生還を望む竜殺しの冒険譚 作:瑠衣
ジークにとってのオラリオ二日目。
あの後、割り当てられた部屋のベッドで一夜を明かした。育ての冒険者が用意してくれていたあの大量の干し草を山のように盛って眠るのも、誘惑的な魅力があったが、しっかりと人の手が行き届いたベッドというのも、寝やすくていいものだとジークは感じることができた。
身支度を整えて、部屋を出る。腰の剣帯には育ての親から貰い受けた彼女の仲間の冒険者の剣である【カリゴランテ】を吊り下げる。自分のものではない重みがオラリオに来る前でも、この頼もしさは変わっていないことに安堵する。
彼女はいったい今、何をしているのだろう?村を出て、連絡を取ってはいないがきっとあの人の事だ。元気に村の人と過ごしているはず。聞くところによると生真面目なくせして割とアグレッシブな彼女だからこそ、村の人たちも喜んで村に入れてもらったらしい。女性に力仕事をさせるのは気が引けていたらしい村長も、彼女の働きっぷりには開いた口が塞がらなかったようだ。
「おっ、おはようっすジークくん!よく眠れたっすか?」
部屋を開けて最初に視界に入ったのは、昨日この男子塔を案内してくれた第二級冒険者【
そんな彼がどうしてジークのところを訪ねてきたかというと、今日は彼の案内でホームである「黄昏の館」を案内してもらうという予定になっていた。だがそのラウルの表情があまり芳しくない。何処か苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべている。
「ラウルか、すまない身支度を整えていたら少し遅くなった。あまり表情が優れないようだがどうかしたのか?」
「あー、いや、そのっすね………今日自分が案内する予定だったんすけど、急遽予定が変わっちゃって────────」
「私が案内と共にギルドに足を運ぶことになった。」
第三者の声が響き、そちらを振り向く。そこにはこのファミリアの副団長でもある【
文献を読んでみれば、エルフは基本的に自身が生まれた森の中から出ることは無いらしい。それも王族であるハイエルフが外界に出るのは数年に一度などに開かれる伝統的な行事のみであり、その姿を他種族が見ることは無いに等しい。
だというのに、このオラリオには
「り、リヴェリアさん、様?ご機嫌……麗しゅう?御座います………?この俺に何か用か………ですか?」
「なんだその下手な敬語は………お前が接しやすい態度でいい。」
「…………すまない。そうさせてもらう。」
まさかここまで自分が敬語が苦手だとは思ってもいなかったジークは今度しっかりと練習しておこうと、心のうちに留めておく。そうしておかなければ今後変なやっかみを受けるだろうという直感が妙に働いた。
リヴェリアはというと、大体目の前の新人が何を考えているかおおよそ予想がついていたものの、自派閥はともかく、他派閥を相手する場合であれば多少は言葉遣いを学んでおいた方がいいとは感じている。
昨日の時点でジークは良くも悪くも天然で、人をあまり区別することなく見ることができる人物だと見ているリヴェリアは、あの後フィンに彼のスキルと魔法の話を聞いていた。あれを見たとき、ジークはアイズ以上の問題児になるかもしれないと危惧することになった。
だが、酒場でアイズがあそこまで楽しそうに話しているのを見て、フィンと同様に良い予感というものを感じていた。ジークの加入を機にアイズのあの「衝動」を抑えることができる可能性があるのであれば是非と迎え入れたいと思っている。
だがそれには一つだけ、問題が存在している。
「………後ろにいるのは、ウィリディスか?」
「うぐっ!………おはようございます、ジーク…さん。」
先程からずっとリヴェリアの後ろに隠れていたところに話しかけたジークは、明らかに動揺というか、気まずそうにしているレフィーヤは顔を出した。叱られた後の子どものようなその雰囲気は母のように立ち回るリヴェリアも相まって、母と子のように一瞬見えてしまう。
背中を押されてジークの前に立たされるレフィーヤ。ジークは辺りを見渡していつの間にか消えていたラウルの姿を探す。ラウルは少し遠い柱の影からこちらを見ており、そこには
ラウル以外が全員女性だという所を考えるに、彼女らはレフィーヤの付き添いをしたかったが、リヴェリアが近くにいるために近づけないといった感じなのだろう。
「ほら、なにか言うことがあったのだろう?早く言ってしまえ。」
「わ、わかりました………。その、ジークさん!昨日は色々とすみませんでしたっ!」
名前を呼びながら勢いよく頭を下げるレフィーヤ。最初は一体何を謝っているのかわからなかったが、エルフの彼女がここまで感情を込めて謝っているのにそれを許さない選択肢はジークにの中には存在していなかった。
「そこまで謝らなくてもいい。何をしたかわからないが、貴女のようなエルフが俺のようなものに頭を下げる必要はない。」
「………は、はい?」
いったい何のことかわからないといったジークに、困惑するレフィーヤ。昨夜の宴会、間違いなく彼に突っかかっていたのは彼女だ。それを気にしていないというのは「相手にされてない」ようで少しイラっとしたものの、収めることにした。
「………昨日、私が貴方に対して、その…険悪的な態度を取っていたことです!新人の貴方にあんな態度を取ってしまって、本当にごめんなさい。」
そこまで言われてようやく思い出したジークも彼女の謝罪の理由を理解することができた。確かにエルフは清廉潔白の種族と言われている。あんな姿を他種族に見せてしまったというのは屈辱的なものなのだろう。だからこその先ほどの謝罪。
「………その事だったのか、それこそ気にしないでくれ。俺には貴女を怒る正当な理由がない。大方、俺が何か貴女の癇に障る様なことをしてしまったのだろう。ならそれは貴女ではなく此方の責だ。謝りこそすれ、謝られるのは理屈に合わない。」
「いやいや!?私は先輩で、貴方は後輩なんですから!?先輩として迷惑をかけてしまったと感じたのなら、謝るのは当然なんです!理解してください!?」
「そ、そうなのか………?そういうものなのだろうか?」
「そうなんです!そういうものなんです!」
半信半疑なジークに押し付けるようにして謝罪の言葉を並べるレフィーヤ。「いやでも……」「だから!大丈夫です!」と言葉を続ける彼、彼女は傍から見ていたラウル達にはとても仲が良い兄妹のようだった。
レフィーヤがこのファミリアに入って一年。ごく最近ランクアップを果たしLv.3になったことで、名実ともにリヴェリアの後釜としてフィンやロキを筆頭に期待を寄せられている。彼女はその立場故に幹部や準幹部といったロキ・ファミリアの主力メンバーと絡むことが多くなり、ファミリアの先達からは、リヴェリアが行う通称「妖精の試練」と言われる勉強会にもついて行っている数少ないエルフのひとりだ。
最近はランクアップの影響もあり特に頑張っているを見ている周りも張りつめているものを感じていた。あんな風にはしゃいでいるレフィーヤを見るのは久々だったかもしれない。
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「さて、そろそろ良いだろうか?二人とも。」
謝り合戦に辟易としてきたリヴェリアが二人の間に割って入る。ヒートアップしていたレフィーヤは割って入ってきた人物を睨み、それがリヴェリアだと気付いて慌てふためく。この娘は自分と一緒に来たことを覚えてなかったのか?と考えずには思えないが、それだけジークに熱中していたのだろう。
「す、すみませんリヴェリア様………。」
「いや良い。お前のそんな姿を見るのも久しぶりだ。良いものが見れたと思っておこう。」
ファミリアの中で一番若いエルフである彼女を揶揄うように笑うリヴェリア、珍しい表情を浮かべるリヴェリアに驚きながらも、レフィーヤはようやく落ち着きを取り戻した。ジークはそんなやり取りを微笑ましく、そして少しだけ羨ましい視線で見つめる。
今のジークは所々記憶が不確かなところが多い。オラリオに来る最中に多くの魔物に襲われ危うく死にかけた際に、一時的な記憶障害に陥っていた。そこまでの旅の記憶が不明瞭になってしまった。村にいたときの記憶は残ったのはジークにとって幸運だった。
だが、それ以前からジークに両親の記憶は存在していない。そもそも彼にとって身内、両親という存在はここまで育ててもらった冒険者の彼女と住むべき家と仕事を与えてもらった村長であるセルジュというお爺さんぐらいしか居なかった。
だからこそ親と子のような関係性の彼女たちに、
「ジーク、今回お前のところに来たのは今日からの冒険者としての心構えを教えるものを連れてきた。」
そういうとリヴェリアは、レフィーヤの方に視線を向ける。それに釣られてジークも彼女に向けて視線を向けるが、レフィーヤは「???」と自身のことを指さして驚きに目を丸めている。そもそもこの場所にレフィーヤが呼ばれたのは「昨夜の事、引き摺る前に解消しておけ」と言われ、ついてきたのだ。
それを冒険者としての心構えを教える?この少年に、私が???
「い、いやいやいや!?リヴェリア様!私にはそんな、指導なんて出来ないですよ!?やったことなんてありませんし!何より私はまだレベル3になったばかりですよ!?」
「寧ろ、レベル3になったからだ。」
ロキ・ファミリアではレベル2となった上級冒険者は以降、下級冒険者の指導に着く決まりがある。レフィーヤはリヴェリアの教育を受ける身としてその機会が恵まれなかっただけであり、本来だったら既に基礎的な指揮の経験を積んでおかなければならない立場にある。
そもそも、リヴェリアの後釜として期待を寄せられているレフィーヤが後方の指揮者としての技能を学ばないのは理屈に合っていない。むしろ今まで学ばせていなかった事がおかしいことだったのだ。
「レフィーヤ。お前も、ファミリアの運営方法は知っているだろう?そろそろお前にも下の者に対する指導の仕方を学ぶべきだと、私もフィンも判断した。今回タイミング良くジークも入団したのも重なってな。」
そう言われてしまっては、レフィーヤは納得せざるを得ない。だがしかし今の自分に他人の指導なんてものが出来るのかどうかという一抹の不安は脳裏によぎる。まだまだ半人前であり、学ばなければならないことが多い現状にプラスして新人の指導。
「(で、出来る気がしないっ………しかも指導する相手が、この天然ヒューマン!謝罪したとはいえ、ほんの少しだけ気まずいし、何より嫌な予感しかしないっ!)」
間違いなく、面倒なことが起きる。そんな確信がレフィーヤは感じていた。昨日の時点でどうにも彼は天然というか純粋すぎるところがある。そんな子に対して指導するというのは、それだけで苦労を覚えるということは確実だと理解してしまう。
対してジークは指導役として指定された彼女に特に不満はなかった。彼女は自身よりも先達であり、先ほどの謝罪も入れてしまえばその在り方は尊敬に値するエルフだ。そんな彼女が指導役として付いてくれるのならばこれ以上の幸運はない。そう思っていた。
「───俺としては是非貴女に頼みたい。貴女なら俺を平等な風に見てくれるだろう?そういう者ならば、厳しくもしてくれるだろうし、ちょうどいいと思うんだが………。」
「うぅ………そんな純粋な目を向けないでください。わかりました!わかりましたから!?」
本人の了承もあってジークの指導役がレフィーヤに決まった。片や自身の新しい責務と後輩に頭を悩ませながら、片や冒険者としての自分の始まりを夢想する。そんな彼等彼女等を見つめるリヴェリアは「案外良いコンビなのかもしれないな」と心中で呟いた。
「そら、決まったのならギルドに行って冒険者登録を済ませに行くぞ。エイナにも説明しないといけないとな───ともかくその後にダンジョンだ。武器は………ジークは自前の剣があったな。ひとまずはそれでいいだろう。」
そういえば、とジークは今日ギルドに顔を出さなければならなかったかと思い出した。昨日の話し合いでエイナに担当を頼んでいたが、それはどうする気なのだろうかと疑問に思ったが、リヴェリアが来るのならその辺りも説得するのだろう。
「(………ダンジョンか。)」
窓から見えるバベル。その下に広がるダンジョンに想いを馳せる。この世界での一番の未知。神々すら知りえることのない
一問一答質問コーナー
Q.早熟スキルを持ったジークくんはアイズと結構相性よさそう。
A.今作の目標としては「ジークという「彼」はアイズにどういう影響を与えるのか」というのを一つの目標としてますんで、その辺と温かい目で見てくれると嬉しいですね。
誤字報告をしてくださった「セクション」様「キングサリ」様「みえる」様、ありがとうございました。
引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。
UBWやっぱ熱いなぁ………
話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?
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早い方がいい
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遅い方がいい
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てめぇが勝手に決めろ