~ソロモンちゃんねる~
オウヒ「昨日、サオリが真顔で言っていた『生足魅惑のマーメイドということは、上半身は魚なのでしょうか?』って言葉が頭から離れなくて生活に支障が出てる。どうしてくれる」
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あれからアリウスの生徒会執務室で、交換留学の件で話し合っていたけど、行き詰まったワタシ達は一端保留にすることにした。
理由としては、トリニティの真意がいまいち見えてこないから。
聖園さんの言葉通り、アリウスの生徒達と仲良くしたいからという理由であれば大賛成。戦いは兎も角、戦争は本当に良くないしね。
その辺り、アッちゃんもワタシと同じ意見なのか、交換留学には賛成していた。
でもミサキはそうじゃないみたいで聖園さんの目的がそれだけじゃないと断言している。理由は女の勘らしい。
根も葉もない理由だけど、第六感は時として侮れないもの。
それに、あれから聖園さんからの連絡もないし、トリニティに動きもないので、ワタシ達も手のうちようがなく、交換留学の件は一度保留にせざるを得なかった。
ワタシはというと、ミレニアムでエンジニア部の皆にお願いしたい事があって、彼女達の元に訪れていた。
お願いというのは、ワカモと戦った時に紛失してしまったコートの作成依頼だ。
紛失とはいっても、預けた生徒がミレニアムの生徒であることはわかっているし、彼女を見つけて返して貰えばいいのだけど、何だかカッコ悪い気がするんだよね。
あの時、戦闘に貴女を巻き込んだ天上院です。コートを返して貰いに来ました。よろしくお願いします。
……うん、我ながら死ぬほどカッコ悪いし情けない。これじゃ、逆鶴の恩返しだ。
そうしてワタシは、来るかもしれないトリニティとの戦いに備えて装備を整えるためにコートを作成依頼している――――訳でもない。
ワタシがあのコートを愛用しているのは、単純にカッコいいからだ。
その辺りは、昔にアーちゃんと熱いディスカッションをしている。
ロングコートはカッコいいとか、とか。
ファーのついているコートは最高にカッコいい、とか。
袖を通さずに肩で羽織るスタイルはクールすぎる、とか。
スナイパーライフルを片手撃ちは超絶イケてる、とか。
社長とか言う響きがまずイカしてるし、カッコよさの権化である、とか。
秘書を常に従えている社長はデキるってイメージがあるよね、とか。
今思い出しても愉しい。
というか、嬉々として書いていたノート、別名『ワタシ達が考えたアウトローでクールなカッコいいカタログ辞典』に書き記していたアーちゃんの表情が活き活きしていて、見てて嬉しかった。ワタシでは半分くらいしかアーちゃんの言うアウトローの良さがわからなかったけど、アーちゃんが愉しそうでワタシまで嬉しい気持ちになれた。
ムーちゃんは盛り上がるワタシ達を見て、退屈そうにしていたっけ。
キャーキャー言っているワタシ達とは裏腹に、ムーちゃんは蚊帳の外なのが不満だったのか拗ねてしまい、最終的にワタシとアーちゃんでムーちゃんの機嫌を直そうと尽力していた。拗ねているムーちゃんも可愛かったのは内緒。
――――さて、現実逃避はここまでにしよう――――。
真っ直ぐに。
閉じた目を開けて、直視しなければならない。
今ワタシが直面している問題に、真正面から逃げずに向き合わないと。
「だから、オウヒはメイド服が似合うと言っているだろう!」
「先輩、それは発想が安直だと思う。ここは奇を衒ってビキニアーマースタイルとか……」
「いいえいいえ、王道で良いと思います! オウヒちゃんは王道のくの一みたいなお色気が良いと思います!」
ワーワーギャーギャー、と。
目の前にはどういうわけか、ワタシが一番似合う格好は何かで騒いでいるエンジニア部の三人。
ウタハさんはメイドを推して来るし、奇を衒いすぎているヒビキちゃんはビキニアーマーなるもはや服なのかどうかも怪しいもの。コトリちゃんはそれのどこが王道だというのかわからないくの一を主張。
どうしてこうなった。
ワタシはただ、コートの作成を依頼しに来ただけなのに。
どうしてこうも、話が脱線してしまったのだろう。
いいや、今更かもしれない。
ワタシがこの人たちに何かをお願いしに来るのは初めてじゃない。
例えば、ワタシの“リク”と“アサ”。普通の二挺拳銃の作成を頼んだはずなのに、お出しされたのは誰が使えるのかわからない化物銃。ワタシが人よりも少しだけ力が強かったから良かったものの、ワタシがもし使いこなせなかったらどうしていたのだろうか。
例えば、コートの作成。銃に続き、普通のコートを作るようお願いしたのに、お出しされたのはどうしてか防弾仕様なコート。でもこればかりは、役に立ったから何も言えない。シヴァさんも、巻き込んでしまったあの娘も守れたし、こればかりは良しとしよう。
考えてみたら、彼女達との付き合いも長い方かもしれない。
ワタシが銃のメンテナンスをお願いしに行く事もある。
まず、初めましてだったのが、彼女達の作った暴走した機械を鎮圧してから。それから割と良好な関係を築けている。
さて、どうやってこの状況を鎮めようか。
そもそも、ワタシ程度の力で、無敵のエンジニア部の暴走を止める事が出来るのか。
……いや、無理じゃない? 巻き込まれるのも面倒だし、このままお暇するのも一つの策じゃないか?
そんな事を考えていると。
「騒がしいと思ったら、オウヒが来てましたか」
極めて近代的な車椅子に乗り、ワタシに話しかけてきたのはミレニアム三年生――――明星ヒマリさんだ。
白を基調とした服装で、ひざ掛けをしていることから、寒がりなのだろうかと最初は思ったけれど、後々聞いたところ病弱だと聞いた。それも本人から。だから大事にして欲しいとも言われたのを覚えている。
勿論、邪険になんてしないよ。身体の弱い人を大事にする事は当たり前。ヒマリさんは優しいし、ワタシなんかのことを気にかけてくれるし、こんな頼れる先輩を大事にしないのは、人としてどうかと。リオ会長に辛辣なのはどうにかならないのかな、とは思うときはあるけれど。
「ヒマリか。調子はどうか?」
「あら、心配してくれているのですか?」
「迷惑か?」
「いいえ、そんなわけないでしょう」
クスクス、と優雅に笑みを浮かべて、ヒマリさんは居丈高に胸を張って。
「清楚で可憐な病弱美少女であり、ミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカーは今日も元気いっぱいですよ」
「――――あぁ、そのようだな」
うん、良かった。元気いっぱいだ。ていうか美少女を二回も言った。
しかも否定できないのが質が悪いと思う。確かにこの人、可愛いし。おまけにユーモア溢れて、更に言うと頭も良い。なんだ無敵か?
「美少女であり、『全知』の称号も有しているなんて。どうして天は二物を――――いいえ、それ以上を私に与えたのでしょうか?」
「機嫌が良かったからではないか?」
上機嫌に笑みを零すヒマリさんは辺りを見渡して、
「ところで、下水女の姿が見えませんね。今日は一緒じゃないんですか?」
「……口が悪いぞヒマリ」
ヒマリさんは後輩に優しい。
でもどういうわけか、彼女が下水女とよぶ人物――――リオ会長にはもの凄い厳しい。
会ったら喧嘩――――とまではいかないものの、ヒマリさんが会長につっかかり、会長がそれに対してド天然に返すものだから、傍からはある種のコントのようにも見えてくる。
ムキになっている、といった方が正しいのかもしれない。
兎に角、いつも優しいヒマリさんが、どういうわけかリオ会長にだけ態度が攻撃的。これが嫌よ嫌よも好きのうちというやつなのかもしれない。
でもワタシは言わないよ。
一度それを言ってしっかり怒られて恐かったし、もう怒られたくないから二度と言わないよ。何よりも恐かったし。
当時の状況を思い出して、内心ビビリ散らしているワタシを余所に、ヒマリさんは余裕な笑みを浮かべて。
「怒られちゃいました私?」
「そんなつもりはない。貴様がリオに対して辛辣なのは今に始まったことでもないし、余が口を挟む謂れなどないだろう」
「にしては面白くなさそうな口ぶりでしたね? リオが悪く言われるのは気に入りませんか?」
「別にそうではない。ただ――――」
確かに面白くない。
でもそれはリオ会長だけが原因じゃない。
ワタシは思わず拗ねた口調で、素直に自分の気持ちを口にしてしまった。
「貴様とリオには何度も世話になっている。だからその者同士がいがみ合っているのを見るのは厭だ。ただそれだけのことだ」
「――――――」
珍しいものを見た。
無言になったヒマリさんを見ると、無言で目を見開いて、ただただ驚いている彼女の姿がそこにあった。
そんな驚く事を言ったつもりはない。
ワタシは訝しげな表情と声色で。
「ヒマリ?」
「――――ハッ!」
ごほん、と咳払いをしてヒマリさんは頬を赤らめて。
「失礼、あまりにも可愛い事を言うものだから気絶していました。なるほど、これが後輩力。ギャップ萌えというやつですか。私にはない美少女パワー、やりますねオウヒ」
「……何の話だ?」
「こちらの話です。今のまま、ありのままの貴方でいてください。リオのようにならないように」
いまいち、ヒマリさんの言う事が理解出来ずに、思わず首を傾げる。
もしかしたら、これがIQが近くないと会話が成立しないというヤツなのかもしれない。ワタシがアホだから、ヒマリさんの言う事を理解できないでいるんだ。
そう考えると、何だか悲しくなってきた。どうやってIQって上がるんだろ。魚をいっぱい食べればいいのかな?
自分のアホさ加減を再認識し、涙を流しそうになっているワタシを余所に、ヒマリさんは改めて現状を口にした。
「どうしたんですか、あの3人は?」
「さてな。余がコートを新しく作成依頼しに来たときにはああなってた」
「……見る限り変なテンションですね。ちょっと待ってください」
そういうと、ヒマリさんは両手を上げて、空中で半透明なディスプレイを出して操作し始める。
まるで近未来SFのような光景。彼女が何をやっているのか、ワタシには皆目見当がつかない。指揮するように滑らかな手付きで、止まる事のない指先、それからわずか数分でとある資料を見つける。
「これの設計を、徹夜でしていたみたいですね」
「また奇天烈なモノを造ろうとしていたのか」
「他人事のようにいいますが、オウヒも関わってますよこれ」
なんだろう。
彼女達が造り、何故か暴走し始める機械なら、何度も叩き壊してきた。そういう意味ではワタシも関わっていたことになるのかな?
そんな事を考えていると、ヒマリさんは見つけてきた資料をワタシの前に展開してくれた。
それは――――銃の設計図。
こんなものを依頼した覚えはないし、でも何故かワタシの名前が入っている。
困惑するワタシとは対照的に、ヒマリさんはどこか興味深々な調子で設計図を読み上げていく。
「どうやらオウヒのリクとアサの戦闘データを元に作っているみたいですね?」
「その割に、形が二挺とも違うが?」
「そのようですね。名称は『改式(仮称)』銃の形状はトンプソン・コンテンダーをベースとしているもののようです。装弾数は……うわっ、一発って。正気の沙汰じゃないですよこれ」
「……エンジニア部らしいといえばらしい。やつら風に言うのであれば、浪漫というやつなのだろう」
「限度があるでしょう。……えーっと、全長45センチメートル、重量15キロ。もはや人類では扱えない代物なんですが?」
「まぁ、それくらいなら使えると思うが……」
えっ!? と信じられない物を見るような目で見られるが、直ぐに咳払いをしてヒマリさんは続けて。
「……あぁ、どうやら使用弾薬で揉めてたみたいです」
「というと?」
「.600ニトロ・エクスプレス、14.5×114㎜弾、この二択で行き詰まっているみたいですね」
あの、どっちも、拳銃の域を超える弾なんですけど。
ワタシが使ってた二挺はデザートイーグルなんですけど。なんですかその弾。ロマン銃に魔改造しすぎじゃないですか?
ハンドガンじゃないですよね、それはもうハンドキャノンですよね。不明なユニット接続してませんかそれ?
そんなものをワタシに使えと? 何をさせようとしてるんですかエンジニア部の皆さんは。
「随分と、エグいものを作ろうとしてますねあの娘達」
「ヤツらの暴走、何者かが止めねばならぬのではないか?」
「無理では? 技術者という連中は変なものを造りたがりますから」
それは一理ある。
リオ会長も変なもの作ったし。コンサバティブちゃんっていうんだ。もしかして、ミレニアムの技術者ってああいう人たちばかりなのかな?
そんな仮説をたてて、内心ビビッているワタシを余所に、ヒマリさんはそういえば、と口を開き。
「ついでに、連邦生徒会のスケジュールをハッキングしてみたのですが」
「……ついで?」
今の一瞬で?
それはついで、と言っていいのでしょうか? というか、軽く言うけど何をやっているのこの人?
戦々恐々と、声が震えるのを誤魔化すように、ワタシは低く意地の悪い笑みを浮かべて。
「ククッ、さすが我が校の『全知』の称号を冠する者よ。貴様に暴けないモノなどないな?」
「うふふ、褒めても何も出ませんよ?」
対するヒマリさんは悪戯を成功させた子供のように笑みを浮かべて。
「アナタも気になっていたようですし」
「連邦生徒会の動向か? 特に気にしたことはなかったが」
「そっちじゃないですよ。私が抜き取った情報は、連邦捜査部シャーレのものです」
「……ほう?」
思わずワタシは耳を傾けてしまう。
ヒマリさんの抜き取ったものはスケジュール。それもシャーレのもの。
それはつまり――――。
「シャーレの先生の動向、気になりますか?」
「勿体ぶるではないかヒマリよ」
ワタシの言葉に、ヒマリさんはクスクスと小さく笑った。
本当にリオ会長とは正反対だと思う。会長ならこのようにワタシをからかったり、ワタシの反応を見て楽しんだりしない。常に即断即決、それが会長の良さであり、ヒマリさんの良さなのだろう。頭の良い先輩達に振り回されるのも、後輩冥利に尽きるというやつなのだろう。
もちろん、悪い気はしない。
二人とも優しいし、良い人だしね。そんな先輩のためならワタシも、二人の自慢の後輩になってみたいというものですよ。やらかしの方が多いワタシが言うのもおこがましいかもしれないけど。
「兎に角、その話はあの子達の暴走を止めてからにしましょうか」
そういうと、ヒマリさんは車椅子を操作して、未だに熱いディスカッションを繰り広げているエンジニア部の三人に近付き。
「待ちなさい。オウヒはロリータファッションが一番似合うと思います」
あの、ヒマリさん。
新しい燃料を投下しないで貰って良いですか。
本当に止める気ありますか?
あの後、ヒマリさんはエンジニア部の皆の暴走に参戦した。
その際に、ワタシのミレニアム指定の制服をロリータ調にしたものに改造。そして変形ギミックを追加し、最終的にはバケットホイールエクスカベーターみたいなパワードアーマーに変形し、ワタシがそれに乗り込んで暴れ回る、という案に行き着いてしまった。
うん、言いたい事は山ほどある。
質量保存の法則はどこに行ったのか、そもそもロリータファッションは超可愛すぎないか、もしそれやるならピンク色が良いし、バケットホイールエクスカベーターみたいなパワードアーマーって、それはもうバケットホイールエクスカベーターなのでは?
それはもう山ほど言いたい事はあるけれど、保留にさせて頂いた。だってみたいから、バケットホイールエクスカベーターみたいなパワードアーマー。
でも悲しいかな、彼女達の言う言葉の半分以上理解出来なかった。やはり、頭の良い人達の言動や行動についていけないのは、ワタシの知能指数が彼女達よりも遥かに劣るからなのだろう。悲しみ。
それはそれとして。
「シャーレの先生は、アビドスに行っているのかぁ……」
ミレニアム自治区にある人影の無い公園にて、ワタシはベンチに座ってヒマリさんから貰った先生の情報を口にしていた。
シャーレ周辺の外郭地区の治安を回復させた手腕、そして主義主張の違う生徒達を纏め上げて運用する統率力と指揮力。ワタシにとっては先生の力はあまりにも未知数で想像が出来ない戦い方。先生に興味を持ってしまうのも仕方ない事だろう。
しかし、先生がアビドス高等学校に赴いているということであれば、話は変わってくる。
「会ってみたいけど、アビドスはなぁ、気不味いなぁ。何か言われるよねやっぱりー……」
シヴァさんの話では、柴関ラーメン一帯はワタシの縄張りということになっているらしい。
少し暴れただけなのに――――いいや、他校生が他校の自治区内で暴れる事自体が駄目だった。ということは、ワタシが全面的に悪いってことになる。
ともなれば、絶対に何か言われるに決まっている。悪いのはワタシだけど。
シヴァさんは気にしなくて良いと言ってくれたけど、そういうわけにもいかない。
この場合はどうすればいいのだろうか。
リオ会長に相談――――はダメです。凄い怒られます。大人しくしていろって言わなかったかしら? などといった無言の圧力に屈するワタシの姿が見えるので却下です。
とはいっても、ワタシがやることなんて決まっている。謝罪だ、一心不乱の謝罪祭りだ。菓子折りを持って謝罪に行くのはありだろうか。滅茶苦茶怒られることになると思うけど、頭を下げるしかない。頭って下げるためにあるものだしね。
方針は案外すんなりと決まった。
でも、一人で行くのは気が重い。
ワカモに、先生はアビドスにいるよ、って言えば一緒についてきてくれないかな?
まぁ、もうモモトークで教えてあげたけどさ。爆速で既読ついたけど、返事が返ってこない。どうやら友情は恋愛には無力になるみたい。知りたくなかった女の友情の脆さ。
「はぁ……」
思わないところで直面してしまった現実に、打ちのめされそうになる。
でも不思議と、そこまで心にくるほどのものではなかった。ワカモってそういう娘だし、ワタシか先生か、天秤にかけたものなら真っ先に先生を選びそうな熱量はあったし。
……自分で言っててアレだけど、お友達やれてるのが不思議なくらい淡白な関係だ。もしかしたら、これが大人の付き合い方というやつなのかもしれない。大人って恐いなー。
そんなことを考えていると。
「だーれだ?」
視界が両手で覆われ、愉しげな声がワタシの耳に入ってきた。
なんて心地良くて、可愛らしい声なのか。
そして思いがけない出会いに、ワタシは胸が高鳴り、高揚した気分のままその声の主の名を呼ぶ。
「ムーちゃん!」
「くふふー、正解♪」
ベンチから立ち上がり、ワタシは振り向いた。
そこには満面の笑みを浮かべている幼馴染の一人――――ムーちゃんの姿があった。
どうしてここに?
ワタシに会いに来てくれた?
なんて嬉しいサプライズ!
ワタシを喜ばせる天才なのでは!
そんな疑問や感想を口にする前に、ワタシはムーちゃんに抱きつこうとするも。
「待てだよ、ヒーちゃん!」
「――――ッ!」
びたっ、と。
動きを止める。まるで犬のように、躾が行き届いている犬のように、ワタシはひたすら待つ。
それから数秒後。
「よし!」
「ムーちゃん!!」
がばっ、とワタシはムーちゃんに抱きついた。
まるでお人形さんのように華奢で、少しでも力を加えたら壊れちゃいそうなので、ワタシは細心の注意を払いつつ、ギュっと抱しめる。
あぁ、ムーちゃんがいる。
これって現実、これは現実、確実に現実。
不足していた幼馴染成分を身体が摂取してくのを感じる。
「ヒーちゃんは甘えん坊だねー?」
「だって全然会えなくて、寂しくて。嫌だった……?」
恐る恐る、ワタシはムーちゃんの顔を見る。
ここで拒否されたものなら、ワタシは生きていけないかもしれない。それはもう泣くと思う。引くほど泣くし、嗚咽を漏らし咽び泣くと思う。
でも今回は、そんな情けない姿をお見せする事はないみたい。
ムーちゃんはニッコリと、天使のような笑みを浮かべて言ってくれた。
「ううん、そんなことないよ。可愛いよヒーちゃん」
「ワタシなんて可愛くないよっ。可愛いのはムーちゃんでしょう!」
「そういう自覚がないところが可愛いところなんだけどね。でも褒めてくれてありがとうねっ」
そういいながら、ムーちゃんはワタシの頭を撫でてくれる。
えへへ、とワタシの頬はだらしなく緩んでいく。だってしょうがない。撫でられて嬉しいのだから仕方ない。
と、そこで、視線を感じた。
それはムーちゃんの後ろから。どこか様子を見る視線にワタシは気付いた。
「―――――――――」
「……」
そして眼が合う。
ワタシはムーちゃんに抱きついたまま、その人はワタシを意外そうに見つめたまま。
暫しの沈黙。
耐え切れなかったのは――――ワタシだった。
無言で、速やかに、ワタシはムーちゃんを守るようにして立ちはだかり、警戒心を露にしながら。
「――――貴様、何者か」
「あっ、大丈夫だよヒーちゃん」
しかし直ぐに、ムーちゃんがワタシの後ろから声をかける。
「その子は、カヨコっちって言って私達の仲間なんだ」
「あっ、そうなの?」
なんだ、恥ずかしいことをした。
てっきり、ムーちゃんの可愛さに当てられたストーカーだと思った。凄い恥ずかしい。一瞬でも警戒したワタシがバカみたいだ。
直ぐにワタシはカヨコっちさんに頭を下げる。
「勘違いしました。ごめんなさい」
「あ、いや。気にしないで良いから」
なんて良い人なんだ、カヨコっちさん。
さすが、ムーちゃんのお仲間だけはある。この人はきっと良い人だ。
でも引っかかる。
友達とかじゃなくて、仲間だといった。同じ学園の友達には重い表現であり、友達以上の何かを感じる。
そんなワタシの疑問を察してくれたのか、ムーちゃんは愉しそうに。
「私達ねー、便利屋68っていう会社立ち上げたんだー」
「えっ、会社!? 凄いね。ムーちゃんが社長なの?」
「あはは、違う違う。社長はアルちゃんだよー」
「えっ、アーちゃんが社長!?」
それはきっとホワイトに違いない。
あのカッコいいアーちゃんが社長なのだから、直ぐにキヴォトス中に名が広まるに決まっている。
それに嬉しい。アーちゃんとムーちゃんはまだ仲良しだということに、ワタシは嬉しくてたまらない。
でもここで一つの疑問が浮かび上がる。
「……あれ、アーちゃんはいないの?」
辺りを見渡す。
ムーちゃんのことだから、ワタシを驚かそうとイタズラを画策しているかもしれない。となれば、アーちゃんがどこかに隠れている。そうはさせない、ワタシが先にアーちゃんを見つけるのです。
逸る気持ちを抑えるように、キョロキョロとワタシは辺りに視線を動かす。さすがアーちゃんだ。完璧に隠れている。
「あー、そのことなんだけど」
ムーちゃんは困った笑みを浮かべて。
「私ね、アルちゃんと喧嘩しちゃったんだよね」
ギギッ、とムーちゃんに視線を向ける。
錆付いたロボットのように、歯車一つ掛けたブリキの玩具のように、ワタシはムーちゃんを見て。
「――――ぅぇ?」
自分でも驚くくらい、マヌケな声を上げていた――――。
△エンジニア部
ご存知アイツら。
オウヒとの出会いは、彼女達が造り暴走したマシンを壊した事から始まった。彼女達からおもしれー女認定されている。おもしれーのはお前らじゃい。
その際に、お礼として“リク”と“アサ”を作ってもらった。とんでもない化物銃をお出しされるも、使いこなしてしまいこれまたおもしれー女という扱いを受ける。
エンジニア部でやらかしたら、天上院を呼べ、がミレニアムでの共通言語。呼んでも意味がない。手綱を握っているわけではないので。
△明星ヒマリ
後輩に優しい。ユーモア溢れる。
オウヒのことはリオの子飼いだと思い警戒している――――わけでもなく普通に可愛がっている。
ヒマリの言動に、オウヒは疑問も持たずに素直に賞賛するものだから、オウヒと割と相性が良い。おばあちゃんの知恵袋を素直に聴く孫みたいな感じ。
リオ会長とは実は仲が良い、とオウヒは勝手に思っている。口には出さない。怒られるので。
△『ワタシ達が考えたアウトローでクールなカッコいいカタログ辞典』
別名厨二病ノート。
でも本人達には大切な思い出。
実は今もアーちゃんは大事に保管している。
△彼女達の作った暴走した機械を鎮圧
ここからエンジニア部との付き合いは始まった。
オウヒとしても、やたら強いロボットと戦えて、助かっている。
その都度、オイルが返り血みたいになるものだから、一部のミレニアム生からは恐れられている。
△改式(仮称)
エンジニア部が頼んでも居ないのに勝手に作ろうとしているオウヒ専用銃。
デザートイーグルではなく、トンプソン・コンテンダー。
使用弾薬に息詰まっている。
ロマン銃と聞いて我慢できずに駆けつけた調月リオと合同開発のもと、完成にこぎつけたのは別のお話
△軍用コート
実はエンジニア部が作ったもの。頼んでもいないのに防弾仕様となっていた。最終的に飛行機能をつけたいのこと。
それを聞いたオウヒは宇宙猫になる。
△「待ちなさい。オウヒはロリータファッションが一番似合うと思います」
とんでもない爆弾を落としていく雲の上に咲く一輪の花さん
△「私ね、アルちゃんと喧嘩しちゃったんだよね」
オウヒが泣きそうになる5秒前