こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンチャンネル~
 オウヒ「サオリが買ったばかりのプロテインをぶちまけて、ヤツも焦ってたのか『床がマッチョになる! 床がマッチョになる!!』と必死でかき集めてたから余はもう笑うしかなかった」


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第7話 寝不足は良い仕事の敵だ。美容にも悪い。

 

 

 アリウスの執務室にて。

 今の私は、きっと死んだ魚のような眼をしている事だろう。

 

 原因は目の前にある。

 それは紙だった。銃だとか、爆弾だとかじゃない。変哲もないただの紙。武器にもなりえないモノで、指先を切ったところでただ痛いだけの代物。

 

 でも私にとっては、それだけで私を殺しうる武器にもなる。

 

 

 そう。

 私にとってそれは最早、ただの紙ではなかった。

 紙と言うか書類。それも一枚ではなく何百枚も重なり山のようになっている。

 

 内容も様々。

 経費が書かれているモノであったり、アリウス自治区内にある訓練場の使用許可を求めた内容だったり、新しい事業展開をするための費用の見積もりだったり、傭兵事業で使用した弾薬や薬などといった消耗品が明記された書類であったり、と兎に角様々である。

 

 目を通しても、処理しても、終わったと思ったら新しい書類の山が築かれる。

 それを何度も何度も繰り返す。何度も何度も何度も繰り返される。

 

 

「…………」

 

 

 ぼんやりと、私は書類の山を見つめる。

 私は魔法使いでもないし、奇跡なんて起きない。そんなことをしても、勝手に書類がなくなるわけでもない。

 

 

 

 つまりは事務仕事。アリウスの財政管理。銃弾飛び交う戦場とは無縁の私が戦っている場所。

 

 他にやる人がいなかった。

 リーダーはアリウスのみんなを率いないとならないし、アズサに任せたらどうなるかわからない。計算間違いや備品の発注ミスを多発するに違いないヒヨリはもっとダメ。アツコは生徒会長の仕事があるし、消去法で私になってしまった。

 

 後悔はなかった。

 別に楽しいとかじゃない。他に出来る人がいないから、私がやっているだけ。やり甲斐があるだとか、そんなんじゃない。やらなければならないことだから、私がやっているだけだ。

 

 だとしても辛い。そろそろ辛い。非常に辛い。

 戦って負傷とか、自分で自分の身体を傷つけるだとかじゃない。書類の山に殺されるかもしれない、なんて思う日が来るとは思わなかった。戦って戦って戦って、どこかで野垂れ死ぬ。それが私の最後だと思っていたから。机に座って死ぬかもしれない未来があるとは、本当に思わなかった。

 

 皆手伝ってくれようとはした。

 リーダーは皆の訓練が終わったら、アツコはアリウス自治区の査察が終わり次第、二人とも自分の仕事が片付いたら私の手伝いをしてくれようとしていた。

 でも私は断った。この程度私一人で充分だと。子供のように意地を張って、安いプライドを守るために。その結果がこれだ。自分一人では片付かない現状。

 

 ため息が出る。

 ガキ過ぎて、呆れ返るとはこのことだ。

 

 

 でも――――。

 

 

「……頑張ろう」

 

 

 片付けても終わらない。

 捌いてもキリがない。

 処理しても新しい書類の山が目に付く。

 

 でも、悪くないと思っている私がいる。

 

 今までの私はひたすら楽になりたかった。

 未来なんてない。希望なんてない。先のことなんて考えたところで空しくなるばかり。

 

 そんな私が、次に繋がる仕事をしている。

 

 目の前の書類の山は、アリウスの次に繋がるモノだ。

 皆で稼いだお金を何に使うか、何に使っているか。無駄がないか、何か切り詰められないか。アリウスで住みやすくするために何が必要で、何が不必要なものなのか。そういった、過去よりも今日、今日よりも明日を生きるために必要なモノが書いてある。

 

 そんなモノを私が目を通して、不備がないか確認することになるなんて、考えもしなかった。

 

 それもこれも――――。

 

 

「アツコ、大通りの道の件だが――――」

 

 

 この人のおかげなのだろう。

 

 

 執務室に入ってきたのは、アリウスの人じゃない。

 腰まである黄金の髪の毛は、後ろで縛り一つに纏められている。

 いつものミレニアムの制服の上から軍用コートを肩で羽織った姿ではなく、何とも動きやすいミレニアムの体操服に身を包み。

 足もいつも履いているハイヒールなどではなく、動きやすさに重きを置いた運動靴を履いている。

 

 マダムからの支配を撃ち破り、アリウスを平定した、私達が『殿下』と呼ぶミレニアムサイエンススクールの生徒――――天上院オウヒ。

 

 

 彼女は、うん? と辺りを見渡して。

 

 

「ミサキだけか?」

 

「うん。アツコならアズサと買物に行ったよ」

 

 

 殿下はそうか、と口にすると私が格闘している書類の山を見て固まる。正気か? といっている目で訴えているよう。

 それよりも私には無視できない光景であったので、その疑問を口にする事にした。

 

 

「殿下はそんな格好で何をやっていたの?」

 

「……道の整備の手伝いをな」

 

「整備? ……あぁ、確かレッドウィンターの工務部の」

 

 

 整地した道の工事をレッドウィンター連邦学園の工務部へ外注しており、その工事をする際の申請書を提出されていたのを私は思い出した。そういえば、今日だった。すっかり忘れていた。

 

 

「ていうか、また一緒に働いてたの?」

 

「そうだが、何か問題でもあるか?」

 

「ないけど、良くやるなって思って。完全にボランティアなんでしょ? 王様がそんなことしてていいの?」

 

「何度も言っているであろうが。余はオマエ達の王では――――」

 

 

 そこまで言うと、殿下は私を見て凝視する。そして。

 

 

「……ミサキよ、暫し待て」

 

 

 それだけ言うと、足早に執務室を出て行く。

 

 呆気に取られた私は、ただただその姿を見送る事しか出来なかった――――。

 

 

 

 

 

 

 それから直ぐに殿下は戻ってきた。

 先程手ぶらで出て行ったのに、今度は白い箱を片手に持っている。

 

 それはなにか、と聞く前に。

 

 

「差し入れである」

 

 

 そういうと、殿下は箱を開けて私の前に置いた。

 中に入っていたのはパンケーキ。見たことがある。アリウスで流行っているスイーツだ。ヒヨリが美味しいと言っていたのを何度も耳にしたことがある。

 

 

「殿下、これって?」

 

「余からの褒美だ。休憩がてら食べる事を赦す」

 

「褒美って私何もしてないんだけど?」

 

「何を言うか。今まさに、オマエにしか出来ぬ戦いをし、全身全霊で事にあたっている。そんな者は報われなければならぬ」

 

「でもまだ残ってるし……」

 

「疲労困憊の顔で何を言うか。いいから休め。今のアリウスにはオマエが必要であり、オマエが倒れたらアリウスは終わる。それを自覚するが良い」

 

 

 有無を言わせない口調と雰囲気に、私は頷く事しか出来なかった。

 もしかしたら、私は怒られているのかもしれない。でもどうして?

 

 

「仕事などいずれ終わるモノ。オマエが身体を壊してまでやるものではない」

 

「……殿下、怒ってる?」

 

「当たり前であろうが」

 

 

 そういうと、殿下は私のおでこを小突いて。

 

 

「オマエは自身を勘定に入れない節がある。今までは良かったのかも知れぬが、余の前では赦さん。今のうちに矯正してやる故、覚悟するが良い」

 

「――――――」

 

 

 開いた口が塞がらないとは、このことを言うのかもしれない。

 怒っている理由が、そんな理由なんて思わなかった。それに初めてだ。そんなことを言われたのは、私が必要だと口にして、言葉としてくれたのは、初めてだった。

 

 いいや、きっとだけど、皆私の事を大事ではあったんだと思う。

 サオリも、アツコも、ヒヨリも、アズサも。私のことを仲間だと思い大事にしてくれていたのだと思う。

 だから、私が何もかもが嫌になって、自分の身体を傷つけるようになっても、見捨てる事無く、止めてくれていたのだろう。なのに私はそれに気付かないで、サオリ達を困らせた。どうして死のうとしてはダメなのか。夢も希望もないこの世界で、どうして生きないとならないのか。答えがないのをわかってて、憤りとして口にしていた。

 

 言ってしまえば八つ当たりだ。辛いのは私だけじゃないのに、そんなことも解らなかった私は、どうしようもないことを口にしていた。

 

 そんな私でも、皆は見捨てずに、大事にしてくれていた。

 そんな私を必要だと、殿下は言ってくれた。

 

 嬉しい反面、頬が熱くなる。

 だって初めてだったんだ。そんな言葉を贈ってくれたのは、殿下が初めてだったんだ。

 

 

 誤魔化すように、悟られないように、にやけそうになる顔を我慢して、殿下が買ってきてくれたパンケーキを食べる。

 味なんてわからない。それほどまでに私はテンパっていた。

 

 そんな私の心境など知らない殿下は、一つのレシートを見てそれを手に取る。

 

 

「これは、アズサのだな」

 

「え?」

 

 

 茹った思考のまま、私は殿下から差し出されたレシートを手に取る。

 そこにはスカルマン人形、スカルマンボールペン、スカルマンアクリルスタンド、スカルマンアイマスク、スカルマン靴下、と。恐らく経費で落すために、レシートのみを提出してきたのだろう。

 でもこれがどうして、アズサのだと思ったのかわからない。

 

 

「どうしてアズサだと思ったの?」

 

「ヤツがハマっているモモフレンズグッズだからだ」

 

「え、なに、モモフレンズ?」

 

 

 殿下の口からは聞きなれない単語が。

 というか、なにモモフレンズって?

 

 

「なんで殿下が知ってるの?」

 

「アズサに布教されてな。端的に言うと嵌ったのだ。余もしっかり集めている」

 

「マジで?」

 

「マジである。余の推しはピンキーパカだ」

 

 

 ふふん、と。どこか得意そうにしている殿下。

 それが何だか面白くて、私達を助けてくれた人とは思えなくて、身近にいるような人に思えて私は笑ってしまった。何だか微笑ましかったんだ。

 

 今思えば、私はこの人のことをあまりよく知らない。

 恩はあるけど、私はサオリのように忠誠なんて誓えない。でも、もっと知りたいと思った。この人の違う一面をもっと見たいと思った。

 

 私を必要だと初めて言ってくれたこの人が、何が好きで、何を思って、何を考えて、どうして私達を助けてくれたのか。私は知りたいと思った。

 

 

 でも世界は、そんな時間すら与えてくれないようで――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 アリウスの生徒が数名襲撃にあったと耳にする。

 犯人は直ぐに判明した。

 

 『災厄の狐』と称される。その者の名は――――狐坂ワカモ。

 

 

 





 △戒野ミサキ
 アリウススクワッドの一人。
 耳にピアスとか空けてめっちゃロックだな、とはオウヒの第一印象。
 ここでの彼女は、やる事が多すぎて充実している(事務仕事的な意味で)(充実とは)
 偶にオウヒも書類仕事を手伝ったりしている。
 実は、最初オウヒの事を警戒していた。殿下といっているものの、割とフラットに接している。
 サオリの忠誠心にちょっと引いてる。

 
 △書類の山
 ミサキの敵。片付けても片付けても減らない。


 △モモフレンズ
 キヴォトスで知る人ぞ知るキャラクターブランド
 オウヒの推しはピンキーパカ。ピンクなのが可愛い。



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