こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~

 トキ「オウヒ、ガで始まって、ポで終わる気持ちいいことしましょうか」
 オウヒ「えっ///? ……いや、待て。ガチで知らないの来たな」


第8話 謝罪のプロの名は天上院

 ピッピッピ、と。

 規則正しく、軽快で、けたたましいアラームの音が聞こえてワタシは重い瞼を開けた。

 

 それも一つや二つじゃない。

 ベッドから手を伸ばせば届く、小さなテーブルの上には、5台の目覚まし時計。

 

 何台もあるのは、ワタシが朝が弱いからという意味ではない。

 寝惚けた調子で、思いっきり叩いて壊しちゃう事が、何度もあったから。決して、朝が弱いから何台も置いているとかそういうわけじゃない。断じてそうじゃない。

 

 

「みゅ……」

 

 

 五台もなっていた目覚まし時計を止めて、手の甲で眼をこする。

 

 視界は定まらず、思考も靄がかかっているようで纏まらない。

 ボーっと天井の角を見つめて、半開きの眼をこする。それから大きな欠伸をして、再び天井の角に視線を向ける。

 

 これで二度寝でもしたら、最高に気持ちいいだろうな、って思っていると。

 

 

「……そうだ」

 

 

 ゆっくりとした動作で、睡魔と戦いながら端末を持ち、操作する。

 

 意識はいまだに覚醒してないけれど、慣れとはある意味で恐ろしいものだ。無意識にワタシは端末のロック画面を解除すると、モモトークを開いていた。

 何件か未読のモノがある。直ぐに返したい気持ちをグッと堪え、返信しないことを心の中で謝罪し、()()()()()とのトーク画面を開く。

 

 

「……返信、来ないねぇ」

 

 

 既読にはなっていることから、トーク画面を開いていることはわかる。

 けれども、返信はなかった。見ているけど返信してない状態にある。つまりは既読スルー。

 

 こんな事は、今までなかった。

 忙しい身であることは知っていたけど、その日の内には返信をくれていた。

 

 それがない寂しさ。

 でも、忙しいのもわかるからこそのもどかしさ。

 だけど、そんな気持ちは直ぐに消えて、心がざわつく。ワタシは心配になっているのだろう、と一人で納得する。

 

 大丈夫だとは思う。

 だって、()()()は、ワタシが知る()()()は凄い人だ。

 

 ワタシの知らない事を知っているし、悩んでいるワタシにアドバイスもくれて、誰よりも優しくて、ワタシなんかを見捨てずに何度も助けてくれた。

 

 だから、大丈夫、だと思う。いらないお世話だとわかっている。

 ────だけど。

 

 

「大丈夫かな、リオ会長」

 

 

 心配なのは心配なのだ。

 ()()()────リオ会長のことを、ワタシは生意気にも気にかけていた。

 

 この頃には、ワタシは完全に覚醒していた。

 眠気なんてどこへやら。ワタシは思考を巡らせて、リオ会長とのモモトークを開いて、新たにトークを送信しようと考えるけれど。

 

 

「……少し、待ってみよう」

 

 

 うん、と頷いて、モモトークを閉じた。

 考えてみたら、返信がなくてまだ一日だ。リオ会長は多忙の身。返信が出来ないときだってあるし、あっちの都合だってある。

 

 とりあえず、返信があるまで待つことにしよう。

 

 そう一人で納得するワタシは、洗面台に行って、準備を始める。

  

 普段は朝の準備に特別な気持ちは乗せない。

 でも今日は違う。憂鬱な憂鬱な、とても気が重い、朝の準備を始める。はぁ、と自分でも驚くくらい深く思い溜息が出た。

 

 でも、行かないと。

 朝の準備を早急に終わらせて赴かないと。

 

 何をしに行くのかと言うと謝罪だ。

 誠心誠意、しっかり謝罪し、許してもらう為にワタシは今日一日を全力で望む。

 

 謝った事なんて何度もある。頭を下げたのだって数えるのも、バカらしくなるくらい下げてきた。最早、謝罪に関しては慣れたものだと自負している。自負しちゃ駄目だけど、この際は大目に見て欲しい。

 

 そんな謝罪のプロであるワタシも、今回ばかりは気が重い。

 何せ相手が相手だ。幾度もお世話になったし、ワタシが尊敬する数少ない大人の一人でもある。

 

 そんな人への謝罪。

 気が重いし、後ろめたい気持ちでいっぱいだし、直ぐにでも『アサ改』で自分のこめかみを打ち抜きたい衝動に駆られる。それをやらないのは。

 

 

「……謝らないと。悪い事をしたんだから、謝らないと。許す許されないはその後。兎に角、謝らないと」

 

 

 鼓舞するように、呪文のように、念仏のように、ワタシは何度も繰り返す。

 悪い事をしたのだから謝る、という子供から大人まで共通する、当たり前の常識を何度も何度も繰り返す。

 

 ワタシは再び洗面台の鏡を見た。

 黄金の頭髪で、カヨコちゃんにカットしてもらったロングウルフ。モモフレンズのピンキーパカさんのプリントを施されたパジャマを身に纏い、その紅い双眸は爛々と輝き、どこにでもいる顔なワタシがそこに映っていた。それはこれまた辛気臭い顔で。

 

 

「はぁ……」

 

 

 溜息を吐いたのだった。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ 

 

 

 

 料理人の朝は早い。

 朝日が昇るか昇らないかの曖昧な時間帯に、俺の一日は始まる。

 

 なんて、かっこつけたはいいが、別に俺は料理人ってガラじゃない。ただのラーメン屋だ。まぁ、味には自信があるし、そこらへんにいる料理人が作るものよりかは、俺のラーメンの方が美味い、という自負はあるがね。

 

 我ながらなんて生意気な事をいうのか、と小さく笑みを零す。

 

 設定した時間よりも早く起きてしまうのは、歳だからか、それとも習慣によるものなのか。後者であって欲しいものだ、と思いながら俺の朝は始まった。

 

 朝の身支度を整えて、朝食を軽く取り、朝の仕込みへを始める。

 

 店を構えていたとき──柴関ラーメンがまだ店としてあった頃、仕込みだけでも時間を取られ、大変だったが今は訳あってか屋台での営業だ。

 こう言っては何だが、俺は店よりも、こうした屋台での営業が性に合っているようだ。

 

 仕込みに時間をかけれるし、空いた時間は味の追求も出来る、何よりもお客さんとの距離も近いときたもんだ。

 店を構えてやるメリットの方が大きいかもしれないが、俺としては小さく屋台で営業している方が性に合っている。そういう意味では、店を畳んで良かったかもしれないな、とぼんやりと考える。

 

 そうして俺は、朝の仕込みも終えて、少しだけ早いがアビドス自治区にある屋台まで車を走らせた。

 荷台には、麺やら具材やら、仕込みで作ったスープやらが乗っている。

 

 この辺りも治安が良くなってきたな、ってぼんやりと考える。

 何よりも、カイザーPMCの姿が見かけなくなった。とはいっても、見かけなくなったのも、アビドス砂漠でお嬢やセリカちゃん達が暴れたからの話。最近の話ではない。

 

 俺の知らない所で、何かがあったのだろう、と結論を付けるとトラブルもなく屋台に着いた。

 

 そこまでの走行距離ではないものの、グッ、と身体を伸ばして軽い準備運動を始める。

 いっちにー、さんし、ごーろく、しちはち、と心の中で数えていると。

 

 

「ん……?」

 

 

 物陰から、というか電柱の陰から見覚えのある人影。

 綺麗な黄金の髪。背丈もそこまで大きくはなく、ここいらでは見慣れないミレニアムの制服を着て、その華奢な両肩には軍服のようなロングコートを羽織っている生徒が一人。

 

 お嬢────天上院オウヒの姿がそこにあった。

 

 そんな所で何をしているんだ、という当たり前の疑問を口にする前に、俺は慣れ親しんだあだ名を呼ぶ。

 

 

「お嬢?」

 

 

 呼ばれた生徒────お嬢、と俺から呼ばれている生徒は肩を大きく揺らす。どうやら見つかっていないと、本気で思っていたらしい。その辺りの迂闊さが、お嬢らしいといえばお嬢らしくて、俺は安心して、ふふっ、と笑みを零してしまった。

 

 対してお嬢は、おずおずと、電柱の影から出てきて眼を伏せている。

 こんな朝早くからどうしたのだろう、という疑問よりも、腹でも減っているのか、という確信が先に来た。

 年頃の娘にそう思うのは、俺のデリカシーが足りてないのだろうが仕方ない。何せお嬢は良く食べるから。俺のラーメンを美味そうに、最低でも十回はおかわりはするくらい、良く食べる。

 

 なので、俺のお嬢は腹が減っているという確信に辿り着いてしまうのも、仕方ないといえば仕方ないだろう。

 

 

「待ってろよお嬢、直ぐに準備をするからな」

 

「え?」

 

 

 対するお嬢は顔を上げて、俺を見て首をかしげる。

 それは、何を言っているのシヴァさん、って言いたげな顔だ。

 

 釣られて俺も荷台から荷物を下ろそうとする手を止めて。

 

 

「ラーメンを食べに来たんだろ? 今日はバイトの日でもねぇしな」

 

「あ、いや。そうじゃなくて……」

 

 

 慌てて手を振りながらそういうと、お嬢は気不味そうに、本当に申し訳なさそうに、今にも泣きそうな声で。

 

 

「シヴァさんに、謝りたくて」

 

「謝るって、」

 

 

 なにを、と尋ねる前にお嬢は震える声で紡いでいく。

 

 

「シヴァさんのお店がなくなったの、ワタシのせいだから。ワタシのいざこざに、巻き込んじゃったから、お店が燃えちゃったから、それを謝りたくて……」

 

 

 事情はシャーレの先生と、()()()()()()()から話は聞いている。

 

 お嬢を気に入らない輩が、ブラックマーケットを出入りしている生徒さんを使って、俺の店に火をつけたという事だ。

 それも、自分の意思とは関係なく、洗脳していたと聞いている。

 

 胸糞悪い話だ。

 どうして俺の店が標的にされたのかというと、お嬢と近しい者だったからといった理由だ。

 喧嘩をするのは良い。お嬢を気に入らないというのも、個人の理由であるのだから、俺が口を出すのは筋が違う事だろう。

 

 だが、お嬢を追い詰めるような汚い真似を。

 しかもそれを、俺と同じ大人が取った手であるのは、話が違うだろう。

 

 そしてそれに対して、お嬢が責任を感じるのも違う。

 

 悪いのは汚い手段を用いた、お嬢と争ったっていう大人であって、お嬢では断じてない。

 

 そんな当たり前のことを、お嬢はそうは思っていない。

 本気で自分が悪いのだと、巻き込んだ自分が全面的に悪であると、争った大人へと責任転嫁をしてくれなかった。

 

 ここで俺が、お嬢は悪くない、といっても納得しないだろう。

 

 長い付き合いだ。

 変なところで律儀と言うか、何というか。

 今だって、相当な勇気を出している筈だ。思いっきりが良い癖に、思い詰めすぎて臆病になっちまうきらいがお嬢にはある。

 

 今だって泣く一歩手前だ。

 両肩は震えて、それは手から足まで。

 

 アリウスの王だの、戦闘卿だのと、物騒なあだ名で呼ばれている生徒とは同一人物とは思えなくて。

 

 

「ははっ」

 

 

 耐え切れずに、俺は笑い出してしまった。

 

 キョトン、と。

 今にも泣きそうな目で、不思議そうな顔で俺を見るお嬢に、俺は笑みを零してしまった。

 

 コロコロと表情が変わり、本当に退屈しない。

 

 俺はお嬢が悪いとは一ミリも思っていない。

 でもそれでは、お嬢が納得しないので、ある意味でバツを与える事とした。

 

 敢えて、俺は知らないようにとぼけた調子で。

 

 

「俺に悪いって思ってんなら、お嬢には手伝ってもらおうかな」

 

「お手伝いって……?」

 

「そうだな、先ずは荷物を下ろしてもらおうか」

 

「えっ、それだけでいいの……?」

 

「おうよ」

 

 

 お嬢は眼を丸くする。

 それから直ぐに堪えるように唇をキュッと閉ざして。

 それでも我慢が出来ないように眼から涙を溢れ出して決壊するように、俺に抱き付いて。

 

 

「ゔわ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ん゙!! ジヴァ゙ざぁ゙ぁ゙ん゙! 本゙当゙に゙ごめ゙ん゙ね゙ぇ゙~!!」

 

「泣くな泣くな。可愛い顔が台無しだぞ。それに、お嬢のせいじゃねぇさ」

 

「ヷダジば可゙愛゙ぐな゙い゙~!!」

 

「わかったわかった。ほら、鼻かめ。チーンしろチーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたかい?」

 

「はい……」

 

 

 それから、わんわんと泣き始めてしまったお嬢を励まし現在に至る。

 

 お嬢は元通り────訂正する、元通りとは程遠い。

 顔を真っ赤にして、顔を俯かせて、屋台のカウンターの椅子に座り込む。

 

 耳まで赤く、首筋も紅潮としているお嬢は、俺も見たことがない。ある種のレアなお嬢が見れて、今日は良い事があるかもな、としみじみに耽っていると。

 

 

「あの、ハンカチ、洗って返すね……?」

 

「ハンカチ?」

 

 

 お嬢は指差す。

 そこには、お嬢の涙と鼻水塗れになった俺のハンカチ。

 

 そこまでしなくていい、と言いかけたがお嬢が納得しないだろう。何よりも、うら若き娘の涙と鼻水塗れの布っきれを持っているのは、何だかバツが悪い気がする。

 

 俺は頷いて、ハンカチを持って手渡した。

 

 

「それじゃ任せるかな」

 

「うん……っ!」

 

 

 お嬢は張り切るように、ハンカチを手に取ると頷いて見せた。

 

 先ほどまでガン泣きしていたとは思えないくらい自信満々な表情に、それがまた可笑しくなって笑いながらからかう様に。

 

 

「ったく、お嬢は気にしすぎだ」

 

「だって、シヴァさんには悪い事したし、ハンカチは汚しちゃうし……。アレから何かあった?」

 

「いいや、何もねぇさ。……いや、待てよ。あったな」

 

「え……?」

 

 

 お嬢の目が鋭くなる。

 纏う雰囲気も剣呑なそれになり、空気がピリつき始めた。

 

 何かあった、という曖昧な表現を、どうやらお嬢は俺に何かあったと捉えてしまったらしい。

 

 ここまで怒ってくれる事を嬉しく思う反面、俺は慌てて治めるように促した。

 

 

「悪い悪い。違うんだ」

 

「違うって……?」

 

「俺が屋台を始めるようになってから、ワカモちゃんが頻繁に来るようになったんだよ」

 

「えっ、ワカモが?」

 

 

 刺すような空気が胡散して、お嬢は首を傾げる。

 

 俺はほっと、胸を撫で下ろしてから、頷いて。

 

 

「あぁ。てっきり、お嬢がワカモちゃんに様子見るように頼んでいたと思っていたが、その反応からして違うみたいだな?」

 

「うん。モモトーク送ったりしてるけど、既読スルーするからねアイツ」

 

「アイツって、やけに辛辣だな?」

 

「まぁねー。アイツの恋バナ聞くのは愉しいけど、こっちからの連絡を無視するのは良くないと思うのです」

 

 

 ぶーぶー、とむくれるお嬢がこれまた珍しく、俺は苦笑を浮かべて。

 

 

「そういうな。もしかしたら、ワカモちゃんは友人同士のやり取りってやつが、慣れてねぇだけかもしれねぇだろ?」

 

「ワタシと撃ち合った仲なのに?」

 

 

 撃ち合った。

 何ともキヴォトスらしい表現に、俺はあぁ、と頷いて。

 

 

「お嬢の変わりに俺を守ってくれたんだ。お嬢のことを邪険にしている気はねぇだろうさ」

 

「それに関してはありがたいけどね。それはそれ、これはこれ。既読スルーよくないと、天上院は思うわけですよ」

 

 

 それに関してはフォローの言葉が見つからない。

 俺はただただ、乾いた笑みを浮かべて、話を変えることとした。

 

 

「それはそうと、アリウスの生徒さんはどうなんだ? 大変だったんだろ?」

 

「うん。街は爆撃されたけど、みんな無事に全快しているよ」

 

 

 お嬢は本当に嬉しいのか、先ほど不満顔などどこへやら。

 ニコニコと、満面の笑みで告げる。

 

 

「自治区の復興もね、進んでるんだよ。まだ元通りってわけじゃないけど、トリニティの人達と、レッドウィンター工務部の皆さんが手伝ってくれて────」

 

 

 そこまで言うと、お嬢が止まる。

 ピタリ、と。思い出したかのように、顔を青ざめて続けて。

 

 

「────そう、手伝ってくれたのだけど、ワタシがちょっと、壊しちゃった……」

 

「へぇ、事故かい?」

 

「ううん、そうじゃなくて、その、ミカちゃんも来てくれて、うん、我慢が出来ず……」

 

 

 プルプル、と怯えるように。

 壊してしまった後に、説教でもされたのだろうか。当時の状況を思い出したかのように、お嬢は恐怖に震え始めてしまう。

 

 その姿がおかしくて、俺は堪えきれずに腹を抱えて。

 

 

「はははっ、まぁアレだ! 楽しそうで何よりだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり、お嬢と談笑し、営業時間に迫っていた。

 

 お嬢の姿はない。

 どうやら、用事があるようでミレニアムのゲームショップに行くのだと言っていた。

 

 何でも、最近仲良くしている生徒達がゲームを作っている娘達で、その子達が作ったゲームをやりたくて買いに行くとのことだ。

 確か名前は────テイルズ・サガ・クロニクル、と言ったか。

 

 お嬢がゲームとは珍しい。

 余程楽しみなのか、軽い足取りで、スキップするかのように向かって行ったのは微笑ましい。

 

 そんなお嬢と入れ替わるように。

 

 

「景気はどうですか?」

 

 

 いつの間にそこに居たのか、一人の大人が立っていた。

 

 振り返る。

 その大人は黒く、何よりも黒い。

 墨よりも黒い、スーツを着こなし、俺に気安い口調で話しかけていた。

 

 初対面、というわけではない。

 先ほどの、お嬢の事情を説明してくれたシャーレの先生。そして、()()()()()()()が黒スーツの彼であった。

 

 そして────。

 

 

「ボチボチやらしてもらってるよ」

 

 

 今回、屋台として新規オープンする際に資金援助してくれたのも、彼であった。

 

 正体不明の大人。

 キヴォトスには奇抜な風体の大人が数多くいるが、目の前の人物は別格だろう。世話になっておいてなんだが、どこか胡散臭い。腹に一物抱えてそうな、そんな得体の知れないモノを感じる。

 

 それは本人も自覚しているのか、大して気にしてない調子で。

 

 

「それは良かった。えぇ、こちらも投資した甲斐があったものです」

 

 

 彼は投資したというが、見返りはないようなものだ。

 いいや、ないようなものじゃない。全くといって良いほどない。

 

 彼は様子を見に来るだけ。

 こちらに何かを求めている様子もなく、ラーメンを注文するどころか、水すらも手につけずに去っていく。

 俺に、柴関ラーメンに投資すれば何かしらの利益があるから、彼は投資しているのだろうが、俺には彼に何かしらのメリットがあるとは思えない。

 

 だからこそ不気味。胡散臭く見えて、信用が出来ない。

 資金援助してもらって、俺のこの感情は不義理であることは百も承知。

 

 しかし、得体の知れない存在に、全幅の信頼を置くのも間違っていると俺は思う。

 

 

「それでいいですよ、大将。私も善意で、貴方に投資しているわけではないので」

 

 

 見透かすように。

 どこか愉しそうに彼は言う。

 

 俺は訝しむように。しかし、表情には出さないように作り笑いを浮かべて。

 

 

「アンタにメリットがあって、俺の店に投資したってことかい?」

 

「えぇ、勿論ですとも」

 

「それを聞いてもいいかい?」

 

 

 黒いそいつは笑みを零す。

 聞きなれた笑い方。くつくつと、喉を鳴らすように不敵に笑みを浮かべて。

 

 

「クックック、単純な話ですよ。貴方のラーメンは素晴らしい。それが潰えるのは惜しいと思ったので」

 

 ────嘘付け、食ったことねぇだろアンタ。

 

 

 

 





 △もう一人の大人
 柴大将にお店が燃やされた経緯を話した大人。シャーレの先生とは違う奴。
 黒くて、黒いアイツ。黒いスーツを着ている。クックック、って笑う。


 △オウヒのパジャマ
 ピンキーパカのイラストのパジャマ。お気に入り。
 ピンクだから。あと可愛いから。ピンキーパカが。


 △「ゔわ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ん゙!! ジヴァ゙ざぁ゙ぁ゙ん゙! 本゙当゙に゙ごめ゙ん゙ね゙ぇ゙~!!」
 涙と鼻水でグッチャグチャな顔面。


 △「ミカちゃんも来てくれて、うん、我慢が出来ず……」
 お互い、テンションが上がったと供述しており。


 △黒い大人が柴関ラーメンに投資した理由
 ヒント:親バカ







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