生還を望む竜殺しの冒険譚 作:瑠衣
その質によって効果は様々だが、今回フレイヤがジークに渡したものはかの「
それが魔法大国の信者の手によって女神に、そして道化の勇者から道化の新人に渡った。
元々ロキから聞いていたジークの魔法
だが、結果は何も変わらない。
魔法は、発現することはなかったのだ。
「何でなんや………フレイヤの阿呆がパチモン寄越したんか?いやいや!?そないなことする奴やないし、この魔導書の質もめっちゃええのも事実やし………あー!もう!わからん!」
「魔導書を読んでも魔法が発現しないことがあるとは聞きますが………ここまでの好条件が揃っていて発現しないというのも不思議ですね………。」
まっ、しゃーないしゃーない!切り替えてこ!というロキだったが、ジークとしては発現できないということが不思議で仕方なかった。
「(だとしたら、あの夢は一体………。)」
夢に出てきたあの光景。魔導書を読んだときに見たあの男は一体何だったのだろう。
「やぁ~と退院やなぁジーク!暇やったやろ?なぁ、暇やったやろ!?」
「いや、五月蝿い。退院といっても運ばれた時点で殆ど回復してたんだから、もっと早く退院できたと思うんだが………。」
数日の後、ようやく治療院を退院することが出来た。アミッドからは「もう来ないようにしてください」と念を押されて言われた。ロキとも何か話していたようで、魔法を発現できなかった後に二人だけで話していた。
その内容を俺は結局知ることはなかったが、戻ってきたロキのニヤけ顔とアミッドが頭を押さえて入ってきたところを見るに、またうちの主神が無理を言ったのだろう。
「もうダンジョンに潜っても良いのか?ランクアップ後は心身のズレが起きるとのことだが…その調整はどうしたらいい?」
「その辺はリヴェリアがフィンと相談しとるでー、そのせいでジークたんの見舞いに来れなかったんやで?………ウチとしてはあんま乗り気やないんやけどな、ホント、マジで。」
苦虫を噛み締めたような表情を浮かべるロキ、正直に言ってたかだかLv.2の心身のズレ解消に自派閥の団長副団長が話し合っているというのは、些か疑問に残る。Lv.2到達期間一ヶ月(実質的なステイタス向上期間だけだと三週間)はそれだけ凄いことなのだろう。
既にギルドを通じて「ジーク・二―ヴェルンのランクアップ」は流布されており周りの冒険者からの無遠慮な視線がロキとジークに向けられ、若干の居心地の悪さを感じるジークにロキは「これも名を挙げた冒険者の宿命ちゅーやっちゃな!」と楽観とした態度を貫いている。
オラリオに居る多くが下級冒険者………Lv.1の冒険者でありその一生涯のほとんどをランクアップせずに過ごすことになる。それは「冒険をする」ということを冒さずに安寧に生き抜いたということなのだろう。
本来であればロキ・ファミリアという大派閥に入れたのだ。そんな冒険者たちのように過ごすことも出来ただろうに。こうしてランクアップまでしてしまった。
「なーんかややこしいこと考えとるようだけど、そんなに気にせえへんでもええんちゃうか?」
ジークが感じている不安を知ってか屋台で売られているじゃが丸くん?というものをいつの間にか食べ歩きしていたロキが気楽にそう言ってのけた。別に強くなることは駄目なことではない。このオラリオでは自衛のためにも「強さ」というものを求められる。
六年前、オラリオの暗黒期ではそうやって冒険者は自身の牙を磨いていた。
「あ、そや!ジークを襲った黒いインファント・ドラゴンなんやけどな?あれなギルドに、ちゅーかウラノスに話通しておいたわ。そしたらな【神災】って扱いになったわ~。」
一体どこのアホンダラが入ったんやろな―というロキに対してまた新しい単語が出てきて、困惑するジークに女神は自身の知識をひけらかす様に語り始めた。
ロキ曰く、「神災」というのは神がダンジョンに入った時に起こる迷宮の異常事態であり、迷宮から神殺しの先兵ともいえる「黒い体色をしたモンスター」が発生するとのことだった。そして生み出されたモンスターは通常個体とは別種の特性や能力を持っており、今回のインファント・ドラゴンも「
「それと、ホームに帰ったら話をしとかなあかんことあるから、よろしく頼むで~。」
ホームに帰ってきて、自分の部屋で一息ついた後、フィンが待っているとラウルから呼び出しを受けて執務室に入った。
中には既にロキファミリアが誇る三首領フィン、ガレス、リヴェリアが待っており部屋の端にはアイズとレフィーヤも控えていて、そこに俺を案内してきたラウルも横に揃う。そして、何故だかは知らないがロキが正座の状態で、足に重石を幾つも乗せていた。一人のLv.2を迎えるにしては明らかに過剰な面子に少しだけ腰が引ける。
「すまない、少し遅れた。」
「いや、いいよ。退院したばかりなのに来てもらって悪いね。それと改めて言わせてもらうよジーク。最速ランクアップおめでとう。」
「ガッハッハッ!アイズに続き、ジークまで記録更新とは………これでまたファミリアの名がまた上がってしまうな!」
「ふざけた事を抜かすなガレス。苦労をするのはジークなんだぞ………すまないなジーク。結局、お前の見舞いにも行けず、しまいには………許してくれ。」
「いや、そんなことは………うん?」
?今一瞬リヴェリアが………と思考しようとした時に、フィンが椅子から立ち上がり、そのままジークの前までやってきて一枚の羊皮紙を差し出した。その中には女神ロキと女神フレイヤの間に交わされた約定の内容が書かれていた。
「
「そ、そうだったのか………ならロキにもフレイヤ様にも悪いことをしてしまったな。」
ジークの言葉に、ロキ以外の面々が首を傾げる。魔法が発現しなかった以上、せっかくの
魔法を覚えられない。というのは指導役として今後の方針を考えていた二人にとっては正直痛い話でもあった。ランクアップに際して魔法やスキルを覚えることはよく知られている。控えめに言ってもジークにはその才能………魔法のスキルスロットがあった。
だからこそ最初ロキとフィンから、フレイヤとの密約を聞いたときに少し期待してしまった二人だった。
「………魔法が発現しなかったというのは残念だが、魔導書を読んでも発現しなかったという事はもしかしたら「まだそのときではない」という事かもしれないな。」
「どういうことだい、リヴェリア?」
「魔導書はいわゆる「魔法の強制発現書」。だがそれはあくまでも外的要因のきっかけに過ぎない。我等に刻まれた神の恩恵は刻まれた本人の資質や魂の本質に最適化される。ならば次の魔法は何か特別な経験や事象といった「
「………なるほど、そういうこともあるのか。覚えておこう。」
今後の経験次第であの
それが一体どれほどのものか。Lv.2相応の冒険ともなればそれはLv.1の頃と比べるべくもないはずだ。
「(……………わからなくなってきた。)」
一体
その答えが分かった時に、ジークという一個人がどうなってしまうのかという不安が纏わりついて仕方ない。得体のしれない恐怖が、
………葛藤はある。不安も恐怖も、知らないという事の方がずっと怖いから、先に進もうと決心が出来る。
「ジーク?どうしたんだい?」
フィンの投げかけた言葉から思考の海から浮上する。決めたのならばあとはもう実行に移すだけだ。ちょうどそこに望みを賭けるに足るものが転がっているのなら手に取る他ない。
「フィン、この件で頼みたいことがある。考えを纏めたら改めて報告したいんだが、大丈夫だろうか?」
「………いいだろう。考えを纏めたら来るといい。」
「では、今度は私の番でいいな。フィン。」
その言葉で空気が一変する。
先程まで魔法に対しての知識で頼もしいと感じていた彼女の雰囲気が、がらりと変わり緊張感を持たせてくる、限界まで張られた弓の弦の様な空気を漂わせてくる。
そんな空気にレフィーヤとアイズは身を縮こませる。お互いに彼女のスパルタ教育を受けてきた身としてはそんな気配を漂わせる自陣の副団長にはどうしても頭が上がらないのだ。
彼女………リヴェリアは胸の前で腕を組み、冷ややかな視線をジークに向ける。身体が緊張で硬直し次にくる言葉に刃を振り下ろされる囚人のような気分に陥る。最初の一言でその首が堕ちることもある。
「………ジーク。」
「っ、は、はい………。」
無感情の声に思わず敬語が出てしまう。元より、言いつけを守らずに無茶な冒険を続けてひと時は死にかけたのは他でもないジークだ、ビンタの一つくらい受けるのが当然の報いというものだろう。迫りくる痛みに耐えようと目を瞑り、衝撃に備えようと身構えたその時だった。
「………すまなかった。」
その言葉と共に全身が温かさに包まれる。目を開け現状を確認すると驚愕よりも困惑を覚えてしまう。リヴェリアがジークの身体を抱きしめた。他種族と肌の接触を積極的に行うアマゾネスだったらまだしも、潔癖と貞淑を旨とするエルフがこういう行為に出るというのは珍しい。
それが多くのエルフから崇拝されているハイエルフであるリヴェリアであれば猶の事の珍事ともいえる。この場にいるエルフがレフィーヤではなく他のエルフ………例えば同ファミリアの第二級冒険者「
現にレフィーヤも師の突然の行動に目を丸くさせた後、ジークを超える驚愕と困惑、そしてほんの少しの「私が先に………」という感情に勝手に困惑して頭を抱えていた。
そして目の前で可愛がっている後輩が、母のように慕っている先達に抱きしめられているという現状を直視できずに「えっ………?えっ?」とジークとリヴェリアを交互に見返している。
「リ、リヴェリア………えっと…その……すまな「謝らなくていい」………」
ジークの言葉を遮り、リヴェリアが抱き留める力を少し強くする。息のしずらさに若干身じろぎすると彼女の香りが鼻腔に入ってしまい、男性にはない柔らかく深い森を感じさせるそんな香りに思わず思考と動きが止まってしまう。
未だかつて男でここまでリヴェリアの懐に入り込んだ(というよりも抱きしめられた)者が居ただろうか。いいや断言しよう。そんな人物はいない(確信)
「………今回の事でよくわかった。きっとお前は今後も無理をして私を困らせてしまうのだろう。ならばこちらとしても考えがある。」
「り、リヴェリア………?いったい何を………?「あぁ、わかっている。何も言わなくても大丈夫だ。お前が強くなるためには今後も無茶無謀を熟していくのだろう」いや、だから………「過保護だったのだろう。だがこんなことを続けていたらお前の身が持たない。ならばどうするべきか。頭を悩ませたよ」いや、だから………」
止まらない言葉の連打に自ずと身を引こうとするものの
「(ぐっ………動けない。リヴェリア、力を入れ過ぎだ!?)」
Lv.6にLv.2に上がったばかりのジークでは振りほどくことも抜け出すことも当然できるはずなく、結果的に拘束されるような形になってしまったが、当のエルフは未だにジークに届いているのかわからない長文詠唱を続けている。
「なればこそ、お前の今後の「教育」にはより心血を注がせてもらう。」
「─────ゑっ?」
抱擁が解かれ片腕に抱えられる。そのまま部屋を出ていこうとするリヴァリアに全員が慌てて静止に動く。
「ちょっ待て待てリヴェリア!?ジークたんをどこに連れていくきや!?」
「…?無論ダンジョンだ。もうこうなっては嫌というまで鍛えぬいてやろう。なにアイズを育てた時の経験が私にはある。問題なかろう?」
「あー確かに………とはならんわっ!?見てみぃ!アイズたんが過去のトラウマで小刻みに震え始めたで!?」
あ、アイズさーん!?とレフィーヤが小刻みに震えるアイズの肩を掴みながら身体を左右に揺らしており、こちらの現状を見ていない。この混沌とした状況を正常に認識しているのは少し離れた場所で俯瞰しているロキとフィンだけだ。
これはしばらく、解放されないな。と諦めながら戻ってきた日常の空気に少しだけ安堵の感覚を覚えたジークはそのままずるずるとリヴェリアに引きずられていった。
一問一答質問コーナー
Q.マジで一瞬「一ヶ月か遅いな」と思ってしまった。これも全てベル君のせいだ
A.もうほんっと、あのウサギ読み込めば読み込むほど頭おかしすぎる………まぁ元々ウォーシャドウ一夜漬けとかする奴ですし………えっ?ウチのジークですか?いやいやそんなLv.1で漆黒モンスターと戦っただけですから(笑)
誤字報告してくださった「荒魂マサカド」様「炉六」様、ありがとうございます。
引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。
新年になりましたね。明けましておめでとうございます。
今年もこの作品をよろしくお願いいたします。
とまぁ、ここで少しお知らせを。
私事ではございますが、新年になり新たに就職活動することにいたしまして、ただでさえ更新ペースがゴミなくせに更に遅くなってしまう事が懸念されます。読んでくださっている皆様には申し訳ありませんが、ご容赦ください。
新年一発目からこのような謝罪から入ってしまい大変申し訳ないのですが、現在書き切れている部分までは投稿を続けますのでご安心ください。
元々細々と続けていた趣味のようなものですが、こうして応援してくださる皆様の応援があり続けられている作品ですので、是非これからも「おっ投稿されてんじゃん見てやろー」と思っていただける作品作りを努力していきます。
話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?
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早い方がいい
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遅い方がいい
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てめぇが勝手に決めろ