生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第二話

【ロキ・ファミリア】への入団が決まり、傷も特になかったためその場でロキに恩恵を刻んでもらう事になった。上半身の服を脱ぎ、ベッドに横たわるジーク。なぜ半裸にならなければならないのかと疑問に思わないことはなかったが、神の恩恵を刻むために必要なことだと思えば別に変なことではないかと自身の中で完結させる。

 

「そんじゃ、さっそくジークたんのきっれいな背中にウチの恩恵刻ませてもらうで~!って、なんやこれうっひょお~!ほんまめっちゃ綺麗な肌やなぁ~女の子みたいや。」

 

「……そうだろうか?色白なだけだと思うのだが。」

 

何気に気にしていることを言われて少しだけショックなジークである。彼自身この肌の色もあり幼少期から病弱だと思われ、両親には外に連れ出してもらえなかった記憶があるが、その記憶も今となってはいい思い出でもある。

先程説明を受けたが、【神の恩恵(ファルナ)】というのは神の血を下界の子供の肌に触れさせることで刻むことができるらしい。そして刻まれた人類は【ステイタス】を授かることで、モンスターにも対抗できる力が手に入るらしい。

 

ジークの背にロキの血が一滴。その瞬間「笑う道化師」ロキ・ファミリアのエンブレムが刻まれ「神聖文字(ヒエログリフ)」でステイタスが記されていく。自身の背中で行われている行為に若干のむず痒さを感じはするものの、特に変わった感じはしない。恩恵といっても刻まれた瞬間にいきなり「力が…力が漲るぞぉぉぉぉぉ!」とはならないらしい。

 

だが、それはそれとしてこんな見ず知らずな自身を拾ってくれた神と今となっては自身の上司となったフィン・ディムナに礼を言おうと口を開いた時だった。

 

「神ロキ、こんな俺を拾ってくれ「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」っ!?」

 

ロキは叫んだと同時にジークの背中から跳び退き、ゴロゴロと転がりながら部屋の壁に頭からぶつかり悶えだす。何事かと座っていた椅子から立ち上がったフィン・ディムナ。ただステイタスを刻むだけであればここまで驚きはしないだろう、つまりここまでロキを動揺させる「ナニカ」がジークの背中に刻まれてしまったのだろう。

 

「大丈夫かいロキ?その驚きようである程度は察せられるけど…彼の背には一体どんな『スキル』か『魔法』が刻まれたんだい?」

 

「あーっとな─────とりあえず共通語(コイネー)に映し出すから、ちょっと待っといてくれ。」

 

そういって深呼吸を繰り返しながら、ジークの背中に戻り羊皮紙に書き写す。ステイタスの刻まれている恩恵(ファルナ)は基本神聖文字(ヒエログリフ)で刻まれている。一部の教育を受けた者や神でなければ読み解くことはできないが、逆に言ってしまえば()()()()()()()()()()()()()。だからこそ恩恵には施錠(ロック)を掛けることができる。

 

下界の子供たちの多くは神聖文字を読むことはできない。神の文字でもある「神聖文字」はそもそもその存在すら知らないものが多かった。そして神時代が到来する遥か昔、多くの種族がその種族特有の言葉で会話を交わしおり、もちろん1コミュニティで生活を完結させる事ができるのであればそんなことを知らずとも問題なかったのだろうが、過酷な古代の環境はそれ許さない。

他種族とのコミュニケーションが円滑に、そして確実に届かせるため。古代の人類は世界共通語として「共通語(コイネー)」を生み出した。

 

そしてロキが共通語(コイネー)に変換して映し出した用紙をフィンとジーク。二人の目の前に突き出す。その額にはなぜか冷や汗のようなものが垂れており、そこまでのものが目の前に広がっているのかと二人とも視線をそちらに向ける

 

 

ジーク

 

Lv.1

 

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

 

ここまではいい。恩恵を刻んだ下界の子供の最初の『基礎アビリティ』は例外なく、すべての値が「I0」として表記される。これは恩恵が発現する前にどれだけ肉体を鍛えても、どれだけ足が速かろうと変わることはない。謂わば「外付けの能力」だからだ。

 

ダンジョンや訓練などで経験値(エクセリア)を集めることで初めて数値を上昇させることが可能になる。そして刻まれたステイタスにはもう一つ項目がある。それが『発展アビリティ』というもの。こちらはランクアップ──────階位の上昇で発現するものなのでロキが驚いたのはこれでもない。

 

ならば、ジーク自身が持つ才能ともいえるものを可視化させる「スキル」か「魔法」の欄にその秘密があるとフィンは考え、そちらに記載されているであろう部分に視線を下げる。視線を下げたと同時にフィンは驚愕を覚えた。確かにこれではロキのリアクションにも納得が出来ると思えるほどの純然たる事実がそこに記されていた。

 

 

【魔法】

 

理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)

・速攻魔法

・物体の組成を瞬時に解析し、魔力を変質・同調させ、最適な破壊を行う

・魔力量により破壊速度上昇、破壊範囲拡大

 

【スキル】

 

生還願望(イノセント・サバイブ)

・早熟する

・生きるための能動的行動(アクティブ)に全ステイタスに補正が入る。

・発動後、五分間全ステイタス低下

 

 

破格。そういっても過言ではないものがそこに映し出されていた。フィンも【魔法】か【スキル】そのどちらかが発現したものだと考えてはいたが、だがその両方だとは読めなかった。そもそもスキルは本人の資質や才覚によって発現する。魔法に至っては発現すること自体が珍しく、ほとんどの冒険者は発現することもなくその一生を終えると言われている。

 

その二つが恩恵を授けた瞬間に発現した。それだけジークの潜在能力(ポテンシャル)が優れているという事なのだろう。そう頭では理解することはできるが、気持ち的にはやはり複雑な気持ちがないとは言えない。

 

詠唱の書いていない「速攻魔法」。早熟するという「レアスキル」。ほかの神々に知られては間違いなく玩具にされるであろう下界の未知。もしもロキではなく別の、例えば団員が一人もいない零細ファミリアに所属していたら、と考えるだけでゾッとするフィン。

 

「ははっ…これはまた凄い子が入団してくれたものだね。こんな破格のスキルと魔法の同時発現なんてアイズ以来じゃないか?」

 

「そんなに凄いのかこれは。あまり実感は湧かないが……。」

 

ジークの歯切れの悪さに少しだけ疑問を覚えるフィン。これだけ冒険者の才覚に恵まれたのだから普通だったら喜んでいいはずなのに、なぜ浮かない顔をするのかがわからなかったからだ。推測ならばできる。ジークはおそらく────────。

 

「こんな爆弾(スキルと魔法)を持った俺をファミリアに入れてしまって、本当によかったのだろうか?貴方たちに迷惑をかけるのは申し訳なくなる。」

 

「……優しい子やなぁ、ジークたんは。」

 

その真意をロキも感じ取っていた。要はジークは心配で不安なのだ。自身の特異性は二人の反応を見ていたら理解できた。こういう雰囲気の子供達は大抵身体の何処かに『傷』を作っている。彼女のファミリアにもその傷を負ってしまった狼人(ウェアウルフ)がいるからわかってしまう。

 

ジークの『傷』もきっとそれと似た類いのものだ。

 

「安心しいジークたん。さっきもフィンが言った通り、ウチ等はファミリア───『家族』や。迷惑も心配もいっぱい掛けたらええ。そん時は助け合って、一緒に乗り越えればいいだけの話や。」

 

「───────。」

 

その言葉はジークの胸の内にストンと入ってきた。家族だと思っていた村の人たちを一斉に亡くした。そんな心象のままこのオラリオにやってきて、初めてあった人物がここまで自分を受け入れてくれた。その事実だけでも心が温かくなる。

 

 

 

 

 

 

「そいや、この剣ジークたんのなんやろ?明らかにオラリオ製の武器なんやけど、もしかしてオラリオに来たことあったんか?」

 

ふと、ロキはそんなことを口にする。フィンも少しだけ気になってはいた。ジークはオラリオに来たばかりだと聞いている。それなのにここまでの業物を持っているのは少しだけ違和感を覚える。しかもそれなりの業物程度ではない。特殊武装(スペリオルズ)…【不壊属性(デュランダル)】だ。ここまでの武器を用意するには、このオラリオ以外では「剣製都市ゾーリンゲン」のみだろう。

 

「確かに、どうやって手に入れたんだい?君の性格上盗んだりとかはしないとは思うけど。」

 

「……この剣は、俺の育ての親である元冒険者の貰い物だ。」

 

「「っ!?」」

 

元冒険者。オラリオ外でそう名乗る人物。確かにこのオラリオを離れた冒険者は大勢いる。だがその中でもこのレベルの特殊武装(スペリオルズ)を渡してしまえるほどの人物となると選択肢は限られてくる。ここ数年でオラリオを離れた上位派閥、闇派閥(イヴィルス)を除けば「正義の女神の眷属(アストレア・ファミリア)」かロキと同郷の「森林の男神の眷属(ヴィーザル・ファミリア)」だろう。

だがアストレアやヴィーザルのところではこの剣を装備している冒険者を見たことはない。

 

つまりもっと前。オラリオを去った第二級以上のファミリア。そんな組織をフィンとロキは()()しか知らない。

 

「(まさか…彼の育ての親は大神(ゼウス)女神(ヘラ)の系譜に関する人物かっ!?『大抗争』の時といい、それ以前といい、つくづく僕たちは彼のファミリアと繋がりが生まれるな。)」

 

「あっ、今なんとなくヤな予感したわぁ。神の勘やけど。すっごいヤンデレでサイコなヒスを感じるわ……。」

 

ゾワゾワとした嫌な予感を感じたロキ。大神(ゼウス)ではここまでの拒否反応を彼女は起こさないだろう。そこから彼の後ろにいるのは女神(ヘラ)なのだろうとフィンはおくびを出さずに感じ取る。スキルや魔法なんかよりもよっぽど大きい爆弾を抱えてしまったかとフィンは思案し始めた。

 

だが、そんなに考え込まんくてもえぇんやないか?と冷静な頭でロキは考えている。確かにあの超絶残虐破壊衝動女(ハイパーウルトラヒステリー)は嫉妬深く、神々の中でもかなり恐ろしい女神として有名だが、それはそれとして気に入っている子供達や、特に自身の眷属には「慈愛」をもって接していた。

 

そんな彼女が自身の眷属の育てた子に不快感を覚えさせることはしないだろう、と判断することができる。それにロキ自身はそこまでヘラの事を嫌っているわけではない。昔、まだ新興ファミリアだった【ロキ・ファミリア】の初期団員たちと共にそれなりに世話になった神であるのは確かな事実である

 

……あの「黒き災厄」の一件でゼウスのファミリアと共にオラリオから追放されてしまい、それによりオラリオ最悪の「暗黒期」を起きてしまった。これらはあの頃のオラリオに居たファミリアすべての神に責任があることだ。

 

「まぁ、あんま深く考えなくてもええやろ。ジークたんはジークたんなんやし。それよりもっ!さっさと家に戻ろうや~ジークたんの指導してくれる子も決めんといけんしな!」

 

「ジークの歓迎会もしないといけないしね。酒場の方とファミリアには連絡しておくよ。ロキはギルドの方に報告してから、酒場の方に来てくれ。」

 

「おう、わかったで~。」

 

そういってフィン・ディムナが出ていき、部屋にはロキと半裸のジークだけが残された。上着を着ながらジークは不思議な人達だと改めて思う。自身が彼らの未来において悪い影響を及ぼすかもしれない。それなのにこうして身内として迎え入れてくれている。

それがたまらなく嬉しく感じる。

 

 

 

▼▼

 

 

 

一息をつき、ロキと共に養生施設から出てこれたのが、そこでもジークは驚きの連続の嵐だった。まず、自分たちが今までいたのがこの街でも最も目立つ「バベル」と呼ばれる塔の中だったらしい。本来であれば冒険者の治療でしか使われることのないものだが、今回は冒険者が犯した一件ということもあったため、そちらに運ばれることになったらしい。

 

さらに聞くとこの下には【迷宮都市】の名の所以ともいえるダンジョンが広がっており、無数のモンスターが蔓延っているらしい。

 

「モンスターがここから地上に出てくることはないのか?」

 

「ン?あぁそれに関しては大丈夫やで~。ウラノスっちゅー神がおってな?そいつがギルドの奥の祭殿で、ずぅぅぅぅぅぅっと引きこもって祈祷を捧げとるから、基本的にモンスターは生まれた階層から移動してくることはないんや。」

 

ということはギルドは【ウラノス・ファミリア】ということになるのか?というジークの質問に、ロキは「あくまであそこは中立、恩恵を刻んでいる子はおらんよ。」とのことらしい。それでは「中立」の立場としての抑止力を持たないのでは?と不思議な違和感を感じるジークだったが、それも神ウラノスの人徳…もとい「神徳」のなせる業なのだろうとここまで考えていた思考をギルドに着いた為、止めることにした。

 

ギルドには五日前の事情を知っているものが何人おり、ジークを見てその横のロキを見た途端に一斉に道を譲り始めた。そんな光景に自身の恩恵を得た神はここまでこのオラリオで力を持つ神だったのかと改めて理解することができた。

 

「おっ、居た居たエイナた~ん!」

 

ロキが受付のエルフに話しかける。エイナと呼ばれたそのエルフはセミロングのブラウンの髪と翠玉色(エメラルド)の瞳。女性の凹凸がしっかりとしている肢体はその場にいるだけで男性を魅了できるだろう。それだけの魅力を彼女は持っているとジークは感じた。

 

「……?か、神ロキ?本日はいったいどういったご用件で…って、その子はっ!?」

 

「んー?あー!そういやエイナたんだったな!ジークたんの応急処置の指示を出しとったのは!あんときはありがとぉな!おかげでジークたんをウチのファミリアに迎え入れる事できたわ!」

 

「迎え入れるって……まさか、恩恵を刻んだんですか!?この子に!?」

 

エイナが驚くのは当然、無理のないことだろう。自分がこうして救ったはずの少年が次に会った時にはすでに恩恵を刻んだ冒険者になっているという事実は、彼女の性格上驚かない方が()()()()()。彼を連れてきたのがロキという「神」だったからこそ、怒りに身を震わせているだけで済んでいるが、もし目の前の人物が冒険者、ないしはエルフの中で最も崇拝し、敬われていて彼女の母親とも交流の深い王族【九魔姫(ナイン・ヘル)】「リヴェリア・リヨス・アールヴ」でも掴みかかっていただろう。

 

それだけ、今のエイナは神ロキに、そして何よりもジークに対して怒っていた。

 

彼の非力さは彼女が身をもって知っている。先ほどロキも言っていた通り冒険者に突き飛ばされたの彼の対応をしたのは彼女だ。当時は「冒険者」と「非冒険者」というあらゆる能力が違う存在であったとはいえ、応急処置をした際に感じた線の細さは冒険者としてやっていけるとは到底思えなかった。

 

わなわなと震えるエイナに対して、「あかん、なんか地雷踏んだかも…」と戦慄し始めるロキに対して、彼女はなぜこんなにも怒っているのだろうかと他人事のように考えているジーク。ギルド内の雰囲気はそれはもうとてつもないことになっており、入り口からいつも通り換金しに来た冒険者のパーティが「あっ、今日はやめとこ」と即決即断して引き返していった。

 

そんな空気が長く持つわけもなく、一歩自身の方に踏み込んだエイナにビビるロキには、彼女が発した提案を拒否することはできなかった。

 

「……神ロキ、彼の迷宮アドバイザーは私が勤めますけど、よろしいですよね?」

 

あっはい、大丈夫です──────とロキは先程迎え入れた眷属を早速売り払ったのだった。




誤字報告をしてくださった「okaz」様「天羽風塵」様、ありがとうございました。

引き続き、感想や誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。
もちろん批判も大歓迎でございます。

ちなみにこの執筆中にソード・オラトリアを買いました・・・・・・・。

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