生還を望む竜殺しの冒険譚 作:瑠衣
「………またか。」
全身の倦怠感に苛まれて、胸の辺りに少し痛みを感じる。目を開けるとどこかの治療院らしくまた自分は気を失ってしまったらしい。気を失う前、最後に見たものといえばリヴェリアがこちらに向かってなにか必死に叫んでいる。
身体を起こして、何か異常がないか確認するがどうにも右腕が痛い。右手全体に巻かれている包帯が見ているだけで少し痛々しい。ダンジョンで何かに襲われたのだろうか?と疑問に思っていたら部屋の扉がノックされた。
「どうぞ。」
「………目が覚めていたか。」
入ってきたのは何処か暗い顔をしたリヴェリアだ。昨夜案内されたファミリアのホームに医務室はあったものの、ここまで立派な病室はなかったはずだ。それにホームであればリヴェリアだけではなくレフィーヤも共に来ているだろう。半ば確信めいた思考がジークの脳裏によぎる。
「リヴェリア、ここは?」
「都市最大の医療系ファミリア、ディアンケヒト・ファミリアのホームだ。お前の身体、特に右腕を治すには【
「右腕……そうか、俺は確か魔法を発動させようとして暴発させたのか。」
リヴェリアに右腕のことを言われてようやく自分がどうしてこうなったのかを思い出すことが出来た。そうだ、確か自分は自身の魔法である【
「魔法を使える以上「
「………いや、リヴェリアは謝らなくていい。魔法というものを軽く考えていた俺の責でもある。あまり自分を責めないでほしい。」
「だが………すまないな。そう言ってもらって助かる。」
そのあとジークは自身の身に起こったことのすべてを聞くことになった。怪我の影響はほぼ完治しているようで、動かしても問題がないらしい。偶然にもジークが魔法を発動した際に、一瞬で「
魔法が不完全な状態で発動されたことで、これ以上に被害が進行することはなかったらしい。もしも
そういう意味では、九死に一生を得たのだろう。
「そうすると、今後の課題はどうやって魔法を使うか、か。俺の魔法のことで何か気づいたことはないか?リヴェリア?」
淡々とそんなことを口にするジーク。確かにそれは考えなくてはならないことだ、冒険者として自身の切り札でもある【魔法】をどう御するかは悩まなければならない問題。そんなことはリヴェリアも理性ではわかっている。
だが、実際に
だが、目の前のジークからは「死の恐怖」というものを何も感じない。生きるためにしなくてはならない明確な「目標」しか見えていない。それは何処か歪んでいて、何か人智を超えた得体のしれない恐怖を想起させる。それがリヴェリアにはたまらなく「怖い」と感じていた。
「────────リヴェリア?」
「っ、すまない。少しだけ考え事をしていた……そうだな、慣れるまではダンジョンで【魔法】の使用はやめておこう。訓練には私とレフィーヤが付き添う。」
「わかった、そうしておく。」
物分かりがいいと褒めればいいのか、純粋すぎると叱ればいいのかと頭を悩ませるリヴェリア。幼いころのアイズを彷彿とさせるその雰囲気に頭が痛くなるのを感じながら、「ひとまず今日は休め」と告げてリヴェリアは部屋を出ていった。
そこから一週間。ジークの冒険者としての鍛錬は続いた。
ダンジョンでは【カリゴランテ】を用いた白兵戦を駆使し、的確にモンスターを屠っていく。知識を知恵に。未知を既知に。同伴しているレフィーヤやリヴェリアも驚くべき速度で【成長】【飛躍】していく。その斬撃は一撃ごとに最適化されていく。
回避に専念しつつ、回避できない攻撃には剣の腹で受け止める。その次の間には確実に首を刎ねる。何故首を狙うのかと聞いたレフィーヤにジークは「ヒューマンに近い骨格のモンスターは頭や首を狙ったほうが早い。」とのことらしい。レベル1でなぜこんなにも戦闘技能が高いのかレフィーヤには理解出来なかった。
これにより【ゴブリン】や【コボルト】のようなモンスターにはジークは特に苦戦せずに相手出来ていた。
ダンジョンから帰った後は、食事のあとレフィーヤと共にリヴェリアによる魔法の訓練。ロキ・ファミリアの蔵書室には多くの本が存在しており、英雄譚も含めた物語やダンジョンに関するもの、更にはエルフが主に愛用している魔法の訓練書のようなものまで置いてあった。
リヴェリアの指導は確かに厳しいものではあったが、ダンジョンに関する知識を詰め込みたかったジークにとってはちょうど良いものだった(レフィーヤは頭を抱えていた)。
ダンジョンは大きく「上層」「中層」「下層」「深層」と区分けされており下に行くにつれて、危険度が増していき、要求されるステイタスも高くなっていく。今のジークでは上級冒険者の同伴無しではどんなに頑張っても五階層までしか進むことを許されない。
だったのだが─────────。
「こりゃまた、随分伸びたなぁ………。」
ジーク・二―ヴェルン
Lv.1
力:I0→H179
耐久:I0→G268
器用:I0→G295
敏捷:I0→H199
魔力:I0→H123
《魔法》
【
・速攻魔法
・物体の組成を瞬時に解析し、魔力を変質・同調させ、最適な破壊を行う
・魔力量により破壊速度上昇、破壊範囲拡大
《スキル》
【
・早熟する
・生存するための戦闘中に全ステイタスに補正が入る。
・発動後、五分間全ステイタス低下
【──────】
一週間経過したこのタイミングで一度ステイタスを更新してみようということになり、ロキの元を訪れたリヴェリアとレフィーヤは驚愕を覚える。一度しか《魔法》を発動していないためか、あまり《魔力》の値は伸びていないが、その他のステイタスは150以上伸びており【耐久】と【器用】に関しては既にGの値まで上昇している。
下界の子ども達のステイタスはこういう風に伸びるものじゃない。間違いなく早熟するという【スキル】の影響なのだろう。だとしても、まさかここまで伸びるとは…とロキは感じていた。この時初めてジークの特異性を知ったレフィーヤは口に出さずに心情は荒れ狂った。
「(と、トータル1000オーバー!?何ですかこの伸び率は!?スキルの効果とは説明されてましたけど、あまりにも出鱈目すぎませんかっ!?これじゃああっという間にLv.2になるんじゃ………。)」
「…ふむ、もう少し耐久が上がったら《魔法》の訓練もいいか。前回のように魔法の暴発があってもある程度耐えることができるだろう。次は
ふと、疑問に思ったことがあった。確かにこの早熟のスキルは異常だ。だがそれにしても【魔力】の値が伸びすぎている。一度の魔法行使でここまで伸びるものなのかと少しだけ不審に感じていた。
「ジーク、一応聞いておくが魔法を使ったのは、この前の一度きりだな?」
「………。」
リヴェリアの言葉に目を逸らしながら黙り込むジーク。その額には冷や汗が流れておりそんな彼の反応を見てしまったレフィーヤも不味いと視線を逸らす。その様子にリヴェリアも焦りを覚える。まさか、こいつらと嫌な予感が脳裏をよぎる。
「………実は、あの後レフィーヤに協力してもらって何度か魔法の行使をしてみた。わかったのは、魔法の発動条件と簡単な概要だけだった。」
「……………ほう?それで?」
「発動条件は魔法名と「掌で物体に触れる事」そうすることで触れた物体の情報が俺の頭の中に流れ込んでくる。あとはステイタスにも書いてある通りだったな。それらを解析して俺の魔力に同調させて破壊できる。問題は触れられるものでなければ効果を発揮しない。」
さらに、とジークは言葉を続ける。「
そんなことをあっけらかんに答えたジークに頭を抱えるリヴェリア。自身に刻まれた魔法の分析をするのはいい。前例のない「速攻魔法」に加えて、最初の
これには流石のロキも驚いたようで、リヴェリアからジークの怪我の事を聞いた時から「しばらくは魔法は無しかー」と考えていた。だがそれよりもレフィーヤがここまでジークに対して協力的の方が意外だった。
「ジーク………お前はこの前魔法を行使しようとして大怪我をしたのは覚えていないのか!もう少し自分の身体を大事にしたらどうだ!?この前も感じたが、お前は少々自分のことに無頓着がすぎる!レフィーヤお前もだ!一体何を考えている!?魔法を使用したジークがどうなったのか覚えていないお前でもあるまい!魔法の危険性を知っているお前がなぜ止めなかった!?」
「「………ご、ごめんなさい。」」
まるで湯の沸いた薬缶のように怒髪天の口火を切ったリヴェリア。ファミリアの母親のように言われるのをあまり好まない彼女がここまで感情を露わにして言葉を荒げるのは珍しい。この様子を見ればフィンやガレスも揶揄おうと口を開こうとするだろうが、今の彼女の表情を見た途端に口を紡ぐだろう。
下手なことを言えば彼女の極寒魔法が飛んでくるかもしれないと考えたら、その口も閉じるというものだろう。
「まぁまぁ、リヴェリアも落ち着きぃ。魔法を使えるってなったら使いたくなるもんやろ?ジークたんも男の子ってことなんやってー。」
「………すまない、少し頭を冷やしてくる。」
そういってロキの部屋を出ていくリヴェリア。今この場にいても自身の心が落ち着くことがないと判断した上での行動なのだろうが、その背中は少しだけ悲しそうに見えた。レフィーヤも何とかして声を掛けようとロキとジークに一言告げてリヴェリアの後を追う。
部屋に残ったロキとジークは、彼女のあの表情を見てしまっては居心地も悪くなる。ロキがリヴェリアのあのような顔を見るのは、数年前の大抗争。それよりも前であるアイズが入団し彼女が面倒を見ることになった時以来だ。
親の心子知らず、という下界の言葉もある通り、リヴェリアの心配も先ほどまでのジークには届いていなかったのだろう。だが彼女のあの顔を見てしまえばいやでも理解してしまう。あぁ、自分は彼女を傷つけてしまったのだろう、と。
「………ジークたん、わかってるとは思うけど」
「あぁ、きっと俺は間違えてしまったのだろう。あの顔を見てしまっては理解するしかない。」
後悔はある。今までこうして指導してもらっている立場で、彼女を悲しませてしまったという事は「悪しきこと」なのだろう。次に会った時にはまず頭を下げなければならない。それが「一体何に対して謝るのか理解してない」としてもそうするべきと思ったのならしなくてはならない。
理解するしかないといったジークの言葉は確かに嘘ではない。だがロキはその歪さを少しだけ感じ取ってしまった。この子はどんなに止めたとしても、自身の研鑽を止めることはないのだろう。それが一体
「なぁジークたん。ちょっと聞きたいんやけど、なんでそんなに
その言葉に、疑問を覚えるジーク。目の前の自身の主神が何を言っているのかがわからなかったのだ。怖い?いったい何の話なのだろうか?多くの謎がジークを取り囲む。
「怖い?怖いって………なにがだ?俺は今、何かを怖がらなきゃいけなかったのか?」
わからないことを他人に聞く。ただそれだけの事。下界の子ども達は神々とは違って不変ではない。今この瞬間も変わりつづけているものだが、それにしてもジークは
─────いや、感じていないというよりも、そもそも「理解できていない」のかもしれない。と彼を目の前にしてロキは感じた。感じてしまった。
一問一答質問コーナー
Q.成長促進のスキルがあるってことは一年でレベル5くらい成るんじゃね?
A.まぁ、ベルくんも半年でレベル4、5となっているわけですしね………。あ、それとジークくんの早熟スキルはまだ不完全なので最終的にはもっと伸びると思います。
ジークくんはベルくんと違って、早熟スキルは持っていても「憧憬の対象」は持ってませんしね。
誤字報告をしてくださった「超高校級の切望」様「minotauros」様「祐☆」様「みえる」様「ルリィ」様「滝端 木周」様「狐の里」様、ありがとうございました。
引き続き感想や質問(答えられる範囲で)、誤字報告をくれると作者のモチベが上がりますのでよろしくお願いします。もちろん批判も大歓迎でございます。
───なぁお前、誤字多すぎねぇかぁ!?
みなさま、ありがとうございます……………うぅ
話の流れは速い方がいい?それとも遅い方がいい?
-
早い方がいい
-
遅い方がいい
-
てめぇが勝手に決めろ