こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~お詫び~
 オウヒの使用武器をデザートイーグルに変更しました。
 架空武器は何か違う気がしまして。すみません。

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第5話 ゲヘナは風紀委員長を労働から解放せよ by工務部の皆さん

 

 

 びっくりするくらい平和だ。

 のんびりと、ワタシはそんなことをぼんやり考えていた。

 

 リオ会長からは、いい加減どこかの部に所属するように言われた――――セミナーがオススメと遠回しに言われた。

 ネルちゃんからは、何故か模擬戦をやろうと何度も誘われる――――それはそれで楽しそうだし、ワタシも乗り気になるも、良いタイミングでネルちゃんに任務が入る。

 ヒマリさんからは、リオ会長のことで愚痴られる――――好きなのか、と尋ねたところ滅茶苦茶怒られた。これが嫌よ嫌よも好きのうちというやつなのか。

 リオ会長のエージェント、確かトキちゃんといったっけ? からは凄い絡まれる――――熱量が凄い。無表情でグイグイ来る。ちょっと恐い。

 

 つまりは、平和だ。

 

 トリニティからは変なちょっかいもないし、ゲヘナからも妙な難癖を付けられない。強いてあげるのなら、連邦生徒会が何やら騒がしい気がするが、正直な話ワタシには関係のないことだ。

 

 やっと落ち着いた時間が出来た。

 そろそろ、アーちゃんとムーちゃんを探しに行くのもありありのあり。むしろあり。

 

 元気にしているだろうか。

 久しぶりだ。小学校以来だろうか。

 

 

「ん?」

 

 

 そんなことに思いを馳せていると、端末になにやら通知が来ている。

 

 差出人は――――サオリだった。

 何だろう。また何か問題でも起きたかな。

 内容も端的なもので、殿下、お時間よろしいでしょうか、と言った内容。

 

 正直に言うと、ワタシはチャットが苦手だ。何だか文字だけなのは伝わりにくいし、通話した方が時間も短縮になる。

 何だか考え方が合理的すぎて、リオ会長みたいだ。

 

 ワタシは通話ボタンを押して、端末を耳に当てる。

 1コール、2コール――――鳴らない間に、サオリは電話に出た。

 

 

『殿下』

 

「……ぇぅ」

 

 

 変な声が出た。

 あまりにも迅速な応答。ワタシから電話してなんだが、こちらにも心の準備がある。もう少しゆっくり電話に出て欲しかった。

 

 

『殿下、お休みのところ申し訳ございません』

 

「……よい。退屈していたところだ。それでサオリ、何用か?」

 

『ハッ、それが……』

 

 

 サオリが何故か言い辛そうに、言葉に詰まっていた。

 これは珍しい。というか、記憶にないかもしれない。即時即断即決。ワタシから見たサオリはそんな女の子だ。ちょっと判断が早すぎて、びっくりするときはあるけど。報告連絡相談してほしかったなぁ、って思うときもあるけど。稀によく暴走するときもあるけど。

 

 話を戻そう。

 こうして言い淀むことはない。

 少なくともワタシは見たことがなかった。

 

 

「どうした、サオリ。貴様らしくもないな」

 

『はい。その、殿下のお耳に入れるべきかどうか、と思いまして』

 

「―――――――――――」

 

 

 やだ、ちょっと感動している。

 直ぐに突っ走るサオリが、ワタシに報告しようとしてくれている。

 あのリオ会長を脅したサオリが、ワタシに相談もなく独断専行していたサオリが、ワタシに報告しようとしてくれている……!

 

 

「良い、許す。むしろ良く相談しようとした。偉いぞ」

 

『ハッ! ありがとうございます!』

 

 

 うんうん。

 こういうときは褒めるべきだ、とアーちゃんが言っていた。

 後でもっと褒めよう。お菓子とかも上げちゃうし、何だったら甘い物も一緒に食べようね。

 

 

「それで、何だ。述べるが良い」

 

『それが』

 

 

 ここで言葉を区切りサオリは続けて。

 

 

『ゲヘナの風紀委員長がアリウス自治区に来訪しております』

 

「……ほう?」

 

 

 ゲヘナの? 風紀委員長が? どうして?

 

 

「ゲヘナの風紀の話は、余も噂として聞いている。それで、何人引き連れている?」

 

『一人です』

 

「一人?」

 

『はい』

 

「……まことか?」

 

 

 本当に何をしに?

 ゲヘナからアリウス自治区とかだいぶ離れていると思うけど。

 

 思考が追いつかないまま、ワタシは暴君モードのまま、小馬鹿にしたような演技で鼻で笑いながら。

 

 

「遠路はるばる酔狂にも程があろう。よもや宣戦布告しにでも来たか?」

 

『いいえ、どうやら違うようです』

 

 

 サオリは意を決してと言った口調で言う。

 

 

『殿下に会いたい、とのことでした』

 

「……へう」

 

 

 また変な声が出た。

 どうして? 本当にどうして?

 

 

『殿下?』

 

「いいや、なんでもない。……ゲヘナの風紀委員はそういったのか?」

 

『はい』

 

 

 ワタシに会いたいというのが真実だとしても、どうして会いたいのか。何故、彼女がミレニアムではなく、アリウス自治区に行ったのかわからない。

 

 どちらにしても、コレだけはいえる。

 さようなら――――平和な日常。

 こんにちは――――激動の日々。

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、ワタシはアリウス自治区に足を運んだ。

 重い足取り――――と言うわけでもない。むしろどうして、といった疑問があった。あのゲヘナの、しかも風紀委員の、更に言うとそのトップが、どうしてワタシに会いたいのか。見当も付かないからだ。

 

 そういう意味では、少しだけ。ほんのちょっぴりだけ、楽しみではある。

 それにゲヘナの風紀委員長というくらいなら、アーちゃんとムーちゃんを知っているかもしれない。

 

 

 さて、どうするか。

 ワタシと問題の彼女――――空崎ヒナさんはアリウス自治区のカフェに訪れていた。

 ちなみに、サオリはいない。付いてこようとしていたけど、空崎さんはワタシに用があるようだし、丁重にお断りした。何だかこの世の終わりみたいな顔をして、落ち込んでいたけどワタシのせいじゃないよね。

 

 

 立ち話もなんだ、ということでワタシが話すのならカフェにでも行って話そうと提案したのだ。

 ワタシにしては、気の利いた提案だったと思う。

 

 それにしても、会話がなかった。

 当たり前だ。ワタシ達は初対面であるし、共通の話題というものがない。ワタシに出来る事といったら、胸を張って堂々と先導し、挨拶してきてくれたアリウス生に偉そうに応じる事のみ。

 

 こんなことなら、サオリを連れてくれば良かったとちょっぴり後悔。

 

 

「慕われているのね」

 

「ぬ?」

 

 

 円形のテーブルを挟んで、木製の椅子に座っている空崎さんは辺りを見渡してポツリと呟いた。

 

 話題を振ってくれてありがとうございます。

 気まずい空気が少しだけ和らいだのを感じたワタシは、足を組み替えて不敵な感じで。

 

 

「ククッ、そう思うか?」

 

「えぇ。道ですれ違う生徒は必ず貴女に挨拶しにくる。彼女達にとって、貴女という存在は大きいようね」

 

 

 そこまで言われると、ちょっと照れる。

 そして不思議なのです。

 

 ワタシは特に何もしていない。

 むしろ、年増を叩き潰して、良くも悪くも纏まっていたモノを破壊した女だ。恨まれる事はあれど、慕う理由はない筈。

 

 なのにどういうわけか、アリウスのみんながワタシに優しい。

 

 

「余は思うまま、ありのまま振舞っただけに過ぎぬ。何がどうしてそうなったのか」

 

「身に覚えはないの?」

 

「ないな」

 

 

 えぇ、ありませんとも。

 これまでの行動を振り返っても、見当が付かない。

 

 ただ気に入らないヤツを――――理不尽に搾取する大人を、蹴散らしただけ――――。

 

 

 ――――クックック。

 

「――――っ」

 

 

 厭な者を、思い出した。

 動揺はない。感情が揺さぶられる事もないし、動悸が激しくなることもなければ、表情に出たわけでもない。ただ思い出した、思い出してしまったんだ。アーちゃんやムーちゃんに会う前のことを。

 ――――本当に、単純に、厭な者を、思い出しただけ――――。

 

 

「どうかした?」

 

 

 空崎さんはワタシの顔を覗き込む。

 変なところで黙ったワタシを不思議に思ったのだろう。

 

 ワタシは、いいや、と首を横に振る。

 遮断(カット)。昔は昔、今は今。どうでもいい者は頭の隅に追いやり、目の前の状況に集中することにする。

 

 

 というか、改めてみると顔がいいな空崎さん。

 フワフワな長い白い髪の毛。お人形さんのような整った可愛らしい容姿。背丈も小さく華奢で、本当にワタシより歳上なのか疑ってしまうほど可愛い。まさか飛び級とかないよね?

 

 

「それで風紀委員の。此度は何用で参った?」

 

 

 彼女の噂は何度か耳にした事がある。

 ゲヘナの最強の風紀委員。混沌とし、自由で。何よりも、あの好戦的なゲヘナ生が怯えるほどの人物。今対面してみて、只者じゃないことはわかった。なるほど、確かに、と納得している。これは最強であると。

 

 だからこそ、少しだけ、楽しみではあった。

 火種が絶えないゲヘナにおいて、治安を維持する仕事に就いている彼女は多忙だろう。

 そんな彼女が、ワタシに何の用なのか、と。

 

 ちょっぴりワクワクしているワタシとは裏腹に、空崎さんは極めて冷静な口調で。

 

 

「用ってほどじゃないわ。先のお礼をしに来たの」

 

「お礼?」

 

 

 はて、なんだろう。

 空崎さんとは初対面の筈だ。彼女に何かをしたわけでもない。多分。

 

 腑に落ちない。

 首を傾げるワタシに空崎さんは続けて言う。

 

 

「アビドス自治区の件よ。アレにはゲヘナの生徒も関わっていた。本来は私達が対処しなければならなかったのを、貴女が治めてくれたから」

 

「あぁ、あの件か」

 

 

 なるほど、合点がいった。何と言う真面目な娘なんだろう。

 でも、空崎さんがお礼を言うほどでもないこと、だと思う。

 

 あの程度の争いなんて、キヴォトスでは日常茶飯事だし、ワタシにとっても大したことじゃない出来事の一つでもある。

 まぁ、柴関ラーメンが巻き込まれて、ちょっとムカついたのも事実だし。やりすぎちゃって、ちょっと焦ったことでもあったが、結果オーライだろう。誰にも迷惑をかけていない。カイザーコーポレーションの連中以外は。

 

 

「殊勝な事よ。貴様が気にする事でもあるまいに」 

 

 

 気にするな、とワタシは続けて言う。

 空崎さんは少しだけびっくりして、ありがとう、と微笑を浮かべてから辺りを見渡して。

 

 

「もっと酷い場所だと思っていたけれど、随分と復興したみたいね?」

 

「見るに耐えぬ場所ではあったがな」

 

 

 文字通りの意味、アリウス自治区は廃墟しかなかった。

 カフェなんて上等なお店はなかったし、今日食べる物すらない状態で、飢えを満たすために奪い奪われの弱肉強食な世界。通りでは争いのいざこざは絶えず、誰も彼もが余裕がなかった。

 

 今では、アリウス生の皆は活気に満ちており、生徒同士が争うといったことはなくなっていた。

 まだ廃墟や、瓦礫の山はあるものの、人が住める環境にまで回復している。

 

 空崎さんもその辺りの惨状は耳にしていたのか、素直に感心してくれているみたいだ。

 

 

「それもこれも、アリウス生の尽力による賜物。あとは外注したレッドウィンターの工務部の力か」

 

「えっ、あそこに?」

 

「あぁ。存外、連中は良い仕事をした。ヤツらとは共に汗を流した仲である」

 

「共に、ってまさか貴女も連中と一緒に働いたの?」

 

「無論」

 

 

 ある程度の復興の目処が立った今となっては、工務部の皆さんにはお世話になって居ないが偶に遊びに来るらしい。アッちゃん曰く、今度は温泉を作ろうと計画してくれているようだ。

 温泉ランドとかどうだろうか。癒されると思う。ワタシもそうなると、また全力でお手伝いするのだが。

 

 

「ちょっと意外」

 

「どういう意味だ?」

 

「現場仕事とかやらないタイプだと思ったから」

 

 

 ふふふ、甘いのです。

 意外とワタシ、そういうの好きなのです。黙々と出来るし、指示して貰えれば楽だし、何よりも力仕事とかワタシの天職だと思う。力強いので。

 

 でも、意外と言う意味では。

 

 

「意外、という意味では貴様も人のことを言えぬだろうに」

 

「私も?」

 

「貴様の話は余の耳にも入っている。ゲヘナ生にあるまじき、生真面目な者であるとな。日々湧いて出てくる無法者への対応、終わらぬ雑務。そんな日々が繰り返されるのだ。貴様の献身は痛ましいことこの上ない。やってられんだろう」

 

「別に。それが私の仕事だから」

 

 

 強がっている――――わけではないようだ。空崎さんの表情だけを見たところ、自分の仕事が嫌ってわけじゃない、と思う。

 でも無理はしているとは思うんだ。よく見るとお肌に潤いないし、目元に少しだけ隈があるし、髪の毛だって艶がない。

 

 歳上だし、ワタシよりも経験豊富、だと思うけど心配ですよ。

 

 

「ときに、風紀委員の。毎日平均、何時間寝ているか?」

 

「え、3時間だけど」

 

「さ、え……?」

 

「この前は3時間半も寝れたわ」

 

「わぁ……」

 

 

 嘘でしょ……?

 何だか泣いちゃいそう。

 3時間半もじゃないよ。3時間半しかだよ。

 ワタシなんて、8時間以上寝ないと無理だし。昼寝もしないとやってられないよ。

 

 心配になってくる。

 明らかに一人でこなす業務量を超えている。いつか、倒れちゃうんじゃないか。心が折れて、倒れて過労死したなんて全然笑えない。

 

 何か出来る事ないか、なんて考えていると。

 

 

「レッドウィンターの工務部に仕事を頼んだ、って言ったけど」

 

「あぁ、言ったが」

 

「ストライキとかデモは起きなかったの?」

 

「起きぬわ。アレは不当な労働を強いられた結果起こすものであろう。対価を払っておれば、きっちり仕事をする者達ぞ」

 

 

 レッドウィンターの連中は、アレらの使い方が下手すぎる、とため息混じりに言うワタシに、空崎さんは不思議そうに首を傾げて。

 

 

「それも意外。アリウスに他所から仕事を頼むことが出来るほどの余裕があるとは思わなかった」

 

「無論、余裕など最初からない。アリウスの財政は常に火の車だ」

 

 

 お金がないのに、みんな要望だけは大声を出して困っている、とアリウスの財政担当にいつの間にかなっていたミサキちゃんがそんなことを言っていた事を思い出す。

 

 

「財もない、売り出せる物もない、この地には何もなかった。アリウスの者達が差し出せるモノと言えば、戦闘技術しかない。故に、奴らは傭兵ビジネスに乗り出し、外注できるまで資金を貯め、今に至るというわけだ」

 

 

 ワタシだってお金は出した。

 でもアリウスのみんなと比べたら雀の涙程度。

 廃墟だったアリウスを、人が住めるくらいにまで発展させたのは、アッちゃんが生徒会長となり、サオリやヒヨリちゃんとアズサちゃんが先頭に立ちみんなを引っ張り、ミサキちゃんが裏で財政を取り仕切っていたからに他ならない。

 

 本当に凄いと思う。

 ただムカつく年増をぶっ飛ばしただけのワタシとは根本的に違い、みんなしっかりしている。

 

 

「アリウスの生徒が戦闘に長けていることは、私もわかっているわ」

 

「ほう、さすがだ。気付いていたか」

 

「えぇ。私が貴女に訪ねてから、ずっと警戒されている。私が貴女に敵意を向けようものなら、直ぐにでも引き金を引くことでしょう」 

 

 

 そういえば、何人かに見られている気がする。

 何をしているの本当に。ワタシのお客さんなんですけど。何を警戒しているのかわからないけど、もっと平和的に行こうよ平和的に。

 

 

「許せ、風紀委員の。これは余の落ち度である。直ぐに下がらせよう」

 

「構わない。突然訪問したのは私だもの。この程度で済んでよかったわ」

 

 

 なんて、大人……!!

 カッコいいなんてレベルじゃない。こちらに非があるのに流し、更に言うと微笑を向けるなんて!!

 

 これが、これが二歳上の大人の余裕……!

 小さい身体なのに。ワタシよりも小さいのに。空崎さんの器がでかすぎて巨人に見える。デカ過ぎんだろ。

 

 

「殿下」

 

「ん?」

 

「パンケーキでございます」

 

 

 感動しているワタシに、カフェの店員さんが話しかけてきてくれた。

 その両手には、お皿を持っており、その上にはパンケーキが乗っている。

 

 空崎さんのために注文したパンケーキだ。

 ここのパンケーキは美味しいよ。空崎さんも喜んでくれると嬉しいな。

 

 

「パンケーキを彼女の前に。伝票は余が貰おう」

 

「いいえ、殿下から代金を頂く事など」

 

「たわけめ」

 

 

 店員さんは、え? と眼を丸くさせているがワタシは続けて言う。

 

 

「労働には相応の対価が必要である。余の注文に、貴様らが作り提供をした。それに余が報いてやらねばなんとする」

 

「も、申し訳ございません! ありがとうございます! 直ぐに伝票をお持ちします」

 

 

 いやいや、普通でしょう。

 お礼を言われることなんて何一つ言ってないよ本当に。彼女達にとって、ワタシはどんな奴なんだろう。

 

 

「……ここまで貴女と話してきたけど」

 

「なんだ?」

 

 

 片手にはフォークを握り、もぐもぐ、とパンケーキを頬張らせて、やり取りを見ていた空崎さんが口を開いた。

 

 うん、可愛い。なんて可愛い。

 ふわふわのパンケーキになんて似合うんだろう。もっと食べて欲しい。たくさん食べる貴女は愛らしい。

 

 

「ますます、貴女がわからなくなった」

 

「ほう?」

 

「アリウスの生徒達が戦闘に長けている。そして彼女達は貴女に心酔している。ここまで統率された学園はないでしょう」

 

 

 そこで持っていたフォークを置き、真っ直ぐにワタシを見つめて。

 

 

「貴女は何をしたいの?」

 

「風紀委員の。何が言いたい?」

 

「短いやり取りだけれど、貴女が悪人じゃないということがわかった。アリウスの内乱を治め、アリウスの王と呼ばれ、彼女達に慕われる器があるのもわかった。それでもわからない。貴女が何を目指し、彼女達を統率している理由が見えてこない」

 

「…………」

 

 

 ――――フフフ、何も考えてない余。

 

 彼女は何を言ってるんだろう。

 ワタシがアリウスのみんなを統率? ないない。統率してない。そもそもあの娘達全然言う事聞いてくれないんだもん。リオ会長の件といい、今回の空崎さんの監視といい、ワタシそんなこと一度も頼んでないのに、勝手に動いているんだもん。

 アリウスの王ってやつもそう。今ではアッちゃんが生徒会長なんだから、呼ばれるとしたらアッちゃんじゃないの?

 

 でも空崎さんの反応を見ると、もしかしてこれが周りから見たワタシの評価って事? アリウスの王? ワタシが? 嘘でしょ?

 

 冗談でしょ、と思ったけど空崎さんの様子を見るとガチっぽい。

 ここはちょっとしたジョークで場を和ませるか?

 

 

「理由、か」

 

 

 何が良いか、とワタシは考えると、思い出した。

 アレを言おう。サオリにバカウケしたアレがあった。

 

 

「――――世界征服、でもやってみようか?」

 

「――――っ!?」

 

 

 …………アレ? 思ったよりもスベってる。おかしいな。サオリにはバカウケ――――というか、眼を輝かせて見られていたのに。場を和ませるどころじゃない。空気が凍りついちゃったんですけど。

 これは不味い。非常に不味い。直ぐに軌道修正しないと。

 

 

「ククッ、許せ。ジョークだ。天上院ジョークである」

 

「……からかわないで」

 

 

 ごめんなさい。

 そこまで真に受けるとは思わなかったんです。そもそも世界征服とか本気で言ってるわけがないでしょう。無理なんですから。キヴォトスの存在する全勢力を敵に回すとか無理無理の無理です。

 

 でも幾分か和んだ、と思う。そうであってほしい。

 

 

「理由などない。余は思うままに振舞っただけに過ぎぬ。アリウスの連中を使い何かをなそうとしたことなどない」

 

「…………そう」

 

 

 どこか納得していないようだ。

 そこまで世界征服宣言がダメだった? 本当に空崎さんは真面目なんだな。ここまで冗談を真に受けられるとは思わなかった余。

 

 さて、どうするか。

 ワタシへの疑いの目をどうやって晴らそうか、考えていると。

 

 

「――――――――っ!!」

 

 

 ワタシ、天恵を得たり。

 そうだ。良い事を思いついた。思いついてしまった。

 

 

「余の答えが気に入らぬというのであれば、風紀委員の。週に一度、余と共に行動するがよい」

 

「……どうして?」

 

「何を疑っているのか知らぬが、余を監視すればよかろうよ。そうすれば、貴様の疑念も晴れるというもの」

 

 

 それもあるがもう一つ、目的があった。

 

 それは空崎さんを休ませること。

 3時間くらいしか寝てない彼女を休ませるにはどうすればいいか、考えていたけどコレしかない。

 無理矢理、風紀の仕事から離れさせて、ワタシと一緒に休めばいい。そして一緒にスイーツを食べて、お昼寝とかすればいい。そうすれば少しくらい休めるだろう。

 

 うん、それがいい。

 たくさん遊ぼう。たくさん頑張った事を褒めてあげて、休ませてあげよう。

 こんな小さい子を労働漬けにするのは間違っている。工務部のみんなもそういうに違いないし、アーちゃんやムーちゃんも同意してくれるだろう。

 

 空崎さんは少しだけ考えて。

 

 

「えぇ、そうするわ」

 

「で、あるか」

 

 

 クツクツ、と笑みを浮かべて、ハンカチを取り出して空崎さんの口元に付着していたパンケーキのクリームを拭い。

 

 

「――――良い娘だ」

 

 

 滅茶苦茶、甘やかそう。

 こんな娘に労働を強いるなんて間違っている。間違っているのはワタシじゃないのです、世界の方なのです。

 

 空崎さんが何故か顔を真っ赤にさせてるよ、可愛いね。

 

 

 





 △空崎ヒナ
  ゲヘナ最強の風紀委員長。労働のしすぎてシナシナになりつつある人。
  デモやる? ストライキやる? 工務部の皆さんステイ。
  リオ会長とは違って割と顔に出るのでわかりやすい、とはオウヒの感想。
  週一で遊ぶ仲になる。勘違いは加速する。ヒナちゃんは休めるのかどうなのか。この先はキミの目で確かめてくれ!(攻略本)


 △レッドウィンター連邦学園の工務部
  キヴォトスにてレスバ最強の一角。アリウス自治区を復興に協力してくれた。
  ちゃんと報酬を払い、何だったら一緒に労働をするアリウス生徒達を気に入っている。
  オウヒも一緒になって土木工事を手伝い、一緒になっていい汗を流す。これにはミノリ部長もニッコリ。


 △連邦生徒会が何やら騒がしい
  おや?

 
 △「……ぇぅ」
  いきなり電話出られても困るよね。困らない? で、あるな。


 △傭兵ビジネス
  アリウスの生徒達が積極的に行なっている事業の一つ。
  つまりは、国境なき軍隊的なアレ。


 △3時間
  ヒナちゃんの平均睡眠時間。
  これにはオウヒも変な声を出す。同情もする。
  やっぱりデモやる? ストライキしかないだろう? 工務部の皆さんステイ。まだです。


 △パンケーキを頬張らせる空崎さん
  想像せよ諸君(萌え)


 △「――――世界征服、でもやってみようか?」
  場を和ませようとしたオウヒの渾身のジョーク。天上院ジョーク。
  サオリには効いたんだけどな、っと不思議そうにする。
  これがコミュ症たる所以。空気読めねぇんだこれが。


 △厭な者
  オウヒにとって、深層心理にいる者。
  思い出しても何も感じない、何の感情もわかない、でも厭な者。




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