。」

 

ほら精霊の加護とかあるやろ~というロキを他所に、自身に与えられた選択肢を前に思考を巡らせる。確かにどれも得難いアビリティなのは理解できている。今後も冒険者として活動していくのなら早期に【耐異常】や【狩人】のどちらかを取得し、アビリティの評価を上げるのが堅実。

 

だが、下界でも発現したことのない【天運】のアビリティも捨てがたい。「加護」というようなものなら自分自身の運というものが上昇する可能性がある。今回の冒険でも一掬いの幸運というものに救われたものもたしかにあったはずだ。東の国でいうゲン担ぎ、というものに頼ってもいいのかもしれない。

 

「………ロキ、発展アビリティは「天運」で頼む。」

 

「ん?それでええんか?ならちゃちゃっとランクアップするでーーー!!!」

 

ばばばっ!とジークの背に指を走らせて残ったものを全て終わらせる。羊皮紙にそのステイタスを転写し、彼の背中からようやく退く。写しを受け取り、冒険の結果をアミッドにも見えるように晒す。ステイタスとスキルが記載されたもの。見てはいけないと顔ごと視線を逸らそうとしたが

 

「アミッド、()()

 

ジークの言葉で、その動きが止まる。

 

「貴女は俺の主治医だ。なら俺の状態を誰よりも………俺よりも把握していてほしい。」

 

だから見てくれ、と。言葉はなかったがそう伝えてくるようにジークとアミッドの視線が交わる。その熱意に押されたのか、それとも覚悟を決めたのか、一拍を置いた後にアミッドは目線を下げ、ジークのステイタスに目を落とした。

 

 

ジーク・ニーヴェルン

 

Lv.1→Lv.2

 

力:SS1047→I0

耐久:SS1087→I0

器用:S987→I0

敏捷:S935→I0

魔力:SS1096→I0

 

天運I

 

【魔法】

 

理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)

・速攻魔法

・組成解析

・変質、同調破壊

・魔力量により破壊速度上昇、破壊範囲拡大

 

【スキル】

 

生還願望(イノセント・サバイブ)

・早熟する pe;ektb@

・生存するための戦闘中に全ステイタスに補正が入る。

・発動後、五分間全ステイタス低下

 

英雄献身(ブルグント・ライザー)

能動的行動(アクティブ・アクション)に対するチャージ実行権

・魔法効果、魔力操作の増幅

・魔法の同時多重発動、保持

g94wgskpys4d@、qed94cyx@ekrweqrb4d@94

見せられたステイタスに、絶句を以て答えるアミッド。これが冒険者になって一ヶ月のステイタス?明らかに上記を逸している。自身の横で思案している彼女を傍に、ジークは明確な異変を感じていた。新しいスキルの効果もまぁ気になるが、問題はそこではない。

 

「………ロキ、これではおかしい。」

 

「ん?どしたんジークたん?なんか変やったん?」

 

()()()()()()()()()がない………本当にこれで全部か?」

 

「………それ、どういうことや?」

 

ジークは傍に置いてあったソレを取り、開いてロキに見せる。冷や汗と思い当たる心当たりに対する苛立ちに青筋を立てるが、だからこそジークが感じた違和感に気づくことが出来た。

 

ジークが手に取り開いたものは、白紙の本。フレイヤから渡されていた最上級の「魔導書(グリモア)」。その質次第で効果は変動するが今回に限っては発現しなければならないものがステイタスの更新で発現していない。

 

 

 

魔導書(グリモア)を読んだのに魔法が発現していない」




一答一問質問コーナー

Q.女性陣の心配はわかるが、余計なお世話にも見えてしまう………

A.男の子の矜持は女の人にはわからないものですからねぇ………それでも彼女たちが持っている「保護欲」というものはジークの人間性に大きく関わってくるものでもあります。
どうか暖かい目で見守っていてください。

誤字報告してくださった「大自在天」様、ありがとうございます。

引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。

はい、という事で二話目ですね。もう年末だというのにお前は一体何をしているのか………。一先ず年内最後の更新となることになりますので、こちらで来年の皆さんの健康を祈っております。

話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?

  • 早い方がいい
  • 遅い方がいい
  • てめぇが勝手に決めろ
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