こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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幕 間 あるいは教授の運命的な一日

 軽率だった。

 ミレニアム自治区にあるメインストリートの路地裏にて、空を見上げて少女は考える。

 

 ビルとビルの間に見える空の色はどこまで青く、自身がいる路地裏から見える光景とは思えないほど澄んだ青空だった。

 

 少女が行動を起こしたのは好奇心からくるもの。

 何やら想定していた展開よりも、緩やかに事が進んでいるので見に来た。

 

 この数ヶ月。ミレニアムが抱える問題は、緩やかに、確実に、根幹を揺るがそうとしていた。

 放置すれば大きな問題に発展する。それこそ、ミレニアムサイエンススクールの中では収まりきれないほどとなり、やがてはキヴォトスを揺るがす大きな事件へと変貌を遂げることだろう。

 

 ともすれば、かのビッグシスターと称される合理の怪物が動かない筈がない、と考えていた。

 だが、少女が予想していた動きとしては、大きく異なっていた。

 

 少女の計算では、今頃はミレニアムの生徒会長(ビッグシスター)は問題となっているキヴォトスを揺るがしかねない生徒─────天童アリスを拘束し、迅速に問題を処理しようと動いていた事だろう。

 

 それは、ミレニアムの生徒会長(ビッグシスター)の人間性を考慮しての計算だ。

 今までの実績、その性格、問題を処理するパターンを分析しての、計算だった。

 

 だが一向に、ミレニアムの生徒会長(ビッグシスター)は動かない。

 それが不思議に思い、少女はこうしてミレニアムまで足を運んできた。

 

 現場に立つなど、自分らしくない、と。

 少女は自分の迂闊さに、ため息を吐いた。

 

 現にこうして。

 

 

「あぁ? なんだその態度は?」

 

「お高く止まってさぁ、生意気なんだよお前」

 

 

 少女は絡まれていた。

 露骨なため息を吐いた少女に、二名の頭部をヘルメットで守っているガラの悪い生徒は憤りを隠せない。

 

 このため息は自分に向けたものですよ、なんていっても信じられないだろう。

 

 加えて、ファーストコンタクトも不味かった。

 最初はただの接触だった。肩と肩がぶつかる程度の軽いものだった。その程度のものだったのに、そっちからぶつかって来ただの、慰謝料をよこせだの、これからカイザーPMCのバイトがあったのにだの、と難癖をつけれられしまったのだ。

 

 どうしたら、穏便に目立つことなく、この場を収めることが出来るかと考えていると、疾風迅雷の如く速度で路地裏まで連れていかれてしまい、現在に至る。

 

 まるで慣れた手腕だった。

 こうして、彼女達の餌食になった生徒はどれほどの数に上るのだろう。

 

 とはいえ、考慮するに値しない。

 何故なら、少女もまた、彼女達同じく────。

 

 

 ──ほむ。

 ──どうするべきでしょうか。

 

 

 ────悪党なのだから。

 

 少女の眼は冷やかなものだった。

 キャンキャンと吼える目の前のヘルメットを被った二人組みを、躾のなってない犬を見るかのような冷たいそれだ。

 

 その目には、これから自分が痛い目を見る、といったネガティブな未来を一片たりとも考慮してない。

 どうやって、この場を切り抜けるか。それも、大事にせずに、見つからずに、どのようにして二人を黙らせるか、これしか考えていなかった。

 

 態度は揺ぎなく、心臓の音も平静そのもの。視線の奥に怯えているようすもなく、退屈なものをみるかのように、不快なモノを見つけたかのように、少女は柔和な笑みを顔に張り付かせている。

 

 この程度の修羅場、動転するには値しない。

 少女が君臨する世界では、この程度の悪党など腐るほどいる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この二人に恐怖など微塵も感じていない。

 少女の心境としては、調理する筈の魚がまな板の上で暴れ始めた、程度の認識でしかなかった。

 

 

「なんだお前、ビビってんのか?」

 

 

 黙っている少女に勘違いしたのか、ヘルメットを被った生徒の一人が、野卑な笑い声共に問いを投げる。

 笑いながら、ヘルメットのバイザーの置くから視線を向けられていることを、少女は察知する。

 

 少女の頭からつま先まで。

 ボリュームのあるブロンドヘアーの髪から、片手に持つ杖を見て、高級そうな衣類に纏ったその身体を見て、汚れ一つないブーツを見てから、その足元に置かれた少女の茶色いアタッシュケースを見て、ヘルメットを二人の生徒は笑みを零す。

 

 この手の輩が吐く台詞は決まっている。

 どうせ次の台詞は、金目の物を置いていけ、といったモノに決まっている。

 

 

「そうだなぁ、痛い目見たくなかったら────」

 

 

 やはりな、と。

 嬉しくもない予想が当たり、手に持っていた杖を小さく握り締める。

 

 油断している今なら、軽く制圧が出来る。

 迅速に、電撃的に、迅雷の如く。自分たちよりも弱いと勘違いしている今なら、モノの数秒で目の前の生徒二人を制圧する事ができる。

 

 だが。

 

 

 ────……。

 

 

 少女の動きが止まった。

 ピタリ、と。ある一点を見つめて、少女は停止する。

 

 その視線の先には、────黄金が立っていた。

 眼を見張るような、綺麗な黄金の頭髪。その両肩には軍用ロングコートを羽織り、紅い双眸はヘルメットを被った二人の生徒を射抜いていた。

 制服からして、ミレニアムの生徒だろう。その黄金はこれ見よがしに、退屈そうにため息を吐いて。

 

 

「モモイとミドリから聞いていた故、暇つぶしがてら足を運んでいたのだが」

 

 

 そういうと黄金は一歩踏み出す。

 軽い足取りで、威圧する事もないほど気軽に、路地裏へと一歩踏み出して。

 

 

「これは見るに耐えぬな。リオめ、この程度の輩を放置してしまうほど、余裕がないのか」

 

 

 はぁ、と深いため息を吐いて黄金は続けて言う。

 

 

「是非もなし。奴に拭えぬものを拭うのも、余の勤めというやつか。この雑務、甘んじよう」

 

「なんだお前は……?」

 

 

 先ほどの勢いはどこへやら。

 ヘルメットを被った二人は、その纏う空気が異質であると、敏感に察知する。

 

 本能で理解しているのだろう。

 この二人が住む世界はキヴォトスの裏側。弱肉強食が是とする世界の住人だ。

 その手のものは、相手と自分達の戦力差を敏感に察知する事ができる。そうでもしないと、生き残れない世界に、彼女達は住んでいるのだから。

 

 それでも逃げないのは、悪党の矜持なのか、それともそこまでの危機管理が出来ていないのか。

 

 もはや少女にはどうでもよかった。

 目の前の黄金に、少女は目を離せないでいる。

 なにせ、目的の人物を、目にしているのだから。

 

 

「逃走を赦す。余も今ここで、面倒を起こすつもりもない。それに貴様達を転がした所で、得るものなど何もないからな」

 

「舐めた口を聞いてんじゃねぇよ!」

 

「私らのバッグに誰がついてんのか知らねぇのか!」

 

 

 吼える二人に、黄金は態度を変えない。

 一歩一歩、臆する事もなく堂々と近付いて、手を伸ばせば拳が届く距離まで近付いて。

 

 

「たわけ、余の言葉を忘れたか。疾く去ね、面倒を起こすつもりはない」

 

「……このっ!」

 

 

 ヘルメットを被った生徒の一人が発砲する。

 自動小銃から放たれた銃声は連続し、弾丸は雨となり黄金の身体を穿つ。

 

 弾痕は少女の制服を貫き、肌に痣を作って、生々しい色を刻み込んだ。

 

 しかし。

 

 

「────よし」

 

 

 口元に引き裂く笑みを浮かべて、黄金は応じる。

 撃たれた直後とは思えない様子に、今度こそヘルメットを被った二人は慄き、一歩二歩と後ろへと後退する。

 

 一方的な暴力を前にして、その速度は遅かった。

 黄金は腰に装着されたホルスターから拳銃を取り出す。

 

 その形状は、トンプソン・コンテンダー。色は黒金。

 単発式のそれは、決して実戦向きとは言えないものであると、少女は分析する。

  

 加えて、拳銃と呼ぶにはあまりにも大型なもので、明らかに魔改造されていた。

 到底、片手では扱えないと予想されるそれを、黄金は意図も容易く片手で握り締めて、天へと銃口を向けて。

 

 

「貴様達は、引き金を引いた。その意味を、分かっていような?」

 

 

 言葉を選ぶように、ゆっくりと、それでいて力強く事実を確認する。

 

 その返答を待たずに、黄金は引き上げを引いた。

 天に掲げていた、拳銃とは呼べない銃から轟音が鳴り響き、その威力がどれほどのモノかを悠然と語る。

 

 

「…………」

 

「────」

 

 

 固まるヘルメットを被った二人を歯牙にかけずに、着実に確実に。

 黄金は拳銃のトリガーガードのスプールに指をかけて、長く重い銃身を振り下ろす。空となった薬莢は飛び出し、重力に従い地面へと転がり、その音が静かになった路地裏に響いた。

 

 ビクッ、とヘルメットを被った二人の生徒は両肩を震わせるが、黄金は気にすることなく薬室に次の銃弾を滑り込ませ、即座に銃身を跳ね上げて動作を終了させる。

 

 これでまた、あの大砲のような銃弾が、いつでも奔る事となる。

 今度は天には向けない。銃身をゆっくりと、ヘルメットを被った生徒二人に向けて。

 

 

「逃走を赦す。三度目はないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご助力、感謝します」

 

 

 一目散に、脱兎の如く逃げたヘルメットを被った二人の生徒を見送って、少女は初めて声を上げた。

 黄金は、あぁ、と気の抜けた声で応じると。

 

 

「微かな闘争の気配があった故、足を運んだだけのこと。感謝される謂れなどない」

 

「それでも私が助かったのは事実ですので。……ちなみに、闘争の気配とはどのような気配なのでしょう?」

 

「なんかこう、ピリっとしたような?」

 

 

 身振り手振りで表現する黄金に、少女は笑みを零す。

 

 本当にこの人は予想が付かない、とまるで黄金を知っているかのように少女は心の中で感想を漏らした。

 

 実のところ、少女がこうしてミレニアムに足を運んだのも、一人の生徒に会いたくてのことだった。

 とはいえ、どうしても会いたいというわけではない。出来れば会えれば良いな程度のもの。一目見れれば運が良かったくらいの心持だったのだが。

 

 

「ふふっ」

 

 

 こうして会えてしまった。

 少女の会いたかった件の生徒。それこそが目の前にいる黄金の生徒だった。

 

 しかも、どういう運命の悪戯か、自分を助けようと颯爽と現れる。

 これはいくらなんでも出来すぎであり、少女も思わず笑みを零してしまう。

 

 そんな少女の心境など察する事が出来る筈もなく、黄金は首を傾げて。

 

 

「可笑しなことでもあったか?」

 

「いいえ、なんでも……っ」

 

 

 黄金に可笑しなことはない。

 むしろ、今の状況こそが、少女にとって出来すぎな現状こそが、何よりも可笑しな事である。

 

 

 ──アケミに話せば、羨ましがることでしょうね。

 ──誰よりも彼女に会いたがっていますから。

 

 

「もしよければ、もう少し私とお話ししませんか?」

 

「今からか?」

 

 

 えぇ、と少女は言うと、黄金は難しい顔で。

 

 

「すまぬな。これから予定がある」

 

「ほむ、そうなのですか」

 

「あぁ、待ち人来るというやつでな。多忙な身でありながら、漸く時間が作れたらしい」

 

「それは残念です」

 

 

 それは心からの気持ちだった。

 これも何かの縁。会えたのだから、交流を深めたい気持ちが少女にはあった。

 だが引きとめはしない。こうして縁が出来たのだ。二度や三度、同じ事が起きるに違いない。

 

 黄金は申し訳なさそうに。

 

 

「今度ゆっくりと話すとしよう。貴様は、えーっと……」

 

 

 そういえば、名乗っていなかった。

 少女は口を開きかけて、()()()()()()()()()()()を口にしようとする。

 

 でも直ぐに改めて。

 

 

「私のことは────マナミ、とお呼びください」

           「これからどうかよろしくお願いしますね、天上院オウヒ」

 

 

 と、少女ことマナミと名乗る者は、黄金────天上院オウヒへと柔和な笑みを向けた。

 

 

 

 

 





 △マナミ
 黄金に会いたかった生徒。
 普段は表立った行動はせず、暗躍専門。
 ボリュームのあるブロンドの髪の毛、片手には杖を持っていて、茶色のアタッシュケースを持っている。
 偶然にも、ワイルドハント芸術学院の評議会長と同じ名前。
 誰なんだろう?(すっとぼけ)

 
 △黄金
 天上院オウヒのこと


 △ヘルメットを被った二人の生徒
 ガラが悪い生徒達。
 カイザーPMCに雇われてミレニアムにいる。
 またカイザーPMCか。

 
 △「モモイとミドリから聞いていた」
 ガラの悪い生徒が見かけると聞いて、パトロールしていた天上院。
 

 △「私らのバッグに誰がついてんのか知らねぇのか!」
 もしかして:カイザーPMC






 
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