~ソロモンチャンネル~
オウヒ「最悪である。鍵をかけないでトイレに入っていたら、サオリが用を足そうとしていたらしく、ドアを開けられて最悪のご対面となった。しかもパニックになった余の口からは、“よく来たな”、と訳のわからん発言が出ていた」
ミサキ「あぁ、アレはそういう……(トイレでオウヒに向かって臣下の礼をしていたサオリを見て)」
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アリウス生が襲撃を受けた、という報告から数時間後。
私達はアリウスの生徒会執務室に集まっていた。
窓から差し込む光は、月の光のみ。
雲ひとつなく、満天の夜空。私達の心とは裏腹に、綺麗な空が広がっている。
誰もが沈んだ表情をしていた。
アツコは両手を握り締めて堪えるようにし、ヒヨリはアツコに寄り添うようにしている。
一番堪えているのは、アズサだろう。顔を伏し表情は読み取れないが、襲撃された生徒の中にはアズサが訓練した生徒の姿もある。つまりは教え子のような者が、前触れもなく襲撃された。冷静になれる筈がない。
ミサキは一見、冷静に見える。でもそれは演技であり、容態が書いているであろうカルテを持つ指が白く変色しており、心中穏やかなものではないことがわかる。
私を含めて、冷静な者などいなかった。
ある者は悲観し、ある者は憤り、ある者は感情に蓋をして分析を始める。
「アズサ、大丈夫か?」
「……大丈夫。心配しないで」
「そうか……」
口ではそういっても、アズサは顔を上げない。
ギュッと両手を握り、声も沈みきっている。ここで襲撃犯を見つけたと報告が入ろうものなら、真っ先に銃を手に取り突撃するだろう。そんな危うさを感じた。
しかし現状、どうもできない。
なんて不甲斐ないのか。肝心なときに役に立たないリーダーなどいて意味があるのか、と自己嫌悪に陥りかけるが、それこそ悪手だ。
ここで私まで不安そうにしたら、私まで冷静にならなかったら、誰がこの場を纏め上げるというのか。
「ミサキ、彼女達の容態は?」
「……命に別状はないよ。治療も終えて、今は休んでいる」
「本当……!?」
そこで、やっとアズサは顔を上げる。
嬉しそうに、ミサキに眼を向けた。その眼は赤く充血しており、直前まで泣いていた事が見て取れる。それほどまでに、心配だったのだろう。不安でどうしようもなく、泣くしかなかったのだろう。優しいアズサらしい。
私も安心したのか頬が緩む。
アズサの頭を撫でながら。
「良かったな、アズサ」
「サオリ……。うん、良かった。本当に良かった……」
一難は去った。
しかし、問題はまだ残っている。
問題の襲撃犯。何故、私達アリウス生を襲ったのかという疑問がまだ残っている。
名前は――――。
「狐坂、ワカモか……」
「知ってるの?」
ミサキの問いに、私はいいや、と首を横に振って。
「知らない。噂でなら聞いたことがあるが、妙だな……」
そう、妙なのだ
何故ならそいつは、狐坂ワカモはキヴォトスで自由に行動出来る立場ではないから。
彼女は、襲撃事件を複数起こし、無差別かつ大規模であり、無慈悲に破壊行為に耽る凶暴な生徒。そしてついた異名は――――災厄の狐。
そんな彼女は停学処分を受け、連邦矯正局に収監されていると聞く。
そんな人間が、自由を許されず、今も捕まっている人間がどうやって他校の生徒を襲撃出来るのか。
「そのことなんだけど……」
おずおず、とアツコは口を開き続けた。
「気になって、連邦生徒会に問い合わせしたんだけど、脱獄したって……」
「――――は?」
開いた口が塞がらない。
私もアズサもミサキも、呆然とアツコに視線を向け、先程彼女が口にした言葉を心の中で反復する。
混乱する私達。
いち早く回復したのは意外にもヒヨリだった。
ヒヨリは慌てた様子で、アツコに詰め寄りながら。
「どどど、どういうことですか!? そんな事、聞いてませんよぉ!?」
「うん。公表は控えているみたい。しかも脱獄したのは狐坂ワカモだけじゃないって」
「えぇー!?」
身を大きく反らして、信じられないと言わんばかりに動揺するヒヨリを見かねた私は声をかける。
「落ち着けヒヨリ。……間違いないのか?」
私の問いに、アツコは頷いて。
「現在、七人の脱獄が確認されてるらしいよ」
「七人もか……」
思わず唖然と呟いてしまう。
百歩譲って一人や二人ならまだしも、七人もとは思わなかった。
事実を踏まえて、ハッ、とミサキは笑って。
「連邦矯正局――――いいや、この場合は連邦生徒会か。連中、一体何をやってんだろうね。しかも公表もしてないとか、お粗末すぎると思うんだけど」
「公表できない理由があるのか、それともそこまで余裕がないのか……」
私は呟くも、はっきり言ってしまえばどうでも良い。
どちらにしても私達には関係がない。
問題はそれよりも、狐坂ワカモだ。脱獄したのが事実だというのなら、どうして彼女は私達アリウスを襲撃し、目立つようなマネをしたのだろう。
常識的に考えて、周囲の目を集める事は控える筈。
いいや、前提として間違っているのかもしれない。災厄の狐と呼ばれ、連邦矯正局に収監された生徒だ。そんな者を常識なんて枠に納めて考えるのが間違っているのかもしれない。
理由なんてない、というのも考えられる。
ヒヨリも同じ事を考えていたようで、彼女らしく疑問を素直に口にしていた。
「でもどうして、狐坂さんは私達を襲ったのでしょうか? 何か怒らせることでもしたのでしょうか?」
「それはないでしょ」
ヒヨリの言葉を直ぐに否定し、ミサキは続けて自分の考えを口にした。
「もし私達に恨みをもっているのなら、消耗したときを狙う筈だよ。今回は白昼堂々。しかも、傭兵の仕事が入って、現場に行く途中に狙われている」
そんな人間を普通は襲う? という問いに私達は首を横に振る。
弾薬も余裕があり、精根尽きたわけでもない。そんな人間を襲うなんて、やはりまともな感性なんて備わっていないのだろう。
本当に理由なんてないのかもしれない。久しぶりの自由の身で、憂さ晴らしがしたく、たまたま標的が私達だったというだけの可能性すらある。
――――ふざけるな。
苛立ちが隠せない。腹の底で煮えたぎる感覚。冷静に努めようとしていた思考が、鈍っていくのを感じる。
怒りだ。
純粋な怒りが、私を支配しようとしていた。
「……どうするのサっちゃん」
「アツコ?」
視線を向ける。
アツコは真剣な表情で真っ直ぐに私を見つめて。
「殿下に報告する?」
「そうです! 殿下に助けてもらいましょう! きっと助けてくれますよ!」
ヒヨリの表情が明るくなる。
確かに、殿下にご報告するべきなのかもしれない。
最早、私達は殿下の物。救って頂いた命、私達は殿下のためなら何でもするし、殿下の敵は誰であろうと排除する。
今回の襲撃は外部に漏らさないよう徹底している。いずれは殿下のお耳にも入る。そうなれば、彼女は動いてくださるだろう。率先して矢面に立ち、敵を蹂躙せんと己の武力をお使いになられるに違いない。
殿下には返せない恩がある。
マダムを打倒し、アリウスを平定なされ、その結果で私達は人並みの生活を手に入れた。それもこれも、殿下の尽力があってこそだ。
だからこそ。
「いいや、殿下にご報告するまでもない」
今回は、今回こそは、私達の力だけで解決しなければならない。
いつまでも殿下のお世話になるわけにはいかない。殿下に忠誠を誓うのであれば、力を示さずして何が臣下といえようか。
「ヒヨリ、今回は私達だけで解決しよう」
「……そうですね。そうですよねっ。殿下にはたくさんお世話になりました。私、頑張りますっ!」
「あぁ、良い子だ」
私はヒヨリにそういうと、皆に向き直る。
「ミサキとアツコは後方支援と情報収集、ヒヨリは二人の護衛、私とアズサは部隊を二手に別け行動する。――――行くぞ。現刻を以て、狐狩りを開始する」
目的がどうであれ、報いを受けてもらう。
殿下の兵を傷つけた報いを、私達の仲間を傷つけた報復を、その身に刻んでもらう。
例外なく、私達の殺意はお前を逃がしはしない――――。
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んー、暇だ。
ぼんやりと。ワタシはミレニアム自治区内の公園のベンチに座って、空を見上げている。
時刻は昼といったところか。
太陽は燦々と大地を照らし、本当に嫌ってほど晴れ晴れとしている。
ネルちゃんも今は任務だとかでミレニアムにいないし、C&Cの皆も同様だ。
リオ会長は先の連邦生徒会長の件で準備をしているのか忙しいみたいだし、トキさん――――じゃなかった。トキちゃんもリオ会長の護衛についていってしまった。
空崎さんとのお出かけも今日じゃないし。
となると、アリウスへ遊びに行こうとしたんだけど、誰とも連絡が取れない。
サオリへモモトークを送ったものなら、直ぐに返信が来るのに。今回はどうしてか、一向に返信してくれない。
寂しい。
グイグイ来てくれたのに、ある日突然パタっと距離を置かれるこの感覚。これが俗に言う、押してもだめなら引いてみろというやつなのだろうか。
いや、別にサオリのことをダメって思ったことは一度もないけど。むしろ何もしていないワタシを殿下、って呼んで慕ってくれて、申し訳なくなるけど。
となると、本当に何もする事がない。
自分の交友関係の狭さにびっくりする。いいや、こんなものでしょ。むしろワタシにしては、広い方だと思うんだ。
「ん?」
端末から通知音。
モモトークの返答でも来たかな、と思ったけどそんな事はなかった。
何故ならその音は着信音。
誰からだろう。画面を見ても登録されてない番号から。ワタシは端末を操作して、耳に当てて。
「誰だ」
『天上院オウヒだな?』
低い声。いいや、でもなんだろう。頑張って低い声を出しているというか、多分元々そんな声色ではないような声であった。
「何者だ」
『くふふっ、あっ、いいや。……何者だと思う?』
「……下らん問いに、余の時間を――――」
そこまで言うと、ワタシは口を閉ざした。
低い声の演技。
でもワタシはこの声を耳にしたことがある。
恐る恐る、その人物をワタシは口にしていた。
「ムーちゃん?」
『すっごーい! よく解ったね、ヒーちゃん!』
「えっ、本当に? 本当にムーちゃん!?」
『くふふっ♪ そうだよー』
そこでワタシの気分は最高潮に達していた。
久しぶりの声。可愛い声がワタシの耳に入り、脳内に木霊し、まるで麻薬でもキメたかのようにテンションが上がる。麻薬なんてやったことないけど、きっとこんな感じだろう。つまりはワタシには麻薬なんて必要がないのだ。ムーちゃんの声で気分なんてどうとでもなるのだから。
「やだー! えー、もうなにー! 凄い久しぶりだねー!」
『本当だねっ。小学校以来かな?』
「うん! 話したい事、たくさんあるんだけど、何を話したらいいか……!」
『私もだよっ』
あぁ、ムーちゃんの声が聞こえる。こんな幸せな事はない。いずれガン細胞にも効くに違いない。万能薬だ。
『それよりも、ヒーちゃん』
「なに?」
『まだあの喋り方やってるんだ』
あの喋り方というのは、余モードのことを言っているのだろう。
うん、まだやってるんだ。もう手放せない領域にまで入っているんだ。
「身に染み付いているというか、自然と出るようになったというか」
でも何よりも。
「アーちゃんが、この喋り方カッコいいって褒めてくれたから、かな」
そう。
ワタシが演技しているのなんてこの程度の理由なんだ。
人見知りで誰にも下に見られないためだとか、初対面の相手に警戒してだとか、色々と理由はあるけど全ては建前だ。
根本的な理由は、ワタシの大好きでカッコいい幼馴染の一人が、ワタシなんかをカッコいいと褒めてくれたから。
偉そうな演技をしているのなんて、この程度の理由でしかなく、ワタシにとってはそれが全てでもある。
ムーちゃんは、そっか、と嬉しそうに言うと。
『本当にヒーちゃんはアルちゃんのこと好きだね~♪』
「アーちゃんだけじゃなくて、ワタシはムーちゃんのことも大好きだよっ」
『――――――――』
「ムーちゃん?」
急に黙ってしまった。
でもムーちゃんは直ぐに、いつもの調子で。
『私もそういうヒーちゃんの素直な所、大好きだよ~!』
いつもの調子、というわけでもない。
むしろどこか嬉しそうな。嬉々とした口調でムーちゃんは言っていた。
「そういえば、どうしてムーちゃんはワタシの連絡先知ってるの?」
『んー、そうだなー。どういったもんかなー?』
少しだけ、うーん、とムーちゃんは考える。
そこで端末口から、爆発音らしき音が聞こえる。
「ムーちゃん、今どこにいるの? 戦闘中? ワタシも行こうか?」
『大丈夫大丈夫。もう終わった所だよ』
ハルカちゃーん、爆薬設置できたー? とムーちゃんが問い、大丈夫ですー! と端末口から聞こえてくる。
それから直ぐに。
『ごめんごめん。ヒーちゃんの連絡先だよね。実は今、私達カイザーコーポレーションのアビドス支部を襲っていてね』
「え、どうして?」
『噂でさ、ヒーちゃんを襲うって聞いてね。調べたらビンゴっ! これはもう、ぶっ殺すしかないじゃん?』
ワタシを襲うってどうして? と思ったけど心当たりがあった。アビドス自治区内でおきたゲヘナ生とカイザーコーポレーションの小競り合いに介入した件。その報復にワタシを襲おうとしたのだろう。
ということは、つまりはムーちゃんはワタシのために、そんな危ないことをしてくれたのだろう。
やだ、凄い、カッコいい。
ドキドキしちゃう。心配よりも嬉しさが勝ってしまう。
『んで、ヒーちゃんの連絡先を見つけて、今掛けているってわけ』
「む、ムーちゃん! ダメだよ危ないことをしちゃ! 今度からそういうことをするときは、ワタシも呼んでねっ」
『ごめんごめん。ついカッとなっちゃったよ。次はヒーちゃんも一緒に襲おうね』
つまりはデート。襲撃デート。テンションが上がる。なんて楽しみなんだ。今から張り切ってしまう。ムーちゃんに良いところを見せないと。
「そういえば、アーちゃんは元気?」
『元気だよー。今はアルちゃんと……って、まだ内緒だった』
「ムーちゃん?」
小声で聞こえなかった。
何ていったか聞き返そうとするも、ムーちゃんは直ぐに「なんでもない」と言うと。
『ごめんね、ヒーちゃん。落ち着いたら会いに行くから。きっとビックリすると思うよ~?』
「?? うん、わかったよ。楽しみにしているね?」
『ヒーちゃんのことも聞かせてね。アリウスの王のこととか』
「うぐっ。わ、わかったよ」
『それじゃ切るね。またお話しよ~!』
「うん、わかったよ。気をつけてね」
『大丈夫、バレないように襲ったから! ばいばーい!』
そこでムーちゃんとの通話は切れた。
突然ビックリしたけど、何よりも元気そうで良かったし、久しぶりの声が聞けて嬉しかった。
本当に嬉しい。
このまま踊りたいくらい。ランバダでも踊ってしまおうか。
「なんとも愛らしいですね」
「ん?」
いつの間に、そこにいたのか。
黒髪の長い綺麗な人が立っていた。和服を着て、いかにも清楚系といった人。慈愛に溢れた笑顔を、ワタシに向けている。
はて、誰だろう。
この人とは初対面の筈だ。
「誰だ、貴様?」
「…………」
ニヤついていたワタシは直ぐに表情を引き締める。
つまりは余モード。睨め付けるように、注意深く、ワタシは彼女を観察する。
あまりの変わりように、多少呆気に取られたのか。
でも直ぐに笑みを張り付かせて、彼女は応じてみせた。
「失礼。あまりにも愛らしかったもので、声をかけてしまいました」
「良い、赦す。今の余は機嫌が良い」
「ありがとうございますね」
彼女は笑みを張り付かせたまま、極めて友好的な態度で続けて。
「私、ワカモといいます。お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
△『くふふっ、あっ、いいや。……何者だと思う?』
オウヒ「ムーちゃん本当に可愛い。非常に可愛い。マジで可愛い。辛い、可愛くて辛い。生きててありがとう」
△「アーちゃんが、この喋り方カッコいいって褒めてくれたから、かな」
尊敬する幼馴染が褒めてくれたから程度の理由
△オウヒが襲われる原因
第3話での暴れたのが原因
△アビドス支部の襲撃。
アーちゃんには内緒。オウヒが襲われる可能性があると言ったモノなら、ブチギレて勢い余って本社に突撃すると思ったから。やるかやらないか、といったらやる。冷静になって慌てるヤツ。
またしても何も知らない陸八魔アル(16)(Unwelcome School)