サオリファンの方々へ
本当にごめんなさい。
――――全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ――――。
私は幼い頃から、何もかもを諦めていた。
誰かが言った――――どうして辛いのに生きていかなければならないのか。
誰かが言った――――どうして私達だけこんな目に遭わないとならないのか。
誰かが言った――――誰も私達を助けてくれないのか。
答えなどない。
疑問を口にされても、私には返せる言葉など持ち合わせていなかった。
私が教わったのは、ただ憎しみを忘れるなということだけ。
誰のせいでこうなったのか。誰がこの状況をつくりあげたのか。誰が私達を家畜のような存在に陥れたのか。
忘れようとしても思い出される。
言葉で思い出せないのなら、身体に苦痛を伴って刻まれる。
それを何度も何度も何度も何度も、繰り返される。
私が学んだ事といえば、憎しみを忘れない事。
そして、人の壊し方くらいでしかない。
そんな人間が、答えなど口に出来るわけがない。他人に道理を説くことなど以ての外で、希望を示せることなどありえない行為であった。
私に出来る事なんて限られている。
身近な人間が害されないように、せめて私にのみ標的を集中させて、いつものように強大な大人――――マダムの折檻を受けるくらいしか出来ない。
ただ、それは諦めでしかなかった。
抗う事を諦めて、自分一人が我慢できればそれでいいのだと、ある種の自己防衛でしかない。
マダムに反抗しようと声を上げたことなど一度もない。
絶対に希望があると前向きな言葉を吐いた事など一度もない。
前を向いたことなど、一度たりともない。
本当の意味で、私は何もかもを諦めていた。
どうせ無意味であると。牙を立てたところで折られ、私達の些細な反抗すらも、大人に取っては取るに足らない行為でしかないと。
やりもしないで、行動にも起こさないで、失敗を恐れて、ただただ私は諦めていた。
そんな人間に奇跡など起きる事なんてない。
今日も変わらず、大人の折檻を受ける。いつまで続くのかわからない。もしかしたらずっと続くのかもしれない。であるのならいっそのこと、このまま搾取され続けるのであれば、何もかも諦観するしかない。
私はそう思っていた――――。
『な――――』
――――彼女が現れるまでは。
それはいきなり。
前触れもなく。
超然と君臨するかのように。
既に機能を失っている、アリウス自治区にある朽ち果てた至聖所の壁が崩れていた。
強い衝撃を伴って現れた一人の人影。
それは女性だった。
私と変わらない。いいや、歳下かもしれない少女。
腰まで伸びている黄金の頭髪。
均整の取れた、まるで黄金比ともいえる美しい姿。
絶大な意志を伴った紅色の双眸は一点を見つめている。
『何者ですかお前は?』
マダムの言葉に黄金の人影は答えない。
自身が砕いて作った瓦礫の山を傲岸に踏みつけて、両手に大型の拳銃――――デザートイーグルが握られている。
銃身が若干長くカスタムされている。右手に持つそれは白色、左手に持つそれは黒色。
そこで初めて私は、彼女が襲撃者であることを認識し、警戒心を強めていく。
対する黄金の彼女は意に介さない。
私の警戒心など気にする事無く、ヒールを鳴らして、カツンと大きな音を立てて、マダムだけを見ている。
応じない侵入者に対してか。
それとも呆気にとられている私を含めたアリウス生徒達に対してか。
マダムは明らかな苛立ちを感情に乗せて再度問いを投げる。
『答えなさい。何者ですかお前は――――』
『――――五月蝿い』
そこでやっと、黄金の襲撃者は口を開いた。
傲岸に、不遜に、絶対的な意志を伴って一言だけ。
『貴様の言い分など知ったことではない。――――疾く失せろ。余が統べるこの世において、貴様のような存在など許可していない』
そして今。
私を含めたアリウス分校の生徒達は黄金の彼女――――天上院オウヒによって救われた。
とはいっても、火種は燻っている。
マダムによる洗脳が解けていない生徒もいれば、トリニティへの憎悪を滾らせている生徒もいる。
だが彼女はそんな問題を、説き伏せるわけでもなく、成り行きを見守るわけでもなく、武力で以てアリウスを統治してみせた。
逆らう者は武力で以て応じ、向かってくるものは加減なく叩き潰し、一切合財の躊躇もなく蹴散らす。
乱れた天下を武力で以て治める。つまりは覇道を歩んでいく。次第に彼女は、アリウス分校にて君臨する者となった。
「殿下」
彼女はいわば私達の恩人。
地獄のような日々を変えてくれた方だ。
敬愛を込めて私は彼女を殿下と呼び、忠誠を誓っている。
私の前を歩く彼女は振り向きもせずに、前を歩いたまま。
「殿下はよせと何度も言っているだろう。貴様は余の配下ではあるまい」
「いいえ。この身は既に貴女様のモノ。どうか忠誠を誓う事をお許しください」
「何故、貴様が余に忠誠を誓うのか?」
「殿下は私達の命を救い、希望を示してくださいました」
「……何度もいっているが、余は貴様らを救ってなどおらぬ。あの年増めが気に入らなかった故に、アリウスを襲撃しただけに過ぎぬ。後に起きた事など余は知らぬし、貴様が恩を感じることなど何一つない」
「それでもです。結果として、救われた事実は変わりません」
ぴたり、とそこで歩みを止めて殿下は一言。
「で、あるか」
搾り出すように、低い声で、一言だけ告げる。
何か私は気に障ることを言ってしまったのだろうか、と狼狽する私を余所に殿下は続けて言う。
「その件はまた話すとして、だ。サオリよ、何か聞きたい事があったのではないか」
「はっ」
私――――錠前サオリはずっと思っていた疑問に思っていたことを口にした。
「何故、殿下はアリウス分校を統治してくださったのでしょうか?」
殿下が元々アリウス分校の生徒であるのなら納得が出来る。
自分の領地に不穏分子がいるのなら、手ずから刈り取り、治めるのは道理だ。それだけの器を殿下はもっているのだから。いいや、アリウス分校を治めるなんて出発点に過ぎない。この方であれば、キヴォトス全てを治めることが出来るに違いない。
話を戻そう。
殿下はアリウス分校の生徒ではない。
それを統治して、乱れる事を許さず、君臨している理由を私は知りたかった。
「成り行きだ」
「成り行き、ですか?」
あぁ、と殿下は相槌を打って。
「形はどうあれ。あの年増はこの地を治めていた。だがそれを余が突然現れ、破壊し、彼奴を逃がしてしまった。その後のことなど、結果は目に見えている」
「と、いいますと?」
「内乱が起きるだろうよ。統治する者がいなければ、乱れるのは道理である。故に部外者である余が法を敷かねばならなかった。事の発端は余である。なればこそ、拭うのも余でなければなるまい」
「つまりは、殿下はマダムの手から私達を救っただけではなく、後の事も考えて行動してくれたと……!」
「えー……?」
暫くの沈黙の後に殿下は、私に振り返り、堂々とした口調で。
「ククッ、それでいい余」
「流石です、殿下!」
口元を歪めて殿下は笑う。
何やら汗を掻いているように見えたのは私の錯覚に違いない。殿下は汗などかかない。かくわけがないのだ。
「それはそうと、サオリよ」
「はっ」
「アレはなんだ? あんなものなかった気がするのだが」
殿下が指差すのは、朽ち果てた至聖所の最奥。
瓦礫の山があり、空の薬莢が床に転がっている。先の殿下とマダムの死闘が記憶に新しい至聖所において、殿下の指差すそれはあった。
「はっ。殿下の玉座でございます」
「ワタ――――余の玉座?」
「はい。アリウス分校の皆で、お金を出し合い買いました」
「………………で、あるか」
少しの沈黙。
「もっとこう、あるのではないか? お金をかける場所というか」
「ありません。まずは殿下の玉座でございます」
「ここを綺麗にしたり」
「いいえ。殿下の玉座が最優先でございます」
「スクワッドの皆に、お洋服でも買うとか」
「皆で話し合って満場一致で、殿下の玉座を最優先に買おうとなりました」
「………………で、あるか」
少しの沈黙。
殿下は私の方へと振り返り、ニヤリと口元を緩めて一言。
「忠道、大儀である」
「――――はい!!」
気分が高揚するのを隠し切れない。
今すぐに飛び跳ねて喜びを露にしたい気持ちをグッと堪える。
そんなはしたないことなど出来るわけがないのだから。
何とか涼しい顔を保ち。
「殿下。是非とも玉座に」
「いいや、少し待て」
それだけ言うと、殿下はいつの間にか片手に持っていた通信機器を操作していた。
そして億劫そうに一言。
「またの機会にするとしよう」
「と、いいますと?」
「呼び出しだ。セミナーからな。面倒なことに、リオからとは」
「何故ミレニアムから……」
「不思議でもあるまい。何せ余はミレニアムの生徒なのだから」
△錠前サオリ
本編ではクール。ここでは殿下ガチ勢。忠義の人。犬属性。
天然だからか偶にバグって暴走する。ベアトおばさんから救ってくれた(救ったつもりはない)殿下に忠誠を誓っている。
今のところ土下座をする予定はない。多分。
△マダム
ベアトリーチェ。
ダイジェストで倒された可哀想な人。まだ生きてる。まだ出番はある。
大人が子供を虐めているって噂を聞いたから確かめに行ったらガチだったのでそのままボコった。
殿下ガチアンチ筆頭。
「年増――――!」「小娘がっ!」と罵りあいながら殺し合った仲。仲良死。
△アリウス分校
オウヒが支配している学校。縄張り。
歯向かう連中を武力制圧していたらいつの間にか君臨していた。
力こそが正義。良い時代になったものだ。それはそれとしてオウヒの胃が死ぬ。
△デザートイーグル
オウヒの武器。二挺拳銃。銃身が既存のモノよりも長くカスタムされている。
白色と黒色。どこのエボニー&アイボリー?
どっちかというと、旦那の銃に似ている。パーフェクトだウォルター。
△「ククッ、それでいい余」
ククッ、どうしよう(オウヒの心の声)
ちょくちょく地が出る。
アーちゃん助けて。
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