数々の素敵なイラストを賜って、オウヒ可愛いって感想を頂いて生まれた話でございます。
オウヒって可愛いいのでは? という私の勘違いから生まれたお話です。
よろしくお願いします!
シャーレのオフィスにて。
私は今までの出来事を振り返っていた。
本当に色々なことがあった。
リンちゃんからの一声で目覚めて、着任早々からのユウカやハスミ、チナツとスズミと一緒にサンクトゥムタワーを奪還し、ワカモとの邂逅。
その後も眼を回すような日々だった。
アビドスの生徒達と廃校になるのを防ごうと奔走し、それが一段落したと思ったら元ゲマトリアの一員だった女性の暴走に対処して、それから間もなくミレニアムの動乱。
キヴォトス中を駆け回る日々だった。
食事を抜いたり、睡眠時間を削ったり、自分の趣味に没頭できない事もあった。
でも。
“ふふっ……”
私は笑みを零す。
それは自然と零れたモノであり、今までの日々を思い出すだけで頬が緩んでいた。
傍から見たら大変に見えるかもしれない。
でも、私は楽しかったのだ。今までの日々が。
生徒達と悩み、問題にぶつかり、傷つきながらも解決に向かおうと邁進する。その姿を見るのが好きだったのだ。
彼女達は私のことを先生と呼んでくれている。
つまりはそれは、私のことを『教え導く者』と捕らえてくれているという事。
事実は違う。
私は彼女達に何も教えていない。
教えてもらっているのは、私の方だった。
導くなど以ての外。
私がした事といえば、生徒達の主張を聞き、大人となり経験してきた事柄を彼女達に話していっただけ。
そうして、彼女達は成長していく。これからも生徒達は、私などといった大人を追い抜き、遠ざかっていくことだろう。
大人とはそういうものだ。
若い芽を摘んではいけない。自分の足で走り始めようとする者を邪魔してはいけない。その背中を見守る事を是としなければいけない。
確かに、寂しい気持ちもある。
自分だけ置いてかれているという、焦燥感がないといえば嘘になる。
でもそれ以上に、私は好きなのだ。
今まで輝いて存在が、もっと輝く存在になるのが好きなんだ。
良いものが、さらに良くなっていくものが好きなんだ。
結局は、その程度の理由だった。
気高い信念や、高尚な思想など、私にはない。
単純に好きだから。生徒達のことが好きだから、私は先生として今もこうして頑張れている。
好きだからこそ、辛い事があっても苦に思わない。
そう考えれば、私は恵まれている。何せ、好きなことを、仕事として出来るのだから。
“さて……”
一言だけ、呟いた。
スイッチを入れるように、切り替えるように、休憩を終えるチャイムのように。
目の前にある、書類の山を片付けてから、見回りを始めようと、気持ちを切り替えて今日のスケジュールを見ようとする。
同時に。
「せんせー、いる?」
一声をかけて入ってきた生徒が一人。
黄金色の頭髪、髪型はロングウルフ。
あまりにも気軽で、ひょこっ、と顔だけドアから出してシャーレのオフィスを、その紅い双眸で観察する。
私は、自身の顔が自然と綻ぶのを認める。
今では私のことを先生と呼んでくれるが、彼女とも色々あった。
最初は無関心、次に警戒、そして観察されて、戸惑いを経て、彼女と関係を築く事が出来た。
本当に色々とあった。
そして、本当に長かった。
しかし無理もない。彼女の生い立ちを考えると、私に────いいや、大人に心を開かないのも無理はなかった。
でも今は違う。
私は片手を上げ、ここにいることを教える。
それを彼女は、嬉しそうに顔を輝かせて、私に近付いて。
「せんせー、今って時間ある?」
“うん、どうしたのオウヒ?”
やってきたミレニアムの生徒────天上院オウヒは、うん、と頷いて。
「あのね、その、ね……?」
“うん”
「あの、えっと……」
“大丈夫だよ、オウヒ。ちゃんと聞いてるから、ゆっくり話してみて?”
「……うん、ありがとう、せんせー」
どこか恥ずかしそうに、申し訳なさそうに。
それでいて、小さく笑みをオウヒは零す。
これまでの彼女────というよりも、これがオウヒの素なのはわかっている。
自分のことを『余』と言わずに、演じる事もなく、柔らかい声色で私に言葉を投げてくれる辺り、彼女が私に信頼してくれていることがわかる。
ならば答えなければならないだろう。
彼女が信じる事を良しとした大人として、なによりも彼女の先生として、想いを聞いて受け止める。
それが私のすべきことだ。
オウヒは自信なさそうに、意を決するように口を開く。
「せんせー、を、ね? ワタシね?」
“うん。私を、なに?”
「せんせーを、監禁しようと想ってるの」
“……………………………………うん?”
聞き間違えかもしれない。
だからもう一度問うた。何て言ったのか、と。
「せんせーを、監禁するよ、ワタシ」
“そっかー……”
聞き間違えではなかった。
監禁とはそういうことだろう。
どこかへ私を閉じ込める。オウヒはそうしようとしているのだろう。
だけど危機感は不思議となかった。
きっと、彼女のことだ。何か理由があり、想いが暴走しているのだろう、ということは今までの天上院オウヒという生徒を見ていれば安易に想像がつく。
“えーっと、オウヒ。聞いても良いかな?”
「うん、いいよ」
“監禁ってどうやって? 場所とか用意しているの?”
「ううん。ワタシは寮住まいだし、せんせーに来てもらうのも申し訳ないから。だからね?」
“うん”
「せんせーの部屋で、せんせーを監禁してもいい?」
“うん?”
私の部屋で私を監禁。
それは監禁といえるのだろうか?
そして、どうやら私も混乱してしまったようだ。
我ながらへんてこな事を言い始める。
“でも、私の部屋汚いし。監禁するには不適切だと思うんだ”
「そこは、大丈夫だよ。ワタシがお掃除するから」
“うーん、それこそ申し訳ないよ。私もゴミ出しとか手伝っても良い?”
「えっ、本当? ありがとう、せんせー」
お安い御用だ。
私が監禁されるのだ。私の部屋を掃除して、そのゴミ出しをするのは当たり前の事だろう。
えへへ、と笑みを浮かべるオウヒの頭を撫でて私は続ける。
“私が監禁されている間、オウヒはどうするの? 私の部屋で一緒に寝るの?”
「そ、そんなことダメだよ! 破廉恥だよ破廉恥! 学生なんだから、門限は守らないと!」
“それじゃ、帰るんだ?”
「うん。せんせーはせんせーの部屋から逃げちゃダメだよ?」
“はっはっは、逃げないさ。自分の部屋だもの。帰るとき送っていくね”
「わー! ありがとう、せんせー! 本当に優しいね?」
“いやいや、当たり前のことさ”
そこまで言って、やっと気付いた。今までの違和感に。
監禁? 私の部屋で監禁? 出歩く事を良しとされているのに?
監禁って、何だろうね?
“ねぇ、オウヒ。私って監禁されちゃうの?”
「うん、監禁するよ」
“どうして?”
「だって、せんせーって働きすぎだし、もうちょっと休んで欲しいから……」
“……優しい子だねオウヒは。ちなみに、監禁されている間の私って仕事しちゃいけないの?”
「適度なら許可します。せんせーがいないと、皆困るし。せんせーだって、お部屋に閉じこもったままじゃ嫌でしょ?」
“それは、そうだね”
監禁って、なんだろう。
これではまるで、通い妻って奴では?
我ながらアホなことを考えたものだ、と心の中で呟きながら。
“ちなみに、私を監禁しようってオウヒが考えたの?”
「ううん、アリウスの皆で考えたよ。せんせーは働きすぎだから、どうやったら休んでくれるんだろう、って相談したの」
“それで帰ってきた答えが……”
「そう、監禁。さすがアリウスの皆だよね。監禁すれば、せんせーだって休まざるを得ないもんね!」
ニッコリ、と。満面の笑みで。オウヒは誇らしげに、胸を張るように言う。
私は思わず天を仰ぎ見た。
生徒になんてことをやらせようとしていたのか。それと、アリウスの皆が想定している監禁と、オウヒがやろうとしている監禁は違うだろう。
それもこれもきっと、オウヒの善良さが原因によるものに違いない。
それは兎も角。
“大丈夫だよ、オウヒ。監禁しなくても”
「え、本当? せんせー、休んでくれる?」
“うん、休むよ。今日は一緒に、アリウスのところに行こうか?”
「うん! みんな、喜ぶよ! ちょっと待ってね、今アッちゃん達に連絡するから」
楽しそうに、幸せそうに、嬉々として彼女は端末を操作し始める。
私は別に、仕事を苦と思っていない。むしろ、好きなことをやれて幸福であると自覚している。
それでも、周りに心配をかけてしまうのは違う。心配してくれているのは、オウヒだけじゃないだろう。他にも、誰かが、私を心配してくれている筈だ。
だって、私は一人ではないから。
誰かが私を見てくれているし、ともすれば誰かが私を案じてくれている。
その人達に答えるためにも、休息はとらなければならないだろう。
「せんせー」
ふと、顔を上げる。
そこには笑みを浮かべて、手を伸ばしているオウヒの姿があった。
彼女は可愛らしく笑みを浮かべて。
「いこっ。みんな、待ってるよ?」
その笑顔に釣られるように、私も口元が緩むのを自覚して。
“そうだね、行こうか”
その小さな手を、取るのだった。
△先生
ご存知先生。
時系列は最終編を乗り越えて、現在に至っている。
△天上院オウヒ
身体は闘争を求める系女子。
ここでは、先生に心を全開にしている。つまりは、IFの姿。
先生をせんせーと呼ぶ。先生の前で演技をしなくなった。
監禁して無理矢理休ませようとしている。でも、ずっと閉じ込めておくのは先生は嫌だと思うし、外出しても良いよ。仕事もしてもいいよ。無理はしちゃ、やだよ、って感じになっている。
お部屋に行くし、料理も覚えて頑張る、お掃除もやるかね、ってなってる。
通い妻かな? いいえ、ポンコツです。ポンなる者です。
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