こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~
オウヒ「ちょっと可愛い蝶々のシールがあったから、ドレッサーの鑑に貼ってみた。ドレッサーの前を通るたびに、蛾がいる! って一瞬ビクってなるの疲れたからシールを剥がす事にした」
アツコ「殿下、虫苦手なの?」
オウヒ「嫌い、大嫌い」
アツコ「そう。ところで、花壇にミミズがいてね」
オウヒ「」
ミサキ「気絶してる……」

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第12話 だって俺のヒーロー

 

 

 子供の頃、俺はヒーローというヤツに憧れていた。

 悪を倒し正義を成し、困っている人を見たら助ける。そんなありきたりなヤツだ。

 

 理由も単純なモノで、それがカッコいいと思ったからさ。

 自分の身を省みず、他人を優先にする生き方に、子供の頃の俺は強く憧れていた。

 

 

 本当に子供のような夢さ。

 なんとも青臭くて、薄くて浅い理由だが、大目に見て欲しい。

 

 現に、今の俺にそんな夢はない。自分もヒーローになりたいといった憧れもない。

 理由は単純。自分のことで手一杯だからさ。歳を重ねていくと、現実ってヤツが否が応にも見えてきちまうもんだ。

 

 

 ヒーローなんていやしない。

 ましてや、悪を倒す正義の味方なんてものも、この世には存在しない。

 弱い者の主張は捻じ伏せられ、強い者の主義だけがまかり通る。様々な挫折を味わい、人生は思い通りにならないもの。それが世の中の仕組みだと、俺は気付いてしまった。

 

 

 キヴォトスでは、当たり前の日常だった。

 俺達のような力を持たない市民は、抗う事なんて出来やしない。

 今考えれば、俺がヒーローなんてものに憧れたのも、それが理由の一つだったのかもしれない。力を持たずに、産まれてから弱者側にいたからこそ、俺はヒーローなんて青臭い職業に憧れていたのかもしれない。

 

 

 歳を重ねて、現実ってヤツに直面して、いつしかヒーローになりたいなんて夢は忘れちまった。

 別に、未練はなかった。大人になるってことは、そういうことだ。子供の頃に抱いた夢なんて、いつしか忘れちまうもんだ。

 

 俺はヒーローにはなれなかった。

 でも今の、大人になった俺も、気に入っているのも事実だ。ラーメンを作るのは好きだし、俺のラーメンを食いてぇときてくれるお客さんまでいる。

 

 繰り返すが、俺はヒーローにはなれなかった。

 だけど、いいや、だからこそ。ヒーローにはなれなかったが、だからこそ、何の力も持たない俺だからこそ、間違っている事は間違っていると、言い続けなきゃならねぇと思っている。

 

 それは――――。

 

 

「この自治区は退去命令が下った! さっさと出て行け!」

 

 

 ――――今なんだろう。

 

 いつものように、俺は厨房に立っていない。

 俺が立っているのは、カウンター席の通路。

 

 店の前には、俺なんかじゃ太刀打ち出来ない、6名のカイザーPMCの姿があった。

 その両手には銃。俺は銃に詳しいわけじゃないが、ライフルを装備している。人を傷つけるには十分な装備。対して俺は無手であり、おまけに一人でコイツらと対峙している。とてもじゃないが、戦えるわけがない。

 

 でも、引けない。

 引けない理由が、俺にはあった。

 

 

「貴様らもだ! 即刻この店から出て行け!」

 

 

 カイザーPMCの一名が声を張り上げた。

 その視線の先には俺の背後。俺の後ろには――――うちの常連でもある、アビドスに住んでいる人達の姿。

 

 全員が全員、怯えている。

 アビドス自治区内で、いきなりカイザーの連中が暴れ始め、どうしていいかわからずに、俺の店まで避難してきた人達だ。混乱しながらも無意識に、俺なんかを頼りに来てくれたのだろう。

 そんな連中を置いて、俺だけ逃げるわけにはいかねぇ。そんな情けない真似、俺には出来なかった。

 

 

「……ここはラーメン屋だ。注文しねぇのなら、出て行きな」

 

 

 明らかな虚勢、自分でもわかるくらいだ。

 何せ、多勢に無勢。あっちは武器を持っているし、こっちは素手。勝敗など明白であり、それは連中もわかっているのか、ニヤけた面を隠そうともしない。

 

 それが気に入らねぇ。

 銃をチラつかせて、自分達の思い通りに事を進めようとする。コイツらが気に入らない。

 強い口調で恫喝し、武器を持ち脅迫し、弱者(こっち)の言い分を聞き入れない。そんな強者(コイツら)に腹が立ってならねぇ。

 

 俺だって多少は頑丈だ。だが、コイツら程でもねぇし、銃だって扱えない。一介のラーメン屋である、俺なんかが敵う、相手じゃない。

 

 キヴォトスでは、俺も弱者の一人。

 ヒーローに憧れた、数多く存在するうちの一人だ。

 だけどよ、だとしても、俺の後ろにいる連中の事を思うと、引けるわけがねぇ。今も怯えている、うちの常連を見捨てて良い理由には、ならねぇ筈だろう。

 

 

「我々に楯突く気か。たかがラーメン屋が」

 

「おうおう、たかがラーメン屋に銃をチラつかせねぇと、お前らは言う事を聞かせらんねぇのか。情けねぇヤツらだ」

 

 

 力も持たない、俺が抵抗するのが気に入らないのか、カイザーPMCの一人は明らかに苛立っていた。

 そんな奴のやることなんざ変わらない。やり口は今も昔も同じだ。

 

 そいつは、どけ、と言い一歩前に進み。

 

 

「無駄な抵抗をするな。さもなくば……」

 

「さもなくば、何だ?」

 

「決まっている。力尽くで排除する」

 

 

 脅しで屈さないのなら、実力行使。

 

 連中は俺に銃口を向ける。

 そして、あっさりと簡単に、引き金を引く事だろう。

 連中にとって、俺達の命なんてその程度の価値しかない。邪魔なものをどかす程度の認識で、俺達を排除しようとする。

 

 俺は思わず、身体を強張らせて、息を呑んだ。

 背後からは小さな悲鳴が聞こえ、目の前のカイザーPMCの連中は、その反応に気を良くしたのか笑みを浮かべる。

 

 

 本当にこの世界は理不尽だ。

 力を持つ奴が幅を利かせて、俺達のような弱い立場の連中は、ただその理不尽を受け入れるしか出来ない。こうして逆らったところで、現状は変わらない。

 

 助けなんて来ない。

 俺達に手を伸ばしてくれる、奴なんてどこにも存在しない。

 ましてやヒーローなんて者も、この世にはどこにもいない。

 

 

「つまらない意地だ、そのせいでお前は消える。これは見せしめだ、ラーメン屋。我々に逆らった末路を辿れ」

 

 

 眼を瞑る。

 これから来る痛みに備えて、歯を食いしばる。

 後悔はない。俺は弱者側の存在だ。それでも意地は張り通した。時間は稼いだ、うちの常連達は、裏口からどうか逃げて欲しい。

 

 

 それから数秒か。

 おかしい。一向に痛みがやってこない。銃声も聞こえない。むしろどこかカイザーPMCの連中は慌てているようでもある。

 

 何がおきているのか、わからない。

 思わず眼を開けようとすると。何発かの銃声が聞こえ、両肩が震えた。

 そして――――。

 

 

「――――ならば、貴様も同じ末路を辿る事になろうとも、異論はあるまいな?」

 

 

 耳に入ったのは、威圧するように、喜悦に満ちた、問いを乱暴に投げる声だった。

 何度も耳にした声。思い浮かべるのは、俺と二人っきりのときは、歳相応な口調になる癖に、第三者の姿があると偉そうな演技を始める、少し変な常連客。

 

 

 眼を開ける。

 店の前には、黄金が立っていた。

 その両手には黒金と白金の二挺の大型の拳銃。足元には、先程まで対峙していた、気絶し意識を失っているカイザーPMCの姿。

 

 

 黄金改め少し変な常連――――オウヒが振り返る。

 その顔つきに、他人を威圧する剣呑な雰囲気はない。歳相応な、花が咲いたような笑みを、俺に向けてオウヒ――――お嬢は口を開く。

 

 

「シヴァさん、無事?」

 

「お嬢……」

 

 

 その姿に、俺は情けない事に、安心しちまったらしい。

 ハハッ、と気の抜けた声が出ちまった。

 

 お嬢は慌てた調子で。

 

 

「だ、大丈夫!? 撃たれちゃった!?」

 

「あぁ、違う違う。おかげ様で、五体満足さ。ありがとうな、お嬢」

 

「うん、ならいいけど……」

 

 

 不思議そうに、お嬢は俺を上から下まで観察する。きっと、俺が本当は怪我をしており、強がって隠しているのではないかと、疑っているのだろう。

 

 我ながら、確かに情けない声だった。

 でも仕方ない、何せ感心しちまったのさ。

 

 この世界には、ヒーローなんていないと思っていたけど、それはいきなり現れたのだから。

 しかもそれが、常連客だったと来たもんだ。笑っちまうってもんだ。

 

 

「いや、しかし……」

 

 

 ――――いるもんだな、ヒーローって……。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 アビドス自治区は酷いものだった。

 カイザーPMCが無差別に市街地を攻撃し、そこで生活している住民にまで攻撃をしようとしている。

 

 いたるところで、悲鳴が聞こえる。

 爆薬を使用しているからか、ビルは半壊しているし、黒煙が空に昇っていくのを視認することも出来た。

 

 硝煙の匂いが鼻腔をくすぐり、耳には逃げ惑うアビドス市民の声、そして――――カイザーPMCの怒声。

 

 闘争の気配がする。

 本来であれば心が躍る催しだ。気兼ねなく、躊躇する事もなく、一片の容赦なく、ワタシは力を振るい、本能のまま敵対する連中を蹴散らしていた事だろう。でも、これは愉しくない。全く以て、愉しくないモノ。ワタシは自分でも分かるくらい、苛立ちを募らせている。

 

 シヴァさんが無事で良かった。

 本当にギリギリだった。少しでも遅れていたら、カイザーPMCの凶行の餌食になっていた。そうなれば、ワタシはワタシを抑えることができなかっただろう。

 

 

 柴関ラーメンがあるエリアの一区画。

 アスファルトは砕かれて、街灯は折れ倒れ、存在していたガードレールは曲がっている。

 まだここは平和だ。何せ、問題のカイザーPMCの姿がないのだから。争いの火種が燻っていないこの区画は、取り敢えずは平和と言って差し支えないだろう。

 

 

「殿下」

 

 

 柴関ラーメンの前に立ち、この一帯に眼を向けていたワタシに、声をかける生徒が一人。

 

 誰かなど問うまでもない。

 ワタシが何度「殿下はやめろ」といっても聞かなかった。戦うしか能がないワタシを慕ってくれる人達の一人――――サオリの声だ。

 

 そちらに眼を向けると、サオリだけではなくアズサの姿もある。

 二人とも急いで来てくれたのか、衣服が少しだけ乱れていて、息も上がっていた。

 

 サオリは続けて言う。

 

 

「遅参、申し訳ございません」

 

「良い。むしろ、良くぞ参った」

 

 

 サオリから再び、一帯へ視線を戻す。

 わざわざ来てもらった、サオリやアズサには悪いけど、油断なんてしてられない。ワタシの後ろにはシヴァさんと、避難してきた人達がいる。いつでも守れるように、警戒をしないと。

 

 

「サオリ、首尾はどうなっている。仕事の早い貴様の事だ。ここいら一帯の木偶など片付けているのであろう?」

 

 

 答えたのはサオリじゃない。

 アズサは少しだけ驚いた声を上げて。

 

 

「流石、殿下だ。お見通しだな」

 

「……私とアズサで、一帯を()()致しました」

 

「あぁ、頑張ったぞ」

 

 

 恭しく言うサオリと、どこか誇らしげに口を開くアズサに、あまりにも対照的な二人で少しだけ口元が緩んでしまう。

 

 でもこれで合点がいった。

 ここの区画の被害が少ないわけだ。ワタシが来るまでに、二人がカイザーPMCの相手をしてくれていた。そのおかげで、ワタシはシヴァさんの窮地に間に合う事が出来た。

 

 

「道理で木偶の数が少ないわけだ」

 

「差し出がましい真似を致しました」

 

「何を言うか、良くぞやってくれた。貴様達の尽力によって、シヴァさん達は無事であった。そう言っても過言ではない」

 

 

 そうだ。

 ワタシはもう()()なんかじゃない。出来ない事はどうやっても出来ないし、不可能な事はどう足掻こうとも不可能のままだ。ワタシ一人では限界がある。シヴァさんを助ける事が出来たのは二人のおかげだ。

 

 警戒は解けない。

 でも、危険がないことが分かったワタシは、漸くここで二人にしっかりと視線を向けた。

 

 誇らしげにしている二人に、問いを投げる。

 

 

「此度のカイザーのたわけ共の愚行はなんだ。遂に狂ったか?」

 

「その件ですが」

 

 

 そういうと、サオリは懐から端末を取り出して。

 

 

「ミサキが調査しております。もう暫くお時間を――――」

 

 

 そこまでサオリが言うと、端末が鳴り始めた。

 タイミングが良い。発信者は当然。

 

 

「殿下、ミサキです」

 

「出ろ」

 

「ハッ」

 

 

 サオリは慣れた手付きで端末を操作し、スピーカー状態にしてワタシに向けてくれる。

 

 

「ミサキ、何がわかった」

 

『ごめん、殿下。まだ全部はわかってない』

 

「赦す、途中まででも十分だ。述べるが良い」

 

 

 うん、と電話口で言いミサキは続ける。

 

 

『アビドスの最後の生徒会だった生徒が自主退学して、アビドスの土地を所有しているカイザーが自治区の統治に乗り出したみたい』

 

「それがどうして武力制圧になる。やはり狂ったか?」

 

 

 それにその生徒が誰なのか分からないけど、自主退学なんて穏やかじゃない。退学という事は、その生徒は学園の庇護下にないということであり、自身の身分を証明する術がなくなるということ。それは、このキヴォトスでは、自殺行為に等しい。一生、日陰に生きる事になるし、まともな職に就く事も出来なくなってくるだろう。

 それを自分からなんて、余程のことだ。

 

 

「自主退学した生徒の詳細はわかるか?」

 

『現在調査中。気になる?』

 

「……いいや、捨て置け」

 

 

 気にならない、といえば嘘になるけど、ワタシには関係のない話だ。

 その自主退学した生徒が何者なのか、何の意図でそんなことをしたのか。気にならないと言えば嘘になる。でも、知ったところで、戦う事しかできないワタシが出来る事なんてない。好奇心は猫を殺すというように、ワタシが興味本位で近付くべき事ではない。

 

 退学した生徒はどんな理由であれ。

 

 

「思惑がどうであれ、カイザーは手を誤った。彼奴らが見せるべきは力ではなく、寛容さだったというのにな」

 

 

 手段を誤った。彼らは、残酷さの使い方を間違えた。

 カイザーとしてはアビドス高等学校を早く手中に収める為に、武力行使なんて手段を用いたのだろうが、それでは残酷さを悪用しただけに過ぎない。

 彼らは一先ずは、寛容さを見せるべきだった。時間をかけてでも、アビドス市民に知らしめるべきだった。カイザーに自治権が移り、アビドスよりも良かったと、アビドスに住んでいる人々に恩恵を与えて、人心を掌握すべきだった。

 

 上から物を言い、主義主張を握り潰し、反論なんて許さない。

 そんなやり方では、反発を招くに決まっている。

 力を見せるべきは今ではなかった。治安回復に努めて、アビドスが治めていた頃よりも良かったと、思わせるべきだった。

 

 

 ワタシは政治が下手だ。

 ヒナにも言われているし、そういう意味でも王の器ではない。しっかり自覚もしている。でもそんなワタシよりも、政治が下手なヤツがいるとは、正直思わなかった。

 

 

「それで、問題のアビドスの生徒はどこにいる?」

 

『自治区内でカイザーと交戦中』

 

「ほう、判断が早いな」

 

 

 てっきり、状況が飲み込めずに、手をこまねいていると思っていた。

 仲間の一人が自主退学して、その矢先にカイザーの襲撃だ。普通は、現実と展開についていけないと思うけど、アビドスの生徒達はちゃんと物事の優先順位を把握できる娘達だったらしい。

 

 

『それと』

 

「なんだ?」

 

『アビドスの生徒の中に、先生の姿も確認が取れている』

 

「シャーレの? 確かなのか?」

 

『うん。偵察ドローンで映像も確認済みだよ』

 

 

 キヴォトスでは完全な中立組織。連邦生徒会の直轄である『S.C.H.A.L.E(シャーレ)』。その担当顧問である“先生”が、カイザーではなくアビドスと共にある。

 その事実だけで、カイザーPMC及び、カイザーコーポレーションは旗色が悪い。武力で市民や建物を襲撃し、尚且つ、中立組織がアビドスに力を貸している。それだけで民意はカイザーに味方なんてしないことだろう。

 

 こんなもの、負け戦だ。

 ここで勝利した所で、後に続くものがない。

 カイザーは本当に何を考えて、こんな手段を取ったのだろうか。

 

 

『どうするの、手を貸すの?』

 

「……貴様達はどうしたい?」

 

 

 ミサキには悪いけど、ワタシは逆に質問で返した。

 サオリ、アズサは。

 

 

「私は殿下の命に従います」

 

「私は助けるべきだと思う。アビドスの人達が困っているから」

 

「ミサキはどうだ?」

 

『放っておきなよ。私達には関係ないじゃん』

 

 

 身内以外がどうなろうが知ったことじゃない、と暗にミサキは語る。

 対してアズサはムッ、と不機嫌そうに目を細くするが、憤りをぶつけることはない。きっと、ミサキの言葉にも一理あると、意識はしてないものの理解はしているのだろう。

 

 そんなアズサは恐る恐る、といった様子で。

 

 

「殿下はどう思っているの?」

 

「……そうさな」

 

 

 ワタシは少しだけ考えて。

 

 

「ここで、カイザーの木偶共と一戦交えても良い。我らは圧倒的な力で彼奴らを蹴散らし、蹂躙し、押し潰し、鏖殺する」

 

 

 だが、と言葉を区切って。

 

 

「然る後に、我らはアビドス市民に感謝されてしまうな」

 

「良い事じゃないのか?」

 

 

 首を傾げて、アズサは言う。

 ワタシはそれに頷いて。

 

 

「あぁ、良いことだろうさ。報酬はないが、連中は助かり、余達の自尊心は満たされる。……だが、アビドスの生徒共はどうなるかな?」

 

「どう思うかではなく、どうなるか、ですか?」

 

 

 サオリの問いに、ワタシは簡潔に答える。

 

 

「市民共は我らに感謝するだろうさ。アビドスと全く関係のない我らに、な。そうなればだ、次の矛先は自治区を治めていたアビドスに向かうのは必定」

 

 

 全員が全員じゃない。

 中には、善良な市民さんだっている。みんな、自分本位なわけがない。だからこそ、こうしてアビドス自治区は成り立っているし、キヴォトスだって表立った暴動等は起きていない。平和、と呼ぶには紛争が絶えないけれど、それでも最低限の治安は守られている。

 でも――――。

 

 

「関係のない余達が戦い事態を収め、アビドスの生徒は何をしていた。などと口汚く罵る輩は必ず現れる。そして決まって、そういう連中の声はやたら通る。十の声援よりも、一の罵倒が勝る事もあるのだ」

 

「なるほど、アビドスの面子もあるから、私達が首を突っ込むべきではない。そういうことですか?」

 

「然り」

 

 

 サオリの問いにワタシは頷いた。

 つまりはそういうことだ。目先の平穏のためなら、ワタシ達は彼女達に手を貸すべきなのだろう。ここで迅速に事態を収拾するべきなのだろう。

 

 でも問題はその後だ。

 今、カイザーを蹴散らした所で、事態は好転しない。一時的に凌いだだけに過ぎないし、必ずカイザーは再びアビドスに侵攻してくるに決まっている。

 ワタシだって、そこまでお人好しじゃない。ワタシが守るのは、シヴァさんのお店があるこの一区画のみ。あとのアビドスのことなんて知らないし、その都度、アリウスの娘達に、アビドスを守ってもらうようお願いする理由も、義理もない。

 

 悪いけど、アビドスかアリウスとなったら、ワタシは迷わずにアリウスを選ぶ。

 

 

 ワタシの見解に、サオリは肩を震わせて、涙を滲ませて。

 

 

「ご慧眼、感服致しました。そこまでお考えとは、流石殿下でございます……っ!」

 

「……ククッ、まぁね」

 

 

 対してワタシはいたたまれない気持ちになる。

 冷や汗は滝のように現れ、眼がこれでもかってくらい泳いでいる。出来る事といえば、不敵に笑うことくらい。

 

 だって今の考え、全部リオ会長のアドバイスなのだから。

 ここに来る前に、リオ会長に釘を刺されました。戦うなと、そしてその理由も、丁寧に説明されましたとも。確かそんなことを言っていました。さすがリオ会長、滅茶苦茶考えていました。

 会長のアドバイスがなかったら、ここをサオリ達に任せて、カイザーを見敵必殺(サーチ&デストロイ)してましたよ。いや、危なかった。アビドスの生徒から、恨みを買うとこでした。

 

 

 でもね、なんか、違うよね。

 政治的には正しいのかもしれないけど、何だか心にモヤモヤがある。

 

 

「……殿下は」

 

 

 それはアズサも同じようで。

 

 

「殿下は、アビドスの人達を、助けないの?」

 

 

 縋るように、悲しそうに、アズサは純粋にワタシに問う。善良なアズサらしい。リオ会長のアドバイス、いいや、ワタシの判断を聞いて納得し、それを踏まえた上で、彼女はアビドスを助けたいと思っているのだろう。

 困っている人がいたら手を差しのばす。そんな当たり前のことが出来るのが、アズサという娘なのだから。

 

 

「そうさな」

 

「……ッ」

 

 

 アズサは顔を俯かせて、持っていた小銃をギュッと握り締める。

 今にも駆け出しそうだけど、その前に。

 

 

「――――それでも、今を戦わなくてもいい理由にはならない」

 

 

 ワタシだって、助けられるのなら助けたい。

 見て見ぬ振りが出来るほど、器用な女じゃないし、大人でもない。

 

 アズサは顔を上げて、輝いた眼でワタシを見つめて。

 

 

「……それじゃあ!」

 

「あぁ、要はアビドスの連中にバレないように、戦えば良いだけのことであろう」

 

 

 裏からこっそりと。

 カイザーの数を減らしつつ、影ながらアビドスの生徒達と先生を手助けをする。要はステルスだ。やった事がない試み、ちょっとだけワクワクするよね。

 

 はぁ、とミサキは溜息を吐いて、冷や水をかけるかの如く。

 

 

『それじゃ、殿下は大人しくここにいてよね』

 

「え、なんで余」

 

『理由は単純。殿下、凄く、目立つ、足手まとい』

 

 

 え、嘘、マジ?

 反射的にサオリとアズサに眼を向ける。

 

 アズサは自信満々に頷いて、サオリはというと。

 

 

「殿下のご威光があれば目立つのは当然かと!」

 

 

 サオリ、それフォローになってないと思う。

 

 そうしてワタシを置いて話は進んでいく。

 偵察ドローンから状況を把握して、ミサキがサポートをし、その指示にサオリとアズサが従い、カイザーの戦力を削り影ながらアビドスの生徒と先生を助ける。ワタシはというと、ここで待機という名のお留守番。

 

 方針は決まった。

 決まったけど、二人はワタシをジッと見つめている。何かの命令を待っている兵隊のように、指示を待つ猟犬のように、ワタシの命令(オーダー)があるまで待機していた。

 

 何度も言うけど、ワタシは別に二人に命令が出来るほど偉くはない。

 どこにでもいる、キヴォトスの生徒。それだけに過ぎない。

 

 だけど。

 

 

「よかろう。此度の些事、貴様達に任せる。存分に特技を披露し、躾のなってない彼奴らの顎を食いちぎれ」

 

「殿下、特技って?」

 

 

 首を傾げるアズサに、ワタシは笑みを浮かべて。

 

 

「――――狩りだ。存分に、愉しんで来るが良い」

 

「ハッ、認識致しました」

 

「あぁ、行って来るぞ殿下」

 

『殿下は絶対、ここから離れないでよ?』

 

 

 こうして、サオリ達は戦場へ駆けて行った。

 

 出来れば、ワタシも行きたかったけど、仕方ない。隠密だというのに、目立つから足手まとい、と言われては本当に仕方ない。それでもちょっとやってみたかったなステルス。

 でもまぁ、大丈夫でしょう。サオリとアズサ、そしてミサキのサポートがあれば。

 

 ワタシに出来ることは。

 

 

「黙ってお留守番してよっと。――――シヴァさーん、ラーメン食べたいなー!」

 

 

 





 裏話:ブルアカ本編通り、便利屋68もアビドスの生徒と先生に協力している。オウヒに便利屋もいるってバレてたら、ノリノリで戦いに行っていた。良いところを見せたい。便利屋に。


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