こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 時系列はオウヒがバイトを始めてから数ヵ月後でございます。

 
 ~ソロモンちゃんねる~

 幼いオウヒ「アーちゃんの今日の占いの順位二位だったよ!」
 幼いアル「あら、そうなの?」
 幼いオウヒ「ワタシと遊ぶとラッキーなんだって!」
 幼いアル「そんな嘘つかなくても遊んであげるわよ」
 幼いオウヒ「やったー!! ありがとう、アーちゃん!」

 アル「────なんてことがあったわね昔」
 ムツキ「それ、今もやってるよヒーちゃん」




番外編 リオ会長は見た

 とある日のバイト中にて。

 

 数ヶ月も経てば、人とは慣れるもの。

 

 いつも苦戦していて、何かあれば直ぐにテンパり、注文を間違えたり、入ってきた強盗を問答無用で叩き潰して大事にさせたり、何かにつけてセリカ先輩に迷惑をかけていたワタシだけど、やっと柴関ラーメンのフロアを一人で任せられる程度には成長する事ができた。

 

 こういうのをワンオペというのだろう。

 ククッ、勉強してきました。そういうビジネス用語を。

 

 自分の成長を感じる。

 いらっしゃいませ、を言えるようにもなった。常連さんの顔を覚える事もできた。でも、そういうのを嫌だっていう人もいるから、あっちから声をかけられるまで反応しない事も学んだ。

 

 数ヶ月前の自分とは比べられないほどの成長を感じる。

 

 有り体で言うのならキテいる。ワタシの時代が。直ぐそこまで、キテいるのだ。振り向けば奴がいる程度の距離に、時代がやってキテいる。

 

 

「お嬢」

 

「はい」

 

「掃除、終わったかい?」

 

「……はい」

 

 

 ごめんなさい、嘘をつきました。

 成長なんて出来ていません。数ヶ月前と何一つ、変わらないダメなワタシなのです。

 

 今だって、盛大に水の入ったコップをぶちまけて床の掃除をしている真っ最中。

 コップがガラスじゃなくてよかった。プラスチックだったから割れてないけど。いいや、良い筈がない。床に水をぶちまけた時点でアウトなのである。

 

 

 ワタシ一人に任せられていると言ったけど、それも嘘。

 

 たまたまワタシ一人だったのです。セリカ先輩はアビドスで用事があるとかで、バイトを休んでいる。最後まで「私がいなくて大丈夫?」なんて優しい言葉をかけてくれた。

 本当に優しい。セリカ先輩が同い年とは思えないほど、しっかりしている。ああいう人に、ワタシもなりたいものだ。

 

 つまり、ワタシは何一つ成長していない。

 

 初歩の初歩である笑顔で接客も出来ていない。笑顔なんて以ての外。引き攣った顔でいらっしゃいませ、という日々。常連さんはそんなワタシに「今日も元気だね」なんて声をかけてくれるけど、それは常連さんだからだ。初見の人には引かれることもある。

 

 床に散らばった水を拭いて、コップを片付けて、ワタシは立ち上がり。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………」

 

 

 それはもう深い深い、そして不快なため息を吐く。

 どんよりと、黒いオーラを纏っている気がするのは、ワタシの勘違いではない。

 

 お客さんがいなくて良かった。

 こんな人間に接客される人がいるとか、その人は不幸に違いない。

 

 あぁ、貝になりたい。

 何一つ出来ないワタシは貝に生まれ変わりたい。もしくは、ゴミ箱の中で一生過ごしていたい。何も出来ない生ゴミにはそれが相応の末路だろう。

 

 

「き、気を落とすなよお嬢!」

 

「でも、シヴァさん。ワタシ、本当にダメな女だよ?」

 

「そんなことはねぇさ。ほら、今日は偶々調子が悪かっただけだ。いつもはそつなくこなせているだろう?」

 

「……セリカ先輩がいるからね」

 

 

 見かねてシヴァさんが元気付けてくれるけど、それに答える元気はなかった。自分のダメさ加減に、落ち込むばかりなのです。

 

 

「……あれ?」

 

 

 ここで、なにやらシヴァさんが気付いたような声を上げる。

 それから直ぐにワタシに向かって。

 

 

「……なぁ、お嬢」

 

「なぁに、シヴァさん」

 

「アレってお前さんのお友達かい?」

 

「友達?」

 

 

 はて、誰だろうか。

 真っ先に顔を浮かんだのはアーちゃんとムーちゃんであるが、シヴァさんはこの二人を知っている。でもシヴァさんの口調は初対面である人を見るような口ぶりだったので、二人ではない。

 

 ならば、ワカモというわけでもない。あの娘の顔も、シヴァさんは知っている。

 

 となると候補は、限られてくる。

 シヴァさんは初対面で、ワタシのお友達っぽい人。うん、本当に限られた。どれだけワタシってば交友関係狭いのだろう。

 

 そこまで考えて、ワタシはシヴァさんの視線を追う。

 その先にいたのは。

 

 

「────────」

 

 

 身長は171cmほど。

 黒い髪の毛に紅い瞳。黒い制服に身を包み、ストッキングを穿いている一人の生徒の姿。

 可愛いというよりも、綺麗な顔立ち。とても、私の二つ年上とは思えないほど、彼女は大人びた女性である、というのがワタシの認識だった。

 

 だった。つまりは過去形。

 

 その生徒は何をしているのか、店内へと続くドアの前で、体を小さくしてこちらの様子を見ていた。

 

 どこか、保護欲を掻きたてられるような、自分よりも年上で、学年も上で、立場としても上だけれど、守護ってあげたくなるような、そんな不思議な感覚がワタシを駆け巡る。

 つまりは────でかい幼女。そんな印象を、覚えていた。

 

 そんな、彼女の名前は────。

 

 

 

 

 

 

 

「お水です」

 

「ありがとう」

 

 

 でかい幼女改め、大きな妹(ビッグシスター)もとい、店内の様子を見ていた彼女────リオ会長を招きいれてカウンター席に座ってもらった。

 

 こういうお店は慣れてないのか、キョロキョロと辺りを忙しなく観察している。

 

 それにしても、どこか浮いているように見える。

 リオ会長にラーメンとかそういう系は似合わない、とワタシは勝手ながら感じていた。もっとフレンチな、ドレスを着て、お高いレストランでディナーとかしてそうではある。そんな外見とスタイルをしているから。

 

 明らかなミスマッチ。

 彼女がどういう意図でここに訪れたのかはわからないけど、このままでは埒が開かないのでワタシは問いを投げる事にした。

 

 

「リオ、此度は何用で参った?」

 

「それは……」

 

 

 どうにも歯切れが悪い。

 リオ会長は合理の化身といっても過言ではない。極力無駄な言葉は省き、要点だけを伝える。それが彼女であると、ワタシは思っていた。

 

 でも目の前にいる彼女の様子はどこかおかしい。

 まるで、言葉を選ぶような。自分がここに居ること自体計算外であると言わんばかりに、想定外のことに狼狽えている様子。

 

 思わずワタシは首を傾げる。

 いつも冷静であるリオ会長が、明らかな狼狽をしているなんて、見たことがなかったから。

 

 ワタシ達のやり取りを見守っていたシヴァさんが口を開く。

 

 

「……なぁ、お嬢」

 

「なんだ、シヴァさん?」

 

「この人はお嬢のお友達かい?」

 

「友達、というよりも余が世話になっている人だ。ミレニアムの生徒会長である」

 

「なるほど、そういうことかい」

 

 

 納得、と一人合点が言ったといわんばかりに朗々とした口調でシヴァさんは言う。

 

 対してワタシはますます首を傾げるばかり。

 シヴァさんは何に対して納得したのだろうか。

 

 ワタシが問いを投げる前に、シヴァさんは笑いながら。

 

 

「ミレニアムの生徒会長さんはよ、お嬢が心配で様子を見に来たのさ」

 

 

 そうだろう? とシヴァさんはリオ会長に話を振り、ワタシも驚きながらも会長の方へと視線を向けた。

 リオ会長は眼を見開き、思考を一巡させて、ワタシとシヴァさんから視線を逸らして、口を開こうと言い淀み、そこでやっと。

 

 

「……えぇ、店長さんの言う通りよ」

 

 

 シヴァさんの言葉を肯定する。

 

 正直、意外だった。

 ワタシとリオ会長の関係性といえば、良くて先輩と後輩、悪くても上司と部下みたいな間柄だと思っていた。

 

 会長が多忙なのはワタシも理解している。ミレニアムにいたとしても、いつも書類とにらめっこをしているし、時間があってもワタシと話す内容といえばミレニアムの今後の方針などだ。一般的な会話など数える程度しか交わした事がない。

 

 ワタシはリオ会長を尊敬している。

 

 アリウスの皆に慕われて、学園を守る立場となった今だからこそ、リオ会長がどれほどの重責を背負っていたのか理解できる。

 

 そんな人が、ワタシのような個人を気にかけてくれている。

 忙しいのに、仕事の合い間を縫って、ワタシの様なダメな人間の様子を見に来てくれた。

 

 本当に優しい。

 ワタシはこの人のことを何も知らない。知らなすぎた。

 

 

「……なにか言ってちょうだい」

 

 

 どこか拗ねたように、照れくさそうにリオ会長はワタシに促した。

 

 それがどこか子供のようで、綺麗であるのに、可愛らしい反応が、どこか面白くて笑みを浮かべてしまう。

 

 

「あぁ、すまぬ。リオ、貴様には世話をかけるな」

 

「……別に。私が好きでやっている事よ」

 

 

 言い終わる頃には、既にいつものリオ会長に戻っていた。

 

 冷静で、物事を俯瞰的に見ることが出来て、ワタシの視点では見通すことができない、視座が高い人であるリオ会長に戻っていた。

 

 それが少し名残惜しい。

 ワタシが見た事がないリオ会長の姿がそこにはあり、その姿がとても可愛らしかったから。

 

 でも焦る必要はない。

 これから知ればいい。これからもっと、リオ会長を知っていけばいい。

 今日はこれで満足だ。これ以上、欲張ってはきっと罰が当たってしまうと思うから。

 

 

「折角きたのだ。何か注文はないのかリオ?」

 

「そうね、オススメはあるかしら? 出来ればこってり系」

 

「え、こってり? 貴様が?」

 

「それはどういう意味?」

 

「いや、サプリで食事を済ませていそうだから。ラーメンはおろか、カップ麺も食べた事がないと……」

 

「あるわよ、カップ麺くらい。数分で食べれるもの。時間を無駄にしない合理的な食べ物ね」

 

「そうかな。そうかも……」

 

 

 言われてみればそうであるかもしれないし、ワタシの中で「そうじゃなくない?」と訴える声も聞こえる。

 対してリオ会長は少しだけ残念そうに。

 

 

「トキがいるときは食べさせてくれないけど」

 

「トキちゃんが? 何故だ?」

 

「自分が作った料理の方が美味しいって聞かなくて……」

 

 

 なるほど、トキちゃんにもプライドがあるのか。

 

 仕事をしている姿をあまり見たことがないので、メイド服を着たボディーガードだと思っていた。どうやらちゃんとしたメイドであるらしい。

 

 脳内でイマジナリートキちゃんが無表情でダブルピースをしているのを幻視しながら。

 

 

「ちなみに、トキちゃんがいないときの食事はどうしている? カップ麺か?」

 

「……そうね、最近はハンバーグ弁当を好んでいるわ」

 

「ハンバーグ弁当」

 

「時間帯によっては半額になるから」

 

「半額」

 

 

 なんだかリオ会長からは聞きなれない単語の連発でおかしくなりそうになる。

 

 でも、そうだね。

 ワタシ達の味覚って合ってるかも。ワタシも好きだよハンバーグ。きっと、リオ会長はオムライスもから揚げも好きだと思う。そうなればカレーも好きに違いない。

 

 

「リオ」

 

「なに?」

 

「今度、食事にでも行くか。美味しい焼肉屋を知っているぞ余」

 

「そうね。そのときはトキも誘いましょう。だって────」

 

「あぁ、そうだな。何せ誘わないと────」

 

 

 まるで示し合わせたかのように、ワタシ達は声をそろえて。

 

 

「────拗ねるもの、あの娘」

「────拗ねるからな、あの者は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 頂いたイラストを見つつ、番外編を作りました。
 燃料投下されました。本当に嬉しかったのです。
  
 イラストをまたまた賜らせて頂きました!
 他の生徒と一緒なのが何よりも嬉しいです。
 本当にありがとうございます、ありがとうございます!

斜ケさんより賜ったオウヒとリオ会長

【挿絵表示】



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