こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~
サオリ「鼻水と眼の痒みが酷くて昨日まで、花粉なんてこの世からなくなってしまえばいい、と思っていた」
アズサ「思っていた?」
サオリ「殿下が、くちゅん、って涙目になりながら可愛いくしゃみをしているのを見たら、この世にはなくなっていいものなど一つもないのだ、と悟ってしまった」
ヒヨリ「真理ですね~」
アズサ「あぁ、深いな……」

ミサキ「いいや、浅いと思う……」
アツコ「殿下の涙目、見たかったね」


 感想や評価を頂きありがとうございます!




第9話 オウヒのダメな発作

 

 

 正直な話、ワタシが出る幕なんてないと思っていたりする。

 だって、便利屋68を捕まえるために、ゲヘナの風紀委員が包囲しているとはいっても、相手はあのアーちゃんとムーちゃんだ。あの二人が揃っていれば、きっとどうとでもなる筈。

 

 だとしても、放っておけない。

 ワタシの大事な二人がピンチだというのなら、余計なお節介かもしれないけれど、何とかしたいと思うのはしょうがないことだ。言ってしまえば、ワタシの我儘である。

 

 でもどうしようか。

 ワタシが風紀委員の包囲網をズタズタにして、穴を作るということも出来ると思う。というか、ワタシが役に立てるとしたらそれくらいしかない。ワタシなんて人よりも少しだけ、力が強いだけだし。何せ猪女であるわけだし。ワーッと言って、ワーッと暴れて、ワーッと場を散らかす事しか出来ないのだ。

 

 でもそれだと、今度は空崎さんに迷惑をかけてしまう。

 ゲヘナの風紀委員会ということは、委員長である空崎さんの部下でもある。

 それをワタシが暴れて、無駄に被害を出してしまう、というのも気が引ける。ただでさえ心労が絶えない彼女に、それは酷ではないだろうか。

 なので、風紀委員を相手に暴れるのは最終手段。本当にどうしようもなくなったら、心で空崎さんに謝罪しながら暴れる事にする。終わったら菓子折りをもって謝罪も忘れない。でもこれはどうしようもなくなったら。

 

 ワタシは、アーちゃんとムーちゃんを逃がして、更に空崎さんにも迷惑をかけない程度に風紀委員の包囲網に穴を造り、かつこれを機にワタシが奥底に仕舞い込んでいた()()()()()も出来れば発散させてみたい。

 

 んー、無理では?

 アレも叶えたい、コレも叶えたい、それも叶えたい。どう考えても欲張りが過ぎる気がする。高望みしたら絶対に失敗するロジックに、もしかしたらワタシは踏み込もうとしている気がする。

 

 ない頭を捻って、可哀想な知能指数で、リオ会長とは比べるのもおこがましいIQで、ワタシは何とかお粗末な頭で知恵を絞ろうと試みていた。

 なんともマヌケな姿だ。空崎さんとはぐれたときには、どうしようと思ったけど、どうやら正解だったみたいだ。他人には見せられない醜態を晒しているよワタシ。

 

 

『マスター』

 

 

 ここで、腰にぶら下がり、ずっと黙っていたコンサバティブちゃんが応答を始める。

 いきなりどうしたのだろう。もしかして、一緒になって考えてくれたりするのかな、なんて思っていたワタシに彼女は更に追い討ちをかけるように。

 

 

『不味いです。でも不味いといっても人それぞれですね。なので訂正します。不味いかどうかは視点の見方によるものであり、それは判断するのは我々ではない。なのでわかりません。わからない、とは何でしょうか?』

 

「具体的に」

 

『便利屋68がシャーレの先生と一緒にいます』

 

「不味いじゃん!」

 

 

 そう、不味い。

 リオ会長にもずっと言われていることだけど、ワタシは基本的にシャーレの先生と接触してはならないという厳命を受けている。

 そんな状態で、アーちゃんやムーちゃんに手を貸すことなんて出来るのだろうか。割と無理だと思う。

 

 

『何を言っていますかマスター。貴女には私がついています。それともなんですか、お忘れなんですか? 私がワールド弄ばれコンテストチャンピオンだということを知っていての放置ですか? わざとですか?』

 

「え、ワールド、なに?」

 

『……本当にお忘れの様子。このたわけが』

 

 

 はぁ、とコンサバティブちゃんは溜息、を吐いた気がしたのはワタシの気のせいじゃない筈。

 

 

『我輩を装備するのです。当初の予定通り』

 

「えー」

 

『うっわ、露骨な嫌な声。ありがとうございます。頂戴頂戴、そういうのもっと頂戴』

 

「ちょっと鼻息荒くない?」

 

『気のせいです。さぁ、装備してくれ。無邪気な顔で、また僕を茶化すように』

 

 

 忘れていた。

 先生と接触しないための、ワタシが天上院オウヒだとバレないための、そのためのコンサバティブちゃんだった。

 この子が多機能であまりにも忘れていた。主に、ワタシの話し相手とか、お風呂で音楽をかけるスピーカーとか、明日の天気予報とか、一緒にクロノスの報道を見たりと、本来の用途ではない使い方ばかりをしていたから忘れていた。

 

 

 正直に言うと、凄く気が引ける。

 コンサバティブちゃんは被って人前に出るのは、流石に気が引ける。

 ワタシに度胸がないからだろうか。それともデザインがクソダサいからだろうか。塗装の色は完璧なんだけどね。ピンクだし、凄く可愛い色だし。

 

 でも背に腹は代えられない。

 これを被らないと、アーちゃんとムーちゃんの手助けすら出来ないというのなら、何を迷う事があろうか。

 

 

「被るけどさ、余計な事を言わないでよ?」

 

『勿論ですとも。フッフッフ、腕が鳴る――――いいえ、頭が鳴りますね。ガンガンと』

 

 

 どういう比喩表現なのか、疑問に思いながらワタシはコンサバティブちゃんを装備する。

 でも被り際、彼女が言っている言葉を、もう少し追求しておけば良かったと思った。

 

 

『やってみたかったんですよね――――タイトル回収』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在。

 この場は混沌に包まれていた。

 突然、現れた謎の怪人に周囲は釘付け――――正体はワタシです。

 更に、無駄にカッコつけている――――腕を組み、瓦礫の山を足蹴にやたら偉そう。

 終いに、妙な事を口走る始末――――世界征服推進部、ってなに?

 

 

 コンサバティブちゃんや、どうしてくれるのこの空気。どうしてあんなことを口走ったの。そもそもソロモンって誰で、どういう設定なの?

 

 

『――――最っ高。もう思い残すことはありませんね……』

 

 

 待って、マジで待って。

 コンサバティブちゃん? 置いていかないで。ワタシを置いていかないでマジで。どう収拾つければいいのこれ。

 

 

『私としても、マスターのお手伝いも兼ねてなんですけど?』

 

 

 どういう意味ですか?

 

 

『常日頃、「あー、世界征服してーマジで。世界征服したいわーマジで」っていったでしょうに。錠前サオリ相手に』

 

 

 ジョークなんですけど。

 天上院ジョークなんですけど。本当にやるわけないでしょうそんな物騒な事。

 サオリが喜ぶから、言ってたというのはありますけど。本当にそんなもの目指したことなんてないよ。

 

 

『思わせぶりな態度イクナイ。錠前サオリ、本気にしてましたよ?』

 

 

 どんだけ純粋なのあの娘。見た目凄い綺麗系なくせに、中身幼女じゃん。ギャップにやられそうワタシ。

 本当に冗談だったんだけど――――あっ、殿下の大望云々ってそういう意味だったの!?

 

 いいや、確かに軽はずみに言ったのはワタシが悪いかもだけど、この状況どうするつもり?

 打開策とかあるの?

 

 

『ないですよそんなもん。思い立ったら即行動、それが人生の基本ルールだと学んでいますので。我が命、閃光の如く』

 

 

 ワタシを巻き添えにしないで欲しかったなーって。

 

 

 

 

 

 と、ワタシとコンサバティブちゃんは外部に聞こえない声で会話という名の会議をしていた。

 もはや会議にすらなってない。何せ、この状況を引き起こした張本人は、謎に満足したのか打開するつもりもなし。やれると思ったから遂やっちゃった、みたいな動機でしかない。何でそんな刹那的なの? 蚊取り線香みたいなヤツじゃん。

 

 

「ソロモン……?」

「知ってる?」

「知らん」

「ていうかずっと黙ってんだけど?」

 

 

 周囲が、というかゲヘナの風紀委員会達がザワつき始める。

 当然だ。傍から見たら、いきなり現れて、いきなり名乗り始めて、そしてだんまり決めているんだもの。目的も見えてこないし、こうしている理由も見えてこない。彼女達からしてみたら、謎の怪人ソロモンと名乗った者の動機がわからないのだから、困惑するのも無理もない。

 

 そして、それはワタシも同じなのです。

 困った、本当に困った。アーちゃんとムーちゃん、そしてついでにシャーレの先生に向けられた銃口はこちらに向けられて、一先ずは安全を確保したのはいいとして。

 

 これから本当にどうしよう。

 

 

 そこで視線に入るのは、彼女達のトップでもある空崎さん。

 いつの間にか逸れてしまっていた彼女は、どうやら風紀委員会と合流出来たようだ。

 

 良かった良かった。

 あと、助けてください。タスケテ、タスケテ。

 

 

「…………」

 

 

 ワタシは必死に、無言で、ジッと空崎さんを見つめる。

 数秒の見つめ合い。ワタシの懸命な救援要請に、どれくらい通じたのかわからないけど、空崎さんは溜息を吐いた――――気がする。

 

 そしておもむろに、ポツリポツリ、と。空崎さんの静かでありながら、凛とした声が、辺りに響く。

 

 

「アレは……」

 

『ヒナ委員長、ご存知なのですか?』

 

 

 いつ間にかそこにいたのか。

 立体的な映像と共に、映し出されていた空崎さんの部下らしき人が問いを投げた。

 なんというか、奇抜な格好だった。ワタシが言うのもあれだけど、個性的なファッション。アレはアレで通気性がいいかもだし、ちょっとワタシも真似してみようかな。横乳はアレだけど、下乳なら恥ずかしくないかもしれない。

 

 

「うん、アレは……」

 

『委員長?』

 

「アレは、そう。うん、アレは……」

 

 

 あぁ……!

 空崎さん、凄い頑張ってくれている……!

 でも見つからないんだ、フォローの言葉が……! 

 本当にゴメンね……!

 

 あぁ、凄い泳いでる。眼が凄い泳いでいる。

 しどろもどろって、あんな事をいうのだろう。でも誰もツッコミを入れないのは、空崎さんの人望であり、カリスマ性なのだろう。ワタシから見たら頑張って考えてくれているように見えているし、風紀委員の方々には言葉を選び思慮深く見えているのだろう。

 

 でもそれも時間の問題だ。

 これ以上は引き伸ばせないし、空崎さんのカリスマにも限界がある。

 いっそのこと、逃げた方が良くないかなワタシ。お茶を濁して、有耶無耶にした方が一番丸いまである気がする。

 

 そう思っていると。

 

 

「――――まさか、あのソロモン……?」

 

 

 第三者の声。

 ワタシや空崎さんはバッ、とそちらに視線を向ける。

 

 そこには――――柴関ラーメンから出て来たカヨコちゃんの姿。そしてその後ろには、アーちゃんやムーちゃん、そして自信なさ気ではあるもののやる気がある娘。シャーレの先生とアビドスの生徒らしき娘がいた。

 

 何を言うつもりなのか、困惑していたけど、カヨコちゃんは小さくワタシに向けて親指を立てていた。

 つまりはサムズアップ。任せろ、と言わんばかりに。

 

 まさか、カヨコちゃん。

 ワタシや空崎さんの様子を察して、フォローしてくれるのだろうか。何て察しの良い人なのだろうか。出来る女とは、カヨコちゃんのことを言うに違いない。

 

 それを見ていたムーちゃんは、くふふ、と楽しそうに笑みを浮かべて、何もかもを察している様子でパスを出す。

 

 

「知っているの、カヨコちゃん?」

 

「うん。ゲヘナでかつて君臨していた『雷帝』と覇を競い合い、敗れた生徒だよ」

 

『はぁ!? そんな生徒、聞いたことありません!!』

 

「そ、そうよ! 本当なの、カヨコ課長!?」

 

 

 空崎さんの部下らしき人が取り乱しながら言う。アーちゃんも同意するようにカヨコちゃんに詰め寄る。

 うん、そうだよね。いないもんそんな人。ていうか、雷帝ってゲヘナでは凄い人じゃなかった? そんな知る人ぞ知る人の関係者ってことにしたら、後々で大事にならない?

 

 

「……『雷帝』が恐れて歴史の闇に葬ったからね。自分の反抗勢力として、担ぎ出されないための処置なんだと思う。だから、ソロモンの存在は公には出てない」

 

 

 ……なんか、それっぽいことを言っている。

 そして、不思議な事に、みんな何故か納得しかけている。カヨコちゃんの話術が原因なのか、信じ込ませる理由があるのかわからないけど、丸め込まれようとしている。ワタシはひたすら見守る事しか出来ない。下手に口を挟めばボロが出るし。

 

 カヨコちゃんは視線を空崎さんに向ける。

 ダメ押しと言わんばかりに。

 

 

「――――そうだよね、ヒナ?」

 

 

 対する空崎さんは。

 

 

「――――そう」

 

 

 全力で乗っかっていた。

 今まで見たことないくらい力強い頷き。

 それを見ていたゲヘナ風紀委員の皆さんといえば――――。

 

 

「あの『雷帝』とやり合ったって……!?」

「聞いたことあるか?」

「ないよ。でも委員長が言うんだから間違いないだろう」

「それに、あの鬼方カヨコまで言ってんだぞ?」

「私達が知らないだけで、ゲヘナでそんなことが……」

「黙っているだけで、凄い威圧感……!」

 

 

 ワタシが言うのもなんだけど、なんで嘘だってバレてないんだろう。

 異議を唱えていた、空崎さんの部下らしき人も今では黙って、ワタシを警戒するような目で見ている。空崎さんは兎も角、もしかしてカヨコちゃんってゲヘナで影響力ある人?

 

 なんだか、コンサバティブちゃんが暴走して名乗ったソロモンに、とんでもない設定が付属された気がする。

 

 

『そうである、朕こそソロモンである。皆さんご存知、ソロモンである。今日はなんとお日柄が良い事か!!』

 

 

 うん、黙っていようねコンサバティブちゃん。

 これ以上ややこしい事になったら、それこそ大変な事になるから。本当に黙っていようね。

 

 ここで空崎さんが一歩、二歩、風紀委員達の前に出て。

 

 

「アコ、言いたい事は山ほどあるけど、今は撤退準備をして」

 

『ですが――――』

 

「いいから言う通りにしなさい。私はアレを抑える」

 

 

 そういうと、真っ直ぐワタシに視線を向ける空崎さん。

 敵意なんて程遠い視線。ある種のアイコンタクトをワタシに送っている。きっとどういうつもりなのか、気になっているのだろう。

 

 本当に申し訳ない、ワタシ達の暴走でこんなことになって、本当にごめんなさい。

 でも――――。

 

 

「『ほう? 余を――――いいや、朕を抑えると言ったか、風紀委員の?』」

 

 

 これは願ってもないことでもあった。

 自然と、ワタシの口角が上がる。引き裂くように、愉しそうに、初めてワカモと戦ったときのような笑みを、ワタシは浮かべている事だろう。

 

 

『ヒナ委員長、お一人では……!』

 

「アレが本物のソロモンだというのなら、私一人でも危ない。風紀委員会だってタダじゃ済まないでしょう。それに()()()()()に、私達の被害は最小限に止めておくべき。だから早く撤退準備をして」

 

『……わかりました。ヒナ委員長、ご武運を』

 

 

 ワタシは横目で、便利屋のみんなの様子を見る。

 どうやら撤退する準備をしているみたい。アーちゃんはワタシを指差してなんか言ってるし、ムーちゃんはそんなアーちゃんを宥めており、もう一人オドオドしている娘は油断なくワタシに銃口を向けている。そしてカヨコちゃんといえば――――シャーレの先生と何かを話している。

 

 距離があるからか、話の内容まで聞こえない。

 『アビドスの三年生』『黒いスーツ』『アビドス砂漠』といった単語が耳に入ってきたけど、断片的過ぎて何を言っているのかわからなかった。特に『黒いスーツ』って辺りで嫌な予感がする。

 

 気になるけど、ワタシには追求する時間はなかった。

 

 ワタシは空崎さんに向き直り、背後に大きく跳ぶように後退して、そのまま背後のビルの側面を足がかりにして上へと駆け上がった。

 目指すは、ビルの最上階。この辺り一帯を見渡せる建物の屋上を目指した――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 アコに撤退の指示をして、私は彼女を追いかけた。

 どういう身体能力をしているのか。彼女は苦もなく、重力に反した動きで、ビルの側面を駆け上がっていた。まるでその姿は猫のようだったけど、違いは四肢を使っているのではなく、彼女は己の両足のみで駆け上がっていたという事。

 

 私もそれに倣う事にしよう。

 でも私の場合は、両の羽を使いながら。蹴り上げて滑空をし、落下しないようにしてもう一度駆け上がる。自分の身体的特徴を使いながら。自身の身体能力のみを使っている彼女とは、少しだけ違う。

 

 そうして、私もビルの屋上に降り立った。

 待ち人は――――居た。

 

 彼女は辺りを見下ろしていた。

 息切れ一つしていない。彼女からしてみたら、先ほど壁を駆け上がったという非常識ですら、準備運動にすらならないみたい。

 

 現に。

 

 

「大した、統率力よな」

 

 

 どこか愉しげに、眼下に広がる光景を見て、彼女は――――天上院オウヒは続けて言う。

 

 

「あれほど、余を警戒していた連中が、貴様の命令一つで即行動に移すとはな?」

 

 

 

 彼女は振り返りすらしない。

 それが少しだけ腹が立って、私のほうを見ない彼女に苛立ちを募らせながら、私は問いを投げた。

 

 

「……アレは、なに?」

 

「アレ、とは?」

 

 

 まだ彼女は私を見ない。

 自分でもびっくりするくらい、不機嫌さを滲ませた声で。

 

 

「ソロモンよ。なんであんな事を言ったの?」

 

『空崎ヒナさん。アレは私が勝手に言った事です。マスターに悪気は――――』

 

「――――具足」

 

 

 私の両肩が、驚きで大きく揺れた。

 その声はあまりにも聞いた事がないくらい冷たい声だった。普段の彼女から発したとは思えないほど、威圧に満ちていた。

 

 憤怒に燃えている、失望し切っている、そう言った類ではない。

 ひたすらに冷たく、身体の芯から冷えるかのような、絶対服従しか許さないといった傲慢な声色。

 

 

「一度目は貴様の戯れに付き合ってやった。しかしだ、これ以上貴様の戯れに付き合ってやるほど、余は寛容ではない」

 

 

 これではまるで――――。

 

 

「――――具足よ、二度目はないぞ」

 

『……申し訳ございません。出すぎた真似を致しました』

 

 

 ――――暴君のそれだ。

 否定など赦さない、拒否など赦さない、これ以上の発言は赦さない、彼女は暗にそう告げていた。

 

 思わず、私は身構えていた。

 無意識にいつでも動けるように、膝を曲げて彼女の行動に備えていた。

 意識なんてしてない。問題児を鎮圧してきた経験が、幾度も戦ってきた本能が、私に告げていた。目の前の彼女は、私と戦う気であると。

 

 対して彼女は気にする素振りすら見せずに、さて、と何気なしに呟いて。

 

 

「風紀委員の、何のつもり、と言ったな?」

 

 

 そこでやっと、彼女は私を見た。

 表情は読めない。当たり前だ、例の奇天烈な防具を被っているのだから、表情なんて読めるわけがない。

 

 でも声は聞こえる。

 その声は、喜色を滲ませて、本当に愉しそうに。

 

 

「余もこうなるとは想定外であったが、良い機会だった故、案山子に徹していた」

 

「良い機会って……?」

 

「機会は機会だ。余の昔馴染みが貴様の組織に捕まりつつあった。余は逃がしたいし、貴様は捕まえたい。これ以上にない良い機会が出来てしまった」

 

 

 嬉々とした声で、頭部の防具を脱ぎ、腰に引っ掛ける。

 

 現れたのは――――笑顔。

 見下すとも、友愛とも、不気味とも、心地良いとも違う。

 ひたすらに、愉しそうに。愉楽に満ちた笑みを、口元を引き裂くような笑みを、私に向けていた。

 

 

「貴様が強いのは知っていた。戦いたかったが、理由がなかった、機会もなかった、状況も悪かった」

 

 

 だが、と彼女は言葉を区切り。

 

 

「理由が出来てしまった、機会にも恵まれてしまった、状況は最高となった。これ以上になく、な?」

 

 

 そういうと、彼女の両手にはいつの間にか大型の拳銃が握られていた。

 右手には白金の銃、左手には黒金の銃。

 

 敵意はない、殺意もない。だが戦意に満ちた視線のまま、彼女は焦がれるようにして。

 

 

「馳走を前にして、我慢が出来ぬ浅ましい()()なことだ。――――風紀委員の、ゲヘナの最高戦力よ。どうか、余と一曲(おど)ってはくれまいか?」

 

 

 

 

 

 

 





 △ソロモン
 かつて雷帝と覇を競い合ったとされる怪人。
 歴史の裏に抹消され、彼女の人となりを知る記録は残されていない。
 マジでそんな人いたの、ってレベル。
 我々はその謎を解き明かすべくジャングルの奥地へと向かった

Q.インタビューに答えていただきありがとうございます。
A.キキキッ、マコト様に聞きたい事があると聞いている。遠慮なく聞くがいい。私のことであれば何でも話そう。

Q.あっ、別に。
A.そうか、そうか……。

Q.ソロモンと呼ばれる生徒についてです。かの雷帝と争った、と空崎ヒナさんと鬼方カヨコさんに聞いています。
A.ほう、ソロモンか。

Q.知っていることがあれば教えてください。
A.…………。

Q.あの……。
A.何それ知らん。こわっ。

Q.えっ?
A.えっ?


 △殿下の大望
 Vol.0 第2話参照





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