こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~

コンサバティブちゃん『暇ですね。取り返しの付かない事でもしますか』
オウヒ「まって」




第11話 下水と清涼水

 オウヒがリオの元へと訪問してから、数日が経とうとしていた。

 

 リオの元へ訪問と言ったが、その目的は叶ったわけではない。

 門前払いにあった、というわけでもない。()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけに過ぎない。

 

 

 オウヒも、そう割り切った。

 

 全ては偶然なのだと。そういう日もあるのだと。リオは多忙の身だから仕方ないのだと。オウヒは深く追求することなく、ありとあらゆる疑問を感情の底へ沈めて、その場を後にした。

 

 それはオウヒらしいと言えば、オウヒらしかった。

 過去の経験を踏まえて、なけなしの勇気を振り絞り、行動に移した結果がこれだ。

 

 良く言えば、相手の気持ちを察する事が出来る者。

 悪く言うのなら、臆病であるからこそ深く追求する事が出来ない。

 普段の言動からは考え付かないほど、戦闘が絡まなければ天上院オウヒの感性は脆弱に尽きる。

 

 

 とはいえ、オウヒとしては良くやった方だろう。

 気を使いすぎて、対話という名のテーブルに着くことをしなかった、以前の彼女からしてみれば進歩しているといえる。

 

 

 自分一人で対処すれば良い、と報告をせずに。

 嫌われたくないから、と連絡をすることなく。

 皆には笑っていて欲しい、と相談することを怠った。

 

 そんな臆病だった者が、先ずは対話する事を選んだのだ。

 それは大きな進歩を言える。

 

 だがこれは、他人が聞いたら微々たるモノ。

 何を当たり前な、と一笑に付す者もいるだろう。されどそれが、天上院オウヒであるのなら。彼女の内面を理解している者からしてみたら、笑うことはせずに、むしろ良くやったと賞賛するかもしれない。

 

 

「────────」

 

 

 彼女もその一人だった。

 電動の車椅子を操作して、ミレニアムタワーの最上階の廊下を進んでいた。

 

 迷うことなく、堂々と。

 口元には笑みを張り付かせているものの、目が笑っていない。笑うという行為は、本来攻撃的なものである、というかのように、彼女は誰がどう見ても、激怒していた。

 

 剣呑な雰囲気を纏わせて、他人に当たることなく、笑顔という仮面を被り続ける。

 

 彼女の目的地。

 つまりは、セミナー生徒会室のドアの前。そこには、一人の人影が立っていた。

 

 その人物は、反射的にビクッと身体を震わせて、驚いたように目を大きく開いていた。

 そこまで、車椅子の彼女の立腹っぷりが衝撃的だったのか。

 

 いつもの沈着な姿を、何とか取り繕った彼女────飛鳥馬トキは車椅子の生徒に声をかける。

 

 

「……ヒマリ、先輩。何の用でこちらに?」

 

「あら、トキ。ご機嫌よう」

 

 

 車椅子の生徒────明星ヒマリの普段の言動からは想像も出来ないくらい、丁寧すぎる言葉で返す。

 

 その表情は変わらず笑顔。

 ニッコリ、と。満面の笑みで。トキに尋ねる。

 

 

「リオはどちらに?」

 

「リオ様は……」

 

 

 あまりの迫力を前に、言い淀むトキに、ヒマリはあぁ、と呟いて続けて。

 

 

「やはり、ここには居ませんか」

 

 

 予想通りです、と口にすると辺りを見渡す。

 何かを探しているようで、その様子は必ずあることを確信しているかのような仕草。

 

 右往左往、と周囲を見渡して、直ぐに視線が止まった。

 それは天井の角。そこには、セミナーの生徒会室のドアの前を一望出来る位置で設置されている、監視カメラがあった。

 

 ヒマリの表情に驚きはない。

 必ずあると確信したモノを発見できたからか、その顔に達成感はなかった。

 

 ため息を一つ吐く。

 それは呆れ混じりであり、面倒だと言うかのような、短いため息だった。

 

 軽く両手を広げる。

 同時に、ヒマリの眼前で半透明なディスプレイが展開され、その手元にも同じような半透明なキーボードらしきデバイスが展開される。

 

 トキは思わず、身構えるものの。

 

 

「大丈夫ですよ、トキ。貴女はそこで見ていてください。悪いようにはしませんから」

 

「……はい」

 

 

 有無を言わせない口調に、トキは警戒心を緩めないまま、成り行きを見守る事にした。

 

 普段はマイペースであるのに、こういうときだけは職務に忠実な、後輩を見て苦笑を浮かべてヒマリは言う。

 

 

「そこに監視カメラがあるということは、きっと()()()も見ているのでしょう」

 

 

 本当に趣味が悪い、と吐き捨てるように呟き、滑らかな手付きで淀みなくキーボードらしきデバイスを操作して。

 

 

「さて、と」

 

 

 仕上げ、と言わんばかりにエンターキーをタイピングして、半透明な三枚のディスプレイは組み合わさり、大きな半透明な一枚のディスプレイとなり、ヒマリの眼前に展開される。

 

 そこに映し出された人物は、眼を丸くさせて、ヒマリを見ていた。

 信じられない、と今から口にするかのような表情のまま固まり、ヒマリをジッと見つめている。

 

 対するヒマリに変化はない。

 満面の笑みで、なおかつ剣呑な雰囲気を纏わせ、眼は全く笑っていないまま、敢えてご機嫌な口調で。

 

 

「ご機嫌よう、リオ。調子はどうでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある薄暗い一室にて。

 壁に設置された大型モニターに映し出された級友の姿に、調月リオは驚愕の色を隠せない。

 

 常に冷静であったその表情は崩れ、眼を大きく見開き、信じられないモノを見る目でリオは大型モニターに映し出されたヒマリを凝視する。

 

 事の成り行きを、監視カメラで注視していたのだ。

 ヒマリの姿が見えたところで、驚きはしない。問題なのは、それが()()()()()()()姿()()()()()()ということ。

 

 リオとしては、自身の姿を晒すつもりは毛頭ない。しかし、ヒマリもリオの姿を認識している事実。

 ということはつまり、今リオがいる場所のカメラが起動されている、ということに他ならなかった。

 

 

「……ハッキングしたというの?」

 

『えぇ、まぁ』

 

 

 リオの問いに、モニター越しのヒマリは特に気にする素振りを見せずに続けて。

 

 

『無駄に強固なファイアウォールでしたが、入り口さえあれば私達には何のそのです』

 

「私達……?」

 

 

 奇妙な言い回しだった。

 いつもの明星ヒマリなら、リオを出し抜けたと今の言葉の6割増しで口撃してくる筈だが、今回はそれがない。

 まるで、自分一人だけの力ではない、とでも言うかの言動であり、協力者でもいるかのような口ぶりだった。

 

 リオの疑念は、次のヒマリの言葉によって、直ぐに解消される事となる。

 

 

『チーちゃんにも手伝って貰いました』

 

「チヒロが?」

 

 

 チーちゃんと呼ばれる生徒に、心当たりがあった。

 各務チヒロ。リオやヒマリと同学年であり、短い付き合いとは到底思えない生徒。

 

 なるほど、彼女が協力しているのなら突破されるのも仕方ないだろう、と。リオは納得すると、再び大型モニターに視線を向ける。

 そこには、ヒマリしかおらず、肝心の協力者であるチヒロの姿はなかった。

 

 

『チーちゃんはこの場にいませんよ』

 

 

 ヒマリは笑みを浮かべたまま続けて言う。

 

 

『今の貴女に会いたくないそうです。嫌われましたね?』

 

「……別に構わないわ」

 

 

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。

 過去に、『千年難題』についてよく三人で議論していた思い出が過ぎり、リオは直ぐに調子を取り戻して。

 

 

「それで何の用かしら?」

 

『……その前に、何ですかその姿は』

 

「至って普通だと思うのだけど」

 

 

 その言葉に、一瞬だけヒマリの表情に陰りを差し込んだ。

 

 誰がどう見ても、普通ではなかったから。

 眼の下にある隈は色濃く、モニター越しに見える部屋の床には何かの資料が散乱としている。眼もどこか疲れ切っており、焦点が定まっていないようでもある。

 

 モニター越しでもわかる。

 明らかにリオは憔悴し切っており、擦り切れているとことが。

 天童アリスへの対処方法を、非情な手段を用いることを口にしていたリオが、まだ諦めていないことを、ヒマリには嫌というほど理解出来てしまった。

 

 だからだろうか。

 

 

「そういう貴女はどうして、そんなに怒っているのかしら?」

 

『…………』

 

 

 心の奥底から、感情が荒波となって揺さぶり、今すぐに口汚く罵ろうとする口を閉ざす。

 

 そうだ。

 ヒマリは怒っていた。

 ここに来てから、ここに来る前から、ここに至るまで、ヒマリはずっと怒っていた。

 

 その原因は、間違いなくリオである。

 一人で何もかもをしようとする態度が気に入らず、気が弱い癖に何でもないとする姿勢に腹が立ち、何よりも────。

 

 

『……貴女がそういう女だとは知っています。合理だ何だと言っておきながら、善意という水面の底には、臆病、恐怖、拒絶、それらを恐れる臆病者であることは理解しています』

 

 

 だからこそ、ヒマリはリオを『下水女』と称する。

 いくら、清らかな水があろうと、良いたい事も言わずに積もり積もった感情が汚濁となり底に蓄積されていくのなら、下水と変わらない、と。

 

 一朝一夕で、人間は変わらない。

 臆病な人間に、今日から勇気を出せ、なんて無茶な事を言うつもりも無い。

 

 それでもなお、わかっていても。

 ヒマリは物申さずにはいられなかった。

 

 

『リオ、()()()への態度はなんですか』

 

「…………」

 

 

 ()()()とは、あまりにも抽象的であるが、リオには心当たりがあった。

 それは数日前にここまでやって来てくれた一人の生徒。自分にわざわざ尋ねに来てくれる生徒なんて、一人しか思い浮かばなかった。

 

 

()()()がどんな思いで、ここまで来たか。貴女はわかっているんですか?』

 

 

 ヒマリの口調は穏かであるものの、明らかな苛立ちを感情に乗せていた。

 それは収まることなく、増していくばかり。

 

 

()()()は勇気を振り絞りました。今までの()()()とは思えないくらい頑張って。貴女と対話しようと、ここまで足を運びました』

 

 

 今度こそヒマリの表情から笑みが消える。

 それが今まで慕ってきた後輩へ向ける態度かと、言うかのように鋭い視線を向けて。

 

 

『なのに何ですか貴女は。何も話さず、何も語らず、姿さえ見せない。それなのに、()()()を巻き込むつもりですか』

 

「それは……」

 

『臆病者の貴女のことです。()()()に嫌われるかもしれない、と縮こまっているのでしょう』

 

「……っ」

 

 

 図星を突かれ、リオは押し黙る。

 

 対するヒマリは、そこで黙るのが貴女の悪い癖だ、と言うかのように大きなため息を吐いて。

 

 

『会ってもいない、話したこともない、名も知れない生徒会長を庇った()()()がちょっとやそっとで、他人を嫌うわけがないでしょうに』

 

「……なんで貴女がそれを知っているの?」

 

『それは勿論、あの場に私もいましたから。盗み聞きとは、美少女にあるまじき行為ではありましたが』

 

 

 ニッコリ、と。

 今度こそ怒り以外の感情で以て、ヒマリは笑みを浮かべ、それから直ぐに言い聞かせるような口調のまま。

 

 

『リオ。結果がどうであれば、()()()には話すべきです』

 

「勿論、話すわ。でも、それは今ではない」

 

『いいえ、今、話すべきです』

 

「それは、何故?」

 

『当たり前でしょう』

 

 

 呆れた、と言わんばかりにため息を吐いてヒマリは続けて言う。

 

 

『時間は有限です。あの時こうしていれば、と後悔しても時は戻らない。話せるときに話しておくのが、後悔しない生き方ですよ?』

 

「…………」

 

 

 リオから反論はない。言葉を飲み込み黙するのみだ。

 

 彼女も分かっていたから。このまま先伸ばした所で、事態が好転することなど決してない。時間は進み、日にちは無常にも経っていく。リオやヒマリが想定する最悪な事態が起きるのは、数秒後か、あるいは数分後か。数時間後かもしれない。

 そうなっては何もかもが遅いのだから。

 

 

『私の用件はそれだけです。一人で何もかもを為そうとするのは結構ですが、私達もいい加減、堪忍袋の緒が限界ですよ。特にチーちゃんが』

 

「それはどういう意味かしら?」

 

『そのままの意味ですよビッグシスター。これ以上は癪なので言いません』

 

 

 そういうと、電動車いすを操作して、背を向ける。

 その背中越しで。

 

 

『……そうそう、()()()は言ってましたよ?』

 

「……なにをかしら?」

 

『“ワタシは、きっとリオ会長と、一緒にいると思う”、と。この言葉のその意味を、噛み締めてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうと、今度こそヒマリはモニターを切る。

 言いたい事は言った。あとはリオ次第であると、この場を後にしようとするが。

 

 

「ヒマリ先輩」

 

 

 トキに呼び止められて、電動車いすの操作を止める。

 何の用なのか、と尋ねる前にトキは頭を下げて。

 

 

「ありがとうございます。これでリオ様もきっと────」

 

「いいんですよ、トキ。それに、あの女のためじゃありませんから」

 

「……オウヒのため、ですか?」

 

 

 えぇ、と肯定する。

 ()()()つまりは、天上院オウヒのことであり、ヒマリが動いたのは彼女のためであった。

 

 

「落ち込んでいるオウヒが可哀想だったので。これは余計なお節介であり、いらぬ世話でもあり、敵に塩を送る行為でもありましたが、まぁいいでしょう。美少女たるもの、常に余裕をもち優雅たれ、です」

 

「敵に塩を送る、ですか。この場での敵とは……」

 

「それは言わぬが花、ですよ」

 

 

 そういうと、ヒマリは電動車いすを操作して、トキの方へと振り返る。

 片手の人差し指を口の前まで持っていくジェスチャーをして、人を惑わす小悪魔のような笑みを浮かべて。

 

 

「あんなに慕われているリオが羨ましい。私にだって、他人を妬む感情はあります」

 

 

 

 

 





 △怒っているチーちゃん
 実は怒っているのはチーちゃんだけじゃない。

 
 △名も知れない生徒会長を庇った
 『Vol.0 最終話 リオ会長がデレないのは不具合だと思う』を参照。
 実はヒマリも盗み聞きし、その善性を眼にした。


 △落ち込んでいるオウヒが可哀想だったので。
 ヒマリが動いた理由の一つ。
 困っている後輩を見過ごす事が出来ない。そんな先輩である明星ヒマリ。

 リオ「ちょっと待ってちょうだい。オウヒはそんなことで落ち込まないわ。超強いから」
 ヒマリ(ホンマこいつは、と言う眼と表情をリオに向ける)


 
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