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ワタシはミレニアム自治区の大通りを歩いていた。
近未来的な建築物が多いのは、やはり科学技術に力を入れている学校だからか、それとも新進気鋭な学園であるが故なのか。
いまいち、その辺りはワタシにはわからない。自分の通う学校なのに、どれほど歴史があるのか、どれほどの立場にあるのか、どれほどの規模なのか、自分でもどうかと思うくらい興味がない。
とはいえ、治安は良い事がわかる。
キヴォトス三大学園の一角と言う割には、揉め事もあまりない。
かなりの頻度でテロが起きているゲヘナと比べても、内輪揉めが堪えないトリニティに比べても、ミレニアムは驚く程問題はなかった。
多分、それもこれも、リオ会長の手腕のおかげだろう。
でも、何だろう。
「…………」
道行く人たちの反応が奇妙なような。
ワタシが歩くたびに、人の波が割れて道が出来るし、誰もが顔を反らしワタシと目を合わせてくれない。
はて、どうしたのだろうか。
もしかして、ワタシの顔に何かついている? 見れないくらいおかしなことになっているのだろうか?
「怯えられていますね~」
誰が、誰を、誰に?
という疑問はさておき、この人はいつまでついてくるのだろうか。
その声は背後から。
楽しそうに、愉快そうに、愉悦に満ちた。
公園で声をかけられ、ずっとついてくる。
確か――――ワカモさん、と言ったか? 新手の怪しい勧誘だろうか。急に幸せですか? なんていわれたらどうしよう。言われなくてもどうしよう。怪しさしかないよこの人。
不安なワタシを悟らせないように、いかにも不機嫌です、といった口調で言う。
「貴様、いつまで余に付いて来るつもりだ?」
「私のことはお気になさらず。邪魔は致しませんので」
「痴れ者が」
あれー?? おかしいぞ。
大抵の人は、こんな感じにいえば、ワタシから離れていくのに全然離れないこの人。
滅茶苦茶強いよ。強いよメンタルこの人。何で出来てるんだろう心。超合金か何かで出来てる?
本当にどうしようこの人。
それよりもお腹が減った。そういえば、朝から何も食べてなかった。
そこでワタシは何も考えずに、喫茶店の看板が目に付いた。
喫茶店のドアを開ける。特にここを選んだ理由はない。雑誌で見たことがあるだとか、口コミの評判が良かっただとか、生徒同士の噂になっているだとか、前評判を聞いたわけではなかった。
お腹が減って、たまたま目に付いたので、喫茶店に入った。その程度でしかない。
入ると、昼時も過ぎているからか、そこまでお客さんはいなかった。
これなら直ぐに入れそうだ、と考えていると。
「いらっしゃいませー」
愛想よく、可愛いフリルをこれでもかと着けている制服のウェイトレスさんが来てくれた。
満面の笑み。凄い、これがプロと言うやつか、なんて思っていると。
「お二人でよろしいでしょうかー?」
と、妙な事を。
それから直ぐに背後から。
「はい♪」
「…………」
マジかこの人。
付いて来たよワカモさん。
普通、お店の前で別れない? というか、本当にどこまでついて来るのこの人。
「貴様と相席なぞせぬぞ」
「おや、何故ですか?」
「当たり前であろうが。見ず知らずの輩と、何故座して卓を囲わねばならぬのか」
「まぁまぁ、これも何かの縁でございます。親睦を深めようではございませんか」
え、嫌ですけど。明らかに怪しいですし貴女。
あれ、もしかしてナメられてる? ワタシナメられている?
ククッ、いい度胸なのです。ここで一発、本当の恐怖を教えてやるのです。三千世界の鴉を殺し尽くすほどの怒気をもってこの人を追い払ってやるのです――――。
「お待たせしましたー」
そうしてワタシはワカモさんと対面して、喫茶店の席に座っていました。
えぇ、無理でした。
ワタシがどれほど、不機嫌ですけど何かオーラを出しても、この人全く動じなかったです。
押し切られる形で一緒にご飯を食べてます。もしかしたらワタシ、グイグイ来る系の人に弱いのかもしれない。
件のワカモさんは眼を丸くして。
「……よくお食べになりますね」
運ばれてきた料理に唖然としている。
ワカモさんが注文したのはブラックコーヒーのみ。対するワタシは、もう色々だ。テーブルの上のほとんどがワタシの頼んだ料理で埋め尽くされている。
グリルのチキンサンド、子牛のステーキ、ご飯、シーフードパスタ、ご飯、クロワッサン、ご飯、ハンバーグ、オムライス、などなど。
だってしょうがない。お腹減っていたのだから。
それにこのぐらい普通だよ普通。腹六分目くらいだと思う。
「これでも遠慮した方だ」
「……遠慮。それでそのスタイルとは、世の中の女性が泣きますよ?」
「体質なのだからしかたなかろうよ。食べても食べても太らぬ我が身である」
「左様でございますか。お腹いっぱい食べない理由はなんでございましょう?」
勿論、貴女のせいですよ。
一刻も早く食べて、貴女と解散して、違う所でまた食べるためです。
とはいえ、慌てて食べるのは良くない。
折角お金を払って食べるのだから、美味しく頂きたい。
うん、美味しい。
ここの常連になるのもあり。一番は柴関ラーメンだけど、ここもありありのあり。
「いつも、ここに来られるのですか?」
料理に舌鼓を打っている最中、ワカモさんが笑みを浮かべたまま話しかけてきた。
もぐもぐ、とステーキを何度も噛み締める。それから飲み込んで首を横に振りながら。
「初めてだが」
「おや、そうでしたか。いつもはどこに?」
「言わぬ」
言ったら来そうだし。絶対に言わない。
「おや、残念」
くすくす、と鈴を鳴らすような声で笑みを浮かべるワカモさん。
そして彼女は、ぽつりぽつりと続けて。
「しかし、この辺りはあまり変わり映えしませんね。私が収監される頃と何も変わりません。」
「ほう、そうなのか」
ワタシはパスタをフォークで巻きつかせて、口元へと運び、フォークからパスタを絡め取る。
そのままフォークはテーブルの上に。何度もパスタを噛み締めて飲み込んだ。うん、これも美味しい。
対するワカモさんはどこか意外そうだった。
きっと、収監された、といった部分にワタシが無反応だったことに意外に思ったのだろう。
「……私の事を知っているのですか?」
「知らぬ」
きっぱりと、事実だけを告げて。
だが、とワタシは真実を口にする。
「――――貴様からは、血と硝煙の匂いがする。久しく嗅いでいなかった戦場の匂い、闘争の気配だ」
特に感情もなく、不快感もなく、あるがまま、ずっと感じていた感想をワタシは口にした。
すでに運ばれていた料理はなく、ワタシが全て平らげている。あとは目の前の正体不明な人物のみ。
「問おう。貴様、何者か?」
「……嫌ですね、血の匂いだなんて。ちゃんとお風呂入りましたよ私」
「シラを切るのならばそれでも良い。大根のような役者魂、見事である」
ワタシはこの人と会ったばかりの頃のように。
睨め付けるように、注意深く、ワタシは彼女を観察しながら。
「――――余を見たときの眼光。まるで獲物を狩る、狩人のような眼。アレはどう言い訳をするつもりだ?」
「………………」
静かに、ただ静かに。
彼女は、コーヒーカップを手に取り、優雅に口元まで持っていく。そのままテーブルの上に置いて、瞳を閉じる。
そして開き告げる。
「――――お見事でございます」
先程の柔和な笑みはなく、口元には嬉々とした笑み。
口角を上げて、楽しそうな引き裂くような笑みを浮かべていた。
「予定が狂いました。此度は様子を見るつもりでしたのに。貴女は私達の思っている以上のお人のようです」
私達。つまりこの人だけじゃない。
依然、この人が何者かわからないけど、単独行動じゃないことはわかった。
とはいえ、こういう状況は初めてじゃない。
小さい頃から、何度も挑まれて襲われて、そして返り討ちにしてきた。
驚きはしない。
そのままワタシは情報を得ようと口を開くも。
「どうぞ、こちらを」
彼女は懐から取り出した端末を、テーブルの上を滑らせるようにして、ワタシの方へと放った。
眼を向ける。
そこには傷だらけで倒れている生徒達の姿。
見慣れた制服。何度も見た制服。数日前に見たことがある制服。
それは――――。
「――――数日前、アリウスの生徒を襲撃致しました」
反応を窺うように、それでもどこか楽しそうに彼女は言う。
――――だからサオリ達と連絡が取れないのか。
――――何で襲ったのか。
――――そもそも、彼女の目的は何か。
――――どしてそれをワタシに言うのか。
様々な疑問が頭を過ぎる。
しかしその前に、ワタシは行動に移していた。
端末の画像を見たと同時に、ワタシは右手に愛銃の白色のデザートイーグル――――“リク”を抜いて彼女目掛けて引き金を引いていた。
店内に鳴り響く銃声。
落ちる薬莢。
遅れて店内に響く悲鳴と雑音。
しかし、そこに足りない音が一つ。
「ほう」
それは人が倒れる音。
彼女を狙った銃弾は障害物に当たる事無く直進をし、喫茶店の壁へと撃ち込まれる。
正直、驚いた。
まさか避けられるとは思わなかった。
「……驚きました」
通路側へと視線を向ける。
彼女がいた。恐らくテーブルの下へ滑り落ち、そのまま通路側へと転がるようにして逃れたのだろう。
嬉々とした笑みはない。
油断なく、躊躇もなく、ワタシに眼を向けている。
「貴女が私なら同じ事をしました。大切な方を傷つけられたのですから、問答など不要でございましょう」
「何が言いたい?」
「何と申し上げましょうか」
クスクスと笑みを浮かべて。
「貴女も――――
彼女は笑みを深める。
愉しそうに嬉しそうに、仲間を見つけたように、同類を見つけたように。
その言葉にどれほどの意味があるのかわからない。
でもワタシは首を横に振る。それは違うと、否定して。
「同じなものか。貴様のそれは怒り故だろう」
「貴女は違うと」
「憤怒や憎悪など闘争において不要。不純物に過ぎぬ。それでは純粋に愉しめぬであろうよ」
だから年増との戦いはツマラナイものだった。惜しかった。アレはとても惜しかった。
その点、子供の頃、ワタシの転落人生の原因となった――――あの娘と戦ったアレは、とても愉しいものだったことは覚えている。また味わいたいと、何度も何度も思った。
ネルちゃんとなら味わえるかもしれないと思ったけど、どういうわけか邪魔ばかり入る。いい加減、欲求不満にもなるというものだ。
そして今回。
良い所に、本当に良い所に来てくれた。
この人は愉しい。きっと愉しい。
目的もわからない。
正体もわからない。
アリウスの生徒に手を出したのは赦されない。
諸々の理由なんて、叩き潰したあとに聞けば良い。
そうだとも。
目的を聞くよりも、それ以上に、ワタシはこの人と――――。
「さぁ、戦おう。貴女にその意志があるのなら――――」
Q どうして小心者の癖に、毎回やりすぎて冷や汗流して焦ってるの?
A 頭キヴォトスだからじゃよ。
戦いになるとテンションが上がって、終わった頃にはやっば、となっています。
加減を知らぬ歳か。身体は闘争を求める系女子。
解りづらいですが複線はありました(挑まれたら応じる、戦いは避けない、内乱を治めるのに武力を用いる、ヒナ委員長を見て可愛いって感想が先に来る、ヒナ委員長の突然の訪問にワクワクしている などなど)