~ソロモンちゃんねる~
天上院オウヒのヒミツ①
運動神経は優れているモノの、ルールがある球技などはテンパるので苦手。
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これからもよろしくお願いします!
私は、救護騎士団の部室の前にあるベンチに座っていた。
視界に広がるのは、トリニティの自治区内の日常風景。
彼女達にとっては当たり前のようだけど、私から見たトリニティは平和そのものだ。何せ、アビドスと違って突如巻き起こる砂嵐等の天変地異に襲われる事もないし、多額の借金返済に奔走している様子も無い。ヘルメット団の襲撃もなく、私から見たトリニティは平和そのものだった。
とはいっても、トリニティが理想的な学園かと聞かれると、私は曖昧な笑みで返答するしかない。
耳を澄ましてみると、何やら気分が悪い言葉。つまりは陰口が多かった。
誰にも聞こえないくらい小さな声。他の人には聞こえないかもしれないけど、私の耳には聞こえてくる。
嘲笑と侮蔑。そして、その根底にあるのは嫉妬と野心。
自分よりも劣っているから、または、自分よりも優れているから。トリニティの生徒達は、今も派閥争いに勤しんでいると見た。
表面上は平和そのもの、内面はもっとドロドロとした人間関係の魔窟。
それこそが、トリニティ総合学園とでもいうかのよう。
「はぁ」
私は胸がいっぱいと言わんばかりに、ため息を吐いて、天を仰ぎ見る。
空は晴天。
絶好のお昼寝日和だ。
今寝ると、ずっと寝てしまうかもしれない。それくらい、日差しが差し込み、ポカポカとした陽気に包まれている。
認識を改める。
お嬢様学校で、派閥争いが絶えないトリニティと言っても、中には真っ直ぐな善良な生徒だっていることを私は知っている。
それこそが、私たち覆面水着団のボス――――ファウストちゃんこと阿慈谷ヒフミちゃんなのだ。
ヒフミちゃんにはお礼をしないと。先のカイザーPMCの件で、私は彼女にも迷惑をかけてしまった。ヒフミちゃんにも立場がある、きっと彼女に嫉妬しているトリニティ生徒だっているだろう。他校の生徒を助けるために力を貸したなんて事実は、政敵の格好の攻撃材料ともなりえるものだ。
それでも、ヒフミちゃんは私を助けに来てくれた。
いいや、彼女だけじゃない。
今回の件で、私はたくさんの人に迷惑をかけた。
アビドスの皆、シャーレの先生、ヒフミちゃんに便利屋68の人達。それから――――。
「ここに居たのね」
彼女もその一人。
白い長い髪の彼女――――空崎ヒナちゃん。
彼女はベンチに座る私に視線を向けていた。
周囲は、ゲヘナの風紀委員長でもある彼女に、奇異な眼で視線を送っている。遠巻きでヒソヒソと耳打ちしている生徒もいるけれど、どうやら風紀委員長ちゃんは特に気にしている素振りを見せない。
思っていたよりも、マイペースな娘なのかもしれない。
「どうしたの、風紀委員長ちゃん?」
「病室にいなかったから探しに来た」
簡潔に言うと、風紀委員長ちゃんは隣に座る。
ふぅ、と息を吐いて、続けて。
「もう大丈夫みたいね」
「…………」
なにが、とは聞けなかった。
彼女の言うとおり、先ほどまでの私は余裕がなく、不安で不安で堪らなかった。
謝って済む話でもないけれど、謝罪を口にして何を言われるか、わからなかったから。
でもそんな心配、私の杞憂だったみたいで、一蹴されたのは記憶に新しい。
罵倒はされることもなく、なじられる事もなく、非難なんて以ての外。
真っ直ぐに、心から賞賛するように、澄んだ瞳で彼女は――――天上院ちゃんは言った。
――――貴様は何も、間違っていない――――。
「…………っ」
それを聞いて、彼女に見られて、私は何故か居ても立ってもいられず、病室から出て行ってしまった。
お花を摘みに言ってくる、なんて言って出てきたけど、我ながら何て苦しい理由な事か。顔が赤くなってないか、浮ついた声じゃなかったか、眼は泳いでいなかったか。何よりも――――彼女に褒められて、嬉しかったと見透かされていなかったか。
今更だけど、恥ずかしくなってくる。
子供じゃあるまいし、ましてや年下に言われて、私はどうしてこんなにも嬉しくなっているのだろうか。
「小鳥遊ホシノ?」
風紀委員長ちゃんが覗き込むように、私の顔を見てくる。
様子がおかしい私を心配してくれているのだろう。
対して私といえば、誤魔化すように、うへへ、といつものように笑って。
「風紀委員長ちゃん、ちょっと近いよ~。そんなに近いと、おじさん照れちゃう」
「っ、ご、ごめんなさい」
風紀委員長ちゃんは追及することなく、直ぐに身を引いてくれたのを見て、罪悪感を覚える。
変な空気になる前に、話題を変えるためにも、私は風紀委員長ちゃんに質問をした。
「えっと、風紀委員長ちゃんは天上院ちゃんと知り合って長いの?」
「いいえ、そこまでは」
「そっか」
「でも、一緒に遊びに行ったりしてるわ」
どこか誇らしげに、風紀委員長ちゃんは言った。
その姿に、モヤっとした何かが生まれて、羨ましくも思ったけど今は置いておく事にする。きっと気のせいに違いないから。
「あの娘ってさ、結構人のこと褒めたりするの?」
「どうしたの?」
「……まぁ、ちょっとね」
少しだけ恥ずかしくもあり、私は言葉を濁した。
風紀委員長ちゃんは疑問に思いながら、少しだけ考えて。
「そうね」
頷いて肯定する。
迷うことなく頷いている様子を見て、少しだけ残念に思う。
妙な気持ちだ。
なんで、私は、自分だけじゃないんだって、ガッカリしてるんだろ……?
風紀委員長ちゃんは続けて言う。
「あんな言動しているから誤解されるけど、他人のことを直ぐに褒める――――いいえ、賞賛してくるわ」
「……賞賛、か」
風紀委員長ちゃんの言わんとしている事は、何となく分かる。
褒めるとも違う。天上院ちゃんは大袈裟とまではいかないものの、他人を過大評価し称える癖があるのかもしれない。
しかも大真面目に。真っ直ぐなまでに素直に。
あの口調だから、万人には好かれないものの、言葉の中にある他人を尊重する言動に惹かれる人もいると、私は思う。
風紀委員長ちゃんも感じている事は一緒なのか。
「あの娘は、他人を過大評価していると思う」
「あー、それはわかるな~。偉そうな口調なのにね?」
「……その反面」
風紀委員長ちゃんは重たい口調で、恐る恐る。
「自分のことを、過小評価している」
「…………」
そんなわけがない、と否定しかけたけど、私は何かが引っかかっていた。
思い返してみれば確かに。
彼女は『アリウスの王』と呼ばれ、アリウスの生徒達から敬われている立場にある筈だ。他校の生徒ではあるものの、まるで生徒会長のように扱われており、実際王としてアリウスの生徒達には認識されている。
それなのに、彼女からはその類の言動は一切無かった。
口調や言葉遣いはそれっぽいのに、自身を称える言葉、つまりは自画自賛する類は一切聞いた事がない。
付き合いの短い私は兎も角として、私よりも付き合いの長い風紀委員長ちゃんがそう思っているということは、間違いないのだろう。
風紀委員長ちゃんは自論を続ける。
「オウヒは自分に頓着がない。戦闘中、防御を疎かにする事はあったからわからなかったけど、今回の件で確信した」
今回の件、それはつまり――――。
「――――オウヒは無意識に、他人を優先にしてしまう。それこそ、自分の身がどうなろうと」
風紀委員長ちゃんの言う事は間違っていないのだろう。
だって、天上院ちゃんは確かに、私に言った。
カイザーPMC理事を助けたのは、考えて行動したわけじゃない。身体が勝手に動いて、いつの間にか助けていた、と。それこそ無意識での行動だったのだろう。
彼女に助けたと言う意識はない。自分よりも優先すべき命があったから、意識することなく考える前に、身体が動いてしまっていた。
そう考えると、他人を賞賛するのも、納得がいく。
自分という物差しを、彼女は異常なまでに低く見積もっている。だから、他人を自分よりも優れていると認識し、自分には出来ないことを成し遂げた他人を、直ぐに賞賛するのだろう。
「風紀委員長ちゃんは心配なの?」
私の問いに、小さく頷いて。
「今回はたまたま、ティーパーティーの聖園ミカのおかげでトリニティで治療できたけど、あのまま放置していたらどうなっていたか分からない。最悪――――」
その先の言葉が紡がれる事はなかった。
きっと、風紀委員長ちゃんは怖かったのだと思う。
口にすると、言霊のように、現実になってしまうかもしれないから。
今回は運が良かっただけ。
次回も同じとは限らない。
口にするのも恐ろしい最悪な事態。
それだけ、風紀委員長ちゃんにとって、天上院ちゃんは大きな存在であり、失いたくない存在なのだろう。
気持ちは、わかるよ。
失う怖さ。簡単に崩れてしまう日常の脆さ。それに私は最後まで、気付けなかったし、大事な存在を守る事が出来なかった。だけど風紀委員長ちゃんは違う。まだ間に合うし、まだ守る事ができる。
そう考えると、私は自然と口にしていた。今度こそ、と誓うように。同じ過ちを犯さないことを、私自身に願いながら。
「大丈夫だよ、風紀委員長ちゃん」
「え?」
「今度あの娘が、無茶をした時は私達が守ってあげよう。先輩として、ね?」
そうだ。
今度こそ、私は守らなければならない。
アビドスにいる私の可愛い後輩達を守って、ユメ先輩のような善人である彼女を、今度こそ失わないためにも。
私はベンチから立ち上がる。
そして、風紀委員長ちゃんに向かって手を伸ばした。
「私達で、無茶しがちなあの娘を、守ってあげよう」
「――――」
風紀委員長ちゃんは眼を見開く。
その瞳は揺れていた。自信がなさそうに、本当に自分に出来るのか、と。
その不安は理解出来る。私達が頑張っても、力の限りを尽くしても、届かないことがあるかもしれない。
でも、それでも。
本当に、彼女を大事に想っているのなら。
「……貴女は本当に強いわね小鳥遊ホシノ」
「……そんなことないよ」
「いいえ、強いわ。貴女も一度は――――」
それから続く事はなかった。
風紀委員長ちゃんは、いいえ、と首を横に振ってベンチから立ち上がり、私の手を握って。
「協力してほしい、あの娘を守るために」
「うん、一緒に頑張ろう風紀委員長ちゃん――――ううん、ヒナちゃん」
「えぇ、ありがとうホシノ」
私達は笑みを浮かべる。
まるで友達のように、気心の知れる友人のように。
考えてみたら、私同じ年の友達っていなかったかもしれない。
瞬間。
私の身体に衝撃が奔り、小さく地面が揺れた。
私達は手を離して、とある方向へと視線を向ける。
そこには、黒い煙が立ち上っている。
トリニティでは珍しい光景。それは争いの狼煙のよう――――。
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ドン、という音と一緒に窓が少しだけ揺れる。
病室の窓から見えるトリニティ自治区。その一画から黒い煙が立ち上っている事を、ワタシは認識した。
思わずワタシの心は高鳴り、気分が高揚する。
トリニティではまず見る事が出来ない日常の光景。それを目にしたのも理由の一つだけど、大きな理由としては戦いの気配があったから。
少しだけ考える。
ワタシが出張って、戦闘に混ざるのは良い。でもその後が良くない、流石に不味いと思う。
何せ問題が起きているのはトリニティ総合学園の自治区。
他校のワタシが戦闘に参加しようものなら、トリニティから追及されるに決まっている。それはもうねちっこく、理論で武装して、法律を盾に、口撃してくるに違いない。
まぁ、そうなると、ワタシが全面的に悪いのだけど。
他校の自治区で暴れるのは非常に良くない。政治的にも問題があることだし、最悪テロ行為だと言われても仕方ない行為だ。
アビドスでの時とは訳が違う。
カイザーが民間人に手を上げた、という大義名分があったけど、今回はそれがない。
それに、小鳥遊さんと縁ができた今となっては、本当に申し訳ない気持ちである今日この頃なのです。
現場に行ってみたい、あわよくば戦いたい、でも戦うと不味い。
装備は破損して手元に無いけど、素手でもいけそうだし、武器は拾えばどうとでもなる。そんなことを考えながら、病室の窓を開ける。
決して、窓から出ようとしているわけじゃない。
様子見、本当に様子見。確認するだけだよ本当だよ。そんな言い訳を、心の中で反復しながら。
「……ん?」
何やら既視感を覚える。
その正体を探るために、大きく息を吸い、そして大きく吐き出した。
再び爆発が起きて、小さな衝撃が身体を叩く。
「嗅ぎ慣れた爆発の匂い、それにズシンと来る身体の衝撃……」
悩むまでも無かった。
小さい頃から、その爆発は目にしている。その後に香る微かな爆薬の匂い、その特徴から誰の爆弾なのか、考えるまでもなく明らかだった。
何よりも、感じているこの気配は。
「アーちゃんとムーちゃんの気配がする……」
ワタシが気づかないわけが無い二人の気配。
一瞬だけ、ワタシは顔をほころばせようとするけど、直ぐに頭に疑問が生まれた。
二人の気配がする。
他にも、アーちゃん達以外の二つの気配があり、便利屋68のモノだということがわかった。爆発が起きているのだから、何かと戦っていることがわかる。
いいや、戦っているわけじゃない。どちらかというと、アーちゃん達は逃げている。それこそ、本気で逃走している。
何故逃げていると思うのか。
それは追っている側――――この場合はトリニティの治安維持部隊である正義実現委員会かな。
両陣営が戦っているわけじゃないという判断をしたのは、どちらにも
それも、正義実現委員会の方も、本気で追撃しているわけじゃない。
何やら、戸惑いのようなモノがある。つまりは、アーちゃん達に集中しきれていない。どうして、自分達がアーちゃん達、つまりは便利屋68を追っているのかわからない、そういった困惑が気配から感じ取れた。
そうなると、ワタシもどうすればいいか悩む。
ワタシが出張る事も考えたけど、そもそもの話、アーちゃんとムーちゃんが揃っているのだから、ワタシが出る幕などないのかもしれない。でもそれはそれとして、二人にはワタシも良いところを見せたいと思うのが、人情であり、人としてしょうがない事だと思う。
かといって、敵意がないのにワタシが暴れていいものか。
そう考え悩んでいると。
「失礼しますー」
どこか申し訳なさそうに、でもどこか堂々とした調子で、一人の女の子が病室に入って来た。
そちらに視線を向けると、えへへ、とはにかんだ笑みのヒヨリが居た。
彼女はその調子のまま続けて。
「殿下、お見舞いに来ました」
「良くぞ参った」
「お加減はどうですか?」
「うむ、元気いっぱいである」
一先ずは、保留にする事にしよう。
アーちゃん達に危ない気配でもあれば、直ぐに駆けつけられる準備だけしながら、ワタシはヒヨリの問いに答えた。
身体の節々に違和感があるけど、元気なのは確か。
明日か明後日には、問題なく完治している筈だ――――的なことを救護の偉い人に言ったけど、何を馬鹿な、と言いたげな冷たい眼で見られたのは記憶に新しい。正に眼で語るというやつだ。
……思い出すだけで、身体が震えるのは、なぁぜなぁぜ?
気を取り直そう。
顔を横に振る。厭なことを忘れるように、恐怖心を振り払うようにし、顔をヒヨリに向けて。
「それで、ヒヨリよ。今のアリウスはどのような――――」
「―――――――――」
ピタッ、と。
ヒヨリはある一点を見て固まっていた。瞬きもせずに、口を開けて、眼を輝かせて。
ワタシは口を閉ざして、ヒヨリの視線の先を追う。
そこにはメロン。
シャーレの先生、小鳥遊さん、それにヒナが買って来てくれたメロンがそこにあった。
合計で3玉。つまりは一人一玉ずつ。まるで示し合わせたかのように、三人はワタシの見舞い品に買ってきてくれた。
「殿下、これって……」
「メロンだな」
「メロンって、あのメロンですか?」
「そのメロンだとも」
「実在したんですね、メロンって。伝説の食べ物だと思ってました……」
当たり前だよ、と口にしかけるも堪える。
今までヒヨリは――――というよりも、アリウスの皆は苦しい生活をしてきた。今では改善されつつあり、スイーツ全般に力を入れているものの、見たことも味わった事もない食べ物が多く存在するのも事実。今のヒヨリの様な反応を見せる娘だって存在する。
その一つが、メロンであるのだろう。
気持ちはわかるけどね、ヒヨリちゃんや。
せめて、瞬きはしよう。ガン見は怖いし、その口からはとめどなく涎が出ている事を貴女はわかっているでしょうか?
決して、年頃の女の子がしていい顔ではないと、天上院は思うわけ。
「しかも、三玉も。あと四玉揃うと願いが叶うじゃないですか」
「なんだその摩訶不思議アドベンチャーは。誰に吹き込まれた?」
「姫ちゃんです」
なるほど、アッちゃんなら言うだろう。もちろん、本気ではなく悪戯的な意味で。
今度、言っておかないと。本気にする娘も居るから、気をつけなさいって。
しかし、余程食べたいのか、ヒヨリはワタシの方を見てくれずに、メロンばかり見ている。メロンしか見ていない。
彼女らしい。その様子が微笑ましくて、ワタシは思わず笑いながら問う。
「食べる?」
「食べます」
即答だった。
というか、ちょっと食い気味なくらいの反応速度。
うん、たくさん食べて欲しい。いっぱい食べる君が好きだ余。
「楽しみですー! メロンの丸かじりは美味しいって、聞いた事がありますからっ!」
「ワイルドにも程がある、世はグルメ時代か。誰に吹き込まれた?」
「姫ちゃんです」
んー、これは本格的に言わないとダメと見た。
純粋な娘に嘘を教えるのは良くないって、天上院は思うわけ。
「メロンは丸かじりするものではない。切り分けて中身を食べるモノだ」
「そんな食べ方もあるんですね……」
「そんな食べ方しかない余」
しかし、どう切ったものか。
果物ナイフなんて持ってないし。
「ヒヨリ、ナイフなどあるか?」
「私は持ってませんが、アズサちゃんなら持ってるかもしれません……」
「アズサが?」
首を傾げる。
確かに、アズサなら持ってるかもしれないけど、この場にはいない。いない存在にどうやって借りればいいのか。
ヒヨリはワタシの疑問を察してか、申し訳なさそうに口を開いて。
「本当は皆で来たかったのですが、
ミサキらしい慎重な意見だと思う。
アリウスはトリニティで迫害を受けて、誕生した学校だ。今もトリニティ内ではアリウスは迫害をすべきという認識が根強く、気に入らないと思っているトリニティの生徒も存在する。
事を荒げる必要のない現状を考えても、ミサキの意見は正しいモノであった。
「なので、じゃんけんで決めました。第一回アリウスじゃんけん大会です」
「大会とは大袈裟な。参加人数は何人だ?」
「もちろん、アリウスの生徒全員です」
訂正。
大袈裟じゃなかった。まさか全員で参加してくれているとは。
でも、嬉しい。
てっきり、アリウスの皆は忙しくて、来れないと思っていたから。
正直、寂しくもあった。でも全員来てくれるつもりではいてくれたみたいだし、ワタシはそれだけでも嬉しい。
「なるほど、それで貴様達は勝利し、余の下へ参じたわけか」
「えへへ、頑張りました。殿下、褒めてくださいっ!」
「無論である。偉い、偉いぞ。撫でてやる故、もそっと近う寄るが良い」
ワタシがそういうや否や、ヒヨリは近くまで来ると、頭を差し出した。
なんて素直な事か。
その仕草は、人懐っこいわんちゃんを彷彿とさせる。
撫でてあげると、えへへ、と満足するように満面の笑みでヒヨリは受け入れていた。
これは、癒される。癒されてしまう。浄化されるような感覚。これが整うというのか。ある種のセラピーじゃないか。そう、これはセラピー。またの名を、ヒヨリセラピー。
ワタシは、くっ、癒される、としながらも撫でる手を止めずに、ヒヨリに尋ねた。
「それで、アズサは何処だ? 一緒ではないのか?」
「途中までは一緒だったんですけど、はぐれちゃいまして。殿下のところにいると思ったんですが……」
残念ながら来てない。
ちょっと心配だ。
アズサならどんなことに巻き込まれても、大丈夫だろうと思う。アリウスの中では、サオリに次ぐ実力者だし、大抵の生徒には負けないと思う。
だけど、トリニティで迷子というのが良くない。アリウスの生徒だということで、何かされるかわからないし、理不尽な嫌がらせをされていることも考えられる。
さて、どうしたものか。
そう考えていると、病室のドアが開いた。
噂をすれば。
そこには、問題となっているアズサがいた。
良かった、無事だったみたいだ。ワタシはアズサに向けて口を開きかけるけど――――。
「殿下、トリニティって良いところだな!」
固まってしまった。
満面の笑みで、アズサはワタシには理解が出来ない単語を、言葉にしたから。
何と言ったか。
良いところ? トリニティが? 本当に?
「うわっ、大変です! 殿下が大変な事になっています! マジ信じられない、って顔でアズサちゃんを見ています! とても女の子がしていい顔じゃないですぅ!!」
△まるで友達のように、気心の知れる友人のように。
こうして、二人は友達になった。
△メロン
先生とホシノとヒナ。
三人揃ってメロンを買ってきた。
なんで被るの、とオウヒは笑いたかったけど笑えなかった。
何故なら空気が重かったから。余だって空気は読む。
△第一回アリウスじゃんけん大会
伝説の大会
ドラマが生まれ、そして散っていった。
ちなみに、サオリは一回戦で負けた。アズサに向かって二回戦で当たるサオリだなんて、言ったのに負けた。私も殿下のお見舞いに行きたかったと咽び泣いた。
△「殿下、トリニティって良いところだな!」
オウヒ「――――なんて?」
△「とても女の子がしていい顔じゃないですぅ!!」
凄いブスでした(ヒヨリ談)