こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 IFルートです
 もし、ヒトの善性に魅せられることもなく、運命と出会い闘争の喜びを知ることもなく、黒い彼に置いていかれずに共に行動していたら。そんなIF。

 
 人によっては、不快に感じる表現をしています。
 どうかよろしくお願いします。
 


闇に絢爛に輝く黄金 new

 

 アリウス自治区にとって、建物とは廃墟に等しい。

 屋根に穴が開いている建物もあれば、そもそも壁すらない民家も存在する。

 

 必要最低限────すら怪しい。

 雨風すら完全に防ぎ切ることは難しい。それほどまでに、アリウス自治区の建物はあばら屋の極みであった。

 

 そんな満足に建物として機能してないモノが、アリウス自治区に多く並んでいた。

 それを建て直すわけでも、取り壊すわけでもない。そのまま放置するという事は、そこまで財政に余裕がないのか、それとも優先度が低いのかどちらだろう。

 

 生きる事において、衣食住は重要だ。

 その三つの要素が一つで欠けることになるものなら、人は生きる気力を極端に失う事となる。

 

 ましてや、アリウスの今の現状は何もかもが欠けている。

 衣類といっても戦闘に必要な最低限の物資が支給されるだけ。

 食事といっても満足に摂取出来るほどの環境ではなく。

 住居も言わずもがな。

 

 お世辞でも、強がりだったとしても、どう取り繕うとも、現在のアリウス自治区は人が住める環境ではなかった。

 だというのに、アリウスから離れない生徒達。彼女達がアリウスという土地から離れないのは、大した理由はない。

 

 これからアリウスは栄え、良くなるから、といった希望的観測によるモノでもない。

 

 彼女達は諦めているのだ。

 これから改善される事がないことを、自分達が報われない事を、彼女達は無意識のうちに理解しており、諦めているに過ぎない。

 

 故に、アリウスの生徒は離れない。

 抗っても無意味であるのなら、その生は惰性なものとなる。

 そして、どうして自分達はこんな境遇に甘んじているのか、その原因に矛先を向ければ楽だからだ。

 

 正に、思考停止。

 理由が出来ればそのせいとし、敵を作り出せばその者のせいに出来るから。

 

 

 その点で言えば、彼女は間違いなく統治者であった。

 環境を改善させずに、誰が悪いのか扇動をし、生徒達の憎悪の矛先を自分ではなくトリニティ総合学園へと向けさせる。

 

 そうして、彼女達は秩序を保ち、アリウス分校と言う学園は辛うじて均衡を維持していた。

  

 

「……ふぅ」

 

 

 一息、紅い肌の女性が息を吐いた。

 

 彼女が座するはアリウス自治区に建てられた荘厳な教会。

 アリウス自治区でも数少ない、損傷がない建物の中に彼女はいた。

 

 建物室内は暗かった。

 それは比喩等ではなく、真の意味で暗い。

 

 インフラ整備などしていないアリウス自治区。

 光源といえば、蝋燭の火くらいなモノで、それすらも頼りなくユラユラと揺れている。

 

 過ごすには劣悪な環境。

 紅い肌の彼女は好んで、ここにいるわけではない。

 ただ、単純に。喧騒を離れて、一人で思案に耽っていたかっただけだ。

 

 アリウス分校の生徒会長として、そして崇高を目指す者達の一人として、今までの行動に落ち度はないか分析をしていた。

 

 その思考は自分自身にのみ注力している。

 アリウス分校の秩序や、これから目指すべき未来、生徒達の将来など、彼女にとってはどうでもいい事柄であった。

 

 意識は常に、自分にのみ。

 他者に向けることなく、己へと収束されている。

 

 他者を省みないその心根は、本当の意味で化物と称されるに相応しい。

 そして、その者の姿は当然ながら────。

 

 

「ふふッ」

 

 

 ────ヒトとはかけ離れた姿であった。

 

 その姿が月明かりに照らされる。

 

 紅い肌、手足も長く長身の体躯。

 腰よりも長い黒髪が揺れ、無数の眼を持つ。

 女性であるとわかるのは、白いドレスのような格好と、女性らしい凹凸が激しい身体であるから

だ。

 

 そんな異形の彼女は、木製の椅子に座り、鈴の鳴ったような笑みを零す。

 ご機嫌なように、物事が上手く行き有頂天になっている少女のように、高揚と全能感が彼女の内で沸き立っていた。

 

 そして、目の前に木製のテーブルの上にあるのは、何かの資料が広がっている。

 それに目を通し、笑みを深めていく。

 

 何もかも、何もかもが上手くいっていた。

 

 アリウスの生徒は掌握した。従順で使()()()駒もある。”儀式”の準備だって抜かりない。

 

 これ以上にないくらい、上手く行っている事実に、異形の彼女は笑みを零していた。

 

 思案に耽るまでもなかった。

 取り零しはなく、見落としもない。何もかもが上手くいっている。

 まるで自分を中心に世界が回っているとさえ────。

 

 

「『あら』『随分と機嫌が良いのですね?』」

 

 

 と、不意に声が聞こえた。

 

 それはいつの間にそこに立っていたのか。

 薄暗くても分かるくらいの黄金に輝く長い頭髪。怪しくも爛々と輝く黄金の双眸は真っ直ぐに、紅い異形の彼女を見つめていた。

 

 紅い異形の彼女の無数の眼が、黄金へと殺到する。

 対する黄金は意に返さずに、口元に薄い笑みを貼り付け自愛に満ちた表情のまま、紅い異形の彼女へと近付いていく。

 

 カツン、カツン、と。

 ヒールの音が静寂に保っていた教会に不気味に響き、黄金の着ていた黒いドレスがの裾が、追随するように揺れる。

 

 同時に、思い知らされる。

 これまで、何もかもが上手く行っていたのは、黄金の存在によるものであると。

 紅い異形の彼女は思い知らされた。

 

 心が乱される。

 想定していなかった存在に、紅い異形の彼女の心は乱されていた。

 

 それを悟らせないように努めるのは意地だろうか。

 何気なく、気にしている素振りすら見せずに、紅い異形の彼女は口を開く。

 

 

「何の用ですか?」

 

「『驚かせてしまったようですね?』」

 

 

 黄金の少女はクスクス、と。

 嫌味など感じさせずに、綺麗すぎるほど綺麗な笑みを浮かべる。

 

 

「……別に驚いてませんが?」

 

「『えぇ』『そうですね』『私の勘違いだったようです』」

 

 

 ごめんなさい、と驚く程素直に自分の日を認めた黄金の少女は続けて言った。

 

 

「『ご機嫌よう』『お元気そうですねベアト』」

 

「えぇ、ご機嫌よう。貴女も変わりないようですね」

 

 

 はぁ、と深いため息を吐いてベアトと呼ばれた紅い異形の彼女────ベアトリーチェは黄金の来訪者に向けて応じた。

 

 自分に向かって、ベアトなどと気軽に愛称で呼ぶのは少女くらいのもであったことを、ベアトリーチェは断じる。

 懐いている、というわけでもない。仲間内では談笑する仲ではあるものの、自分と黄金の少女はの仲はその程度。

 

 ベアトリーチェは弱みを見せないように、警戒心を高めていく。

 近付いて来る存在の背丈は少女のそれだ。自信が統治するアリウスの生徒と比較しても、その体躯は華奢なもの。

 

 誰がどう見ても、黄金の少女は子供だ。

 となれば、大人である自分に搾取されるだけの存在でしかない。

 だというのに、ベアトリーチェは黄金の少女を自分と対等、もしくはそれ以上の存在と見なしている。

 

 だからこそ、警戒する。

 食われないように、侮られないように。油断せずに相対する。

 

 対する黄金の少女は、ベアトリーチェに接近すると、目の前にあるテーブルに腰掛けて脚を組んで。

 

 

「『そんな眼で見つめないでくださいな』『私は貴女の邪魔をしに来たわけじゃありませんので』」

 

「……では何をしに?」

 

「『無論、お手伝いですよ』『麗しのベアト』」

 

 

 少女でありながら、妖艶に微笑む。

 あまりにも不均衡な少女に、探りを入れるようにベアトリーチェは問いを投げた。

 

 

「私の手伝いという事は、そちらは順調、ということですか?」

 

「『えぇ』『恙無く』」

 

 

 口元に笑みを浮かべて、妖しく黄金の瞳を輝けて、少女は何気ない口調で事実だけを述べた。

 

 

「『アビドスは最早、私の駒です』」

 

 

 誇張ではなく、見栄でもなく、黄金の少女は淡々とした口調で言う。

 

 少女とはプライベートの付き合いはない。

 決して深い仲とは言えないものの、この手の冗談を口にする性格ではないことはベアトリーチェも理解している。

 

 それでも信じられない。

 ()()()()()()()()()()()()()()を考慮したとしても、黄金の少女が付け入る隙などない。

 それほどまでに、アビドスの生徒達の結束は固かった筈だ。

  

 だがそれでも、そうだったとしても、そうであろうとも────。

 

 

「『シャーレの先生も惜しかった』『小鳥遊ホシノを救うには、あと一手遅かった』」

 

 

 怪物は、黄金の怪物は言う。

 ベアトリーチェの目の前にいる黄金の少女は、自分には関係ない、と言わんばかりの口調で続けて言う。

 

 

「『機を逃がした』『天運がなかった』『後押しが足りなかった』『そういう意味でも、()()()()()()は運がなかった言えますね』」

 

「……運が足りなかっただけ、と?」

 

「『えぇ』『ゲヘナやトリニティに協力を要請したのはいい手でした』『無から有は生み出せない』『不足している戦力を他校で補う、これ以上の手はないでしょう』『だがそれだけでは足りない』『小鳥遊ホシノを救うにはあと一歩、致命的に足りなかった』」

 

 

 ククッ、と優雅に笑みを零して黄金の少女は続ける。

 

 

「『カイザーは良い機会を得たのでしょう』『小鳥遊ホシノなどといった生徒はいない、我らは不当な暴力を受けた、と彼らは連邦捜査部S.C.H.A.L.Eを糾弾する事に躍起になっています』『今となっては、責任の追及は連邦生徒会にまで波及している』『最早、彼らにとってアビドスなど問題ではないのでしょうね』」

 

「貴女はその隙をついた、と?」

 

「『えぇ、まぁ』『いらないのなら、貰ってしまおうかと』」

 

 

 何気なく呟く黄金の少女に、ベアトリーチェは訝しんだ。

 黄金の少女がどれほどの力を有していようとも、人心を掌握することなど容易くない筈だから。

 

 

「しかし、どうやって見る限り怪しい貴女を信用されたんですか?」

 

「『彼女達の抱える問題を解決していっただけですよ』『本来であれば、その程度で信じられるわけがないのですが』『何分、彼女達に余裕がなかった』」

 

 

 アビドスが抱える問題を口にして、黄金の少女はゆっくりと指を折って数えていく。

 

 

「『敬愛する先輩は行方不明』『頼りになると思っていたシャーレの先生は立場が危うくなり、信用を回復する為に各地を奔走し忙殺される毎日』『アビドス自治区に住む住民には見限られ』『他校もカイザーの追及を逃れる為に知らぬ存ぜぬ』」

 

 

 ククッ、と笑みを浮かべて。

 

 

「『世界からは最初から居なかったように扱われ』『問題は山積み』『そんな中、近づいてきたのが怪しい人間だろうとも、救いの手を差し伸ばされたモノなら縋ってしまうのが、ヒトとしての本質(弱さ)といえるでしょう?』」

 

「よく言う。こうなるよう道を整えたのは貴女でしょう」

 

「『そうは言いますが、ベアト』『実のところ紙一重でした』『シャーレの先生に天運が向いてたら、こうはならなかった』『ゲヘナとトリニティの協力を得て』『カイザーと言う必要悪を打倒し』『小鳥遊ホシノを救い出し』『何もかもが大団円になっていた』『そういう世界も確かにありました』」

 

 

 ですが、と言葉を区切り黄金の少女は両手を広げて、喝采を受ける役者のように結果だけを口にした。

 

 

「『そうはならなかった』『黒いあの人が興味を抱く大人ではありましたが』『今回ばかりはそうはならなかった』」

 

「酷いマッチポンプですね。裏で手を引いていた癖によく言う」

 

「『意地悪を言わないで下さい、麗しのベアト』」

 

「意地悪ついでに一つ。まだ不安要素があるのでは?」

 

 

 我ながら意地悪い声だ、とベアトリーチェは思う。

 だが仕方ない。眼に見えて余裕な、狼狽する事などないであろう少女を、一泡吹かせてやりたいと思うのは人の性というものだろう。

 

 なんとも意地が悪い。

 そんなべトリーチェの心象など意に返さない黄金の少女は小さく首を傾げて、次のベアトリーチェの言葉を待つ。

 

 わざとらしく、嫌味っぽく、底意地の悪い表情で、ベアトリーチェは口を開く。

 

 

「例えば、そう。今回、貴女達と協力関係にあったカイザーPMC理事、でしたか? 彼が貴女との関係をアビドスの生徒達に話したものなら、破滅するのでは?」

 

「『あぁ、そういえば居ましたね』」

 

 

 ククッ、と黄金の少女は笑みを浮かべる。

 

 同時に、違和感。

 まるで、今まで存在を忘れていたかのような。

 記憶にすらしていなかったのような、そんな口ぶりだった。

 

 黄金の少女にとって、アキレス腱といえる人物の筈だ。

 カイザーPMC理事は、少女が言う()()()()()なる人物と手を組んでいたことは、べトリーチェも知っている。

 となれば、必然的に黄金の少女とも、カイザーPMC理事は関係をもっていたことになる。()()()がいたのなら、必ず黄金の少女の影もある。

 

 ともすれば、カイザーPMC理事という存在は、黄金の少女が誰よりも気にかけていなければならない存在。

 

 それなのに、存在すら忘れているかのような口調に、ベアトリーチェは強烈な違和感を覚える。

 

 対して、黄金の少女は焦る事もなく。

 顔を曇らせることもなく、苦笑を浮かべるわけもなく、強がる素振りすら見せない。

 少女は静かに微笑み、事実だけを口にした。

 

 

「『ご心配なく、ベアト』『彼はこの世界に、存在すらしていませんから』」

 

「──────────」

 

 

 今度こそ、言葉を失った。

 殺意もなく、悪意もなく、敵意すらない。

 当たり前のような口調で、可憐な少女の見た目とは裏腹に、あまりにも不釣合いなことを口にしていた。

 

 この世に存在していない。

 つまりは────()()()()()()なのだろう。

 

 邪魔だったから、目障りだったから、不利益となるから。

 如何なる理由でも、事実だけは変わらない。カイザーPMC理事と言う存在は、この世に存在しないという事実だけは不変なものだ。

 

 

「『さて、私はそろそろお暇いたします』『小鳥遊ホシノの実験に付き合わないと』」

 

 

 そういうと、腰掛けていたテーブルから飛び降りて、優雅にドレスの裾を軽くたくし上げて、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、黄金の少女は挨拶をする。

 

 

「『それではご機嫌よう、麗しのベアト』『手が足りないのであれば、いつでも声をかけてくださいね?』」

 

 

 どういう現象なのか。

 まるで残像のように、存在が希薄になったと思いきや、その場から文字通り黄金の少女は消えた。

 

 教会は静寂に包まれる。

 物音一つすら聞こえない。

 肌寒く、肌が栗立ったのは気のせいではない。

 沈黙を破ったのは、この場の主である彼女だった。

 

 

「恐ろしい娘。少数とは言え、アビドスの生徒は精鋭。飼いならされるほど、簡単な生徒達ではない筈」

 

 

 そうして、再び恐ろしいと口にする。

 油断しないように、侮らないように、大人である自分以上の怪物である子供の名を、ベアトリーチェは口にした。

 

 ()()()に、いずれ天上に至る存在と称された少女の名を、口にする。

 その少女の名は─────。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 △黄金の少女
 黄金の双眸、黄金の長髪、黒いドレスを身に纏う少女。
 黒い彼に置いていかれず、運命と出会い闘争の喜びを知らずに、幼馴染達にヒトの善性に魅せられなかったIFの姿。
 紙一重とはいうけど、実はシャーレの先生を出し抜く気満々だった。理由は、黒い彼に気に入られたから。ちょっぴりジェラシー。
 カイザーと連邦生徒会と争わせて、その隙にアビドスを掌握し、シャーレに先生の信頼を地に落とした。やってることがバッチリ悪どい。
 それはそうと、小鳥遊ホシノを研究対象にするよりも、私を実験に使ったの方が成果を出せますよ黒いアナタ? と思っている。
 万能の神秘全盛期。


 △ベアトリーチェ
 本編と変わらず、子供は大人に搾取されるべきと考えている。
 それはそうと、なにあの黄金? こわっ、ってなってる。
 実は胃痛持ち。それもこれも、得体の知れない黄金の少女が懐いてくるから。ストレスで胃がキリキリしている。
 なんで懐かれているのかわからない。こわい。
 黄金の少女からは親友だと思われる。超怖い。


 △黒い彼
 登場はしてないけど、相変わらず親代わりをしている。
 最近思うのは、これでよかったのかという自問自答。
 黄金の少女だって子供。友達だって本来は出来るはず。自分のような大人と一緒に居て本当に良かったのか、と考えない日はない。
 その答えも見つからないまま。

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