~ソロモンちゃんねる~
リオ「先日、5人を助けるために1人を犠牲にするのは許されるか? という俗に言うトロッコ問題をオウヒとネルに聞いてみたのだけど、二人ともトロッコに轢かれたことあるけれど軽傷ですんだみたいなので、『トロッコに轢かれて死ぬヤツは雑魚』という結論に至ったわ」
ユウカ「(そうじゃなくない? って顔)」
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やる気が湧いてきます!
『先生』が連邦捜査部シャーレの担当顧問になってから数日が経った。
予想していた通りというべきか、SNSでは今もその話題で持ちきりであり、肝心の先生の情報も錯綜していた。
やれ、2メートル以上もある身長で筋骨隆々のマッチョマンやら、その筋の者のような風貌の強面な人やら、小さな男の子であるやら、実は男装をした女の人やら、それはもう色々である。
姿形はどうでも良かった。
ワタシが注目するのはそんなものじゃない、先生の手腕にある。
連邦生徒会からも遠く、眼の届かない場所でもあるためか、外郭地区はお世辞にも治安がいいとは言えない地区だ。
昼夜問わずに、銃弾が飛び交う地区。自衛手段がないと、追いはぎに遭う。そんな場所に構えているシャーレも、被害に遭うのは明白だった。
だが最近のシャーレ近辺の外郭地区の治安は回復しつつある。
たかりやゆすりが横行していた大通りは活気を取り戻し人の往来が増え、頻繁に聞こえていた銃声はあまり聞こえなくなり、壁に刻まれた弾痕も真新しいモノはない。
その背景には、先生の尽力があった。
先生一人による力ではない。各学園に『募集』をかけて、集まった数人の生徒達と協力し合い、不穏分子だった不良生徒を軒並み一掃した結果、治安も良くなったらしい。
聞けば、先生は戦わずに、徹底して指揮のみに専念していたようだ。
大した統率力だと思う。
各学園からということは、先生の元に集った生徒の中には初対面の生徒もいた筈だ。それにあのゲヘナ生とトリニティ生の混合チームであった事もあっただろう。
呉越同舟とはよく言ったものであるが、所詮は烏合の衆。チームワークなんて期待出来ないし、内部で争う危険性すらあった。
それを先生は何の問題もなく運用し、十分以上の戦果を挙げている。
その証拠が、シャーレ近辺外郭地区の治安の向上だ。先生の実力は、最早疑いようがないだろう。
驚くべき事だ。
ワカモを一人で退けた力を持ちながら、その片鱗すら見せずに、指揮のみでこのキヴォトスで頭角を現すなんて。
リオ会長ではないけど、得体の知れない人物といえる。
興味がある。
いいや、興味しかない。
というか、『募集』しているなんて聞いてない。
ワタシも行けばよかった、なんて思ってしまうのも仕方ないことだ。
でもダメだよねー。そうだよねー。
リオ会長からも言われているもんねー。
となれば、ですよ。
ワタシに出来る事は自暴自棄になること。つまりは自棄食いしかないのです。
柴関ラーメンを堪能して、鬱憤を晴らすしかないのですよ。
「あいよ、柴関ラーメンデカ盛りお待ち」
「うむ」
そうして、シヴァさんはまた新しいラーメンをワタシの前に運んできてくれた。
かれこれ、これで12杯目。まだまだ食べられる。本当に太らない体質で良かったよ本当に。
「今日は良く食うねぇ?」
「自棄食いである、余も色々とあるのだ。なに、お残しはせぬ。全て美味しく食べるとも」
「心配なんてしてねぇさ。お嬢が残すところなんて、見たことねぇしな」
居丈高にシヴァさんは笑う。
えぇ、残すなんてとんでもないのです。こんなに美味しいラーメンを残すなんて、それこそ人としての冒涜だと思う。
そこでふと、思い出したワタシは、箸でラーメンをつかみフーフーと冷まして、麺を啜りながら。
「そういえば、シヴァさん。最近どうなのだ?」
「どういう意味だい?」
「この辺りの治安だ」
最近、ワタシが来たときには、ゲヘナ生とカイザーコーポレーションの関係者が争いを始めていたものだから、この辺りの治安も良くないものと心配だったんだ。
あの時は、偶々ワタシがいたから良かったけど、普段からあんないざこざがあって、その都度シヴァさんが巻き込まれたなんて、あまりにも可哀想だし、赦されない事だ。
でもそうではないようで。
シヴァさんはワタシの心配を跳ね飛ばすように、明るい口調で答えた。
「問題ねぇさ。いいや、問題がなくなったと言うべきか?」
「どういうことか?」
「この辺りも、治安が良いとは言えなかったけどよ、お嬢のおかげでましになったよ」
ワタシの?
え、なんだろう。全く身に覚えがない。この辺りを巡回した事もないし、問題を起こしたのだって、あの時一回きりしかない。
思わず首を傾げてしまった。
シヴァさんはそんなワタシを見て、ハハッ、と笑い声を豪快に上げて。
「お嬢が暴れて以来な、この辺りは『アリウスの王』の縄張りってことになっているみたいなんだよ。そのおかげもあってか、やんちゃする生徒さんもめっきり減ったのさ」
「えー……」
何か凄い事になっていた。
本当に? ワタシまだ一回しか暴れてないのに? 縄張りっていつからそんなことに?
何よりも、アビドスの人達が黙ってないんじゃないかこれは。もしかして、ワタシってラーメンを食べている場合じゃない?
でもシヴァさんは、前にアビドス自治区はカイザーの連中が取り仕切っている、とか言ってたし、何も言われない可能性がある?
そんなことを考えながら、難しい顔で麺を啜っていたワタシを見かねて、シヴァさんは苦笑い混じりに言う。
「お嬢が心配しているようにはならねぇと思うぞ。アビドスさんの生徒さん達は今それどころじゃねぇみたいだしな」
「……本当に?」
「あぁ、最近入ったバイトの子がアビドスさんの生徒さんでな。詳しい事は俺の口からは言えねぇが、何だか苦労しているみたいだ」
そうなのか。
他の学園も色々と事情を抱えているみたいだ。
もしかしたら、ミレニアムが一番平和なのかもしれない。ゲヘナはゲヘナで全員が自由すぎて空崎さんが毎日大変みたいだし、トリニティはトリニティで派閥争いが絶えない。
いいや、一番平和なのはアリウスか。
みんなで働いて、みんなで復興頑張って、偶にレッドウィンター連邦学園の工務部のみんなに外注して、汗を一緒に流しながら工事を頑張る。
うん、平和だ。そして、健全だ。それもこれも、アッちゃんが皆を纏めて生徒会長の仕事を全うしているからに違いない。本当に凄い事だ。
「…………」
「…………」
暫しの沈黙。
ワタシとシヴァさんの間に、どういうわけか気まずい空気が流れる。
ズルズル、と。
ワタシの麺を啜る音しか聞こえない柴関ラーメン。
沈黙を破ったのは。
「……なぁ、お嬢」
シヴァさんだった。
視線をワタシの隣に向けて。
「そろそろ、紹介してほしいんだが……」
現実を見ないと、ダメみたいだ。
隣に視線を向ける。
そこには、ニッコリと笑っている黒髪美人――――狐坂ワカモが座っていた。
この人、ワタシがラーメンを食べてるときに、いきなり現れて横に座ってきたんだ。
最初はビックリした。何でここに来たのか、疑問に思った。けどそれは、ワカモの口から早々に答えを聞くことになる。
なんでも、ワタシが頻繁に訪れている店を片端から聴いて回ったところ、柴関ラーメンの名前を出されたようだ。
ということは、だ。
この人、ワタシに用があるみたい。
何をしに来たのかわからない。闘争の気配もないし、何だか面倒なことになりそうなので、ずっと無視してきたけどそろそろ限界みたい。
向き合わないと、現実と。
渋々、と言った調子でワタシはシヴァさんにワカモを紹介する。
「こちら、余のお友達――――でいいのか?」
「えぇ、構いませんとも」
「お友達のワカモである。本名はわけあって言えぬ」
「はい、ワカモです。大将さん、どうかお見知りおきを」
ワカモは満面の笑みを、シヴァさんに向ける。
なんて面の皮が厚い。とても矯正局を脱獄した、停学中の生徒とは思えない振る舞いだ。
シヴァさんも目の前の生徒が、『災厄の狐』だとは思ってもないことだろう。
狐の面をしてないこともあって、巷で七囚人と騒がせている狐坂ワカモだとバレていないようである。
何が目的でワタシに合いに来たのか解らないけど、ここで問題行動をおこしたものなら、容赦なく叩き潰す事を誓い、ワタシは事の成り行きを見守る事にする。
それはそれとして、ラーメンが美味しい。
「おう、よろしくな! ワカモちゃんはお嬢と友達になって長いのかい?」
「いいえ、最近お知り合いになったばかりです。ですが、話してみたら馬が合ったと申しましょうか。今では私の唯一無二のお友達です」
「そうかい。まぁ、何にしてもよろしく頼むよ。最初はこの通り、取っ付き辛いかもしれねぇが、根は良い子だからよ」
「えぇ、存じ上げていますとも。ねぇ、オウヒさん?」
ねー? とワカモはこちらに笑みを向ける。
シヴァさんと仲良くしているのも、大人しくしているのも良い事だ。だけどアレだ。
「……ワカモ、来たからには何か注文をせよ。それがマナーというものだ」
「それで貴様、此度は何の用か?」
あれからワタシ達はラーメンを注文した。
ワカモはオススメの柴関ラーメンを頼み、ワタシはおかわりを頼む。その際にワカモが信じられないモノを見るような眼でワタシを見ていたけど、心当たりがないので無視をする事にする。
「その前に一つ、よろしいですか?」
「問いを投げる事を赦す」
「……相変わらず、よく食べますね?」
なんだ、それで驚いていたのか。
というか、そんなの今更だと思う。ワタシがいっぱい食べるのを見ているのは、これが初めてというわけでもないでしょうに。
「ここのラーメンは美味しいからな。あと自棄食いでもある」
「何かありました?」
「察せよ。余にも色々とあるのだ」
「はぁ、そうですか。それにしても、限度というものがあるでしょうに。太っても知りませんよ?」
「余は太らない体質。大丈夫である」
「……左様ですか」
呆れられているのは気のせいじゃない。
ワタシだって言い分はある。美味しいラーメンをいっぱい食べて何が悪いというのか。
でもそれよりも、反論するよりも、ワタシもワカモに言いたい事があったのを思い出した。
「それにしても、驚いたぞ」
「何がです?」
「聞けば貴様、シャーレに襲撃したものの、無傷で鎮圧されたそうではないか。貴様を返り討ちにしたのは先生だと聞く。どのような傑物であったのか?」
「――――――――――――――」
そこでワカモの雰囲気が変わった。
剣呑な雰囲気――――ではない。そんな物騒な雰囲気では決してない。どこか浮ついた乙女のような、居ても立ってもいられないと言わんばかりに。色で言う所のピンク色。そんな色の波動を全身から噴出し、それを身に纏う。そんな訳のワカラナイ雰囲気をワカモは纏っている。
ワカモはパーッ、と。
蕾から一斉に花咲かせるかの如く表情を明るくして、身を乗り出しながら顔面を近付かせる。
というか、近い。本当に近い!
「――――聞きますか? 聞きたいですか? いいえ、聞きますよね? えぇ、聞かせてやりますとも! その為に貴女に会いに来たのですから!」
「えっ、なに!? 近い。本当に近い! なに貴様、離れてっ。もそっと!」
「貴女に聞かせてあげようと思いまして。先生と私の出会いを!」
「えー、いらない。それよりも先生の実力が知りたい……」
「まぁまぁ、先ずは私の話を聞いてくださいまし。つまりは――――恋バナです」
恋バナ。
それがワカモがワタシに会いに来た理由なのだろう。
彼女はもう誰かに話したくて話したくて仕方ないみたい。ワカモの様子は、もう恋する乙女のソレ。ワタシなんかが解るくらい、この娘ったら先生に夢中だ。
だって、幸せそうに笑っているんだもの。
えへえへ、と。頬を紅潮させて、だらしなく笑っている。
恋バナかー。
しかし、恋バナかー。
ワタシとしては、先生の底が知れない力が知りたいのだけど。
恋バナとは――――。
「――――詳しく」
とはいえ、恋バナをするのもありです。
えぇ、好きですともそういう話。ワタシも乙女ですし? 他人の色恋沙汰には凄い興味があるのです。むしろ恋バナが嫌いな女子なんて、この世界に居ないと思うのです。
意外と乗り気なワタシを見て、ワカモはにやり、と不敵な笑みを浮かべて。
「フフッ、貴女のそういうところ、嫌いじゃないですよ?」
「五月蝿い。それで、先生とはどこまで?」
「どこまでとは無粋な。あの方は私の運命の方。それはもう――――どこまでも、ですわ」
「どこまでも? えっ、うっそ! 手が早くない!?」
どこまでも、とはそういうところだろう。
最近、お友達になった人が、いつの間にか大人の階段を駆け上がっていたなんて――――。
というか、先生も手が早いな!? そういう人だったの? 男は狼である、と昔アーちゃんが言ってたけど、本当のことだったのか。
と、一人で衝撃を受けているワタシを置いてきぼりにしているお友達は続けて。
「先生を見た瞬間、全身の細胞が躍動し、そして感じたのです。この方が私の運命。そう! デスティニーであると! 私、その日、運命と出会いました!」
「……感じちゃったかー、運命」
うんうん、と頷く。
先生がどんな男なのかわからないけど、取り敢えずは祝福すべきだろう。
聞くのも恥ずかしい。
けど、どんな感じだったのか聞いておきたい。後学のためにも。
「そ、それで、どうだったのだ?」
「どうとは?」
「先生とそれから、何をどうしたのだ?」
ワカモはニッコリと笑みを浮かべて。
「――――なにも」
「は?」
「貴女も仰っていたでしょう。私が無傷で鎮圧されたと」
「うん。だからそのあと、先生に組み伏せられたとか、そういうことじゃ……」
「組み伏せって、どピンク過ぎませんか貴女の脳内」
「えー! そう思うじゃん! どこまでも、って言ったじゃん。ちゅーとかしたと思うじゃん貴様ー!」
「そういう意味ではございません」
きっぱりと、ワカモは否定をして、呆れた口調で続けて言う。
「逃げたのですよ私」
「戦わなかったのか?」
「当たり前でしょうに。どうして惚れた方と戦わないとならないのですか」
なるほど。
先生と会ってワカモが一目ぼれをして、戦わないでワカモが逃げた結果、無傷で鎮圧された、と世間では広まったのか。
それは残念であるような、肩透かしをくらった感覚だ。
てっきり、先生が強い存在だと思っていたけど、これでわからなくなった。余計に先生と言う存在が、わからなくなってしまった。
会いに行けば、わかるのだが、それも出来ない現状では何とももどかしい。
「一つ、貴女にお伝えしたい事がございます」
「何だ?」
「その前に、私達はお友達でございますね?」
「そうであるな」
「それは良かった」
ワカモが何が言いたいのかいまいちわからない。
そんなワタシに真剣な表情で。
「――――私、寝取られは趣味ではございませんので」
「…………」
何を言うかと思えば。
そういうのはね、寝てから言うものですよワカモさんや。
とはいえ、ワカモは真剣だった。
それだけ、先生に本気だと言う事だろう。まだワタシには恋とかそういうのわからないけど、ワカモは今がとても楽しいということがわかる。
これも、青春の物語の一つに違いない。羨ましいと言えば羨ましいかも。
「安心しろ。余はお友達の恋路の邪魔をするほど、無粋な女ではない。馬に蹴られて死にたくないからな」
「……貴女のような者が、一番脅威なのですがね」
「脅威って、何故だ?」
「何故って……」
ワカモは上から下まで。
視線をワタシに向けて、ブツブツと小さく小声で。
「……スタイルも良く、容姿も良い。自覚させて武器にされるのも厄介。何よりも私が言うのも癪ですし、このまま泳がせておきましょうか」
「なんて?」
「失礼。こちらの話です」
何を言ったのだろう。
咳払いをして、ワカモは警戒するようにワタシを見る。
恋は戦争であり、いつだってハリケーンなのである。きっと、ワタシが先生のことを好きにならないか心配なのだろう。
ワタシだって好みはある。
例えば、自分よりも強い人に毅然とした態度で立ち向かう人――――アーちゃんのような人が好きだし。
例えば、バカにしない程度でからかい、笑った顔が可愛い人――――ムーちゃんのような人が好きだ。
誰でも良いというわけではない。
ワタシにだって好みくらいある。
それに何よりも。
「ワカモよ、安心すると良い。貴様が危惧していることにはならぬ」
「と、いいますと?」
「暫く、余はシャーレの先生に近付く事はない」
「何故ですか?」
「生徒会長からの厳命である」
そう、リオ会長からお願いされているので、ワタシから先生に近付く事はない。
怒られたくないし。余、怒られたくないもん。
「ミレニアムの。確か『ビッグシスター』でしたか」
「びっぐ……? なんだ、それは?」
リオ会長は確かに大きいけど色々と。ナニがとは言わないけど立派なモノを持っているけど。
あからさまに大きい大きいと言われると、こう可哀想じゃないだろうか。セクハラ的な意味で。
ワカモはため息を吐いて。
「知らないのならいいです。ミレニアムのトップからの厳命ですか。貴女が従うとは、余程の傑物のようですね」
「ククッ、ヤツの命では是非もなし。黙って余も従うさ」
とはいっても、ミレニアム生のワタシが会長の言う事を聞くことはなにも不思議ではないと思うのだけど。というか普通だと思う。
なんで、そこまでリオ会長は感心されているのだろう。いいや、嬉しいけどね。会長、常に頑張ってるし。それが認められたようで、何だかワタシも嬉しいけどね。
「もし万が一、先生に会ったときはどうするのです?」
「その辺りもぬかりはない。リオは策を講じている」
そういうと、例のアレを取り出して、ドンとカウンターに置いた。
例のアレ。クソダサい――――奇天烈なフルフェイスアーマーたるアレ。その名は――――。
「紹介しよう。これなるは、コンサバティブちゃんだ」
「……………………………………………………………なんです?」
「コンサバティブちゃんである」
「いいえ、名前ではなく。何ですか……この、あれの、それは、なんです?」
理解が追いつかないのか、ワカモの語彙が死んでいる。
無理もない。こんな奇天烈なデザイン。見たことがないに違いない。もしかしたら、ワタシもワカモみたいな反応だったかもしれない。
「フルフェイスアーマーだ。先生と接触する時はこれを被れと、リオから言われている」
「……………………………………………………………なるほど」
ワカモは無理矢理、飲み込んだかのようにして。
「貴女は抵抗がないのですか? その、これを被る事に……」
「余も最初は厭だったが、装着してみると案外良くてな」
そう、意外と快適なのだ。
蒸れないし、好きな音楽は聴けるし、いちいち端末を見なくても動画サイトとかSNSが出来るし。
何よりも暇なときはトキちゃんのようなコンサバティブちゃんが話し相手になってくれる。ただまぁ、思考ルーチンが未完成なのかコンサバティブちゃんは偶にバグる。それも愛嬌みたいなものに感じている今日この頃なのです。
そんなワタシとコンサバティブちゃんの絆ストーリーを知らないワカモは訝しげに言う。
「しかし、奇抜なデザインですね」
「そこは慣れであるな。余も最初は――――」
「見た目は兎も角、色ですよ色。ピンクって……」
「え?」
見た目は兎も角? えっ、色がダメ? 嘘でしょ、ダメだしそっち?
「これにピンクはないでしょうに。センス、ヤバイですね。……どうしました?」
「いいや、なんでも?」
うっ、とワタシは何とか泣くのを堪える。
よかった。あの時、ワタシがクソダサいなんていわなくて。こんな思いをするのが、リオ会長じゃなくてワタシでよかった。偉いぞ、ワタシ。よくクソダサいなんて言わなかったね。こんな思いをするのは、ワタシだけで十分だよ本当に。
「ちょっと」
「うん、なんだ……?」
「携帯、鳴ってますけど」
あ、本当だ。
気付かなかった。ポケットから取り出し見てみると、アッちゃんからだった。
ワタシは通話ボタンを押して耳に当てて。
「はい、もしもし」
『殿下、今って大丈夫?』
「どうした?」
携帯越しだからかわからないけど、アッちゃんの様子がどこかおかしい。
何だか歯切れの悪く、言葉を選びながら話をする。そんな感じだった。
『その、相談したい事があって』
「赦す。述べてみるが良い」
『うん、あのね。今朝、トリニティの生徒が来てね』
「ほう?」
正直言うと、興味がそそられる内容だった。
アレだけ知らぬ存ぜぬで、アリウスのことを無視していたトリニティが、自分から接触してくるとは思わなかったから。
カフェばにたすの出店もあるし、いよいよ無視できなくなったからだろうか。
「連中は何と? よもや宣戦布告しに来たか?」
『違うの。それが、両校の親睦を深めようって提案しに来たみたいなの』
「……」
それは予想外の提案だ。
あのプライドの塊で、派閥争いが絶えないトリニティがそんな提案をしてくるなんて思わなかった。
一枚岩ではないトリニティがそんなことを言ってきたということは、トリニティの方針がアリウスを認めるべきと決まったと言う事。
正直いうと、困惑している。
アッちゃんも同じ気持ちなのか、歯切れ悪く続けて。
『それで、お互いの生徒を交換し合おうってことになって』
「……交換留学というヤツか。珍しい事でもあるまい。アリウスから誰を出したものか、という相談か?」
『ううん、そうじゃないの』
「ではなんだ?」
『トリニティ側からくる生徒さんの事で、相談があって』
なんだろう。
そんなに凶暴な人なのかな?
でもトリニティでそんな人いたかな?
そんなことを考えているワタシを余所に、アッちゃんは話を続ける。
『その人ね、ばにたすのトリニティ支店を出店する際も、凄い協力してくれた人なの』
「トリニティでは珍しい、人格者ではないか。それで? そやつの何が問題だと?」
『それが、かなり立場が上の人で、交換留学で来る生徒には適してないと思うのだけど、殿下に言えばわかるって言うの』
「余に?」
はて、誰だろう。
本当に知らない。というか、トリニティに知り合いなんて居ないけどワタシ。
ひたすら混乱する。
追い討ちをかけるように、アッちゃんはその人物の名前を口にする。
『――――聖園ミカっていう人なんだけど、殿下知ってる?』
「ククッ、聖園、ミカか……」
どうしよう。
全然ッ、知らない人だ。
あとこれさ、ワタシの態度次第で、大事にならない?
聖園ミカって人が誰なのか知らないけど、上の立場っていうならさ、場合によってはアリウスとトリニティの全面戦争にならないこれ?
――――もしかして、ヤバイ?
オウヒ「貴様、夜道には気をつけることだ」
ワカモ「どうしてですか?」
オウヒ「アリウスは貴様を赦してない。報復する気満々である」
ワカモ「守って下さらないので?」
オウヒ「たわけ。言ったであろうが、自分の撒いた種であると。自身で刈り取るが良い。まぁ、簡単ではないがな」
ワカモ「……えぇ、そうすることにしましょう」
Q.交換留学って、トリニティの総意なの?
A.ん な わ け な い 。なのでナギサ様の胃は死ぬ(無慈悲)