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ことのはじまり
――――これは誰の記憶なのか。
まず貴女は疑問に思うことだろう――――。
その疑問も当然と言える。
何せ、この記憶は貴女のものではなく、見覚えがない光景である筈だ。
ならば誰の記憶なのか、ということになる。
しかし、それを答えられる人間はいない。いいや、
何故なら、この記憶の主たる『彼女』は、その神秘と共に、過去の記憶の大部分を捨て去っている。
不要と判断した零れ落とした記憶と記録。自ら捨てた天上に至る資格と共に、二度と『彼女』は万能を手にする事はない。
いいや、もしかしたら。
自身に施した三度の枷。それを解せばあるいは、再び届くかもしれない。
――――謝罪する。これは貴女には関係のない話であった。
視点を戻そう。
貴女は二人の人物が対面していることを認識する。
一つの部屋。机と椅子。それからソファーがある。そんな質素で簡素な部屋。窓から日差しが差し込むのを見て、貴女はこの部屋は地下ではなく地上にあり、時刻も夜ではなく昼なのだと認識する。
一人はスーツを着た者。
人として形容していいのかわからない人型のナニか。
それは何よりも黒く、墨よりも黒く、闇よりも黒い。極めて異質な者だった。
対するは黄金。
頭髪も光り輝いた金のそれ。ヘイローなる天輪も金色。
眼を見張る黄金。だが貴女が何よりも注目したのはその眼だった。金輪のような、黄金なる双眸。まるで太陽を髣髴とさせる、しかし果てしなく虚無であったそれには、何も映しはしない。
黒は言う。
『これは取引です。貴女の身は私が保証しましょう。その代わり――――』
『――――アナタに協力しろ、というのでしょう』
黄金が遮る。
『彼女』は説明を不要と判断したのだろう。
『ワタシは構いません。元より、ワタシに選択肢などない。この世界において、異物であるワタシは存在を証明しない限り、消える運命なのですから』
『……クックックッ、そこまで理解されているとは思いませんでした。やはり貴女の神秘は、私が知るモノとは違うようだ』
『神秘――――なるほど、理解しました。この世界に存在する力ですか』
黄金は黒を一瞥して。
『アナタのソレは、神秘とは違う。それはafx外sagaのtxa。……いいえ、違いますね。この世界でその力を言語化するのなら――――』
黄金は一拍置いて。
『そう、『契約』。なるほど、この世界には様々な概念があるのですね』
『……』
契約。
それが黒のもう一つの武器である事を、黄金は容易く看破してみせた。
『身構えないで下さい。アナタは承知していた筈です。ワタシの力は
『……失礼、そうでした。素晴らしい、本当に素晴らしい』
黒は本当に楽しそうに笑っているように見えた。
貴女にはそれが、新しい玩具を与えられた子供のように見える。
『では、確認します。私が貴女に衣食住を提供する代わりに――――』
『――――アナタの研究に、ワタシが協力する。えぇ、異論はありません。ここに、『契約』は成りました』
ただの口約束に、貴女は感じる。
それが、二人の間にどれほどの効力があるのか、貴女には理解が出来ないだろう。
これが始まりだった。
この世界に、斯様な不要なモノを、認めた瞬間だった。
許してはならない。
それは不純物である、ノイズである、雑音である、不要物である。
主役は既に存在する。
配役に空きはない。
端役もとうの昔に埋まっている。
『彼女』の座す椅子などどこにもありはしない。
この世界において、『彼女』の居場所などない。
この物語において、『彼女』を語ることなど許されない。
この箱舟の中では、『彼女』の存在を認めてはならない。
我々は、必ず、アレを打倒する。
あの黄金を、必ず抹消する。
『契約』で存在を証明しようとも、必ず滅ぼしてくれる。
貴女にはまだ理解出来ないだろう。しかし理解せずとも良い。
我々の言葉は意味を為さない。我々は思念体。本体から漏れ出た、感情の残滓に過ぎない。思念だけが集まっただけの、消える存在でしかない。
しかし、どうか。
予言の貴女よ、どうか聞いて欲しい。
これは我々の一方的な宣戦布告。返す言葉を必要としない、我々の一方的な嫌悪である。
我々は宣言する。
必ず我々は、我々の本体は、必ずや『彼女』を――――。
『では、『天上のアヌ』よ。これからよろしくお願いします。出来る事なら末永く、お付き合いしていただきますよう』
『えぇ、黒いアナタ。ワタシがワタシである限り、アナタの探求にお付き合いしましょう』
――――彼の者を、『天上のアヌ』を抹消してみせよう。