~ソロモンちゃんねる~
オウヒ「喫茶ばにたすの様子を見るついでに甘いものが食べたくなってな」
ヒナ「うん」
オウヒ「席が厨房と近くて中のやり取りが聞こえてきたのだ」
ヒナ「それで?」
オウヒ「パンケーキ1番テーブルに運びま……いいやこれパンケーキじゃないな、これ、えっ、なに……??? って困惑の声が聞こえてきて、厨房で何が生まれたのか気になって仕方ない事があった」
ヒナ「ゲヘナでも良くあるわ、それ」
オウヒ「え?」
ヒナ「え?」
次からは本編を更新する予定です
よろしくお願いします!!
早瀬ユウカは困惑していた。
彼女が今居るのは、ミレニアムサイエンススクールのとある部室。
その部室の中は、お世辞にも整理整頓していると言い難く、床にはゲームのディスクが入っていたであろう、空のケースが散乱しており、ゲーム機本体が無造作に転がっていた。マンガや雑誌を収納するための本棚はその役割を果せておらず、無造作に床に雑誌などが散らばっている。
この散らかり具合。
それは元からなのか、それともこのときだけなのか、ユウカにはわからない。
けれど、これだけはいえる。ユウカが今居る部室────ゲーム開発部の部室は、荒れ放題となっていた。
ユウカがここに足を運んだのは、単純な話だった。
ゲーム開発部が暴れててうるさいからどうにかしてほしい、とセミナーに苦情が入りユウカが様子を見に来た。ただそれだけの理由。
どうせ、ゲームがクリアできないと、騒いでいるのだろうと軽く考えていると、どうやらそれは違うようだ。
部室の中央では、双子の姉妹────モモイとミドリが黙って睨み合っている。
それはいつものことだ。ユウカにとって、この双子が争うのはいつものこと。日常茶飯事の風景であり、特筆して注目する事もなく、思っていたよりも事態が深刻と断じる要素にはならない。
問題は二人ではない。
もう一人、おろおろ、と。右往左往、二人の顔色を窺いながらも涙目になりながら仲裁しようとしているゲーム開発部部長であるユズの姿。
それを見て、ユウカに衝撃が奔り、ただ事ではないと判断を下した。
ユズが、あの花岡ユズが、自分の定位置でもあるロッカーから出て、二人の喧嘩を仲裁しようとしている。更に言うならば、ユウカの姿を見て、ユズはロッカーへ逃げるのではなく、心の底から安堵するような視線を送っていた。
安堵、つまりは安心しているのだ。
ユウカという存在を見つけて、ユズは希望を見出していた。それは、自分にはどうする事も出来ない事態に直面しているという証拠。
双子の喧嘩はいつもの風景。
しかし、今回はどうやら毛色が違うことを、ユウカは思い知らされる。
思わず慌てて。
「ちょ、ちょっと。どうしたのよ、二人とも!」
割って間に入るも、双子は微動だにしなかった。
お互いの顔を睨みつけて、止めに入ったユウカの顔なんて見ようともしない。
数秒の沈黙が流れる。
たかが数秒。されど数秒。先に沈黙を破ったのは────。
「それじゃあ、お姉ちゃん。こうしようよ」
双子の妹であるミドリだった。
ミドリは姉であるモモイを睨みつけながら、一つ提案をする。
「ユウカにプレイしてもらって、判断してもらおう」
「いいよ。泣いて謝っても許さないからね」
対してモモイは、力強く頷いた。
それに慌てたのはユウカだ。
何が何やらわからないし、どうして二人が喧嘩しているのか理由すらわからない。それなのに巻き込まれようとしている事実に、彼女はひたすら困惑しながら。
「待ちなさい。一体どうしたのよ二人とも。先ずはどうして喧嘩しているのかを────!」
「ユウカ、何も言わずにこれをプレイしてみて」
ずい、とミドリから出されたのは一枚のディスク。
何の変哲もない、どこにでもある無加工のものであり、市販として売られているゲームディスクではない事がわかる。
「なに、これ?」
「私達が作ったゲームだよ」
ミドリは淡々とした口調で答えて、モモイが無言でゲームをプレイする為の環境を整え始める。
ここでもユウカは違和感を覚えた。
普段のモモイならば、いの一番に作成した事を誇らしげに語り、居丈高に自慢する筈だ。それが今はなく、普段の彼女からは考えられないくらい、むしろ怖いくらい何も言わない。それだけ、ミドリの言動に思う所があり、承服しかねる何かを抱えているのか。
そうこうしている内に、ゲームが起動し始める。
ユウカは事態についていけないながらも、その場に座りコントローラーを握り楽な姿勢をとった。
どうして二人が喧嘩しているのかは未だにわからないが、兎に角ゲームをしてみないと話が進まないことだけはわかった。
「別にゲームをするのはいいけど、ジャンルはなんなの? あまり難しいのはちょっと……」
ユウカも市販のゲームはやったことがある。
しかしそれは息抜き程度。上手くもなく下手でもない、楽しいからやるくらいの腕前。あまり高い難易度を要求されては困る。ユウカはそれくらいの感覚で問いを投げたのだが。
「恋愛シミュレーションだよ」
「────え?」
ミドリの返答に、思わず握っていたコントローラーを落しそうになった。
正に意識外からの一撃。
想像もしてなかったジャンルに、ユウカは面食らう。
確かシナリオ担当はモモイの筈だ。
ともすれば、これは彼女が考えたストーリー展開ということになる。
「シナリオはモモイが考えたの?」
「……うん」
どこか照れたように、はにかんだ調子でモモイは応じた。
本当に、と視線をユズに向けると、小さく頷く。
意外な一面もあるものだ、とユウカは感心する。
いつも苦労をかけられ、騒がしい後輩のいじらしい姿に、どこか不思議な心境を覚えながらユウカはゲームをプレイしていく。
内容は物珍しいものじゃない。
学園生活を送る少女────才上モモを操作して、気になるキャラクターと恋愛していくゲームだった。
可もなく、不可もなく。
よく言えば王道、悪く言えば変わり映えのない。
モモイが作ったシナリオとは思えないほど、甘すぎて甘すぎる、更に言えば甘すぎる物語が展開される。
そこで違和感。
ゲーム画面には、二人のキャラクターの姿。
だが、どういうわけか、立ち絵が同じなのだ。黄金色の長い頭髪、紅色の双眸を宿している、どこか既視感のあるキャラクターデザイン。それが二人、画面に映し出されていた。
「ねぇ、モモイ。同じキャラクターが出てるんだけど、これって────」
「良く見て、ユウカ」
答えたのはモモイではなくミドリ。
ユウカの横から、彼女が持つコントローラーを操作して、会話ログを開き、ミドリは続けて言う。
「違う名前でしょ」
「あっ、本当だ……」
そう、同じ立ち絵なのに、キャラクターの名前は違うモノだった。
良く見れば、立ち絵のポーズも違い、見た目も微かに違う。でも基本は同じで、黄金色の長い頭髪、紅色の双眸の女性キャラクターで共通していた。
それが意味する事。
シナリオを担当しているのがモモイだとすれば、グラフィックやビジュアル全般を担当しているのはミドリだ。
それはつまり────。
「ミドリ、もしかしてスランプなの?」
キャラクターデザインが全て同じ。
ユウカが記憶しているミドリの絵は、豊富な個性があった。キャラクターデザインも多種多様であり、金髪紅眼の女性キャラクターでごり押ししてくるモノではない。
故にユウカは問う。他意はない、単純に疑問に思っての行動であった。
だがそれが、ミドリの逆鱗に触れた。
「全部、全部! お姉ちゃんのせいだよ!」
わーっ、と。
力いっぱい、身体いっぱい、ミドリはこれでもかと憤りを口にする。
「違うキャラデザを持って行っても全部ボツにしてくるし! もうなんなの! どんだけ金髪紅眼フェチなのお姉ちゃん!」
「しょ、しょうがないでしょー! このシナリオには、金髪紅眼の綺麗なキャラが一番良いの!」
「なんなのそのこだわり!」
「こだわって何が悪いのさ!」
「百歩譲って、それでもいいよ。百歩譲ってね。でも、内容がクソだよクソ!」
「クソ!?」
「山なし谷なし落ちなし、ひたすら甘いイチャイチャな展開ってなに!? 恋愛ってもっとこう、何かあるし、これは違うでしょ!」
「甘くてなにが悪いのさ! 良いじゃん、甘くて。憧れの人と恋愛したいもん私だって!」
「嫌な予感がしたんだよ。お姉ちゃんが、恋愛ゲームを作りたいって。恋をしたことがないお姉ちゃんが恋愛物なんて書けるわけないじゃん……」
「私だってあるよっ! 恋愛の一つや二つ!」
そうして、再び喧嘩は勃発する。
取っ組み合い、とまではいかないものの、お互いの主義と主張をぶつけ合う。
ここで漸く、ユウカは納得した。
これが双子が喧嘩している理由なのか、と。
ミドリは金髪紅眼キャラしかオーダーせず、あろうことか違う見た目のキャラを出そうものなら即ボツにするモモイにフラストレーションが溜まり、あまりにも陳腐なシナリオに遂には爆発し激怒。
モモイは余程自信があったのか、ミドリにシナリオを酷評されて、あろうことかクソ呼ばわりされた事に、返す刀で言い返す。
何はともあれ、やる気を出す事は良いことだとユウカは思う。しかしその反面、どこかモモイに私情を感じる。
そこまで、金髪紅眼のキャラである必要性が感じられない。それに、どういうわけか、ユウカにはその姿に見覚えがあった。
どこか尊大で、口調は傲岸なそれで、ミレニアムの制服に似た制服を身に纏い、軍用のロングコートを肩で羽織っているその姿を、ユウカはどこかで見た覚えがあった。
ふと、モモイを見ると、彼女も似たような軍用コートを着ていることに気付く。
綺麗とは言い難く、所々焦げており、弾痕があった。
そこで、ユウカは気付いた。
見覚えがある筈だ。何度か目にしたミレニアムの生徒に、良く似ていたのだから。
その生徒と、ミレニアムの生徒会長であり、セミナーのトップでもある調月リオは、何度も共に過ごしているのをユウカは目にしている。
合理の化身であり、笑顔なんて見せた事がないリオが、その生徒と話す時は微かに口元が緩んでおり、会長もそんな顔をするんだと思ったのは記憶に新しい。
金髪紅眼の生徒。
その生徒の名前は────。
「……天上院さんに、そっくりね」
△才羽モモイ
ゲーム開発部の問題児担当。
とある出来事(Vol.0 第10話参照)で謎の金髪紅眼のミレニアム生に憧れるようになる。サイズが合わない軍用コートを着ている。
何を考えたのか、恋愛ゲームを作ろうとしたけど、恋愛経験はなく、シナリオもひたすらイチャイチャする内容であり、出てくる攻略対象のキャラクターが全員金髪紅眼ということもあり、売る前から約束されたクソゲーを作ってしまう。完璧に私欲である。
△王様カノジョ
モモイがシナリオ担当した恋愛シュミレーションゲーム。
主人公は才上モモ。身長は143cm。ゲーム好きの女の子
攻略対象が全員金髪紅眼。全員がおもしれー女と言ってくるがバグではない。良く見れば書き分け出来ており、少しでも工夫しようとしたグラフィック担当の涙ぐましい努力が見て取れる。それでも金髪紅眼のキャラしか出ないのは、しょうがないなお姉ちゃんは、の精神によるもの。何だかんだで姉に甘い妹なのであった。
展開は山なし谷なし落ちなし。ひたすらに攻略対象との甘い展開しかなく、修羅場なんて起きない心に優しい設計。
ユズは、さすがに不味いんじゃ、って思うもモモイが楽しそうだったからいいかの精神。モモイに甘すぎない君ら?