短いですが、これから投稿を再開しますのでよろしくお願いします。
番外編 オウヒ、アイドルになるってよ
ワタシは妙なものと向き合っていた。
妙なものは何か、と聞かれると妙なものとしか答えようがない。
ワタシの目の前にあるのはマネキン。
どこぞのジャーマン染みた軍服な衣装。太ももくらいな丈のミニスカート、そして白色の手袋に、軍帽のような帽子までついている。そしてその傍らには、フンスフンス、と自信満々で鼻息が荒いサオリの姿。
多分、尻尾があればブンブン振っている程度には、褒めてほしいオーラが出ている。というか、鈍感なワタシでもわかるくらいだから相当なものだろう。
何はともあれ聞かないとわからない。
彼女は何を思い、どうしてこんなものを用意したのか、聞いてみないことには始まらない。
「サオリ、これは、一体なんだ?」
「衣装でございます」
「衣装……」
言葉が足らないのはワタシの悪い癖だ。
そうだよね。これは何か、と聞かれたら衣装と答えるしかないよね。
ワタシは何のために用意したのか聞いたつもりだったけどそうだよね。
言葉が足らないワタシが悪い。なのでもう一度聞いてみることにした。
「何のための衣装だ?」
「ハッ!」
サオリは片膝をついて、恭しく頭を下げて。
「殿下のアイドル衣装でございます」
「――――」
聞き間違いだろうか。
アイドルと言った? この娘、アイドルと言った?
どうしてアイドル。ワタシ、きらめく
「……サオリよ」
「ハッ!」
「順を追って説明せよ。何故アイドル衣装など作った?」
「近々、トリニティにて学園祭が開催されること、殿下のお耳に入っておりましたでしょうか?」
「無論。ウタハ先輩――――ミレニアムの生徒も張り切っていた」
着物を特注して、ボイストレーニングに励んでいたエンジニア部の皆さんを思い出す。
皆さんと言っても一人だけ。アイドルイベントといっているのに、どういうわけか選曲が演歌。そしてやたら上手いときた。
もはや、ツッコミも野暮だった。
アイドルはもっと、キャッチでわっぴーなモノであるという先入観があったけど、歌の上手さで黙らせるとは恐れ入る。あそこまで見事なこぶしが効いている演歌はそうはない。
アイドルとは千差万別。
ステージに立ち、きらめく姿を見せることができたのなら、それはもう誰がなんと言おうとアイドルなのだ。
――――話を戻すとしよう。
「そのイベントと、この衣装になんの関係がある?」
「その中で催されるアイドルイベントなるものがございます」
「あるな」
「殿下にそのイベントに出て頂きたく、特注で作成致しました」
「……なんで?」
結論を言おう。ワタシは、アイドルを目指す気は、これっぽちもない。
ワタシのような芋女が出来るわけがないし。
そういうことは、綺麗なアーちゃんとか、可愛いムーちゃんがやるべきだと思う。
でもサオリはそうは思ってないみたいで。
「無論、殿下の可憐さをキヴォトス中に広めるため」
「苛烈ではなくて?」
「可憐でございます」
「可憐」
可憐って、なんだろうね?
「応援うちわの作成、及び、オタ芸、そしてコールをアリウス全生徒で練習中です」
「……道理で人通りがいないと思った。誰が指揮している?」
「ミサキが全体を統括しています」
「何をやっているのだアイツは」
普段からはまったく想像がつかない。
ミサキって割とノリがいいのかもしれない。こういうことは、真っ先にストップをかけると思っていたけど。
「アイドルをやれと言うがな、曲も振り付けも何もないだろうに」
「曲はアツコとヒヨリが。振り付けは私とアズサが担当しております」
「バッチリではないか」
何なの、その無駄に手厚いサービス。アリウスの完璧な布陣じゃん。
「もちろんでございます。我々は本気で! 殿下の素晴らしさを! キヴォトス中に広めたいのです!」
「余は別に……」
そう、別に広めなくてもいい。
むしろ、そういう目立ち方は、あまり好ましくない。
そもそも、ワタシはアイドルって柄でもないし、そんな優れた容姿もしてないし、リオ会長のような美しいスタイルの持ち主ってわけでもない。
けちゃけちゃで芋のようなワタシが、ステージに立つなんて、公開処刑もいいところだ。サオリ達はどういうつもりなのか知らないけど。
それにトリニティかぁ。
嫌な予感しかしない。いや、普段だったら良いんだけどね。
何もない日だったら、お互いにWin-Winだったんだけどね。文化祭という日なのに、戦っちゃうのは、ね? 何か違うと思うのですよ。ワタシだって空気は読めるとも。テンションが上がってタガが外れるとどうなるかわからないけど。
とにかく、ワタシにやる気はない。微塵もない。
よって断るとしよう。衣装まで用意してもらって何だが。いいや、ワタシは悪くないとも。そもそも、ワタシに断りもなく進めていたサオリ達が悪い。ワタシは何も悪くない。
「サオリよ、此度の舞台だがな、余にやる気は――――」
「爆破演出に便利屋68の協力を取り付けました」
「――――何をしているサオリ、練習を始めるぞ。便利屋の連中が協力してくれているのだ。完璧以上なものに仕上げなくてはならぬ」
△オウヒ(アイドル)
どうしてこうなった。
やる気なんてなかったけど、便利屋68が一枚噛んでいるのなら頑張る事を決める。
どこぞのデグレチャフみたいに歌うようです。
どうしてこうなった。
それはそれとして、アイドルに爆破演出なんているのだろうか? オウヒは訝しんだ。