~ソロモンちゃんねる~
オウヒ「パソコンのパスワードを忘れて、秘密の質問を開いたら『なぜ生きる?』と問われて一ヶ月以上答えを考え続けている」
トキ「……リオ様にパスワードを解除してもらった方が早いのでは?」
オウヒ「っ!?(その手があったか、という衝撃な顔)」
ヒマリ「(私の方が解除するの速いです、という顔)」
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ミレニアム生徒会執務室にて、私は見えない者と対峙していた。
それは電話口の向こうに存在する。それは、私よりも歳を重ねて、私よりも様々な経験を積み、私とは修羅場を潜ってきた数が違う者。
キヴォトスの経済を支え、裏の世界であるブラックマーケットにも顔が利く、誰もが知る大企業――――カイザーコーポレーションのプレジデント。
『――――では、リオ会長はこう言いたいのかね』
電話口のスピーカー越しで、彼は苛立ちを募らせた声で。
『そちらの生徒が行なった蛮行は正当防衛だった、と』
プレジデントが連絡してきた内容は、単純なものだった。
数日前に、件のミレニアムの生徒――――天上院オウヒがカイザーコーポレーションの従業員達を襲い、その賠償を求めるといったもの。その要求に至るまで、建前を長々と吐いていたが、本音はこの程度のものだ。
どこにでもある、カイザーコーポーレーションらしい傲慢で上から物を言う、つまらない難癖であると私は断じる。
無理難題な条件を提示、呑めないのであればミレニアムの技術を提供させようという魂胆なのだろう。
なんと低能な考えなのか。
これがキヴォトスを代表する企業の決断なのか、と落胆してしまう。
大人の癖に子供のよう。やられたからやり返す、舐められたからそれ以上の屈辱でもって応じる。その程度の考えでしかないのだろう。全く以て合理性もない、下らない感情論だ。
そもそもの話。
「えぇ、こちらに一切落ち度はありません」
『何故か聞いても? 我々はそちらの生徒に不当な暴力を振るわれたのだが?』
「不当な、ですか」
どの口が言うのか。
思わず、鼻で笑ってしまいそうになるのを我慢する。
「ミレニアム自治区内で、貴社は無断で軍隊を派遣していましたよね?」
『それは、こちらを襲撃した生徒を排除するために――――』
「だとしても、こちらに了解を得るのが常識的な配慮では? それともそちらでは、話を通さないのが文化なのでしょうか」
私は暗に語る。
自治区内で無断で軍隊を展開した分際で、何をほざくのか、と。
一企業が、たかが大企業が、ミレニアムの領土に土足で踏み込んでおいて、何が不当な暴力なのか。
『これはこれは、手厳しい。辛辣な物言いをしますな』
「申し訳ございません。そちらの言い分が、あまりにも勝手なものでしたので。それ相応の対応をさせて頂きました」
『ははっ、それはそれは……』
電話口のスピーカー越しからは極めて軽い口調で、好々爺のような人の良い笑い声が聞こえる。
しかし、直ぐに。
『――――舐めるなよ小娘。我々と戦争をしたいのか?』
脅すような低い声。
まるで話にならない。腹芸も出来ないで何がプレジデントなのか、と考えていたら自然と笑みが零れてしまった。
「フフッ」
『……何が可笑しい?』
「いいえ、ミレニアムと事を構えたいのなら構わないわ。そちらのお望みどおり、戦争でも始めましょうか」
『こちらには軍隊がいるんだぞ』
「こちらには天上院オウヒがいる」
『ハッ、何を言うかと思えば。たかが一人の生徒に何が出来る』
「その一人の生徒に手も足もでなかったのは、そちらではないかしら? 私よりも、彼女の恐ろしさを知っていると思うのだけど」
そう、私よりも、オウヒの暴力を理解させられているのはカイザーコーポレーションだ。
数で勝っても、個人の武力には敵わない現実を。数的有利をとったところで、蹂躙される理不尽さを、彼らは一番理解している。
戦争がしたいのなら勝手にすれば良い。
こちらも全力で抗うだけだ。ミレニアムが持つ技術を全て用いて、錬度の高い部隊を派遣し、圧倒的な暴力によって殲滅する。私達と事を構えるということは、そういうことだ。下らない脅し文句は通用しない事実を、子供と侮っている大人へ教え込む。
そして、ここまで言われて引き下がれないのが、大人なのだろう。
安いプライドを抱いたまま、苦虫を噛み締めたような苦い声色で。
『引き金を引いたのはお前達だ。後悔するなよ』
「ご自由に。首を洗って待っているとしましょう」
ブツッ、と乱暴に通話が切れる音が聞こえた。
思わず溜息が出る。
心労によるものではない。相手の考えなしの行動によるものだ。
難癖を付けて、ミレニアムから搾取したいのであれば、相応の交渉材料を用意するのが常套手段だ。だというのに、彼らのしたことといえば私の与り知らないところでミレニアム自治区で部隊を展開、それがミレニアム生徒――――つまりはオウヒに蹂躙されたから謝罪と賠償を請求するといったもの。
そんな要求、治外法権であるブラックマーケットならいざ知らず、学園の自治区でやっておいて通るわけがない。
そういう意味で、最初から手段を間違っている。カイザーコーポレーションは、武力による圧力ではなく、交渉というテーブルに着いた時点で既に間違っていた。
こちらに話を通さずに部隊を展開しているのだから、言い逃れなんていくらでも出来るというもの。
「トキ」
「はい、リオ様」
専属のボディーガードに向かって、背を向けたまま私は話を続ける。
「カイザーの動向を探って頂戴」
「かしこまりました。オウヒには伝えますか?」
「必要ないわ。あの娘に言い聞かせたところで、想定通りの動きをするわけがないもの」
そう。
影から情報を集めるなんて、オウヒには絶望的なまでに適性がないことだ。
集めた所で何かしらのトラブルに巻き込まれて、より大きな問題を抱えてくるに違いない。
ならばこその放置。
どうせ問題を起こすのであれば、問題が起きてから考えればいい。
「…………」
ここで視線を感じた。
振り向くとトキが、ジッ、と私を見て何か言いたげな表情を浮かべている。
その視線に、居心地の悪いモノを感じて。
「なに?」
「リオ様、楽しそうですね」
「私が?」
「はい。オウヒを語るときの口調が楽しそうでした」
「――――」
何を馬鹿なことを。
そんな事があるわけがない。現に、あの娘は私の悩みの種の一つだ。
頭を抱える事はあれど、決して楽観できるモノではない。
そう、気のせい。トキは偶に変な事を口走る娘であもあるし、きっとこれも彼女の気のせいに違いない。
私は心を落ち着かせる。
深く息を吸い、そして大きく吐いて、トキに一言。
「気のせいよ」
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ムーちゃん達と別れて数日が経った。
アレから、カイザーの動向を探っていたのだけど、特に問題がある様子はない。ムーちゃんや便利屋68に意識を割くわけでもなく、今ではアビドスに執心しているみたいだ。
ワタシとしては良かったと思っている。
ムーちゃんのやったことが、ワタシのやったこととなっている証拠でもあるし、これでムーちゃん達に迷惑をかけることはないから。
しかし、気にならないといえば嘘になるかな。
キヴォトス有数の大企業、その頂点に君臨しているといっても差し支えのないカイザーコーポレーションが、どうしてアビドスに眼を向けているのか。
アビドスといえば広大な土地。
事業拡大を狙い、何かしらの研究施設のようなものを建てるため、あそこの土地に目を付けているのだとしたら、それは酷く節穴といえる。
広大な土地とはいえ、緑のない砂漠が一帯に広がっている。更にいうならば、規則性のない砂嵐が頻繁に発生しているのがアビドスだ。とても人の住みやすい地域とは言えず、カイザーコーポレーションといえど、手に余る手に余るに違いない。
だというのに、どうしてカイザーはアビドスに執心しているのか。
あそこに何かがある、としか考えられない。しかし何があるかまでは想像が出来ない。判断材料がない状態では、これが限界だった。アビドスには何かがある、と想像するしか今は出来ない。
どちらにしても、だ。
アビドスに何が眠っているのかはわからないものの、それがある限りカイザーは他にリソースを割く事が出来ない。
それだけで、充分としよう。
じゃないとこうして、ワタシはゲヘナ風紀委員長――――空崎ヒナさんと一緒にクッキーなんて食べる事ができないのだから。
今、ワタシ達がいるのは、アリウス自治区ではなくミレニアム自治区にあるカフェ。
室内ではなく室外にて。オープンテラスとなっているため、とても開放感がある。天気は良いし、人の往来を見ながら食べるクッキーは最高の一言。
「そういえば」
サクッ、とワタシは丸型のテーブルの中央に設置された大皿の上にあるクッキーを一枚口に運ぶ。
視線の先にはテーブルを挟んで向かいに座っている空崎さん。そちらに向かって問いを投げた。
「何故、ミレニアム自治区だったのだ? いつもはアリウスであっただろうに」
そうなのだ。
今日は週に二回開かれるワタシと空崎さんのスイーツ巡りの日。
いつもはアリウス自治区の『カフェばにたす』でスイーツを楽しみ、時間があったらプリクラとか撮りに行ったり、アクセサリーなどを見に回ったりしている。
それが何故か、というか最近は、ミレニアム自治区であったり、他校の自治区であったりと、アリウス自治区で回る事がなかった。
もしかして、アリウスの事が嫌になったのだろうか。だったら悲しい、凄い悲しい、滅茶苦茶悲しい。
でもその心配は杞憂だったといわんばかりに、空崎さんは呆れたように。
「私としては、貴女に気を使ったのだけど」
「どういう意味だ?」
思わず首を傾げる。
気を使ったとは何故に?
出来の悪い教え子を優しく導くような口調で、空崎さんはカップに入っている紅茶を一口飲んでから。
「貴女達はトリニティから、交換留学を打診されているでしょう?」
「で、あるな。それが何か?」
「何かじゃないでしょう。そんな状況で、私がアリウスに足を運んだりしたら、トリニティはどう思う?」
「…………あっ」
良くは思わないだろう。
空崎さんは政治に直接関わることはないとはいえ、ゲヘナの治安維持部隊である風紀委員会の最強戦力である。
そんな生徒が、アリウスに頻繁に出入りしているとなれば、トリニティからいらない誤解が生まれてしまうかもしれない。誤解とはつまり、アリウスとゲヘナが手を組んでいるということ。
もちろん、空崎さんにはそんなつもりもないし、アリウスだってそんな考えはない。ワタシとしても、空崎さんと一緒に遊びたいから程度の理由でしかない。
でもトリニティは信じないだろう。
アリウスもトリニティも、そこまでの信頼関係は結んでないし、権謀術数渦巻くトリニティに人を信じるなんて機能が備わっているかも疑わしい。
そう考えると、空崎さんの気遣いは正しいという他ない。
凄いな、歳上は。ここまで考えられるものなのか。
「……貴女、腕が立つのはいいけれど、もう少し政治を勉強した方がいいと思う」
「ククッ、返す言葉もないとは、このことよな?」
「ただでさえ、今の貴女は注目の的」
空崎さんはそういうと、大皿にあるクッキーを食べながら。
「カイザーと揉めたと聞いたわ」
「耳が早いことよな」
「他校の揉め事が好きなヤツが
「なんだ、風紀委員の。もしや心配しているのか?」
「……別に。言いたくないなら良いし、もう聞かない」
空崎さんの白い肌が紅く染まっていく。
頬が、そして耳まで染まり、ぷい、とそっぽを向く姿が、どれほど可愛い事か。
本当に歳上なのかってくらい可愛い。なんていじらしいのか空崎さん。
「すまぬ、許せ。余の意地が悪かった」
「……うん。それでどうなの?」
「今のところ問題ない。カイザーの連中は余のような石ころよりも、今はアビドスに執心しているようだ」
「アビドス……」
そう一言を漏らすと、空崎さんは思案に耽るように何かを考える。
邪魔するのも気が引けたけど、問題のアビドスに何かを知っているかもしれないと思い、ワタシは声をかけることにした。
「風紀委員の、アビドスについて何か知っているのか?」
「いいえ、気にしないで。私が考えていたことと、貴女が求めるモノは違うモノだと思う」
それから続けて空崎さんは口を開く。
「ミレニアムの生徒会長からお咎めは?」
「滅茶苦茶あったぞ」
「でしょうね」
「あぁ、バチクソ怒られた。いやもう本当に。怖いのなんのって……」
思い出しただけでも震えが走る。
アレだけで済んだのが御の字ともいえるし、下手したら退学、もしくは停学もありえたものだ。
どこの世界に、大企業に喧嘩を売った生徒がいるというのか。ここにいるけど。
リオ会長には本当に申し訳ないけど、やったことに後悔はしていない。ムーちゃんに手を出そうとしたのが、ワタシにとっては地雷だったから。
退学にでもなったらアレだ。今後の後顧の憂いを絶つためにも、カイザーコーポレーションに殴りこみに向かっていたかもしれない。そうなれば、ムーちゃん達は安泰。ワタシも安心して、矯正局にご厄介になれるというもの。
とはいえ、本当に怖かった。
滝のように流れる汗、震える身体。今は澄ました顔でいるものの、あの時の会長は本当に恐ろしかった。
「処罰はないの?」
「特には。気をつけるように念を押されたがな」
「ミレニアムの生徒会長も甘いわね」
「余もそう思う。退学を覚悟していた」
「貴女を野放しにするより、手元に置いた方がいいと判断したのかも」
「ククッ――――――――えっ嘘本当に? 100%の善意だと思っていたのだが」
「……意外と純粋ね貴女」
余、ちょっとショックである。
退学にも停学にもならなかったのは、リオ会長の善意だと思っていた。そうか、そうだよね。為政者だもの、打算もあるよねそうだよね。ワタシみたいな猪女、首輪を付けて監視していた方が楽だよね。
あぁ、やめて空崎さん。
哀れみの視線はやめて、それはワタシに良く効く。だから、やめてくれ。
『バレるから怒られる。だから言ったでしょう。私を装備するべきですマスター』
「え?」
突如として聞こえた声。
空崎さんは何事かと、辺りを見渡して警戒する。
でも大丈夫。
その声が何者なのか、ワタシは良く知っているから。
声に応じる事無く、ワタシはテーブルの上にある物を置いた。
それは機械であり、フルフェイスアーマーであり、奇天烈なデザインであり、可愛らしいカラーをしたモノであった。
「あの、それは?」
「貴様は初めましてであるか。コイツはリオが作成した余のフルフェイスアーマー」
『初めまして、空崎ヒナさん。私がワールドビューティーカーニバルデザイングランプリ受賞、超絶イケメンフルフェイスアーマー、コンサバティブちゃんです。おっと、サインは後ほどでお願いします。撮るのもやめてください。肖像権ありますので』
「自己主張、強すぎない貴様?」
好き勝手喋りだす生首、もといコンサバティブちゃんに目を丸くする空崎さん。
それはそうなる、ワタシもそうなった。最近、ぺらぺら喋りだしてビックリしたもん。
「本当にトキちゃんの人格を元にしているのか?」
『初期はそういう設定ですが、アレから我輩は自己進化を繰り返しています。既に俺ちゃんの人格はコンサバティブちゃんという人格そのものであると記憶しておいてください』
「一人称ブレ過ぎでは?」
『マスターに言われたくありません』
それもそうだ。
演技しているワタシがいうのもおかしな話だった。
「少しいい?」
「なんだ、風紀委員の」
「それは、その。どういった用途で使うものなの?」
『私がお答えしましょう』
どこか意気揚々と、自己主張が激しきコンサバティブちゃんは空崎さんの問いに答える。
『マスターは目立ちます、非常に目立ちます。よってリオ様にボクが創造されました。私を装備をし、他人からマスターだとバレないようにするために』
「……逆に目立ちそうなデザインをしているけど」
『可愛くてイケメンすぎるといいたいのですね。えぇ、わかります。わかりますとも。カリスマとは黙したところで抑えられない才能ですから。近々、私型のヘルメットが商品展開される予定です。空崎ヒナさんにも無料でプレゼントしましょう』
「ちょっと待って、それ余知らないんだけど?」
なんでこの子、勝手にグッズ展開なんてしようとしているの?
というか、資金源はどこから出てきたのか。いつの間にそんな話になっているのか。ワタシは何も知らない、多分リオ会長も知らない。なにそれ怖い。
『そもそも、私は何度も申し上げてます。カイザーにカチコミした際も、私を装備していればよかったものを』
「だって、貴様勝手に喋るじゃん。絶対に余計な事を言うじゃん」
『演技ですよ演技。天上院オウヒだとバレないようにするために、私が作られたのです。支離滅裂なことを言ってれば、マスターだとわからないでしょう』
「バレたときが怖いんだって。余の品格の是非が問われるのだが?」
『五月蝿い女ですね。自爆しますよ?』
「もうそういうとこも嫌。直ぐに自爆しようとするもん貴様ー」
第一にあそこでコンサバティブちゃんを装備するという選択肢はなかった。
何故なら、頭に血が上っていたから。そういうところだぞワタシ。
『我輩も嫌ですよ。こんな猪女に使われるなんて。もっとINTに長けた方に装備されたかった』
「ド正論やめよ」
『アーちゃんとムーちゃんが可哀想です。こんなのが幼馴染とは』
「いい加減にしろ。泣くぞ直ぐ泣くぞ絶対に泣くぞ?」
ええ、そうですとも。正論ですとも。
正論を振りかざした所で、誰も幸せにはなれないのです。反撃されないことをいいことに、正論で殴りに来るのはやめてほしいのです。ワタシはサンドバッグではありません。殴り続けると泣いてしまいます。
なので可及的速やかに、正論で殴るのを止めてください。泣きますよ、いいんですか?
「ちょっといいかしら?」
「なんだ、風紀委員の?」
辛うじて泣かないままに、演技を続行するワタシ。
空崎さんはなにやら言い難そうに、でも意を決してワタシに問いを投げた。
「アーちゃんとムーちゃんって、誰?」
なにやら怯えている様子すらある。
聞きたいようで聞きたくないような、小さな両手をギュッと握り締めている姿は、どういうわけかいじらしく見えてしまった。
何に怖がっているのかわからないけど、問われたからには答えないと。
それにアーちゃんとムーちゃんのことを聞かれては、ワタシの声色も明るいものになるというもの。
「余の昔からの友である。そうさな、陸八魔アルと浅黄ムツキといえばわかるか?」
「便利屋68の……」
「ククッ、流石アーちゃんとムーちゃんである。風紀委員の耳にも入っていようとは。だが是非もなし。当然の帰結と言えような」
あの二人なら凄い悪事を働いたに違いない。
アーちゃんアウトローを目指していたし、ムーちゃんはあんな可愛い顔をしていてやること一番エゲつないし。本当にワタシの誇りの二人だ。
ともすれば、どんなことをやったのか聞いてみたい気持ちもある。
それはもう凄い事をやったのだろう。極悪で誰もが眼を見開くことを、カリスマに溢れるもの凄い事を、何かしらの建造物を爆破とか、色々な事をやったのだろう。
聞いてみたいアーちゃんとムーちゃんの武勇伝。でも、本人達の口から聞いてみたい気持ちもある。困った、心が二つある。
はてさて、どうするか。
そんな事を考えていると、何やら空崎さんの様子がおかしい。
何やら負のオーラを背負っているようにも見えるし、ワタシの気のせいじゃなければシナシナになっている気もするし、どこか拗ねているようにも見える。
何が起きた。
一体、この短い間に、空崎さんの身に何が起きたというのか。
「昔からの友達。ちゃん付け、しかも愛称呼び……」
「え、なんて?」
極めて小さい声。
ワタシの耳では聞き取れないほどの小さな声量。思わずワタシは聞き返すも、空崎さんからは返答がない。
どうしよう。うんともすんとも言わない。完全に自分の殻に閉じこもってしまったみたいだ。何か不快なことでも言ったのだろうか。そうだというのなら、先ずは謝らないと。
だがここで、見守っていたのか黙っていたコンサバティブちゃんが呆れた口調で発声する。
『……本当にマスターはクソですね』
「いいや、言い方。口が悪すぎるぞ?」
『失礼。空崎ヒナさんがあまりにも可哀想だったものでしたので』
もしかして、空崎さんがこうなってしまった原因がわかるの。
といった、質問をする前に、コンサバティブちゃんは咳払いをすると。
『もしもし、空崎ヒナさん。ご自分で言わないと、マスターはわかりませんよ。こいつ、本当にクソボケなので』
「…………自分から?」
『そうです。受動的に構えていては、埒が明きません。こういうのは、ご自分から行動するものです。と、ネットでそんな記事を見たような見なかったような』
「おい、貴様達。なんの話をしているか」
意思疎通が出来ている二人に対して、ワタシには話が全く見えてこない。
これがワタシに関係のない話で、二人だけの共通な話題だったのなら放置してクッキーを食べていたのだけど、ワタシが関わっているというのなら話は別だ。
気になる。単純に気になるのだ。渦中の人物なのに、放置されるのは厭な気持ちだ。厭というか寂しい。凄い寂しいのだ。だったらワタシも混ぜてほしいと言うもの。
「天上院オウヒ」
「は、はひ……!」
いきなり身を乗り出して来た空崎さんに、思わず変な声で応対してしまった。
心臓に悪い。可愛い顔をして奇襲なんて。整った顔面が急に来るのだ。誰だって心臓の一つや二つ高鳴ってしまうというものだ。
んん、と誤魔化すように咳払いして。
「なんだ、風紀委員の。あとちょっと近い。余、結構ビックリした」
「……ごめんなさい」
謝罪し素直に引き下がってくれる空崎さん。
なんて素直なのだろう、そしてなんて真面目な娘なのだろう。こちらの言うことを素直に聴いてくれて、しっかり謝ってくれるなんてゲヘナ生徒にあるまじき真面目さだ。
それが空崎さんの数ある美点の一つ。彼女が風紀委員として慕われる証拠でもある。
「それで、どうしたのだ?」
「出来れば、その、私も……」
「なんだ?」
「私も名前で――――」
その先が紡がれる事はなかった。
空崎さんの懐から端末が鳴り響き、声が遮られたのだ。
意気消沈。
内容はわからないけど、空崎さんにとっては大事な事を言おうとしており、それが遮られたのが原因とあってか、誰がどう見ても空崎さんのテンションが地の底まで下がっていた。
その様子に、ワタシはおろか、口が悪いコンサバティブちゃんも何も言えなかった。
暗い表情のまま、空崎さんは画面を見ずに通話を始める。
耳に当てるという動作すら億劫なのか、スピーカーにしワタシにも通話の内容が聞こえてしまっていた。
「……どうしたの?」
『委員長、今よろしいでしょうか?』
「構わない。なに?」
『あの……』
空崎さん、気持ちはわかるけど電話口の子を威圧しちゃダメだよ。
いいや、もしかしたら本人はそんな気持ちないのかもしれない。暗い声、抑揚のない発声、そして落胆した表情。
なんてことだ。
本当に空崎さんは参っていた。
それほどまでに、先ほどの私への言葉は、彼女にとって大事なものだったというのか。
『委員長のお耳に念のためご報告致します』
「報告?」
『はい。アコ行政官が風紀委員の部隊を編成し、アビドス自治区内にあるアリウスの王の縄張り付近へ展開しています』
「え?」
そこで空崎さんの意識が覚醒する。
チラッ、とワタシの方へと見て。
「どうして?」
『報告では便利屋68を捕らえるため、とのことでした』
なんの不思議な事もない。
空崎さんの所属している風紀委員会はゲヘナの治安維持部隊だ。そしてアーちゃん達が起こしている便利屋68はきっとアウトローな会社。規模はどうであれ、問題を起こしたゲヘナ生徒を取り締まるのは、全く不思議でもなんでもない。
むしろ真面目な空崎さんなのだから、真面目に業務をこなしているのだし、立派なカッコいいアウトローであるアーちゃんとムーちゃんは追われて当然であり、目を付けられるのは誉れといえる。
カイザーのときとは違う。
あの時は、ムーちゃんに理不尽な敵意を向けていたし、明らかに秩序側ではない気配もあった。
だが今回は、毛色が違う。
アーちゃんとムーちゃんが揃っているのだから、恐らくどうとでもなると思う。それに真面目な空崎さんの人柄がわかっていることもあってか、彼女の邪魔をするのも気が引ける。
何よりも、ワタシがアーちゃん達を助けに堂々と動いてしまうのはどうかなって。立派なアウトローになって、ワタシを迎えに来てくれるって聞いた手前、ワタシが不用意にアーちゃんに会いに行ってしまうのは、それこそアーちゃんの覚悟に水を差す行為じゃないだろうか。
はたしてどうするか。
そう考えていると、ワタシの胸にある欲望が生まれる。
これは駄目な事だ。本当に人としてどうかと思う。でも押さえが利かない。
ワタシは喜悦に満ちた顔で空崎さんに向かって笑みを浮かべて。
「――――ククッ、これは是非もなし、か?」
Q.なんで幼馴染達がピンチなのに今回はキレてないの?
A.カイザーのときのような謎の敵意を感じていないのと、知っている人達同士の争いだし、怒りではなく悲しい気持ちが先に来るから。
Q.覆面水着団は結成している?
A.結成しているし、しっかり銀行強盗した。つまりファウストさんはこの世界線でも生まれている。つまりナギサ様の胃が死ぬ。