こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

47 / 113

 ~ソロモンちゃんねる~
リオ「ねぇ、オウヒ。ヒマリさんのことなんだけど」
オウヒ「えっ、深めの溝が出来てない貴様ら??」


 裏設定
 実は、先生ほどじゃないけど、オウヒも行動によってはバッドエンドに直行するものがいくつかある。


第18話 呼んでもいないし跳び出ないで

 

 カイザーPMCの軍隊の規模は大隊程度。

 しかも、外敵を想定している軍隊――――名前は『対デカグラマトン大隊』だったかな。

 そのためか、装備の質は相手が上だし、前にムーちゃんを襲おうとしていた連中よりも、連携の錬度は比べるまでもなく、目の前の大隊のほうが上だった。

 

 対して、アリウスはというと、精々中隊程度の規模。

 数では圧倒されているし、装備の質なんて雲泥の差がある。

 

 正面からぶつかれば、苦戦するのは目に見えているし、最悪戦線はズタズタに蹂躙されて撤退なんて事も想定していた。

 だからこそ、ワタシ達がやるべきことは正面切っての戦闘ではなく、時間稼ぎに嫌がらせする程度でよかった。何せ、ワタシ達の勝利条件はアビドスの生徒達とシャーレの先生による、囚われている生徒――――小鳥遊ホシノさんの奪還。それさえ達成できれば、ワタシ達は勝利したといっても過言ではない。

 

 故に、時間稼ぎ。

 アビドスの生徒達が精鋭揃いでも、先生の指揮が卓越していようとも、数の暴力には決して抗えないと思ったから。

 『対デカグラマトン大隊』なる戦力が、カイザーPMC基地に存在する本隊と合流しないように、ワタシ達は時間稼ぎに徹していればそれでよかった。

 

 しかし。

 

 

「圧倒的ではないか、我が軍は……」

 

 

 呆然と目の前の戦況を見て、ワタシは呟いてしまった。

 

 苦戦なんてとんでもない、拮抗なんて節穴か。

 ワタシの予想とは反して、アリウスの軍勢は、カイザーPMCの大隊を圧倒していた。

 

 いくら錬度が高いと言っても、傭兵として第一線で戦っているアリウス達には遠く及ばない。

 装備の質が負けているものの、それを補うほどアリウスの士気は高揚していた。

 

 カイザーPMC側からしてみたら、ワタシ達の参戦は予想していない事であるし、想定外なことに狼狽をしているようでは今のアリウスの()()()()を相手取るには、力不足と言えるだろう。

 いや、本当に。士気が高すぎない? 皆、何だか眼がキマっている気がするのはワタシの気のせいだろうか。

 

 

 とはいえ、ワタシ達が圧倒している理由はそれだけじゃないだろう。

 

 

「カイザーPMCも可哀想なことよな」

 

 

 ワタシは、くつくつ、と笑みを浮かべる。

 例えば、ゲヘナの風紀委員会。少数ながらもその中にはヒナがいる。圧倒的武力の前には、数の暴力など意味がない。

 例えば、トリニティの榴弾砲撃部隊。ワタシとしても、あのトリニティが力を貸しに来るなんて想定外のことだった。それも先生の人望によるものか、はたまたアビドスの生徒達と何らかの縁があるのか。どちらにしても、絶え間なく降り注ぐ砲撃なんて、想像もしたくもない。

 例えば、便利屋68の介入。アーちゃん達がいるとは思わなかった。ワタシも本気で暴れたかったけど、ここはグッとこらえる。ワタシだってちゃんとやれているところを見せないと。それに、アーちゃんやムーちゃんがいるなら大丈夫。絶対、上手く行く。そう決まっている。

 

 カイザーPMCが想定していた戦力図なんて、アビドスの生徒達と、シャーレの先生くらいなもの。

 だが想定外のところから。ゲヘナであったり、トリニティであったり、便利屋68であったり、そして――――ワタシ達アリウスであったりするわけだ。

 想定外に次ぐ想定外。援軍に次ぐ援軍。きっと、カイザーPMC基地内部では、情報が錯綜している事だろう。報告が飛び交い、開いた穴は塞がらず、塞ごうにも戦力が足りない。正に八方塞、これが詰みというやつだ。

 

 

 正直に言おう。

 これほど、楽な戦闘はない。

 ワタシ達の役目は時間稼ぎ。小鳥遊さんを救出するまで、勝ちもせず負けもしない戦況を保てば良い。

 

 ただ、問題があるとすれば。

 

 

「殿下」

 

「……サオリか、どうした?」

 

 

 サオリは、ハッ、と片膝を着いて、頭を下げたまま。

 

 

「このまま前進し、連中を蹂躙し、殿下の威光を示すのは如何でしょうか」

 

 

 

 問題があるとすれば――――士気が高すぎるという点だ。

 

 何だろうね。

 滅茶苦茶ヤル気だ。サオリだけじゃない。驚く事に、アリウス皆がヤル気に満ちている。

 

 この娘達って、こんなに好戦的だった?

 いいや、戦争好き(ウォーモンガー)って感じはしない。

 

 どちらにしても、ヤル気があることはいいことだ。

 でも突撃して、悪戯に被害を出すのも、どうなんだろう。ミサキに怒られるのはワタシだし、それはなんとしても避けたい。かといって、彼女達のヤル気を削ぐのも申し訳ない気がする。

 

 ない頭をフル回転させて、ワタシはそれっぽいことを言って乗り切ることにする。

 

 

「よい、我らはこの場に留まり戦線を維持する」

 

「かしこまりました」

 

「サオリよ、不服か?」

 

「いいえ、そのようなことはございません。私達は殿下の駒でございます。殿下が前進と仰るのであれば前進し、留まれと仰るのなら留まり、死ねと仰るのであれば死ぬ。それが私達の喜びでございます」

 

「……で、あるか」

 

 

 え、なにそれ怖い。

 慕ってくれるのは嬉しいけれど、そこまで行くと流石にちょっと引きますよサオリさん。

 というか、そこまでワタシに尽くそうとしてくれるの、多分だけど貴女だけだと思う。きっと、恐らく、メイビー。

 

 でも、ここで咎めたり難色示したりするのは、よくないって聞いたとこがある。

 ここは褒めて、やる気をだしてもらって、モチベーションも上げるのが、出来た上司の最低条件だってシヴァさんも言ってたし。

 

 ワタシは片膝をついているサオリに近付いて、ワタシも片膝を突き目線を合わせる。

 そして、彼女の頬を撫でて。

 

 

「良い娘だ」

 

「で、殿下……っ!」

 

 

 ……なんでそこで、頬を紅く染めるの?

 あぁ、アレか。日差しが強いからか。暑いもんねここ。流石、アビドス砂漠だ。

 

 納得した。

 ワタシは立ち上がり戦場を見据えて。

 

 

「サオリ、此度の戦は連中を叩き潰せばいいというわけではない」

 

 

 ワタシの説得フェイズは続く。

 彼女達のやる気を削ぐ真似はしないで、維持させたまま納得させるために、それっぽいことを言って切り抜けることにする。

 

 

「アビドスの連中、そして、シャーレのが小鳥遊を救出しなければ、勝利したとは言えぬ戦。余達は踏みとどまり、彼奴らの風通しを良くするだけで良いのだ」

 

「なるほど。殿下の仰る、戦線を維持するとはそういう意味だったのですね」

 

 

 サオリは頭が良い。

 戦闘IQでいえば、多分ワタシなんかよりも良いと思う。

 

 力だけがあり、暴力特化のワタシとは違う。

 サオリには、個人の戦闘力は高いし、戦況を見極める戦略眼もあり、アリウスの娘達を纏め上げる統率力もある。

 

 正に、一を聞いて、十を知るというやつだ。

 ワタシの拙い説明で、ワタシの意図を全て読み取ってくれていた。

 

 本当に頭が良い娘だ。……変なところで暴走するのが玉に瑕だけど。

 

 

「とはいえ、やる気は買う。しかし、使い時はここではない。然るべき場所、然るべき時が必ずある。それまでとっておけ」

 

「つまり、殿下の大望が果たされる時に、大願成就の時に、使い潰せということでございますね!?」

 

 

 訂正、わかっていなかった。

 なに、大望って。なに、大願成就って。ワタシ、サオリに壮大な夢を口にしたことあったっけ?

 

 全く身に覚えがない。

 

 それが何なのか聞こうとしたけど、聞ける雰囲気ではなかった。

 ワタシを見上げるサオリの眼が、凄い、もの凄い、キラキラしていたから。例えるなら、子供のような眼の輝き。

 なんて純粋無垢な眼だろうか。きっと、サオリはサンタクロースを信じている娘に違いない。ワタシがなんのことか、と聞くのは簡単だ。でもそれは、サンタなんていないよ、なんて無粋な真実をぶつけるのと同義だと思う。

 

 そんな事、ワタシには出来ない。

 子供の夢を壊さないように、ワタシが出来る事といえば。

 

 

「――――うんっ、そうだ余」

 

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべて。

 力強く、首を縦に振ることだけ。

 タラリ、と冷や汗が流れる事も忘れない。

 

 それを見たサオリは、パァーッ、と輝いた笑みを浮かべて立ち上がり。

 

 

「殿下からの命だ! 一つの消耗も赦さない、とのことだ! 殿下の大望のために! みんな! 命を大事に!」

 

「「「はい、よろこんで! この命に代えても!」」」

 

「いや、命に代えちゃダメでしょ……」

 

 

 思わず呟いた声は、うぉー! といったアリウスの歓声にかき消されてしまう。

 どこで士気を上げてるの君達。士気をあげる要素なんてなかったと思うけど。

 

 ひたすらに困惑しているワタシに。

 

 

『……これを機に、クソつまらない天上院ジョークは封印した方がいいと思いますよマスター』

 

 

 これ見よがしに、ハァーッ、と大きなため息を吐くコンサバティブちゃん。

 つまらないとは失敬な。ヒナにはすこぶる不評だったけど、サオリとかアリウスの娘達にはバカウケだったのですが、天上院ジョーク。

 

 でも、それとこれと、何が関係あるの?

 

 

『自覚なしクソボケもここまで来ると清々しい――――いいえ、やはり腹立ちますね。まぁ、朕は頭だけなのですが。生首万歳。マスターも生首にならないか?』

 

 

 ならない。

 ところで、今まで黙っていたのにどうしたの?

 ビナーってヤツのナンパをかわすのに大変、とか言ってなかった?

 

 

『その件で忠告を』

 

 

 うん?

 

 

『来ます。揺れにご注意ください』

 

「……サオリ」

 

「ハッ」

 

「……揺れるぞ。注意せよ」

 

 

 はい? とサオリは首を傾げるも、その意味を直ぐに知ることになる。ワタシも含めて。

 

 ここいら一帯。

 いいや、アビドス砂漠中が揺れた。

 サオリはおろか、アリウスの娘達。果てはカイザーPMCの連中も立っていられないほどの揺れ。

 

 対するワタシは何とか、腕を組んで立っていた。体幹が強いとかじゃない。コンサバティブちゃんが教えてくれたから、必死に踏ん張っているだけに過ぎない。涼しい顔をして、奥歯を噛み締めて、必死に立っている。

 だから、サオリさんや。流石殿下だ……! って顔でワタシを見上げないで欲しい。言ってしまえば、カンニングをしていただけなんですワタシは。ズルして耐えているだけなのです。

 

 

 砂埃が舞い、何かが地中から現れた。

 まるでそれは、機械仕掛けの一体の大蛇のような形状。四肢はなく、純白のような体色。ワタシ達が蟻なら、アレは象と評するほどの巨躯。

 

 本当に大きい。

 アレほど大きいんだ。狙わなくても当たる。けど問題は威力だ。装甲がどれほど厚いのかわからないけど、アレを抜くには相当の威力がないと駄目だと思う。

 

 兎にも角にも、アレが何なのかコンサバティブちゃんに問いを投げるも。

 

 

「び、ビナーだ!」

「クソッ、こんなときに何で!?」

「知るか! 本部に繋げ!」

「駄目です。応答しません!」

 

 

 右往左往と、指揮系統が混乱しているのか、カイザーPMCは統率を取れていなかった。

 でも丁度良い。

 

 

「おい」

 

「なん――――ひぃ!? あ、アリウスの王!?」

 

 

 適当に、混乱しているカイザーPMCに声をかけるも、カイザーPMCはワタシに怯えて尻餅をついてしまう。

 そこまで怯える必要がないと思うけど、事態が事態だ。手短に済ませようと、ワタシは見下ろしながら。

 

 

「手短に話せ。アレは何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手短に話された内容を纏めると。

 アレの名前はビナーといい、多分コンサバティブちゃんをナンパしていたヤツと同種なんだと思う。

 なんでも、何年も前からアビドスの砂漠地帯で活動していて、カイザーコーポレーションもその対処に手を焼いていたらしい。今のアビドスの生徒達ではない、数年前に在籍していたアビドス生徒も交戦しており、撃退するに至らず、その目的も不明となっている。

 

 ともすれば、だ。

 ここを拠点としているのだから、カイザーPMCにはアレを対処する方法があるということじゃなかろうか。

 

 

『それは無理では』

 

 

 どうしてさ。

 

 

『彼らの部隊名を思い出しましょう』

 

 

 対デカグラマトン大隊だっけ?

 ん、対?

 

 

『あのチャラ男がデカグラマトンなるモノに所属しているかはさておき、それを抑止する部隊であったことは確かです』

 

 

 つまり、ワタシ達がボコボコにした大隊が、それを抑止する部隊で、ワタシ達がボコボコにしたからそれを抑止する力は残っていない、ってこと?

 

 

Exactly(そのとおりでございます)

 

 

 もしかして、やらかした?

 

 いやいや、そんなわけ、そんなわけ、なくない?

 いや、やらかした。これはやった。でもさ、こんなのわからないじゃん普通。あんなデカイのが来るとは思わないじゃん。

 

 ……これって、コンサバティブちゃんがナンパを断ったからじゃないの?

 

 

『このすっとこどっこい。人のせいにするんじゃありません。それにチャラ男の狙いは、朕じゃありませんとも』

 

 

 じゃ、誰なのさ?

 なんで、アイツ、こんなとこに現れたのさ?

 

 

『わかりませんが、進行方向にシャーレの先生と小鳥遊ホシノがいるのは確かですね』

 

 

 つまり、ビナーの目的はあの二人の可能性が高いって事?

 

 

Exactly(そのとおりでございます)

 

 

 やらかした、これは。

 

 抗う術を持っている部隊を壊滅させて、勝利条件となる二人に、新たな脅威が迫っているとか洒落になってなくない?

 

 汗が吹き出る。

 暑いからじゃない。これは冷や汗。自分のやらかしでとんでもない事が起きていることに対する冷や汗だ。

 ヤバイ、超ヤバイ。シャーレの要請で大義名分を貰っているのに、シャーレの先生に何かあったら後ろ盾になってもらえず、最悪アリウスが終わるかもしれない。

 

 

『……マスター、悪い事はいいません。撤退しましょう』

 

 

 そんなこと言ってられんでしょ!

 何とかしないと。マジで。

 

 

「サオリ」

 

「ハッ」

 

「……余はアレの相手をする。貴様はカイザーPMCと共にこの戦場を離脱せよ」

 

「あれ、とは、殿下、まさか……」

 

 

 眼を丸くさせるサオリに、ワタシは簡潔に告げる。

 

 

「アレの進行方向に、シャーレのがいる。彼奴が逃げる時間を稼がねばなるまいよ」

 

「殿であれば、私が……!」

 

「貴様にはアリウスの指揮を任せる。部隊を動かすという意味では、アズサもヒヨリもまだ早い。貴様が適任である」

 

 

 それに、と言葉を区切り、ワタシは本音を漏らした。

 

 

「アレほどの巨躯、相手をするのは初めてだ。先ずは味見だな」

 

 

 自然と笑みが零れる。

 正直に言うと、少し楽しみにしているワタシもいる。

 

 戦う術を持っていた部隊を潰してしまったので、その責任を取らないとならない。となれば、ワタシが何とかしないとならない。それが、率いていた人間の務めってやつなんだと思う。

 でもそれはそれ、これはこれ。あんな大きなヤツと戦えるなんて、一生に一度あるかないかだ。きっと愉しいに決まってる。

 

 ビナーの目的がどうであれ、戦うかはさておきではあるけれど。

 

 

「サオリ、余の愉しみを奪ってくれるな。アレは余の獲物よ。部隊の指揮、貴様に任せる。見事、全うしてみせよ」

 

「……ハッ! 殿下、ご武運を」

 

 

 力強い返答。

 それを背に、ワタシは跳ぶ。

 

 以前のヒナとの一戦にて、大気の壁を面に捉えて、空中を跳ぶ。

 目標は、カイザーPMC基地。

 

 

『大隊を潰した本人が責任を取るとか、ひでぇマッチポンプですね』

 

 

 うん、ワタシもそう思う――――。

 

 

 

 

 

 

 

 





 △殿下の大望
 もしかして:天上院ジョーク
 世界征服でもるすかー、みたいなアレ。
 アリウスのみんなには大ウケなあれ。
 真に受けているとはオウヒは気付いていない。

 
 △チャラ男
 ビナーくんのこと。
 今、幸せですか、みたいな事を言って勧誘していたけどそれをナンパだとコンサバティブちゃんは勘違いしていた模様。
 話が通じないヤバイ奴、って思われているとはコンサバティブちゃんはまだ知らない。
 



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。