こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~
 オウヒ「夕食の配膳を手伝っていたアズサが、みんなー! 今日の夜ご飯はボラギノールだ
ー! って言いながらカルボナーラを運んできた。ミサキもどうツッコミをいれたらわからなくなっていたな」


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第6話 私達の幼馴染最強伝説

 

 

 ――――ちょっと黙らせてくるね。

 

 

 オウヒがそう言って、私達の元から離れてから数分が経った。

 今のところ、周囲には目立った動きはない。ミレニアム自治区の、代わり映えのない日常が、私の目の前に広がっている。

 

 時刻は夕方、日も落ちかけ、空は夕暮れ。赤色に染まっている。

 授業のカリキュラムが終わり、放課後を満喫しているミレニアム生徒。または、課題に追われ右往左往している生徒の姿もある。中には、忙しなく端末を確認しながら足早に歩く会社員らしき大人の姿もあった。

 

 そんな中、私は周囲を警戒し、ムツキといえば――――。

 

 

「へぇ、ミレニアムにもお洒落なカフェってあるんだ。勉強ばかりしているイメージだったから、ないと思ってた」

 

 

 今度、ヒーちゃんと行こっと、と。

 ご機嫌な様子で、ムツキはベンチに座って暢気な口調でミレニアム自治区を見た感想を漏らしていた。

 

 

 危機感がない。

 オウヒは先ほど、ムツキに敵意が向けられている、と言っていた。その中に私も含まれているのなら、それはきっと便利屋としての仕事をしているうちに恨みを買った誰かからのモノであることは察しが付く。私達が問題を起こすのなんて常日頃なこと。それこそ両手で数えても足りないくらいだ。

 

 しかし、それが()()()()()であるのなら、話は変わってくる。

 それはムツキにしかわからない。そして、ムツキには身に覚えがないと言っていた。

 それも、数人程度ではない。20人以上の気配。それがムツキに敵意として注がれている事実。

 

 なのに、どういうわけか、ムツキには危機感がなかった。

 とても狙われている人とは思えないほど、マイペースにミレニアム自治区の物珍しさを満喫している。

 

 

 これでは警戒している私がマヌケみたいだ。

 思わず私は溜息をついて、呆れながらムツキに苦言を漏らしてしまう。

 

 

「ムツキ、状況わかってる?」

 

「うん。私って今、狙われているんでしょ?」

 

「わかってるなら、もう少し用心してほしいんだけど」

 

「大丈夫、大丈夫。カヨコちゃんも座ってヒーちゃんを待っていようよ」

 

 

 ムツキは満面の笑みを私に向けて、ぽんぽん、と自分の座っているベンチの横に座るように促していく。

 

 本当にわかっているのだろうか。

 今のムツキは事務所を飛び出して来たこともあってか、装備が十分とは言えない。

 複数に襲われでもしたら、私だけでは守りきる事は出来ないし、絶対に押し切られてしまう。正に多勢に無勢。ある意味で、今は絶体絶命の危機にある。

 

 ムツキだってバカじゃない。場数も踏んでいるし、それくらいわかっている筈。

 なのに、どういうわけか。いつもよりもリラックスしているように見えるのは、私の気のせいだろうか。

 

 一人困惑している私を余所に、くふふ、とご機嫌に笑みを零して。

 

 

「ヒーちゃんが黙らせるって言ったんだもん。安心してよカヨコちゃん」

 

 

 ムツキは続ける。

 その口調は、ヒーローの活躍を待つ子供のようであり、絶対なる守護を約束された盾を手にしているようであり、全幅の信頼を置く幼馴染を待つ姿のまま。

 

 

「――――私達のヒーちゃんはね、最強なんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 なんてことはない任務だった。

 カイザーコーポレーションアビドス支部が二人の生徒に襲撃され爆破された。その報復として、歯向かった生徒二人のうち、目撃情報があった一人を粛清する。

 その程度の任務だった筈だ。

 

 たかが生徒一人、されど生徒一人。

 我々のような大企業、それもキヴォトスの経済を支配し、キヴォトスの裏世界ともいえるブラックマーケットにも顔が利く企業ともなれば、面子を何よりも重要視するのは当然の事である。

 

 二人の生徒、しかもその二人は木端のような会社に属しており、我々からしてみたら尖兵風情も良いところだ。そんな身の程知らずに、支部の一つが襲撃されたというのだ。

 ただで済ませるわけがない。キヴォトスで生活している者からしてみたら、誰もが報復されて当然と答えるに違いない。

 

 

 故に、これは見せしめである。

 戦力としてカイザーPMCが投入した数は40。たかが生徒一人に、一個小隊を当てるのは過剰とも見えるが、私はそうは思わない。

 二度とカイザーコーポレーションに逆らう人間が現れないように、圧倒的な力と途方もない物量、そして豊富な数によって蹂躙しなければならない事案だ。

 

 我々に油断も慢心もない。

 キヴォトスを支配する者達として、図に乗っている子供を叩き潰し、管理し支配する。それこそが、企業としての――――いいや、これこそが大人としてのあるべき姿なのだ。

 

 

 そうであるのなら、これは粛清ではなく、教育となるのかもしれない。

 出すぎた杭は打たれるのが世の常であるのなら、我の強い生徒を教育するのも、大人の務めといえるだろう。

 

 

「ククッ」

 

 

 我ながら、言い得て妙な表現をする、と笑みが自然と零れる。

 

 

 ミレニアム自治区内にあるカイザーコーポレーションが保有するビルの一室にて、窓から対象を双眼鏡を用いて観察する。

 無防備にも程がある。だがそれも、仕方ないのかもしれない。まさか自分が、一個小隊に包囲されているとは、思いもしないことだろう。

 

 今も、暢気に笑顔を振りまいている対象――――浅黄ムツキを見て、私はほくそ笑む。

 

 笑っているのも今のうちだ。

 報いを受けてもらう。我々を侮った罪、大人を軽視した罰を、カイザーコーポレーションにたてついた代償をその身で支払ってもらう。

 

 

 懐から端末を取り出す。

 視線は対象に向けたまま、私は端末に向かって。

 

 

「――――状況を開始しろ」

 

 

 彼女からしたら死刑宣告とも取れる発言を、躊躇なく下した。

 

 しかし返ってきたのは応答ではなく無言。

 誰もが私の言葉に返答を返さずに、無言を以て応対していた。

 

 

 違和感。

 しかし、電波が悪かっただけで、私の声が届いていなかったことも考えられる。

 再び私は、視線を端末に移し、操作を始めてもう一度告げる。

 

 

「状況を――――」

 

『し、指揮官殿!!』

 

 

 それは大声で、端末から必死な声がハウリングしながら私のいる一室に響き渡った。

 尋常ではない声。まるで恐怖と戦いながら、命からがら助けを求める者のようでもある。

 

 

「なんだ?」

 

『報告します! 対象αへの包囲網が突破され、各個撃破されつつあります。被害甚大! 繰り返します、被害甚大!』

 

「――――は?」

 

 

 コイツは、何を、言っているのか。

 包囲が突破されている――――誰に?

 各個撃破されている――――何者に?

 甚大な被害を受けている――――誰が?

 

 疑問が疑問を生み、疑念が新たな疑念を起こす。

 端末越しでは必死な声をあげているものの、私には全く理解が出来なかった。

 

 

「何を言っている。正確に事態を報告しろ」

 

『一人です! たった一人に蹂躙されています! 既にこちらにも……ッ!』

 

 

 一人、一人だと? たった一人に良いようにされているというのか?

 何を言っている。一個の武力など、数で押しつぶせる。物量で圧倒し、すり減らせばよかろう。たかが強烈な個に、群である我々が蹂躙されてたまるものか。

 

 

「落ち着け馬鹿者め。たかが一人に何が出来る! 数ですりつぶせ!」

 

『で、出来ません! 包囲しても食い破られます! と、止まりません、ば、化物ッ!』

 

「そんなことがあるか! 本当に一人か、そいつ以外には――――」

 

『こ、こっちを見た! 来ないで、た、助け――――』

 

 

 それが最後だった。

 端末からはその声が最後に数発の銃声。その後に続くのは静寂のみ。必死な声も、無様な命乞いも、耳を疑う報告も入ってこない。

 

 

 背筋に悪寒が走る。

 まさか、本当に一人に、我々は蹂躙されていたというのか。

 しかも瞬く間に。数分も経っていない。そんなことがあっていいのか。

 

 直ぐに、私は端末を操作し、応答出来る者がいないか問い質す。

 誰でもよかった。繋がるのが私の部下であれば、誰でもよかった。この得体の知れない恐怖を払拭できるのであれば何でもよかった。

 

 

「おい! 状況を報告しろ!」

 

 

 しかしそんな、祈りにも似た私の願いが叶うことはなかった。

 周波数を合わせて、端末に話しかけても、誰も応じる事はなかった。

 

 

 思考が定まらない。

 状況が読めない。

 襲撃者の正体がわからない。

 どうしてこうなったのか、分析が出来ない。

 

 視界が揺れる。

 それは恐怖で、それは動揺から、それは恐慌により。いつ襲ってくるかもわからない、襲撃者に私は恐れ戦いていた。

 私は腹の中にいる感覚に陥る。人語を解さない、数を圧倒する不死身のような、正体不明の怪物の腹の中。あとは消化されるだけの、獲物にすらなりえない存在。

 

 

「なにを、バカな……っ!」

 

 

 首を横に振る。

 そんなことがあってたまるか、と被害妄想を払拭するかのように、首を横に思いきり振る。

 

 直ちに、状況を理解し、部隊を再編し事に臨まなくては。

 震える身体を無視し、私は端末に向かって叫ぶように。

 

 

「誰でもいい、状況を報告せよ! 誰だ、何が起きている! 誰に襲われている!」

 

「――――そうさな、敢えて言うのなら」

 

 

 それは端末越しではなく、私がいる部屋の外から聞こえてきた。

 

 カツン、カツン、と。

 ヒールの音が廊下を木霊する。

 

 一歩一歩、着実に。

 一歩一歩、明確に。

 私の部屋へと音が近付いて来る。

 

 そして、足音が止まる。

 私のいる部屋の前で、立ち止まっているのがわかる。大きな音もない、派手な登場もなく、それは驚く事に素直に、部屋に入ってきた。

 

 

「――――余が襲っている」

 

 

 それは黄金だった。

 目を見張る腰ほどまである黄金の頭髪。人を食ったような笑みを張り付かせて、紅色の双眸が私を射抜いてただ見ている。

 両手には黒金と白金の大型の拳銃を持つそれは、見たことがある顔であった。

 

 キヴォトスで頭角を現しているミレニアムの生徒。

 我々、カイザーコーポレーションに何度か歯向かった危険人物として要注意生徒の一人として数えられている。

 その者の名は――――。

 

 

「て、天上院、オウヒ……」

 

 

 搾り出すような私の声を無視して、天上院は退屈そうな声で言う。

 

 

「余も軍隊と事を構えるのは初めてでな。少しだけ期待していた」

 

 

 期待していた、という割にはその声は失望の色が濃く見えていた。

 表情も侮蔑しきったそれ。まるで出来の悪い人形を見るかのような嫌悪感に満ちた眼を私に向けて。

 

 

「先ずは味見と思っていたが、よもや前菜で終わるとは。全く、拍子抜けにも程がある。話にもならん」

 

 

 何を、いきなり現れて、好き勝手言っているのか。

 貴様のせいで何もかもが滅茶苦茶だ。『理事』から預かった兵力だぞ。貴様のせいで、貴様風情の存在のせいで、何もかもが狂った。一人の生徒を見せしめとして蹂躙するだけの、簡単な任務だったのに。

 何もかもが貴様のせいで――――!

 

 

「何だ貴様は! 何を考えて我々の邪魔をした! 貴様のせいでどれほどの被害と損害が出たと思っている!」

 

 

 恐怖よりも憤怒が勝っていたようだ。

 力の限り声を荒げて、可能な限りの理性で罵倒をする。口汚く罵るも、天上院の様子は変わらない。私の声を無言で応じて、眼を閉じている姿からは、感情を読み取る事が出来なかった。

 

 しかし直ぐに、もういい、と言わんばかりの口ぶりで。

 

 

「貴様の主張はどうでも良いが、頭が高いな。先ずは跪くが良い」

 

「誰が貴様などに――――」

 

 

 それから私の言葉が続く事はなかった。

 視界が急に低くなるのを感じる。何が起きたのか、なんて考えるまでもなかった。

 

 耳に入ったのは大砲のような銃声。

 そして、視界には黒金の拳銃を持つ、天上院の姿。その銃口からは硝煙が立ち上り、銃口は私へと向けられている。

 

 撃たれたのだ。

 ヤツの放った弾丸は、一寸の狂いもなく、私の膝の駆動部分を撃ち抜き、私を跪かせてみせた。

 

 警告もなかった。

 ただ自身の言うとおりにしなかった、それだけの理由でヤツは、私を撃ち抜いたのだ。

 恐怖が蘇る。怒りなど一時の感情でしかなかった。目の前に君臨する暴力の前では、私の怒りなど、どうしようもなく矮小なものでしかなかった。

 

 暴力が口を開く。

 感情も乗せずに、紅色の双眸は照準のように、真っ直ぐに私を見て。

 

 

「跪けと言った」

 

「―――――――――」

 

 

 今度こそ、私は言葉を失った。

 眼を逸らせば撃たれる、されど口を開けば撃たれる。そんな確信染みた何かを私は感じていた。

 だからこそ、何も出来ない。命乞いも、弁解も、釈明も、何もする事が出来ない。ただただ、嵐が過ぎ去るのを待つように、私は膝をついて待つことしか出来なかった。

 

 

「さて、と……」

 

 

 がらり、と。

 口調を変えたものの、表情は変わらずに冷たいモノ。

 いいや、むしろ先刻よりもこれは――――。

 

 

「――――ワタシは怒っている。オマエ、誰に手を出そうとしたか、わかっているのか?」

 

 

 本性を表したように、今までの冷酷な君臨者が演技であったかのように。

 天上院の眼は異常であった。対峙してから、そして今。その眼はまるで違う。全ての闇を喰らい尽くしたかのような紅色。

 まるで顔面についた二つの穴が、眼を合わせた者の魂を喰らい尽くすような、そんな眼をしていた。先ほどまでとはまるで違う、本性を現したかのような。

 

 

「答えて。オマエは、オマエ達はどうしてあの娘を狙った?」

 

「そ、れは……」

 

 

 声を何とか絞り出す。

 貴様に何の関係がある、と声を大にして糾弾したかった。

 しかし、それは許されない。

 

 目の前の怪物は暗に告げている。投げた問いに、簡潔に答えないと許さない、と。

 怪物には脅しも、威圧も、殺意も、何も必要としなかった。大人としての誇りも、子供に舐められた屈辱も感じなかった。ただそこにいるだけ、それだけで私は自身の目的を、簡単に口にしていた。

 

 

「か、カイザーコーポレーションアビドス支部が襲撃されたと報告を受けた。容疑者は二人、その一人が浅黄ムツキであったのだ」

 

「……それで?」

 

「ミレニアム自治区で目撃された浅黄ムツキに報復するよう、本社より私達は指示を受け、部隊を展開した……」

 

「なるほど」

 

 

 なにやら様子がおかしい。

 どこか上の空に見えるのは、私の気のせいに違いない。

 その証拠に、視線は未だに私を射抜いたままだ。まるで私を視ていないかのような視線。遥か彼方を視ているかのように、更に遠い何かを視ていた。

 

 そうして、天上院は眼を閉じる。

 あまりにも隙だらけ。思案に耽る姿を見ても、私は奇襲をかけることなど出来なかった。そんな状態でも、きっと目の前の怪物は容易く反撃する。

 そんな凄みを感じる。正に規格外ともいえる。そんな化物と、私は対峙しているのだ。

 

 数秒か、数分か。

 生きた心地のしない状況下で、天上院は噛み締めるように一言。

 

 

「――――で、あるか」

 

 

 なんと不敵な笑みだろうか。

 その表情から、何を考えているのか、洞察することなど不可能。だがその姿はまるで、この世界に君臨する王のよう。

 

 何を馬鹿な。

 このキヴォトスを支配するのはこの女などではない。我々カイザーコーポレーションであるべきだ。そうでなくてはならない。断じて天上院ではない。

 

 対する、天上院はクツクツ、と意地の悪い笑みを浮かべる。

 私の思考が読まれたのか、と冷や汗を流しながら私は問いを投げる。

 

 

「……何が可笑しい」

 

「いや、なに。カイザーコーポレーションの情報網の脆弱性が滑稽だったのよ」

 

「……なんだと?」

 

 

 私は苛立ちを覚える。

 威圧はあるものの、先ほどのような得体の知れない怖気はなくなった。冷え切った感情の熱は蘇り、憤怒が心の底から沸いて来る。

 

 それは天上院には関係のないことのようだ。

 傲岸に不遜に、ハッ、と鼻で笑い侮蔑しきった表情を私に向けて。

 

 

「アレをやったのは余である。断じて、便利屋などではない」

 

「しかし、記録では――――」

 

「余である」

 

 

 有無を言わせない迫力。

 これ以上、口を開けばただでは済まさない、そういった迫力が滲み出ていた。

 

 

「無礼にも貴様達は、余を襲撃しようと企てていたと聞く。そのような輩を放置しているほど、酔狂ではない」

 

「なっ!?」

 

 

 どこで情報が漏れた。

 あの計画は限られた人物しか知らないはず。

 

 何故、この女が知っているのか。

 私達の知らない情報網を持っているとしか思えない。

 

 

「何故余を狙うのか、考えるまでもないか。大方、アビドス自治区の一件が関係しているのだろう。道理ではある。このままでは企業としての面子が潰されたままだからな。舐められたままでは、終われぬか?」

 

「貴様……!」

 

「そう猛ってくれるな。同情してしまうではないか」

 

 

 ククッ、と意地の悪い笑みを浮かべる。

 

 しかし腑に落ちないものがある。

 カイザーに手を出せば、報復されるとわかっていながら、どうして天上院は我々に歯向かったのか。百害あって一利なし。まともな思考回路が備わっているのであれば、数で圧倒している我々と事を構えるなど愚の骨頂。

 戦力差は眼に見えている。天上院の保有する戦力など、せいぜい噂のアリウス分校の生徒くらいなものだろう。キヴォトス一の企業である我々と争うにしては、些か侮っているという他ない。

 

 ならばこいつの目的は。

 どういう意図があって、我々に歯向かうというのか。

 

 

「何が目的だ?」

 

「……目的、とは?」

 

「何が目的で、我々にたてつくのだ!」

 

「目的、目的か……」

 

 

 クツクツと笑みを浮かべて、天上院は答える。

 

 

「単純な話だ。貴様達が目障りだった故、蹂躙した。それだけの事よ」

 

「目障り、だと? たったそれだけのために……」

 

 

 そのためだけに、キヴォトス一の大企業を敵に回すというのか。

 その問いの返答は、嘲笑でもって応じられる。

 

 

「我が者顔で、その座にいつまでもいられるとは思わぬことだ。カイザーの雑兵よ、上にも伝えておくがいい。その座は、いずれ余が簒奪する。それまで精々、虚飾の栄華を愉しんでいる事だ」

 

 

 それだけ言うと、天上院は私に背を向けて、一室の出口へと歩みを進めていた。

 傲岸にヒールの音を鳴らし、用件は終わったといわんばかりに、勝手気ままに振舞う姿に、私はいよいよ堪忍袋の緒が切れる。

 

 

「舐めるなよ、小娘が……」

 

 

 怨嗟の声。

 天上院は応じない。まるで聞こえていないかのように、歩を止める事がなかった。

 それが癪に障った。気付いたときには、私は力のまま叫ぶように。

 

 

「必ず、報いを受けさせるぞ。我々は、私は、絶対に今日という日を忘れない。カイザーを――――大人の力を舐めるなよッ!」

 

「ほう?」

 

 

 漸く、天上院の歩が止まった。

 出口の戸のノブに手をかけて、肩越しに無様に跪いている私へと視線を向ける。喜悦に満ちた表情のまま、何が出来ると言わんばかりに。

 

 

「今日という日を忘れぬ、か。よく吼えた雑兵。では余からは訓示をくれてやるとしよう。弾が頭に当たらぬよう、そのザマで生きていけ。貴様にはそれがお似合いだ」

 

 

 それだけ言うと、天上院は出て行った。

 後に残ったのは、怒りに燃える私だけであった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ――――滅茶苦茶、焦りました。

 

 

 考えてみたら、そうだよね。

 あの横柄なカイザーコーポレーションが支部一つを襲撃されて、なおかつ爆破されて、もっと言えばたった二人の犯行であったなんて、それは報復の一つや二つに乗り出すに決まっていた。

 

 

 なんて、大人気ない、とはいえない。

 元はといえば、ワタシが暴れたせいでもある。

 ムーちゃんがカイザーコーポレーションのアビドス支部を襲撃した理由が、カイザーコーポレーションがワタシを狙っていると聞いたからだし、ワタシが眼を付けられた原因は恐らくアビドス自治区内でのいざこざに介入したからだろう。

 あの時、もう少し穏便に済ませていれば。ゲヘナの生徒とカイザーの連中の間を上手く取り持ち、解決に導けばそんなことにはならなかった筈だ。

 

 

 ……いいや、無理だったかも。

 ゲヘナの生徒達も、カイザーの連中も、頭に血が上ってたし撃ち合いに発展していた。ワタシが話し合いを提案した所で、返答は絶対に銃弾だったに決まっている。穏便に済むわけがない。

 

 そうなると、余計に心苦しくなる。ワタシのせいで、ムーちゃんを巻き込んでしまった。ワタシがもっと話術に長けて人を説得するのが得意であったなら、こんなことにはならなかった。

 所詮、ワタシなんて他の人よりも少しだけ力の強い猪女。腕力にモノを言わせていた戦国時代はとうの昔に終わりを告げ、今は弁舌の立つ人が注目される時代なのです。

 

 

 でもこれで、カイザーコーポレーションの眼はワタシに向くに違いない。

 ここで、いつもの演技が役立つとは思わなかった。これで連中にはワタシが脅威的に映ったことだろう。我ながら何て偉そうだっただろうか。あの場だけでいえば、カイザーの連中より偉そうだったと思う。

 アレだけ、偉そうな大人の人をコケにしたんだ。ワタシをどうにかしようと、躍起になることだろう。そうなれば、アーちゃん達――――便利屋68の皆に手が回らなくなる。

 

 それに、ワタシもカイザーコーポレーションには良い印象がない。偉そうな態度が目に付くし、他校の生徒達には横柄な態度で接し、それを注意してもワタシが子供だからと聞いてもくれない。

 厭な大人達だと思っていた。立場の弱い人にだけ強く出て、一方的に搾取するのが当たり前。そんな考え方、ワタシは好きじゃない。

 

 そんなわけで、ワタシはカイザーコーポレーションが好きではありません。

 大きな企業だし、それなりに苦労はあると思うけど、それでも良い印象がない。

 

 

 さて、ムーちゃんにはなんて伝えよう。

 様子から察するに、完璧に忘れていると思う。

 どちらにしても、誰に狙われていたかを話すことは確定だ。ムーちゃん達に敵意が向くことはないとは言え、警戒するに越した事はないし。

 

 そもそもな話、ムーちゃんがカイザーのアビドス支部を襲ったことは、便利屋の人達は知っているのだろうか。

 ハルカちゃん? って人は、一緒にいたと思うし知っているとして、アーちゃん達は知っているのかな。

 

 そんな事を考えて、ワタシはムーちゃん達が待っているミレニアム自治区の中にある公園に向かっている。

 そうして。

 

 

「あっ、帰ってきたー!」

 

 

 満面の笑みで、手を振って迎えてくれるムーちゃんと。

 

 

「おかえり、オウヒ」

 

 

 微笑むを浮かべて声をかけてくれるカヨコちゃん。

 ホッ、としたような安堵した表情、だと思う。そうであってくれれば、ワタシは嬉しい。こんなワタシを心配してくれるなんて、やはりカヨコちゃんは優しく綺麗な娘だ。

 

 

「ただいま、二人とも」

 

「怪我はない?」

 

「うん、大丈夫。ありがとう、カヨコちゃん」

 

 

 ふむふむ、とムーちゃんはワタシの周りをグルグル回って。

 

 

「嘘じゃないみたいだね~」

 

「疑われている!?」

 

「だって、ヒーちゃんって私達に怪我しても隠すでしょ。心配されるのが申し訳ないー! ってさ」

 

「うぐっ」

 

「小学校の時だって、アルちゃんをバカにしてたトリニティのヤツら一人でわからせに行っちゃうしさー。一人でコソコソ動いてもバレるよ。ヒーちゃん目立つから」

 

「……あの、それとこれとは、話が違う気がするけど。もしかして、まだあの時のこと怒っている?」

 

「べっつにー? 怒ってないよー? ただ、誘ってくれなくて寂しかったってだけだしー?」

 

「今度そういうことがあったら、一緒にわからせに行こ? ねっ? 機嫌直してくれると嬉しいなっ」

 

 

 つーん、と拗ねているムーちゃんに、必死にワタシは機嫌を直してもらおうと頑張る。それはそれとして、拗ねているムーちゃんも可愛いから困るよね。

 

 そんなワタシ達を見守っていたカヨコちゃんは、呆れた調子で助け舟を出してくれた。

 

 

「その辺にしておいた方がいいよ。これ以上はオウヒが本気にしちゃう。今だって少しだけ涙目だし」

 

「うん、そうだね。ごめんね、ヒーちゃん。可愛い反応するから、ついからかっちゃった♪」

 

 

 くふふ、と可愛く蠱惑的な笑みをムーちゃんは浮かべる。それを見たワタシは、何も言えなくなる。普段から何も言えないけれど、楽しそうなムーちゃんを見ていたら、ワタシの頬もだらしなく緩むというもの。

 ムーちゃんが今日も可愛くて、ワタシは今日も生きていけるというものだ。もー、ムーちゃんったら、もー!

 

 

「オウヒ、一つ良い?」

 

「どうしたの、カヨコちゃん?」

 

 

 だらしなく笑っているワタシとは対照的に、カヨコちゃんは真剣な表情。

 思わずワタシも表情を引き締める。なんだか真面目な話があるみたい。

 

 

「ムツキを狙っていたって連中、何者だったの?」

 

「えーっと……」

 

 

 チラッ、とムーちゃんを見て、ワタシは事実だけを口にした。

 

 

「カイザーコーポレーション。武装してたし、軍隊みたいな動きしていたから、PMCの連中かな?」

 

「どうして、カイザーが……」

 

 

 そう言い思案するカヨコちゃんとは裏腹に、ムーちゃんは疑問に思う事無く、苦い表情を浮かべて。

 

 

「ヒーちゃん、もしかして?」

 

「ムーちゃん、もしかする」

 

「ムツキ、心当たりがあるの?」

 

 

 カヨコちゃんは意識と視線をムーちゃんに向ける。

 対するムーちゃんは、あはは、と困ったような笑みを浮かべて、言い難そうに口を開く。その姿は、まるで隠し事をしていた物が見つかった子供のようであった。

 

 

「カイザーのアビドス支部をハルカちゃんと一緒に襲っちゃった☆」

 

「……」

 

 

 カヨコちゃんが想像していたよりもとんでもない事だったようで、彼女は眉間を手で押さえて。

 

 

「なんでそんなことになっているの?」

 

「だってアイツら、ヒーちゃんを襲う計画立ててたんだよ? それはもうぶっ殺すしかないじゃん」

 

「だとしても、相談して欲しかったんだけど」

 

「ダメだよ。アルちゃんにバレたら、キレてカイザーの本社に突撃しちゃうもん」

 

「それは……なくないかも。社長、変な所で思い切りがいいから」

 

 

 でしょー、と同意するムーちゃん。

 そこまでしてくれるのは凄い嬉しい。やはりアーちゃんはカッコいい。でも同時に申し訳なくなる。そもそも、ムーちゃんが狙われたのだってワタシがアビドス自治区内で暴れたのが原因なのだから。

 

 

「ごめんね、ムーちゃん」

 

「謝る事ないって。アイツらの言い分なんて、イチャモンに近いものだったし」

 

「そうなの?」

 

「うん。報告書? みたいなのあって読んだけどさ、ヒーちゃんが『アリウスの王』になって目障りだから襲撃しよう、みたいなことしか書かれてなかったし。大の大人がやることじゃないよね?」

 

 

 アビドス自治区で勝手したのが原因だと思っていけど、そもそもの理由が違うようだ。というか、目障りだったからってどういうことだろう。そこまで幅利かせてないと思うし、何度も言うがワタシが名乗ったわけでもない。

 

 

「それよりも今後の事を考えないと。ムツキが目を付けられたのは事実だし」

 

 

 カヨコちゃんの心配を、ワタシは手を上げておずおずと言う。

 

 

「それなら大丈夫。その辺りはしっかりお話してきたから」

 

「お話?」

 

「うん、お話」

 

 

 どのような内容なのか、聞きたそうにしているカヨコちゃんだったが、答える余裕はワタシにはなかった。

 ジーっ、と。ワタシを覗き込むムーちゃんの視線。それは疑っている眼だった。ワタシが無茶な事をやっているのではないか、という疑惑の眼差し。

 

 

「ヒーちゃん、それはちゃんとしたお話?」

 

「そう、お話!」

 

「無茶なことしてない? 例えば――――私がやったことが、ヒーちゃんがやったことになっているとか」

 

「そ、そんなことしてない余」

 

「本当に?」

 

「誓って」

 

 

 見つめ合うこと数分。

 冷や汗を出して眼を泳がせるワタシ、逃がすまいと眼を向けるムーちゃん。

 先に折れたのは。

 

 

「ハァ、信じるよ」

 

 

 ムーちゃんだった。

 ため息混じりに、呆れた調子で言う姿に、少しだけ申し訳なくなり、ワタシは思わず言う。

 

 

「ごめんね、ムーちゃん」

 

「こうなったヒーちゃんはアルちゃんが言っても、本当のことを言わないもんね。それに大丈夫って言ったし、私はそれを信じる」

 

「うん、それは心配しないで。何か起きても、ワタシが全力で潰すから」

 

 

 ニッコリと、安心してもらうために、ワタシは笑みを浮かべる。

 

 

「……笑いながら凄い物騒な事言ってない?」

 

「くふふ、頼もしいでしょー。やっぱり私達のヒーちゃんは最強だね」

 

 

 さてと、というとムーちゃんは両手を上げて身体を伸ばして。

 

 

「そろそろ帰るかなー。アルちゃんが泣いているかもしれないし」

 

「そのほうが良いと思うよ。アーちゃん、きっと寂しがってるよ」

 

「……でもさ、ヒーちゃんはいいの?」

 

「なにが?」

 

「私達と一緒じゃなくて、寂しくない?」

 

「……寂しいよ」

 

 

 でも、と言葉を区切り、ワタシは本心をムーちゃんにぶつける。

 

 

「――――アーちゃんが迎えに来てくれるって、信じてるから」

 

 

 それがワタシの本心だった。

 確かに寂しい。今すぐにでも、アーちゃんに会いに行きたいし、これまでのことを聞いて欲しい、アーちゃんのお話もたくさん聞きたい。でもそれは、アーちゃんの覚悟に水を差す事だ。頑張ってカッコよく迎えに来てくれるという覚悟を台無しにする行為だ。そんなこと、ワタシには出来ない。

 

 でも悲観することはない。

 アーちゃんがやるといっているんだ。それは絶対であるし、ワタシはアーちゃんを信じるだけ。

 

 ワタシの答えに、ムーちゃんは満足したのか。

 

 

「なら私も付き合うかなー。アルちゃん一人じゃいつまで経っても、ヒーちゃんを迎えに行けないと思うしね」

 

「お願いね、ムーちゃん。あとね、アーちゃんに伝えて欲しいんだけど」

 

「なになに?」

 

「――――――――――――」

 

 

 私の言葉に眼を丸くさせて、直ぐに笑い声を上げて。

 

 

「うん、しっかり伝えておくね」

 

 

 

 

 

 

 





 △カイザーの指揮官
 後のカイザージェネラルである。
 ちなみに、彼の部下はちゃんと生きている。オウヒが再起不能にしただけ。
 オウヒガチアンチ。大人の力を見せ付けるために頑張る人。

 △カイザーコーポレーションアビドス支部が二人の生徒に襲撃
  Vol.0 第8話を参(ダイレクトマーケティング)

 △オマエ
 オウヒが本気でキレたときの二人称。

 △「なるほど」
 ここから冷や汗ダラダラ。
 あれ、これってワタシのせいじゃない?
 そうだ、オウヒ。お前が、始めた。

 △「目的、目的か……」
 オウヒ「待ってね、今めっちゃ考えてるから」





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