こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 デカグラマトン編見ました
 もう、本当に、良かったね
 あと、妹ができたよ、やったねコンサバティブちゃん

 ~ソロモンちゃんねる~
 アズサ「殿下、ヒヨリ、クイズだ」
 ヒヨリ「はい!」
 アズサ「次の問題に答えて欲しい」
 オウヒ「いいだろう」
 アズサ「この世に私がいないとするぞ」
 オウヒ「……それは、やだな」
 ヒヨリ「私も嫌ですー!」

 アツコ「優しい世界」
 サオリ「あぁ、良い話だな……」
 ミサキ「いいや、クイズは?」


 


幕 間 黒服と先生 

 

 その姿は黒かった。

 衣服も黒いスーツ、それに併せるようにビジネスシューズも漆黒。

 何よりも眼を引くのは、その体躯に在った。まるで影が人の形を為したかのような、奇妙な出で立ち。人というよりも怪人、あまりにも異質なその姿は、今この場に於いて、何よりも誰よりも現実離れした姿であった。

 

 

 黒い人影がいるのは、救護騎士団の部室の屋上。

 そこは余人には立ち入る事が出来ない場所。生徒の出入りは、基本として禁止されている場所に、その黒い人影は立っていた。

 

 屋上から落ちないように、柵が屋上を囲んでいる。

 高さは腰程度までしかなく、身を乗り出したが最後、容易く空へと身を預け、重力の法則に従い地面に落下する事だろう。

 

 

 キヴォトスの住民であれば、怪我で済むのかもしれない。

 だが、件の黒い人影はそうではない。キヴォトスの外側からの来訪者であり、銃撃戦が日常となっているキヴォトスにおいて、一発でも身体に穿ったものなら致命傷となりえる存在であった。

 

 

 少しの油断が命取りとなる。

 そういう意味では、黒い人影は常に警戒をしていないとならない立場にある。

 だが、どういうわけか。その姿からは警戒心が感じ取れない。まるで心を奪われるように、その様子は一枚の絵画を見るかのように、ジッと何かを見つめていた。

 

 

 視線の先には、三人の女子生徒の姿。

 一人は他人を惑わすような蠱惑的な笑みを浮かべ、もう一人は居丈高に胸を張り誇らしげに、そしてもう一人はというと――――そんな二人を見て幸せそうに笑みを浮かべる。

 その姿はどこにでもある、大切な友人達と他愛のない雑談で盛り上がる、青春を謳歌する子供の姿。

 

 

「───────」

 

 

 黒い人影は、眼を細めるように声にならない声を、小さく零す。

 感嘆するように、自分の中で咀嚼し切れない感情が、思わず洩れ出てしまったように。

 

 眩しい、と黒い人影が思うのは、キヴォトスの空に差し込んでいた夕暮れの光のせいではない。

 それは黒い人影が、一番良く理解していた。

 

 自分が何を見て、何を眩しいと思い、何者に対して尊んでいたのか。

 それは黒い人影が、嫌というほど理解していた。それこそ、自分自身に、反吐が出るほど。

 

 

「我ながら、なんて身勝手な……」

 

 

 思わず出た独り言。

 嫌悪感が滲み出て、普段の慇懃無礼な口調からは考えられない、あまりにも不機嫌なそれ。

 だがそれで良いと、黒い人影は思った。何せ誰にも聞かれていないのだから。であるのなら、多少は崩れた口調になっても問題はない。

 

 黒い人影は、そう思っていると────。

 

 

“────身勝手、それをあなたが言うのかい?”

 

 

 背後から声が聞こえた。

 黒い人影は思わず強張る。何せ、ここには自分一人であった。だが聞こえたのは自分以外の、意識外からの何者かの声。

 

 それが誰なのか。

 即座に判断するや否や、黒い人影はくつくつ喉を鳴らし笑みを浮かべて。

 

 

「これはこれは。こんなところでお会いするとは、奇遇ですね先生」

 

 

 振り返り黒い人影は声をかける。

 そこにはスーツ姿の中肉中背の男の姿。黒い人影と同じく、キヴォトスの外部から来訪せし大人────シャーレの先生の姿があった。

 

 先生は、ジッ、と。

 ただ黒い人影を見ていた。彼らは初対面、というわけではない。アビドス高等学校三年生────小鳥遊ホシノを巡る一件で顔を合わせている間柄だ。黒い人影から見た先生の印象は兎も角として、先生から見た黒い人影の印象は最悪な部類と言っても良い。

 子供を守護する事を是とする先生と、子供を利用し搾取する行為を是とする黒い人影とでは、主義も主張も真逆のそれである。二人の思想も思考も相容れないモノであり、先生としても黒い人影とは馴れ合うつもりもなかった。

 

 だが、先生はただ黒い人影を見ていた。

 睨め付けるわけでもなく、不機嫌そうな表情というわけでもなく、剣呑な雰囲気を纏っているわけでもない。

 

 ただ、先生は、黒い人影を見ていた。

 

 

 黒い人影は、違和感を覚える。

 どういうつもりなのか、と先生の意図が読めない。

 

 彼らは相容れない存在。

 考え方も、子供に対してのスタンスも、主義も主張も、交わる事のない者同士。

 黒い人影は先生への嫌悪感や猜疑心はない。むしろ自分すら出し抜いた手腕を好意的に考えており、出来れば目的を同じくしたいのだが、先生もそうかと問われれば、決してそうではないと黒い人影は断言する。彼がキヴォトスで“先生”という立場を貫く以上、残念に思うものの必ずぶつかり合う。

 

 だからこその、違和感。

 先生から見た自分は、決して好感の持てる人物じゃなかった。

 ならば何故、彼は何もしないで、ただ私を見ているのか、と。

 

 

 黒い人影は思わず口を開きかける。

 だがそれよりも早く、先生は遮るように、淡々とした口調で。

 

 

“腑に落ちないことがある”

 

「……ほう?」

 

 

 黒い人影は愉しそうに、声を洩らした。

 彼は今度は何を口にして、楽しませてくれるのか、と黒い人影は耳を傾ける。

 

 先生は口調を崩さずに続けて。

 

 

“最初は、ホシノを狙っていると思った。あなたとカイザーコーポレーションの利害は一致している。カイザーはホシノという戦力を欲し、あなたはホシノの神秘を解明したがっていた”

 

「……えぇ、そうです。だからこそ、我々は手を組みました。全ては小鳥遊ホシノさんを手に入れるために」

 

“本当にそう?”

 

 

 ここで初めて、先生の目の色が変わる。

 ただ見つめていた瞳から、怪訝に満ちた眼へと変貌を遂げ、続けて問いを投げる。

 

 

“どうして、便利屋68の子達を雇ったの?”

 

「私の護衛ですよ。キヴォトスは物騒ですから」

 

“あの子達を、ホシノとの密約に同行させたのは?”

 

「言ったでしょう。彼女達は私の護衛です。逆上した小鳥遊ホシノさんに襲われるとも限りません」

 

“密約の内容を公言しないように伝えなかった?”

 

「言わなくてもわかると思いましてね。そうですか、彼女達は喋ってしまいましたか」

 

“あぁ、あの子達からの情報があったから、私はあなたに辿り着けた。それがなかったら、ホシノを助けるのにもう少し時間がかかったかもしれない”

 

「それは誤算でした。やはり、子供に頼るべきではありませんでしたね」

 

 

 クックック、と笑みを零す。

 対する先生は、極めて真剣な表情のまま。

 

 

“────黒服”

 

 

 黒い人影────黒服と呼ばれた人物へ視線を向け、先生は口を開く。

 

 

“誤算じゃなかった筈だ。あなたはこうなると、予想していた”

 

「……買い被りすぎですよ、先生。私は所詮、その程度の大人。子供の行動すら予想ができない大人に過ぎない」

 

 

 自嘲気味に呟く黒服に、先生はそうは思えなかった。

 

 子供の行動すら読めない、と黒服は自らの事を称したが、その割にアビドス高等学校の追い詰め方は周到なものであり、陥れるという点で言えば手際が良すぎた。

 キヴォトスを代表する大企業である、カイザーコーポレーションと手を組んでいたとはいえ、誰にも悟らせる事もなく、アビドス自治区の土地の所有権を手中に治め、首が回らなくなるほどの負債を課し、どうしようもなくなったところにホシノに条件を提示し退学に追い込み、その身を手に入れる。

 

 先生と言う立場であり、何よりも子供を守る大人として、黒服のやり方は許せないものであるが、子供の行動を予想できない者の手口ではない、と先生は結論付ける。

 ホシノのアビドスへの思い入れ、そして責任感がありすぎる行動パターン、それらを理解していないと打てない手であった。

 

 つまりは、嘘。つまりは、虚偽。

 何もかも、黒服は予想していた筈であり、こうなることも理解した上で、便利屋68を雇い行動していたと、先生は結論する。

 

 ならば問答は不要だろう。

 何もかも黒服の目論見どおりであったと仮定した上で、先生は続けて。

 

 

“あなたは私達にホシノを助けさせたかったんだ”

 

「先生は私が、人情に溢れる大人かもしれない、と言いたいのですか?」

 

“まさか”

 

 

 先生は首を横に振る。

 それはない、断じてありえない、と行動で示し、言葉で以て黒服に突きつける。

 

 

“私がそう思ったのは、あなたに生徒への善意を感じたからじゃない。考慮なんてしない悪意を感じたからだ”

 

 

 悪意。

 それはつまり、他者を利用し、ただ自身の目的のみを遂行させようとする行為。

 

 

“あなたの立ち回りは周到だった。ホシノが一年生のときから声をかけて、条件を提示し、断られても日を改めて何度も声をかける”

 

 

 もちろん、再度声をかける際には前回と同じ条件を提示するわけでもない。

 より良い条件を提示する――――と見せかけて、黒服のみが得をするような内容で。それを言葉巧みに、生徒を騙して、自身に協力をさせようと努力する。

 

 それを悪意といわずに何と言おう。

 しかし、裏を返せば。

 

 

“それだけ、あなたはホシノを注目していた。私にはわからないけれど、ホシノが持つ神秘とやらに、あなたは執心していた”

 

 

 それだけ、ホシノを手にしたかったのだろう。

 何度も黒服はホシノに接触をし、侮蔑染みた視線を送られ、軽蔑しきった言葉を投げられようと、黒服はホシノを諦めなかった。それだけ、ホシノがもつ神秘に興味があったという証左に他ならない。

 

 だというのに。

 

 

“それなのに、あなたはあっさりと手放した。それまで念入りに準備をし、遂にはホシノの身柄を確保したにも関わらず”

 

「……予想外の出来事が連続しましてね。カイザーコーポレーションには悪い事をしました」

 

“それだよ、黒服”

 

 

 先生は遮るように続けて言う。

 

 

“あなたは『契約』を何よりも重んじる。形とやり方はどうであれ、ホシノとの契約通り、アビドス高等学校への借金の返済をしようとした。それがホシノとの契約だから”

 

「それが何か?」

 

“おかしいんだよ。あなたの主義に反している。ホシノという存在が、あなたとカイザーコーポレーションを繋いでた。そういう契約だったから。それなのに、カイザーとの関係すら反故にし、私達へホシノが囚われている場所の情報を提供したのは、どうしてなのかな?”

 

「……あなたという大人が気に入ったから。それでは不足ですか?」

 

“不足だとも。それだけで、あなたが自ら掲げている主義を捻じ曲げるとは思えない。あなたには事情があり、譲れない何かがあったから、カイザーを裏切ったんだ”

 

 

 今思えば、あっさりしすぎていたと、先生は思い出した。

 まるで、自分の元に来るのを待っていたかのようであった。黒服との舌戦を繰り広げた。揚げ足をとるかのように、ホシノと黒服の間で結ばれた契約書の不備を指摘するも、あまりにも簡単に引き下がっていたことを、先生は思い出していた。

 

 黒服のやり方はあまりにも周到で、上手く立ち回ろうと思えば、自分もアビドス高等学校の生徒達も、何も出来なかった筈だ。それこそ指を咥えて見ているしか出来なかった。

 それをしなかったのは、つまるところ。

 

 

“あなたが便利屋の子達に接触したのは、()()()()がカイザーと揉めてからの事だ。そして、件の()()()()は便利屋のアルとムツキとも昔から関係がある。それも偶然というのか?”

 

「先生、あなたは何を仰りたいのでしょうか?」

 

“黒服、とぼけるのは止せ”

 

 

 視線には敵意を籠めて、そして言葉には警戒という感情を乗せて、単刀直入に先生は問いで以て刺す。

 

 

“────オウヒに、何をするつもりだ”

 

 

 ホシノとは隠れ蓑。本命は天上院オウヒであると、先生は断言する。

 いいや、途中までは本気でホシノという存在を手に入れようと動いていたのだろう。だがしかし、黒服にも予想外の出来事が起き、それが重なった結果、ホシノという存在を諦め、オウヒへ注力したのだろう。

 

 どちらにしても、黒服の思惑がどうであれ、それを見逃す事なんて、先生には出来ない。

 それこそが、先生の掲げる主義であるのだから。

 

 黒服の思惑がどうであれ、それが生徒を害するものであれば、許してはならない。

 それこそ、どんなことをしてでも。懐に入れてある大人のカードを使う事になろうともだ。

 

 

 対する黒服は、そんな先生の思いに気付いてか気付いていないのか。

 呆れた口調で、自嘲するように答える。

 

 

「感情とは厄介なものです。子供である生徒も振り回され、大人である私ですら制御が出来ない。本当に、厄介なものです」

 

 

 それだけ言うと、黒服は先生から視線を外し、未だに世間話に花を咲かせている三人の生徒の姿へと視線を戻す。

 彼が見ているのはその中の一人。二人の幼馴染と会話するだけで嬉しいのか、終始笑顔で応対している黄金の頭髪の生徒────天上院オウヒの姿を、黒服は見ていた。

 

 黒服は笑みを浮かべている、と先生は認識する。

 表情はわからないが、どういうわけか、笑っていると気配で判断する。

 

 黒服は視線をオウヒに向けたまま続けて。

 

 

「ご心配なく。私はあの子に何かをするつもりはありません。元より、あの子に会う資格すら、私にはありませんから」

 

 

 その言葉には嘲りが籠められていた。

 嫌悪するように、僅かな苛立ちを乗せて、言の葉として出力する。

 

 

“オウヒと何かあったのかい?”

 

「何もありませんよ。昔、私の実験に付き合ってもらった程度の間柄です」

 

“実験……?”

 

 

 怪訝そうに見つめる先生に、黒服は「あぁ」と言葉を洩らして。

 

 

「誤解しないで下さい。あの子の同意の上。お互いに理があってのことです。私達だけが得している、ホシノさんの時とは違いましたよ」

 

“……黒服”

 

「申し訳ございません。これは失言でしたね」

 

 

 クックック、と笑みを零し黒服は続けて言う。

 

 

「私はホシノさんの神秘に惹かれた様に、あの子の強い────いいえ、貴い神秘に魅せられました」

 

“それで解明しようと近付いた?”

 

「えぇ。あの子は質の良い実験動物(モルモット)でしかなかった。そして、来るかもしれない災厄に備えての兵器でもあった」

 

 

 黒服にとってはその程度の認識しかなかった。

 文句を言わない実験動物であり、神秘を解明するための道具であり、いざとなったら兵器として転用するための武器でしかなかった。

 生徒にとっての銃器であり、先生にとっての大人のカード。黒服にとって天上院オウヒという存在はその程度でしかなかった。替えが利かないものの、簡単に手放せるモノ。

 

 

「それがどういうわけか、何を間違えたのか、私はあの子を────」

 

 

 黒服が思い出すのは過去の光景。オウヒと過ごした日々を追想する。

 万能の神秘を持っているとは言っても、知識がなければ意味がない。一般常識を教えるのは苦労したし、目を離すと直ぐにどこかに行ってしまうので、ずっと見ていないといけなかったことを覚えている。

 

 苦労をした。

 感情も希薄で、何を考えているのかわからないこともあった。

 でも、大変だったけど、苦労をかけられたけど────悪くはなかったと断言できる。

 

 

“黒服?”

 

 

 黙ってしまった黒服に、先生がおずおずと話しかける。

 はっ、と黒服は直ぐに調子を取り戻して。

 

 

「……あの子はデカグラマトンの預言者であるビナーを打ち倒してしまった。これから先、キヴォトスの勢力の注目を集める事となるでしょう。それは我々、ゲマトリアも同じです」

 

“あなたの力で、ゲマトリアの注意を逸らすことは出来ないの?”

 

「我々も一枚岩ではありません。同志の中には、あの子を良く思ってない方々もいるのも事実です」

 

 

 何もしないつもりはない。

 それでも、個人の力では限界がある。もしかしたら、神秘の解明というゲマトリアとしての活動を邪魔する存在として、排除される可能性すらある。

 

 そうなれば、誰がオウヒを守るというのか。

 そう思っていた────目の前の大人、先生と出会うまでは。

 

 

「先生」

 

 

 黒服は恥も外聞もなく、先生に向かって頭を下げた。

 

 

 そんな資格などないことは、本人が一番理解していた。

 神秘の解明という己の欲求とオウヒの存在を天秤にかけて、己の欲求に天秤が傾いた。だからこそ彼女の前から姿を消した。何も言わずに、己の浅ましい欲望を恥じるように。知らず知らずのうちに、己の中で大きな存在となったオウヒと向き合うのが恐くなり、非人道的な探求に手を染めていた自分などが、彼女の傍に居て良いわけがないと思ったから。

 

 そうだ。

 彼女を守るのは自分じゃなくても良い。

 目の前にいる、頼れる大人がいる。自分とは違い、正面からオウヒと向き合う事が出来る。そんな大人が目の前にいる。

 

 言えた義理ではないのは百も承知。

 それでも黒服は、恥も外聞もなく、口にする。

 

 

「────どうか、あの子をお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“お願いします、か”

 

 

 先生の応答を聞かずに、黒服は去っていた。

 残された先生といえば、黒服と同じく、屋上から談笑し盛り上がる生徒達────アルとムツキ、そしてオウヒの姿を見下ろしていた。

 

 ため息を吐く。

 黒服が何を想って、託していったのかはわからない。

 容易くない事を、改めて先生は口にする。

 

 

“わかっているのかい、黒服。あの子は────オウヒは、私を大人として信頼していないことを”

 

 

 嫌悪されているわけではない。

 だがどこか、未だに信頼も信用もされてないことを、先生は感じていた。

 それを証拠に、彼女は未だに先生と呼んでいない。出会ってから今まで、ずっと『シャーレの』と呼んでいる。

 

 尊大で傲岸な言動。

 しかし、眼の奥に憂慮する感情があるのは、きっと気のせいじゃないと先生は思う。

 

 オウヒは怯えている。

 何に対してかは、わからない。

 過去の経験からなのか、ある種のトラウマがあるのか。オウヒの人となりを把握し切れてない先生は断言できないものの、何が原因なのかは想像がついた。

 

 

“原因は黒服、あなたにもある”

 

 

 ならば、二人は向き合わないとならないのだろう。

 嫌が応にも、前へと進むために、二人は向き合わないとならない時が、必ずやって来る。

 

 それは今ではなく、もっと先のことであるのなら、やるべきことは────。

 

 

“託されたからには、私も彼女に向き合わないとね”

 

 

 そこで騒がしくなっていたので、視線を戻した。

 そこには、怯えた調子で何かから逃げているアル、愉しそうに笑みを浮かべるムツキ、そして泣いているオウヒの姿があった。

 

 何から逃げているのだろう、と視線を後方へと向けると、武装した蒼森ミネの姿。

 恐らくだが、無断で病室を抜け出したオウヒを連れ戻しに来たのだろう。

 

 先生は苦笑を浮かべる。

 やる事は山積み、不安もあるけれど、今は出来る事をやろう、と先生は思い屋上を後にする────。

 

 

 





 Q.オウヒが先生を信用してないのはなんで?

 A.大人だから。もっと言えば、何も言われずに姿を消されたトラウマを持っているから。大人はそういうものだと思っている。その時に、自分に価値がないから消えたのだと定義してしまい、自己評価クソ低オウヒが爆誕する。そうだ、黒服。お前が始めた。

 
 Q.柴大将に懐いているのは?

 A.柴大将が凄いから
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