こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 生々しい傷描写があるかもしれません、どうかご注意をお願いします


第21話 ビナー ~アガっている君~

 ――――焦げた匂いが、鼻の奥を擽る。

 

 視界に広がる空は、嫌って程蒼く、鬱陶しいほど強い日差しが私の肌を刺す。

 

 息を吸うのも苦しい。

 肺をやられたのか、喉を損傷しているのか、ヒューヒューと上手く息が出来ない。まるで気道が狭まり、無理矢理で身体が呼吸しているかのようだ。

 

 そこで漸く、ワタシは気付いた。

 仰向けに倒れている自分を、やっと認識する事ができた。

 

 何をされたのか。

 直前の記憶が曖昧だ。

 確か、ワタシは、ビナーってやつと戦っていた筈。

 

 

「あぁ、そっか……」

 

 

 思い出した。

 ワタシは薙ぎ飛ばされたのだった。

 

 砲撃されそうになっている、カイザーPMCの誰かが居て無意識に身体が動いて突き飛ばした。

 その後は、ビナーの尾をまともに喰らって、ワタシは吹き飛ばされたのだった。

 

 ヒナや小鳥遊さんの姿が見えないので、ワタシはかなりの距離まで吹き飛ばされた、ということだけは分かる。

 

 意識がハッキリして来る。

 同時に、奔るのは激痛。足から腹へ、腕から胸へ。その痛みは集約され、脳へと到達していく。

 

 上半身を起こす。

 それだけで、全身の骨が軋みを上げ、身体中が悲鳴をあげるのを感じる。

 あぁ、痛い。本当に痛い。でも今はその痛みがありがたい。痛みを感じないまで麻痺していたら、きっとワタシは再び気絶していると思うから。

 

 それにしても、凄まじい威力だった。

 例えようがない。今まで味わった事がない威力の打撃だった。きっとアレは、まともに喰らうべきではない。ヒナの制止がなければ、ワタシは好奇心で味わっていただろう。そういう意味では、ヒナに感謝しなければならない。

 まぁ、こうして結果的に味わってしまったのだけど。

 

 

 

『お目覚めですか、マスター』

 

 

 声が聞こえた。

 この場に居るとしたらワタシと腰にぶら下げている彼女――――コンサバティブちゃんくらいしかいない。

 

 驚きはしなかった。

 いいや、少しだけ驚いた。よく壊れてないな、とワタシは本気で感心して。

 

 

「……ワタシ、何分気絶してた?」

 

『13秒です』

 

「そっか」

 

 

 及第点かな、とワタシは無理矢理立ち上がる。

 

 多分、折れてる。

 きっと、皹が入ってる。

 どこか、斬れている。

 

 ミシミシ、と音を立てるワタシの身体。どこが怪我をしているかなんて、分からないくらい痛い。

 口の端からは血が逆流してくるし、きっと内臓と、それを守ってる骨も砕かれているのだと思う。

 

 両足は――――付いている。

 両腕は――――あった。

 両目は────視界が歪んでいるものの潰れていない。

 五体満足。

 

 最悪、腕の一本がなくなっているのは覚悟していた。

 そうなれば腕一本分、身体が軽くなる。

 

 でも今の状態は大変よろしくない。

 痛みで意識を失わないのは良いけど、そのせいで性能が落ちるのは問題だ。

 

 これでは、満足に、戦えない。

 

 

『何をしているのですか、貴女は……?』

 

「何が?」

 

『こんな状態で、何をする気ですか?』

 

「何って、戦いに行くに決まってるでしょ?」

 

 

 何を言っているんだろ、コンサバティブちゃんは?

 そんなの、戦場に戻るに決まっているでしょう。

 

 まだワタシは動ける。

 充分とは言えないけど、まだ戦える。

 

 あぁ、本当に良い。

 今日はとても良い日だ。

 初めてあんな大きなヤツと戦えた、初めて他人と力を合わせて戦った、初めてワタシはこんなにも傷を負っているし、だからこそ生きているという実感が湧いて来る。

 

 これで終わるのは勿体無い。

 動けるのなら戦わないと。

 手も動く、足も動く、意識もあるし、血も流れている。

 それでも、ワタシは、まだ戦える。戦わないと、本当に、勿体無い。

 

 

『離脱するべきです』

 

「冗談でしょ。これからだよ、最高に、盛り上がるのはさ……!」

 

『貴女はまともじゃありません』

 

 

 コンサバティブちゃんは淡々とした口調で、事実だけを叩きつける。

 

 

『先ほどの行動だってそうです。どうして、カイザーPMCを助けたのですか?』

 

「別に助けてないよ。考えるよりも先に、勝手に身体が動いた。助けようなんて思って行動していたわけじゃない」

 

 

 

 でも確かに、結果として、助けたのかもしれない。

 

 アレは下手な事をした。

 一撃目の砲撃の際に、突き飛ばすのではなく、抱えて跳べば良かった。判断を間違えてしまった。その結果が、いらない傷を負ってしまっている。

 

 

『放っておけば良かったんですよ。彼の者はマスターを狙っていたのに』

 

「そうかもしれないけどさ、それはそれ、これはこれだよ。ワタシを狙っていようと、ワタシが助けなくていい理由にならない」

 

 

 そうだ。

 ワタシは助けようとして、彼を助けたわけじゃない。

 でも考えれば、結局のところ、身体が動いたのは簡単な理由なんだと思う。

 

 

「例え、どんなやつでも、ワタシの目の前で誰かが死ぬのを見るのは、とても寝覚めが悪い」

 

 

 その程度の理由だったのだろう。

 どこまでも自分本位、ヒナや先生とは違って、ワタシは善い人ではない。見ず知らずの、自分と関わりのない他人のためになんて、ワタシは頑張れない。今回助けたのだって、無意識で、偶々ワタシの視界に入っただけ。

 

 その理由も、自分が寝覚めが悪いから、というモノでしかない。

 だってそうでしょう。どんなに酷い事をしていたとしても、何も死ぬことはない、と思う。

 

 

「――――――ッ」

 

 

 ぐらり、と視界が揺れるけど、何とか踏み止まる。

 

 今のは、危なかった。

 気が遠くなり、視界が狭まっていく。

 血液は流れ続け、止血してもキリがない。

 そんな事をしている間に、ワタシは意識を失うことだろう。

 

 

 左手に感覚はなく、右手に辛うじて握られている“リク”に視線を落す。

 “アサ”は紛失していた。きっと、先ほどの一撃でどこかに落としてしまったのだろう。“リク”も破損しており、きっと数発撃っただけで完全に使い物にならなくなるに違いない。

 

 

 背筋が震える。

 急速に失われる血液。まともに動けない身体。気が遠くなる感覚。

 でも、神経だけが研ぎ澄まされていく。

 

 一手でも間違えれば、ワタシは死ぬかもしれない。

 それがたまらなく愉しく、生きているという実感を与えてくれる。

 

 空っぽだった()()()にはそれしかない、闘争しかない。

 

 

 頭を振る。

 定まらない思考、余分なものを振り払うように、出血によって白く――――頭の中を透明にし、今となっては愛しい白い怪物を見つめる。

 

 

「さぁ、往こうか――――」

 

 

 残り数分。

 きっと、ワタシはまた気絶するに違いない。

 それだけでは勿体無い、まだまだワタシは戦える。ならば往かないと、勝つためじゃない、戦うために往かないと。

 

 そこで。

 

 

「――――?」

 

 

 視界の端に黒鞄を発見する。

 

 それは見覚えがあった。

 何者の物なのか、ワタシは理解すると自然と笑みを浮かべて、それを拾い上げて再び跳ぶ――――。

 

 

 

 

 

 

 

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