何だかんだで投稿してから2ヶ月も経とうとしています。時が経つのは早い。
更新を続けられるのも、皆様のおかげでございます。
これからもよろしくお願いします。
顔を合わせ辛くない、といえば嘘になるね。
私達からしてみたら、珍しい言い合い。私は我儘を言って、アルちゃんは見栄を張って。お互いがお互いで、自分のことしか考えてない子供のような言い合いをしたばかりだ。
その後の帰宅なのだから、顔を合わせ辛くないといえば嘘になっちゃう。
別に喧嘩をしたわけでもない。一方的に私がアルちゃんの気持ちを考えずに、ヒーちゃんに会いたいという我儘を押し通しただけ。つまりは子供の癇癪のようなもの。
でもここで別れたままでなんていられない。
そんなことをしたらヒーちゃんは悲しむし、何よりも私がアルちゃんと笑って話をしたいから。
そんなわけで、私は便利屋オフィスのドアの前までやってきた。
妙に緊張する。一度息を吸い、そして大きく吐いた。後ろでは、私を心配していたカヨコちゃんが心配そうに。
「ムツキ、私が先に行ってアルに話をしておこうか?」
うん、本当に優しいなカヨコちゃんは。
でもいいの。そこまでしてもらう事じゃない。こればかりは私からアルちゃんと話さないとダメな事だと思うから。
でもその一言で、緊張が解れた。
私は振り返り、ううん、と首を横に振りカヨコちゃんに向かって笑みを向けて。
「大丈夫だよ、ありがとうカヨコちゃん」
そう、大丈夫。
アルちゃんの気持ちも考えずに、私はヒーちゃんに会いに飛び出した。
だったら私がやることなんて、最初から決まっているようなもの。
ドアノブを回して、私は便利屋のオフィスに入る。
オフィスの中には。
「ムツキ室長……」
飛び出した私を心配してか、涙目になっているハルカちゃんがソファーに座っていて。
「……ムツキ」
オフィスの真正面にある、窓際の前にある社長机と椅子。そこにアルちゃんは座っていた。
アルちゃんの声は静かなもの。
眼も閉じており、感情は読み取れない。もしかしたら、勝手に飛び出した私に怒っているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でも、どちらにしても、私のやる事なんて決まっていた。
「アルちゃん、ごめん」
どちらが悪いとかじゃない。
多分これは、どちらの言い分も合っていたんだと思う。
私はヒーちゃんと早く会いたい一心で、アルちゃんはかっこよくキメてヒーちゃんに褒められたいから。
だから、この謝罪は、区切りを付けるためのもの。
また、アルちゃんと楽しくやるための、気持ちに区切りをつけるためのものだ。
そのために私はアルちゃんに謝ったのだが。
「ムツキ、ごめんなさい」
――――どうやら、そう思っていたのは私だけじゃないみたい。
それは同時だった。
私が謝るのと同時に、アルちゃんも私に向かって謝意を口にしていた。
反射的に私は頭を上げる。
アルちゃんはとても間の抜けた顔をしていた。眼を丸くさせて、口は半開き。おまけに、へ? なんて口にしている。
それはきっと私も同じなんだと思う。同じように気の抜けた顔をしていて、アルちゃんと同じ気持ちなんだと思った。
そう考えると、おかしくておかしくて。
「アッハハハハ!」
「フフフっ」
私は大きく口を開けて、アルちゃんは口元に手をやって。
私達は笑っていた。笑わずにはいられなかった。何が顔を合わせ辛いのか。私達は同じことを考えていたなんて、取り越し苦労もいいところだ。
一頻り笑って、私はアルちゃんに口を開く。
「初めてじゃない? 私達が言い合いになるのって」
「そうかも。あの頃は、オウヒが間を取り持ってくれていたし、今日みたいなことになっても、何とかなったもの」
「そうだっけー?」
「そうよ、覚えてないの? 小学校の頃に、ごっこ遊びしていたとき」
「あー、あったかも。原因なんだっけ?」
「経営ごっこよ。私とムツキで社長取り合って、オウヒが間に入ってくれていたのよ」
「うっわ、懐かしい」
そんなこともあった、と私は思い出していた。
どちらも社長になりたいと言いだして、秘書としてヒーちゃんを取り合っていたっけ。それをヒーちゃんは困ったように笑って、今日はムーちゃんが社長で、アーちゃんは明日社長をやろう、と提案してくれて事なきを得た。
もしかしたら、私達三人の中で、一番大人なのはヒーちゃんかもしれない。あの娘の口から、私とアルちゃんが何か取り合って、その中に参戦した記憶がなかった。いつだって自分のことなんて二の次。私やアルちゃんを優先させていた。
いつだって笑顔で、何でそんなに嬉しそうなのかわからないほど、私達を見ているヒーちゃんは幸せそうだった。
「それで、どうだった?」
昔の事を思い出していた私に、アルちゃんは問いを投げる。
あまりにも抽象的で、主語が抜けている質問だと思う。
でも私は何が聞きたいのかわかる。長い付き合いだもん、わかるよそれくらい。
「元気そうだったよ」
「……そう」
それはつまりヒーちゃんのことだろう。
当たり前だが、アルちゃんも気にしていたようだ。
きっと、アルちゃんも不安だったのだと思う。今のヒーちゃんを取り巻く環境が。守らないとならない存在が、実は強くて、更にいつの間にか『アリウスの王』なんて呼ばれる存在になっていたんだ。
身近な人物が、遠い存在となり、手の届かない幼馴染になっているかもしれない。
そんな漠然とした不安が、アルちゃんにもあったのかもしれない。
だから、肩を並べるために、アルちゃんで言う所の『立派なアウトロー』になろうと必死だったのかもしれない。
でもそれは、杞憂だった。
「大丈夫だよ、アルちゃん」
「……大丈夫って?」
「ヒーちゃん、何も変わってなかったよ」
変わってなかった、何も。
アルちゃんがカッコいいって言ったもんだから演技が上手になっちゃったけど、いつも幸せそうな顔をして、甘えん坊で、ちょっとしたことで泣きそうになって、でもいざとなれば頼りになる。
私達の幼馴染は、何一つ変わらず、昔の頃のままだったよ。
私は安心させるように、確信するようにありのまま、アルちゃんにヒーちゃんの様子を伝える。
アルちゃんはその言葉に、少しだけ驚いて、直ぐに安心したように、そう、と呟くと。
「オウヒ、何か言ってた?」
「言ってたよー。アルちゃんに会えなくて寂しいって」
「うぐっ」
胸を押さえて、精神的ダメージを負っているアルちゃんがおかしくて、私は笑いながら。
「でも待ってるって。アルちゃんが迎えに来てくれるっていうから、待ってるって」
「……っ! えぇ、迎えに行くわ。もちろんよ! オウヒ、首と手を洗ってうがいして待ってなさい!」
「感染症対策バッチリだねー」
あっ、そうそう。忘れていた。
「そういえば、アルちゃんにヒーちゃんから伝言があるんだった」
「なに?」
「『――――――――』」
一語一句、間違えないで。
ヒーちゃんに伝言を頼まれていた事を、アルちゃんに伝える。
眼を丸くさせて、噛み締めるように、その言葉を大事に抱えるように。アルちゃんは自分の胸に手を当てる。まるでその仕草は何かを誓うようにも見える。
それだけアルちゃんには、いいや、私達には大事な言葉だった。
アルちゃんは頷いて、そう、と呟くと。
「それなら、早く迎えにいかないとねっ!」
いつもの顔、アウトローになることに全力を注いでいるアルちゃんの顔になっていた。
見守っていたカヨコちゃんは溜息を吐いた。
アルちゃんのやる気を削がないように、現実と向き合わせるために、ありのままの現実を口にする。
「やる気に燃えているのはいいけど、どうするの? 新しい仕事の当てとかある?」
「愚問よ、カヨコ課長。――――ハルカ!」
「は、はい!」
アルちゃんに呼ばれたハルカちゃんはおずおず、とした調子で教えてくれる。
「じ、実はお二人がお出掛けになった直後に、仕事の依頼の電話がありまして……」
「へぇ、内容は?」
「そ、それが……」
チラッ、とハルカちゃんはアルちゃんを見る。
どこか自信満々に、やる気に燃えているアルちゃんは居丈高に。
「護衛任務よ。結果によっては報酬の上乗せも検討するそうよ!」
「……気前良すぎて逆に怖いね」
カヨコちゃんはいぶかしむ様にし言う。
気持ちはわかる。
私達のような実績があまりない会社に依頼する連中は、大抵が後払い報酬。しかも任務成功しても、ギリギリになって渋るのが大半だ。
それが結果によっては上乗せなんて、美味い話があるのかと疑ってしまうというもの。
「それでどんな感じの人だったの?」
私はソファーに座りながら、アルちゃんに聞いてみた。
アルちゃんは少しだけ考えて。
「怪しいといえば怪しいわね」
「具体的には?」
「胡散臭いというか、クックック、って笑う感じの大人って感じ」
「どんな感じなのさ?」
どこか緊張感のないアルちゃんに笑みを零す。
いつも通りといえばいつも通りだ。しかし、やる気がいつもより違う。燃えに燃えている。ヒーちゃんの言葉が起爆剤になったみたい。かく言う私もやる気だよ。早くヒーちゃんを迎えに行って、みんなで面白く楽しく便利屋活動やりたいもん。
「さぁ! やるわよ、みんな! こんな依頼軽くこなして、キヴォトス中に便利屋68の名を広げましょう!」