こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~

アツコ「どこかの学園で、二頭の象が争うとき、傷つくのは草、って諺があるんだって」
オウヒ「何を笑っているのだ?」
ミサキ「そうじゃないよ殿下」





第1話 特異現象捜査部、始動

 

 ワタシがトリニティの救護騎士団から退院して二日ほど経過していた。

 てっきり、もう少しあそこで入院生活していると思っていたけど、そうはならなかったみたい。

 

 驚異的なワタシの回復力に、もう充分だと救護の偉い人が判断した────訳でもないみたいだった。それを証拠に、救護の偉い人は笑顔でワタシを送り出したわけではなかった。本当に苦々しく、全く納得してない様子で、ワタシが救護騎士団の部室から去るのを見送っていたから。

 

 退院って、もう少し笑顔で送り出す行事だと思うのです。

 多分、あの表情は一生忘れないと思う。まぁ、それだけ自分の信念に殉ずる人なのだと思う。

 全ては、全ての人をあまねく救護するために。そんな信念の元、救護の偉い人は今日も拳を振り上げるのだろう。ライオットシールドを片手に、唸りを上げて。誰もを救おうとする信念は本当に立派だと思うし、敬服して然るべきだ。少し、いいや、滅茶苦茶怖いけど。

 

 

 そう考えると、トリニティは頼もしくもあり、怖いところでもあると再認識したワタシは、母校でもあるミレニアムサイエンススクールに足を運んでいた。

 そして、ミレニアムの敷地を跨いだ所で、リオ会長から呼び出し。

 

 

 正直に言いましょう。

 心当たりがありすぎます。きっと、絶対、間違いなく、この呼び出しはお説教も兼ねている。

 

 一体何に関してだろうか。

 アレだけ接触禁止を言い渡されていたのに、シャーレの先生に会ってしまった事だろうか。でもアレはあちらから来たものだし、ワタシは悪くないと思います。

 それとも、アリウスの生徒達を率いて、カイザーPMC相手に戦った事だろうか。しかし、アレはシャーレからの要請によるもの。これもワタシは悪くないと思います。

 もしかして、ワタシが無茶をして怪我を負ってしまったことだろうか。……うん、これではないと思う。この件に関していえば、ワタシの落ち度だったけど、誰にも迷惑をかけてないと思う。

 

 となると、怒られるとしたら、このシャーレの先生に会ってしまった事か、カイザーPMCと一戦交えてしまった事か。

 

 

 うぅ、胃がキリキリしてきました。

 何度もリオ会長には迷惑をかけてきたし、呆れられる事も多くあったけれど、怒られるのは何度経験しても慣れそうにありません。

 というか、慣れる人っているのだろうか。

 

 

 そうして、ワタシは逃げ出したい一心の弱気の心に鞭を打って、ミレニアムタワーの最上階にあるセミナー執務室に続くドアの前で立ち止っていた。

 

 許されるのなら、土下座する気持ちだ。

 いいや、土下座ではまだ頭が高い。そんなときは土下寝だ。やり方は至ってシンプル、地面や床にうつ伏せになって四肢を伸ばす。これこそが、土下座を超える謝罪表現。謝罪の究極形ともいえる姿。これを前にされれば、いくらリオ会長といえど許してくれるに違いない。

 

 

 深呼吸。

 緊張で高鳴る胸を抑えて、深く深呼吸をして、更に深く息を吐き出し、ドアを二回ノックする。

 

 

「リオ、余である」

 

『……入って』

 

 

 ドアを開ける。

 さぁ、どうかご照覧あれ。これこそが、ワタシが表現する誠心誠意の謝罪の形。

 謝る事は恥ではない。頭というのは、下げるためにあるのだから────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────と、意気込んだワタシはと言うと。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「────」

 

 

 三人掛けのソファーにて。ワタシはリオ会長とトキちゃんに挟まれて座っています。

 中央はワタシ、その右にはリオ会長が座り、左腕にしがみ付くトキちゃん。

 

 どうしてこうなったのか。

 勿論、セミナー執務室にソファーが一つしかないというわけではない。

 

 長机を挟んで、対面する形で同じタイプのソファーが設置されている。

 ワタシが座るソファーに、無理して腰掛けなくても良いのに、何の意図があってかリオ会長もトキちゃんもワタシの両隣に座していた。

 

 

 リオ会長を見る────彼女は持っているタブレットを操作している。

 トキちゃんを見る────どこか自信満々な表情で、ワタシの左腕にしがみ付きながらワタシを見ている。

 正面を見る────なるほど、意図がわからないってことがわかった。

 

 

「……ククッ」

 

 

 何が、ククッ、だ。

 不敵に笑うんじゃあないワタシ。何も分かってないのに、笑うんじゃあないぞ。

 

 ひたすら困惑しています。

 冷や汗が滲んでくる。嵐の前の静けさというか、これから怒られることになるのかもしれない。考えるだけで恐ろしい。こんな残酷な緩急の付け方があるだろうか。

 

 

「……全治一年と聞いていたけれど」

 

 

 一人で怯えているワタシに、いつの間にかタブレットの操作をやめて上から下までこちら側を見て。

 

 

「……大丈夫なの?」

 

「問題ない」

 

 

 対して、ワタシは即答をする。

 歩いたり、激しい運動をしたりすると、多少の違和感があるけれど、戦闘等には支障をきたすこともなし。

 

 殴る事も出来るし、蹴る事も出来るし、投擲する事も、銃の引き金を引く事も出来る。

 そういう意味では、ワタシの身体は五体満足。まごうことなき健康体であり、十全に身体を稼動する事が可能な状態といえるだろう。

 

 

「この一件で、余の性能が落ちるわけもなし。うむ、真の意味で問題ないとも」

 

 

 ワタシの返答に応じたのはトキちゃんだった。

 彼女は、どこか感心するように、ワタシの左腕にしがみ付きながら。

 

 

「流石、オウヒ。強い子ですね。何を食べたらそんな風になれるんですか?」

 

「良く寝て良く食べて良く眠るのだな」

 

 

 あと豆を食べよ、と続けて言うワタシに、リオ会長は深いため息を吐いて。

 

 

「トキに妙な事を吹き込まないで」

 

 

 そういうと、持っていたタブレットを正面の長机に置いた。

 無意識に、ワタシは身体を硬直させた。何だろう、怒られる前触れを過敏に感じ取ったというのだろうか。リオ会長の一挙手一投足に、神経を張り巡らせているワタシが居る。

 

 しょうがないのです。

 怒られるのだって心の準備がいるのです。

 怯えるのは仕方ない事。これが普通の反応なのです、多分。

 

 リオ会長はワタシを真っ直ぐに見つめて。

 

 

「先生と接触した件はとりあえずいいでしょう。シャーレの要請であれば、断るのは愚策。心証を悪くすれば、アリウスの風当りも強くなるかもしれない」

 

 

 シャーレの要請というよりも、アレはシャーレの先生のお願いって感じだったけどね、とは言えない。

 そんな事を言ったら、拗れるに決まっているから。

 

 沈黙。

 それが現状に於いて正しい身の振り方なのだから。

 

 

「怪我をするな、と言うつもりはないわ。貴女には出来ない事であるし、不可能な事をやれというのは合理的ではないもの」

 

「はい」

 

「だけど、いざというときに動けないようでは困る」

 

「……はい」

 

「前提として、貴女はミレニアムの生徒であり、替えが利かない戦力の一つ。それをいい加減自覚してちょうだい」

 

「…………はい」

 

 

 自然と、ワタシはソファーの上で正座していた。

 靴を脱いで、顔を伏せて、両手は膝の上に。驚いた、人って無意識に反省しようとすると、正座になるらしい。

 

 しかし、リオ会長のいう事は尤もだ。

 ワタシはミレニアムの生徒。優先すべきはミレニアムの事案であり、ミレニアムで何かが起きても生徒であるワタシが動けないようでは、在学している意味等ない。

 

 きっと、リオ会長はそういうことを言いたいのだと思う。

 全く以て、その通り。会長のいう事に間違いはない。ミレニアムの生徒会長として、その叱責は何も間違っていない。

 

 

 思わず、ワタシは顔を俯かせてしまう。申し訳ない気持ちでいっぱいだったから。少しだけ、ほんの少しだけ、泣きそうになっていると。

 

 

「……リオ様、物事は正確に言うべきかと」

 

 

 トキちゃんはこれ見よがしに、大袈裟にため息を吐いて言った。

 リオ会長は訝しむように。

 

 

「どういう意味かしら?」

 

「そのままの意味です。このままではオウヒに間違った伝わり方をして終わりますよ。それはリオ様も本意でないのではありませんか?」

 

「……」

 

 

 リオ会長は沈黙を以て応じていた。

 

 それにしても、トキちゃんのいう間違った伝わり方ってどういうことなのろうか?

 ワタシの心の中で呟いた疑問に、トキちゃんは呆れたような口調で答えてくれる。

 

 

「オウヒ、リオ様は心配していたのです」

 

「……で、あるの?」

 

 

 恐る恐る、と言った調子のワタシに対して、トキちゃんは、はい、と力強い返事と共に。

 

 

「で、あります。貴女がトリニティの救護騎士団へ搬送されたと聞いたときの取り乱しようと言ったら」

 

「トキ」

 

「居ても立ってもいられず、直接トリニティに身柄を引き渡せと乗り込んだほどです」

 

「トキ……!」

 

 

 制止するようにリオ会長は言うと、はっ、と居心地が悪そうに視線をワタシから明後日の方向へと向けた。

 

 でも確かに、リオ会長の言動には学校の生徒会長としての思惑とは違う、別の感情も乗っていたことをここで思い出した。

 リオ会長はワタシの身体の調子を確認してくれた。それは、ワタシを心配してないと出てこない配慮のある言葉だった。

 

 それだけじゃない。

 ワタシがワカモと戦って怪我を負ったときも、リオ会長は心配してくれたじゃないか。

 

 今回もそうなのだろう。

 生徒会長として、立場ある人として、ワタシに投げた言葉はあるものの、リオ会長はこんなワタシを心配してくれていたに違いない。

 

 

「リオ、トリニティに来ていたのか?」

 

「……えぇ」

 

 

 頷いて肯定する。

 トキちゃんに暴露されたのが恥ずかしいのか、未だに会長はこっちを見てくれない。

 

 そんな子供のような態度に引っ張られてしまったのか、ワタシもどこか拗ねるような口調で。

 

 

「お見舞いに来てくれても良かったではないか」

 

「私が行っても迷惑だと思ったから。それに慌てて、見舞い品も用意していなかったの……」

 

「気持ちだけで充分である。来てくれるだけで、余は嬉しかった」

 

 

 そこでやっと会長はこっちを見てくれた。

 意外そうに、眼を丸くさせて、驚いたように。

 

 

「私が行っても迷惑ではないの?」

 

「迷惑なものか。貴様と余の仲だ、そのような気の使い方されると悲しい……」

 

「………………そう」

 

 

 噛み締めるように、反復するように、何か大事なものをしまいこむように、リオ会長は目を瞑り一言で以て応じた。

 

 それから熟考を重ねて、沈黙が続き、リオ会長は口を開く。

 

 

「オウヒ」

 

「なんだ、リオ?」

 

「あまり、心配させないで……」

 

 

 リオ会長は口が上手い人ではない。

 気が利いたことは言えないし、ワタシと同じくらい────いいや、それ以上に不器用な人だ。

 

 そんな人が考えて、紡がれた言葉は、きっと本心なのだろう。

 本当に良い人だ。そして、優しい人だ。こんなワタシを心配してくれるなんて、リオ会長は本当に温かい人だ。

 

 

 でも、ごめんなさい。

 きっと、ワタシはこれからもリオ会長に心配を掛けるかもしれない。

 

 今回の件でわかった。

 結局の所、ワタシには戦いしかない。戦う事しかできない、戦うだけしか出来ない。そんな女だ、それだけの女だ、それしかない女だ。

 

 傷を負っても、まともに動けなくなるまで、死の直前まで、ワタシは変わる事がないのだろう。

 それが今回で、嫌って程、理解した。多分、ワタシはこれを死ぬまでやめない。生きていることを実感するために、本来は空虚であった己自身を満たすために、そのためだけに、手段ではなく目的として、闘争を続ける。他人は眉を顰めるモノかも知れないけど、ワタシにはどうしても闘争(それ)が必要なんだ。

 それはなんて、なんて────。

 

 

「────善処するとしよう」

 

 

 浅ましい欲望なのだろうか────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワタシの怪我が問題ないことを確認したリオ会長は、座る場所を対面するソファーへと変えた。

 ちなみに、トキちゃんと言えば、未だにワタシの左腕にしがみ付いているし「私も心配していたので、頭を撫でてください」と所望してくる。

 

 本当にどうして?

 まぁ、減るものじゃないし、心配を掛けてしまったことへの謝罪も兼ねて空いている右手で撫でてあげているのですが。

 

 

「……いいかしら?」

 

「なんだ、リオ」

 

 

 視線をトキちゃんからリオ会長へと移す。

 会長はタブレットを操作して、一つの画面を見せるようにワタシ達を隔てている長机の上に置いた。

 

 画面に映っていたのは、ワタシやヒナ、そして小鳥遊さんが足止めをしていた機械仕掛けの白い巨躯の怪物。

 

 

「貴女達が交戦した、ビナーについてだけど」

 

 

 そうそう、そんな名前だった。

 カイザーPMCにも聞いていた事を思い出して、ワタシは会長を促す。

 

 

「何かわかったのか?」

 

「目下、調査中よ」

 

 

 簡潔に事実だけを述べて、ビナーの動きを分析しながら続けて言う。

 

 

「長いこと、アビドス砂漠で活動している事が判明したのは良いけれど、誰が何のために造ったのか、用途はなんなのか、その一切が不明。何故、あの場に突如として現れたのかもわかっていないわ」

 

「わからない、か。しかし貴様の事だ、仮説くらいは立てているのであろう?」

 

 

 リオ会長のことだ。

 ワタシなんかよりも頭が良いし、ワタシにはない視点を持っている。ビナーに対して、何か気付いている事もあるかもしれない。

 

 会長は少しだけ考えて。

 

 

「……立証もされてない、状況証拠だけの憶測だけど」

 

「構わん。それでも貴様の推察には価値がある。述べるが良い」

 

 

 ワタシの言葉に、リオ会長は、えぇ、と頷いて。

 

 

「ビナーの進行ルートにはパターンがあった。最初はカイザーPMC基地、そして、貴女達に阻まれてからは方向を変えた。まるでその場から逃走する何かを追うように」

 

「あの場に居たのは、余とヒナ、そして小鳥遊の三名。我らは彼奴の足止めのために殿に努めていた。離れて観察していた便利屋は除外するとして、あの場から離脱したのは、アビドス高等学校の生徒達、あとは────」

 

 

 リオ会長に促されるように、あの場からいなくなった人物を、ワタシは思い出す。

 外部からキヴォトスに訪れた大人。キヴォトスに住んでいる大人とは違う気配と雰囲気を醸し出す、その人物は────。

 

 

「彼奴の狙いは、シャーレのであったと?」

 

「あくまで仮説よ。彼が狙われたという確証はないもの。ビナーの進行ルートには彼の他にも、アビドスの生徒達もいた」

 

 

 故に、リオ会長は仮説であると断じた。

 確かに、ビナーの狙いがシャーレの先生と言い切れる程の材料はない。

 

 あくまで仮説。

 偶々、進行方向にシャーレの先生やアビドス高等学校の生徒達がいただけ、という事だってありえる。

  

 だからこそ、リオ会長は控えていた。

 思考や視野を狭めないように、ありとあらゆる可能性を模索するためにも、断言はせずにあくまで可能性の一つ程度に、考察の余地を残しておく。

 

 それよりも、と言葉を区切り、リオ会長は重たい口調で。

 

 

「問題がもう一つ」

 

 

 先ほどのビナーの目的なんかよりも、こちらの方が会長としては重く考えているみたい。

 静かに、それでいて、不安を押し殺すような口調で、ギュッと両手を合わせて。

 

 

「コンサバティブちゃんがビナーと接触した事は聞いているかしら?」

 

「あぁ、本人が言っていた。ナンパされたと騒いでおったが」

 

 

 それがどうかしたのか、と問いを投げて、会長はそれを直ぐに返す。

 

 

「その際に、ビナーは自らの事を我々と称していたらしいわ」

 

 

 我々、それはつまり複数形。

 個ではなく多を現す言葉。

 それが意味するのは────。

 

 

「……アレは一体だけではない、ということでしょうかリオ様」

 

 

 いつの間にかワタシの左腕から離れて、静観していたトキの言葉にリオ会長は一度頷いて肯定する。

 

 ビナーの目的には仮説である事を前提として話していた会長が、ビナーのような存在が何体も存在すると断じる。

 間違いないのだろう。ビナーのような怪物、もしくはそれよりも勝る化物が、他にも数体存在する。

 

 

「……オウヒ、愉しそうにしないでちょうだい」

 

「……してない、しておらんよ? 本当だ余?」

 

「顔に出てるわ」

 

「なんと」

 

 

 まことに?

 そんなに顔に出ていたワタシ?

 

 でもそれはしょうがない事だ。

 ワタシ一人じゃ倒せない存在。ヒナと小鳥遊さん、それにアーちゃんとムーちゃんの援護で、やっと撤退に追い込めた相手が、何体も居るのだ。

 

 それはきっと愉しい事になる。

 戦えば、絶対に愉しい事になる。

 間違いなく、必ず、どうしようもなく、

 

 そう考えたら、笑みだって零れるというもの。

 

 

 会長は改めないワタシに、呆れたのか諦めたのか、どちらとも取れるようなため息を吐いて。

 

 

「あんなものが、他にも居るかもしれない。これは正に、キヴォトスの危機と言っても過言ではないわ」

 

「座して待つ貴様でもあるまい。対策は考えているのであろう?」

 

 

 ワタシの言葉に、会長は首を縦に振って頷いて。

 

 

「えぇ。とはいっても、対策する為に調査している最中なのだけど」

 

「貴様が直々にか?」

 

「いいえ、それはヒマリに任せているわ。それに伴って、彼女にはヴェリタスから特異現象捜査部に移ってもらったのだけど……」

 

「待て、特異現象捜査部だと?」

 

 

 聞きなれない部活だった。

 C&C、通称メイド部やエンジニア部、それにトレーニング部とは違うのだろうか。

 

 そんなワタシの問いに、会長は簡潔に。

 

 

「名もなき神々や無名の司祭が残したオーパーツ、及び、科学的に証明しがたい現象を研究するために設立した、セミナー傘下の部活よ」

 

 

 それは、なるほど。

 部活動の内容からしてみても、聞きなれないわけだ。公に活動するには、少しばかり物騒が過ぎる。

 

 それにしても、セミナー傘下かぁー。それに入るヒマリさんかー。

 眼に浮かぶ修羅場に、ワタシは苦笑を浮かべて。

 

 

「それにヒマリが主導で動いている、か。にしても、セミナーの傘下とは。ヒマリも大人しく従ったとは思えぬが、如何に?」

 

「えぇ。渋々、これでもかって嫌な顔をされて、断腸の思いで、従ってくれたわ」

 

 

 やっぱりかー。

 そうだよね、ヒマリさんだもんね。ワタシ達みたいな年下には優しいのに、どういうわけかリオ会長には厳しいんだよねヒマリさん。

 

 でも、ワタシ、知っているよ。

 これも嫌よ嫌よも好きのうちってやつだよね?

 

 

「貴様達は仲が良いのか悪いのか、わからなくなるな」

 

「……貴女には仲がいいように見えているの?」

 

 

 信じられない、と言わんばかりに眼を見開いているリオ会長。

 珍しい表情。こんな会長の顔を見れるとは思わなかった。

 

 あれ、違うの?

 リオ会長もヒマリさんも実は仲良しだと天上院は思っていたわけなんだけど?

 

 会長は咳払いを一つして。

 

 

「話を戻しましょう。今後は、ヒマリとエイミ、それからコンサバティブちゃんで調査してもらうわ」

 

「コンサバティブちゃんも協力するのか?」

 

 

 今は手元から離れている、彼女の事を思い出した。

 そういえば、病室にお見舞いに来てくれたヒマリさんに預けたままだった。

 

 

 少しだけ、いいや、かなりそれは予想外の事だった。

 彼女の事だから、面倒臭いという理由で何もしない、もしくは、気が乗らないという理由で何もしないと思っていたから。

 

 ワタシの中でのコンサバティブちゃん像はそんなやつだ。

 有能な癖に、場を掻き乱し、本当に命が関わるとき以外は静観する。そんなどうしようもないヤツが、ワタシの知るコンサバティブちゃんだったから。

 

 意外と、コンサバティブちゃんって良い奴なのかもしれない。やれば出来る子だったのかもしれない。

 

 

 リオ会長は表情に出さないものの、誇らしげに、わが子の活躍を誇るように居丈高に。

 

 

「えぇ、本人もやる気だったもの」

 

「……珍しい事もあるものだ」

 

「絶対に奴の息の根を止めてやるです、って言っていたわ」

 

「え、なにそれ怖い」

 

 

 訂正。

 良い奴なわけがなく、物騒極まりない奴だった。

 

 なに、息の根を止める、って。

 どういう育ちかたしたらそうなるの。そんなにナンパされたのが嫌だったのだろうか。

 

 

「その、大丈夫なのか。コンサバティブちゃんも協力させて……」

 

「問題ないわ」

 

 

 ワタシの心配を余所に、リオ会長は食い気味で言い、続けて。

 

 

「それに、あの子はビナーにハッキングを成功させている。これほど頼りになる戦力はないでしょう」

 

「やれば出来る子であったか」

 

「えぇ、さすがコンサバティブちゃんね」

 

 

 うんうん、とリオ会長は満面の笑みで頷いている。

 

 でも確かに。

 あの一戦で、ビナーの動きが鈍くなった事があった。

 もしかしたら、あの時にハッキングをしていたのかもしれない。

 

 でも、珍しい。

 コンサバティブちゃんのことだから『マスターが生きているのは朕がチャラ男をハックしたからですが、どんな気持ち? ねぇどんな気持ち? もっと崇め奉ってひれ伏してもいいのですよマスター?』くらいいい気になる筈だ。

 それが何もない。不気味なほどその話題に触れなかった。

 

 リオ会長は言い辛そうに。

 

 

「その際に、ビナーとも会話した事が、ログでわかったのだけど」

 

 

 困惑するように続けて。

 

 

「貴女に内容が洩れた場合、自爆すると……」

 

「過激すぎないか?」

 

 

 それと、と言葉を区切り、リオ会長は泣きそうになりながら。

 

 

「私の事を、私の、事を……」

 

 

 言葉にするのも苦痛なのか、今にも崩れ落ちそうなほど、弱々しい。

 良く見れば両肩が震えている。それだけ、口にしたくないというのだろうか。

 

 見かねたのか、隣で座っているトキちゃんはため息を吐いて。

 

 

「……会話の内容をオウヒに言ったら、リオ様のことを嫌いになる、と脅していました」

 

「……まことに?」

 

 

 トキちゃんは頷き、リオ会長も小さく頷いた。

 

 なるほど、本気なようだ。

 創造主に逆らうなんて、とてもロックじゃないかコンサバティブちゃん。

 

 

「余には兎も角、貴様には従順だった気もするが、これも早めの反抗期という奴であろうな」

 

「……そうね」

 

「そんな世界が終わったような顔をするな。ヒトはそうして成長していくもの。今は耐えるときである」

 

 

 だから、そこまで気にする事もないと思うよリオ会長。

 コンサバティブちゃんのいう事なんて、八割聞き流してもいいと思うのです。基本、あの子は適当な事しか言わないので。

 えぇ、まだ忘れてませんよ、ソロモン事件の事。ヒナと仲良くなるきっかけではあったけど、それはそれ、これはこれ。ヒナとカヨコちゃんに迷惑をかけたのは事実なのです。

 

 でも、気になる。

 ワタシに聞かれたくない会話の内容ってなんなんだろうね。

 

 

「しかし、余に聞かれたくない会話か。どのようなモノか気になるな」

 

「絶対に言わないわ」

 

「で、あるよねー」

 

「……あまり聞いてあげないでください」

 

 

 トキちゃんはそう言うと続けて。

 

 

「あの言葉は、コンサバティブちゃんにとって羞恥するモノだったのでしょう。素直になればいいと思いますが」

 

「トキちゃんも聞いたのか」

 

「勿論。リオ様あるところトキちゃんありです。パーフェクトメイドなので」

 

 

 イエイ、とピースをするトキちゃんはどこか誇らしげであった。

 

 だけど、そうか。

 ワタシだけが聞いてないのか。でもそうだよね、ワタシに秘密なんだから他の人は聞いてもいいもんね。それはそれで、寂しい。ワタシだってコンサバティブちゃんとは割と長い付き合いなのに。

 

 もう少し、優しくしてあげるべきだろうか。

 いいや、そんなことをしたら付け上がるに決まっているのです。

 今度、またヒューマンドラマ映画マラソンをして道徳を学ばせないと。

 

 

 ワタシは立ち上がる。

 それはそれとして、高揚感が身を包んでいるのは誤魔化しようがない。

 

 だって、しょうがない。

 ビナーのような怪物が、何体もいるのだ。それは高揚するというもの。愉しみだ、本当に愉しみだ。

 

 

「ビナーとそれに連なる者達、か。空腹でどうにかなってしまいそうだな」

 

 

 もう、抑え切れない、といった調子でワタシからは笑みが零れていく。

 ビナーや、他の機体の調査がいつ終わるのか、ワタシは今から待ちきれない。今すぐにでも駆け出したい、そんな気分だ。

 

 

「それで、リオ。余が動くのは、調査とやらが終わってからか?」

 

 

 そうなれば善は急げ。

 『リク』は破損してしまったし、『アサ』もコートもアビドス砂漠で失くしてしまった。装備を整えるためにも、あとでエンジニア部にお世話になりにいくしかない。

 

 んー、忙しくなってきた。

 歌いたい気分なのです。

 

 

 ドはー♪ 闘争のドー♪

 

 

「……貴女の出る幕はないわよ」

 

 

 ドはー♪ …………え?

 

 

「どうして……」

 

「あぁ、オウヒが世間には見せられない顔で、膝から崩れ落ちてしまいました……!」

 

 

 ぐしゃ、と音を立てて倒れるワタシに、トキちゃんがすかさず駆け寄ってきてくれた。

 

 え、どうして。

 折角の闘争の気配なのに。ワタシの出番がない。そんなことある?

 本当に、どうして? 

 

 

「え? あの、ちが……」

 

 

 リオ会長の慌てる声が聞こえるけど、それに反応できるほどワタシには余裕がなかった。

 折角、愉しみにしていたのに。やる気出していたのに、あんまりだと思うのですよぉ……。

 

 抱き上げながらトキちゃんは言う。

 

 

「オウヒ、リオ様は意地悪で言っているわけではありませんよ」

 

「えぇ、ほんとぉ……?」

 

 

 そうなの?

 ワタシはプルプルと震えながら、リオ会長を見上げる。

 

 対して、会長は頷いて。

 

 

「……トリニティが貴女の引渡しを拒否したときに、交渉の材料として用意したのだけど」

 

 

 そういうとタブレットを操作して、ワタシに渡してくれた。

 そこにはとある資料があった。そこにあった内容はと言うと────。

 

 

「────エデン条約機構。貴女とアリウスは、しばらくその対処に追われると思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 △特異現象捜査部
 リオが設立した部活。主に、名もなき神々や無名の司祭を調査したり、科学では説明ができないものを調べたりするための部活。
 コンサバティブちゃんも在籍する事になった。
 そう、デカグラマトン編に絡んでくる。コンサバティブちゃんが。オウヒではなく、コイツが。これは先生もビックリ。ちなみに、先生が絡んでくる頃にはソロモン事件なんてものがあったことを、コンサバティブちゃんは忘れている。本当にAIか貴様?


 △「オウヒ、リオ様は心配していたのです」
 Q.オウヒとリオ会長とトキが一緒に行動するとどうなる?
 A.トキがまともになる

 
 △トリニティで交渉しに行ったリオ
 リオ「凄い睨んでくる生徒が居たわ」
 トキ「居ましたね。ピンク髪のやつ」
 オウヒ「誰それこわい」


 △コンサバティブちゃんとビナーの会話
 恐らく、オウヒに聞かれることがないモノ。
 コンサバティブちゃんの最大のデレともいえる


 △「えぇ、さすがコンサバティブちゃんね」
 もしかして:親バカ

 
 △ドはー♪ 闘争のドー♪
 我が世の春が来たオウヒ。
 なお、直ぐにドはどうして、のドになる模様

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