~ソロモンちゃんねる~
オウヒ「今日、ヒヨリが使っていた『初めての人生なので、よくわかりません』って言い訳の説得力が凄いから余も使っていこうと思う」
アツコ「その後、ミサキに死ぬほど怒られてたよ」
オウヒ「……やっぱり使わない」
ワタシはヒマリさんに声をかけられて、ミレニアムの食堂に来ていた。
生徒の姿もあまりなく、どこか閑散としているような印象に映る。
というのも、それはミレニアムの校風が原因だと思う。
もちろん、ミレニアムの食堂の質が悪い、というわけではない。
味も美味しい。ゲヘナで活動しているとされている美食研究会、って人達に出しても、何の問題もないくらい美味しい。
量はワタシには少ないけれど、他の人には適量だと思う。
値段も学食ということもあってか、安い部類だろう。
正に、コスパが良い。そんな食堂だった。
ならどうして、閑散としているのか。
それこそが、ミレニアムの校風が原因だとワタシは思っている。
ミレニアムサイエンススクールは学校であると同時に、ある種の研究機関でもあった。
大抵の人は、何かしらの研究に没頭している。更にそこに、学校の課題などの、学生としてやらなければならないことが追加されていくのだから、彼女達は時間に追われることとなる。
そうなると、睡眠時間を削ったり、趣味の時間を切り詰めたりしなければならない。
かといって、睡眠は必要不可欠、自分の時間は最低限は欲しい。であれば、どの時間が不必要なのか。一日は24時間しかない。活動に支差し支えなくするには、どこを削れば効率が良いか。
故にこそ、彼女達は削った。
食事をする時間を、彼女達は削った。
売店に行って、食事をパンやサプリなど簡単なもので済ませて、ついでにダブルのエスプレッソとエナジードリンクを購入し、研究や勉学に備える。
コストパフォーマンスよりも、タイムパフォーマンスを、彼女達は優先にしたのだ。
だからこそ、ミレニアムの食堂は、そこまで混むことはなかった。
ワタシにはわからない世界だ。
だって、ご飯は美味しいものを食べたい。エナジードリンクは身体に悪そうだし、エスプレッソなんて飲んだら眠れなくなっちゃう。
とはいえ、ワタシも研究や課題をあまりやらない、ミレニアムでも落ちこぼれの類の生徒だ。頭の悪い人間が、頭の良い人の行動を理解しようとするのが、間違っているのかもしれない。
きっとそれは、ワタシが異端であって、売店で食事を済ませる彼女達が正常なのだろう。
「やはり、人がいませんね」
ヒマリさんはため息を吐いて、食堂の様子を見て口を開いた。
その口調は、どこか残念そうにも聞こえる。
気持ちはわかるのです。
美味しいし、食堂の人達は優しいし、みんなも来て欲しい。でもこればかりは仕方ない。ワタシと違って、みんなはやることが多いみたいだから。
「ヒマリは
「えぇ。美味しいですからね、ここのご飯は」
ヒマリさんの言葉を聞いて、ワタシは何度もうんうん、と何度も頷く。本当に美味しいからね、ここの食堂は。もっと広まってもいいくらいには。
そこでふと疑問に思ったことを口にした。
「ヒマリは一人で良く来るのか?」
「一人でというよりも、誰かと一緒に来るのが多いですね」
「ほう、そうなのか?」
「最近は、特異現象捜査部で来ましたよ。エイミとコンサバティブちゃんと」
エイミ、っていうとどこかで聞いたことある。
確かコンサバティブちゃんが話しをしていた、特異現象捜査部の部員の一人だった筈だ。ワタシと一緒の学年で、何よりも────。
「エイミとは、和泉元エイミか?」
「そうですが、知っているのですか?」
「直接、話したことはない。しかし、コンサバティブちゃんからは聞いている」
「何を聞きました?」
「うむ。何かもう、凄い、と……」
そう、凄い、と。
あのコンサバティブちゃんから、形容し難い立派な物をお持ちだ、と聞いている。それを何度も何度も。おはようからおやすみまで、何度も何度も。
ちょっと、見ない間に何があったんだろうね、コンサバティブちゃん。そこまでスケベだったかな、ってくらい凄いって何度も言ってくるんだ。
そういわれると、ワタシも気になってくるというもの。
どれほどの物をお持ちなのか、どこか邪だけれども、見てみたい気持ちがあるというものですよ。
しかし、ワタシだってそれなりに耐性はある。リオ会長という、それはもう立派な方がいたからね。ちょっとやそっとじゃ驚かないですよ?
ヒマリさんは困ったような笑みを浮かべる。
コンサバティブちゃんに聞いたのだから仕方ない、と言わんばかりの諦めた口調で。
「コンサバティブちゃん、夢中でしたからね。エイミに」
「いや、本当にごめんなさい。具足が迷惑をかけて……」
反射的に頭を下げてしまった。
でも、ヒマリさんはいえいえ、と上品に笑い否定してくると。
「迷惑なんてとんでもない。あの子、大活躍でしたよ?」
「えー、まことにー? アレがー?」
にわかに信じ難い。
だって、あのコンサバティブちゃんだよ? 意味不明なことを言ってやまない、あのコンサバティブちゃんがだよ?
この前だって、マスターはブルアカのオリ主の中でも個性が薄い、って言ってきた奴ですよ? 意味はわからないけど、罵倒していることは辛うじてわかりましたとも。
そんな奴が活躍って、ありえるのだろうか?
疑問が顔に出ていたのか、ヒマリさんは一度頷いて。
「オウヒは私が特異現象捜査部になった経緯を知っていますね?」
「リオから聞いている。名もなき神々や無名の司祭が残したオーパーツ、及び、科学的に証明しがたい現象を研究するために設立した部活、だったか?」
「概ね合ってますね。本当に嫌でしたが、本当の本当に嫌でしたが、あの下水女の言う事なんて聞きたくありませんでしたが、マジで仕方なく私は特異現象捜査部の部長をやっています。断腸の思いで」
「うん、それも聞いてる」
美少女あるまじき、奥歯で苦虫を噛み締めてるような、凄い顔でヒマリさんは言っていた。
これも、嫌も嫌も好きのうち、ってやつなのかな?
もしくは、照れているのを隠している?
そうだとしたら、やはりヒマリさんとリオ会長は仲良しだ。
二人が仲良しだと、ワタシも嬉しい。
今度、三人で遊びに行きたいものだ。その際は、トキちゃんも誘わないと。あと噂のエイミちゃん。コンサバティブちゃんはいいや。
「不穏な事を考えてます?」
「そんなわけ。ヒマリよ、そんなわけ」
ククッ、とワタシは誤魔化すように笑う。
ここで提案するのは勿体無いから。こういうのはサプライズして、びっくりさせたいのです。喜んでくれるかなリオ会長とヒマリさん。
腑に落ちない様子のヒマリさんは、まぁいい、と一度咳払いをして。
「特異現象捜査部の活動は、概ねオウヒの言った内容で正しいです。最近までの調査対象はビナー。貴女がアビドス砂漠で交戦した機械仕掛けの怪物です」
「あぁ、聞いている。しかし進展は────」
「私達はビナーと何度か接敵しています」
「────え?」
「そして、ビナーは預言者と呼ばれる存在の一体でしかなく、同等の戦力を有する預言者が数体いることも観測しています」
「ゑ?」
理解が追いつかない。
いつの間に、本当にいつの間に、どういう経緯で。ビナーともう一度闘ったのか、それに同じ戦力を持っている存在がいるとか、ずっと衝撃を受けている。
何よりも。
「え、あの。余、リオから、何も動きはないって……」
「それ、嘘ですね」
「────────────────」
「初めて見ました。人ってあんな綺麗に膝から崩れ落ちる事ができるんですね?」
あれから回復したワタシは、ヒマリさんと一緒に食堂に設置されている椅子に座っている。
長机を挟んで迎え合う形で、対面するように座るワタシ達。
ワタシには余裕がない。
ヒマリさんには失礼だけど、受け答えすることもなく。
「はぁ……」
大きな大きな、それこそ大きな、とても大きな溜息を吐いてしまった。
でもヒマリさんの表情は変わらなかった。
不快に感じている様子もなく、ただただワタシを慰めるように優しい声で。
「リオも悪気があって嘘ついていたわけではありませんよ。人の気持ちがわからない女ではありますが、良かれと思って行動しているのは確かですから」
「うん。でも闘ってみたかったな……」
別に嘘を言われた事は良い。きっと、リオ会長がそうするべきと判断した何かがあると思うから。ワタシはバカだからわからないけど、きっとリオ会長がそうするべきと思ったのだからそうなのだろう。
でも、それでも、闘ってみたかったなー!!!
呼んで欲しかったなー! ビナーと闘うのなら! 同じくらい強い存在がいるのなら! ワタシも呼んで欲しかったなー! って気持ちがあります。その気持ちしかありません。
ヒマリさんは接敵といっただけで、撃退や破壊と言ってないからまだ生きていると思うけれど、まだ闘える機会はある。
でもなー!! ワタシも闘ってみたかったなー! って!
「そんなだから、リオもコンサバティブちゃんも伝えなかったのだと思いますが……」
「どういう意味か?」
「無理はさせたくない、って意味ですよ」
無理とはどういう意味だろう?
別にワタシは、闘う事を無理矢理しているわけではない。むしろ、やりたいから、やっている。それがワタシには必要だから。
全身が傷ついても、骨は砕けても、血が出でても、死ぬかもしれない致命傷を負うことになろうとも、闘争はワタシに必要な行為だから。
再確認。
ワタシの中での戦闘行為がどれほどの重要な事なのか改めて認識して問う。
「先ほど言っていたコンサバティブちゃんが大活躍とは?」
「言葉にする事が難しいくらいの活躍ですよ。特にビナー相手に凄まじかったですね」
「あの子が? 意外なのだが?」
「あの子も素直じゃありませんから。愛されてますよ、オウヒは」
「よせやい」
どこか照れちゃうな。
何でビナー相手にそこまでやる気になったのかわからないけど、帰ったら褒めてあげよう。
「それで、コンサバティブちゃんは特異現象捜査部の部室にいるのか? 最近、忙しなく飛び回っているようだが?」
「いいえ、こちらには来てませんよ。きっと準備をしているのでしょう」
「準備とは?」
「私との戦う準備ですよ」
「は?」
どこか穏かではない答えに、思わず開いた口が塞がらない。
誰と誰が? コンサバティブちゃんとヒマリさんが。
何が原因で? 全くワカラナイ。
眼を丸くしているのを自覚する。理解が追いつかないのを認識する。
上手く言葉が纏まらないワタシを、ヒマリさんは静かな口調で。
「オウヒは最近転入してきた天童アリスをご存知ですか?」
「リオから、聞いているが……」
未だに理解が追いつかないワタシは、何とかヒマリさんの問いに答える。
対するヒマリさんは、そうですか、と受け止めて。
「アリスがどのような存在なのかも?」
「……世界を壊しかねない存在としか」
「彼女が暴走し、もし本当にそうなったらどうするか、そこまでは聞いてますか?」
「いいや……」
そういえば、聞いていなかった。
リオ会長がアリスちゃんに苦心している事はわかっている。その原因が、アリスちゃんが持っているとされている力なのもわかっている。
でもその後は。
もし、アリスちゃんが本当にそんな途方もない力を持っていて、それを行使する事になったらどうするのか、そこまでは聞いていなかった。
リオ会長のことだ。
そうなる前に、何かしらの解決策を用意するに違いない。でもそれが未だに、ワタシは教えてもらっていない。
リオ会長はどうやって、アリスちゃんを止めるつもりなのだろう?
「オウヒ」
顔を上げる。視線をヒマリさんに向ける。
彼女は真剣な表情で、いつもの柔和な笑みはなく、ただひたすら真剣な表情で、ワタシを見ていた。
「これから、戦いが始まります。恐らくですが、ミレニアムは割れるでしょう。リオか、リオ以外かで」
「それは、どうして……」
「原因は、ごめんなさい。私の口からは言えません。これはリオ自身が、貴女に伝えなければならないことですので」
申し訳なさそうにヒマリさんは言うと、続けて口を開く。
「コンサバティブちゃんはそのための準備に入りました。貴女もこの動乱に、巻き込まれるでしょう。それほど、貴女の存在も戦力も大きなものですから」
それは予言だった。
逃れる事のない予言であった。
これから始まる何かの予言であった。
ヒマリさんは真っ直ぐに、ワタシを見つめて。
「オウヒ、どうか思うがまま、行動してください。それはきっと、良い結末に繋がりますから」
△ミレニアムの食堂
味も良く、直ぐ出てくる。
食堂のおばさんも優しい。売店で食事を済ませる、食堂に通う生徒はミレニアムでは珍しく、なおかつ良く食べるのでオウヒは常連として覚えられている。
△特異現象捜査部の活動
実は、デカグラマトン編の第一章まで終えていた。
その事実に、オウヒは膝から崩れ落ちる。
△コンサバティブちゃんがやる気を出した理由
ヒント:オウヒはビナーに死にかけて、コンサバティブちゃんはブチギレている。