生還を望む竜殺しの冒険譚   作:瑠衣

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第六話

リヴェリアとレフィーヤを連れてギルドに向かっている最中、この間とはまた違った視線を感じることが多かった。ジークは何故こんなにも視線を集めているのか理解できなかったが、当人では理解できないのも当然だろう。

 

冒険者、非冒険者にとって第二級、第一級の冒険者はそれ以下の者たちにとっては憧れの的になっている。そしてジークと一緒にいるのはその第一級の冒険者の中でもとくに有名な【ロキ・ファミリア】の第一級の冒険者【九魔姫(ナインヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴと【千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤ・ウィリディス。

 

その実力とエルフとしての優れた容姿。そしてそんな彼女たちが連れている少し幼い雰囲気を持つヒューマンの少年を連れている。そんな珍しいものをオラリオの住民が注目しないわけがない。遠目から聞いている様子だと連れている少年は【ロキ・ファミリア】の新人冒険者らしい。

 

「そういえば、ウィリディスはファミリアに入ってどのくらいになるんだ?」

 

「(ウィリディス呼び?)………ちょうど二年前くらいです。あとレフィーヤでいいですよ。昨夜のことは謝りましたけど、それだけではこちらの気が収まりませんから。」

 

エルフの彼女が名前呼びを許した!?と周囲は驚きを覚える。そもそもエルフとは潔癖の種族だ。その潔癖さは性別関係なく他種族との馴れ合いを嫌い、認めた者以外との肌の接触を許さないほどのもの。他者に名前を呼ばせることすら嫌悪するエルフをいるほどだ。

 

そんな種族の彼女がこうしてヒューマンの彼に名前を呼ばせているのは、衝撃的なことだった。近くにいたエルフの冒険者も「!?!?!?!?!?」と首が捥げるのでは?という勢いで何度もこちらを慌てて見返している。

 

「そうか、ならレフィーヤと呼ばせてもらおう………あぁ、確かに俺としてはこの呼び方の方が好ましいかもしれない。ありがとう。」

 

「なぁ…っ!そういう事一々言わないでいいんです!なんの礼なんですかそれは!?」

 

仲睦まじい様子を見せてくれるレフィーヤとジーク。本来の彼女の性格は喜怒哀楽はっきりしている明るい性格で、それ故に多くの者が所属している【ロキ・ファミリア】でも種族関係なく好感を持たれている。

 

だが、最近ランクアップしたことにより根を詰めすぎたのか少しだけ疲れが見えていた。それによってその天真爛漫さが影を差していた。そんな彼女を心配していたリヴェリアだったが、フィンとロキに提案された「レフィーヤにジークの指導役を任せたい」と相談されたときは少し悩んだ。ロキはジークという少年に対して「特別な何か」を感じているらしく、その事に対して昨夜、ガレスやフィンも集めて話していた。

 

 

 

 

「ジークたんの扱いなんやけど、少し三人に任せたいんやけどええか?ありゃ多分なんか隠しとる感じやから。」

 

昨夜、ファミリアの執務室に集まっていた幹部三人に、ロキはそう伝えた。フィンはその提案にある程度予想をつけていたのか特に何も言わずに無言で答え、ガレスは怪訝そうに、リヴェリアはその言葉に少しだけ疑問を覚える。神であるロキには子ども達の嘘や隠し事はわかってしまう。だからこそ「多分」などという核心を得ない発言をすることはない。()()()()

 

「多分とはどういうことだ?どうしてそこまで歯切れが悪い?」

 

「いやぁ、あんときジークたんには見せんかったんやけどな………ほれ、このスキル。」

 

ロキは先程ジークとフィンに見せていたステイタスの羊皮紙を取り出す。フィンは確かにあの時、ジークと共に何故彼のステイタスを見せたのかが理解できなかった。あの早熟スキルは確かに強力だが、その部分だけ隠しておいた方が利があると思っていた。

 

だが、もしもそれを超える()()()が記載されていたのであれば、ロキが隠さなかったのも頷ける。視線を落とすと確かに羊皮紙に記入されていたのは、ほとんどフィンが見たものと同じものだったが、ただ一つ。先ほどは【スキル】の欄に隠されていた文字が浮かび上がっていた。

 

 

要契約石(ディスプレイ・マスター)

・対象のステイタスの一部確認

・同じ神血(イコル)を刻んだ対象との念話

・あらゆる嘘、秘め事の秘匿

 

 

そこに書かれていたのは、早熟のレアスキルや速攻魔法と比べても明らかにこの下界では不味いものが幾つも書き記されていた。ステイタスの確認にファミリア内であれば可能の念話。これらも今までの全ての眷属の中でも発現したことはないレアスキルだろうが、一応まだ許容ができる。

 

だがこの「あらゆる嘘、秘め事の秘匿」は不味い。ロキの発言からして、その効力は神である彼女にも効果があるのだろう。つまり彼は神に嘘や虚勢(ブラフ)が通じるということ。それが一体どれだけの脅威になるのか、オラリオに来た彼にとっては理解しがたいものだろう。

 

彼の性格上、このスキルを知ったからと言って何か悪知恵を働かせるということはないだろうが、だとしてもロキが隠していることがあるとジークに感じているのであれば、確かに秘匿しておいた方がいいスキルだろう。

 

「………本当に、彼には驚かされるね。ここまでくると少しだけ頭痛がしてくるよ。」

 

「ウチもや。あの時は平静装っとったけど、これはちょっとなー………。魔法はともかく、早熟のレアスキルの事を探られる可能性があるんやし、自衛の手段の一つとして教えても良かったんやけどなぁ。」

 

ロキの不安も尤もだろう。オラリオでも最大派閥であるロキ・ファミリアはそれなりに恨まれている事も多い。故に闇討ちやファミリアの内情を探ろうとしてくる者は多い。自衛手段は多いことに越したことはないが、神相手なら問題ない。

 

冒険者、それも彼より格上の冒険者が立ちふさがったのなら、今のジークに抵抗する手段がない。たとえスキルの【生還願望(イノセント・サバイブ)】を使ったとしても強化の段階次第ではレベル1だとジリ貧に終わる可能性が高い。

 

だが、これだけの下界の未知を放っておく程、神という超越存在(デウスデア)は大人しくない。それはロキ本神がよく分かっている。

 

「こりゃしばらく、お守りを付けた方が良さそうじゃな。ジークの指導役は確か、レフィーヤに任せる予定になっとったろ?彼奴だけで大丈夫か?」

 

「………暫くは、私も同行する。この一件がある程度解決するまでは私がレフィーヤ共々面倒みよう。この際、私が表立って盾になっていた方が面倒事も少なく済む。」

 

ガレスの不安にリヴェリアが答えた。確かに都市最強魔導師たるリヴェリアが入れば多少の荒事は解決出来るだろう。寧ろ、それでリヴェリアに何かあったのなら他のエルフが黙っていない。

 

「ジーク・ニーヴェルンはリヴェリア・リヨス・アールヴの庇護下にある」と周知されば周囲へのエルフの監視の目が張り巡らされる。問題もないだろう。ただ一つの「欠点」を除いては。

 

「確かに、それでも良いかもしれないけど、だけどそれだとジークが何か僕たちの弱みになるのではと画策するものが出るかもしれないんじゃないかな?それこそ、僕たちと敵対しているあの美の神とか。」

 

「あー、確かにあのアバズレはちょっかいかけてきそうやなぁ。」

 

フィンが危惧しているのはエルフでもないジークがハイエルフであるリヴェリアに庇護されているという事は、それだけ特別な存在なのだと周囲にバレてしまう可能性があるということ。

 

もしももう一つの最大派閥である【美神の眷属(フレイヤ・ファミリア)】が出張ってきたら流石のロキ・ファミリアでも相手にするのは難しいだろう。

 

拾ってきた面倒くらい見ろと、フィンを睨むリヴェリア。そもそも最終的にジークをファミリアに入れるのを認めたのはフィンとロキだ。まず頭を悩ませなければならない二人がどうしてここまで他人事のように振舞っているのがリヴェリアには少し理解できなかった。

 

その視線を受け、少しだけ苦笑をこぼしたフィンは少し考え込む姿勢を取り、思考を巡らせる。確かにフレイヤ・ファミリアは脅威だ。最強の眷属達(ゼウスとヘラ)が台頭していた時代には共に辛酸を舐めさせられた腐れ縁であり、暗黒期を生き抜いた同士でもある。

 

今は敵対しているとはいえ、あまり事を構えたくはない。

 

「………そうか。その手があったか。」

 

ふと、フィンがそんなことを呟いた。確かに()()ならばフレイヤに対して貸しを作ってしまうが、それでもお釣りが来る可能性を作れる。だが、ジークの成長次第でこちらに損が生まれるかもしれない。

 

そんな博打にも似た思いつき。普段のフィンであれば絶対にしないであろう「賭け」。失敗をする可能性の方が高いこの案を、ひとえにこれまでをやり遂げてきたフィンの勘と冒険者としての閃きだった。

 

「一先ず、時期を見て幹部、準幹部にはジークのステイタスについては伝えておこう。それと、これは僕からの提案なんだけど─────。」

 

その提案に一番嫌な顔をしたのは案の定、彼等の主神さまだった。

 

 

 

▼▼

 

 

 

「すまんなエイナ書状の件といい、しばらく面倒を掛ける。」

 

「いえ、確かに彼には少しきつく当たりすぎた事もありますし………リヴェリア様がギルドに来た際は面倒を見てあげてほしいと母にも言われてましたから………。」

 

「…………アイナめ、余計なことを。」

 

ギルドに着いたジーク達は受付でエイナと話しているリヴェリアを見ていた。「ここで待て」と待機を命じられはしたが、そもそもギルドに寄ったのは自身の冒険者登録のためだったのでは?と疑問に思ってしまった。

 

「リヴェリア様、一体何を………?」

 

どうやらレフィーヤの方も特に何かを聞いているという訳では無いらしく、不自然さを感じていた。冒険者登録は基本的に当の本人がしなければならない。()()()()()()()()がない場合を除いてそれは絶対だ。

 

ここにはジーク本人も居るのに、彼ではなくリヴェリアが登録を済ませるとは、彼女の性格上考えられない。だとしたらジーク自身の問題?文字が書けないなどと言うのであれば確かにと納得出来るが、彼は共通語(コイネー)は書けると先程こちらに向かっている間にリヴェリア本人が聞いているのを見ている。

 

頭を悩ませているレフィーヤとジークの元に、リヴェリアが戻ってくる。受付の方を覗いてみると何か困惑したようにこちらと、正確にはリヴェリアと自身の手元にある手紙?のようなものを見比べている。

 

「あ、あの、リヴェリア様………?あの手紙は………?」

 

「あぁ、今は気にしなくてもいい。フィンの提案でとあるファミリアに書状を贈ることになってな。ギルドに仲介を頼んだだけだ。ついでにジークの冒険者登録も済ませておいた。ダンジョンに向かうぞ。」

 

「は、はい!」「わかった。」

 

ここオラリオには幾つかのメインストリートが存在しておりその中心部には「バベル」というかつての神の眷属が建てたとされる巨大な塔が街全体を見下ろすように鎮座している。ギルドの本部があるこの場所もメインストリートの一箇所に存在している。

 

日々、多くの冒険者がこの道を通り、バベル下に広がるダンジョンに冒険を続けている。辺りを見渡せば筋骨隆々のドワーフが斧を携え、妙齢のエルフが杖を片手に微笑を浮かべる。妙に殺気立っている彼等彼女等を横目に冒険者という生業で生活している者たちは何処か血の気の多い連中が多いのだとこの時ジークは理解した。

 

実際には名前も知らないヒューマンが美人揃いで有名なロキ・ファミリアの第一級冒険者を侍らせているように見えたからの殺気であって、ダンジョンに対するモチベーションでは全く無いのだが、そんな事とは露知らず、ジークは彼等に尊敬の眼差しを向けていた。

 

周りの空気を何となく感じ取ったレフィーヤも、あまりのジークの鈍感さには苦笑で返すしかなかった。自分自身も今までに通ってきた道であり、そのような視線を(主にリヴェリアを崇拝しているエルフから)受けていたが慣れるのには随分と時間がかかった記憶がある。

 

バベルの入り口を潜ると、多くの冒険者がその一か所に向けて歩を進めていた。ダンジョンに向かっている螺旋階段。オラリオの街では探ることはなかったことがなかった怪物(モンスター)の気配をひしひしと感じ取ることができる。

 

「ジーク、肩の力が入りすぎだ。気を引き締めろとまでは言わないが、もう少し力を抜け。」

 

「………すまない、少しばかり緊張しているみたいだ。」

 

オラリオに来る最中、モンスターと戦って生き延びていたジークだがダンジョン内の怪物は、どういう原理なのかわからないが都市外のものと強さが違うと聞いている。どれだけの差があるのかがわからない以上、気は緩めないと感じていた。

 

「今回はお前の初のダンジョンアタックだ。上層のモンスター相手なら私たちがいる以上まず死ぬことはない。気負わずに行け。」

 

「わかった、やってみる。」

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

ダンジョン一階層

 

多くの冒険者が最初に通る始まりの迷宮。ここで多くの駆け出しの冒険者がダンジョンの厳しさを知ることになり、冒険者の登竜門に当たるはずだった。

そう、()()()()()のだ。いま現在レフィーヤは自身の目の前に繰り広げられているこの光景を信じられないと言わんばかりに一応と持ってきた【森のティアードロップ】を両手で握りしめていた。

 

「ふっ────────!!!」

 

ジークが振りかぶる【カリゴランテ】がゴブリンの首を吹き飛ばす。驚くべきはその速度だ。ステイタスも最低値のIであるはずのジークがあそこまで動けるとは思っていなかった。一体一体の死角に回り込んで足の腱を斬り、確実に動けなくなったところで首を飛ばす。

 

あまりにも合理的に淡々とモンスターを仕留めている彼の姿がレフィーヤには機械的に見えてしまった。今でこそ魔道士である自分でもこの階層では苦も無く突破することができると確信しているが、もしも同じレベル、同じ役割だったとしてもここまで動けるとはとても思えない。

 

それだけ戦闘を熟しているジークは常軌を逸していた。

 

そして、レフィーヤと違って()()()を感じていたリヴェリアは一度制止をかけて、ジークを呼び止める。振り向いたジークはその顔についた返り血を少し拭ってレフィーヤたちのもとへ戻る。

 

「なにかあったかリヴェリア?」

 

「いや、済まないな。少し気になったことがあってな。剣を使っているのはいいがお前は【魔法】も発現しているのだろう?なぜ使わない?」

 

その言葉に驚きを覚えるレフィーヤ。スキルはともかく【魔法】は先天的な才能が求められる。エルフなどの魔法種(マジックユーザー)であれば発現しやすいがヒューマンという種族はそうでもない。

 

本当に私何も聞いてないんですね……と少しだけ肩を落とす。

 

理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)のこと─────────。」

 

ジークが自身の魔法名を口にした瞬間、彼の右手がバチッと静電気のように鳴り響いた瞬間にダンジョンの壁に向かって吹き飛ばされる。大きな音を立てながら瓦礫と共に血を吐きながら倒れ伏すジーク。何が起こったのか理解できていないレフィーヤを他所にリヴェリアは自身の浅慮を全力で恥ながら駆け出していた。

 

「(前例のない【速攻魔法】というものが一体どういったものなのかと考えてはいたが、まさか名を口にするだけで魔法が発動するとはっ!私は一体何をしていた、少し考えれば理解できることだっただろう!?)」

 

急いでジークの元に駆け寄り、怪我の状態を確認する。衝撃を受けた背中側は特に問題はない。瓦礫で幾つかの傷は出来ているがそんな些細なことよりも、酷いのは彼の右手だ。魔力によって焼き爛れている。服や身体のあちこちも、まるで【分解】されているように解れ傷ついている。

 

「レフィーヤ!一度帰還する!持ってきておいた高等回復薬(ハイ・ポーション)を出せっ!」

 

「は、はいっ!?」

 

レフィーヤがバックパックから取り出した高等回復薬(ハイ・ポーション)を受け取ったリヴェリアはその封を開けて、重症の右手を重点にして身体全体に振りかけるが………。

 

「(回復が遅い…ジークの魔法の影響か?回復阻害の呪詛(カース)のようなものか?)」

 

こんなことなら万能薬(エリクサー)を持ってくるべきだったかと後悔をする。今日は1階層から最高でも3階層までと考えていたからこそ用意をしていなかった。随分と油断したものだ。と自虐を吐き出す。

 

黄昏の館(ホーム)に………いや、それでは間に合わない。【ディアンケヒト・ファミリア】に向かう!急げレフィーヤ!」

 

「わ、わかりましたっ!」

 

ジークを腕の中に抱えて、先ほどの入口まで駆け出していく。一刻の猶予も感じないリヴェリアの心中は荒れ始めていた。




一問一答質問コーナー

Q.リヴェリア様の名前、間違えてますよ?

A.う、うわぁぁあぁぁぁあっぁあぁぁぁぁあぁああああ!?!?!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!?!?!?誤字報告と感想でも貰いましたけど、何やってんだ私はあぁぁぁぁあ!?
エルフと読者の皆様、申し訳ございませんでした………。


誤字報告をしてくださった「セクション」様「キングサリ」様「みえる」様「410」様、ありがとうございました。

引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。


実は誤字報告と感想でもらった日の次の夜に、エルフに襲われる悪夢を見ました‥‥‥‥。
二度と間違えないようにしよ‥‥‥‥。

話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?

  • 早い方がいい
  • 遅い方がいい
  • てめぇが勝手に決めろ
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