事の発端
小さい頃、ワタシは浮いた存在だったみたいだ。
何をしても、遠巻きから視線を感じるし、話しかけてもワタシの顔色を伺うように言葉を選び応対される。
最初は何も疑問にも思わなかった。それが普通だと思っていたから。
でも自己とは周りの環境によって形成されていくもの。
ワタシへの態度に疑問に思うまでそう時間がかからなかったし、問題は直ぐに起きた。
学校の授業の一環に行なわれる、護身授業でのこと。
ワタシはとある生徒と相対し、訓練を行なっていた。
なんてことはない授業だ。
銃火器を使う事もあるし、刃を潰したナイフで訓練する事がある。
運がよかったのはその時は素手であったこと――――大怪我を負わせずに済んだ。
運が悪かったのはワタシは自分が思っているよりも力が強かったという事――――そのせいで組んでいた生徒に怪我を負わせてしまった。
それから始まるワタシの転落人生。
腫れ物を扱うような態度から――――化物を見るような視線に変わり。
余所余所しくしていた生徒達は――――徒党を組んで暴力を振るうようになった。
どうしてこんなことに。
なんでそんなことに。
胸中に渦巻くのは、ありふれた疑問。
そして今日も今日とて、皆がワタシを敵として、力を合わせて挑んでくる。
ワタシの前にいるのは七人の生徒。
一人は敵意を持ち、一人は憤怒に溢れ、もう一人は功名心からか。
十人十色。様々な目的を持って、ワタシの前に揃う。
何のためか――――ワタシを打ち倒すため。
何のために――――嫌われ者のワタシを倒して名声を手にする為に。
『コラー! やめなさい貴女達ー!』
そんなワタシを助けるように、一人の女の子が声を上げて走ってくる。
赤色の髪の毛の女の子――――アーちゃんは砂塵を巻き上げながらワタシと集団の間に入って。
『一人対多数なんて、貴女達恥ずかしくないのかしら!』
『あ、アーちゃん……』
『大丈夫よ、オウヒ! ワタシが来たからには貴女をイジメなんてさせないわ!』
両手を広げて、ワタシを守るように立ち塞がるアーちゃん。
何てカッコいいのだろうか。ワタシよりも背が小さいのに、ものすごいカッコいい。
でも申し訳なくなる。
だって。
『んー、それは大丈夫だと思うよアルちゃん』
『それはどういう意味よムツキ!』
『そのまんまの意味なんだけど……』
困ったように笑う白髪のアーちゃんよりも小さな女の子――――ムーちゃんはワタシを見る。
うん。そうなんだ。大丈夫なんだ本当に。
だって全て終わった後なんだ。
もう一度言う。
ワタシは力が強いのだ。
こうして絡まれたのは初めてではない。
挑まれて、返り討ちにして。挑まれては、返り討ちにして。それを何度も繰り返す。
今回もそうだ。
アーちゃんが助けに入ってくれたときには既に終わっていた。
絡まれたのは、千切っては投げ、千切っては投げ。
一人は気絶した女の子を背負い、一人は生まれたての子じかのように足を震わせて何とか立っており、もう一人は茫然自失で立っている。
そしてワタシは無傷。
傷一つない姿のまま。
だからこそ申し訳ない。
アーちゃんはカッコよくワタシを守ってくれたけど、終わった後なのだ。
でもアーちゃんはわかっていなかったようで。
ムーちゃんの言葉を無視して、毅然とした態度で。
『それ以上やるっていうのなら、私が相手になるわ!』
『どうしてオウヒは絡まれちゃうのかしら』
アレから蜘蛛の子を散らし退散していく、集団を見送ったワタシ達に、アーちゃんはぼんやりとした口調で疑問を口にしていた。
ムーちゃんは、えっ、と眼を丸くさせて。
『アルちゃん、マジで言ってんのそれ?』
『?? えぇ、マジで言っているけど』
『マジかー……』
ムーちゃんは大きく溜息を吐いて。
『それはヒーちゃんが強いからだよ』
『オウヒが強い?』
『そうそう。ヒーちゃんが絡まれるのは腕試しだよ腕試し』
ただでさえ、うちの学園って治安が悪いからねー、とムーちゃんは続けて言った。
ちなみにヒーちゃんとはワタシのことである。
オウヒだからヒーちゃん。ありがとう、ムーちゃん。凄い可愛らしいあだ名。ムーちゃんのヒーちゃんを聞くだけで今日も生きていける。
対するアーちゃんはいまいち要領の得ない様子で。
『何を言っているのよムツキ。オウヒが強いわけないでしょ』
『えー、アルちゃんマジ……?』
『こんなに可愛いのに、強い訳ないじゃない。ねぇ、オウヒ?』
『……どうする、ヒーちゃん? アルちゃん凄い勘違いしてるけど?』
どうするもこうするも……どうしよう。
『私はこれはこれでいいけどね。だってこのまま勘違いさせた方が面白いし』
正直にいうと、ワタシは嬉しい。
アーちゃんには悪いけど、ワタシを助けに来てくれるのは、凄い嬉しいのだ。
いや、本当にカッコいい。アーちゃん、尊い。アーちゃんてえてえなのだ。
『ヒーちゃんがいいならいいけど……』
『何を二人で内緒話しているのかしら?』
『何もー。ねー? ヒーちゃん?』
自分だけ除け者にされたと思っているのかアーちゃんは頬を膨らませて、ムーちゃんはそんなアーちゃんを見て小悪魔のように笑みを浮かべてワタシの腕に両手を絡ませてくる。
それを見たアーちゃんはますます、機嫌が悪くなった。
あぁ、尊い。
ワタシの幼馴染達、尊すぎる。
ありがとうございます。何て美しいんだ、この二人は。
『何よ、もう。私がオウヒのために良い考えを思いついたのに』
『ロクデモなさそうー』
『何ですってー!?』
まぁまぁ、ムーちゃん。
それで、良い考えってなにアーちゃん?
『ふふふ、それはね! オウヒがイジメられないようにするための秘策よ』
『それは?』
どのような?
『オウヒ、貴女――――演技しなさい!』
そして現在。
ワタシも成長し、大人―――――とはまだまだいかないものの、成長も遂げた。
胸も大きくなり、背も高くなり、力も益々ついた現在。
「――――殿下」
片膝をついて、頭を垂れて、臣下の礼を尽くす一人の女の子がいた。
殿下と呼ばれたのは――――ワタシだった。
未だになれない呼び名。それを悟らせないように、ワタシは無表情に徹して、なるだけ低い声で応対する。
「首尾は?」
「抜かりなく」
ため息をつきたいのを我慢して、ワタシは大きく口を開いて。
「余の縄張りに足を踏み込んだカイザーの虫を鏖殺する。来い、サオリ」
「はっ」
ばっ、と勢いよく、これでもかと威厳を保つように、軍用コートを肩で羽織り、胸を張り堂々と歩みを進める。
拝啓。
アーちゃん、ムーちゃん。
元気でしょうか?
アーちゃんのアドバイスどおり、アレからワタシは演技を続けています。
ムーちゃんのやめればいいのに、って忠告に従ってればと思わなかった日はありません。
今からワタシは元気よく戦争しに行きます。
どうしてこうなったのか、わかりません。
二人とも。
ワタシは元気に――――覇道を歩んでいます。
どうしてこうなった。
→オウヒ
本名:天上院オウヒ。ヒーちゃん。ナチュラルボーン暴君。挑まれたら返り討ちにする系女子。
幼馴染大好き。アーちゃん可愛い、ムーちゃん可愛い。二人ともてえてえ。
今では立派な暴君(演技)。自分のことを余って読んじゃう(演技)
胃痛に悩まされてる。
→アーちゃん
幼馴染。
オウヒの一つ上。
オウヒは私が守ってあげないとダメねって思っている。世話焼き。直ぐ白目を剝く。
→ムーちゃん
幼馴染
オウヒの一つ上。
面白くなりそうとオウヒが強い事を黙っている。小悪魔。
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