生還を望む竜殺しの冒険譚 作:瑠衣
ジークは困惑していた。
何故こんなにも自身の周りはここまで騒がしくなっているのだろうか?と。
右を見れば、金の髪の美女が一心不乱に何か揚げ物のようなものを食べており、その頬を栗鼠のように膨らませている。それを面白そうに突きながら見ている褐色肌短髪のアマゾネス。そして左を見ればそんな彼女に呆れつつ、乾き物をつつく長髪と身体の一部以外違いがあまりないおそらく姉妹のアマゾネス。
そして、何故か彼女たちと話すときは満開の笑みを浮かべつつ、こちらを見るときは滅茶苦茶な圧を掛けてくる山吹色の妖精。正直、ジークにはここまで恨まれる謂れは無いように思えるが、どうやら彼女にはそうではなかったらしい。
「(─────視線が痛い。)」
「(どうしてこんなヒューマンがどうしてこんなヒューマンがどうしてこんなヒューマンがどうしてこんなヒューマンがどうしてこんなヒューマンがどうしてこんなヒューマンがどうしてこんなヒューマンがどうしてこんなヒューマンがぁ!?)」
ジークの心情とは裏腹に、レフィーヤの内心は荒れに荒れ狂っていた。親愛なるアイズ・ヴァレンシュタインと一体何を話して盛り上がっていたのかなんて彼女は知らない(実はちょっと聞き耳を立てていた)し、興味もない(嘘)が、それはそれとしてあんなにも仲良く話をしているのは納得いかない。
このヒューマン、どうしてくれようか…と頭の中で思考を巡らせていると、アイズの隣に座っていたはずのティオナがジークの隣に座って楽しそうに話していた。
「えー!じゃあジークは英雄譚とか物語とか読まなかったの!?」
「あぁ、そういった類のものは
「それは…どうしてそうなったの?」
物語は読んだことないのにその内容は知っている。という余りにも不可解なことを話すジークにその話を聞いていたティオネも意味が分からないというように言葉を零した。本というものはそれなりに高価であり、嗜好品に近いものになっているがそれでも幼い子供に寝物語として、いろいろな話を聞かされることは多い。
現に、ティオナは幼いころ英雄譚の一つでもある「アルゴノゥト」を読んでもらったこともあり、そのほかの英雄譚もそれを踵として読むようになっていったほどの神々の言うところの「英雄譚オタク」になっていったのである。
「じゃあ騎士ルドルフがミオソティスを贈ろうとした恋人の名前は?」
「確か、ベルタだったか?」
「うんうん!合ってる!それじゃあシグムンド王とヒョルディース妃の国の名前は?」
「………フラクランド」
「凄い凄い!合ってるよ!」
ティオナが出した問題を幾つか答えるジーク。そのどれもがティオナの知っている物であり、彼が本当に物語を読んだことないのか不思議になるほどだった。問題に答えていたジークもまさか自分がここまで覚えているとはと、少し驚いていた。
確かに不自然な言い回しだっただろう。言ったのは確かにジークだが、事実そうなのだ。彼はこの世界で物語として綴られている英雄譚や喜劇、悲劇を読んだことはない。知識としてこのオラリオに来る前に聞き、知っただけの情報が物語の「全て」であっただけ。
「………詳しいですね、随分と。」
不貞腐れたように言うレフィーヤは、むしゃくしゃしたようにサラダを食べる。もう何も気にしないといった具合のジークも我関せずという形で(行儀が悪いと理解しながらも話しながらも)ようやく食事にありつけていた。
食事を食べてまず最初に感じたのは強烈な旨味だった。ただの煮魚がここまで美味しくなるのか!?と驚愕を覚える。酒と合わせるように少し濃いめに作られた味付けだが、横に備え付けられている付け合わせが程よく中和してくれていて、それでいて飽きさせずに客が食事を運ぶように他の皿もバランスよく配置されている。
そして酒、はジーク自身あまり得意ではないし飲み慣れてるわけではないが、この酒は上等なものだと一口で感じることができた。甘口で、さらさらと飲めるというわけではなく程よく喉に刺激を与えてくる飲み心地。
なるほど。神ロキが気に入っており、ここまで酒と食事が美味いのであればオラリオ内でも特に人気な酒場と言われているのは納得だ。女性好きの主神が好みそうな可愛らしい店員しかいないのなら猶更というもの。
「(それにしても────……ただ可愛らしいというだけでもないのだろう。)」
一人ひとりが、周りの彼女たち程では無いだろうが、それなりの手練れなのが体捌きを見ていてよくわかる。特にたった一人で厨房を回している、ジークよりも10c以上高いであろう身の丈を持つ女性。間違いなく彼女はこの場で誰よりも怒らせてはいけないと、確信できてしまった。
「飲んでいますか?冒険者さん?」
周りを観察していると、給仕服を着た一人の定員がこちらに話しかけてきた。薄鈍色の髪をした如何にも人当たりのいい少女。ほかのウエイトレスたちには感じていた「力を持っている者」の圧のようなものはない。本当に普通の一般人なのだろう。
「あぁ、本当に美味しく頂かせてもらっている。まさか酒場にきてここまで上等な食事が出されるとは思ってもみなかった。」
「ふふっ、お昼はもう少し安値でお食事を提供してるんですよ。その分ちょっとだけ夜はお高めになってるんですけどね。」
周りはそれを聞いて(ちょっとか………?)と小首を傾げる。ここの昼の値段相場は三〇ヴァリス程度。これだけでもオラリオの平均相場で考えれば二倍という破格な数字だが、夜になるとその十倍に膨れ上がる。
今ジーク達のテーブルに広がっている料理を見て、値札を確認してみたら単純計算で少なくとも三〇〇〇ヴァリス以上はかかっているだろう。これが、貸し切り状態の店で一体いくつのテーブルの上に広がっているのかと考えると自身が支払いを持たないとわかっていても背筋がゾッとする。
だが、ジーク自身は責任を感じている。ここで支払われる金は全てファミリアの固有の財産のはずだ。全員が少しずつ少しずつ貯めていった冒険の証。それを使ってしまっているのだという罪悪感はどうにも抜けない。
きっと周りは「そんなことは考えなくていい。」「固く考えるな」というだろう。現にこれはファミリア全体の事案であり、一個人が抱えていい問題ではない。ならばこれ以上語る必要はない。今は目の前にある飯を喰らって、酒を飲んでおこう。
生きるために金を掛けて何かを食す行為自体、割と久しぶりではある。ここに来るまで基本的に野生動物を狩って生き繋いできた。久しぶりの食事がここまで美味なのだ。味わって食べなければ罪だろう。
「すまない、この魚料理お代わりを頼む。」
「───っ!はいっ!かしこまりました!これに合う美味しいお酒も持ってきますねっ!」
なにか良いものを見たような笑顔で注文を聞き、そのまま厨房の方に戻っていく従業員。何か視線を感じ、振り向いてみると一緒のテーブルに座っていた彼女たちの視線を、ジークは独り占めにしていた。何か不味いことでもしてしまったのだろうか?と疑問に思わなくもないが、周りのあちこちも先ほどのジークのように注文をしているため、間違っては無いはずだと考える。
「………なーんか、ジークってああいう子が好みだったりするの?」
「───………すまないティオナ。どうしてそんな考えに至ったのか、聞いてもいいだろうか?」
えー!だってぇ!と声に出そうとするティオナの肩に、ぽんっと手を置いて首を横に振るティオネ「こいつはきっとこういうやつだから」と諦めるような仕草で発言を止める。アイズは二人が一体何を感じたのかをまるで理解していなかったが、それは彼女がジークと同じ気質を持っているからに他ならないだろう。
そしてレフィーヤはと言えば、「(この女たらし、すけこまし、やっぱりこういう大人しそうな外見してる奴がすぐに手を出そうとするんだからこの手の輩は)」と所々文章がおかしいような呪詛を吐き連ねている。
彼女ら(アイズ以外の三人)が感じたのはジークのあまりにも天然無自覚ジゴロのような態度だった。彼女はこの酒場の看板娘と名高い従業員だ。それを知ってか知らないでかここまで完璧に表情を整えて、微笑みながら注文したのだ。
先程まで彼女たちと話していたときは特に表情を変えずに淡々と話を聞いて、答えていたはずの目の前の少年が、給仕の注文には文面で見れば不愛想ながらも微笑みながら頼んだ。そのことに、特にアマゾネスの二人は若干女性としてのプライドを傷つけられていた。
そんなことはお構いなし、というより気づいてないように運ばれてきた食事に夢中になっているジーク。アイズはそんな彼を見て小動物のような愛らしさを覚えていた。
「(ちょっと、可愛い………?)」
料理を目いっぱい頬張るジークをボーっと見つめ頭を撫で始めるアイズ。そしてそれを見てしまって更に嫉妬心を向けるレフィーヤ。修羅場というものがあるというのならばきっと此処に在るのだろう。
そしてそんな彼らを遠目から見つめていたフィン、リヴェリア、ガレス、ロキは彼が問題なさそうにファミリアに馴染めているようで少し安心する。ティオネとティオナのアマゾネス姉妹は時間がたてば仲が良くなるのは性格的にわかってはいたが、アイズ自身があそこまでジークの事を気に入ったのはよかったかもしれない。
ランクアップして二年、ヒュリテ姉妹にもレベルで追いつかれたこともあり最近は殺気だってダンジョンに向かっていたが、ジークの加入は彼女にとっても良い影響を与えれることができるだろうか?と少し期待していたフィンは思わぬ収穫だったかな。と思うことができた。
「にしても、あんな風な顔もするんだね、彼。」
「………そやなぁ、目が覚めた時の最初のあの表情見たウチは「この子は危ういなぁ」って思っとったけど、杞憂だったんかなぁ?」
目覚めたときに二人とも感じていた。ジークはどこか危うい雰囲気を持っていた。「生きる」こと自体が目的という「曖昧さ」がロキには少し怖く感じていた。その目に映るものが一体何なのか神の身である自身にも理解できないある種の「下界の未知」
いつものロキであれば神の間で下界の醍醐味ともいえるその未知に、喜びを噛み締めているだろうが、自身の子どもがその未知を宿してしまっているのはあまり好ましくない。
「(それに、ジークたんも何かウチ等に色々と
未だに、ジークは全てを話しているわけではない。というよりも話している時間的余裕がなかったということもあるが、根本的に何かを隠している感覚は神であるロキには伝わってくる。それが一体何のようなことであっても受け入れることはできるだろうが、それはきっとアイズと同様のものだろうという確信がある。
フィンにアイズとジークを会わせようと提案したのはロキだ。
ロキのその提案にフィンは賛同し、アイズとジークを引き合わせた。神の提案に乗りながらもフィンはアイズ自身の憤りの解消を目的としていたが、ロキは自身の性質に似ている雰囲気を持つジークの秘密を少しでも感じ取ろうとした策であった。
「まっ、焦って探る必要もなさそうやな。アイズたんとジークたん。まさかウチが男の子も好きになっちゃうとはなぁ~。それともジークたんが特別なんかな?」
そうして宴会も終盤となり、ボチボチと解散の雰囲気を出し始めていた。吞み足りない者はその足で、別の酒場に向かい、高ぶった感情をぶつける先を見つけるために歓楽街やダンジョンに向かう準備する者もいる。
かくいうジークも、明日以降の生活もあると考えロキやアイズたちと共にロキ・ファミリア
門番らしきエルフの男はロキ達と一緒に帰ってきたジークの事を訝しんでいたが、「彼は新入りだよ。」というフィンの言葉に、渋々門を開けた。だがその視線には侮蔑にも似た感情がこもっているのをジークは感じてしまった。彼に何かしただろうか?と疑問に思うが、この場所に来たのは今日この時が初めてのはずだ。
なら、原因はジークであってもジークではない。「ロキ・ファミリアの新人冒険者がこんなひ弱そうな奴が加入するなんて」といったところだろうか。確かにジークはそこまで線が太いというわけではない。オラリオに入る時もそのことに言及されもしたが、そんなにも自分はひ弱そうに見えるだろうか?と少しだけ遺憾に思う。
ジークは少しでも謝罪を伝えようと一度頭を下げて、門を潜ると男は憎らしそうに睨みつけた。生意気な新人が煽るようにこちらに頭を下げたのだ。それはもう怒髪天を衝く勢いで怒り心頭といった様だった
「………くそっ、なんであんな奴が。」
男はそのまま交代の団員に仕事を引き継ぎ、そのまま夜の街に消えていった。
一問一答質問コーナー
Q・・・を…にしない理由は?
Aはい、これですね。気づいた方もいると思いますが、前話から全ての「・・・」を「…」に変えています。よくよく考えたらこれ読みずらいですね。何名からも貰ってたので変更させてもらいました。
誤字報告をしてくださった「minotauros」様「みえる」様、ありがとうございました。
引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でごぜぇますぜ。
ジーク君の解釈違いとかあったら怖いぜ……。
話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?
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早い方がいい
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遅い方がいい
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てめぇが勝手に決めろ