生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第三話

「おっしゃー、今日はぁジークたんの入団祝いやぁー飲め飲め―‥‥‥。」

 

うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉと野太い声が酒場中に響きわたる。あまりにも頼りない音頭を出した主神(ロキ)のことなんてお構いなしに、自身の目の前に広がるご馳走を食い漁り始める。冒険者という者たちは繰り返される生死の境目で生きている。だからこそ上手い飯、上手い酒が飲み食いできるというのであれば、暴食の限りを尽くす。

 

さらにそこに、オラリオでも有数の美人揃いのウェイトレスがいるとなれば、男どもは景気よく注文を繰り返す。といってもこういう場では、大抵ファミリアが代金を支払うため、いつも懐が寒い冒険者たちにとってはめったにない席であり、ウェイトレスも「ファミリアが払うなら」と遠慮なく高い酒を進めてくる。

 

ここは「豊穣の女主人」

オラリオに数多ある酒場、飲食店の中でも特に冒険者にはとくに人気な酒場。ロキがここの店主をいたく気に入っており、さらには可愛い女の子のウェイトレスもいるとなれば贔屓にしないほうが可笑しいと彼女をよく知る眷属や神は語る。

 

「──────ねぇ、ロキ元気なくない?なんかあったのー?」

 

ひとりの少女が言を発する。健康的な種族特有の小麦色の肌、アマゾネスの露出が高い衣装に身を包みつつ、上も布一枚を胸元に巻いているだけという扇情的な恰好。だがその天真爛漫な雰囲気でファミリア内でも分け隔てなく接することができる。

 

『ロキ・ファミリア』幹部Lv.5【大切断(アマゾン)】ティオナ・ヒリュテ

 

「だとしても、ロキがあそこまで凹むことってなんか思い当たる?」

 

それに合わせて、ティオナと身体の一部以外そっくりな女性が声を出す。双子の妹との相違点といえばその長い長髪と胸部装甲だろう。よく恨みったらしく妹が自身のものを見ていることに少しだけ優越感を持つが、異性を引き付けようとするその蠱惑はその場にあることはあっても、振り撒かれることはない。だがその思い人に「今日は少し遠慮してくれ」と言われ、少しだけ不貞腐れている。

 

『ロキ・ファミリア』幹部Lv.5【怒蛇(ヨルムガンド)】ティオネ・ヒリュテ

 

「だとしたら、やっぱりあの新しく入団したヒューマンが原因なんじゃないですか?」

 

二人の声に山吹色の髪を後ろに束ねた、エルフの女子が乗りかかる。もともとエルフという種族は男女揃いも揃って美男美女に整っている。その中でもまだ「可憐」という言葉が似あう、まだ咲き誇っていない未熟な森の妖精

 

『ロキ・ファミリア』Lv.3【千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤ・ウィリディス

 

この三人のなかで、レフィーヤは憤りを感じていた。ティオナが言っていた通り、ロキの覇気がいつもよりも無い。この「豊穣の女主人」で宴会をするときはいつもいつも五月蝿いほど煩わしいはずのロキがあそこまで元気がないのは稀だ。

 

だがそんなことはレフィーヤにとってはどうでもよかった。そんなものよりも重要なのは彼女が何よりも敬愛し、憧憬する人物が新人の、入団したばかりのヒューマンに取られてしまったのだから当然だろう。

 

 

少し離れた席。今回の主役でもあるジークと一緒に座っているのは団長のフィン、副団長のリヴェリア、最高幹部の一人ガレス。そして金髪の、エルフや女神すら霞み引けを取らないほどの容姿を持つ一人の少女。

 

普段、近づきたくても近づけない第一級冒険者のなかでも、特に選りすぐりと言われる「Lv.5」一人と「Lv.6」三人という破格のメンバー。この四人だけでも中規模のファミリアを相手取って無双できるほどの戦力が揃っている。

 

「紹介しよう。ンー僕は名乗ったからいいとして、まずはリヴェリアかな。」

 

「リヴェリア・リヨス・アールヴだ。一応このファミリアの副団長をしている。よろしく頼む」

 

「次は儂だな。ガレス・ランドロックじゃ。」

 

リヴェリアに続き、ガレスも名乗りを上げる。この二人がロキ・ファミリアの最高幹部「三巨頭」の二人なのだと改めて実感する。この宴会の席に座る前に色々とロキから聞いていた彼らの武勇は計り知れない。そしてそんな彼らと同席している彼女こそが、このオラリオ内でも一二を争うほどの有名な人物───────────。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン、です……。」

 

 

『ロキ・ファミリア』幹部Lv.5【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「(─────なんだ?彼女を見ていると、不思議と気分が高揚してくる?どういうことだ?)」

 

自身の内側から燃えるように炎のように燻り始めた感情に違和感を感じる。今のところ嫌な感じはしないが、どこかむず痒い。初めて感じる感覚にジークは少しだけ不快感を覚えたが、顔には出さない。これから家族となりともに生活していくなかで悪感情を見せてしまうとやりづらくなるだろうと考えた結果だった。

 

「フィン・ディムナ、すまないが一つ聞きたい。何故この人選なんだ?」

 

「何故、というとそうだな・・・リヴェリアとガレスはファミリアの幹部だ。いつかこの二人にも見てもらう事があるだろうし、なにより二人とも僕が連れてきた子ということで少し気になっていたらしいからね。」

 

事が事だったとはいえ、団長が直接出向き、尚且つそのタイミングで謝礼だとはいえファミリアにフィンが迎え入れた彼をリヴェリアとガレスが気にならないわけがなかった。現に同じ席に着いてからはリヴェリアもガレスもジークを観察し続けている。

 

彼らもジークの事は聞いていた。どこか大人びて達観した年不相応の少年。出された食事に一切口を付けずにこちらを見据えてくる。まるでこちらの裏側を見据えてくるように覗き込む視線に久方感じていなかった感覚に襲われる。

 

といってもジーク自身は出されたものを食べようとしてもこれだけ注目されてるなかだと食べるに食べづらいというだけであり、食べてもよいのかと視線を彷徨わせているだけだった。

 

「なら、【剣姫】とは何故だ?幹部であるという理由なら、ほかにもいるのだろう?」

 

「それは、純粋に僕の私情だよ。君とアイズを会わせてみたかった。それだけだ。」

 

そんなことをいうフィンに、内心で舌を巻くジーク。彼の一種の「勘」のようなものは間違いなく下界の未知ともいえる一種の異能。そしてジークが感じ取っていた違和感をアイズ自身も感じていた。ジークの名前を聞いた時からどうにも自身の身体が落ち着かない。さらにはフィンに紹介されて酒場で一緒の席に座った時、一目見た瞬間にその違和感は確信的なものに変化した。

 

彼は、どこか自分と同じような者なのかもしれないと。

 

 

 

 

「ねぇ~ロキ~どうしたの~?元気ないじゃん。」

 

ティオネがロキに話しかける。あまりにも凹んでいる彼女に自分たちだけ楽しんでるのがだんだんと申し訳なくなってきていたファミリアの団員を代表として声を掛けたつもりだったが、どうにも覇気がないロキに調子を狂わされる。

 

いつもは一番乗りに酒場に入っていく彼女だが、今回はジークと一緒に入ってきたこともあってか比較的最後に店に入店してきた。その時からすでに元気はなかった。最初はそんなこともあるよね~と感じていたが、宴会が始まってそこそこ経った今でもこんな風に落ち込んでいる。

 

「ぅあ~、ティオネかぁ。いやな?ちょ~っとエイナたんにめっちゃ叱られてもうてな……。」

 

 


 

 

話は数刻前に遡る。

 

エイナの提案に速攻ジークを売ったロキはそのまま談話室にぶち込まれた。三者面談のような形で座らされたジークは困惑したように二人の様子をおろおろとしながら、見比べる。片方のエイナはロキに対して人を見る目(実際に見ているのは神なので人ではないのだが)ではなく完全に冷め切っている。初対面のジークでさえ、彼女を怒らせてはならないと確信できる眼光を放っていた。

 

そしてもう片方のロキと言えば、それはもう親に怒られる子供のように縮こまっている。これではジークが何を言っても聞く耳を持たないエイナから庇おうとしても難しいだろう。

 

「そもそも神ロキ!最近あなたは神という立場を利用してギルドの職員にセクハラばかりして!ギルドはあなたの玩具箱じゃないんですよ!聞いてるんですか神ロキ!」

 

「はい、ほんま、すんません……」

 

だが、すでにこの部屋に入ってから一時間は経過している。それだけ普段からのロキへの不満があったのだろうとは思うが、窓から差す西日はそろそろ沈みそうになっている。無理やりにでも止めるべきかと、思案し無謀への挑戦だとわかっていながらもジークは口をはさみに行く。

 

「えっと、すまない。エイナでいいだろうか?俺は納得しているのだし、そもそもロキに眷属にしてくれと頼んだのは俺自身だ。そこまでにしてくれないだろうか?そろそろロキのこの姿は見ていて心苦しい。」

 

「っ!元はと言えばキミがっ───────!」

 

今度は止めに入ったジーク自身に矛を向けようと椅子から立ち上がるエイナだったが、そもそも今回の一件では彼は被害者であり、攻めるのはお門違いだと冷静に思考を回して、一回深く深呼吸をする。

 

─────何か全く関係のないことまでロキに対して怒っているような気もするが、そこはあまり気にしないでおこう。

 

「‥‥‥‥‥確かに、ニーヴェルン氏が望んで恩恵を刻んだというのなら、中立の立場でもあるギルド職員の私が声を上げるのは理屈に合いませんね。」

 

そういってエイナは頭を冷やそうとし、横においてあった水を呷る。喉を通る少しぬるめの水が逆上せた頭にはちょうどよかった。彼女の友人がもしこの場に居れば普段とは違った様子を見せる彼女のことを珍しそうに見つめるのだろう。

 

「……申し訳ありませんでした、神ロキ。途中無礼な物言いをしてしまい、心よりお詫び申し上げます、如何様にも罰は受けましょう。」

 

「い、いや、ええんやで………エイナたんの不満はわかるしな。」

 

ロキは凹みながらも、エイナの謝罪を受け入れる。というよりも凹みすぎてもうどうとでもなれといった感じだ。ジーク自身もひとまずは収まったかと安堵しつつも、ここまでの話し合いは結局のところ「ジークの冒険者登録」をするかしないかに帰着するだろう。

 

「……ひとまず、冒険者登録はまた後日にしてもらってもいいだろうか?今度は神ではなく先達の冒険者を連れてくることになるだろうが、問題ないだろうか?」

 

「私どもとしても書類の用意などもありますので、そちらの方がありがたいのですが、その神ロキは大丈夫でしょうか?先ほどから心此処に在らずのような状態ですが……。」

 

「問題ない、もともと俺の問題だ。それに収穫もあった。今日はそのことで満足しておく。」

 

彼の言う「収穫」が一体何なのかわからないといった風のエイナは、言を発したジークに疑問を向けた。そのことに何を言うかと少し呆れたように、そして然も当たり前のことのようにエイナに向けてその事実を話した。

 

「だって、貴女のような優秀なギルド職員が俺の担当職員になってくれるのだろう?ならばこれ以上を今望んでしまうのは、少し強欲というものだろう。」

 

 


 

 

話を聞いたティオネは自分もよく知るあのハーフエルフのギルドの職員が新人の担当になったことに少し不思議だった。それはなぜか?基本的に【ギルド】というのは中立の組織だ。冒険者の依頼を斡旋したり、魔石の換金など、このオラリオには必要不可欠ともいえる組織ではあるが、今回の場合でもある新人の担当決めには必要がなかったはずだ。

 

多くの新人の冒険者は、まず初めにギルドの職員が担当に着くことになっている。それはダンジョンの事を右も左もわからない新人に、教えることがそれはもう大量にあるからだ。モンスターの種類。迷宮の構造。冒険者としての心構え。それらを教えられる人材がファミリアに居ないから、というのも理由の一つ

 

だがジークが加入したのは都市最大派閥【ロキ・ファミリア】第一級の冒険者が有名だが、第二級、第三級と初心者を教育できる環境はギルド以上に揃っている。知識を蓄えるためにギルドの手を借りる必要があまりないのだ。

 

「んー、そんなのいつも通りにこっちでやるって言っちゃえばよかったじゃーん。」

 

「ダメやっ!あんな気迫のエイナたんに「ウチらでやるから~」なんて言えへんかったわっ!明日またギルドに行ってみて、話してみるわぁ─────あぁ!もう!湿気た空気なんてウチには似合わんっ!今日は無礼講なんやから、滅茶苦茶に呑むでー!!!呑み勝負やガレスぅぅぅぅぅぅ!」

 

「おぉ!やっと再起しおったかロキ!どれ、一献つき合ってやろう。」

 

そういってフィンたちと話していたガレスも巻き込んで、呑み勝負を始めてしまったロキ。周りの団員も巻き込んでどんちゃん騒ぎの大騒ぎ。ようやくいつもの調子を取り戻したロキにティオネは安心した。フィンもリヴェリアもガレスに倣ってなのか「後は任せる」といった具合にアイズにジークを任せて席を離れる。残された二人は気まずそうにしつつも会話できているところから、周りは少し驚きを覚える。

 

彼女……アイズ・ヴァレンシュタインはオラリオ内、そしてファミリア内でも神聖視される冒険者の一人だ。その類い稀なる容姿もありつつ遠目から見られることはあっても、話しかけられることは一部の中の良い女性冒険者以外ほとんどいない。

 

そんな彼女が新人と仲良さそう(当社比)に話している。その光景はレフィーヤにとっては衝撃的なものだった。

 

「‥‥‥‥‥」

 

「ちょっ、レフィーヤ?急に立ち上がってどうしたのって!レフィーヤ待った!」

 

立ち上がったレフィーヤは幽鬼のような歩みでジークとアイズの方に近づいていく。ティオナの制止の声すら無視し、そちらに歩いていく。これは不味いと思い抑え込もうと動こうとしたがそれもどうやら遅かったらしい。

 

「……?どうしたのレフィーヤ?ここ、座る?」

 

「(─────まだ食べられそうにないな、これは)」

 

ドンっという大きな音を立てながら、レフィーヤは会話をする二人の間に割って入る。アイズはいきなりこちらにやってきた後輩を不思議に思いつつ、席に座ってもらおうと椅子を一つそちらに向け「座る?」と小首を傾げる。

 

一方ジークと言えば、やっと食事にありつけるかと考えていたところの乱入者だったので少しだけむっと表情を変えるが、なぜか目の前に自身以上に怒っている存在がいるということを理解した途端、息を呑む。この時ジークは彼女が恩恵を刻んで間もない自分よりも、遥かに強いことを本能的に感じ取っていた。

 

「‥‥‥‥‥はい、同席させてもらいますね。ティオネさんとティオナさんも呼んできます。」

 

「───そういうことなら、男がいては話しづらいだろう。俺は別の席でっ!?」

 

アイズに華やかな笑顔を咲かせながらも、その裏にとてつもない圧を内包している彼女にたじろぎその場を離れるために立ち上がろうとするジークだったが、次の瞬間にはガシッと両腕を掴まれて、座らされる。片方は優しく触れながらも第一級の【力】で抵抗させる間も与えないアイズ。

 

そしてもう片方は、アイズよりも華奢な腕ながらも、こちらは加減をする気がないように力強く椅子に引き戻す、この場から逃げ出そうとした元凶でもあるレフィーヤ。

 

「………まだ、話したい。」

 

「えぇえぇアイズさんもこういってますしそれに今回の宴会の主役を一人にさせるわけにもいきませんから貴方も早く座ってくださいいいですね?わかりましたか?」

 

片や天然に可愛らしく、片や矢継ぎ早に圧を込めて。

 

両者の感じている思いがここまで真反対に感じるのはきっとジークの気のせいではないと思いながらも、座らされた席においてある水を呷る。冷えた水が喉を通る感覚に少しだけ眩暈が起きそうになり、確かに冷静に思考を回そうとするのなら程よくぬるくなったものの方がよかったらしいと、内心でエイナに対して同意の意を示した。




誤字報告をしてくださった「クソ眼鏡3号」様「ゆう太郎」様、ありがとうございました。
多くの感想もすべて目を通しています。幾つか質問いただいたのでこれから毎話一つずつ答えさせていただきます

Qもしかして、ジークくんショタ?

A今作のジークくんは原作開始一年前、ということもあり14歳という設定でやらせてもらっています。年齢的にはレフィーヤと同い年ですね。つまりミドルショタ!ショタですよ!


引き続き感想や誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。
もちろん批判も大歓迎でございます。



愛用のコーヒーポットが割れました………。くそう(泣)
あ、あとアンケートを実施しますんで是非投票お願いします。

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