~ソロモンちゃんねる~
ヒナ「オウヒ、寝る前にお話して」
オウヒ「鶴の恩返し」
ヒナ「違う話しはないの?」
オウヒ「鶴の意趣返し」
ヒナ「意趣返し」
オウヒ「おじいさんが罠にかかった鶴を助けたその晩、罠を仕掛けた漁師の男の家の戸を叩く音がしました」
ヒナ「(あ、アナザーサイド……!)」
私がキヴォトスの“先生”になってから数週間が経とうとしていた。
トラブルは日常茶飯事。常にどこかで問題が起きており、何もなく終わった一日はない。これが、キヴォトスの日常なのだろう。きっとこの先も、キヴォトスの日常に私が慣れる事はないに違いない。
そういう意味では、毎日が新鮮だった。
生徒が銃を常に携帯しておりそれが当たり前の世界であるし、自動販売機などでジュースの他にも弾薬や手榴弾といった爆発物を気軽に購入する事が出来る。子供ながらヘリの操縦が出来る生徒もいる。
それを目にする毎日は新鮮に尽きる。キヴォトスでは私の常識が通用しない世界が、確かに広がっているのだから。
しかし、私は先生だ。
責任がある立場として、知らなかったでは済まされないし、圧倒ばかりされてもいられない。
力も弱く、体力も生徒以下で、銃も満足に使えない。耐久力も生徒達とは違い、銃弾の一発でも当たろうものなら致命傷となる。
そんな身で、なんの力もない私が、先生として生徒達と向き合うためにも、常に学んでいく事しかできない。
キヴォトスの常識を学び、生徒達の悩みを聞き、解決に導けなくとも憤りを言葉にさせて心を軽くさせる。大人として情けない限りだが、私に出来る事といったらそれくらいのものだ。
そうしているうちに、学んだ事が一つ。
銃社会であるキヴォトスにおいて、治安は自治区によって様々だ。
今ではそうではないが、シャーレ近辺の外郭地区の治安は最悪であったし、ゲヘナ学園の自治区は生徒達が自由な気風が強いからか高確率で銃声や爆発音が鳴り響いている。
だがそれらとは対照的に、平和な自治区も存在している。それが、数少ない平和な自治区こそが、柴関ラーメン一帯の区画であった。
どういうわけか、ここは平和そのもの。
アビドス自治区でもあるので、アビドス対策委員会の生徒達が尽力を尽くし、治安を維持するために貢献しているのかと思ったけど。
「先生、悔しいけどそれは違う」
柴関ラーメンのカウンター席にて。
私の隣に座っているアビドス高等学校の生徒であり、件のアビドス対策委員会の一人でもある砂狼シロコがラーメンを啜りながら、悔しそうに呟いていた。
ここには、私とシロコしかいない。
残りの対策委員会のメンバーである、十六夜ノノミ、奥空アヤネ、黒見セリカは学校の備品の買い物に繰り出しており、この場にはいない。
そして唯一の三年生、そして対策委員会の委員長の小鳥遊ホシノは朝から学校にも姿を見せていなかった。
残された私達は、アビドス自治区の見回りをしており、小腹も空いてきたこともあり、柴関ラーメンにて食にありついてた。
“えっと、シロコ。それは違うってどういう意味?”
「そのままの意味。私達が頑張っているから治安が良い、というわけではない」
“違うの?”
「ん」
頷いて、シロコは肯定して。
「そもそも、私達は五人しかいない。その程度の人数でやれることには限界がある。とてもじゃないけど、自治区のパトロールに割けるほど余裕なんてない」
確かにその通りだ。
そもそも、弾薬や装備の備蓄すらも、私が来るまでカツカツで遣り繰りしており、アビドス高等学校は限界に近かった、とアヤネに聞いている。
それでも心を折らず、他の学校へ転校するという手段すら取らずに、アビドス高等学校に在学していたのは、彼女達の必死な抵抗によるもの。それは覚悟と言って過言ではないだろう。
それに9億という途方もない負債を抱え、彼女達はその返済に追われ東奔西走している。とてもじゃないが、自治区内の警備にまで割ける時間も労力も戦力も存在しない。
ならばどうして、この一帯の治安が良いのか、という疑問に帰ってきてしまう。
「それはだね、先生」
私の疑問にこの一帯で商いをしている、ある意味で当事者でもある柴関ラーメンの大将が答えてくれる。
大将は機嫌が良さそうに。
「ここいら一帯が、『アリウスの王』の縄張りってことになっていて、他校の生徒さん達が迂闊に手を出せなくなっているからさ」
大将の言っている、アリウスの王、という単語。私が先生になってから、何度か耳にしたことがある。
アリウスの王――――天上院オウヒ。
ミレニアムサイエンススクールの生徒でありながら、他校でもあるアリウス分校の王となった生徒。
一年生ながらその武力は底が見えないもので計り知れず、ゲヘナ学園の最高戦力、トリニティ総合学園の歩く戦略兵器、同じ学校でもあるミレニアムのコールサイン
まだ私は会った事も話した事もないため、どんな生徒なのかわからないのだが、他人からの評判は二分されていた。
一方では、冷酷無慈悲な統治者と評され、対峙した際は生きた心地がしなかったと零され、傲岸不遜が人の形を為した存在がオウヒであると怯えられ、彼女の人となりを話す者が存在していた。
しかし、これまた一方で。
「ま、お嬢は縄張りだとか、そんなつもりは一切ないんだがな」
大将のように、彼女に悪感情を向けることなく、気軽な調子で彼女を語る人物も存在する。
正に賛否両論。
悪鬼の如く嫌われていることもあれば、無類の好感を抱かれている事もある。
他人から見た天上院オウヒの人物像があまりにも乖離しすぎて、本当に同一人物か疑ってしまうほどだ。だが外見的特徴が一致していることから、紛れもなく同一人物なのだろう。
「そう。ここの治安がいいのはアリウスの王のおかげ」
事実のみを口にするシロコに、思わず私は問う。
“シロコはいいの?”
「なにが?」
“本人にはその気ないかもしれないけど、自分が通う学校の自治区内で、勝手に縄張り扱いされて……”
思うところはないのか、と暗に問われた質問に、シロコは本当に気にしてない調子で。
「別に。私は使えるものは何でも使う。ここが平和になるのなら、誰が縄張りにしようが構わない」
“そっか。うん、シロコらしいね”
「セリカは怒ってたけど。勝手なことをしたアリウスの王ってヤツを許さない、って」
“……そっか。うん、セリカらしいね”
あはは、と私の口から乾いた笑みが零れた。
セリカは好戦的な生徒だ。どのような状況であれ、自分の通う学校の自治区内で勝手な振る舞いをされて、黙っているほど大人しい生徒でもない。
彼女が怒るのも無理もない。
むしろそれすらも飲み込んで、現状を敢えて放置し利用する。そんなクレバーとも言える手段を取るシロコこそが、特殊な生徒と考えるべきだ。
「それに、私はオウヒが悪い子だとは思わない」
“それはどうして? 会ったこともないんでしょ?”
「うん、会った事も話した事も見た事もない。でも不思議。知らないのに、懐かしいような、悲しいような、信頼できるような、そんな感情がある」
自分の胸に手を当てて、その不思議な感情を確かめるかのように、シロコはポツリと呟き続ける。
「でもこれは、私の物じゃない、と思う。私だけど私じゃない、誰かの想い……」
“確かめたいと思わないの?”
「思わない。私がオウヒに向けている想いは、きっとその子のモノだから」
それよりも、と言葉を区切りシロコは神妙な面持ちで口を開いた。
「気になることがある」
“何かな?”
「先生はこの一帯を見て、どう感じた?」
“平和だと思ったけど”
「それは私も同意。でもその割に、武装したカイザーPMCが多い気がする」
言われてみれば確かに。
アビドス自治区であり、そしてアリウスの王の縄張りという
治安維持のため、親会社であるカイザーコーポレーションの指示で配置されているのかと思ったけど、その割に殺気立っていることに気付く。
それに、出すぎた真似にも程がある。
ここはアビドス自治区。治安を守るためとはいえ、カイザーコーポレーションが出る幕などなく、彼らが介入してくる謂れもない筈だ。
なのに、彼らは警戒していた。
何かの襲来を怯えるように、大きな力の到来に怯えるように、どうしようもない暴力に抗うように、彼らは身を守るために武装していた。
「それなんだけどよ……」
「ん、どうしたの大将?」
大将は言い難そうに、口にするのを戸惑うようにし、少し考えてから。
「まぁ、先生とシロコちゃんならいいか」
“大将?”
「実はよぅ、この一帯、というかアビドス自治区のほとんどの土地の所有権がカイザーコーポレーションのモノになってんのよ」
「えっ!?」
シロコも初耳だったのか、反射的に立ち上がりながら。
「本当なの、大将?」
「あぁ。厳密にいえば、カイザーコントラクションっていう、カイザーコーポレーションの子会社のもの、だけどな」
そこまで言うと、大将は極めて冷静な口調で、事実だけを口にする。
「少し前まで、ここにもカイザーの連中から退去命令が出されてたのさ」
“……土地の所有権がカイザーコーポレーションにあるから、ですか?”
「あぁ。連中のやり方も気に入らなかったし、俺も店を畳むつもりだったんだが」
だった、つまりは過去形。
今は違うと言わんばかりに、大将は居丈高に笑いながら。
「お嬢が丁度良く暴れてくれたおかげで、カイザーの野郎共も口を挟むことがなくなったってわけよ」
「なるほど」
“ちなみに、セリカはこのことを……”
「もちろん、言ってねぇさ。怒るだろセリカちゃん」
「ん、それはそう。セリカは感情表現豊かで、素直な子だから」
その姿は容易に想像がついてしまう。
きっと、自分の気持ちを隠すことなく、セリカは己の感じたままに憤りを口にする事だろう。裏表のない彼女らしい反応であり、それだけバイト先である柴関ラーメンに思い入れがあるということだ。
それは微笑ましいことだ。
大人として、そんな光景を見れるのは嬉しい事でもある。子供が子供のまま、素直に自分の考えを口にし振舞える事は、何も間違っていないのだから。
だからこそ許せない。
カイザーコーポレーションの思惑がどうであれ、その行動と用いる手段は、一方的に搾取する側のもの。
大人が子供から搾取するなど、断じて許せるものではない。先生として、何よりも大人として、見過ごす事なんて出来ない。
どうすればいいか。
一度しっかり考える必要がある。
そんなことを考えていると。
「聞かせて貰ったわ!」
いつの間にいたのか。
振り向くと、四人の生徒の姿がそこにあった。
自慢げに胸を張って意気揚々と満足気に笑みを浮かべる――――陸八魔アル。
いつもの蠱惑的な笑みではなく誇らしげに笑っている――――浅黄ムツキ。
無表情であるものの嬉しそうな様子で一歩引いた様子の――――鬼方カヨコ。
まだ見ぬ誰かに憧憬の念を抱いているようにも見える――――伊草ハルカ。
便利屋68。
私が最近知り合った、キヴォトスで会社を営んでいるゲヘナ学園に所属する四人の生徒達。
だが様子がおかしい。
いつもよりも、浮かれている様子が見て取れる。
「聞かせて貰ったわ!」
“うん、さっきも言ったね”
やぁ、便利屋のみんな、と簡単に挨拶をしてから。
“みんな嬉しそうだけど、どうしたの?”
「良くぞ聞いてくれたわ、先生!」
代表するように、アルは機嫌が良さそうに嬉々として答える。
「我が社の秘書がみんなの役に立っているようで嬉しいのよっ」
「というのが建前で、ヒーちゃんの活躍を聞くのに夢中だったアルちゃんだったんだよねー」
ムツキはからかうように笑い、カヨコは呆れた調子で冷静な口調で。
「秘書って言うけど、まだ入社していないじゃん」
「うぐっ……」
「あ、アル様。お気を確かに……!」
カヨコの言葉がクリティカルだったのか、アルは胸に手を当てて謎のダメージに抗っていた。そんなアルを健気に介抱しようとするハルカを見て、ムツキはくふふ、と笑みを零して。
「でもヒーちゃんが入ったらさ、ハルカちゃんの後輩ってことになるんだよね。先輩って呼ばれるかもよ?」
「わ、私がですか!? お、恐れ多いです。二人のご友人に先輩なんて呼ばれるなんて……っ!」
「割とノリノリで呼ぶと思うよ。今のうちに慣れとく?」
カヨコの提案に、ハルカはブンブンと勢いよく首を横に激しく振る。それはもう力強く、残像が残るほど速く。首が取れてしまわないか心配になるレベルだ。
見てて微笑ましい便利屋68のやり取り。
彼女達は本当に仲が良い事がわかるが、無視できない言葉があった。私はそれに対して、より確証を得るためにも問いを投げる。
“それよりも、アル。聞かせて貰ったって何のこと?”
「それは勿論、オウヒのお話よ先生」
自分のことのように誇らしげに言うアルに、やっぱり、と私は頷いて。
“ムツキが言っていたヒーちゃんというのは、オウヒのことかな?”
「そうだよー。私とアルちゃんとヒーちゃんは昔からの友達なんだー」
いつもの小悪魔的な笑みではなく、満面の笑みで嬉しそうにムツキは答える。
その昔とは、どれほど昔なのかわからないけれど、オウヒの人となりを知っているのは確かだろう。
それにアルやムツキの反応から察するに、とても近しい仲であることは推察できる。
“良かったら、オウヒってどんな子か教えてくれる?”
「えぇ、それは構わないわ。でもその前に……」
ちらり、と。
アルは私の隣に座っているシロコに視線を向ける。
彼女達は初対面というわけではない。
何かの縁なのか、それとも便利屋の事務所がアビドス自治区にあることもあってか、何度か顔を合わせている。
その割に、その様子はどこか余所余所しく、口にするのを戸惑っている様子であった。
その様子のまま、アルは言葉を選ぶように、シロコへと問う。
「貴女以外のアビドスの人達はいないの?」
「ん、私以外みんな用事があっていない」
「……あの三年生の人も?」
「ホシノ先輩の事? 先輩なら朝から見てない」
それを聞いたアルは、どこかバツの悪そうな顔で、そう、とだけ呟いた。
その表情から、聞かなければ良かった、という感情。そして、やっぱり、といった確信に満ちた様子が見て取れる。
シロコも私と同じように思ったのか、訝しむ様な口調で。
「ホシノ先輩がどうしたの?」
「い、いいえ。何でもないわ!」
「怪しい」
「ぅぐ……」
じーっと見続けるシロコの眼力に怯んだのか、アルは視線に逃れるように一歩下がる。
ムツキはうっかり口を滑らしたアルを見かねて。
「どうしたというか、見たというか、居たというか、ねぇ?」
“えっと、どういうこと? ホシノを見たの?”
「……えぇ、見たわ。何を話しているかまではわからなかったけど、私達のクライアントと一緒にいるところを見た」
“アル、そのクライアントって……?”
何もかも情報が足りない。それに嫌な予感がした私は、もう少し情報が欲しくてアルに質問したが。
「失礼する」
がらっ、と勢いよく柴関ラーメンの入り口が開いた。
そこには数人の生徒。この辺りでは見慣れない制服であり、皺のない制服を身に纏い、その頭には軍帽を被っている。どこか規律を重んじるかのような姿と声。
アビドスでは見慣れない制服を着た生徒。だが私は見覚えがあった。
アレは、確か。
「ゲェ! 風紀委員!?」
悲鳴のようなアルの声で、私は思い出した。
そうだ、思い出した。彼女達が着ている制服。それはゲヘナ学園の治安維持部隊であるゲヘナ風紀委員の制服だ。
物々しい雰囲気。
とてもじゃないが、食事のために来たわけではないことは明白。
緊迫した面持ちと、油断なく私達――――いいや、アル達を見ている。
それはつまり。
「我らはゲヘナ風紀委員会である。ここに我が校の生徒で校則違反者の目撃情報があった。速やかに身柄を引き渡してもらおう」
「嫌だ、といったら?」
そういうとシロコは席を立った。
便利屋を庇っている、というわけではない。
彼女達の情報、朝から見かけないホシノのことを聞くために、ここで彼女達を連れて行かれるのは都合が悪い、と判断したのだろう。
シロコらしいといえばシロコらしい。外を見ると、かなりの人数のゲヘナの風紀委員が配置されてる。これではアル達を裏口から逃がしたとしても、直ぐに捕まるのは容易に想像できる。
正に袋の鼠だ。
この包囲網を突破できるとしたら、真正面から相対するしか方法はない。
きっと、シロコもそのつもりなのだろう。彼女の手にはいつの間にか、愛銃が握られている。
対する風紀の生徒は薄ら笑いを浮かべる。
勝ちを確信した笑み。多勢に無勢で何が出来ると言わんばかりの笑みを浮かべて。
「実力行使だ。私達としても、そちらの方が手間がかからないから助かる」
風紀の生徒は手を上げる。
瞬間、控えていた生徒達が一斉に銃口をこちらに向ける。
一触即発。
誰かが下手な動きを見せようものなら、容易く引き金を引き、銃声が鳴り響くことだろう。
それが日常だ。
このキヴォトスではそれが、当たり前の風景だった。
私が先生として赴任してから、シャーレの担当顧問となってから、何度も見て来た日常だった。
そして、それは私が一生慣れることはないもの。
だからこそ――――。
“ちょっと、いいかな?”
シロコや便利屋の一歩前に、私は立つ。
下手な動きをしたからか、反射的にゲヘナの風紀委員達の銃口が私に向けられた。
シロコやアル達、大将までもが私の行動に目を剝いているのを、背中越しに感じる。
当たり前だ。私は生徒とは違い、身体が頑丈というわけではない。一発、たった一発の銃弾で私は致命傷となる。急所に当たらなくとも怪我を負い、最悪死ぬかもしれない。
自殺志願者に見えるかもしれない、命知らずに思われるかもしれない、恐れはないのかと疑問になっているのかもしれない。
私だって恐ろしい。
死ぬのは怖いし、痛いのも嫌だし、今だって逃げ出したい。
でもそれは出来ない。
私に出来る事はこれくらいだから。
力もなく、銃も使えず、話術だって長けているわけではない。
そんな私に出来ることなんて限られている。
私に出来る事なんて――――。
“一度落ち着いて、話をしないか?”
――――生徒の話を聞く。
これくらいしか出来ない。
このままでは大将のお店がボロボロになるし、アル達も性根が悪い生徒というわけでもない、シロコのホシノを想う気持ちも理解できるし、己の責務を全うしようとしている風紀の生徒達の行動だって間違っていない。
私に出来るとしたら、各々の妥協点を探り、穏便に済ませることだけ。
力による解決ではなく、弁論により言い包めるのでもない。話を聞き納得するまで対話を続ける。何事も先ずは対話から、武力を用いるのは最終手段。キヴォトスでは異端かもしれない。人によっては情けなく見えるかもしれない。だがこれが私のやり方だ。
安心させるように、恐怖を笑顔という仮面で覆い隠し、両手を挙げて私は無害を主張する。
「…………っ」
対面している彼女達からしてみたら、私は異質に見えてしまったらしい。
理解が出来ないように一歩後ろに下がる。だけど直ぐに調子を取り戻し。
「……先生にも一緒に来てもらおう」
“それは、何故?”
「それはアコ行政官の――――」
その先の言葉が紡がれる事はなかった。
轟、と。
店の外で起きた突然の爆発音。遅れて衝撃となり辺りを叩き、柴関ラーメンの店内が頼りなく揺れ始める。
何が起きたのか。
状況を確認する前に、店の入り口で行く手を塞いでいた一人のゲヘナ風紀委員の生徒が慌てた調子で。
「な、何だアレは!?」
指を差す先。
いつの間にか出来上がっていた瓦礫の山。その頂点に君臨する一人の生徒の姿があった。
制服はミレニアムの制服。堂々と瓦礫を足蹴にしながら、傲岸に両腕を胸の前に組んでいる。
頭髪は黄金色で、長さは腰の辺りまである。だが何よりも、目を見張るのは顔だ。綺麗だとか、可愛いだとか、整っているだかで形容出来るものじゃない。
その生徒、恐らく彼女は、何かを被っている。それはあまりにも奇天烈で、外見が個性的なものでありながら、塗装をピンク色に施されたフルフェイスのヘルメットを頭に装備している。
表情は読めない。
こちらを見下ろすように、その生徒は終始、シューコー、といった独特な呼吸音を絶えず発している。
いや、本当に。アレは、何だ?
どこぞの暗黒卿のような佇まいの生徒は。
『おはようございます、もしくはこんにちは、人によってはこんばんは。アレはキャットか、またはドッグ、さてはダッグと言いたげだな。そう! みんな、お待たせ! 朕である! だがそうだな、わかりやすく言うのなら』
フルフェイスの生徒は微動だにしない。
彼女から聞こえているのだから、きっと彼女が言っているのだろうが、何やら様子がおかしい。
私は懐にしまっているシッテムの箱を取り出して、どういうことなのか確認しようとするも――――。
『こちら、世界征服推進部ソロモンである』
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
かくして、壇上の役者は揃った。
ある者は――――ん、アイツ何者? とソロモンと名乗った者を警戒し。
ある者は――――ヘルメットはダサいけど、登場の仕方はカッコいいわ、と眼を輝かせて。
ある者は――――ヒーちゃん何してるの、と笑いを堪えるのに注力している。
ある者は――――アレって、オウヒ? と、ひたすらに困惑をし。
ある者は――――アル様の敵ですね、と得物を取り出し始める。
ある者は――――消えたと思ったら何やってるの、と首を傾げるゲヘナ風紀委員長。
そして、問題の彼女――――天上院オウヒといえば。
――――な、なななな何言っているのコンサバティブちゃん!?!?――――
ひたすら、ただひたすらに、ヘルメットの中で大量の冷や汗を出していた。
△先生
私達の先生。
ある意味で、一番狂っていると言っても過言じゃない人。
ここの先生は対話を大事に考えている。
銃を向けられても、話をしようか、って言ってくる系大人。しかも笑顔で。なにそれこわい。
そして変態である。なにそれこわい。
△砂狼シロコ
ん、メインヒロイン。
オウヒとは全く接点がないけど、何か知っている気がする。本当に接点はない。このシロコとは会った事もない。
裏設定として、オウヒはシロコと一番仲良くなるとバッドエンドに直行する。
△『こちら、世界征服推進部ソロモンである』
こんな最低なタイトル回収あってのいいのか。
やりやがったな、コンサバティブちゃん。マジかよこの野郎、やりやがった。
△な、なななな何言っているのコンサバティブちゃん!?!?
そして白目を剝くオウヒ。
先生がいるとコンサバティブちゃんから聞いて、被ったらこれである。